・注意事項は特にありません。強いて言うならわりかし善良なゆっくりが死ぬ事ぐらいでしょうか。
では、ゆっくりしていってね!!!
小五ロリあき
その場の気分に任せてくだらない事をするものじゃない。
これまでのそれなりに長い人生経験でそれくらいの事はわかってた筈なんだけど―――
「すいばぜん…にんげんざん、ずいばぜん…ばでぃざだぢのおはなじをぎいでぐだざい……」
「……人様の家の前でうろちょろすんなよ。きったねえなあ」
六月の蒸し暑い日。
仕事を終えてクタクタになりながらも自宅まで辿りついた俺の目の前に、突然ボロボロの生首どもが現れた。
声を掛けてきた親らしきまりさに、それに追従するように並ぶ赤まりさと赤れいむが一匹ずつ。
その姿は前述したようにボロボロと言う他ないような有様で、なにかもう、色々とギリギリな状態だ。
「もうばでぃざたちどうずるごどもでぎないんでず…だがら……」
額を地面に擦り付けている親まりさは帽子の上半分が見事に破れて無くなっていた。
しかも破れた部分から見えるはずの物も殆ど無く、金色の何かがちょろっとだけ見える肌色の荒野が広がっていた。
基本的にゆっくりが自然に禿げる事は無いので、おそらく誰かに毟られたのだろう。それもかなり乱暴に。
「おねがいしましゅ。しぇめておはなしだけでもきいちぇくだしゃい!」
「かいゆっくちだとかなまいきなことはいいましぇんかりゃ!もうれーみゅたちおなきゃがぁ……」
続いて顔面を擦り付ける赤ゆっくり二匹も栄養が足りてないためか、頬の辺りが痩せこけて見える。
それにまりさの方はまだいいが、赤れいむに至ってはもみ上げが片方千切れて、もう片方もボサボサだ。
しかし普通赤ゆっくりといえば、身の程をわきまえずに思いつくがまま不平不満を撒き散らすものだと思っていたが…
親子揃って必死な様を見ると、どうやら随分といい躾をしているらしい。そこには少し好感が持てる。
「まりさはおぼうしがやぶれてるからもうごはんをはこべないんです。どうかこのだめゆっくりなまりさに…」
とは言っても、あくまでも評価できる部分といえばそこだけだ。
こんな奴らは今のご時世そこら辺に溢れかえっているし、それをわざわざ助けてやるほど俺は優しくもない。
っていうか、正直しんどい。先ほども言ったが、俺は仕事帰りで疲れているのだ。いちいち相手になどしてられない。
「にんげんさん…?まりさたちのおはなしをきいてくれていますか?おねがいしますから……」
「聞いてるよ、うっせーな。ちゃんと聞いて欲しけりゃ同じことばっか言ってないで、も少し捻れや餡子脳」
「ず、ずいばぜんんんん!!ごべんなざい!!おごらないでぐだざいいぃぃぃ!!」
親まりさがなにやら言ってきたので、少し口調を荒げると簡単に一家揃って体をビッタンビッタンさせている。
その腰の低さは立派だが、焼け野原ような頭を見せるな。哀れを通り越して気持ち悪い。
「怒ってない怒ってない。正直そんな気力も無いほど疲れてるから帰るわ。じゃーなー」
まあそれはさておき、それなりに珍しい物も見れたのでそろそろ家に入るとしよう。
「まっでぇぇぇ!!もうにんげんざんがざいごなんでず!ばでぃざだちまどもにうごげないんでずぅぅぅぅ!!」
「いやいや、そんな事無いって。きっとお前等なら戦後の日本のように立て直せるさ。
その、頭の空襲跡に高度経済成長の兆しが見えたらまたここで会おう。 な?」
「へんなごどいわないでおはなじをぎいでくだざい!!まっで!!まっでぇぇぇ!!!」
「なんでしょんなにいいきゃおしちぇりゅのぉぉぉ!?まぢゃなんにもいっちぇないよぉぉぉ!?」
「ゆんやぁぁぁぁ!!おにゃかがしゅいてちからがでにゃいよぉぉぉ!!」
…チッ!このまま無理矢理押し切れば諦めるだろうと高を括っていたが、意外と粘りやがる。
俺としてはこのまま放っていきたいが、このままだと騒がれて近所迷惑だし俺のせいだと思われるのも癪だ。
しゃーない。面倒だけど顔面潰して声を出せないように―――
「…ん?おいお前。ちょっと後ろ向いてみろ」
「ゆゆっ、なんで?それじゃまりさのあにゃるが「いいから」…はずかしいからあんまりじろじろみないでね」
うっせーよ。数少ない資源も間引いて海平から波平にしてやろうか、この禿頭。・・・いや、あんまり変わんねぇか。
まあそんな(半分)冗談は置いといて……やっぱりだ。こいつは―――
「もういいぞ。さっさとその汚い尻を隠せ」
「きたなっ……はい、すびばぜん。ところで……」
「いいぞ」
「「「ゆっ?」」」
「まあ少しくらいなら助けてやらんでもない。とりあえずついてきな」
「…ほ、ほんとですか?」
「やっちゃー!!ありがとうごじゃいましゅにんげんしゃん!」
「これでやっとゆっくちできりゅよぉー!!」
「早くしろ!!」
ちょっとばかり、面白い物が見れそうかもな……
――――――――――
「おにいさん…ほんとうに、ほんとうにありがとうございました!」
「れーみゅたちまたこれきゃらがんばれしょうでしゅ!」
「このごおんはゆんしぇいいっしょうわすれましぇん!しゃよなりゃおにーしゃん!!」
「おー。気にせず頑張って生きてけや」
数時間後。辺りもすっかり暗くなって蝙蝠(れみりゃに非ず)が飛ぶようになった頃。
ゲッソリしながら地面に体を擦り付けていたあの一家は、すっかり元気になって遠くへと跳ねていった。
ちょっと優しくしてやっただけでお兄さんとは、随分とまあ現金なものだ。あまりの馴れ馴れしさに虫唾が走る。
とは言え、とりあえずはひと段落着いた。笑顔にいやらしいものが混じらないように一応気をつける。
さっき奴らを家に招き入れてから、俺は自称可哀相な野良ゆっくりの話を聞いて色々と施してやった。
餌を与え、ボロボロのみすぼらしい風体をできる限り整えてやり、柔らかいクッションの上で休ませてやる。
奴らの今までを思えば、まさに夢のような時間を過ごした事だろう。実際本当に輝きそうな笑顔を浮かべてたし。
余談だが、奴らがああなった経緯は
『ある日つがいの賢いれいむが死んで失意の中必死に生きる決意をするも大雨によって住処を追われ餌場も全滅。
もう他にどうしようもなくなりさまよい歩いて助けを請うも、全て酷い目に遭うという結果に終わりここで力尽きた』
という野良としては至っていつも通りの、取り立てて詳しく書く必要性も感じない物だったので割愛させていただこう。
ともあれ、ほんの一欠片の善意によって飼いゆっくりのような幸せを味わった野良ゆっくり達。
と、言いたいところなのだが、実際に施しを全部受けたのは赤ゆっくりだけで、親まりさはというと餌しか食べなかった。
理由を聞いてみるに、あんまり贅沢を覚えると元の暮らしに戻れなくなるから、ということらしい。
なるほど、非常にまともな理由である。懸命なものだと思わず感心してしまうほどだ。
確かに野良ゆっくりがふとした事で贅沢を覚えて、基準を元に戻せずに死ぬというのはよくある話である。
どこでそこまでの忍耐力と節度を身に着けたのか少し疑問に思ったが、さして重要な事でもないのでまあそれはいい。
で、『子供なら教育しなおせるから、自分は食べるものだけでいいので子供に色々してやって欲しい』と言い切ったわけだ。
まあそこまで言うならこちらも無理にとは言えない。
餌である甘いお菓子だけは空腹に耐え切れずに子供と食べて、結局親まりさは玄関でずっと待っていた。
とは言っても、外に比べてなら家の中が快適である事には違いないし、甘いお菓子はゆっくりにとっちゃ十分ご馳走だ。
それに体を清める気がない以上家に上がられるわけにもいかないし、俺もそんなつもりはない。
しかし、風体こそみすぼらしい禿饅頭であるものの、体系が元に戻って元気を取り戻した親まりさは見違えて見えた。
この様子なら餓死の心配をする必要などあるまい。
もし来るなら、次はいつぐらいかな・・・?
俺はしっかりとした足取りで跳ねて行く三匹を見送りながら、これからのことを思って笑顔を浮かべるばかりだ。
――――――――――
野良ゆっくり一家に施しを与えてから、更に二日が経った。
溜まっている有給を消化するべく急遽休みを取った俺は、しかし特に予定も無いので休日を自宅で過ごしている。
「よし、こんなもんか」
大体お天道様が西に傾き始めた頃。
愛車の洗浄も済ませたので、いつ来るのかもわからない来客を待ちながら一服する。
「……ふぅ。あっつー……」
「おにいしゃんおにいしゃん!!」
「たしゅけちぇぇぇぇぇぇ!!」
容赦なく照りつける太陽を疎ましげに睨んでいると、耳障りな甲高い声がふと耳に入る。
「・・・よぉ、久しぶりだな。どうしたよ、そんなに慌てて」
「おちょーしゃんが!おちょーしゃんがたいへんにゃんだよぉぉぉぉ!!!」
「れーみゅたちといっしょにきちぇくだしゃい!!にゃんとかしちぇぇぇぇぇ!!!」
「はぁ?何言ってんだ。あのまりさがどうしたって?」
この警戒心の欠片も無い馴れ馴れしい呼び方は、言わずもがないつかの赤ゆっくり達だ。
慌てふためきながら赤ゆっくりにあるまじき速度でこちらに跳ねてくる二匹を見て、
正直ようやく来たか、という気分ではあったが、一応それを顔には出さずに困惑した表情を作ってみる。
「いいきゃらとりあえじゅきちぇくだしゃい!!おにぇがいしましゅ!!」
「まりしゃにはよくわきゃらないけどおちょーしゃんくりゅしんでりゅんでしゅ!」
すると、説明する間も惜しいとばかりに来た方向に向かって跳ね出した。
こっちはまだ何も言っていないのだが、勿論俺としては追わない手はない。なにせこれを待っていたのだから。
当の赤ゆ達の、焦りとは裏腹に本当にゆっくりと遠ざかっていく姿を見ながら、携帯灰皿に咥えていた煙草を捻じ込む。
それにしても
「まさか本当に赤ゆっくりだけでここまで来れるとは・・・」
先行く赤ゆっくり達を後ろからのんびり追いつつ、ほんの少しだけ奴等の評価を修正しておく。
とはいってもこれからするべきことを変えるつもりは毛頭ない。
今の俺が一番懸念すべき事は、野良ゆっくりの後を追う人間という構図が傍から見てどうとられるか、という事ぐらいだ。
もし『早く来い』などと生意気な事をぬかしたら、死なない程度に一発蹴飛ばしてやろう。
相変わらずである梅雨の蒸し暑さにうんざりしながら、そんな事を考えて大きなあくびを一発かました。
・
・
・
「お…お…に……ざ…?」
「うわ、キモッ!!」
とりあえず(周囲の視線的にも)何事も無く野良ゆ一家の住処についた俺を待ち受けていたのは、想像を絶する惨状だった。
「おちょーじゃぁぁぁぁん!!どぼじぢぇもっちょひどくなっちぇりゅにょぉぉぉ!!?」
「ふわふわのもこもこしゃん、はやくおちょーしゃんかりゃはなれちぇにぇ!いやがっちぇりゅよぉ!!」
「おぢび……だべ…きぢゃだ…べ……」
どこから調達したのかもわからない小さなダンボール小屋の中には、それはそれは大きなカビの塊が鎮座していた。
多分俺も目の前にあるカビ饅頭の上に、破れた帽子が載ってなければ、これがなんなのか一瞬戸惑った事だろう。
「…にしてもキッツいな、これ。想像以上に……あー、気分悪くなってきた」
まだ一応生きているのか、ピクピク痙攣するたびに舞い散るカビ胞子を見てあまりの不潔さに近づくのも躊躇ってしまう。
自分が企んだ事だとはいえ、これは流石に酷すぎる。
考えてたよりもずっと酷いまりさの姿に、今やここに来る前の高揚感などすっかり消え失せてしまっていた。
そもそものきっかけは数日前、地面に這いつくばる親まりさの禿頭に、緑の苔のような物が見えた事にあった。
もしやと思って背の方を向かせると、予想通りそこにはカビの斑点が数箇所ほど出来ていた。
それを見た俺は子供にでも戻ったつもりで、ほんの少し悪戯をしてやろうと思ったのだが―――
「あ゛…あ゛あ゛……がび…ざ……やだ…だず……げ…」
「どぼぢぢぇ……どぼぢぢぇ…?おとーしゃんなんにもわりゅいこちょなんかしちぇないのに!!」
「たしゅけちぇよ…おにーしゃんたしゅけちぇよ!!にんげんしゃんなりゃなおせりゅんでしょ!?」
巨大なカビた饅頭がこれほど醜いものだとは思わなかった。
確かに最終目的として、健康な子供と全身がカビて死ぬ親という構図を想い描いていた。
カビを指摘もせず、取り除きもせず栄養だけ与えてやってカビの増殖を促進させようとしたのも、そのためだ。
しかし今の俺には達成感よりも明らかに不快感の方が上回っている。楽しみなど見出せるはずもない。
「ごべ…ねぇ。おぢびぢゃ…ごべんね゛ぇ…おどーざ…ゆっぐり…ざ……ぜ………」
「おちょーしゃ、まっちぇ!おちょーしゃん…おぢょーじゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
「ゆびゃぁぁぁぁぁぁん!!やぢゃよぉぉぉ!!ちなないで!!かえっちぇきちぇよぉぉぉぉぉ!!!」
「・・・・・・死んだか」
帰ろう。もうこんな奴等のことなんかどうでもいい。帰って今日の事は忘れよう。
当初は、親を失った上に飼いゆっくりの生活を知った赤ゆっくりたちがどういった末路を辿るのか等、
親まりさが死んだ後も少しばかり興味が湧くものがあったのだが…もう全部どうでもいい。
親の死骸に寄り添ってカビを移して死ぬなり、味覚を矯正する存在を失くしたまま餓死するなり、好きにすればいい。
「おにーしゃんどぼじぢぇたしゅけちぇくれなかったの!?にんげんしゃんならなんときゃできたはずでちょ!?」
「しょうだよ!あんなにしんしぇつにしちぇくれたのに……」
そりゃそうだ。ただ、救いの手を差し伸べた理由が善意ではなかっただけの話。
なにか、それこそ俺のように心底下らない理由でもなければ誰が好き好んでお前らなんぞに関わりたがるものか。
「ねえ、まりしゃたちこれからどーしゅればいいにょ?
もうふつーのごはんしゃんはまじゅくちぇたべられないよぉ…」
「おにいしゃんかりゃあみゃあみゃもらっちぇかりゃくしゃしゃんもなまごみしゃんもたべられないんだよぉ…」
どうでもいい。本当ならここであいつらの絶望を煽るために蔑むなり嘲笑うなりするところなのだろうが…
それすらも面倒臭い。もう俺にとって、こいつらは何の価値も無い存在なのだ。相手にするのも億劫だというのに。
「やぢゃ…もうやぢゃよ…こんなゆんしぇいのどこにゆっくちがありゅの!?
おしえちぇよ…にんげんしゃんはなんでもしっちぇりゅんでちょ!!?」
「もういちどだけ…もういちどだけでもいいきゃりゃれーみゅたちにごはんをくだしゃい!
れーみゅたち、おとーしゃんのぶんまでいきちゃいんでしゅ!いきなきゃいけないんでしゅ!だきゃりゃ……」
だから、この虚脱感や不快感、ありとあらゆるこいつらに抱いているネガティブな感情を押さえつけて。
と言うよりも、むしろその全てを込めて、一言だけ言い残しておこう。
すなわち―――
「知るか。死ねよクソが。」 と。
言われたあいつ等は、どんな顔をしているのだろうか?
振り返りながら一瞬だけそんな事を考え、そしてすぐに忘れて帰路に着く。
そんな事に興味はない。俺の中で今回の件は既に終わった、すぐにでも頭から消したい事なのだから。
陽の光が強くなり、より一層増していく蒸し暑さに辟易としながら、俺はのんきに胸元を扇ぐ。
もしもまだなにか言ってきたり、更に追いすがろうとするならばそのときは問答無用で叩き潰そう。
そんな事を考えながら、やはりムシャクシャしてたからってアホな事を考えるもんじゃないと大きなため息を吐いた。
幸いと言うべきか、後ろの方から聞こえたのはすすり泣くような声だけで、それ以外は何もなかった。
・
・
・
「ゆぐっ…ゆっぐ……にんげんしゃんはっ…にんげんしゃんはいじわりゅだよ…!」
「どぼしちぇこんないじわりゅしゅりゅの…?れーみゅもうなんにもわかんないよ……」
一方、無情にも突き放された二匹の赤ゆっくりは
男を罵倒するでもなく、追いかけるでもなく、ただその事実に耐え切れずボロボロと涙を流していた。
が、勘違いしないでほしい。このれいみゅもまりしゃも、別にゲスというわけでも馬鹿というわけでもない。
生まれてたった数日の命ではあったが、二匹は幸せに暮らしてきた。
優しい父親と厳しくも厳格な母親に囲まれ、運良く天敵にも遭わず、野良ゆっくりとしては上等な生活を送ってきた。
周囲にはゲスゆっくりなど居ないし、カラスや野良犬や人間といったゆっくりの天敵もいない。
両親は(ゆっくりにしては)そこそこ賢く優れていて、その子供である二匹も歪むことなくまっすぐに育った。
つまり良く言えば純粋。見も蓋もない言い方をすれば、単なる世間知らずの間抜けだという事だ。
そんな箱入りゆっくりのれいみゅとまりしゃにとって、世界とは優しさに満ちたものであって、
手を伸ばせば皆それを必ず取ってくれるもの、頼れば誰でも懇切丁寧に応えてくれるものだと信じて疑わなかった。
だから、世の中の世知辛さなどこれっぽっちも知らなかったのだ。
「おにゃかしゅいちゃ…おねがいだきゃりゃ…だれきゃ……」
「ゆんやぁぁぁぁぁ!!おとーしゃん、おきゃーしゃん!
だれきゃれーみゅをたしゅけちぇよぉぉぉぉ!!
れーみゅまぢゃかりもできにゃいあかちゃんにゃにょにぃ!ゆっくちしちゃいよぉぉぉぉ!!」
それ故に、この二匹は男が想像したような最期を遂げる事になる。
もはや縋る物も無く、何もできないまませめて親の近くにいようとしてカビ饅頭の数を増やすか、
それとも自分たちで生きようと勇気を振り絞って、それでも結局何もできずに災害に遭って死骸を野に晒すか、
またはどこかの心優しい野良ゆっくりに施しを受けるも、それすら口に合わずに餓死するのか。
原因はともかく、この状況から無事助かる確率に比べればどれもさして変わらないのだけれど。
もう一度言うが、このまりしゃとれいみゅは決して馬鹿でも、ゲスでもない。
ただ、愚かだった。
自分達が生きる世界の事もわからず、
己の身の程は理解していても自分達の立場までは考えず、
世の中には、ほんの気紛れで自分達に平気な顔して酷い事をする者がいることなど知らないし、いるとも思わなかった。
実際の話、赤ゆっくりなどは町の生態系の最底辺に位置する存在なのだがそんな事は知る由も無い。
何故なら近々それらの事を教えられようとしたその時、このようなことになってしまったのだから。
それでも現実は二匹が思っているように優しくない。そう都合良く救いの手など差し出されるはずがない。
これまで慎ましやかに、それでいて懸命に生きてきた善良なゆっくり一家を見舞った悲劇は
残念ながら世間から見れば『運が悪かった』の一言で片付けられるような、ちっぽけな物でしかなかった。
「まりしゃもうだめだよ…ごめんなしゃいおとーしゃん……
でも、もうしゅーりしゅーりしちぇもいいよにぇ…?
ゆっくち…しぇめちぇ、もうしゅこしだけ…ゆくち……しちゃ…か……」
「しにちゃくにゃいよ…まぢゃしにちゃくないんだよぉ……
やしゃしいにんげんしゃん…おにーしゃん……いぢわりゅしにゃいで…た…しゅ……け…」
梅雨。段々高くなる気温とジメジメした湿気が合わさる、ゆっくりにとっては地獄のような季節。
栄養が足りないゆっくりからカビに侵され、一度寄生されれば最後、ゆっくり自身の栄養を糧にどんどん繁殖する。
それはコンクリートジャングルとも呼ばれる町では特に顕著で、多くの野良ゆっくりが雨や湿気で命を落とす事になる。
そうなると、先ほどの光景は特に珍しくもない、テンプレのようなシチュエーションとまで言われるようになるわけで。
無論それだけ、町の景観やその他諸々を守るためにゆっくりの死骸を回収する加工所の出番は数倍に増えるわけで……
結局数日後、親まりさとまりしゃとれいみゅは揃って仲良くカビ饅頭と化し、
そこらへんに山ほどいる同じようなカビ饅頭と一緒に、どこぞの焼却炉で纏めて灰になったとさ。
おしまい
・あとがき
ss書くのに必要なのは題材が被っても臆さずに投稿する勇気なのだと、今更ながら思い知った六月の夜。
実は感想掲示板が建ってから初めての作品投下です。おかげでちょっとビビリ気味。
では最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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最終更新:2010年10月13日 11:39