anko2116 「餡子ンペ10夏」 あるおりんの一生 わんわんおじいさんと一緒

※俺設定注意
※駄文、稚拙な表現注意
※犬とゆっくりが喋れる設定です


俺は犬を飼っている。

名前はジロー。もう十数年飼っている雑種の老犬だ。

特に芸が出来るわけでもなく番犬としても役に立たないが、素直で温厚な自慢の愛犬だ。

だからそんな愛犬がまさか不思議饅頭になつかれようとは思ってもいなかった。



                      「餡子ンペ10夏」 あるおりんの一生 わんわんおじいさんと一緒
                                         作、長月






俺はその日、ジローに餌をやろうとドッグフードを片手に外へ出た。ジローの犬小屋は家の裏庭にあり、餌や散歩は俺がやることになっている。

「うわっ・・・あつっ・・・」

初夏の日差しが俺を容赦なく俺に照りつける。最近は長雨のせいで雲ひとつない晴天を見るのは久しぶりだ。

「おーいジロー。飯だぞー!!・・・ん。」

ジローが呼んでも出てこない。犬小屋にこもったままだ。いつもなら俺が来れば尻尾を振って飛んでくるはずなのだが。

まさか、あいつまたやったんじゃ・・・

俺はジローの悪癖を思い出す。なんでも犬小屋にくわえ込んでしまう困った悪癖を。

以前も俺のサンダルを、その前はどこからか拾ってきたボールを小屋に隠していたことがあったのだ。

俺はそっと犬小屋の中を覗き込む。

そこにはジローの他に何かいた。ジローの影でよく見えないがバーレーボール大の何かが動いている。

なんだあれは?犬でも猫でもなさそうだが・・

俺が訝しげにそれを見ているとそれも俺の存在に気づいたらしい。突如俺の前にポヨンポヨンと跳ねてきてこう言った。

「じゃじゃーん!!ここはわんわんおじいさんとおりんのわんわんおりんりんらんどだよっ!!おにいさん、ゆっくりしてってね!!」

「え・・・?」

話しかけるそれに俺は言葉が出なかった。








それは俺が見たこともないゆっくりだった。

ちぇん種に似た猫耳に黒い2本の尻尾。赤い髪のみつあみ。口からは八重歯のようなものがのぞいている。

そう言えばおりんとか言ってたけどそれがこいつの名前か?わんわんおじいさんて?

というかなんでジローは不思議万頭生物といっしょにいるんだ?

依然としてフリーズ状態でそのゆっくりを見続ける俺。変わりに未確認歩行饅頭のほうから口を開いた。

「じゃじゃーん!!おりんはおりんだよ。おにいさんはわんわんおじいさんのかいぬしさんだね。」

どうやらこいつの名前はおりんでいいらしい。わんわんおじいさんってジローのことか?

「そうだよ!!わんわんさんでおじーさんだからね!!」

俺の問いに事も無げに言葉を返すおりん。どうやらゆっくりはジローのような老犬のことをそう呼ぶらしい。 確かにあいつら人間のことは、「佐藤さん、鈴木さん」みたいに名前じゃなくて「にんげんさん」か「おにーさん、おねーさん」で呼ぶからな。

変に納得してしまったが、そんなことはどうでもいい。野良ゆっくりが家の敷地に入ってきていることが最大の問題なの。

俺はおりんを片手でむんずと掴む。勿論そのまま外へ放り出すためだ。

「やめてね!!らんぼうしないでね!!

「やかましい!!潰さないだけありがたく思え!!かってに居座りやがってこのクソ饅頭が!!」

「おりんはちゃんとおじいさんにいてもいいっていわれたもん!!!」

ぷくーっと膨れながら抗議するおりん。

「えっ・・・?おじいさんて・・・ジローのことか・・・?」

見ればジローも寂しそうな顔をしている。どうやら嘘ではないようだ。

考えてみればいくらジローが温和な犬でもいきなり自分の犬小屋にゆっくりが入ってくればさすがに怒るだろう。

思えばジローは俺が大学に行ってる間はいつもひとりぼっち。いつも寂しい思いをさせている。

それを思えば1匹くらいゆっくり飼わせてやってもいいのではないか。

「・・・わかったよ・・・」

結局俺は渋々ながらおりんがジローと一緒に住むことを認めた。なんだかんだで俺は愛犬には甘いのだ。

「やったよ、おじいさん!!これでおじいさんといっしょにくらせるよ!!」

「ワゥ、ワフゥン!!」

嬉しそうにジローにすーりすりするおりん。ジローもまた同様だ。

ま、そのうちジローも飽きるだろう。もし悪さをするようなゲスなら追い出せばいいことだし。

俺はその時その程度にしか考えていなかった。





「おじいさんのしっぽさんはとってもゆっくりしてるね。」

「ワフゥ。」

仲睦まじくじゃれ合う2匹。

老犬と不思議饅頭という世にも奇妙な取り合わせなのだが本人達は全く気にしていない。

ジローがおりんを飼い始めて1ヶ月がたった。

始めはジローも3日で飽きるだろうと思っていたが、予想に反しておりんを溺愛し、双方ラブラブ状態。

現在おりんはジローのいる裏庭にある使ってない物置をねぐらにしている。特に花壇あらしやおうち宣言などの悪さもせず、毎日ジローと和気あいあいな毎日を過ごしている。

正直意外だった。ゆっくりなんて「あまあまがほしい」だの「もっといいゆっくりプレイスが欲しい」だのうるさいやつかと思ったがおりんにはそういったところがまるでない。餌も自分で取ってきているようだ。

「おいっ、ジロー!!散歩行くぞ。」

「ワゥン。」

「わーい。わんわんおじーさんとおさんぽだー。」

そしてジローの散歩となるとついてくる。まるでジローから片時も離れたくないようだ。

「ねえ、おにいさん。」

「なんだ?」

おりんが話しかけてきた。

「どうやったらおりんにもどうさんがはえてくるの?」

「いや・・・どうしたらって・・」

俺は絶句した。確かにゆっくりには胴付きという人間と同じ手足がついた奴もいるがそれは突然変異か遺伝でしか起こりえない。つまり胴付きになれるかどうかは運なのだ。努力や根性でどうにかなるものではない。

「残念だがお前は胴なしゆっくりだ。手足は生えてこないぞ。」

俺はおりんの言葉をバッサリ切り捨てる。それが叶わぬ夢なら下手に希望を持たせずはっきり言ってやるほうが優しさというものだろう。

「そんなー。おりんどうつきになりたいよ。そうすればおじいさんもおにいさんもゆっくりさせてあげられるのに・・・」

不服そうなおりん。しかしどうしようもないだろう。

おたまじゃくしじゃあるまいし普通手足は生えてくるものではないのだから。

「馬鹿なこと言ってんじゃない。そろそろ帰るぞ。」

俺はにリードを引っ張り、そろそろ家に帰ろうとジローに促す。

しかし俺は見くびっていた。ゆっくりという不思議万頭のでたらめさを。

そしてそれを俺は次の日、身をもって知ることになる。







「なん・・・だと・・・」

次の日朝、ジローに餌をやろうとした俺は、手に持っていたドッグフードを落としそうになった。

あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

『昨日まで確かに胴なしゆっくりだったおりんが、朝起きたら胴付きになっていた・・・』

な・・・何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何が起きたのかわからない・・・

頭がどうにかなりそうだ・・・ぷくーだとかのーびのびだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。

もっと恐ろしい不思議万頭の片鱗を味わったぜ・・・

ちなみにおりんになぜ胴体が生えたのか問いただしたところ、「朝起きたらなんか生えてた。」との事。

つくづくこの世の理から外れた生物である。

「ゆーゆー。これでわんわんおじいさんたちをゆっくりさせてあげられるよー。」

そう張本ゆんは能天気にジローの横でのたまっている。ジローはジローで全く気にしていないようだ。

常識に囚われなさ過ぎだろこいつら・・・

特にジローはおかしいと思わないんだろうか。昨日まで自分の半分もなかった生き物が、朝起きたら自分よりはるかにでかくなってんだぞ。

「おにいさん、ゆっくりするためにはじょーしきにとらわれてはいけないんだよ。」

いろいろツッコミたかった俺だがあえて辞めておく。狂った世界では正常な人間こそが異常。それと同じでゆっくりという不思議生物の前に全ての常識は無意味なのだから。

それにしてもゆっくりという生き物がここまで規格外な生き物だったとは。これからもおりんを家に置いておくのならもっとゆっくりについて知るべきだ。

そういえば従兄弟のしず姉がゆっくりに詳しかったな・・・家も近いことだし明日にでも行って相談に乗ってもらうか。

俺はジローに餌皿にドッグフードを入れながらそんなことを考えていた。








次の日俺は原付で1時間ほどかけて従兄弟のヒロ姉の住んでいるマンションへ向かった。

しず姉は大学院でゆっくりについて学んでおり、ゆっくりについて知りたい俺にはうってつけな人物なのだ。

「しず姉ひさしぶりっ。」

「ああ・・正月以来だな、ヒロ。叔父さんたちは元気か?」

「まぁ元気かな。」

この化粧っけのない男言葉のお姉さんがしず姉だ。格好もメガネに髪を後にしばっただけで本当に色気のかけらもない。普通にしてれば男がほっとかないほど美人なのだが、そのゴーイングマイウェイな性格が災いして未だに彼氏が出来ない。

「ん?」

俺は柱の後ろに隠れてこっちを伺っている胴付きゆっくりに気づく。桃のついた帽子にロングスカート。確かゆっくりてんこといわれる種だ。しず姉が飼っているのだろうか。

「それでゆっくりについて相談したいと言うのは?」

「ああ、実は・・・」

俺は出されたアイスコーヒーに口をつけながら事情を説明した。話をしている途中も胴付きてんこはじっとこちらを見ていた。

「ふーんなるほど。胴付きにねぇ・・・」

どこか遠い目をして答えるしず姉。この人はこういう格好が本当に絵になる人だと思う。

「そりゃお前さんたち愛されてるな。」

「愛されてる?」

コーヒーを吹きそうになる俺。どうも俺は愛だの恋だのいう言葉は好きではない。思わず赤面してしまう。

「ああ。愛されてるさ。愛がなければ胴付きにはなれない。それが私の持論だよ。」

しず姉によると胴なしゆっくりが胴付きになる場合飼い主に対する並々ならぬ好意が原因であることが多いらしい。「胴付きになればもっと飼い主に愛してもらえる」「胴付きになれば飼い主をもっとゆっくりさせてあげられる」そう思うことにより、ゆっくりの体内でなんらかの化学反応が起こり胴なしから胴付きへ進化するのだと言う。

「まぁ、これはただの仮説だ。ゆっくりの生態についてはまだわからないことも多いしな。」

自分用に淹れたアイスココアをすすりながら話すしず姉。顔に似合わず甘党である。

「とにかく私が言いたいのはゆっくりの多くは人間に愛されたい、共にゆっくりしたいと思ってるのが大半なんだということだ。勿論どうしようもないゲスもいるがそれはごく一部だ。あの子もそうだったんだがな・・・」

チラリと柱の影に隠れているてんこを見るしず姉。

「あのこって・・・あの隠れてるてんこのこと?しず姉、あいつ飼ってるの?」

俺はさっきから気になっていた疑問をぶつけてみた。

「ああ、あの子は虐待されて公餡のゆっくり保護センターで保護されていたのを私が引き取ったんだ。」

「え・・?でもてんこって虐められるのが好きなんじゃ?」

「それは偏見というものだよ。れいむ種は全部でいぶ、ありすは全部れいぱーと言ってるのと同じだ。てんこ種にもドMで虐められるのを喜ぶ奴もいれば普通の奴もいる。決め付けは良くないことだ。」

「そうなんだ・・・」

俺は窘められてちょっとしゅんとした。俺としず姉は子供の頃からの付き合いだが今も昔もよく叱られる。

大人になっても人間、力関係というものはそうそう変わらないものらしい。

「あのてんこの前の飼い主はヘドが出るようなクソヤロウでな。自分より弱い幼女に暴力やわいせつ行為を行う外道だったらしい・・・今は塀の中にいるそうだがな・・てんこもその男の被害者だったんだ。」

しず姉は悲しそうに目を伏せた。

「引き取ってすぐの頃は大変だったよ。極度の人間不信で近づくだけで噛み付かれたりしてな・・・虐待のトラウマのせいか真夜中にひきつけを起こしたように泣き出したり・・・よく大声を出してたんでご近所さんから苦情がたいへんだったよ。」

「・・・だったらどうしてそんなてんこ引き取ったの?しず姉が引き取らなきゃいけない理由なんてないだろ?」

「なんでかな・・・しいて言えばあいつが助けてって言ってるみたいに見えたからかな・・・」

そう言いながら大きくため息をつくしず姉。俺は何も言うことができなかった。





その日俺が家に帰ったのは9時を回った辺りだった。

あれからしず姉にゆっくりについて色々教えてもらい、専門書も数冊貸してもらった。

「ただいまー・・・ん?」

裏庭に行くと既におりんは眠っていた。物置の中ですーすーと寝息を立てていた。

「むにゃむにゃ・・・おじいさん・・ゆっくりしてってね・・」

どうやら夢の中でまでジローと一緒らしい。とても幸せそうな寝顔をしている。

愛がなければ胴付きにはなれない、か。案外しず姉の言うことも正しいのかもしれない。

俺はおりんを起こさぬよう、そっとその場を後にした。





それから数日後

「お・・・お・・・おかえりおにいさん・・・」

俺が大学から戻ると絶賛挙動不審中のおりんが出迎えてくれた。目は泳ぎっぱなしで態度も落ち着かない。

どう見てもなにか隠している。

「なぁ・・・おりん。お前なにか俺に隠し事してないか?」

「ななな・・・なにいってるのおにいさんっ。お、おりんはなにもかくしごとなんかしてないよっ!!ほんとだよ!!」

そう言いながら庭の隅にあるダンボールの箱をチラチラと見続ける。本当にわかりやすい奴である。

「あっ、それはだめー!!」

すがりつくおりんを無視してダンボールを開けてみる。すると

「うにゅー」

「なんだ?赤ゆっくりじゃないか?」

そのダンボールの中で一匹のみかんサイズのゆっくりが俺を見上げていた。

黒いロングヘアーにカラスのような黒い羽。確かこいつはうにゅほとかいう種類のゆっくりだったはずだ。

「どうしたんだよこいつ!!」

「うーぱっくが・・・うーぱっくが運んできてくれたんだよ。」

問いただす俺におりんは叱られた子供のような顔をしながらそう答えた。

「は?うーぱっくが?」

「そうだよ!!きっとわんわんおじいさんとおりんとのあいだにできたおちびちゃんだよ!!あいしあうふたりにはうーぱっくがおちびちゃんをはこんでくるんだよ!!」

俺は呆れた。そんなたわ言をおりんは本気で信じているらしい。

確かにうーぱっくが赤ゆっくりを運んでくることは極まれにあることだ。しかしそれは神様がどうこうとか言う話でなくうーぱっくの本能によるものだ。

うーぱっくには身寄りのない赤ゆっくりを見つけると面倒を見てくれそうなゆっくりのところに運ぶという習性があるのだ。なぜうーぱっくがこのような行動に出るのかは未だにわかっていないのだが。

恐らくこのうにゅほも親を失いそのまま野垂れ死にそうになったところをうーぱっくに保護されたのだろう。俺はそのことをおりん達に話してやった。

「・・・そうなんだ・・・」

落胆した表情のおりん。大体犬とネコ型饅頭の間で子供なんて産まれる筈もないのだが。

「そういう訳だ。こいつはうちで飼えないよ。」

「なんで!?おりんいいこにするから!!このこのめんどうちゃんとみるから!!」

「そうは言われてもな・・・」

俺はうにゅほのほうをチラリと見る。ゲスには見えないがさすがに2匹目は。

「このこ、まだあかゆっくりなんだよ。だれかがめんどうみなきゃしんじゃうよ・・・」

ぐっ・・・それを言われると捨ててこいとはいいにくい・・・

「ねぇおにいさん・・・」

「ワゥ・・・・」

「うにゅ・・・」

お前らそんな穢れなき瞳でじっと見つめるな。まるで俺が悪人みたいじゃないか・・・

俺がこの目線の三位一体攻撃に屈し、うにゅほを飼う許可を出してしまうのはこれから数分後である。













そして季節は巡る。おりんがうちに来て1年が過ぎようとしていた。

おりんはバッジ試験を受け、見事金バッジになることができた。

うにゅほも赤ゆっくりから立派な成体になり、その髪には銀バッジが光り輝いている。

しかし残念なこともある。ジローのことだ。

「おじいさんだいじょうぶ?いまおりんのすぃーにのせてもらえるからね。」

「ワゥ・・・・」

最近ジローはめっきり体が衰えてしまった。まともに歩くことすら出来ないほどに、だ。

元々ここ数年は高齢の為元気がなかったわけだが、ここ最近はこれがひどい。

毛皮につやもなく歩くときはヨタヨタと歩くのがやっと。餌をあげても全く手をつけようとせずとせず、蟻がたかる始末だ。

今では自力で歩けないので、おりんの猫車にジローを乗せて散歩させている有様だ。

「おじいさん、はやくよくなるといいね。」

「ああ・・そのうち良くなるさ。」

そうは言ったが俺はもうジローが長くはないだろうことを知っている。

獣医にも診せたが加齢による衰えが大きく、完治させるのは不可能に近い、入院もお勧めできないと言っていた。

もう手の施しようがないので最後は自分達でみとれということらしい。

「わー・・きれーなゆうひだね。」

「うにゅーほんとだー。」

「ああ・・・そうだな。」

本当にきれいな夕日だ。悲しくなるほどに。

あと何回ジローとこの夕日を見れることだろうか。おそらくそう多くはないに違いない。

いつかこの4人からジローがいなくなる。そんな日も近いのだ。

「あれ?おにいさんなんでないてるの?」

「別に泣いてなんてねーよ・・・ちょっと夕日が眩しかっただけさ・・・」







そしてその日は訪れた。







その日俺が家に帰ってくるとおりんとうにゅほが泣きながら俺に飛びついてきた。

「おじいさんが!!・・・おじいさんがおひるねからおきてくれないんだよ・・・」

「うにゅー!!うごかないんだよ!!」

「なんだって・・・・!?」

猛烈にする嫌な予感が杞憂であることを祈りながら俺はジローの小屋へ走った。

「ジロー!!ジロー!!!」

呼びかけても反応がない。今までは立ち上がれないまでも俺が来ると首くらいは上げていたのに。

「ジロー・・・」

俺はジローに触れてみる。もうその体にもう温かみは残っていない。

俺は悟った。ジローは・・・十年以上家族同然に生きていた愛犬はもうこの世にいないのだと。

首輪をジローの首から外してやる。首輪は音もなくジローの首から離れた。

「やめてぇえええええ!!!」

その途端おりんが背中にしがみついてきた。

「なんで・・なんでおじいさんのおかざりとっちゃうの!?そんなことしたらおじいさんがおきたときゆっくりできなくなっちゃうよ!!」

ゆっくりにとってお飾りは命の次に大切なもの。それを奪うことをおりんは拒絶したのだ。

「おじいさん、おっきしてよ!!!おじいさん!!!」

おりんは揺さぶり続ける。もう二度と目を開けないジローを。

本当はおりんもわかっているのだろう。もうジローは二度と目覚めないことに。もう二度と自分に笑いかけてくれないことを。

ただそれを認めたくないだけなのだ。

「・・・おりん残念だけどもうジローは・・・」

「どうして・・・どうしておっきしてくれないの・・・?」

「おりん・・・」

「いってくれたじゃない・・・もうにどとおりんをひとりぼっちにしないって・・・ずっといっしょだって・・」

ジローの亡骸にすがり嗚咽し続ける。

「おりんはみなしごで・・・ずっとひとりぼっちだった・・・おじいさんだけが・・・わんわんおじいさんだけがおりんにやさしくしてくれたのに・・・」

嗚咽まじりに話し続けるおりん。胸が痛かった。一見天真爛漫にふるまっていたおりんにそんな暗い過去があるとは。

家族はおらず、友達をつくろうにも捕食種であるおりんでは誰も寄り付こうとはしなかっただろう。おりんの孤独と苦悩は並大抵のものではなかっただろう。

そしてジローもまた、捨て犬で身寄りなどない存在だった。そんな2匹だったからこそゆっくりと犬という立場でも分かり合えたのかもしれない。

「さっ、おりん。いつまでも泣いてちゃ笑われるぞ・・・最後にジローにお別れを言うんだ・・」

「おにいさんだって・・・ないてるじゃない・・・」

「うにゅ・・・・おじいさん・・なんでしんじゃったの・・・」

気づけばうにゅほも・・・俺を含めて全員が涙を流していた。

「今までありがとうな・・ジロー・・・天国で・・・ゆっくり・・しろよ・・・」

そっとジローの頭を撫でてやる。ポタリと雫がジローの頬に落ちた。







時が立つのは早いものだ。また今年も夏が来た。

ジローが死んで早一年。最初はふさぎこむ事の多かったおりんも今ではすっかり立ち直ったようだ。

「うにゅー。」

「まてー、うにゅほー!!」

今もうにゅほと外で鬼ごっこをしている。この炎天下で本当に元気な奴らだ。

その首にチョーカーのように巻かれているのは古びた犬の首輪。ジローの形見の首輪である。

おりん曰くこれを着けているとわんわんおじいさんがそばにいる気分になれるそうだ。生意気いいやがってと思う反面ジローがこいつのなかでずっと生きつづけていると思うと少し嬉しい。

「おにいさんもいっしょにあそぼーよ。そとはとってもゆっくりできるよー!!」

「んにゅーはやくはやく!!」

「待ってろ!!今行くからさ。」

俺はサンダルをつっかけ、おりん達の元へ向かう。

空は一面の青空。今日も暑くなりそうだ。
















後書き
テーマは「愛で、赤ゆっくり、捕食種」今まで書かれることのなかった動物とゆっくりの交流を書いてみました。
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最終更新:2010年10月15日 17:14
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