れいむのお腹の中の消しゴム 8KB
愛で いじめ 飼いゆ 希少種 独自設定 きもけーね ハートフル注意 二行作
男が便所から戻ってくると、ちゃぶ台の上に丸いものが乗っていた。彼が飼っているれいむである。
卓上にあるものは、広げられたノートに布製の筆箱。ペンも数本散乱しているが、あるものが無いことに飼い主は気付く。
妙にうな垂れているド饅頭に、男は優しく語りかける。
「なあ、れいむ。そこにあった消しゴム知らないか?」
「ゆゆゆ? しろくてそれなりーなけしごむさんなんて、しらないよ」
「もうちょっと隠す努力をしろ!」
「ゆべっ!」
嘘がド下手な飼いゆをソフトに、それでいて厳しく蹴り飛ばす。
れいむは台の上から激しく転がり落ち、面白いように前転しながら壁にぶち当たった。さらにその反動による後転で元いた場所へと戻ってくる。
男はあぐらをかくと無駄に勢いのある球体を見極め、チョップで止めた。
「ゆべらっ!」
「お前な、あれほど何でもかんでも口に入れるなって言ったろ!」
「ごご、ごめんなさい、おにーさん。まっしろでおいしそーだったから、つい」
飼い主にも責任はある。頭の中に餡子しか入ってないナマモノのことである。誤飲すること犬の比ですらない。
しかし、ことゆっくりに関して内省する者は希少種より希少だ。哀れなものである。
「ということで、お前には消しゴムの代わりになってもらう」
「どおして、そうなるのぉぉぉ?」
「では早速、このはみ出した線に向かってごーしごーし」
「れいむの、よみせのわたがしのようにふんわりとした、ほっぺたさんがぁああ!」
「おお、意外と消える! いける、いけるぞ!」
「ゆ? なんだかすーりすーりがきもちよくなって、ゆ・ゆ・ゆ」
「うわ、きったね」
摩擦の刺激でぬらって来たれいむを、飼い主が思わず放り投げる。
「おそらを、たわばっ!」
「ぬらぬらすんな、キモい」
「なにがそんなにきもいっていうのぉお?」
「この世の全てと、れいむがキモい」
「おにーさんに、あいというものはないのぉぉぉおお?」
キモい。そんな自分の一言から、男はある閃きを得る。
彼は目の前で騒いでいる楽しいお饅頭を担ぐと、近所にある友人の家へと向かった。
「というわけで、けーね。れいむの中から俺の消しゴムを取ってくれ」
「よろしく、ねっ」
「断る!」
ゆっくり道楽な友人のご自慢。それが1人と1匹の前にいる、きもけーねであった。
けーね科のきもけーね種。鮮やかな蛍火の髪と、雄々しい2本の角がたくましい希少種だ。左の角には可愛らしいリボンも付いている。
けーね種の中には、特定の時だけきもけーねと化すものもいるらしいが、ここにいるのは産まれた時からきもりっぱなしの個体だ。
「なんでけーねが、れいむのお医者さんみたいなことしなきゃいけないんだ。
ゆっくり医院かえーりんのところにでも行けばいいじゃないか」
「いや、医者行くほどのことじゃないし、えーりんのところは遠いし、消しゴムは惜しいしなあ」
「消しゴムなんてしかるべき店にいって、100円玉1枚出せば済む話だろう」
人間に対して対等な言葉遣いにビキィと来る向きもあろうが、これがけーね種の特徴でもあった。
この説教口調を止めるということは、例えばれいむやまりさが、
『はあ、きょうもかいぬしさまにおかれましては、おひがらもよく』
などと喋り始めるということだ。いや、それはそれで面白いが。
「このままだと、れいむのおなかのなかに、けしごむがはいりっぱなしなんだよ」
「いいじゃないか。ゴムが入ってれば、それだけ食費が浮く」
「そういう考えもアリだな」
「ゆんやー」
「まあ、それは今後の課題とすることにして、今日だけはれいむを見てやってくれんか?
けーねといえば、ぱちゅりー数百個分の知能があるんだろう?」
「ぱちぇをレモンみたいに言うな」
「その頭脳を見込んで、ホレ、この通り」
ゆっくりに頭を下げる人間を見て、きもけーねは息を吐く。
けーねは考え事をしているのか、辺りをちょっと歩き回った。歩む度に、サク、サクと音がする。
以前、きもけーねの飼い主が男に語ったところによると、けーねの中身はミルフィーユなんだという。
けーねは歴史を編むゆっくりと呼ばれている。
そのため、編む→編み物→層に見える→層になっている甘味と来てミルフィーユなんだそうだ。
単なるホラ話かも知れない。
「何故、それほどこだわる。そうまでして、けーねに頼む理由を言ってくれ、正直に」
「暇潰し!」
親指を立て、白い歯をきらめかせながら即答する男。
「やったー、かっこいー!」
「かっこよくない! そんなことなら帰ってくれ! けーねはこれから、時代小説を読む時間なんだ」
「きょうは、なんのごほんをよむの?」
「きたかたけんぞーさんの、三国志だ」
「きたかたさんってしってるよ。とにかく、そーぷにいけっていうひとでしょ?」
「れいむ、お兄さんに何を吹き込まれた」
「……どうしても駄目か」
「ダメだ。この話も、お兄さんの教育方針も」
「そうか、残念だ。
もし引き受けてくれたら、この懸賞で当たったブルーレイディスクを譲ってもいいのだが」
きもけーねの角が、ピクリと揺れる。
男は懐から、紙袋に包まれたパッケージをゴソゴソと取り出す。
れいむはただボーッとしていた。
「…ちなみに、タイトルは?」
「ゆっくりもこたん☆3D 南の島でINしたお!」
「やるであります!」
いつのまにか客人の肩に飛び乗り、顔を異常接近させるきもけーね。
何故か口調が変わっていることといい、鼻も無いのに荒い鼻息といい、やる気満々のようだ。
「さすが持つべきものは、けーね先生だ。
何だったら、『マグロゆっくりてるよ・魅惑の熟睡プレイ』も付けるが」
「そんなものはどうだっていい! 早く、一刻も早く、れいむのお腹の中の消しゴムを取り出すぞ!」
「張り切るのはいいが、その角であにゃるを掘り出すとか、そういうのは止めてくれよ」
「ゆびぃぃぃい!」
「けーねのcaved!!(掘り行為)は親愛の証だ。れいむをそれほど愛してはいない」
「ゆぇぇぇん……」
完全に弄られキャラと化した紅饅頭に、キモいミルフィーユが接近する。
舐め回すように観察し、時には肌で触れ合って触診のようなこともやっている。
その度に、ゆひっとかゆふっとか声が漏れるれいむを、飼い主はとてもウザいなと感じていた。
「よし、ちょっと荒療治になるが」
「おいおい、潰さないでくれよ。そんなのでも、一応俺の飼いゆなんだからな」
「そうだよ、れいむはおにーさんの、べすとふれんどなんだよっ!」
「あ、痛くするのは一向に構わんから」
「ゆゆぅぅぅう? いたいのはやだよ! ゆっくりかんべんしてね!」
「大丈夫だ。ちゃんと麻酔をしてやるから、痛くはない」
「ほんとう? さすが、けーねせんせーだね」
そう言ったれいむの皮がそっと青ざめる。
きもけーねが大きく身を反らし、陽気な餡子脳でも分かってしまうくらい不吉な力の込め方をしていた。
そして大きく振りかぶったけーねの額が風を切り、まともに紅饅頭のおでこへ決まってしまった。
梵鐘のような澄み切った音が響き渡り、れいむの表皮には激突点を中心とした美しい波紋が広がっていく。
「いたくはないけど……とってもいたいよ……」
世迷い言を口にしながら、よろめきながられいむは倒れ伏した。
さらに追い打ちをかけるように、きもけーねの2本角が気絶饅頭の体を挟み込む。
そのまま、ハンマー投げの要領で回す、回す、回す。
「そおおりゃぁああああ!」
気合いの雄叫びと共に角が開き、れいむは上空高く投げ飛ばされていった。
お饅頭が天井スレスレのところから重力に縛られて落ちてくる。その落下点目掛けて、牛型ゆっくりが突っ込んでいく。
「はりけーね・みきさぁぁぁああ!」
けーねの角が激突すると同時に、紅饅頭の体が再び虚空へ放り出された。
しかも先ほどとは違い、上昇に強いキリモミ回転が加わっている。まるで打ち上げられたロケットドリルのようだ。そんなものこの世にないが。
ドリルとの違いが明白になろうとしていた。下降するれいむが横に激しく回りつつ床に衝突する。しかし、地に穴は開かなかったのだ。
代わりに饅頭のあにゃるから、もりゅんと消しゴムが排泄される。
「やった、消しゴムは無事だ!」
「キリモミ回転で体内にある消しゴムの姿勢を正し、衝突時のインパクトでそれを吐き出させる。うん、計算通りだ」
「流石かっけーね! ぱちゅりー一千個分の頭脳は伊達じゃない」
れいむが、ムクリと起き出す。
そして、そのまま動かない。男がその表情を見ると、真っ白なままの目が見開かれ静止していた。
「立ったまま、死んでる……」
「れいむ、こんな形で出会いたくはなかったぞ」
ワザとらしく悲しんで見せる加害者一同。
「ゆぴー…ゆぴー…」
「なんだ、寝てるだけか」
「タフな奴だ」
ちょっとがっかりしたような表情の1人と1匹。
それから何事もなく翌日。
「2ばいゆっくりすることにより、100まんたす100まんの200まんゆっくり!
いつもより、2ばいたてにのーびのーびすることにより、200まんかける2の、400まんゆっくり!!
そしていつもより、3ばいよこにのーびのーびしたならば400まんかける3の、
だれよりもゆっくりできる、1200まんゆっくりだーっ!!!」
などとホザきつつ、だらしなく伸びて畳みを占領する飼いれいむ。
それを横目で見ていた飼い主は、寝そべりつつゴロゴロと転がって饅頭の上を通過する。
「加工所のロォーラァー」
「ゆべべべべべべぶっ!」
「あー、ウザかった」
「なにがそんなにうざいっていうのぉお?」
「この世の全てと、れいむがウザい」
「おにーさんに、やすらぎというものはないのぉぉぉおお?」
「さーて、飯にするかー」
「ゆゆっ! れいむ、のりたまごはんさんがいいよ!」
「お前は安上がりでいいなあ」
男はスーパーの惣菜をレンジで温めながら、茶碗に白飯を盛った。
それにふりかけを落とすと、碗を振りながら黄色くなった飯を丸くしていく。
単純作業をしながら、飼いゆっくりというものを、ふと思う。
友人はきもけーねやえーりんのような、賢く気品もある希少種を飼っている
それに引き替え自分は、安物のウザれいむだ。それなのに、随分長く飼ってしまった。
すっかりボール状になったふりかけ飯。それをド饅頭の元へ持っていき、男は呼びかける。
「そうら、れいむ。これでも食らえ!」
茶碗から丸い飯が飛ぶ。それを、丸いナマモノが追う。
ゆっ、ゆっと鳴きながら大口を上げて、れいむは舌の上で受け止めてみせた。
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!」
希少種だの虐待だのは、他の誰かに任せよう。俺は、これでいい。これがいい。
あまり行儀のよくない光景を眺めつつ、男はそんなことを考えていた。
(終)
最終更新:2010年10月15日 17:25