『RAIN』 19KB
観察 思いやり 愛情 不運 誤解 日常模様 家族崩壊 赤ゆ 子ゆ 都会 現代 独自設定 うんしー ポスト羽付き
「RAIN」
羽付きあき
・善良なゆっくりがひどい目に会いますご注意を
・ゆっくり視点です
・観察物?
・いくつかの独自設定を使っております
どんよりとした灰色の雲が視界の真上からずっと向こう側まで覆い尽くしていた。
切れ目なく続く曇天は明日にでもこの世が終わりそうな終末的な感覚を覚える。
少なくとも「空き缶まりさ」にはそこまで詳しくは考えてなくともそう感じる程度には情緒があった。
袋の中に辺りに転がる空き缶を拾い集めては、また街のどこかへと移動していく。
その様子はさながら地域ゆっくり以外のゆっくりから見れば森を彷徨う亡霊の様に映るだろう。
小さな公園に入ると、帽子に何かが当たって弾けた様な感覚が襲った。
見れば小さな石つぶてがコロコロと転がっていた。
一回だけではない、二回、三回と石つぶてが飛んできた。
それほど大きなものでもなく、当たっても痛くもかゆくもないものであるが・・・
辺りを見回せば、すぐ横で、ソフトボールほどの子れいむ二体と子まりさ一体が口に小石を含んでは吐き出すようにして石つぶてを空き缶まりさに浴びせかけていた。
「やめてね。いしさんをなげないでね」
空き缶まりさはそう言った。
だが、子ゆっくり達は大きく膨れて威嚇を繰り返しながら石つぶてを飛ばす事を止めない。
「ゆゆ!ばきゃにゃ"あきかん"がなにかいっちぇりゅんだじぇ!」
「ゆぷぷっ!あまあまをおいちぇいきゅにゃらゆるしちぇあげりゅよ!」
「のろまな"あきかん"はゆっきゅりしにゃいぢぇしんぢぇね!」
空き缶まりさはほとほと困り果てた。
風貌から見るに典型的な街ゆっくりだろう。飾りもボロボロで小麦粉の皮も跳ねたドロやほこりやごみで汚れている。
この子ゆっくりの親ゆっくり辺りが何か言ったのだろう。それを勘違いして「自分なら勝ててあまあまを奪う事が出来る」と思い込んでしまったか。
いずれにしろ空き缶まりさはこの小さなゆっくり達の悪意に対して反抗する術を知らなかった。
「ゆ・・・やめてね・・・」
弾き飛ばす事も踏みつける事も空き缶まりさは知らない。ぷくーをしたって効きっこない(と思い込んでしまっている)
どうする事も出来ずにただ言葉を出す事しかできなかった。
子ゆっくり達はエスカレートしていよいよ小さな体で空き缶まりさに体当たりを始めた。
「「ゆっきゅりしにぇ!」」
「ゆっへっへ!まりしゃはちゅよいんだじぇ!しゃっしゃとあまあまをおいちぇいきゅんだじぇ!」
空き缶まりさが戸惑っている最中、後ろから声が響いた。
「やめなさい!」
「「「ゆゆ!?」」」
見れば、そこには一体のゆっくりありすが飛び跳ねながら近づいてきていた。
空き缶まりさが驚いたのはありすの大声ではなく、その風貌である。
サラサラの砂糖細工の髪に汚れ一つないカチューシャ、モチモチの小麦粉の皮と飾りに輝く金色のバッジ。
底部に履いた「靴」(巾着袋の様な形状の袋)には「A」と刺繍が入っている。
ありすは大きく膨れると子ゆっくり達を見下ろす。
すると、子ゆっくり達は各々がたじろぎ、驚き始めた。
「ゆ・・・!きょ、きょわいよぉぉ・・・!」
「な、なんなんだじぇ!ありしゅにはかんけいないんだじぇ・・・!」
「ゆぅぅ・・・!れ、れいむはゆっくりにげるよ!」
一体の子れいむが逃げたのを皮切りに他の子ゆっくり達も「れ、れいむもにげるよ!」「ゆゆ!?れいむ!どこいくんだじぇぇぇ!」と言いながらどこかへと跳ね去っていった。
「だいじょうぶ?」
金バッジありすが空き缶まりさの方へと向き返って口を開く。
空き缶まりさは言葉に詰まった。このありすが綺麗だからとか、そんな理由ではない。
どこか懐かしい面影をこのありすに見つけたからだろうか?
「ゆ、ゆっくりありがとう・・・」
「おれいはいいわ。はやくちいきゆっくりのところにかえってほうこくしたほうがいいわよ」
「ゆ・・・ゆゆ!」
金バッジありすの言葉と同時に空き缶まりさは小麦粉の皮を真っ赤にして帽子を目深にかぶるとそのまま振り向いてずーりずーりとなるたけ早く移動して公園を後にする。厳密にはありすから離れたと言う方が正しい。
空はどんよりと曇って、辺りは薄暗くなり始めていた。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
地域ゆっくりを取りまとめているぱちゅりーの元へと空き缶まりさは向かった。
と言っても、同じ敷地の中で暮らしているのだからかなり近くな訳だが・・・
地域ゆっくり専用の敷地の中にたくさん建てられている野外ゆっくり用の小屋が地域ゆっくり達の「うち」に当たる。
飼いゆっくりのお古等で人間から給与されたものだ。
街ゆっくり等の粗末なボロボロのダンボールの「おうち」とは格段にスペックが違う。
中に入っているのは雑巾と見間違うほどのボロタオルではなく、ふかふかの毛布だ。
・・・空き缶まりさはぱちゅりーの「おうち」のすぐ隣に、空き缶の詰まった袋を置いた。
「おうち」のすぐ外では、地域ゆっくり達がぱちゅりーを中心にして何やらあつまって雑談をしている様である。
「ぱちゅりー。あきかんさんをおいておくね」
「むきゅ。わかったわ」
「"あきかん"!きょうもよくあつめてるね!」
「れいむももうちょっとみならったらどうかぜ?」
褒めるれいむに茶々を入れるように口を割り込むまりさ。
地域ゆっくりの中でも古参の部類に当たるこのれいむとまりさ、そしてぱちゅりーは空き缶まりさの一番の理解者であり、また空き缶まりさに仕事を教えたゆっくり達である。
「"あきかん"きょうはちょっとうれしそうね。なにかあったのかしら?」
「ゆ・・・べ、べつになにもないよ。いつもとおりまりさはしごとをしてたよ」
「・・・まぁいいわ。あきかんにいいわすれてたけど、ぱとろーるをするゆっくりをふやそうとかんがえてるの。あきかんにもまわるかもしれないわ」
「ゆゆ・・・?どうして?じゅうぶんたりてるってまりさはきいたよ?」
空き缶まりさは不思議そうに「体」を傾げてぱちゅりーに尋ねた。
答えを返したのはぱちゅりーではなく、まりさとれいむである。
「ゆ!さいきん"ありすぶーむ"とかなんとかさわがれてたのがちんせいかしたみたいで、すてありすがたいりょうにでるっておもわれてるんだぜ!」
「まぁほとんどのすてありすはゆっくりできなくなるとおもうけど、げすになったりするありすもでてきたらこまるからねんのためのぱとろーるだよ!」
空き缶まりさの胸中には何やら引っかかるものがあった。
「ありすブーム」とか言う物は空き缶まりさもそれとなく把握していた。
地域ゆっくりの中からも飼いゆっくりとしていくつかのありすが飼いゆっくりになったりと、身近ではあるが、空き缶まりさにとってはどうでもいいものであるが・・・
今日出会った金バッジのゆっくりもありすであった。
実際、金バッジのゆっくりで捨てられるのは殆どいないだろう。
少なくとも空き缶まりさ自身が通してその様な捨てゆっくりは見た事が無かった、
唯一例外は、空き缶まりさを拾ったあの「羽付きまりさ」は元は金バッジのゆっくりだったとぱちゅりーから少しだけ聞いてはいるが、それは例外だと判断している。
だが、何か引っかかるものがあるのだ。それが何なのかは空き缶まりさにはわからなかった。
いずれにしろ心配する事も無いだろうとは考えている。あれほど「ゆっくりした」ありすならむしろ捨てられたとしても引く手数多であろう。
「まりさ。」
「ゆ?なんなのかぜ?」
「"きんばっじ"ってすてられることがあるの?」
空き缶まりさの言葉に、まりさは大きく口を開けて笑い始めた。
「ゆはははは!"ふつうは"ないんだぜ!ふつうは!」
「ふつうは?」
「まぁ、こんかいのすてありすのなかにはけっこういるかもしれないんだぜ。おうたやおどりとかしかできないのにきんばっじをつけてるありすばっかりだときいたことがあるんだぜ。」
「ゆゆ・・・」
「それでなくても、たったいったいでであるいたりしてるばっじつきのゆっくりもあぶないもんだぜ!むりやりばっじをとろうとしたりすっきりしたりしようとするあほなゆっくりはいないにしろ、しにかけたおやゆっくりがこゆっくりに"あのばっじつきのゆっくりをおかあさんとよんですーりすーりしつづけろ"なんていってたりすることもあるんだぜ!そのときはまずいんだぜ!」
「どうして?」
「そんなのかいぬしがみたらどうおもうかぜ?あきらかにそとですっきりしてこゆっくりをすてたこゆっくりがもどってきたようにしかみえないんだぜ!まあ、そもそもそんなばっじつきのゆっくりがききかんりのたりないゆっくりといわれればそれまでなんだぜ。」
「・・・」
空き缶まりさはそれを聞いて青ざめた。
まさか、そんな事は、と思っていたも悪いイメージしか付きまとわない。
ゲンナリとした顔つきで、自分の「おうち」の中に戻っていく空き缶まりさ。
菓子パンをかじりながら今日出会ったあのありすに感じた懐かしい面影を必死に思い出していた。
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それから数週間程が経過したある日。
空き缶まりさは結局あの金バッジありすに再び出会う事はなく、いつも通りの日々をただ漠然と過ごしていた。
そんなある日、空き缶まりさは、回ってきたパトロール番を消化すべく、街を練り歩いていた。
・・・確かに裏路地や公園では、捨てられたであろう小汚いありすが突っ伏したままゆっくりできなくなっていたり、車にひかれてカスタードクリームをぶちまけていたりしたようである。それらは子ありすや子まりさ等を連れており、既に動かなくなったありすの周りで必死に呼びかけたりすーりすーりを繰り返す子ゆっくり達の姿を空き缶まりさ派幾度も見た。
かつて自分がそうだったように。
それを見て金バッジありすに感じた面影がなんなのか分かった。
自身の母ゆっくりであるありすに見えたのだ。
空き缶まりさが取りとめのない事を頭で描きながら、街を跳ねていると、歩道の脇で何やらゆっくりらしき影を見つける。
それを見た空き缶まりさは絶句した。
「ゆ~♪ゆゆ~♪とかいは~♪とかいは~♪」
「ときゃいは~♪ありしゅはちょっちぇもちょかいは~♪」
「ときゃいは!ときゃいは!」
はたから見れば薄汚い捨てありすが「おうた」を歌っているだけにしか見えない。
だが、空き缶まりさはあのありすを知っている。
「・・・そんな」
そのありすは、間違いなく数週間ほど前、空き缶まりさを助けてくれた「金バッジありす」であった。
脇にいる子ゆっくり二体はありすの子ゆっくりだろうか?
一体はソフトボールサイズであるが、もう一体は砂糖細工の髪の毛も僅か上部にしか生えていない「あずき豆ゆっくり」の様だ。
小麦粉の体をくーねくーねとさせながら、子ありすとありすは歌を歌っている。そして、その周りには赤ありすが飛び跳ねまわっているような格好だ。
空き缶まりさは目をそらした。見てはいけない物を見てしまったようだ、えも言えぬ罪悪感が胸中に広がる。
なぜ、どうして、そんな事を詮索する事は今となっては不可能だろう。
だが、確実な事実として、あの「ゆっくりしたありす」はこの冬へと向かう冷たい曇り空の下に捨てられた。ただそれだけである。
こんな所で「おうた」を歌っていていては、意味がないし、騒音にしか聞こえない上に迷惑だ。
空き缶まりさは今すぐにでもあのありす達を別の所に行かせたかった。それが例え体当たりで弾き飛ばす様な無理やりな事でも良い。ただあのありすに一秒でも長く生きていてほしかった。
だが空き缶まりさは言えずにいた。かつては自分より遥かに格上で、今では自分以下になりさがったあのありすにどういう顔で合えばいいのか、どう言えばいいのかが分からなかった。
まごまごしている間に、赤ありすがコロンと上を向いてしーしーを始めた。
それがたまたま、通行人のある男の裾に飛沫が掛かってしまっていた。
男は顔を歪め、「おうた」に集中しているありす一家・・・いや、ありすに向けて足を大きくふった。
「・・・!!」
空き缶まりさは目を瞑った。
だが、そこから聞こえてきたのは「ドコッ」と言う鈍い音と、ありすの「ゆげぇっ!」と言う悲鳴である。
男のつま先がめり込むとガードレールにぶつかってバウンドしたまま地面に叩きつけられるありす。
ビチャビチャと口からカスタードクリームと、それに混じってヘシ折れた砂糖細工の歯が排泄物の中に混じったトウモロコシの粒の様に現れる。
「い、いだいわぁぁぁ!!どぼじでごんなごどずるのおおおおお!?」
「ゆぴゃぁぁ!?みゃみゃああああ!?」
「ゆっきゅち!?」
寒天の両目から涙を流して訴えるありすに返ってきたのは言葉ではなかった。
男がありすの砂糖細工の髪を鷲掴みにして持ち上げる。
ありすは小麦粉の皮をくーねくーねと動かしながら必死に身をよじっていた。
「ばなじでっ!ばなじでぇぇぇ!」
男はグネグネと動くありすを、大きくふりかぶって顔面からコンクリートの地面に叩きつけた。
「ゴツッ」と音がしたように空き缶まりさには聞こえた。
「あぎぃっ!ゆ"・・・!ゆ"・・・!」
一撃でありすの小麦粉の皮は所々が裂け、僅かにカスタードクリームが流れ出る。
ビローンとありすの小麦粉の体が楕円形になった。意識を失って項垂れたのだろう。
口からビチャビチャとカスタードクリームが流れ落ちると同時に、あにゃるからうんうんがブリブリと流れ出て、地面のボトボトと落ちている。
男はお構いなく、同じように再び、地面に持ち上げたありすを叩きつけた。
「ゆ”・・・!ゆ”・・・!ゆ”ぼぇっ!・・・っ!?」
無理やり意識を戻されたありすは一瞬状況を把握しきれなかった様だ。そんな事はお構いなく、男の靴の裏が、上を向いたありすの顔面に突き刺さった。
「ゆぶっ!ぎぇ”え”え”え”え”え”!!!いだいいいいいいい!おべべっ!あでぃずのおべべぇ”ぇ”ぇ”え”え”え”え”っ!!」
めり込むほどに突き刺さった蹴りは、トランポリンの様にありすの小麦粉の皮がはじいた。
だが、寒天の左目がそれと同時に飛び出てしまう。
寒天の左目が小麦粉の眼窩から零れ落ちた状態で、ぶーらぶーらとしている。ありすは、うんうんを漏らしながらカタカタと震えて男を見上げた。
「ゆひゅー・・・!ゆひゅー・・・!あ、あでぃずだぢはなにもわるいごど・・・じで・・・じでないわ・・・」
ありすの後ろでは、子ありすと「事」の元凶となった赤ありすがカタカタと震えながら、電柱の陰に隠れてしまっていた。
男が電柱の陰に手を伸ばす。
それを見てありすがかすれた声で・・・精一杯の声で子ありす達に叫ぶ。
「おぢびぢゃ・・・!にげ・・・で・・・!」
ありすの叫びも空しく、子ありす達はつかまってしまった。
赤ありすが子ありすの砂糖細工の髪の毛にしがみついていたため、男が子ありすを捕まえれば赤ありすも捕まると判断しての事だろうか?
「はなちちぇ・・・!きょ、きょわいわぁぁ・・・!」
「ゆっきゅ・・・ちぃぃ・・・!」
男は残っているもう片方の手を「チョキ」の形にして子ありすに向ける。そして
「はなちちぇ!はなち・・・ゆ”っ!?」
指は二本とも子ありすの寒天の両目に深々と突き刺さる。
その瞬間、子ありすが口を大きく開けて砂糖水の涎もお構いなしに凄まじい金切り声を上げた。
「・・・あ”ぎゃ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!い”ぢゃい”っ!い”ぢゃい”い”い”い”い”い”い”い”っ!!お”べべぇ”ぇ”っ”!お”べべが”い”ぢゃい”わ”ぁ”ぁ”ぁ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」
「おぢびぢゃああああああああああああああああん!?」
ガクガクと痙攣しながらしーしーとうんうんを垂れ流し、ぐーねぐーねと男に手の中で動き回る。
男が指を引き抜き、カスタードクリームと共に寒天の両目がポトリと落ちた。その手で赤ありすを掴むと、子ありすは地面に捨てられ、地面に突っ伏したまま小刻みにぐーねぐーねと動きながらもがき苦しむ。
「あ”あ”あ”あ”・・・!め”ぇ”ぇ”ぇ”っ!あでぃずの”お”め”め”ぇ”ぇ”ぇ"・・・!い”ぢゃい”わ”ぁ”ぁ”っ・・・!」
「おぢびぢゃん!ゆっぐりよぐなるのよっ!ぺーろぺーろっ!ぺーろぺーろおおおおおおお!!」
男が赤ゆっくりを指の腹でメリメリと潰す。
「ときゃ・・・!ゆっきゅ・・・ち・・・ちちゃ・・・ぃぃ・・・!」
赤ありすは縦に潰されながら、あにゃると口からカスタードクリームを吐き出し始めている。
だがそれも一瞬の事だ。男が指に力を入れるとあっという間にカスタードクリームと小麦粉の皮が弾け飛ぶようにして「プチ」と音を立てて潰れた。
「ゆびゅっ!」
辺りに弾けるようにしてカスタードクリームが僅かに飛び散る。
赤ありすは跡形も残らず四散してしまった。
男はそれで満足してしまったのか、指を拭くとそのまま人波の中へと溶け込んでいく。
・・・後に残されたのは、ボロボロのありすと子ありすだけである。
「いぢゃいっ・・・いぢゃいわぁぁ・・・」
「おぢびぢゃん・・・おぢびぢゃんんんん・・・あでぃずのおぢびぢゃんんんん・・・!ゆひぃぃ・・・!どぼじでごんなごどにぃぃ・・・」
残った片方の寒天の目から砂糖水の涙が零れ落ちる。
ありすは、バラバラに飛び散った赤ゆっくりの「欠片」を舌で必死に拾い集めていた。
それが何の意味をなすのか、何の意味があるのか、空き缶まりさにはわからなかった。
ただ、それを見て空き缶まりさは、振り向いて全力で跳ねた。
何もできなかったうえにおめおめとあの場にやってきて何が言えたであろうか?何が出来たであろうか?
どうすることもできぬまま、空き缶まりさは、戻らざる負えなかった。
曇り空の下、冷たい風は、強くゆっくり達に吹きつけている。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
あれから数日が過ぎた。
あのありす達がどうなったのか、空き缶まりさは知る術はないし、知ろうともしなかった。
・・・少なくともあのありす達の事態が好転する様な事はないのだろう。
今日も空き缶まりさは路上に捨てられた缶を拾い集める。おりしもついさっきまで青空が出るくらいに晴れていた空は、俄かに雲行きが怪しくなっていた。
「(・・・きょうはあめさんがふりそうだから、はやめにかえるよ)」
そう思い、いつもより早めに切り上げて帰路へとついて行くその最中であった。
空き缶まりさの目前に、丸い影が飛び跳ねる。
「・・・!!」
目前に現れたのは、かろうじてありす種とわかる程にボロボロのありすであった。
寒天の左目が無く、小麦粉の体は生傷だらけで薄汚れている。
残った寒天に右目は血走り、「ゆふー!ゆふー!」と息を荒げている。
少し後ろでは、両目の無い子ありすがいた。
・・・空き缶まりさは気づいていた、目の前にいる「それ」はあのありす親子だと。
「い、いばずぐ!いばずぐぞのばっじざんをおいでいぎなざいっ!」
「ま、まってね、ありす・・・!」
狼狽する空き缶まりさにありすは舌に小石を持ち、さらに息を荒げて捲し立てる。
「ば、ばやぐじなざいいながもの!あ、あでぃずには!あでぃずにはぞれがびづようなのよっ!」
「ど、どうして・・・」
「おぢびぢゃんのおべべをなおずにはっ!ばっじざんがびづようなのよっ!あでぃずはぞれだげでいいのっ!ぼがにはなにもづがわないがらっ!だがらっ・・・!」
・・・確かにゆっくりが専門の治療を受けるには、バッジ付き・・・つまり飼いゆっくりでなければならない。
だが、だからと言ってバッジだけで治療が受けられるはずがない。飼いゆっくりの事はあまり詳しくないが、少なくともそれだけは空き缶まりさは把握していた。
ありすは、痺れを切らしたのか、飛び跳ねて、空き缶まりさの帽子の尖った先の部分を加えた、そのまま引っ張り上げ始める。
「やめてね!ありす!どうして!?あのときはまりさをたすけてくれたのに!」
「うるざいっ!いいがらよごじなざいっ!よごぜいながぼのっ!よごぜえええええ!」
帽子をはぎ取ると、ありすはバッジだけを外そうと、今度はバッジを舌で持って帽子をブンブンと振り回す。
やがてミチミチと音を立てて、空き缶まりさの帽子の切れの一部を巻き込みながら、銅バッジははぎ取られた。
帽子だけ奪わなかったのは、少なくともこのありすにはまだ、良心の一欠けらでも残っている現れだろうか?
帽子ごと奪えばもっと楽だったであろうに。
「おぢびぢゃんっ!ごれでおべべがなおるわっ!ま”ま”のがみざんをぐわえでね!ごのままみちさんをづっぎるわ!」
「ゆ・・・!ゆ・・・!ゆっくりりかいしちゃわ・・・!」
ありすは大事そうに口の中に銅バッジを放り込むと、なるたけ早く子ありすに合わせて、歩道から車道へと突っ切り始めた。
それを見て空き缶まりさは帽子もそっちのけでありすを追って叫ぶ。
「ま、まって!まってね!そこはあぶないよ!くるまさんがとおるんだよ!」
そんなことはお構いなしに、ありすはずーりずーりで道を真横に往く
「ゆ”・・・!ゆ”・・・!おぢびぢゃん!いぞいでねっ!あめざんがぶりぞうだがらばやぐおうぢまでいぐのよ!」
「ゆ・・・!ゆ・・・!」
無謀にも車道を横切り始めるありす達。それがどうなるか、空き缶まりさにはわかっていた。
眩しい光がありす親子を包む。
「ありす・・・!あぶな―――」
「ゆ”・・・!ゆ”・・・!もうちょっとよ・・・!おぢびぢゃ―――」
空き缶まりさが声を上げた刹那。「ドン」と言う音が響いた。
ありすの小麦粉の体が、灰色の空に弾け飛ぶ。
ボトリと地面に落ちると、4~5回転してありすはうつ伏せに突っ伏したまま僅かに小麦粉の体をぐーねぐーねと動かすだけで、その場から動けなくなってしまった。
直接タイヤに巻き込まれはしなかったが、かする様にして弾き飛ばされたのだ。
子ありすが右往左往しながら、叫ぶ。
「みゃみゃあああああ!?どきょ!?どきょおおおおお!?ありしゅを!ありしゅをおいちぇかにゃいぢぇええええええ!」
「あ、あぶない!あぶないよっ!」
子ありすがフラフラと車道を動き回る。
空き缶まりさはそれを必死に止めようとした。
しかし、時すでに遅し。
「みゃみゃああああ!みゃみゃあああああああああびょ”っ”!!!」
再び通った別の車のタイヤに、子ありすは小麦粉の皮の半分を巻き込まれた。
「ブチッ」とも「バチッ」とも言える音とともに、ありすは半分だけ原形を残してその場にポトリと倒れる。
「ゆ・・・!そんな・・・」
空き缶まりさはそう呟きながら、ありすの方を見た。
「お・・・ちび・・・ちゃ・・・こ・・・れ・・・で・・・ずっと・・・とか・・・い・・・は―――」
ありすは銅バッジを舌で握りしめ、僅かに口を動かしながら、小麦粉の皮をグーネグーネとよじる。
・・・空き缶まりさが見たのは、そこまでだった。
「グチリッ」と音を立てて、ありすが引き潰された。
いや、破裂した様にも見えた。
空き缶まりさの小麦粉の顔に、ありすの小麦粉の皮の破片やカスタードクリームがビチャリとつく
一瞬の出来事だった。
空き缶まりさはその場で立ちつくしたまま、動く事も叶わずにいた。
・・・雨が降り始める。
ありす親子だった潰れ饅頭を洗い流すかのように、雨は徐々に、徐々に強みを増し始めた。
曇り空の下、冷たい雨が降り注いでいた。
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どんよりと曇った空。
その真下の街で、空き缶まりさは今日も空き缶を拾い集めていた。
昨日も、今日も、そして明日も恐らくは決して変わらない。
雨でも、晴れでも、曇りでも、空き缶まりさは今日も街を往く。
その日、何故か空き缶まりさは、空き缶のなさそうな公園の片隅へと移動した。
見れば、一輪の小さな花が三つと、そこにありす種の飾りであろうカチューシャが三つ並べられていた。
空き缶まりさは、袋を降ろすと、帽子の中から一口ゼリーを三つ取り出してその前に並べた。
「たすけてくれたときのおれいだよ。みんなでなかよくわけてね」
そう呟いてふりかえると、再び袋を持って公園を後にする。
冬を運ぶ冷たい風が、街に低く流れている。
最終更新:2010年10月15日 21:40