anko1971 ゆっくりの怖い話

『ゆっくりの怖い話』

    D.O




「・・・・から、そのむれでは、『どうつき』しかうまれなくなっちゃったんだよ・・・」



「「「ゆぁぁあああ!こわいよぉぉ~。」」」
「わかるよー・・・のうかりんののろいなんだねー。」
「どうつきはとかいはじゃないわ・・・」

「おお、こわいこわい。ヒュンヒュン。」

季節は夏。

ここはとある森の奥のゆっくりプレイス、
その端っこあたりの崖下にある、そこそこ広い洞窟である。

「とってもこわいおはなしでした。ヒュンヒュン。やはりまりささんにこえをかけて、せいかいでしたね。」
「ゆゆ~ん。それほどでもあるよぉ~。」

そして洞窟には一匹のきめぇ丸と、
そのきめぇ丸に声をかけられた、数匹のゆっくりが集まっていた。

「おお、すずしいすずしい。ヒュンヒュン。『のうっりょう!こわいはなしったいかい!』は、だいせいこうですね。」
「「「「『こわいはなし』さんは、ひんっやりできるねー!」」」」

何をしているかと言うと、聞いての通り『納涼!怖い話大会!』である。
森の中とはいえ、このゆっくりプレイス辺りはそこそこ気温も上がり、
夏も後半になるとその暑さにはうんざりさせられる。

そのため多くのゆっくり達は洞窟の奥や茂みの中で昼寝をしたり、水浴びをしたりと涼しさを求める。
それはそれで楽しいものなのだが、どうやらこのきめぇ丸は満足できなかったようで、
今回、少し変わった企画を発案したわけだ。

集まっているのは、まりさにれいむにありすにちぇん。
いずれも結婚し、子供もいるおとなのゆっくり達なのだが、
好奇心旺盛で元気いっぱいな、若いゆっくり達でもあった。
程よく成熟しており話も上手く、この企画に参加してもらうにはうってつけの者達である。

「(ヒュンヒュン。よいねたを、げっとできましたね。)」

まあ、もちろんきめぇ丸の場合、単に話を聞きたい、で終わる訳では無い。
ここで面白い話を聞けたら、そのネタを『きめぇまるしんぶん』に載せようというつもりであった。
記者たるもの、新鮮なネタには常に飢えているモノだ。

・・・ちなみに新聞と言っても、近場の崖の壁面にひらがなで書きこむ、掲示板のようなものだ。
ひらがな限定なら、ゆっくりの識字率は意外と高い。



「さあさあ、それではおつぎは、どなたがおはなしされますか?ヒュンヒュン。」
「・・・じゃあ、つぎはれいむが・・・」

さあ、次のお話を聞く事にしよう。



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・・・これはね。れいむが、実際に体験した・・・ゆぅ、違うね。今でも続いてる、不思議なお話だよ・・・

みんなは、れいむがこの群れで生まれたゆっくりじゃないって、知ってるよね。
でも、どこから来たのか、どうして前の群れから出たか、誰にも言ってなかったよね。

それはね。

れいむが、悪い事をしたり、前の群れが嫌になったりしたからじゃあないんだよ。
あれは、れいむがようやく『おちびちゃん』って呼ばれなくなった頃の事だよ・・・。



「ゆゆ~ん、ゆゆ~。おうたはゆっくりできるね!・・・ゆぅ?」

れいむはその日、狩りから帰った後に、ゆっくりできるお歌の練習をしてたんだよ。
お外でお歌の練習をするのって、とってもゆっくりできるからね。
それで、お空が赤くなってきたから、帰ろうかなって思って、ふっと振り向いたんだよ。
そしたら、

「・・・ゆぅ?だれなの?ゆっくりしていってね!」
『ププッ・・・クク・・・ワイイ・・・』
「?ゆっくりしていってね!・・・ゆぅ?」

『・・・マッタ・・・マズイ・・・』

そこに、『ソレ』がいたんだよ。
れいむの立ってた所から、少しだけ離れた茂みさんの向こうに、『ソレ』が・・・。

れいむは最初、『ソレ』はゆっくりだと思ったんだよ。
だって、お飾りさんは無かったけど、お顔には動物さんと違って毛が無いし、
お目目もお口もあるし、髪の毛さんもあるし。

でも、違ったよ。

「ゆぅ?おそら、とんでるの?」
『・・・・・・。』

だって『ソレ』・・・お顔がすっごく高い所にあったんだよ。
ゆ?『ちるの』や『れみりゃ』じゃないよ!
だって、羽さんは無かったから。
それに、『胴付き』でもなかったよ。
それよりずっとずーっと高い所にお顔があったんだよ。

とにかく、れいむがご挨拶しても、お返事もしてくれないし、変だと思ったけど、
でも、近づいても来ないし、ゆっくりできない事もしてこなかったから、そのまま帰ったんだよ。



「・・・っていう、へんなのがいたんだよ。」

それでね。れいむ、『ソレ』のことを、おとーさんとおかーさんにお話ししたんだよ。

れいむのおとーさんはね!群れで一番お帽子が立派なまりさだったよ!
おかーさんは、群れ一番のおリボン自慢のれいむだったよ!
だから、おとーさん達なら、『ソレ』のこと、知ってると思ったんだよ。

・・・そしたらね。話し終わったら、おうちの中がすっごく静かになってたんだよ。

どうしたんだろ、って思っておとーさん達の方を見たらね。
ふたりとも、すっごく怖い顔してれいむの方をにらんでたんだよ。・・・ほんとに怖かったよ。

それでね。「いつみたの?」「どこでみたの?」って色々聞いてきたんだよ。
れいむ、怒られるようなことしたかなって、泣きそうになりながら、答えたよ。
その後、またおうちの中は静かになったよ。

れいむ、悲しくって、おとーさんとおかーさんに話しかけようとしたんだよ。
そしたらおとーさんが、

「まりさはぱちぇをよんでくるよ!れいむはおかーさんといっしょにいてね!ぜったいおそとにでちゃだめだよ!!」

って言って、すごい勢いで、お外に出て行っちゃったんだよ・・・



おとーさんが出て行ってから、れいむ、おかーさんに『ソレ』は何だったのか、聞いたんだよ。

「『にんげんさま』にみつかっちゃったんだね。でも、だいじょうぶだよ。おとーさんたちが、まもってくれるからね。」

おかーさんは、ちょっとずつ、『ソレ』・・・『にんげんさま』のことを教えてくれたよ。



このゆっくりプレイスには、『にんげんさま』っていう、ゆっくり出来ない生き物が住んでるんだって。
『にんげんさま』は、ゆっくりみたいなお顔だけど、すっごく背が高くて、
ゆっくりが「ゆっくりしていってね!」って言っても、ご挨拶してくれないんだって。
ただ、普通のゆっくりには見えないんだけど、たまに、『にんげんさま』が見えるゆっくりがいるんだって。

それでね。
『にんげんさま』が見えたゆっくりは、しばらくすると、ケガしたり、重い病気になっちゃうんだって。
それだけじゃないよ。
病気になったゆっくりは、しばらくすると、どこかに消えちゃうんだって。
病気で、自分じゃ動けないのにだよ。

二度と帰ってこないのかって?
帰ってこないゆっくりがほとんどだけど、たまに帰ってくるゆっくりもいたみたいだよ。
・・・でも、帰ってきたゆっくりも、自分がどこで何してたのか、何にも憶えてなかったんだって・・・
それにみんな、お腹にでっかい傷があったり、お目目が片方取られてたり、ゆっくりできなくされてたんだって。



そんなお話を聞き終わった頃に、おとーさんが、群れ長のぱちゅりーを連れて戻って来たんだよ。

「むきゅ。たいへんなことになったわね。ぜったいまもってあげるから、ぱちぇのいうとおりにしてね。」

ぱちゅりーはそれだけ言って、れいむにすーりすーりしてくれてから、
れいむをゆっくりプレイスの真ん中にある、小さな洞窟さんに連れて行ったよ。

れいむはその時まで(『にんげんさま』って怖いの?ちゃんとお話すれば、ゆっくりしてくれるんじゃないかなぁ?)
くらいしか思ってなかったんだよ。
ただ、おとーさん達がすっごく恐い顔してたから、れいむも泣いちゃってただけだったよ。
でも、ぱちゅりーが真っ剣なお顔で周りをにらみながら、れいむを洞窟さんに連れて行くから、
(もしかして、『にんげんさま』ってすっごくこわいの?れいむしんじゃうのかな?)って、
ほんとに恐くなってきたんだよ・・・。



ぱちゅりーに連れられて行った洞窟さんは、れいむひとりしか入れないくらい小さくって、
中には一日分のご飯さんしか置いてない、ほんとに何にもない洞窟さんだったよ。

「むきゅ。れいむ、きょうはもうすぐ、よるになるわ。だから、れいむはあしたのあさまで、ここからでちゃだめよ。
あしたのあさには、ぱちぇたちが、いりぐちをあけるわ。それまで、だれもれいむをよばないし、はいってもこないわ。
よばれても、ぜったいへんじしちゃだめよ。『にんげんさま』につれていかれちゃうからね、むきゅん。」
「ゆぅ・・・ゆっくりりかいしたよ。」

ぱちゅりーは、それだけれいむに言って、お外から入り口を塞いだよ。
れいむ達がいつもやるみたいに、木の枝さんや小石さんで塞いだだけじゃないよ。
越冬する時みたいに、土さんや泥さんも使って、隙間も無いくらいしっかり塞いでいったんだよ。



独りぼっちですーやすーやするのは初めてだったけど、れいむはゆっくりできると思ってたよ。
だって、朝までおうちから出ないなんて、いつも通りだから・・・
洞窟さんにあったご飯をむーしゃむーしゃして、後はすーやすーやしたら、すぐに朝が来ると思ってたんだよ・・・

『・・イムチャン・・・ドコカナ・・・・』

ガサッ・・・ガサッ・・・

でも、違ったよ・・・しばらくするとお外から、れいむを呼ぶ声が聞こえてきたんだよ。
ゆっくりじゃない、誰かの歩く音が聞こえてきたんだよ。

『・・・レイムチャン・・・・チカクノハズダケド・・・』
「おとーさん?おかーさん?ぱちゅりー?・・・ゆっ!ち、ちがうよ!?」

賢いれいむは、気づいたよ。
れいむのことを、『レイムチャン』なんて呼ぶゆっくりは、いないって!
ぱちゅりーも言ってたよ、夜には誰もここに来ないって!

でも、じゃあ・・・

『・・・ウーン・・コエガシタヨウナ・・・』
「ゆぅぅぅうう!?・・・れいむはこんなとこにいないよ!ゆっくりどこかにいってね!」

お外にいるのが誰かはわからなかったよ。
でも、こんな遅くにお外にいて、ゆっくりじゃない誰かが・・・れいむを探してたんだよ。
だから、れいむはお返事しないで、ゆっくり隠れてたんだよ!
でも、でも!

『・・・ア・・・ウフフ。』

ずぷっ!・・・ずぶずぶ。

でもでも、ずっと隠れてたのに!誰かが、おうちを塞いでた泥さんに、お外から木の枝さんを刺してきたんだよ!

「ゆぁぁああああ!?いないっでいっでるでじょぉおおお!?ゆっぐぢさせてぇ、ゆっぐぢぃぃいいい!!」



『・・・・・・ミツケタ・・・・・・』



れいむは、その後のことは、なんにも憶えてないよ。
最後に、木の枝さんが開けた穴の外から、誰かのお目目が見えたのは憶えてるよ。
その夜のことでれいむが憶えてるのは、それで全部だったよ。

れいむがぱちゅりーに起こされた時には、お外は明るくなってて、
入り口の土さんや木の枝さんは全部どかされてたんだよ。
どかしたのは、おとーさんやおかーさんや、ぱちゅりー達だったよ。

夜に誰かが木の枝さんで開けた穴があったかは、誰も知らなかったよ。
誰も気づかなかったのか、れいむの夢だったのかはわからないよ。
ただ、れいむは連れて行かれなかったし、きっと夢だったんだって思うことにしたよ・・・。



「むきゅ、おきたわね。じゃあいくわよ。」

ぱちゅりーはれいむを起こしたら、群れのみんなと一緒に、れいむを『すぃー』に乗せたよ。
その『すぃー』は、ずっと前にドスが置いていってくれた大きな『すぃー』で、れいむはどれだけ頼んでも、
おちびちゃんは危ないから、大きくなったら乗せてあげるって言ってた『すぃー』だったよ。
でも、れいむは全然嬉しくなかったよ。

だって、れいむの前も後ろも、右も左も、れいむのおかーさんのおねーさんや、いもうとや、
そのおちびちゃん達で囲まれてたから・・・風さんも来ないし、周りも全然見れなかったんだよ。
れいむは嫌だったよ。だからすぃーを運転してるぱちゅりーに、お外が見たいってお願いしたんだよ。

でも、ぱちゅりーはれいむに、こう言ったよ。

「おそとをみちゃだめよ。むきゅぅ。ぱちぇたちにはなにも『みえない』けど、れいむには『みえちゃう』かもしれないわ。」
「でも・・・」
「むきゅ・・・それに、まわりを『れいむ』たちでかこんだのも、いじわるしたいからじゃないわ。
『にんげんさま』に、あなたがどの『れいむ』か、わからないようにするためなのよ。ゆっくりがまんしてね。」
「ゆぅぅぅ、ゆっくりりかいしたよ・・・。」

でも、れいむは我慢できなかったよ。
『にんげんさま』は恐かったけど、初めて『すぃー』に乗せてもらえたんだよ。
だから、お外を見ようと思って、ちょっとだけのーびのーびして、周りの景色を見たんだよ。

「のーびのーび。」

にゅぅん・・・

「・・・・・・。」
『・・・・・・。ニコッ。』

すぃー・・・。
すた、すた、すた・・・。

そしたら・・・目が合ったんだよ。

「『・・・・・・。』」

お外に、昨日見た『にんげんさま』がいて、すっごく速く走ってる『すぃー』に合わせて歩いてたんだよ!
すぐ横かられいむ達の方を見てたんだよ!

「ゆ・・ひぃ・・・ぴぇ・・」
「むきゅっ!?みちゃだめよ!!」

ぱちゅりーは、ホントに怒ってたよ。なんでそんな事するのって。

「ゆぅ?だれかいるの?」
「おそとには、だれもいないよ?」
「ゆっくりしていってね?」

でも、みんなには『にんげんさま』が見えてなかったよ。
れいむだけ・・・れいむだけにしか見えてなかったんだよ。



それから、れいむはお目目をつぶって、ずっと震えてたよ。
しばらくしたら、『にんげんさま』の声も、歩く音も聞こえなくなったよ。

「むきゅ。ついたわ。」

『すぃー』が止まった所には、壁さんがあったよ。
れいむは、その壁さんのことを、おとーさんから聞いたことがあったよ。

(・・・かなあみさん・・・?)

れいむ達のゆっくりプレイスの周りには、ゆっくりプレイスを囲むおっきな壁さんがあって、
そのお外には絶対出れないんだって。
その壁さんは、『かなあみさん』って言うんだって。

でも、れいむの目の前の『かなあみさん』には、れいむが通れるくらいの大きさの穴があったんだよ。

「むきゅ、れいむ。れいむはこれから、このむこうでいきていかないといけないわ。」
「ゆゆっ!?」

れいむ、ぱちゅりーに何を言われたのか、全然わかんなかったよ。

「ぱちぇはみたことないけど、『にんげんさん』は、とってもおおきいのよね。」
「ゆぅ・・・とってもおおきいよ。」
「だから、れいむがここからでていっても、にんげんさんは『かなあみさん』のむこうにはいけないわよね。」
「ゆ・・・ゆっ!?」



「・・・・・・だから、れいむがたすかるためには、おそとにでていかなければいけないのよ・・・・・・」



きっと、『かなあみさん』は、『にんげんさま』がお外のゆっくりプレイスに行って酷いことをしないように、
閉じ込めるために作られたんだよ。
その中に、れいむ達のご先祖様が、どうして住み着いたのかはわからないよ。
でも多分、『かなあみさん』のおかげで、お外のレイパーや動物さんも入って来れないから、
『にんげんさま』が見えないゆっくりならば、最高のゆっくりプレイスだったからだと思うよ・・・。



それかられいむは、その『かなあみさん』の穴からお外に出たんだよ。
大変だったよ。
れいむも狩りの練習とかはしてたけど、おとーさんもおかーさんもいないし、お外は危険が一杯だったよ。

おとーさんや、おかーさんや、みんなにも一緒に来て欲しかったけど、
れいむのために、ゆっくりプレイスのみんなとお別れさせることはできなかったよ。



・・・それで、たくさん、たくさんあるいて、ここにたどりついたんだよ・・・。



今?今はとっても幸せーだよ。
ゆっくりしたまりさと結婚できたよ。
おちびちゃんも生まれたよ。
ここも前のゆっくりプレイスと同じくらいゆっくりできるよ。



・・・でもね。れいむ、今でも時々見ちゃうんだよ。



・・・『にんげんさま』が、お外からこっちを見てるのを・・・



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「「こわいよぉぉおおお!?『にんげんさま』はゆっくりできないよぉぉおおお!?」」
「わ、わかるよー。さいごのはつくりばなしなんだねー。ここにはいないよねー。」

「・・・・・・ゆぅん。」

「「「うそっていってぇぇええええ!!」」」



怖い話を楽しむ、というつもりが、少々上限をオーバーしてしまったらしく、
ありすもまりさもちぇんも、すっかり青ーい顔になってしまったのだった。
・・・とは言え、そんな中でも割と平気そうなのが一匹。

「おお、すばらしいおはなしでしたね。ヒュンヒュン。では、そろそろつぎにいきましょうか。」

きめぇ丸である。
まあ、並の神経じゃブン屋は務まらないのであろう。
むしろ(しめしめ、いいネタ手に入れた!)くらいのしてやったりな表情であった。

そんな表情を見て、他の4匹も気を取り直す。
まだまだお話を終えたのは2匹、『納涼!怖い話大会!』は、これからやっと後半戦なのであった。

「じゃあ、つぎはありすね!じつは、さいきんありすのぺにぺにが、とかいはなゆっくりにであっても、ぴくりとも・・・」

そして次の恐怖体験話が始まる。



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そんなこんなで、洞窟内で『納涼!怖い話大会!』が行われている頃、
洞窟の入り口には二つの人影があった。

一方は学生風にも見える若い女性、もう一方は筋骨隆々の成人男性である。

2人とも全身を迷彩服に包んでいて、特に男性の方は迷彩柄のフェイスマスクで顔まで覆っているので、
遠目には森に同化しているようにも見える。

女性は男性に、囁くように小さな声で話しかけた。

「ははは、ゆっくりの『怖い話』ってのも新鮮ですね。夏の風物詩ってヤツなんですね~、先輩。」
「ん~。まあ、そんだけ生活に余裕があるんだろ。この研究所の敷地内じゃ、命の危険なんぞめったにないからなぁ。」
「危険な動物もいないですしね。食料もたっぷり。余裕があると娯楽に走るのは、人間と同じかぁ。」

そこで、先輩と呼ばれた男性が表情を曇らせる。

「・・・にしてもお前。ゆっくりに近づく時ぁ、フェイスマスク付けろっつったろ。見つかってんじゃねえか。」
「だって・・・暑いじゃないですかぁ。正体不明の怪奇現象だと思われてるんだし、いいでしょう?」
「ったく、何のための迷彩服だよ。接していいのは、カビやら伝染病やらの時だけってなってんだろ。
それでもイチイチ記憶消してんのによぉ。まあ、病気も俺らのせいにされてたけどな。」

男性もやれやれ、と言った表情になり、独り言のようにぽそりとつぶやく。
伝染病やカビを患ったゆっくりは、隔離しなければ群れの存続に関わるのだ。
だから密かに実験棟内の病院に回収し、治療できれば記憶を消して解放、
助からなければそのまま火葬していたのだが・・・。

「はぁ。ま、いいか。こりゃこれで面白ぇ観察記録になるし・・・しかし、金網の穴は直さん方がいいかねぇ。」



この森一帯は、野生ゆっくりの生態を研究する専門研究施設だった。
人間がいるのは当然である。
ただ、その研究内容の性質上、ここの研究員たちは極力ゆっくり達に存在を気づかれないように配慮していた。

とは言っても、迷彩服を着て、声や物音をなるべく出さないようにするだけなのだが。
ただし、その効果は鈍感極まるゆっくりに対して、極めて有効でもあった。

その証拠に・・・

「ゆぅん。こかげしゃんは、ゆっくちできりゅね・・・」
「しゅーやしゅーや・・・ひんやりー・・・」
「すずしいにぇ・・・ゆっくちー・・・」

今洞窟の前にあぐらをかいている2人の膝の上やら影の中に、
お外で遊び疲れた群れの子ゆっくり達が、警戒する様子もなく、10匹以上も涼みに集まっている。
子ゆっくり達から見れば、迷彩服に身を固めた2人は、木や茂みにしか見えていないのだろう。
その膝や太ももの上は木の根っこの上であり、その影は木陰でしかなかった。

「うふふ、可愛いですね。」
「気づかれるなよ。ったく。」

心配は無用だろう。
フェイスマスクをつけていない女性の方ですら、全く気づかれる様子は無い。
鈍感そうな子まりさなどは、男性の手のひらの上で『おそらとんでるみちゃーい!』などと言っていた。
あの『にんげんさま』について話した、れいむの方が敏感すぎるのだ。



「ゆぅぅ・・・ちかくに『にんげんさま』のけはいがするよぉ・・・」
「「「ゆぁぁああん!?そんなこといわないでよぉぉおお!!」」」
「おお、きょうみぶかい!わたしも『にんげんさま』におあいしたいですね。ヒュンヒュン。」

・・・・・・。

すぐ5メートル先の洞窟入り口にいる人間さん達は、怯えるれいむの姿を不憫に思いながらも、
どこか面白がって眺め続けた。

「人間の霊能力者云々ってのも、こんなモノかもしれないですねー。」
「かもなぁ。なまじ感覚が鋭いのも、大変そうだな。」
最終更新:2010年10月15日 21:42
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