『雪が降った日』 5KB
観察 小ネタ 不運 日常模様 野良ゆ 子ゆ 都会 現代 初期への原点回帰、短めです
「雪が降った日」
・短めです
・観察物?
・幾つかの独自設定を入れておりますご注意を
羽付きあき
冷たい風が私の頬をなでていた。
・・・曇天が、低く垂れ込んでいる。
明日にでも空が落ちてきそうな、何処となく不安で、暗い雰囲気を感じていた。
そんな事はあり得ないのだが、そう思えてしまうほどに、この季節とこの空はそう感じさせてしまうにが十分な情景であった。
寒くなった日、そこに暮らす街ゆはどうなったのだろうか。
息が白くなるほどの寒さの中、日が暮れかけた街の人混みの中に、私は流される。
キラキラと灯りが灯る街の間にある路地裏にふと目をやると、主を失ったトンガリ帽子やボロボロのリボン。ゆっくりだけが居なくなったダンボールの「おうち」等、街ゆっくりの息遣いを感じる風景が確かにあった。
・・・この季節、そしてこの時間帯だ。
街ゆっくりは「おうち」の中におり、その姿は見かけない。
人混みを抜けて、街の中心から少し離れた郊外の道を歩く。
私の後ろには、小さな光がいくつも集まって、夜を照らす街の姿があった。
薄暗くなっていく道を歩く。
自販機の光の陰、何かが動いている様に見えた。
ゆっくりだろうか?・・・気のせいだろうか?
どちらにしろ、立ち止まる事無くゆっくりと歩いていると、自販機の脇の陰から、声が聞こえた。
「ゆ・・・ゆっくりしていってね・・・!」
「・・・?」
声の方へと顔を向けると、そこには確かに「ゆっくり」がいた。
薄暗い中で目を凝らすと、ボロボロのリボンが目に映った。
「ゆっくりれいむ」だ。バスケットボール程の大きさである。
れいむはずーりずーりと僅かに私の前に移動する。
そして私をじっと見上げていた。
・・・風貌は汚い。当然と言えば当然か。
砂糖細工の髪はボサボサで、ゴミ等がお構いなしにくっついている。
ピコピコを束ねる飾りは半分近く破れかけており、ようやく留めておけると言う程度に擦り切れていた。
擦り切れ、解れたリボンは、汚れによって端が欠けている。
小麦粉の皮は生傷だらけで、砂糖細工の歯は茶色に変色し、数本ほどかけていた。
「どうしたんだい?」
私がそう聞くと、れいむは顔を歪ませた。
砂糖水の涙と、涎が垂れ流れ、嗚咽が聞こえる。
「おでがいでずっ!でいぶど・・・!でいぶどおぢびぢゃんをがいゆっぐりにじでねっ・・・!」
私は何も言わずにれいむを見る。
それを良しと取ったのか、れいむが矢継ぎ早に口を開け、言葉を紡ぐ。
「でいぶはぎんばっじのがいゆっぐりだっだんだよ・・・!おどいれだっでおなじどごろにでぎるじ、おうだだっでうだえるよ!」
「・・・」
「お、おぢびぢゃんだっでぢょっどよごれでるげどどっでもゆっぐりじでるんだよ!おぢびぢゃん!ゆっぐりでてぎでねっ・・・!」
・・・自販機の隅に置いてあった、まりさ種の帽子の中から、モゾモゾと一体の子れいむと一体の子まりさが這い出してきた。
子れいむの方は、ぷりんぷりんと底部を動かしながら進んでいる。時折見せる底部には、大きく裂けた跡があった。何か尖った物を踏んだのだろう。
子まりさの方は、そのシンボルである帽子が無かった。
何故ないのかは分からないし、詮索する事も出来ないだろう。
れいむが子ゆっくり達の横に移動しする。
その時れいむの後部の砂糖細工の髪が見えたが、幾重にもハゲが出来ていた。
・・・よくある話だ、付けられたガムを無理やりむしった後だろう。
「でいぶだぢはぼうずっどごばんざんをだべでないんでずっ!おでがいでずっ!でいぶだぢをがいゆっぐりにじでねっ!ごばんざんにもんぐもいわないよっ!おどりだっででぎるよ!おぢびぢゃんもどっでもゆっぐりじでるよ・・・!だがら・・・!だがらでいぶどおぢびぢゃんをがいゆっぐりにじでねっ!」
「ゆぐっ・・・!ゆぇぇん・・・!おきゃあしゃん・・・ゆっきゅちしちゃいんだじぇぇ・・・」
「ゆっきゅちしたいよぉぉ・・・!」
この様子では今日の冷え込む寒さにすら耐えられないだろう。
・・・番だったであろうまりさ種の帽子は、大きく破けてぽっかりと穴が開いており、防寒性などほぼ無いに等しい。少なくとも私にはそう見えた。
小麦粉の体を寄せ合って弱弱しくすーりすーりを続けるれいむ達。
「ごべんねっ・・・!おぢびぢゃん・・・ゆっぐり・・・ゆっぐりじでいっでね・・・!ゆっぐりじでいっでねぇぇぇ・・・!」
「ゆっきゅちしちゃいよぉぉ・・・ゆっきゅち・・・ゆっきゅちしちゃいよぉぉぉ・・・!」
「ゆぐっ!ゆはっ!ゆ”ぅ”ぅ”ぅ”!ゆ”え”え”え”ん・・・!ゆっきゅちしちゃいっ・・・!ゆっきゅちしちゃいんだじぇぇぇ・・・!」
「ゆっくりしたい」か。
何を持ってして「ゆっくりできる」のだろうか?
私がそう考えていると、空からハラハラと雪が降り始めていた。
・・・雪も気にならないのか、目に入らないのかはわからないが、れいむ達は弱弱しくすーりすーりを続けている。
何故銀バッジのゆっくりがこんな所まで来てしまっているのだろうか。
バッジも無くなり、飼いゆっくりと言う名目も無くなり、街を彷徨い、踏まれ、蔑まれ、嫉まれ、そしてゆっくりできなくなっていく。
私は居たたまれなくなって、れいむにただ一言呟くと、踵を返して足早にその場を離れてた。
「ごめん。どうする事も出来ないよ」
・・・後ろから声が聞こえる。
私はその場から逃げだすようにして、離れて行く。
あっという間に、遠くへと離れた。
「ゆんやああああああ!おでがいじばずっ!ゆっぐりばっでえええええええっ!」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
朝、空は荒涼と、しかし抜けるように青く晴れ渡っていた。
雪が降った跡などどこにも残っていない、ただ寒さとそれを運ぶ風があるだけだった。
・・・あの自販機の横で、れいむ種らしきゆっくりが突っ伏して動かなくなっていた。
あのれいむだろう。
吹きつける寒風から、子ゆっくり達の入っているまりさ種の帽子をずっと守っていたのだ。
帽子は横に倒れ、内側の白い布が見えていた。
すぐ後ろの壁面に、寄りかかる様にしながら、小麦粉の体を寄せ合っている、子まりさと子れいむを見つけた。
・・・眠っているのだろうか?いや、違う。
眠る様にして「ゆっくりできなくなって」いた。
抜ける様な青空の下で、れいむ達は物言わぬ饅頭となり果てていた。
・・・雪が降ったとは思えないほどの青空の下、人混みの中へと私は入っていく。
空は青く、どこまでも遠く広がっている。
最終更新:2010年11月08日 19:49