anko2445 ワンス・アポンナ・タイム・イン・ニジウラシティ(後編)

『ワンス・アポンナ・タイム・イン・ニジウラシティ(後編)』 37KB
観察 戦闘 野良ゆ 都会 D.O コンポストまりさ秘話




『ワンス・アポンナ・タイム・イン・ニジウラシティ(後編)』

    D.O



それは、突然の災難であった。
だが、街の今後を考えた場合、必然だったのかもしれない。



何でもない、天気の良い日だった。
ふらんと子まりさは、この日ナワバリのパトロールと称したお散歩をしに、
街中の細い道をのんびり進んでいた。

「ふらん~、あったかいにぇ~。」
「う~、きもちい~。」

ふらんは、子まりさとは特に仲良くなっていた。
別に何かあったわけではないが、何となく子まりさに、
一昔前のまりさに似た雰囲気を感じていたのかもしれない。
それに子まりさの方も豪胆というか、捕食種であるふらんを恐れるそぶりも見せなかった。
味方と見ればしっかり信頼するところもまた、まりさと子まりさに共通する長所だったのだろう。

と、その時、路地から一匹の黒ブチ猫が、2匹の目の前に飛び出してきた。

「ゆわわ!?ねこしゃんはゆっくちできにゃいよ!」
「うー!ふらんがいるからだいじょうぶ!」

空に浮かんでしまえば猫も怖くない。
そう言って、ふらんが子まりさを咥え上げようと地面に近づいた時・・・
2匹の上を、突然影が覆った。

「う?」

ふらんが上を振りかえった時見たものは、ブロック塀の上からふらん達に飛びかかる、
一匹のキジトラ猫の姿だった。

「ふごーっ!!」
「うぁーっ!?」

キジトラ猫に組み敷かれ、空に飛びあがれないふらんに、子まりさの叫びが飛ぶ。

「ふらんー!?うしろにもいりゅよぉぉおお!?」
「「ふみゃーっ!!」」
「う、うーっ!?」

ふらんの背後からは、さらに茶トラ猫と黒猫まで飛び出し、ふらんの両羽を押さえる。
ふらんは3匹の猫に押さえつけられ、何とか口の中に子まりさを隠したものの、
その場からピクリとも動けなくなった。

「うー・・・」
「うまくいったにぇー。わきゃるよー。」
「う!?」

身動きの取れないまま、それでも目の前の黒ブチ猫を威嚇していたふらん達の前に出てきたのは、
さらに意外な相手であった。

黒ブチ猫も出てきた路地から、ゆっくりと顔を出したのは、一匹の白ネコ。
そして、その頭の上に乗っかった、一匹の子ちぇんだった。



「そのまりしゃとは、まえにおはなししたことがありゅよー。わきゃるー?」
「う、うー?おちびちゃん、しってるのー・・・?」
「ちぇ、ちぇん・・・!?ふらん!まじゅいよ!このちぇん、ねこしゃんをあやつれりゅんだよ!」

だが、子まりさの言葉を聞いても、身動きの取れないふらんには、どうにもならない。
何より、今子ちぇんの指示通りに猫達が動いている事実が、
まりさの言葉を聞くまでも無く、ちぇんに猫を操る特殊な力がある事を、ふらんに理解させていた。

「わきゃるよー。ておくれなんだにぇー。」
「ま、まりしゃたちに、らんぼうしないでにぇ!ゆっくちできにゃいよ!」

子まりさは必死で頼むが、子ちぇんは何を言っているのやら、という表情で答える。

「はなすなら、つかまえたりしにゃいんだにぇー。わかっちぇにぇー。」
「うー・・・どうして、こんなこと・・・」
「わきゃるよー。まりしゃはこのまえ、じぶんがまちをしはいするっていってたよー。
そのときはうそだとおもったよー。でも、ふらんがなかまなら、はなしはべつだにぇー。」

子ちぇんは、子ゆっくりとは思えないほど残酷な笑みを浮かべ、子まりさとふらんに語り続ける。

「じつはにぇー。ちぇんも、まちをしはいしたいんだにぇー。」
「う、うー!?」
「このねこしゃんたちは、ちぇんのきゃわいい、いもうとたちなんだにぇー。
ちぇんは、いもうとたちと、このまちをてにいれるんだにぇー。わかってにぇー。」
「ど、どうしちぇそんなこというにょ・・・?」

「・・・・・・『らいばる』は、きえてもらうんだにぇー。わかれよー。」



そして、5匹の猫の牙と爪が、ふらん達に襲いかかったのだった。



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結局、ふらん達はなんとか生き延びることが出来た。

それはふらん達の力などでは無く、猫とゆっくりがケンカする騒音によって、

『うるせぇぇえええええ!!ぶっ殺すぞてめえらぁぁあああ!!』
『わ、わきゃらにゃいよー、みんなー、にげりゅよー!』
『『『『『みゃー!!』』』』』

徹夜明けのところを眠りから覚まさせられて激怒した人間さんが、
現場に殴りこんできたからであった。

ふらんもボロボロの体を引きずるようにして、必死にその場から離れなければ、
人間さんの餌食になっていただろう。



だが、かろうじて命は取り留めたものの、フランの全身は無事な所を探す方が難しいほど
猫の牙と爪でズタズタに切り裂かれていた。
えーりんの治療もあり後遺症は残らなそうだが、当分は身動きも出来ないほどの重症だった。

「ゆぇーん。ふらんがいちゃいいちゃいだよぉぉお!」
「ゆぅー。もう大丈夫だから、泣きやむのぜぇ。」
「でみょ、まりしゃがへんなこといってにゃかったら・・・」
「どうせ『まりさファミリー』の一員なんだから、狙われても不思議はないのぜ。
今回は、相手が悪かっただけなのぜぇ。」
「ゆぅぅ・・・」

せめてもの救いは、子まりさの方は無傷で済んだということか。
ふらんが口の中で守り切ったおかげだったのだが。



この日の夜、まりさのおうちでは、まりさ、ふらん、ぱちぇ、みょん、えーりん、子まりさの6匹と、
そしてなぜか、えーりんにぞっこんLove中の支部長みょんも集められていた。
議題は当然一つである。

「とりあえず、ふらんもおちびちゃんも助かったのは良かったのぜ。」
「・・・ゆぅぅ」

子まりさはまた暗くなるが、まりさもそればかり気にしてはいられなかった。

「それはともかく!問題は深刻なのぜ!『あの』れいむだけでも厄介だったのに!」

みょんがピクンッと体を震わせた。
まりさはそれについて、特に何も言わなかった。
まりさが知っていることになっているのは、みょんがしばらくプータロー生活を続けていたと思ったら、
いつの間にか凄腕の剣士になっていた、というところだけである。
まりさは、みょんの事情については深く詮索しなかった。

ホントは多少はまりさも感づいているのだが、相手はライバル組織のボス、れいむなのだ。
その辺はおとなの都合というやつである。

「あんな化物は、ひとりだけでも十分すぎるのぜ!なのに、困った事にもうひとり来てしまったのぜ!
放っておいたら、これからも増えていくかもしれないのぜ!まりさは、怖くておちおち寝てられないのぜ!」
「むきゅー。たしかに、これまでみたいにはゆっくりできないかもしれないわ。」

まりさにとって計算できた戦力は、ふらん、みょん、ぱちぇの3匹だった。
えーりんや子まりさを戦わせるわけにはいかないし、まりさは2度と最前線はごめんだった。

たった3匹とは言え、各々が並のゆっくりでは無い。
3匹掛かりならば、ひょっとしたらあのれいむでも、こちらの犠牲無しで倒せるのではないか、
と踏んで、まりさは対れいむファミリー作戦の実行タイミングを計っていたところだったのである。
それが今や、ふらんは重傷、敵は2匹に増え、しかも今後も増えないとは限らない。
まりさファミリーの戦力は、まりさの家族経営という組織運営方針から言って、
一朝一夕で増やせるものでは無い。
まりさは、れいむと戦った時のトラウマが強すぎて、れいむ以外の化物が現れる可能性を、
全く考えていなかったのである。

これは、もはや後回しに出来ない問題だった。



「みょん警にも協力してもらうのぜぇ。いいのぜ?」
「みょ!?きょ、きょうりょくなんて、するつもりないみょん!
でも、へいわをまもるためには、さくせんにのってあげたっていいんだからね!みょん!」
「(うざってぇのぜ。)とにかく、よろしく頼むのぜ。」

支部長みょんがえーりんにラブラブなのは置いておくとして、
実はみょん警の方も大変まずい状況にあることでは同じだった。

ゲスの争いなぞ勘弁して欲しいみょん警としては、
いっそれいむファミリーがやる気を出して、街を統一支配してくれた方が良いくらいだったのである。
だが、なぜかれいむファミリーは最近やる気を鈍らせており、
未だに街は数十のファミリーが乱立する戦国状態。
(だからこそまりさファミリーも存在できるのだが。)

最近は抗争も小康状態だったので安心していたのだが、
子ちぇんの乱入によってゲスマフィア同士の抗争が活発になってしまったら、
街中大騒ぎになってしまう。
善良野良の味方を自称するみょん警にとって一番怖いのは、
ゲスの抗争のせいで治安が悪化して、みょん警が役立たず扱いされてしまうことなのであった。



そして、まりさが最後の言葉を発する。
ファミリーの存続、そして、街野良全員の未来を決める戦いに向けて。

「餡子を流さずに済む時代は終わりなのぜ。
これから先は(まりさが)全てを手に入れるか、(みんなが)死ぬか、二つに一つなのぜ。
みんな!(まりさのために)命を賭けて欲しいのぜ!!」

「「「エイ、エイ、ユーッ!!」」」

まりさの心の中はともかく、士気は上がったようであった。



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みょん警に激震が走った。

「むほぉぉおお!きいた!だんちょうのみょんが、たいほされたようよ!」
「な、なにがあったのかしら!これはすきゃんだるよ!むきゅんっ!」
「わかるよー!わからないよー!わかるよー!」

団長みょん逮捕という大スキャンダルが発生したからだった。
団長みょんを逮捕したのは、あのえーりんLoveの支部長みょん、容疑は、れいぷ未遂。
これは、まりさが書き上げたシナリオによるものである。

団長みょんは、多くの野良ゆっくり達の見守る中、えーき裁判に引きずり出されていた。



「みょほほほ。みょんがれいぷ未遂?馬鹿言っちゃだめみょふん。」
「ゆっぴゃぁぁん!まりしゃ、こわかっちゃよぉぉぉおお!」
「このおちびちゃんは、すっきりーされそうになったといってるみょん!」
「みょほぉ。そんな嘘にだまされちゃだめみょーん。」

ちなみに被害者役は子まりさ、検察役は支部長みょんなので、
もちろんれいぷ未遂は事実無根、でっちあげである。
一方叩けばホコリまみれという汚職ゆっくりのクセに、さすがに団長になっただけはあり、
団長みょんは観客に囲まれている中でも、平然と無実を訴えていた。

とはいえ、団長みょんが陥っている状況は、
団長みょん自身が思っているほど甘い状況ではなかったのだったが。



「くろっ!!」
「みょほぉっ!?ちょ、ちょっと話くらい聞くみょん!」

裁判長役のえーき様は、金バッジ付きのバリバリの飼いゆっくりなので、空気が読める。
(何で野良の裁判に顔を出しているかと言われれば、単なる趣味としか言いようがないが。)
また、えーき様は団長みょんの醜い3段腹が以前から大嫌いで、まりさの笑顔は大好きだった。
そんなわけで、この後のシナリオから結末までは、事前にまりさと打ち合わせ済みだったりする。

「だんちょうしゃん・・・むりやりまりしゃをおうちに・・・まりしゃの、まむまむに・・ゆぴぇぇん。」
「みょほぉぉぉ、いい加減にするみょぉぉん!!嘘ついちゃダメって、親から教わらなかったみょん!?」
「ゆ・・・ま、まりしゃのおきゃーしゃん・・・もう、もう・・・ゆっぴぇぇええん!」

「あんなおちびちゃんなのに・・・」「だんちょうさん、ひどいんだねー・・・」
「みょほぉおお!?どうしてみょんの事は信じてくれないみょぉおん!?」

子まりさも団長みょんは大嫌いだったので、演技に力が入る。
親がいないのは事実なので、まさに迫真の演技だった。
団長みょんも、これはたまらないと、必死の反撃を試みる。

「だ、騙されちゃだめみょん!そのおちびちゃんは、あの『まりさファミリー』に出入りしてるみょん!
悪い事を企んでるに決まってるみょん!」

だが、観客の空気は相変わらず悪い。

「でも、おちびちゃんだよー・・・」
「そういえば、まりさってえーりんたちもそだててあげたんだって・・・」
「わかるよー、やさしいんだねー・・・」

むしろ、まりさの株を上げる効果しかなかった。

「くろっ!」
「ちょ、ちょっと待つみょぉおん!証拠はあるみょん!?
おちびちゃんの言葉だけで有罪なんて、いくらなんでも酷いみょん!」

団長みょんは、まだ自分を信じるゆっくりは多いはずだと思っていた。
しかし、その言葉に表情を輝かせたのは、支部長みょんと子まりさだった。

「ま、まりしゃは、だんちょうさんのおうちのなかをしっちぇるよ!」
「みょほっ!?」
「えーとにぇ!おふとんしゃんと、あまあましゃんと、あと・・・『しろいこな』しゃんがあっちゃよ!」

・・・・・・。

この言葉を聞いた瞬間、まりさファミリー以外の観客ゆっくり達が凍りついた。

『白い粉』と言えば普通は、ゆっくりにとって麻薬である小麦粉を指す。
他にも色々あるだろ、とは思うかもしれないが、ゆっくり社会ではそうなのだ。
吸えば一時の快楽を味わうが、高い中毒性を持ち、
吸いすぎると体内全てが饅頭皮になって餡子を失い、死に至る。
もしも団長みょんのおうちにそれがあれば、れいぷ未遂程度とはわけが違う。
スキャンダルでは済まず、間違いなく死刑だろう。

あるはずはない。
汚職も横暴さも酷い団長みょんだったが、手を出してはいけないギリギリの線は持っていた。

だが、

「みつかったみょーん!やまほどあったみょーん!」
「みょ・・・ど、どうして・・・?」

団長みょんのおうちから、小麦粉数袋が発見されたのだった。
まりさファミリーが持っていた小麦粉を、
体の小さな子まりさが団長みょんのおうちに忍び込み、置いてきておいたのである。
赤ゆっくりの頃から必死で一人で生きてきた子まりさは、
盗んだり忍び込んだりは、得意中の得意だったのであった。

団長みょんを排除するための本命は、実はこちらだった。
いきなり団長みょんのおうちの中に、白い粉があるだのと話しても、
誰も聞く耳を持たなかったであろうから。

・・・仕込みは完璧であったのであった。

「くろっ!!」
「みょ・・・ほほ・・・みょんも、みょんなりにいっしょうけんめいだったみょん・・・なのに・・・」



団長みょんは、この場で全身に棒を突き刺され、処刑された。
その間、団長みょんは、そのでかい図体を動かす事も無く、一切抵抗せずに全てを受け入れた。
全てをあきらめたかのように、おとなしい最期だった。

団長達の汚職の激しさについては、支部長みょんも苦々しく思っていたのだが、
団長みょんも、あれはあれで、精一杯街の安定を図ってはいたのかもしれない。



だが、全てはやってしまった後だった。
それに、団長みょんに必要以上の汚名を着せるためだったとはいえ、
みょん警の立場を使って、相当な悪事がなされていたのは事実。
支部長みょんも、もはや止まる事は許されなかった。

「まあ、街を良くするためにはしょうがないことだったのぜ(棒読み)」
「みょーん。そのとおりだみょん。
でもだんちょうは、まちをまもるために、いいことだってしてたみょん。
もうすこし、ましなしにかたができたとおもうみょん・・・。」

支部長みょんは、団長みょんの最後を思い浮かべ、表情をさらに暗くした。
だが、まりさの表情の方は、ゴミ掃除が終わったとでも言いたそうな、
あっけらかんとして明るいものだった。

「ふーん。ま、気にすることないのぜ。ちょっといい事してたって、所詮悪者は悪者なのぜ!」
「みょ、みょーん・・・」



そして、支部長みょんは悪の前団長を処刑した清廉のゆっくりとして、
全団一致で推され、見事新団長に就任したのである。

こうしてまりさの街掌握計画は、次の段階へと進んだのだった。



「いいこね。みょん。きょうはとくべつに、いつもよりいっぱいたべさせてあげるわ。」
「みょ、みょぉぉおおん!むーしゃむーしゃ、し、しあわせぇぇえええ!!」
「がーじがーじ。」
「みょうぅううん!そ、そんなとこかじっちゃ・・・ち、ちぎれりゅみょぉおおん!!」

・・・ちなみに、この夜の、えーりんのサービスは特に激しかったらしく、
この日は新団長みょんにとって、特別な日として記憶に残ったそうである。
もちろん、前団長を偲ぶ記憶では無い。



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その翌日から、街のゲスマフィア最後の時が、あまりにも突然にやってきた。

前団長みょんとの間でワイロにより話をつけてきた30余りのファミリーに対して、
(まりさファミリーを除く)みょん警による一斉摘発が開始されたためだった。
理由は、前団長の件もあり、白い粉の密売容疑である。

「むきゅぅううん!?どうぢでつかまえられちゃうのぉおお!?」
「げすはみんなつかまえるみょんっ!」

「にげるよ!ゆっくりにげる・・・どうぢでこっちにもみょんがいるのぉおお!?」
「おうちのなかをさがすみょん!なにかあるはずみょん!」
「なんにもないでずぅううう!(ゆふふ、しろいこなさんは、こうえんにかくしてあるよ・・・)」
「なくてもきっとどこかにかくしてるみょん!いや、あるにちがいないみょん!しけいみょん!」
「ど、どうぢでそんなこというのぉおお!?」

「わからないよー、わからないよー!」
「うそみょんね。きっともってるみょん!しけいみょん。」
「わ、わからないよぉぉおお!!」

実のところ、善良でゆっくり好きの人間さんをうまくだましでもしない限り、
大量の小麦粉やら砂糖やらを手に入れる事なぞ、野良ゆっくりにはできるはずもない。
そして、そんな事を出来るような知力やルックスを持ち合わせているゲスマフィアは、
全体の一割もいなかったのだ。
つまり、諸悪の根源はそれが出来るファミリー・・・まりさファミリーであった。
もはやまりさファミリーは、絶対取り締まられることはないのだが。



そして、ほとんどのファミリーがやっているのは、狩り場(ゴミ置き場)の独占や、

「ちぇ、ちぇんはこのかりばをどくせんしてただけだよー!しろいこなさんなんて、しらないよー!」
「もってるかおだみょん!しけいみょん!」

子ゆっくり、赤ゆっくりを集めたロリコン売ゆん宿、

「むほぉお!?ありすのとかいはなおみせがぁぁああ!?」
「おちびちゃんでしょうばいとは、ゆるせんみょん!ついでにきゃくのへんたいたちも、しけいみょん!」
「むっきゅぅぅう!やべでぇぇえええ!?」

それに、まりさファミリーの真似をした『カジノ』くらいだった。
まりさは、いい機会とばかりに、団長みょんを通じてみょん警に指示を出し、
商売敵をまとめて一掃する事にしたのである。

だが、これとてまりさの本当の目的ではなかった。



ゲスマフィアからの反抗は、みょん警の突然かつあまりに無茶な行動に対して、余りにも控えめだった。
ゲス達、特にファミリーを率いる有力ゲスにとって、不満が無いはずは無い。
それに、みょん警の支部一つ二つを潰す力を持つ程度の猛者なら、あのれいむ以外にもいるのだ。

だが、有力ゲス達からの反抗は無かった。
それは、みょん警が末端ゲスだけに狙いを絞り、大物ゆっくりを完全に避けていたためである。

「むほぉ。ダメなコ達が捕まってる間に、とっとと逃げるわ!」
「むきゅー、そろそろファミリーも潮時ね!あまあまを持って、逃げるが勝ちよ!」

ファミリーの長に治まるような強く、賢いゆっくり達は、これまで集めた利益を持って、
とっとと自分だけで街から逃げる方を選んだのである。
自分が狙われないなら、不要なリスクを冒さない。
無駄に欲をかきすぎず、命を第一に考える。
それは、ゲス達のはびこる裏社会において、生き延びるために最も必要なスキルだった。



そして数日後、まりさから、ついにぱちぇとみょんに、最後の仕上げの指令が下った。
もはやこの時、街に山ほどいた下っ端ゲス達はほとんど残されていない。
一方中堅規模のファミリーを率いていたボスゆっくり達は、
素晴らしいフットワークで街の外へと逃げ切っていた。

今街に残るまりさの商売敵は、みょん警数十匹相手でもものともしない、
大物中の大物だけであった・・・。



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かつてまりさファミリーのふらんを襲った子ちぇんは、
とある空き地の廃材裏に、パートナーの猫達と一緒に潜んでいた。
その表情は、未だに多数の配下ゆっくりを維持しているにも関わらず、暗い。

「ちぇ、ちぇん・・・ごめんなさい。ありす、きょうはこれだけしか・・・」
「ほんとうに、これだけにゃのー?」

その表情の原因は、みょん警の一斉摘発によるものではなかった。

子ちぇんの前には、ありすが集めてきたわずかな食料が置かれていた。
どれも半ば腐った生ゴミばかりで、量も子ちぇんの分にすらならない微量である。

「ちぇんたちが『かりば』をおしえてあげちゃのに・・・あそこからこれだけにゃのー?」
「あ、ありすたちは、がんばってるのよ・・・でも・・・」

子ちぇんは、その狩りの成果の少なさに、ため息しか出ない。
猫達に視線を移し、また目の前のありすを見返し、子ちぇんはがっかりしながら考えていた。

なんで、こんなに弱い連中が自分と同じ生き物なのだろう・・・と。



子ちぇんの一番古い記憶は、タオルを中に敷いたダンボールの中の景色である。
そのダンボールには、マジックでこう書かれていた。

『こねこ、ひろってください』

まだ赤ゆっくりだった子ちぇんの周りには、5匹の子猫も一緒に入れられていた。
元々先にいたのは、この5匹の子猫達だったのだろう。
子ちぇんは、一緒に捨てられたのか、それともどこかの野良ゆっくりが、
ダンボールに書かれた文字を読み取り、子猫と一緒に自分の子も拾ってもらおうと考えたのか、
それは子ちぇんにも、猫達にもわからない事だった。

『わきゃるよー、わきゃるよー』
『ニー!ニゥー!』
『わきゃるよ~。』
『ニゥ~!』

子ちぇんは、それからしばらくの間、ダンボールで子猫達と一緒に暮らし、
誰にも拾われないまま飢餓の苦しみを味わい、
そしてもはや姉妹となった5匹の子猫達と一緒にダンボールから旅立った。
6匹で協力し、食べ物をさがし、おうちを探し、必死で生き延びたのだ。
子ちぇんは不思議な事に、この子猫達と言葉をかわせる能力を持っており、
子猫たちに指示を出して一致団結し、苦境を生き延びることができたのである。
それは、猫とともに育ったからか、ちぇん種の潜在的な力かは不明だが、そんなことはどうでもよかった。
とにかく子ちぇんにとって、家族とはこの子猫達のことであったのだ。

だが、子ちぇんは知ってしまった。
自分が猫ではなく、ゆっくりであることを。
そして、群れを作り、産み、育ち、肌を寄せ合いながら、
ゆっくりすることを求めるという、ゆっくりの本能にも目覚めてしまったのだ。

そして未だに幼さの残る5匹の猫達と一緒に、自分の群れを作るため、
数週間前に、ついに行動を始めたのだった。



しかし、自分のファミリーを作って2週間ほどが過ぎ、
子ちぇんは早くも現状に嫌気がさしていた。

「・・・わきゃらにゃいよー。」
「マーウ!」

ちぇんファミリーを作ってはみたものの、子ちぇんと猫達がせっかく安全なゆっくりプレイスや、
多くの食料を得られる狩り場を探して来ても、肝心の他のゆっくり達が、
子ちぇんの想像を遥かに超えて役に立たないのである。
子ちぇんだってゆっくりなのだから、ゆっくりが猫ほどに動けるはずもない事は、
十分に自覚しているつもりだった。
だが所詮は猫の世界で生きていた子ちぇん。
ゆっくりの能力の低さは子ちぇんの想像を越えていたのである。

結局のところ子ちぇんは、野良ゆっくりを集めて労働力として扱い、
家族6匹でゆっくり暮らせれば満足だったのだ。
野望だ何だと言っても、何の事は無い。
自分達がすーりすーりして、仲良く遊んで、いっぱいご飯を食べるために、
ファミリーを作ろうとしていたのだ。
今さらながら子ちぇんは、そんな自分の本心を自覚し始めていた。

そしてここ数日、みょん警の追い込みによって、ファミリーの存続自体まで難しくなってしまった。
ファミリー立ち上げの狼煙代わりに襲われたふらん達にしてみれば迷惑な話だったが、
子ちぇんとしては、もはやムリに組織を守り通す必要性が無くなっていたのである。



子ちぇんは、頭を冷やし、本気で街を去るか、これでもまだファミリーを維持していくか、
考えを整理しようと思い、白猫の頭に乗っておうちの外に出た。

「・・・がらじゃないのかもにぇー。」

子ちぇんが頭上を見上げれば、空はどんよりと厚い雲に覆われていた。
まったく、子ちぇんの気持ちを映し出しているかのような空だった。
少し外は、肌寒い。

「もどろうにぇー。しゃむいのはにがてだよー・・・。」



ゴフッ!パシュッ!!



子ちぇんの体が揺れた。

「?・・・わきゃらないよー?」

ちぇんの視界を、何か茶色いモノが覆い隠す。
何かと思い子ちぇんが舐めてみると、それはとても甘かった。
そして、少し明るくなった視界の向こう、10mほど先に見える空き地の木塀の上に、一匹のゆっくりが見えた。

パシュッ!パシュッ!

それが、ちぇんの見た最後の光景だった。



「むきゅ・・・おちびちゃんをころすのは、やっぱりいやね。」

ぱちゅりーは、自分が口から全力で噴出した3個のパチンコ玉が、
ちぇんの額と両目を正確に貫いたのを見届けると、猫達が動かなくなった子ちぇんを起こそうと、
ぺろぺろ舐める姿を横目にしながら、そっと去っていった。



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れいむは、みょんと出会った空き地から50mばかり離れた道を、
ゆっくりと街の外に向かって歩いていた。

みょん警の突然の方針変更による圧力は、街で最大規模を誇っていたれいむファミリーにも、
存続の危機となるほどの影響を与えていた。
しかしれいむは、ファミリーのメンバーが捕まっていく中でも、
平然と毎日日課の訓練を行い、いつも通りの日常を送っていたのである。

れいむもまた、あの子ちぇんと同様、ファミリーを率いる生活に飽きていたのである。
れいむは、ファミリーを率いていながら、孤独だったのだ。



れいむは、幼い頃は山で育ち、山火事のあった頃に子ゆっくりだったという、
森も街も知っている、今となっては数少ないゆっくりだった。

そして、あの山火事がれいむのゆん生を大きく変えたのだった。

『ゆっぴゃぁぁあああん!あじゅい!れいみゅのあんよしゃん、あちゅいよぉぉおお!!』

両親も、姉妹も炎に焼き尽くされ、れいむもまた、あんよの大半と、まむまむを全て焼かれる重傷を負った。
そして街にやってきた頃には、れいむを助けてくれるゆっくりは、誰もいなくなっていた。
れいむのあんよは二度と森を跳ねることができない。
れいむのまむまむは、二度とすっきりーをすることが出来ない。
歩けず、子を産めず、しかもこれから暮らすのは初めて見る世界、人間の街だ。
見捨てられるのも無理はなかっただろう。

「やじゃ・・・れいみゅ、ちにたくにゃいよぅ・・・」

だが、れいむは諦めなかった。
れいむは、必死に生きようとする中で、自分のあんよはまんべんなく焼かれているのではなく、
ところどころは焼け残っていて、その部分を細かく動かす事で、這うように歩く事はできる事に気づいた。

『ゆっくち・・・あるきゅよ!・・・ゆっく!』

それは、最初はナメクジのように、イモムシのように遅い歩みだった。
だが、雑草やアリなど何でも食いながら必死に訓練を続ける中で、その歩みは徐々に速くなり、
やがて、れいむは重要な事に気付いた。

この這うような歩き方は、街中の舗装された道路では、
跳ねて歩くよりも効率がいい、ということに。
れいむの、焦げてガチガチに固まったあんよは、舗装道路の平らな面にぴったりフィットし、
あんよの数十か所を同時に小刻みに動かす歩法は、れいむに氷上を滑るかのような独特の動きを与えた。

それはれいむが、工夫する、という重要な、
それでいてゆっくりがめったにやらない事の重要性に気付いた瞬間であった。

やがてれいむは、ゴミ捨て場で数本のナイフを拾う。
それは、古くなったキッチン用具セットだったが、
先端や刃の部分こそ丸くして安全に作られていたが、
ステンレスで作られており、薄く、鋭く、ゆっくりの体に対しては十分すぎる刃だった。

そしてれいむは、『斬撃』という、ゆっくりの剣術に無い概念を発見し、
自分の強さを磨き続けてきたのである。




れいむのあんよは、森で生きるのは難しいが、街では急な段差以外の場所なら、誰よりも速く移動できる。
れいむはどんな事にでも工夫する習慣を持つようになっていたため、今では自力で何でもできた。
それに、まむまむも無いのでいまさらつがいも必要としない。
そもそもファミリーを作った動機は、仲間が欲しいからだとか、
奴隷が欲しいから、などでは全くなかったのだ。

ただ、『れいむファミリー』なるゲスの集団を率いていれば、力自慢のゲス達が、
勝手に引き寄せられて戦いを挑んで来てくれる。
れいむの望みは一つだけ、そう、自分が練り上げた力の全てを、
ぶつけさせてくれる相手との出会い、それだけだったのである。

「もう・・・この街にいてもしょうがないね。」

だが、今はもう、れいむに戦いを挑む相手はいない。

いや、もしかするとあの猫使いの子ちぇんは向かってくるかもしれないが、
れいむにとって猫との戦いは、人間の空手家が牛と戦うようなもので、
本当の充実感があるかというとちょっと違う。
まして人間さんと戦うとかでは、空手家が台風に戦いを挑むようなものであり、
れいむの望む戦いとはやはり違う。

敵がいない。
それが、れいむの孤独感の正体だった。



そのれいむの後ろを、追いかけてくるゆっくりがいる。
れいむはその気配を感じ取り、ゆっくりと振りかえった。

「みょ・・・れいむ。」
「みょん?どうしたの?」

それは、れいむが渡したケーキナイフを大事そうに口に咥えた、あのみょんだった。

「れ、れいむ・・・」
「なに?」
「れいむ、・・・みょんと、たたかってほしいみょん・・・」

そしてみょんは、ケーキナイフを構えた。



「・・・・・・。」

れいむは、『自分は街を出る』と言おうとして、止めた。
れいむは、みょんの素性も、これまでのみょん警の動きも全部知っていて、
みょんが今日れいむの前に来た理由も完全に理解していた。

だが、れいむは戦いを回避しようとしなかった。
れいむの欲しかったものは、今目の前にいるのだから。

「ゆふふふ。れいむのあげた剣と、れいむから盗んだ技で向かってくるなんてね。」
「・・・ふまんみょん?」
「ゆふふ。とっても・・・とってもしあわせーだよ!」

れいむは、とても満足そうな表情で、両もみあげにナイフを構えた。



れいむは、喉の奥から取り出したナイフを口にまっすぐ咥え、両もみあげにもナイフを構えている。
神速の突撃から口での突き、両もみあげによる左右の斬撃をぶつける、必殺の構えだ。

それに対し、みょんは長大なケーキナイフの腹を、頭にそっと乗せて支え、舌で柄を握っている。
その構えから素直にナイフを振るなら、れいむを袈裟切り、
もしくはれいむの左から右へ、水平に薙ぐ様に切り裂くつもりなのだろうか。

れいむは、みょんの構えや、美しく磨かれたケーキナイフを見て、
自分の教えた事をみょんがしっかりと実行している事を把握し、満足感をおぼえていた。

れいむは、自分がどうしてみょんに、敵対ファミリーのゆっくりに指導を行ったのか、
自分でも理解できていなかった。
ただ、もしもれいむファミリーの中で、れいむに教えを請うゆっくりがいたとしたら、
れいむはやはり、惜しげなく自分の技術を伝授しただろうとは確信していた。
結局ファミリー内のゆっくり達は、れいむに頼るばかりで、
教えを乞おうとするようなゆっくりは、最後まで表れなかったのだが。

ひょっとしたら、れいむにとってそれは、
子育てが出来ないことの、代償的な行動だったのかもしれない。



れいふは、ナイフを構える直前、ふと思ったのだ。
もしも自分があんよとまむまむを焼かれていなければ、
おそらく今よりはるかに早死にしていただろうが、
こんな立派なおちびちゃんを、はたして育てることが出来ただろうか、と。



「しゅっ!!」

れいむが、動いた。

カサカサカサ・・・ブシュッ!

そして、その速度のまま、口に構えられていたナイフを、勢いよく射出した。
れいむから飛び出したナイフは、一直線にみょんの額のど真ん中目指して飛んでいく。
そして、れいむ自身もまた、ナイフとほとんど同じ速度で、ナイフの跡を追うようにしてみょんに迫る。

もしもナイフをはじくためにみょんがケーキナイフを振るえば、
次の瞬間れいむの両もみあげが、みょんの体をバラバラに切り裂くだろう。

前にも後ろにもかわせない以上、かわすとすれば左右か、ジャンプして上に逃げるか。
だが、そうしたところでやはり、れいむ本体の速度と攻撃範囲をかわしきれず、
みょんの体はバラバラに切り裂かれるだろう。

れいむは、みょんの事を本当に可愛く思いながら、全力で殺しにいったのである。

だが、れいむの策は、予想外の方法で裏切られた。



ザクッ!!



れいむの放ったナイフは、微動だにしないみょんの額に、
そのまま勢いよく突き刺さったのだった。

「ゆ・・・?」

そして、れいむが思わず放心した瞬間。

シュカッ!

みょんの舌から先は閃光となり、れいむの左こめかみから右アゴを銀色の光が通り抜けた。



れいむの体は、みょんに突撃する速度を落とさないまま、
みょんの左右に、ぱっくりと割れて走り抜けていった。

みょんが額にナイフを突き刺したまま振りかえった時、
れいむの半身の瞳は、すでに閉じていた。

「ゆふふ・・・ゆっくりは、こんなするどいきずじゃ、かんたんにはしなないみょん。」

そう、周囲のゆっくり達があまりに弱かったせいで、れいむは気づけなかったのだろう。
痛みにさえ耐えれば、中枢餡にさえ当らなければ、
投げられたハンバーグナイフなど、木の枝に貫かれるより遥かに殺傷力が低いという事を。
そして、れいむが変な工夫をせずに、ナイフを口に咥えて突撃していれば、
みょんではせいぜい相討ちに持ち込むのがやっとだっただろうという事を。



それでも、みょんには、刻々と冷たくなっていくれいむの表情が、
なにやら満ち足りたものであるように見えた。
れいむは、最後の最後で満足できたのであろうか、それはみょんにも、誰にもわからない。

ただ、みょんは、その半分になった優しい表情を見て、もそっとれいむのもみあげに顔をうずめた。
そしてしばらくその感触を忘れないように、しっかりと記憶にとどめるように、
顔をもしゃもしゃと擦りつけ続けたあと、その場を静かに後にしたのだった。



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仕事を終えたぱちゅりーとみょんは、おうちの前まで帰ってきたところでバッタリと出くわし、
なんとなく後味の悪いモノを引きずった顔を見合わせ、ため息を一つついたあと、おうちに入っていった。



「「「ゆっひゃおーっ!!飲むのぜー!歌うのぜー!!」」」
「「・・・ポカーン」」

おうちの中は、秘蔵のあまあままで大放出した、お祭り騒ぎになっていた。
ぽかーんとする2匹に向かい、まりさは満面の笑みで出迎える。

「ゆゆ~ん!ぱちぇもみょんも、さっすがまりさのおちびちゃんなのぜ!今日の主役はふたりなのぜ~!」
「み、みょ・・・」
「む、むきゅ・・・」
「な~に暗い顔してるのぜ!さ、あまあま食べて、疲れなんてぶっ飛ばすのぜ!!」

2匹の気持ちなどなんのその、まりさは2匹の顔をぺろぺろ舐めてあげながら、
自分の策が初めてこれほど上手くいった事に、素直に満足していたのである。

「さ!まりさの自慢のおちびちゃん!何があったか知らないけど、今は一緒に、ゆっくり楽しむのぜー!」
「みょ、みょ~・・・」
「むきゅぅ・・・しょうがないわね。」

みょんとぱちぇは、もう一度お互いの顔を見合わせ、やれやれと言った苦笑を浮かべて、
とりあえず今日のところは、まりさの喜びに合わせてあげるために、宴会の中に加わっていったのだった。



まりさの策は、実際、全てが上手くいきすぎたほど上手くいった。
実のところ、前団長みょんをあれほど簡単に追い詰められるかは怪しかったし、
変な抵抗をされ、逃げられていた可能性もあった。
とりあえずちぇんとれいむを始末するために、団長みょんを謹慎処分にでも追い込み、
支部長みょんがしばらく強権を働かせる状況になれば十分だったのである。
それにぱちぇとみょんも、下手をすれば両方返り討ちにあっていてもおかしくなかった。
ただ、少しでも傷をつけておいてくれれば、みょん警に後詰めをさせて、
数の暴力で押しつぶす手もあるくらいに考えていたのだ。

つまり、まりさはいくらでも戦力の替えがきく作戦を練っていたのである。



結局、まりさが一番群れの長を務めるのに、向いていたのであろう。
自分で何でもやろうとはせず、仲間はあくまでも代えのきく駒として扱う。
れいむや子ちぇんは、自分達だけで何でもやれたが、自分以外の戦力を集めようとは考えなかった。

そしてれいむや子ちぇんは強さゆえに標的となり、死んで終わり。
一方まりさは、奥に引っ込んで勝利の報告を聞く準備と、
負けた時のためにみょん警を動かす準備だけをしていた。

そして何より、まりさ自身が、自分は戦わなくていいという強みを、
誰よりもよく理解していたのであった。



・・・まりさの敵は、誰もいなくなった。



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あれから、まりさがライバルたちを一掃してから、およそ10年が経った。
その間もまりさは、ゆっくりという脆弱な存在である以上、酷い目にはたびたび遭いもした。
しかし、結局まりさの命を奪えるだけの事件は起こらず、まりさは今でも街の頂点にいる。

団長みょんは、ゲスマフィアの(ほぼ)一掃に成功した事で、街では伝説的存在となり、
今でもなおみょん警の最高指導者であり続けている。

そしてみょん警の協力もあり、
えーりんが常駐する医療機関は規模を拡大して『びょういん』と呼び名を変えた。
団長みょんは、今でも毎日えーりんの夜の診察を受けている。一途というか達者というか。

また、親のいない孤児ゆっくり達を育てる『ほいくえん』
(名称は勘違いしてつけたと思われる)も作られた。
実はあの子まりさが、まりさファミリーの成立を参考にして、
自分の組織を作る隠れ蓑にするために考えたらしい。
だが残念ながら、子まりさにはまりさほどの能力は無かったらしく、
いまでも孤児院以上の役割は果たせていないようだ。
保育まりさとなった子まりさは、一応街では敬意を勝ち取っているので、完全な失敗でもないだろうが。

ファミリーの方は、ぱちぇをまりさの代理として、
みょんとふらんがぱちぇの両腕となって上手くやっている。
この3匹もまたまりさを真似て、見込みのありそうな孤児ゆっくりを拾っては、
組織の一員として育てている。今では50匹程の家族となったまりさファミリーは、
街唯一にして最強の暴力組織として、街の裏の秩序を支えていた。

もちろん、これら全てに要所要所で指示を出してきたのはまりさだ。

街もそれなりに上手く動いているのだから、
まりさは優れた指導者だったということで、いいのかもしれない。
あくまで裏社会限定だが、まりさは『ゴッド・おとうさん』などと呼ばれ、敬意を払われている。



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で、今現在のまりさはと言うと・・・

「ゆうかりん!今日はクリームシチューさんがいいと思うのぜ!」
「ざんねんね。こどもたちにへんなことおしえたから、きょうはまーぼどうふさんよ。」
「ゆひぃぃいいい!マーボ豆腐さんはゆっくりできないぃぃいいい!!」

まりさは今、市内のとある学校の校庭隅にある、コンポストの中にいる。
公生活では有能だったまりさだが、私生活では色々あったのだ。

これまで結婚すること4回。
だが一度目の相手は突然の豪雨で額に生えていたおちびちゃんごと溶けて消えた。
二度目の相手は、どこかでみた事のある5匹の猫に襲われ、これまた赤ゆ達ごと食い殺された。
三度目は死産で親子共に死亡。
四度目にいたっては、街に突然発生した竜巻に巻き込まれ、空の彼方に飛んでいった。

拾って育てた子供たちはみんな上手く育てられたのに、何とも不思議なものである。

しかもしまいには、街で見かけた子連れの美れいむに目をつけ、
言葉巧みにまむまむを開かせる事に成功はしたのだが、
その行為を行った場所が学校敷地内だったせいで、わいせつ物扱いされてしまった。
そして学校に勤務していた胴付きゆうかりんに、うかつにも捕まってしまい、
そのままコンポストへ直行する羽目になってしまったのだった。



幸いゆうかりんは善良ゆっくりの鑑のようなゆっくりであり、
コンポストの中も思いのほか快適だったようで、
今は『まあ、これもいいのぜ』くらいにまりさは思っていた。

実の子こそ育てられなかったが、子供達は山ほど、そろいもそろって立派に育てられたし、
街も長い間自分の支配下に置く事が出来た。
上手くて新鮮な食事も、野良社会では考えられないほど当たり前に続けてきたし、
思いつく限りの悪行も、それ以外の企画も実行し、あらゆる喜びを味わい尽くしてきた。

「考えてみれば、しあわせーなゆん生なのぜぇ。」

まりさは、ゆっくりとしての楽しみを、全て体験したと言ってもいいだろう。
喜びも、苦しみも、すべてひっくるめて。

まあ、未練と言えば、心残りも一つ無くは無い。

「あのれいむのまむまむ、最高だったのぜぇ・・・最後までさせてほしかったのぜ・・・」



「ゆぅ・・・今日はそろそろ寝るのぜ。おやすみーなのぜぇ。」

返事の帰ってこない挨拶を、長年続けてきた習慣が抜け切らないのか、
一人ぼっちで眠る今も、外にいた頃と同じように行い、
そしてまりさは目を閉じる。

まりさは夢の中で想像するのだ。
今度はゆうかりんや、学校の子供達も巻き込んで、
またなにか面白いことができないかなぁ、などという事ばかりを。

そして今日も、まりさは可愛らしい顔に不敵な笑みを浮かべ、
何の不満も無い現実に満足しながら、静かに眠りについたのであった。






『町れいむ一家の四季』シリーズ 前日談

anko625.txt    とてもゆっくりしたおうち
anko739.txt    ゆきのなか
anko867.txt    原点に戻ってみる
anko876.txt    秋の実り
anko1225.txt   
anko1226.txt    森から群れが消えた日
anko1255.txt    いつもの風景
本作品


『町れいむ一家の四季』シリーズ(ストーリー展開順・おまけはそうでもない)

春-1-1. anko242.txt    春の恵みさんでゆっくりするよ
春-2-1. anko235.txt    竜巻さんでゆっくりしようね
春-2-2. anko248.txt    お姉さんのまりさ飼育日記(おまけ)
春-2-3. anko261.txt    お姉さんとまりさのはじめてのおつかい(おまけ)
春-2-4. anko250.txt    ちぇんの素晴らしきゆん生(おまけ)
春-2-5. anko290.txt    町の赤ゆの生きる道(おまけ)
夏-1-1. anko215.txt    真夏はゆっくりできるね
夏-1-2. anko217.txt    ゆっくりのみるゆめ(おまけ)
夏-1-3. anko847.txt    未成ゆん(おまけ)
夏-1-4. anko790.txt    飼われいむはおちびちゃんが欲しい(おまけ)
夏-1-5. anko257.txt    ぱちぇと学ぼう!ゆっくりライフ(おまけ)
夏-1-6. anko321.txt    てんこのインモラルスタディ(おまけ)
夏-1-7. anko220.txt    ゆうかりんのご奉仕授業(おまけ)
夏-2-1. anko225.txt    雨さんはゆっくりしてるね
夏-2-2. anko289.txt    末っ子れいむの帰還
秋-1.  anko269.txt    台風さんでゆっくりしたいよ
秋-2.  anko357.txt    都会の雨さんもゆっくりしてるね
秋-2-2. anko2211.txt    ゴミ処理場のゆっくり達
冬-1.  anko591.txt    ゆっくりしたハロウィンさん
冬-2.  anko1028.txt    寒い日もゆっくりしようね

『町れいむ一家の四季』シリーズ 後日談

anko210.txt    俺の嫁ゆっくり
anko228.txt    ここはみんなのおうち宣言
anko310.txt    レイパーズブレイド前篇(仮)
anko335.txt    Yの閃光
anko422.txt    銘菓湯栗饅頭
anko467.txt    飼いゆっくりれいむ
anko507.txt    町ゆっくりの食料事情
anko537.txt    苦悩に満ちたゆん生
anko773.txt    野良ゆっくりがやってきた
anko923.txt    家出まりさの反省
最終更新:2010年11月08日 19:51
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