『ゆっくりが農業について学んだようです』 21KB
D.Oがてんぷらいじめ修正
※ゆっくりスレの良心、頭上にてんぷら・体はれいむでおなじみ、
てんぷらあきさんが是非SSに出たいとのことでしたので…
※失礼すぎたのでちょい修正
『ゆっくりが農業について学んだようです』
D.O
農家ゆっくり達の朝は早い。
「みんな、あさだよ!ゆっくりしていってね!!」
「「「ゆっくりしていってね!!」」」
人間の時計で言えば、午前10時過ぎ。
まりさは家族に元気な挨拶をすると、朝ごはんをむーしゃむーしゃして、
そのままの勢いで元気にお外へと飛び出していった。
「ゆっゆーん!みんな、きょうも『はたけさん』にいこうね!ゆっくり!」
「むきゅ。まりさは、はたけさんがとってもすきなのね」
「わかるよー。おやさいさんのために、まりさはいっしょうけんめいなんだねー」
そしてまりさは、一緒に働くみんなを起こし、今日も一緒に畑へと向かう。
美味しいお野菜さんのために。
可愛いおちびちゃんや、家族達の喜ぶ姿を見るために。
自分達が…ゆっくり達が作った畑へと。
-----------------------------------------------
この、数週間前の事。
「よくがんばったな、まりさ、ちぇん、ありす、てんぷら」
「ゆぅぅ~ん。おにーさん、いままでありがとう。」
「「ゆっくりありがとう!!」」
まりさと、まりさの友達数匹は、3年もの間お世話になったお兄さんの元から独立した。
と、言うより、故郷に帰るというのが正しいだろう。
まりさ達は、元々森で生まれ、育ち、ひょんなことからお兄さんの元で暮らすようになったのだから。
「いや、まあお互いのためっていうかな・・・とにかく、これからはお前達だけの力でやっていくんだ」
「ゆっくりりかいしてるよ!」
「んむ。まあ、信じるよ。せっかくお野菜さんの作り方をおぼえたんだ。その知識、役に立てろよ」
「ゆっくりがんばるよ!!」
「じゃあな。また、たまには会いに行くよ。」
「「「ゆっくりさようなら!!またね!!」」」
そう、まりさ達はいわば、人間の里への留学生だったのである。
お兄さんは、まりさ達の群れが畑を荒らし続けるのを防ぐため、尽力する人間の一人だった。
駆除から異種間性交までいろいろ対策が提案される中、お兄さんは平和的な方法として、
群れの長と交渉し、まりさ達優秀な子ゆっくりに教育を施すことを提案した。
まずは、まりさ達優秀なゆっくりを対象として、
野菜の何たるか、野菜はどのように育てるのか、長い時間をかけて教えることで、
後々には全てのゆっくり達に、農業についての知識を植え付けようという計画であったのだ。
「……俺も、自分をほめてやりたいよ、まったく」
もちろんそれは、決して簡単な事ではなかった。
なにせ、元々野生のゆっくりから見ると『野菜は勝手に生えてくるもの』であり、
『畑は人間が勝手に独り占めしているゆっくりプレイス』であり、
『そんな事をする人間達は、とてもゆっくりしていない奴ら』なのだから。
群れの長ぱちゅりーですらその考えは同じであった。
ただ、長ぱちゅりーはそれなりに頭が良かったため、
最終的には自分達が勝利するに違いないとしても、人間と無用な争いをして犠牲を出す事は避けたかった。
だから、お兄さんの
『まりさ達が留学している間、しっかり世話をするだけでなく、群れにも多少の野菜を贈呈する』
という提案にのって、どう転んでも、群れにも人間にも不満が出ないようにしたのである。
結果を見れば、その計画は人間・ゆっくり、お互いにとって満足いく成果を上げていた。
とりあえずではあるが、ゆっくりの人間に対する悪感情は薄められたし、
お兄さんのおかげでまりさ達は、野生の世界では得られないような知識と、
しっかり鍛えられた体と、とてもゆっくりした性格を持った、すばらしいゆっくり達となって群れに帰った。
長ぱちゅりーとしては、これらの成果だけでも群れを扱い易くなったので、言うこと無しであった。
だが、まりさ達は自分たちの本当の役目を忘れていなかった。
長ぱちゅりーに能力を認められたまりさ達は、幹部として群れを指導する立場に立ってすぐに、
群れ全員を驚かせる提案をしたのである。
「みんな!おやさいさんをたっくさんたべたいとおもうよね!」
「わ、わからないよー…おやさいさんはたべたいけど…」
「むきゅ!にんげんさんとけんかになるわ!ゆっくりできないこといわないで!」
「…だいじょうぶだよ!おやさいさんは、じぶんたちでつくればいいんだよ!!」
「「「ゆゆっ!?」」」
それは、群れのゆっくりプレイス内に畑を作り、野菜を育てよう、という大胆なものであった。
無論、群れのゆっくりの多くは反対した。
「はたけさんは、にんげんさんがひとりじめしてるんだよ!つくれるはずないでしょ!?ばかなの!?」
「おやさいさんは、かってにはえてくるんだよ!まりさはへんなこといわないでね!」
「そんなことするじかんがあったら、かりにいこうよー。わかるー?」
だがまりさ達は、まりさ達留学ゆっくりだけで畑を作る事、
その間まりさ達とその家族の分のご飯も、まりさ達が自力で確保する事、
できた野菜は、群れのみんなにもわける事、などを条件に、群れ全員を説得したのだった。
まりさ達は、お兄さんから教育を受け、学んできたのだ。
お野菜も、畑も、自分達で作り、育てることが出来るのだという事を。
人間さんの畑に入って、お野菜を盗んだりする必要はないという事を。
だから、これはまりさ達、留学ゆっくり達の作戦だったのだ。
狩りによる不安定な食料事情から脱却し、人間達の畑に向かうゆっくりを無くすだけでは無い。
これは、『お野菜と畑は勝手にそこにあるもの』という、
群れのゆっくり達の誤解を解くことにもつながるはずなのだ。
そうすれば、群れと人間さんの不要な争いも無くなり、一緒に仲良くゆっくりできる日が来るかもしれない。
まりさ達はそれが、まりさ達を育ててくれたお兄さんへの恩返しにもなると信じていたのだった。
-----------------------------------------------
群れの説得が終わった翌日から、まりさ達は活動を開始した。
留学ゆっくりから農家ゆっくりとなったまりさ達は、
森のゆっくりプレイスでも適度に日があたり、池も近い、
平らな原っぱを選び、そこに畑を作る事にした。
「たいようさんと、おみずさんはだいじだよ!」
「ここはとってもとかいはね~。いいはたけさんになるわ!」
お兄さんの教えを、まりさ達はしっかりと憶えている。
畑はお野菜さんのゆっくりプレイスであることを。
だからこそ畑には、広い土地と、日の光と、水が必要であると。
お兄さんはこう教えてくれたものだ。
『まりさ。ゆっくりは、ゆっくりプレイスに住むもんだよな』
『そうだよ!まりさたちは、ゆっくりぷれいすでゆっくりするよ!』
『そうだよな。実はな、まりさ。お野菜さんも、ゆっくりプレイスに住むものなんだよ』
『ゆぅ?』
『ゆっくりのゆっくりプレイスじゃない。お野菜さんがゆっくりできる、ゆっくりプレイスだ』
『おやさいさんの…ゆっくりぷれいす?』
『…そう、それが【はたけ】なんだよ』
……まりさ達がその言葉を聞いて受けた衝撃は、言葉では言い表せないほどのものだった。
確かに、言われてみればどんな生き物だって、自分のゆっくりプレイスを持っているに違いない。
魚さんは水の中がゆっくりプレイスだし、鳥さんはお空の上がゆっくりプレイスなのだろう。
そしてこの教えこそが、お野菜を【ただの食べ物】と見る普通のゆっくりの視点から、
お野菜を【生き物】と見る人間的な視点へと、まりさ達を飛躍させてくれたのであった。
さて、畑とは言ったものの、この段階では目の前の土地は、草がぼうぼうに生えた原っぱでしかない。
最初の日に行われたのは、草むしりだった。
ここでもまりさ達は、かつてお兄さんに教わった内容を思い出す。
『まりさ。自分のおうちに知らないゆっくりが、勝手に入ってゆっくりしてたら、どう思う?』
『ゆゆっ!?そんなのゆっくりできないよ!まりさのおうちは、まりさがゆっくりするんだよ!』
『だろ。お野菜さんも同じで、自分達以外の雑草さんがいると、ゆっくりできないんだよ』
お野菜さん達にとっては、お野菜さん以外の雑草はゲスやレイパーみたいなものと教わった。
この雑草さん達がたくさんいるせいで、森の中にお野菜さんは生えないのだ!
「ぶーちぶーち!くささん、ゆっくりぬけてね!」
「むーしゃむーしゃ、しあわせー!」
「てんぷら!つまみぐいはとかいはじゃないわ!」
…とはいえ、この雑草達もゆっくりの場合は馬鹿にできない。
野生ゆっくりにとっては雑草でも立派な食料なのだから。
それに・・・
「ゆん!だめだよ、てんぷら。このくささんたちは、だいじにたべないと」
「ゆぅー。ごめんね」
畑が野菜を育てるのには、時間がかかる。
まりさ達は、畑からお野菜が収穫されるまで、他のゆっくり達のように遠くへ狩りには行けないだろう。
この雑草達は、まりさ達とその家族達の命をつなぐ、貴重な生命線なのだ。
雑草むしりには数日を費した。
今まりさ達の目の前に広がるのは、ゆっくりには少々手の余る広さの、未開墾の大地。
その代わりに手に入れたものは、お世辞にも美味とは言えない雑草の山だ。
野生のゆっくり達というのは案外贅沢なもので、できれば木の実や虫などを食べたがり、
それが無くても若くて柔らかい草などを食べる。
しかし、まりさ達にはそこまで選り好みしている余裕は無い。
まりさ達とて、群れに帰って早々に作ったつがいやおちびちゃん達に、
固くて不味い雑草など食べさせたくはないのだ。
だが、群れの未来のために、まりさ達は家族に我慢を強いた。
家族達もまた、まりさ達の言葉を信じ、苦しい生活を続ける道を選んだ。
その先に、ゆっくりした未来があることを信じて。
さて、これで当面の食糧問題は無くなり、雑草もあらかた抜き終えた。
次に待つのは、土地の開墾である。
まりさ達は、自分たちにお菓子を食べさせながら語ってくれた、お兄さんの言葉を思い出す。
『おちびちゃんがゆっくりするのに、やっぱりベッドは必要だよな』
『むーしゃむーしゃ…ゆ~ん、そうだよ!
おちびちゃんたちは、やわらかべっどさんで、たっくさんすーやすーやゆっくりさせるよ!』
『お野菜さん達もな。ゆっくりしたベッドさんが必要なんだよ』
『ゆぅ?でも、おやさいさんは、じめんさんにささってるよ?』
『その地面が、お野菜さんのベッドなんだよ』
…お野菜さんに、ゆっくりしたベッドさんを作ってあげなければいけない。
そのためには、とにかく土を掘り、ほぐして、柔らかくしてあげることだ。
そう、まりさがおちびちゃん達に干し草で作ってあげた、柔らかベッドさんのように。
「ゆっくりほるよ!ほーじほーじ!」
「ゆゆっ?でっかいいしさんがあるねー。じゃまだからほりかえすよー」
「みんなでこのいしさん、とおくにどかそうね!ごーろごーろ、ゆ、ゆわぁぁああ『グシャッ』…」
「て、てんぷらがいしさんに、つぶされちゃったぁぁああ!?」
なかなか大変そうだが、実はゆっくりにとって、畑づくりのプロセスでは一番得意な分野だったりする。
土を掘る作業は、おうちを作るため、木の根もとや地面に穴掘りをするので慣れているのだ。
非力なゆっくりが、木の棒程度の道具で、どうやって土を掘っているか、というのは気にしない。
たぶん思い込みの力だか何だかが作用しているのだろう。
さて、お野菜さんのためのおうちを作り、柔らかベッドさんも用意した。
ゆっくりならばこの後すっきりーするところだが、お野菜さんの場合、ちょっと順番が違う。
お兄さんの教えは、ここでも活きてくる。
『まりさ。これでお野菜さんのベッドは出来上がりだ』
『ゆっくりー!じゃあ、おやさいさんがすっきりーするんだね!』
『すっきりー…いや、実はその前に大事なお仕事があるんだよ。これだ』
『ゆう?』
それは、まりさ達が森にいたころは、そこらじゅうに見かけたものだった。
黒い土、それも、腐ってボロボロになった葉っぱがたくさん混ざった土…腐葉土だ。
ゆっくりの群れがあるような森の中では、木の根もとに行けば必ず目にする土である。
『ゆぅ~?くろいつちさんだね?』
『これはな。お野菜さんのご飯なんだよ』
『ゆゆっ!?おやさいさんは、つちさんをむーしゃむーしゃするの!?』
『ああ、まあそんな感じだ。ただ、普通の土は美味しくないんだ。
この黒い土は、お野菜さんにとってのあまあまなんだよ。』
『ゆがーん!?そ、そうなの!!』
お野菜さんは、自分では動けないから、ベッドさんの中や下に、この黒い土を入れてあげないといけない。
そうして、たくさんあまあまをむーしゃむーしゃしたお野菜さんは、
ゆっくり大きく育って、ゆっくり美味しいお野菜さんになるのだという。
「おやさいさんのごはん、たくさんあげるね!」
「わかるよー。おやさいさん、いっぱいむーしゃむーしゃできるねー」
「これで、おやさいさんのおちびちゃんも、とかいはにゆっくりできるわね!」
まりさ達はゆっくりプレイスから人の足で100歩分ほど森の奥に入って手に入れてきた腐葉土を、
掘り返した畑にまんべんなく撒いていった。
森の土を手に入れる途中であんよを擦りむき息絶えたてんぷられいむや仲間達も、畑へと埋葬した。
そうすることで、命を落とした仲間達が、畑を守ってくれるような気がしたから。
ズボォオオ!!
「て、てんぷらはいきてるよ!!ゆっくりうめないでぇぇええ!!」
「「「ゆわぁぁああ!?てんぷらがいぎがえっだぁぁあああ!?」」」
こうしてついに、まりさ達の畑でも、お野菜さんを育てる環境が整ったのであった。
決して楽な作業では無かった。
ここに至るまででも、留学ゆっくりの4割以上が犠牲になったほどの大工事であったのだ。
だが、これまでの苦労はしょせん、土を掘り混ぜたにすぎない。
苦労から成功が実るかは、ここから先の頑張りと、お野菜さんたちのゆっくり具合で決まる。
まりさは、お兄さんからもらった、『お野菜さんのおちびちゃん』を取り出した。
それは、とある植物の種だった。
『ほら、まりさ。これを見てごらん』
『ゆぅ…これはたねさんだね!むーしゃむーしゃさせてね!』
『ふふふ。種って言葉は知ってても、こいつの本当の正体は知らないだろ』
『ゆ?なにいってるの?たねさんはたねさんでしょ?』
『これはな。お野菜さんのおちびちゃんなんだよ』
『……びっくりーっ!!』
お兄さんは教えてくれた。
お野菜さんのおちびちゃんは、土のベッドさんの外にいるときは、硬い殻の内側ですーやすーやしていると。
そして、ベッドさんとご飯さん、それにお水さんと太陽さんの光をもらうと、
すくすくと育って立派なお野菜さんに育つのだと。
「…おやさいさんのおちびちゃん。ゆっくりした、りっぱなおやさいさんにそだってね!」
「「「ゆっくりそだってね!!」」」
そう言って、まりさ達は種を一粒づつ埋め、優しく土のベッドをかぶせてあげた。
全て埋め終わると、池から口に入れて運んできたお水さんをかけてやり、
種を埋めた土を優しく撫でながら、立派なお野菜さんに育ってくれることを願ったのであった。
それから先は、意外と手間はかからなかった。
なにせ、ゆっくり達が普段やっている狩りと大して変わらない内容なのだから。
畑からお野菜さんの小さな芽が出てくると同時に、畑には雑草や、虫が集まってくる。
だから、毎日の水やりに合わせて、雑草や虫を狩り、お野菜さんがゆっくり育つように気をつけながら、
ついでにその日のご飯も集めればいい。
「おやさいさんをふんじゃだめだよ!」
「うふふ、とかいはなありすが、そんなことするわけないでしょ」
「むしさんー、ゆっくりちぇんにたべられてねー」
こうして雑草や虫達から守られたお野菜さんは、すくすくと成長していく。
その頃になると、さすがの群れのゆっくり達も、まりさ達の畑の変化に注目するようになっていた。
…なにより、お野菜さんを楽しみにする、子・赤ゆっくり達が無視してはいられなかったのである。
「ゆわぁ~、まだむーちゃむーちゃできにゃいの?」
「ゆふふ。もっとおおきくなったら、みんなでむーしゃむーしゃしようね!」
群れのおちびちゃんは、現在でも飢えているわけではないので、
小さなお野菜さんを食べるのを我慢してでも、将来の大きなゆっくりを待てる程度には行儀が良い。
畑に集まってきたのは、単純な好奇心と、
お野菜さんのゆっくり育つ姿を自分達に重ねて、一緒にゆっくりするためだった。
「おやしゃいしゃん、ゆっくちおおきくなっちぇにぇ!」
「のーびのーび、れいみゅといっしょに、のーびのーびしちぇにぇ!」
「「「のーびのーび、ゆっくちー!!」」」
畑の周りにずらりと並んで、一斉にのーびのーびするおちびちゃん達。
赤ゆっくり達などは、のーびのーびが勢い余って、その場で飛び跳ねてしまっているほどだ。
少しでも早く、お野菜さんが大きくなるように。
その、ゆっくりした祈りを込めたのーびのーびは、おちびちゃん達の間で自然発生したものだ。
もちろん、野菜の成長になんら効果があるはずもない、ただのおまじないのようなものである。
だが、それは群れ全員の期待感を代弁する象徴でもあった。
群れのみんなが畑と、お野菜さんのことを理解してくれはじめたことを、
百の言葉以上にまりさ達に伝えてくれたのであった。
そして、畑づくりから数週間後。
ついに収穫の日がやってきた。
-----------------------------------------------
その日、群れには珍しい客もやってきていた。
「おお、まりさ達。がんばってるか~」
「「「おにーさん、ゆっくりしていってね!!」」」
あの、まりさ達にお野菜さんの育て方を教えてくれた、お兄さんである。
「いや~、まりさ達の畑が大成功だって聞いて、ついここまで来ちゃったよ!」
「ゆふふ、おにーさんは、ゆっくりしてるね!!」
ちなみにこれは、お兄さんの嘘である。
実際は、お兄さんはちょくちょくまりさ達の畑を見に来ては、その状況を観察していたのだ。
まりさ達は、自分達の畑から収穫されたお野菜さんの山から、
特に大きく立派なお野菜さんを並べ、お兄さんに言った。
「「「おにーさん!このおやさいさん、おにーさんがむーしゃむーしゃしてね!!」」」
「……え?お前達…」
それは、まりさ達からお兄さんへの贈り物だった。
「まりさたちが、こんなりっぱなおやさいさんをつくれたのは、おにーさんのおかげだよ!」
「これは、むれのみんなのおれいのきもちだみょん!」
「ありすたちも、おにーさんにゆっくりしてもらいたいわ!」
……。
お兄さんの瞳に、輝く滴が浮かんで消えた。
その代わりに、顔に満面の笑みを浮かべて、お兄さんはまりさ達に語りかける。
「いや。それは群れのみんなで食べてくれ」
「「「ゆ、ゆぅ?」」」
「お、おにーさん…まりさたちのおやさいさん、ゆっくりしてない?」
「いや…そうじゃないんだ。……俺はね。
まりさ達がこんなに立派なお野菜さんを作れるようになったから、それだけですっごくゆっくりできたんだよ。」
「「「おにーさん…」」」
「だから、このお野菜さん達は、まりさ達がゆっくりするために食べてくれ」
「「「お……おにぃさぁあああん!!」」」
それは、これまでは宿敵同士だった人間とゆっくり達が、
ついにお互いを理解しあい、共生できる道を歩みはじめた、歴史的な瞬間であった。
少なくとも、群れのゆっくり達にとって、特別に記憶されるべき出来事だった。
ゆっくり達が人間の生活を学び、人間はゆっくり達のことを学び、
この森に住む者同士で協力し合い生きていく。
なんとゆっくりできることだろうか…
その日は、収穫されたお野菜さんの山を囲い、群れ全員でお祝いパーティーが開かれた。
もちろんお兄さんも、持参の弁当を片手に参加していった。
「むーちゃむーちゃ、ち、ちあわちぇー!!」
「しゃくしゃくしちぇちぇ、ゆっくちできりゅにぇ!」
「てんぷらしゃんにして、たべちゃいにぇ!!ゆっくち!!」
「じゅーしーなおやしゃいしゃん、ゆっくちれいみゅにたべられちぇにぇ!」
特におちびちゃん達など、小さな体のどこに入っていくのだろうという勢いでお野菜さんの山を平らげていく。
なんとほほえましい光景だろうか。
「ははは。みんな大喜びだな」
「おちびちゃんたち、とってもゆっくりしてるよぉ」
「むきゅきゅ、まりさたちがつくったおやさいさんだから、みんなとってもゆっくりできるのよ」
「おさ…」
「むきゅきゅきゅ…ぱちゅりーもとしをとったわ。
つぎのおさになるために、まりさにはもっとがんばってもらわなきゃね」
「おさ…ま、まりさが…?」
「むっきゅっきゅっきゅ!」
そう、この光景は、まりさ達自身が大きな労力と犠牲を払った成果なのだ。
群れのみんながお野菜さんの美味しさに涙とよくわからない体液で全身を濡らす姿も。
かつては人間嫌いだった長ぱちゅりーが、お兄さんのふとももの上でゆっくりとしているのも。
まりさは、自分達の成し遂げた事の偉大さを思い、餡子が熱くなるのを感じたのだった。
そして、お兄さんは夕暮れ前にゆっくりプレイスを去っていった。
「おにーさん、またきてねー!」
「ああ、必ず来るよ!みんな元気でな!」
「「「ゆっくりしていってねー!!」」」
群れのゆっくり達は皆、お兄さんの後姿が見えなくなるまで、
いつまでもお兄さんを見送り続けたのであった。
-----------------------------------------------
「はぁ~…教えがいないなぁ。ねぇ、先輩」
「そうか?俺はそれなりに面白かったが」
ため息をついているのは、まりさ達と別れて帰ってきたお兄さん。
その前には、お兄さんより10歳以上は年上であろう、髭面の男がいる。
お兄さんに先輩と呼ばれるこの男は、これでもゆっくり研究者として、業界でも有名な存在であった。
と、同時に、お兄さんの直属の上司でもある。
お兄さんがため息をつく姿をみて、先輩は苦笑を洩らした。
「でも、結果的には成功なんだろ。ならいいじゃねぇか」
「いや…でもねぇ。3年もかけたんですよ。それも出来の悪い野生ゆっくり相手に、散々苦労して」
お兄さんは先ほどより、さらに大きくため息をつく。
「それで育てたのが、特大の雑草だけってんだから、まったく報われませんよ」
「はっはっは!ゆっくりらしいじゃねぇの!」
「笑えないですよ」
そう、あのまりさ達が畑を作り、必死で育て上げたものは、
何のことはない、森に生えている雑草と全く同じ植物だった。
違いといえば、森の腐葉土と太陽、柔らかい地面と定期的な水やりのおかげで、
森の中とは比べ物にならないくらい大きく成長していることだけ。
「あいつら、せっかく生えた野菜の芽、雑草と間違えて初日に全部食っちゃったんですよ。何回教えたと…」
「はははは!ゆっくりに野菜と雑草の芽を区別しろってのが無茶だったんだよ!」
「いや、でもねぇ…」
野菜の種を植えて数日後、畑に生えた野菜やら雑草やらの芽のうち、まりさ達が抜かなかったのは、
一番元気よさそうに伸びた雑草の芽だった。
そしてその雑草は、等間隔に残されたおかげで森の中とは比べ物にならないほど根を伸ばし、
大きく大きく育って、立派な『特大雑草』へと育ったのである。
「ま、しょうがないから、今度からは『野菜の種』は自分たちで探せって言っときました」
「どうすんだ?」
「そこらの花やら、草の種を拾って来いって教えときましたよ。
どうせ育てるのが雑草なら、なんだって同じでしょ。腐葉土の中に、雑草の根っこやら種なんぞ、山ほどあるし」
「機転利かせたな。それならバッチリだ」
「本気で言ってるんですか?それ」
「大真面目だろが。これであいつら、もっと手間かからなくなったんだし」
「……ま、そうなんですけど…」
「じゃ、研究目的は無事達成できたってことじゃねぇか」
「…そっすね」
このお兄さん達は、ゆっくりによる畑の被害を減らすため、
日夜研究にいそしむゆっくり研究所の職員達である。
今回の『ゆっくりに農業を伝えよう』プロジェクトも、そんな研究の中の一つにすぎない。
「野菜って思いこめば、でかく、硬く育った雑草でも、あんなに旨そうに食うんだから、どうなってんのやら…」
「お前、そりゃあなぁ。そもそも辛いのやら苦いのやら、硬いものも苦手なくせに、大根丸かじりする連中だぞ」
「……旨いと思いこめば、なんだって旨いと?」
「そもそも、野菜も雑草も、やつらにゃ違いなんてねえんだ。お前がやつらを、正常に戻してやったってわけだな」
「はぁ」
手間から考えると大失敗の内容ではあったが、プロジェクトとしては成功と言っていいだろう。
そもそも本物の野菜を育てさせようとするから難しかったのだ。
雑草畑を作らせて、これは野菜だと吹き込むだけなら、手間も時間も少なくて済む。
「それにな、ゆっくり対策でこれだけわかりやすい結果が出る研究も珍しいぞ」
「うーん、そうですかね?」
「表彰と金一封ぐらいは出るんじゃねえかな?」
「それなら・・・・・・まあいいかぁ~」
「「はははははははは」」
ちなみに、まりさの群れがある山は丸ごと、ゆっくり研究所の実験牧場だったりする。
その多くは見学用通路がゆっくりに見えない高さに敷設されており、
入場料をとって一般公開していた。
最近では、畑作ごっこをするゆっくりの群れが見学できるということで、
子供連れの見学客が多数やってくるらしい。
お兄さんは、研究所の売りを一つ増やしてくれたということで、
特別ボーナスも出て万々歳だったそうな。
『むーしゃむーしゃ!まりさたちのおやさいさんは、とってもゆっくりできるね!!』
※てんぷらあきさん、ごめーんね!
最終更新:2010年11月08日 19:52