anko2461 街中の狩人

『街中の狩人』 9KB
観察 野良ゆ 捕食種 現代 独自設定 れみりゃ可愛い






【街中の狩人】



秋に入り、日差しの強さが煩わしくなくなってきた。
ついこの間までは日向になど一分一秒たりともいたくはなかったのに、今は気分良く日光浴が出来る。
公園のベンチには、二人の女性が座っていた。
ひとりは眼鏡をかけた長髪の女性で、今は雑誌を読んでいる。
もうひとりは髪を肩まで伸ばした女性で、特に何もしていない。言うなれば、『ゆっくり』している。


「何か面白い記事でも?」


「『ゆっくりしていると思うゆっくり』投票の結果発表、一位がかぐや、二位がめーりんで、三位がこまち」


「…それはどちらかというと、怠惰なゆっくりランキングじゃないかしら?」


「他には、最近人気ブリーダーの育てたゆっくりがブランド化しつつあるとか」


「何それくだらない」


「十中八九、君のせいだろうけどね。君が自分の育てたゆっくりに、独自の赤いバッジを付けるのを真似た奴が増えた結果だろう」


「わかってるわよ。だからくだらないって言ってるの」


平日の真昼間から公園で雑談に時間を取らせる二人だが、仕事が無い訳ではない。
時間に捕らわれない仕事をしているのだ。
長髪の女性が空になったペットボトルを見て、自動販売機に向かおうかと悩み始めたころ、



「「「「ゆっゆっゆっゆ……」」」」


日本各地、どこに行っても聞かれるようになってしまった、不快な音声が聞こえてきた。


「まりさとれいむの番。子はれいむが2」


「子まりさだけがいない辺り、あのれいむが潰した可能性大、かしら」


「だろうね。親まりさには外傷もないし。ようやっと出てきてくれたか」


二人がなにやら怪しげな会話をしていることも知らず、汚れた饅頭の行進がベンチの前まで来て、立ち止まった。


「にんげんさん! おちびちゃんをみてゆっくりできたんだから、あまあまちょうだいね!」


「「きゃわいくっちぇごみぇんにぇ~!!」」


普通の人ならば、この時点でこの家族を踏み潰すか、親を蹴り飛ばすかするだろう。
甘いものなど渡すのは、せいぜい虐待鬼意惨ぐらいだということを、この家族は分かっていない。


「挨拶も無しに、いきなり要求に走るとは、期待以上かしら?」


しかしこの二人は、特に行動を起こす事をしなかった。
職業柄、ゆっくりの『鳴き声』を聞き流す事に慣れている事もあるかもしれない。


「まりざざまのがぞくをむじずるなぜえええ!!」


「ゆ! きっとこのにんげんさんたちはばかだかられいむたちのことばがわからないんだね!」


「「ば~きゃば~きゃ!」」


好き勝手なことを喚く饅頭ども、子供は親の後ろで思い思いにのーびのーびしている。
この光景を直視して眉を動かさないところを見るとこの二人、相当ゆっくりの扱いに手馴れている事がうかがい知れる。


「ばかなにんげんさんでもわかるようにいってあげるね!

 れいむのおちびちゃんはかわいいよね!!」


「あ、かわいー」


「ゆゆ! ちゃんとわかってくれたんだね!

 おめめがくさってるのかとおもってたよ!

 そんなかわいいれいむのおちびちゃんをみたんだから、あまあまちょうだいね! やまもりでいいよ!」


キリッとしたうざい顔で、れいむは身勝手な要求を再び叩きつけた。隣ではまりさも同じ顔をしていて、実に不快だ。
しかし、人間さんがあまあまをれいむ達に献上しようとする様子は一切ない。


「どぼぢでむじずるんだぜえええ!!

 あばあばをざっざとよごぜえええ!

 いまならぜんっごろじでゆるじであげるんだぜえええ!」


「ゆっくりしてないであまあまさんをみついでね!


 それともおみみがくさってるの? ば「「ゆゆ、おしょらをとんでるみちゃーい!」」ゆゆ?」


 背後から聞こえて来た子供達の声に、一旦抗議を取りやめて振り向く二匹、しかし、


「「どぼじでおぢびぢゃんがいないのおおおおおお!!???」」


そこにいるはずの子れいむの姿が無かった。
まりさはもう一度振り返り、


「ごのぐぞにんげんんんん! おぢびちゃんをどこにがぐじだんだぜえええ!!?」


「でいぶのおぢびぢゃんをがえせえええ!! このげずううう!!」


「私も彼女も何もしてないよ。君達の子供達は、ほら、上だ」


言われて上を向くまりさ、しかし、何も見えない。


「それじゃみえないでしょ。はい」


そういって片方の女性がまりさの帽子を後ろにずらした。
普段なら帽子に触られた事に対して激怒しただろうが、今回はそうではなかった。

帽子が今まで隠していた光景が、まりさの餡子脳の処理能力を超えていたからだ。


「どぼぢででびりゃがごごにいるんだぜええええええ!!!!?」


「うー☆うー☆」


本日何度目かの絶叫を捻り出すまりさ。忙しい奴だ。全然ゆっくりしてない。
一方のれいむはやけに静かだと思ったら、気を失っていた。
無理も無いだろう。れみりゃが咥えている子れいむ二匹は、既に皮だけを残したようなぺらぺらだったのだから。


「おぢびぢゃあん!

 ゆっくりじちゃだめなのぜ!

 おりでごいでびりゃあああ!

 まりざざまがせいっさいじでやるのぜえええ!!」


威勢良くまりさが吼えているのを、れみりゃは一切気にしていない様子だった。
れみりゃは依然として、人間がジャンプしてもぎりぎり届かないであろう高度を維持している。
それはつまり、まりさにはどうあがいても届かない距離だという事だ。


「賢いわね。ちゃんと人間に捕まらないように動けるのね。それに可愛い」


「だろう? 君の捕食種萌えは知っているからね。見せてやろうと思ったんだ」


一方、女性二人はいたって冷静だった。
というよりはこの状況を観察する事こそが、二人が公園にいた理由だったのである。


街に住む野良ゆっくりは、野生のゆっくりとは毛色が違う。
食料が非常に限られており、なおかつ危険に満ち溢れた街で生き残るため、野良たちの群れは野生のそれより強固になった。
ご近所さんのような、なあなあの集まりではない。
チームで食料を手に入れ、危険を事前に察知するために、非常に組織だった運命共同体のような群れを作り上げたのだ。

(無論、それでも野良の死亡率はべらぼうに高い)

その事態に困る事になったのが、れみりゃ達捕食種である。
森の中の野生のゆっくりというのは、非常に警戒心の薄い間抜けで、狩り易い。
しかし、組織だって動く野良ゆっくりを狩るのは簡単ではない。
奴らは危険に敏感で、独りで動くような真似をしない。
無理に襲っても、下手を打てば数に負けて帰り討ちだ。

捕食種は選択を迫られた。

危険を冒して群れのゆっくりを狩るか、

なんとか群れに属していないゆっくりを探し出して狩るか、

そして前者を選んだ者は駆逐され、後者を選んだものが生き延びた。
この街のれみりゃ達が見つけた、群れに属さないゆっくりを見つける方法。
それは人間を使う事だった。

野良のゆっくりの群れは、ゲスと無能に厳しい。
これらのゆっくりは群れに入れず、生活に困窮して人間に襲い掛かるか、人間に集るかになる。

要するに、人間に向かって『ゆっくり出来ないような言葉』を吐いているゆっくりは、群れに属していない野良ゆっくりだということだ。
それに、ゆっくりは複数同時に行動を起こせないから、それらは野生のゆっくりよりも隙だらけだ。
勿論、人間は強くて怖い。だから、狩りは慎重に、迅速に。
それがれみりゃ達が街で生き抜くために身につけた『知恵』だった。


「うー☆もうあじがしなくなったからぽーいするんだどー」


れみりゃはまりさに見せ付けるように、少し離れたところに子れいむの成れの果てを捨てた。
さっきまで子れいむの命を包み込んでいたそれは、その重さを失った事を示すようにふわふわと落ちてきた。


「おぢびぢゃあああん!!」


子れいむの亡骸に駆け寄るまりさ。
だが、もう少しのところでまりさの身体に強い衝撃が走り、突き飛ばされてしまう。


「うー!」


「ゆがっ!」


れみりゃが横からまりさに体当たりしたのが衝撃の正体だった。


「おー、やるわねぇ。あのれみりゃ」


「野良のれみりゃは、ああやって餌を使って獲物を誘導する事がある。

 ああやって家族を釣ったり、奪った飾りを使って飾りなしのゆっくりを誘い出したり。

 これは野生のれみりゃではまず見られない行動だ」


解説する長髪の女性の声は、些か興奮気味だ。


「野良のれみりゃは私達が思ってるよりずっと賢い。ひょっとしたら烏に並べるかもしれない。

 この間なんかね、れみりゃがマンホールに獲物を押し付けるところを見たんだ。

 始めは潰して甘みを上げてるのかと思ったけどね。違うんだよ。

 夏場に熱を持ったマンホールにあんよを焼かれるゆっくりを見るだろう?

 つまり、れみりゃはゆっくりを焼こうとしてたんだ。

 残念ながらもう秋口だったからマンホールの温度が足りなくて決定的瞬間は見られなかった。

 けど、来年にはこの仮説が正しい事が証明されるよ。

 街のれみりゃが獲物を加熱処理――つまり、『料理』して食べる文化を得た事がね」


長髪の女性がやや早口で解説している間に、れみりゃはわざわざまりさの帽子を外してから、その餡子を吸い取った。


「やべっ、やべでね!? まりざのあんござんずわないでえええええ!!!!」


「うー☆ あまあまでりしゃすなんだどー☆」


まりさの餡子を吸い尽くすと、れみりゃは帽子を咥えて飛んでいった。
人間の近くに転がっているれいむには、目を向けなかった。


「本当だ。わざわざ死臭を避けて帽子を持ち帰った」


「まりさ種の帽子だと、木の枝にかけたりして巣にする事もある。

 あるいは、子供に餌を持ち帰るときの袋にしたりね」


「本当に賢いのね。それと可愛い」


「でも、危機的状況であった事も無い『さくや』に助けを求めるのは変わってないんだよね。なぜか」


「あはは! 何それ面白い」


それから数分程街のれみりゃの行動について談義した後、二人は公園を去った。
後には未だ気絶しているれいむだけが残された。
今回は運良く生き延びたこのれいむだが、長くは生きられないし、生き延びてもゆっくりなど無理だろう。

ここは人間の作り上げた街であり、森や山とは何もかもが異なる環境。
そこで生き延び、僅かながらでもゆっくり出来るのはその違いに対応出来た者か、人間の保護下にある者のどちらかしかない。
適者生存の牙は、今日も野良ゆっくり達の命をを無慈悲に刈り取っているのである。



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街ゆっくりの話はいろいろあるけど、捕食種の話はあんまり見ないなぁってお話。
ちなみに女性二人は前回の人+電話相手と同一人物です。
しかし登場キャラに満遍なく台詞言わせるのって難しいですね。
れみりゃかわいいよれみりゃ。

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anko2458 どっちが本当?
最終更新:2010年11月08日 19:55
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