赤ゆのたのちいイス取りゲーム (中) 37KB
虐待 愛情 不運 仲違い 家族崩壊 親子喧嘩 同族殺し 番い 野良ゆ 姉妹 赤ゆ ゲス 希少種 都会 透明な箱 現代 虐待人間 うんしー ぺにまむ 長い
【3】
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ゆっくりに溢れた生活。
社会人になったお兄さんは満たされているはずだった。
かわいいゆっくりたちの世話をして、家に帰ってからもゆっくりと遊ぶ。
愛でお兄さんからすれば、夢のような生活のはずだった。
仕事が辛いわけではない。
気のいい仕事仲間。
笑顔を向ければ笑顔を返してくれるゆっくりたち。
何故だろう。
自分自身でも、何故なのか理解できなかったお兄さんであった。
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鬼意山の顔に笑顔が戻る。
ゆっくりにゆっくりを感じさせる、才能といってもいいような笑顔。
そんな素質が虐待鬼意山と出会ってしまうなんて。
お兄さんの笑顔はゆっくりを捕食するための蜘蛛の巣になっていた。
「そうだ。忘れないうちにあまあまをあげよう」
「「「「ゆゆっ!?」」」」
濁り始めていた赤ゆたちの瞳に光が戻る。
六匹の赤ゆたちは一応第一回戦の勝者なのだ。
鬼意山はテーブルにしあわせフードを撒く。
コーヒー豆サイズのフードが20個ほどテーブルに転がる。
先ほど食べていたのはそれなりフードで、こちらはそれよりも美味しい物だ。
「「「「ち、ち、ちあわちぇええええ!!!!」」」」
こんなの、はじめて……!!
死臭を抜いたゆっくりの餡子にさらに甘味料を大量に混ぜた品だ。
甘過ぎて人間の口には合わないが、ゆっくりにとっては狂おしいほど美味しい。
吐餡で死んだりしないようにアメとムチを心がけるというのは、赤ゆ虐待では大事なことだ。
この賞品設定もその辺りを含めて考えられているものである。
「しあわせえしでるばあいじゃないでしょおおおお!!!!」
「おねえちゃんがしんじゃったんだよおおお!!!」
親ゆたちはいまだ悲しみにくれているが、
ゆっくりで一杯になった赤ゆの頭にそんな言葉は届かない。
あまあまがぺろりと無くなると、鬼意山はイスたちを整え始める。
「でも、殺し合いをさせるのは少し胸が痛むからね。次は人数分のイスを用意してあげるよ」
「「「「ゆゆっ?」」」」
テーブルの上には、先ほどと同じく六つのイスがあった。
赤ゆたちが、よく分からないといった表情で鬼意山を見る。
「全員分のイスがあるってことは、全員座れる。つまり誰も死なないってことだ」
テーブルの上には確かにイスが六つあった。
ゆっくりには数えられないが、人間の目には六つ見えるのだ。
イス取りゲームにしてはあまりにぬるい設定だが、はてさて。
赤ゆたちはそこまで聞いてやっと理解したようで、ほっとした表情。
親ゆたちは警戒しつつも、とりあえず危機は去ったと安堵したらしい。
「ゆっくちできりゅにぇ!」
「あんちんだにぇ!」
赤ゆたちがまあるく並んだ後、イス取りゲームの第二回戦が始まった。
♪~
「はいはい、イスさんたちの周りをくるくるしてね!」
お兄さんが音楽に合わせ、リズムよくゆっくりと手を叩く。
「「「ゆっくち♪ ゆっくち♪」」」
赤ゆたちも楽しそうだ。
にこにこな笑顔でゆっくちゆっくち回っている。
お兄さんが手拍子をするごとに、赤ゆたちが一歩進む。
パン! パン! パン! パン!
ゆっ♪ ゆっ♪ ゆっ♪ ゆっ♪
ゆっくり出来ないことはすぐ忘れる、それがゆっくり。
赤ゆっくりのような中枢餡の小さいアホの塊のようなものだと
寸前の姉妹の死すら頭から抜け落ちてしまう。
イスの数が多く、ゆっくりできたことも原因だったのだろうが……。
長女まりちゃも草葉の陰で泣いているだろう。
「じじい……」
しかし親たちはさすがに忘れていない。
れいむはやはり歯茎をむき出しにし、歯ぎしりを繰り返している。
このままでは歯がすり減って無くなってしまうのではないか?
まりさの方はといえばゆっくりできない目で鬼意山を睨んでいたが、
このままゆっくりできるお兄さんに戻ってくれないかとも思っていた。
この世の人間さんは虐待派と愛で派に分けることが出来る。
まりさがぱちゅりーから教えられた数少ない知識だ。
まりさが最初に鬼意山に会った時、この人間さんは「めでおにいさん」なのだと感じた。
とてもゆっくりできるごはんをくれた。
おからだを綺麗にしてくれた。
おちびちゃんたちもとてもゆっくりしていたし、
ゆっくりがゆっくりするためのゆっくりプレイスまであった。
どれもこれも虐待鬼意山のすることとは思えなかった。
ただの鬼意山なら、こんなゆっくりできる気持ちにはなれないはずだ。
まりさはまだ受け入れていなかった。
お兄さんはきっとまたゆっくりさせてくれる。
イスがいっぱいあるのも、やさしいお兄さんに戻ったから。
だっておちびちゃんはあんなにゆっくりできるんだから。
それを見てる鬼意山もゆっくりできるはずだから。
半ば祈るような気持ちで、そんなことを空想していた。
そして赤ゆたちがぐるっと二周ほど回った頃、ホイッスルはまた鳴らされた。
今度の動きもゆっくりしたものだ。
殺されないと思っているからだろうが。
六つのイスに、ゆっくりが六。
確かに普通は死ぬことなんて考えない。
「ゆっくちすわりゅよ!!」
「ゆっくち! ゆっくち!」
ぴょんぴょんとイスに飛び乗ってゆく。
六匹の赤ゆと六個のイス。
ぴょんぴょん飛び乗り、どんどんゆっくりしてゆく。
イスに座れた赤ゆは姉の死も忘れ、気楽に左右に揺れている。
そして誰も死ぬことは無い。
みんなゆっくり、あまあまをもらえるはずだった。
「あぢゅいいいいいいいい!!!!!」
一つのイスに座ったまりちゃが、なぜか一気に飛びあがる。
そのあんよは火傷で赤みがかっており、ひりひりと痛そうだ。
「「おぢびちゃあああん!! どぼぢだのおおお!!??」」
おにいさんは全員生き残れるなんて生ぬるい遊び、するつもりがなかった。
火傷したまりちゃが座ろうとしたイスは上部が発熱する仕組みになっており、
その温度はすでに300度を超えていた。
ゆっくりは40度程度の温度でもゆっくりできないと嫌うのだ。
夏の東京に行けば、暑さのあまり永遠にゆっくりする家族が山ほど見れる。
300度に熱されたイスなんて座れる余地もない。
無理に座ればあんよが焦げて二度と歩けなくなる。
「言っとくけど、時間切れになっても座って無かったゆっくりは殺すからね」
「ゆっぐち!!」
びくっと震える。
このままでは殺されてしまう。
ゆっくりせずに理解した。
あんよの痛みも我慢して、赤ゆはずーりずーりをする。
涙を流しながら必死でずーりずーりする。
あんよが痛くてはねることができないのだろう。
そうしてイスの前にやってきたまりしゃ。
「ゆっくちすわりゅよ!!」
あんよの痛みに耐え、なんとか灼熱のイスに座る。
そして当然、まりしゃのあんよは煙とともにおいしく焼かれ始めた。
「ゆぎっ! ゆぎぎぎゅぎゅううう!!!」
イスからの激しい熱分子の突撃で、まりしゃのあんよはすでに茶色に変色している。
そんな苦しみに赤ゆが何秒も耐えられるはずがない。
「ゆぎゃああああ!!! あぢゅいよおおお!!!」
「どぼぢでおりちゃうのおおおお!!???」
あまりの熱さにまりさは再びころげ落ちる。
「はやく、はやくすわってねっ!! すぐでいいよ!!」
親れいむの叫びで赤まりしゃはまたゆっくりできないイスを目指そうとする。
イスに座ってないと、鬼意山に殺されてしまう!
親ゆも姉妹たちも、はらはらとゆっくりしないで見守っていた。
「ゆっくちすすみゅ……どぼちてまりちゃのあんようごきゃないにょおおおおお!!!???」
「おちびちゃあああああんん!!!!!」
ついにまりしゃのあんよは焼けきり、二度と使い物にならなくなった。
無理して数秒ガマンしたせいだった。
まあ、座らないなら座らないで、殺されてしまうのだが。
そのまままりさは箸でつかまれる。
ぶにゅりとまりちゃの形がゆがむ。
「はい、時間切れ」
「ゆぎゃああああああ!!!!」
「「おぢびちゃんんんん!!!!!!!!」」
その声を聞いて赤まりしゃは暴れる。箸にはさまれながらおしりをぷりんぷりん振る。
「まりぢゃわるきゅないよおおおおお!!!! いすしゃんがあちゅいかりゃああああ!!!!」
まりしゃはわんわん泣く。
「ゆわああああ!!!」
「どぼぢてちーちーふってくりゅのおおお!!???」
おそろしーしーや涎までとびちるし、汚いったらない。
おかげで赤ゆたちは右往左往逃げ回る羽目になる。
しかし姉妹の命がかかっている局面だ。
「ゆっ! いすさんはいもーちょにあやまっちぇね! ぴゅんぴゅん!!」
「いじわるしにゃいでね! すぐでいいよ!」
うんしーの臭いを我慢する。
姉妹たちも加勢して、制裁すべきなのはイスさんのほうだと喚きたてる。
「うーん、まりしゃのお尻にうんうんがついたままで、それを怒ったのかなあ」
お兄さんはわざとらしくも首をかしげながら、赤まりしゃに話しかける。
赤まりしゃのあにゃるには、おそろうんうんのかけらがべっとり。
いつもはおかーさんにぺーろぺーろで綺麗にしてもらっているのだ。
もちろん実際はうんうんがついていることとイスが熱かった事とは何の関係もないのだが。
ゆっくりたちにとっては何となく納得がいく理由であった。
何にでも「さん」をつけるゆっくり。
土も石も草も、生き物なのだと考えている。
例:「ゆっゆっ! かべさんはゆっくりこわれてね!!」
「ところで、さっきの子みたいに、この子に席を譲ってくれる子はいないのかな?」
「ゆゆ?」
赤ゆたちは首をかしげる。
「席を譲ってくれれば、このまりちゃは助かるんだけどなぁ」
「ゆゆっ!? たしゅかりゅ!?」
赤まりしゃはその言葉に食い付き、他の姉妹に視線を投げる。
「ゆっくちしてるまりしゃに、いすしゃんをちょうだいにぇ!」
その目はキラキラとしていた。
ゆっくちしたまりちゃだから、誰かが譲ってくれるに違いない。
そういう期待がこもっていた。
しかし姉妹はみな体ごと視線を逸らし、譲ろうとする者は誰も居なかった。
待っても待っても、誰も名乗り出なかった。
そして、こればかりは親ゆも口をつぐむしかない。
席を譲らせても、それは結局他のおちびちゃんを殺すことにしかならないのだから。
「どぼぢてむししゅりゅのおおおお!!???」
今回は命がかかっているのだから、当然の結果ではあったが。
「おとーさんもおかーさんも、みんなもまりしゃに死んでほしいってさ」
「にゃんでええええ!!???」
ぽろぽろ涙をこぼすまりしゃに、鬼意山はもう一つ提案をする。
「それじゃあイスさんにごめんなさいして、座らせてもらうのはどうかな? 本当は時間切れだけど、もし座らせてもらえたら助けてあげてもいいよ」
「ゆ!」
お兄さんの助けてあげてもいい発言に、赤まりしゃは俊敏に反応した。
「ゆっくちごめんなちゃい! だからすわらしぇてにぇ! すぎゅでいいよ!!」
にっこり笑いながら、謝罪めいた言葉を吐く。
ぷりんとケツを向ける。
かわいいポーズのつもりだろうか。
いかにもゆっくりらしい謝罪の姿勢だった。
他の家族はゆるしてあげてね!などとイスさんに呼びかけている。
「そんな謝り方じゃイスさんは許してくれないよ! ほら、もっと近くじゃないと!!
ジュウウウウウ……。
箸でつままれているまりさを、既に400度を超えようとしているイスさんに当てた。
今度はあんよではなく、顔面を直接。
おでこが、ほっぺが、煙をあげながら焼けてゆく!
灼熱のフライパンとちゅっちゅだなんて、人間さんでも拷問だ。
痛みに弱いゆっくりなら、なおさらである。
「ゆっぎゃあああああああ!!!!」
耐えられないほどの熱さ、痛さの洪水が赤まりしゃを襲う。
生後十日も経っていないゆん生。その中でも圧倒的に一位を記録できるほどの酷い苦痛だ。
「ほらほら、イスさんがまだ怒ってるよ! ごめんなさいはどうした?」
「ごべんなぢゃいいいい!!! ごべんなちゃいいいいい!!!!」
意味のない謝罪を繰り返す赤まりしゃ。
顔面もみるみる焼け、ところどころ破れはじめている。
「やべであげでええええええ!!!!」
「ぞのごはまだあがちゃんなんでずうううううう!!!!」
イスさんにか、鬼意山にか、両親はおでこをこすりつけ土下座をしている。
だがそんな鳴き声を聞いて手を差し伸べるほど、優しい鬼意山ではなかった。
赤まりしゃの目玉はどろどろに溶け始める。
口から、目から、あにゃるから、傷口から。
あつあつになった餡子を吐き出し、そのうち永遠にゆっくりした。
残ったのは真っ黒焦げの、食えもしないゴミだけだった。
箸の先にへばりついた真っ黒なゴミは、赤ゆたちの前にそっと置かれた。
ほかほか。
湯気が立っている。
「おねーぢゃんぎゃあああああ!!!」
「いぼうぢょおおおおお!!!!」
「おちびぢゃああああああん!!!」
リアクションはそれぞれで、叫ぶものもあれば気絶するものもある。
「ゆっくちできにゃいいすしゃんは、せいっしゃいだよ!!」
そんなことを言いながらイスに体当たりを仕掛けるまりちゃは、
ほっぺを焼かれて泣きながらUターンしていった。
「あーあ、酷いなあ。イスさんがまりしゃを殺しちゃった」
しかし黙っていないのがれいむである。
「おばえがじゅうじゅうしたんだろうがあああああ!!!!!」
イスさんが怒っていようがいまいが、
箸でつまんだ上に赤まりちゃを焼き殺したのは鬼意山である。
しかしそんな泣き声、鬼意山には痛くも痒くもない。
しあわせフードを取り出し勝者を祝福する。
赤ゆたちの大好きな、あまあまなご褒美。
しかし二人目の犠牲者が出た後だ。
赤ゆでも深刻な面持ちにならざるをえない。
口数も少なくなる。
姉妹のことはともかく、自分の命まで危機にさらされているのだ。
いくら美味しくてもしあわせーの声は控えめである。
「むーしゃ、むーしゃ……」
「しあわせ……」
それでも一応しあわせらしい。
そこでお兄さんは意地悪な質問を始めた。
「姉妹を見殺しにして食べるあまあまはおいしいかな?」
「「「「ゆゆっ!?」」」」
赤ゆたちは、まりしゃに席を譲らなかったわけである。
それを見殺しと言ったのだ。
命がかかっていたのだから、当然そうするだろうと知っていた。
ただ落ち込んでいる赤ゆたちを精神的に追い詰めるためだけに、傷口を塩を塗っているのである。
「特にそこの小さい赤れいみゅ。お姉ちゃんに譲ってもらったのに、自分では出来ないんだね。お前のお姉ちゃんはゆっくりしてたのになあ」
「ゆ゛っ……」
れいみゅは名指しされ、涙ぐみながらまた下を向いてしまった。
「いいんだよ。お兄さんは怒ってないよ。家族すら殺してでも自分だけがゆっくりする、それがゆっくりだ」
親ゆたちはただ歯ぎしりしながら黙っているしかない。
ちがうよ! ゆっくりはかぞくをたいせつにするよ!
などと言ってしまえば、おちびちゃんたちの心を傷めつけることになる。
家族を見捨てる自分達は、ゆっくり失格。
そうなる。
「君達はまだ赤ゆなんだから、まだまだゆん生はこれから。生き残りたいだろう? みじめに殺し合って、最後の一匹になってね!」
おにいさんはまた、にこにこと笑い始めた。
【4】
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家でもお兄さんはゆっくり漬けだ。
ちぇんとらんに餌をやると、パソコンで軽く巡回する。
もちろんお気に入りもゆっくりづくし。
ゆっくり嫌いが見たら胃が爆発しそうなラインナップである。
しかしインターネットには罠が多い。
望まぬサイトにアクセスしてしまうこともある。
不用意にリンクをクリックしたため、
ゆーtubeのゆ虐動画に飛んでしまった。
用心深いお兄さんは普段、こんな失敗はしないのだが。
ふらんちゃんがあんなことやこんなことも!?
という煽り文句が気になって、つい……。
大荒れに荒れた動画だった。
川辺に住むゆっくりの一家が殺される動画だった。
愛でから始まり、虐殺で終わる。
動画の半ばで×ボタンを押した。
「酷いことをする人もいるもんだな……」
しかしその日の夜。
永久凍土に春が来たかのようなすっきりした気分で、
お兄さんは眠りに就くことが出来た。
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次の戦いは、直後に始まった。
♪~
ここで事件が起きる。
既にれいみゅ3、まりちゃ2までに数を減らしていたころである。
五匹の赤ゆに四つのイス。
そういう設定だから、一匹があぶれることになる。
そのあぶれたゆっくり、赤まりちゃがイスを占拠したれいみゅを殺したのである。
その赤まりちゃは姉妹を焼き殺したげしゅなイスに攻撃を仕掛け、
その結果ほっぺに火傷を負う怪我を負った。
跳ねるたびに傷が痛み、ゆっくりにしか跳ねられなかったのだ。
またホイッスルが鳴らされ、音楽が止まる。
「ゆっくちしないですわりゅよ!!」
「れいみゅのいすしゃん、まってちぇにぇ!!」
どんどん座っていく赤ゆ。
ここまでくると、赤ゆでもゆっくりしてはいけないのだと理解している。
だんだんと競争の様相を帯びてきた。
「きょきょはまりしゃのゆっくちぷれいしゅだよ!!」
「ここはれーみゅのだよ! のろまないもうとはあっちいってね!!」
四つのイスが占領される。
そしてまりしゃは傷のために一歩おくれ、気付いた時にはイスは無かった。
「ゆぅぅ……」
イスが無いとは死と同義である。
必死にきょろきょろする。
充血した瞳で。
無い。
どうしようもなくなった。
それでまりしゃは末っ子のれいみゅのところへ駆け寄る。
どうもイスを奪うつもりらしい。
末っ子なぶん、れいみゅは体が小さかった。
だから狙われたのだろう。
「まりちゃおねーちゃんに、いすさんをちょうだいにぇ!!」
「ゆ、ゆぅ……?」
れいみゅは目をまん丸くする。
イスから降りろとは、死んでしまえと言うに等しい。
そんなこと、絶対に了承できない。
れいみゅにはまだ、バラ色のゆん生が残されているのに!
「やじゃよおおお!! れいみゅちにたくないいい!!!!」
「いいかりゃどいちぇにぇ!!」
まりちゃの体当たり。
「ゆぎぃ!」
イスから落ちた末っ子れいみゅはそのままころころ転がってゆく。
同じ茎から生まれた赤ゆでも大きさは違う。
茎の根元に近いゆっくりほど餡子をたくさんもらえる。
その結果早く生まれ体も大きくなる傾向がある。
このまりちゃは三女だったが、それに対抗するには末っ子は非常に不利である。
餡子の量は、ゆっくりの戦いの全てを決める。
果てはゆん生のゆくえまでも。
「ゆううう!!! れいみゅのいすしゃんにすわらにゃいでにぇ!!」
それでもれいみゅは負けじと対抗する。
助走をつけ、イスを奪った姉まりちゃに体当たりしたのだ。
そう力強いとはいえない、しかし命をかけた渾身のもの。
「ゆぐっ!」
転がすほどの力はなかったが、イスからずりおちてさかさまになってしまったまりしゃだ。
あにゃるを晒して目をぱちくりさせる。
「ここをれーみゅのゆっくちぷれいしゅにしゅるよ!!」
イスを奪還したれいむは満足そうに笑うと、すかさずおうち宣言をした。
おうち宣言はゆっくりのルールであり、宣言した場所はおうちになる。
ここは姉まりちゃの場所じゃないという宣言だ。
しかしそんなことをされて、黙っている姉まりしゃではない。
おしりを振る勢いで体勢を立て直すと、再び攻撃姿勢に入る。
「ゆがあああ!!! げしゅのでいびゅはゆっくちちねええ!!!!」
命をかけたゆっくり出来ない戦い。
その中でついに「しねえええ」という言葉が出てきた。
ゆっくりは基本的に率直な生き物なのだ。
死ねと発言する時、そのゆっくりは殺意を持っていることが多い。
尻振りで狙いを定め、れいみゅに本気で体当たりをした。
先ほどよりも何倍も力強い一撃。
「ゆびゃっ!!」
末っ子れいみゅは床に墜落し、餡子を吐いてしまう。
しかしそれだけでは終わらない。
姉まりしゃはイスの上から飛び上がり、れいみゅの頭を踏みつぶした。
「ゆげえええ!!!」
「ちね! ちねえ!! ゆっくりできないげしゅはちね!!!」
何度も何度も飛び上がる。
何度も何度も踏みつぶす。
その度に口とあにゃるから、ぶりぶりと餡子が漏れ出てくる。
「やべでえええええええええ!!!!」
「おちびちゃんたちはかぞぐでじょおおおおおお!!!」
親ゆたちは必死で止めようとしている。
「……」
一方、他の赤ゆたちは無関心を装っていた。
殺し合いの矛先がむけられてはやっかいだったからだ。
家族の存在について、親ゆたちと赤ゆたちでは温度差が生まれている。
赤ゆたちはゆっくりできないゲームをしなければならず、お兄さんの言葉による心理操作もあり、
表向きはともかく心の底では姉妹を生き残るための障害とみなしはじめていた。
その変化はゆっくりなものだが。
しかし親ゆたちは安全な場所で観戦し家族の絆というものを信じている。
反応に違いが出た原因、要はそこだった。
「ぢねっ!!」
たび重なる攻撃によりすでに片目は飛び出て、歯はぼろぼろに抜けてしまっていた。
末っ子れいみゅが痙攣をおこしはじめ、這うことも出来なくなった頃。
姉まりしゃはとどめとばかりにイスに乗り、その高さから思い切りれいみゅを踏みつぶした。
「もっちょゆっぐちちたかった……」
さらに餡子を殆ど失った末っ子れいみゅ。
もちもちだった肌は茶色に変色し、やがでゆっくりできない黒灰色になった。
殺されたのだ。
小さくてかわいいかぞくのあいどるは、今では無残な死相を晒している。
飛び出た目、ばらばらの歯、ずたずたの皮。
「ゆぎゃあああああああああ!!!!」
「どぼぢてっ!! どぼぢてぞんなごどずるのぉおぉおぉおおお!!!!」
家族のきずなが壊れてゆく。
一方姉まりしゃは、なんら後悔するところもなかった。
「ゆっくりできにゃいげしゅだったにぇ!!」
妹の死を喜び、ゆわーいとばかりに跳びはねる。
少し前には一緒に遊んだ実の姉妹だったのに。
そして妹のものだったイスに、もっちりと座る。
「ここをまりちゃのゆっくりぷれいしゅにしゅるよ!!!」
「はい、おめでとう。死んだれいみゅ以外の四匹、勝ち抜けだ」
しあわせフードが撒かれ、死体はゴミ箱に捨てられた。
姉妹同士の殺し合いの後だ。
今までのように警戒なくむちゃむちゃなどする余裕はどこにもない。
お互いがお互いを、取って食われまいと見張り合っている。
それぞれの距離は十分にとられ、すーりすーりのようなふれあいは一切ない。
ぎょろぎょろと目を左右に踊らせ、近寄ってくるゲスに警戒している。
一粒づつ、一粒づつ。
ゆっくりと消費されてゆく。
フードが無くなるまで空気はずっとピリピリしていた。
日常はすでに無い。
れいむは怒りのあまり震えた。
どうしてこんなことに、そう叫びたい気持ちだろう。
壁から微笑みかけるゆっくりした絵すら、今となっては憎らしい。
れいむにとっておちびちゃんは命よりも大切なものだ。
ゆっくりできないゲス親から生まれた母れいむは、
おちびちゃんと一緒のゆっくりできる家庭を築くことが夢であった。
そしてその家庭ではたくさん、おちびちゃんをゆっくりさせてあげるのだ。
この時期に山から降りてきたのも、少なくなった山のごはんではおちびちゃんを作れないと思ったからであった。
そこまで思っているおちびちゃん。
これ以上ゆっくりできない目にあわすわけにはいかない!!
このままでは家族の絆がずたぼろにされてしまう。
「じじい、ていっあんがあるよ……」
れいむは鬼意山に声をかける。
「なにかな? じじいなんて呼び方。お兄さんゆっくりできないんだけど」
「うるさいよ……」
怒りと悲しみととゆっくりできなさで、すでにぐったりしているれいむ。
むっすりした顔のまま続ける。
「いすとりげーむはれいむたちにやらせてほしいよ……」
お兄さんは笑顔で聞き返す。
「どうして?」
れいむが唇をぎゅっと噛んでいる。
鬼意山をキッと睨んでいる。
そしてまりさは、何が何だかという表情でれいむを見ている。
「れ、れいむ!! どういうことなの!?」
「ゆっくりせつめいするよ」
鬼意山がイス取りゲームをさせて遊びたいなら、れいむたちが代わりにやる。
そのかわり【おちびちゃんを帰してあげてほしい】。
それがれいむの提案だった。
まりさは急な話に戸惑ったが、やがて深刻な面持ちでうなずく。
このまま黙っていては三匹のおちびちゃんが死んでしまうのだ。
お兄さんはこれを受け入れることにした。
残った赤ゆたち四匹は別の透明な箱に閉じ込められ、かわり両親が取り出された。
箱に入ってもなお、赤ゆたちはお互い警戒しあい、距離をとっている。
お互いが信じられない。
その一方でれいまり夫婦はおたがいにすりよって、これから来るであろう別れに涙していた。
「まりさ、れいむのことはいいから、まりさがおちびちゃんをゆっくりさせてね」
「そんなの、ゆっくりできないよぉ……!!」
れいむとまりさは一ヶ月間のゆっくりからすれば長い交際をへてつがいとなった。
そのぶんお互いの信頼は強固である。
れいむは自分が死ぬことを宣言。
まりさとおちびちゃんを思ってのことである。
「まりさはかりがうまいよ……。だから、おちびちゃんにはまりさがひつようだよ」
「で、でもぉ……!!」
まりさはゆっくりできない顔で、すでにべそをかいている。
「別れの挨拶は終わったかな? そろそろ始めようか」
「お、おにいさん……」
まりさは振り向く。
後ろにはお兄さんが立っていた。
まりさとは正反対の、本当に楽しそうな顔で。
絨毯の上にバケツが一つ。
夫婦のうちの一匹しか生き残れない。
まりさはいよいよ悲しくなり、涙は滝のようになってしまった。
「おにいざあああああああああんんんん!!!!!! おでがいじばず、おでがいじばずううう!!! びんなで、みんなでゆっぐちしだいでず!!! おぢびちゃんど、でいぶど、まりざで!! ゆっくぢしだいでずううう!!!」
「駄目」
まりさの必死の願いは、あっさり却下された。
♪~
一つのイス。二匹のゆっくり。
どちらもお互いを愛している。
ちょうどおちびちゃんたちが殺し合ってくれた通り、
ゆっくりとは、ゆっくりするために残酷になれる生き物だ。
生き物とはそもそもそんなものなのかもしれないが。
そしてその一方でこの夫婦。
このつがいは稀有な例外であろう。
楽しい音楽の中で号泣しながら、口をまげてお互いの思い出を語り合っている。
鬼意山の手拍子の中で、くるくると回りながら。
「でいぶどむーじゃむーじゃじだおはなざん!! おいじがったよおおおお!!!!」
「ばりざとのあのよるは、どっでもあづがったよおおお!!!」
「でいぶどぶーじゃぶーじゃじだあばあばは、どっでもじあわぜだったよおおお!!!」
「ばりざとおぢびぢゃんどのぜいがつは、どっでもたのじがったよおおおお!!!」
ぴょんぴょん、くるくる。
鬼意山は頬笑みながらその様子を眺めている。
らんが死んでしまう時も、ちぇんはあんな風に呼びかけて、
返事もないのに叫び続けてたな。
そんな最後のお別れも、無情なホイッスルにより終わりを告げた。
二匹はなごりおしそうに見つめ合っている。
バケツの上にはまりさ。
れいむの言うとおり、まりさが座って生き残ることにしたらしい。
「それじゃあ生き残るのはまりさだ。それでいいかな?」
鬼意山は二匹に尋ねる。
しかし二匹とも泣くばかりで全く返事が出来ない状態だ
それを黙認ととった鬼意山はもみあげさんを掴み、れいむを持ち上げた。
そしてれいむは別れの言葉を
「ばりざ、おちびちゃんどゆっぐりし……おそらをとんでるみたい!!!」
れいむの顔はぱっと明るくなった。
そして次の瞬間、床に叩きつけられた。
「ゆげべぇっ!!!」
「で、でいぶううううううう!!!!!」
鬼意山は鼻歌交じりにれいむを叩きつける。
何度も何度も。
もみあげがちぎれそうなぐらい振りあげられ、振り下ろされ。
床へのちゅっちゅを繰り返した。
一撃目で歯が折れた。
二撃目で目が飛び出た。
そのぐらい強烈な叩きつけ方だった。
「やべでぐだざいいいい!!! でいぶがじんじゃうでじょおおお!!!!」
しかしまりさの叫びも、鬼意山は聞く気がない。
足元すがりついてれいむの助命を願っているが、そんな行動何にもならなかった。
れいむのあんこが飛び散り、壁や床に茶色をつける。
まりさも例外にならず餡子をべちゃべちゃと浴びていた。
れいむが跡かたもなくなるまで三分とかからない。
れいむの痕跡は真っ赤なおかざりと、鬼意山が掴んでいたもみあげのみになった。
あとの部品は餡子か皮かすらわからないほどぐちゃぐちゃである。
ぼとり。
もみあげが一本、手から床に落ちた。
小さな餡子のシミが、そこら中に広まっている。
その様子は、まりさ餡子の奥にある一斉駆除の惨劇を想起させた。
「でいぶ……、ゆっぐりじでいっでね……」
れいむの姿はもうどこにも見えなかった。
人間にとってはくそ饅頭でも、まりさにとっては大事な伴侶だった。
犠牲は大きかった。
しかしこれでやっとおうちに帰れる。
れいむを失った悲しみは反転し、まりさの心は春の兆しを見せ始める。
鬼意山はれいむは約束した。
【れいむとまりさがイス取りゲームをすれば、おちびちゃんを帰してあげる】と。
「ゆっぐ……、おちびちゃん!! ば、ばりざたちはかえれるんだよおおおお!!! おちびちゃんたちゆっくりしていってねええええ!!!」
まりさは大声でゆっくりを叫ぶ。
赤ゆたちはきょとんとした表情でまりさを見た。
「れーみゅたち、かえれりゅにょ……?」
「もうまりしゃたち、しんだりしにゃいにょ?」
緊張の糸がほぐれたのか、赤ゆたちはお互いの距離を戻し始めている。
すーりすーりしている者さえいる。
ゆっくりは記憶力の無い生き物。
一生恨みを抱いて生きるゆっくりは珍しい。
争いがすぎれば、一緒にゆっくりすることもできる。
餡子脳が良い方向に働けば、こういうこともあるのだ。
「おちびちゃん! まりさと、まりさとおうちにかえろうね!!」
笑顔でそう言ったまりさは、
「おそらをとんでるみたい!!!」
透明な箱に逆戻りした。
いつのまにかまた、透明な壁さんに囲まれている。
まりさは鬼意山を見上げた。
「お、おにいさん! まりさはそろそろかえることにするよ!!」
まりさは透明な壁に体当たりしながらおにいさんを見る。
「だ、だからこのかべさんをどかしてね!!」
れいむは鬼意山と約束した。
それなのに透明な壁さんが邪魔をする。
おちびちゃんの方もそれは同じであるようで、壁にほっぺをくっつけ喚きだす。
「ゆっくちしてにゃいかべしゃんはどいちぇにぇ!!」
「れいみゅおこりゅよ!! ぷきゅうううううう!!!」
ほっぺをつぶすその姿がとても滑稽だ。
鬼意山はただ笑うばかり。
そして言った。
「【れいむとまりさがイス取りゲームをすれば、おちびちゃんを帰してあげる】。約束は守るよ。おちびちゃんは帰してあげよう。イス取りゲームが終わった後にね」
まりさは切ったスイカのような笑顔のまま固まる。
死にたくなった。
最終更新:2010年10月06日 19:43