『エゴだよ、それは』 4KB
小ネタ 理不尽なお話
※注意!
・何もしていないゆっくりが理不尽に酷い目にあいます。
・アムロやシャアは特に関係ありません。
靴を突っかけながら外に出る。
玄関から少し離れた所に、一匹の子れいむがいた。
「ゆっくちしていっちぇにぇ! れいみゅはれいみゅだよ!」
つま先をとんとんと地面に打ちつけ、靴をしっかりと履く。
「にんげんしゃん! れいみゅね! れいみゅね! ひとりでおしゃんぽできりゅんだよ! しゅごいでしょ!」
玄関に鍵をかける。
さて、出かけるか。
「ゆゆっ? むしちないでにぇ! むしちないでにぇ! ゆっくちしていっちぇにぇ!」
俺はおもむろに子れいむを蹴った。
「ゆぴいっ! いちゃいよ! やめてにぇ! やめてにぇ!」
二度三度と蹴り続けながら歩を進める。
あまり強く蹴ると表皮が破れてしまう。こう見えて、力加減が難しい。
子れいむの、ぽよんぽよんとした柔らかい感触は、靴を通してなお、つま先に心地よかった。
「いちゃいよっ! いちゃいよっ! れいみゅにひどいことしにゃいでねっ! ゆっくちしていっちぇにぇっ!」
赤信号の横断歩道で足を止めた。
同時に子れいむを蹴るのをやめ、今度は足の裏全体で軽く踏みつけながら転がす。
ぷよぷよとした程よい弾力。これもなかなか心地よい。
「ゆぎゅうううう! ちゅ、ちゅぶれりゅうううう!?」俺の足の下でもがく子れいむ。「どうちてこんなことしゅるにょおおお!?」
子れいむのその言葉に、俺ははっとする。
そういえば、どうしてだろう。俺はどうしてこんなことをするのか――。
考え始め、しかしその瞬間に考えるだけ無駄だと気付く。
たとえば道端の石ころを蹴るのに、理由を求める人間がいるのだろうか。
信号が青に変わった。俺は再び子れいむを蹴りながら歩き始める。
「いぢゃいよおおお! だぢゅげぢぇぇえええ! おかっ! おかあしゃっ……おがあじゃあああああん!」
相変わらず子れいむは騒いでいるが、当然、それを気にする通行人はいない。やかましさで言えば街の喧騒の方がよほど上だ。
ふと、足元の声がいつの間にか消えていることに気付く。
視線を下にやり、俺は思わず舌打ちした。
ぼうっと歩いていたせいだ。無意識に子れいむを踏み潰してしまったらしい。つま先と靴の裏に、餡子がベッタリとついていた。
仕方ないので、公園の水道ででも、軽く洗い流すとしよう。
通りかかった公園。
その入口に、一匹のれいむがいた。
「♪ゆっ! ゆっ! ゆっ! ぴこぴっこ、おひさまさんむけ~て~」
体をくねくねさせながら歌うれいむの前には、口を上に向けた空き缶。
「♪ぷりんぷりん、おしりゆすれ~ば~」
俺はおもむろにれいむを蹴った。
「♪ひかりの……ゆごおおっ!?」
ずっしりと重めの蹴り応えに満足する。
れいむは後方にまっすぐ吹っ飛んで、ころりと仰向けに転がって地面を滑り、そのまま公園に入っていった。
――ゴール。
心の中でそう呟く。
れいむを追って――というわけではもちろんないが、俺も公園内に向かう。水道を見つけて、靴についた餡子を落とすためだ。
水道はすぐに見つかった。
蛇口を捻り、水を出す。
「ゆひゅううううっ!」
風が吹き抜けるような音に振り向くと、先ほどのれいむが起き上がり、こちらを睨んでいた。
「に、にんげんひゃん!」歯が折れたらしいれいむが、不明瞭に叫ぶ。「どうひてこんなこひょひゅりゅのおおお!?」
れいむのその言葉に、俺ははっとする。
そういえば、どうしてだろう。俺はどうしてあんなことをしたのか――。
考え始め、しかしその瞬間に考えるだけ無駄だと気付く。
たとえば足元にボールが転がっていたら、ちょっと蹴ってみたくなるのが人のサガだ。
俺は蛇口を閉め、れいむの元に向かう。
れいむがびくりと体を動かした。
「やめふぇね! やめふぇね! いひゃいこひょひないでね!」
じたばたするれいむ。
その眉間を狙いすまして蹴ってやると、「ゆぎょっ!」という奇声を発しながら、れいむは砂場に突っ込んだ。
――バンカー。
心の中でそう呟く。
俺は改めて水道に向かい、靴の餡子を洗い流した。
途中、少年たちのはしゃぎ声に顔を上げる。
俺が砂場に蹴りこんだれいむを、彼らがサッカーボール代わりにして遊んでいるのが見えた。
二つ三つ野暮用をすませて帰宅する途中。
ドブ川の脇に、一匹のまりさがいた。
「ゆんせ! ゆんせ! まっててね、れいむ! おちびちゃんたち! おとうさんが、おいしいごはんをたくっさんっ! もってかえるからね!」
まりさは表皮に砂糖水の汗を浮かべ、せっせと雑草を引き抜いている。
俺は足早にまりさに近づいた。
「ゆんせ! ゆんせ! ……ゆっ? にんげんさん? まりさになにかごよう?」
こちらを見上げるその横っ面に、渾身の蹴りを叩き込んでやる。
「ゆごおっ!?」まりさの体が宙に舞った。「おぞらをとんでるみだいっ!?」
どぼん、と汚れた水の中に落ちるまりさ。
ドブ川を見下ろすと、まりさと目が合った。
「ごぼっ! ごぼぼぼっ! ど、どぼじでごんなごどずるのおおおおおっ!?」
恐怖に染まった目で俺を見上げながら、口の中に水が入るのも構わず、まりさは絶叫する。
理由はある。
考えるまでもなく即答できる。
俺はまりさ種という存在が大嫌いなのだ。
その黒い三角帽子、その金髪。目元といい口元といい――とにかく全てが大嫌いだ。
だから蹴った。それだけだ。
「ゆぼぼぼぼぼっ!? おぼぼぼっ、おぼれるうううううっ! しずむうううううっ! とどっ! とげるうううううっ!?」
いちいち耳障りな声を出しながら、せわしなく浮き沈みを繰り返すまりさ。
じきにその体は跡形もなく溶けて無くなり、汚水となって下流へと流れていくのだろう。
いい気味だ。
「ぎゅぼぼぼぼっ! どどどどぼっ! どぼじでこんなこどにいいいいいいっ!?」
その問いかけにも即答できる。
それは、おまえがまりさ種としてこの世に発生してしまったからだ。
もし、仮に。
例えばおまえがれいむ種だったなら、俺は絶対こんな事をしないのに。
(了)
作:藪あき
最終更新:2010年11月15日 18:48