anko1894 縁日

今日は待ちに待った縁日の日だ。
いい大人が何を…と言われそうだが、縁日には私が毎年楽しみにしている『ある屋台』がある。

この縁日はかなり大規模な祭であり、毎年、数百の屋台が開かれ、数十万人の来場者が来るそうだ。
その中でも私の目的の屋台は、境内の端という人通りが悪い場所に開かれている。
端に開かれてるのには理由がある。この屋台は騒音がうるさいのだ。

そう、その屋台には『ゆっくり釣り』と書かれたのぼりがかかっていた。



――――――――――



金魚すくい、亀釣り、ひよこ釣り、etc...

古くから縁日で的屋が出す代表的な屋台のひとつである。
金魚や亀といった、小型の生き物を釣り上げる単純なゲームだ。

生き物を景品に使うとは何事だ!と思われる方もいるが、私は釣り堀の屋台版のようなものだと思ってる。
しかも、この屋台で使われるのは、あの『ゆっくり』だ。
生物学上では生き物と認められてないだけに、縁日の景品としては最適だろう。

私はこの手の遊びには熱くなってしまうタイプで、つい何度もチャレンジしてしまう。
もっとも、熱くなるのは釣ってる間だけで、家に帰ると途端に覚めてしまうのだが。
おかげでお持ち帰りした金魚も亀も長生きした試しがない。

実際、大抵の人は『釣り上げる』というゲーム性を楽しんでいるだけで、釣ったあとのことなど考えていないものだ。
金魚を釣ったはいいが飼えないので、公園の池に捨てられたり、良くても学校などの施設に寄贈されるのが多いと聞く。

私もゆっくりを飼う環境は無いので、いつもお隣のゆっくり好きの鬼意山に差し上げている。
毎年かなりの数を釣って押し付けているが、嫌な顔ひとつせず貰ってくれるので助かっている。
ただ、鬼意山がゆっくりを散歩に連れている姿を見たことがないのが気になるが。



屋台を見ると、すでに数名の子どもたちが、ゆっくり釣り中だ。
あと屋台の端に大人が1人…あれ?あれはお隣の鬼意山だ。
あれだけあげてるのに釣りに来るなんて、よほどゆっくりのことが好きなんだろう。

「よう! 兄ちゃん! 今年も来たな!」

もはや顔馴染みとなった、屋台のおじさんが声をかけてくる。

「お久しぶりです。 今年も来てしまいました。」
「ハハハ! あんたも好きだなあ! まあゆっくり釣ってきな!」

おじさんの豪快な挨拶を受けながら、私は屋台のゆっくりの様子を見た。
金魚すくいの屋台と同じような、底が浅く面積が広い水槽が、屋台の前面一杯に置かれていた。
そしてその水槽には、大量の赤まりさと赤れいむが放されていた。

「ゆっくちしちぇいっちぇね!」
「れいみゅ、おなきゃすいちゃー!」
「まりちゃはうんうんするよ! ちゅっきりー!」

ものすごい数の赤ゆっくりたちが、所狭しと鳴いている。
これが騒音の原因であり、この屋台が境内の端に開かれてる理由のひとつだ。
『喋る饅頭』と言われるゆっくりが、赤ゆっくりとはいえ、これだけ集まれば騒音にもなる。

「くっそー! また失敗した! おじちゃんもう一回!」
「ハハハ! 坊主! 冷静にやらなきゃゆっくりは釣れないぞ!」

屋台のおじさんは、子どもたちに餌の付いた『コヨリ』を渡した。
水ヨーヨー釣りに使われる、針付きのコヨリの使いまわしなのだろう。
違うのは、針が付いていなく、餌として『チョコ柿ピー』が付いている点である。
この餌付きコヨリで、ゆっくりを釣り上げるのだ。

「よーし、このまりさにしよう!」

そう言って、水槽の端にいた赤まりさの前に餌を下げる。

「ゆゆっ! まりちゃのあまあま! ゆっくちたべられちぇねぇ!」

赤ゆっくりは噛む力が足りないので、硬いチョコ柿ピーを噛み砕くことはない。
本来は親ゆっくりに、むーしゃむーしゃ、ぺっ!をして貰わなければ食べられないのだ。

それでも、燃費が悪く、すぐにお腹が空く赤ゆっくりたちは、必死に食べようと努力をする。
赤ゆっくりは消化を助けるために唾液が多めに出るが、その唾液をさらに振りまきながら食らいついた。

「むーちゃむーちゃ、ししししあわちぇー!」

赤まりさは、チョコ柿ピーを口の中に含んで唾液で溶かそうとしてるのだ。
硬いチョコ柿ピーを赤ゆっくりが食べるには、この方法しかないだろう。
赤まりさが口を動かすたびに、チョコが溶けてしあわせーな顔をしている。

コヨリを持つ子どもは、それを見てほんの少しだけ引っ張る。
すると、幸せの絶頂だった赤まりさの口から、引っ張られた餌がこぼれ落ちる。

「ゆゆっ! あまあまにげにゃないでにぇ!」

慌てた赤まりさは、チョコ柿ピーに力いっぱい食いつく。

「いまだ!」

赤まりさが食いついたタイミングで、かけ声とともに引き上げる。
力いっぱい食いついた赤まりさは餌ごと釣り上げられた。
このまま赤まりさを、手に持ったお碗に移せれば釣り上げ成功だ。
しかし、釣り上げる速度が早すぎる。このままだと…。

「おちょらをとんでるみちゃい!」

ヒュ~ドシャ!

「ゆべっ!」

「ああっ!」

空中に釣り上げられた赤まりさは、反射的に鳴き声を発してしまい、餌を離して落ちてしまった。

持ち上げられたゆっくりが、反射的にしゃべる言葉『おそらをとんでるみたい!』
これがあるのでゆっくりを釣り上げるのが難しいのだ。

「くそ~早かったかなあ? これぐらいゆっくりなら落ちないかな…」

「ゆゆっ! にがしゃないよ! むーちゃむーちゃ!」

先ほどの失敗を生かし、今度はゆっくりと釣り上げようとする。
しかし今度はゆっくりすぎる。しかもその餌は一度溶かされてる餌だ。このままだと…。

「むーちゃむーちゃ…ゆっ?! ゆべえぇぇぇぇ?!?!」

「あー!?」

突然、赤まりさは悲鳴を上げて吐餡しだした。
餌であるチョコ柿ピーを溶かしすぎたのだ。表面はチョコだが中身は柿の種。
チョコを溶かしきれば、ゆっくりの毒になる辛味が出現する。
唾液の多い赤ゆっくり相手に、あまりにもゆっくり釣るとこうなるのである。

「きょれ、どくはいっちぇる…がくっ」

「あー…また失敗しちゃった」

命である中身を吐きすぎて赤まりさは死んでしまった。
ちなみにこの悲鳴が、屋台が境内の端に開かれてるもうひとつの理由だ。
楽しい縁日で、饅頭とはいえ何度も悲鳴など聞きたくないということだ。

「ど、どぼじで、まりちゃがちんでりゅのおぉぉぉぉ?!」
「ゆんやあぁぁぁぁ!! きょわいよおぉぉぉぉ!!」
「ゆっくちできないぃぃぃぃ!!!」

それ見たほかの赤ゆっくりたちが逃げ出した。
これだけ怯えてしまっては、続けて釣り上げることが難しくなる。

と、初めてゆっくり釣りを見るお客はそう思うだろう。

「ハハハ! またやっちまったな坊主! ちょっと待っててくれよ!」

屋台のおじさんが笑顔で子どもに声をかけると、水槽の方に向き直った。

「ゆっくりしていってね!!!」

「「「「「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!!」」」」」×たくさん

おじさんの声に反応して、逃げ惑っていた赤ゆっくりたちも振り返って挨拶を返していた。
その隙に素早く、死んだ赤まりさの帽子と、吐き出した柿の種を回収する。

「おまえたち! おいしいあまあまが落ちてるぞ!」

「ゆゆー! これはれいみゅのだよ!」
「まりちゃにも ちょうらいにぇ!」
「ゆっくちできりゅよおぉぉぉぉ!!」

なんと、挨拶ひとつで少し前の嫌なことを忘れてしまうのだ。
飾りを撤去したとはいえ、共食いにも気づかずおいしそうに食べる赤ゆっくりたち。
縁日の間、彼らが食べれるのは釣りそこなった赤ゆっくりの中身のみである。

ゆっくりの知能は、その中身の種類と質と量で変化すると言われている。
まりさ種とれいむ種は基本種の中でも頭はよくないほうだ、しかも赤ゆっくりとなれば中身も少ない。
さらに景品用に大量繁殖させているので、当然餡子の質もよくない。
種類・質・量ともに最低の部類に属するこの赤ゆっくりたちは、ありえないぐらい頭が弱くて楽観的だった。
しかし、景品で使うにはこれぐらい馬鹿なほうが都合が良いのだ。

ちなみに同じ基本種の赤ぱちゅりーがいないのは、質の悪いぱちゅりー種は貰いゲロで衰弱死してしまうから。
赤ありすがいないは、質の悪いありす種は赤ゆっくりでもれいぱー化しやすく、数が減ってしまうので使えないそうだ。

と、顔なじみになった屋台のおじさんに教えてもらった。
ほかにも、加工所で商品にならない弾かれたゆっくりを格安で買い取って母体に使っているとか、
1匹の成体ゆっくりから一度に100匹の赤ゆっくりを作る方法や、
強力な成長促進剤を使っているので副作用で寿命が短い等、色々と裏話を聞いたが、
事実を知ると遊んでる子どもたちが確実に泣くのでここでは割愛しよう。



「ほ~らほ~ら、あまあまだよ~ 美味しいよ~ フヒッ!」

ふと見ると、屋台の端で鬼意山もゆっくり釣り中だ。
鬼意山はコヨリを手に取ると、赤ゆっくりが集中しているポイントに餌を下げる。
集中してるだけに、入れ食い確実で一見よさそうな釣り方だが、実は一番よくない釣り方だ。

「ゆゆ! あまあまみちゅけたよ!」
「まりちゃに よこちゅんだじぇ!!」
「れいみゅの ちょらないでにぇ!!」

餌に気づいた赤ゆっくりたちが群がりはじめた。
もみ合い、押し合い、ぶつかり合って大混乱だ。

「むーちゃむーちゃ、ちあわ…」ドガッ!「ぶぎぇ!!」
「ちょれは、まりちゃのあま…」ブチッ!「げへぇ!!」
「きょれは、れいみゅのあま…」グシャ!「ぐべぇ!!」

赤ゆっくりたちが互いを蹴落としながら交互に食いついたため、コヨリが唾液でドロドロだ。
集まった赤ゆっくりたちで小山のようになったころ、濡れたコヨリが負荷に耐え切れずに餌ごと千切れた。

ブチィ!ドサドサドサ!

「「「「「ゆぎゃああああぁぁぁぁ!! ちゅ、ちゅぶれりゅうぅぅぅぅ!!」」」」」

「あ~、また失敗したよ! フヒッ! フヒヒッ!」

このように、意地汚い赤ゆっくりたちの前に置くと、コヨリの耐久度が持たないのだ。
子どもたちのように、端などにいる1匹を狙うのが正しい釣り方だ。

しかし、鬼意山はゆっくり釣りがあまりうまくないようだ。
ゆっくりを可愛がる人が、ゆっくりを釣り上げるのは難しいのかもしれない。
挨拶しようとおもったが、集中してるのを邪魔しても悪いのでそっとしておこう。



「おじちゃんこれ難しいよー! 本当に釣れるのー?!」
「ハハハ! 坊主には難しいか! どれ、兄ちゃん! 手本を見せてあげな!」
「は?! …はい、いいですよ」

急に話を振られて面食らったが、見てるばかりのも悪いと思い、子どもたちに手本を見せてあげることにした。

「いいかい? まず、キミがやったように、1匹だけの赤ゆっくりを見つけるんだ」
「でも、こいつらチョロチョロしてるから、1匹だけなんてなかなかいないよー?」
「そういう時はこうするんだ」

私はコヨリに付いた餌を、赤ゆっくりたちがギリギリ届かない位置で前後に揺らした。

「よーしおまえら、あまあまだぞ」

「ゆー! あまあまちょうらいにぇ!!」
「そりぇはれいみゅのだよ! はやくちょうらい!」
「ちがうのぜ! まりちゃのにきまっちぇるのぜ!」

「ほーら取ってこい!」

ブンッ!と、揺らした反動をつけて餌を遠くに放り投げた。…フリをした。

「「「「「ゆゆー?! まっちぇね! あまあましゃん!!」」」」」

あっさりとフェイントに引っかかった赤ゆっくりたちは、一斉に奥へ跳ねだした。
しかし、見た目が同じ赤ゆっくりとはいえ、個体差というものが必ず存在する。
反応が良い赤ゆっくりは先に跳ねていくが、反応が鈍い赤ゆっくりは行動が遅いぶん手前に残る。
その中でも一番遅れていて、一番手前に残っていた、赤れいむの前に餌を下げる。

「ゆ? あまあまがあるよ! むーちゃむーちゃ!」

鈍そうな赤れいむが餌に食いついた。

「そして食いついたら、腕全体を使って真上に引き上げる」

ヒュン!

「……おちょらをとんでるみちゃい!」

空中に釣り上げられた赤れいむは、反射的に鳴き声を発してしまい、餌を離して落ちる。
しかし、腕全体でしなるように釣り上げたので、餌を離すころにはかなりの高さに達していた。
落ちてくる赤れいむを、やさしく受け止めるようにお碗を差し出す。

ポスッ

「ゆべっ! …ゆゆ? おにいしゃん、ゆっくちしちぇいっちぇね?」

「ほら、簡単だろ?」
「うおー!? あんちゃんスゲー!!」
「ハハハ! どうだい、ちゃんと釣れるだろう?」

この手法だと鈍い赤ゆっくりを選べるので、餌を離すのが遅く、初心者でも釣りやすいのだ。
そして釣り上げるコツは手首だけで釣らないこと。腕全体で釣ることだ。

「お、おじちゃんもう一回! もう一回やるよ!」
「ハハハ! 毎度!」

どうやら、子どもたちのやる気に繋がったようだ。
商売上手なおじさんの思惑通りな気がするが、面目躍如といったところだろう。



「ほ~ら釣れた~ フヒッ!」

ふと見ると、鬼意山も赤ゆっくりを釣り上げていた。
どうやったのか、鬼意山は立ち上がっていて、とても高い位置に釣り上げている。

「お~っと! 手が滑った~!」

ゆっくりとした動作でお碗に移そうとして、コヨリから手を離してしまった。

「おちょらをとんでるみちゃい! …ほんちょにとんでるぅうぅぅぅぅ!?」

グシャアァァ!!

「「「「「ゆぎゃああああぁぁぁぁ!!!」」」」」

運の悪いことに、赤ゆっくりが集まっている場所に落下してしまい、まとめて潰れたようだ。

「ゆっくりした結果がこれだよ! フヒッ! フヘヘッ!」

どうやら鬼意山は意外におっちょこちょいのようだ。
あと挨拶がてらに、ゆっくり釣りのコツを教えてあげようと思う。



「やったー! 釣れた! あんちゃん見て見て!!!」
「お、がんばったな」

先ほどの子どもたちが赤まりさを釣り上げていた。

「こいつ、うちで飼ってやるんだ!」
「そうか、なら私の釣ったゆっくりもあげよう。 つがいで飼ったほうが、ゆっくりも寂しくないからね」
「ハハハ! そりゃ違いねえな! 一緒に飼ってやんな!」

屋台のおじさんは、赤まりさと赤れいむを受け取ると、ラムネの欠片を食べさせた。

「「むーしゃむーしゃ、しあわ…ぐーぐー」」

これで赤ゆっくりたちは、数時間ぐっすりと眠ったままだ。
他の屋台を見るのに、赤ゆっくりを持ち歩いてもうるさくないようにとの配慮だ。
金魚釣り用のお持ち帰り袋を取り出すと、赤ゆっくり二匹を入れて子どもに渡した。

「あんちゃんありがとう! 大事に育てるよ!」
「ああ、がんばれよ」

そういって子どもたちは走り去った。

ああは言ったが、縁日の赤ゆっくりは長生きできないことを、私はおじさんから聞いている。
劣悪な環境で大量繁殖させた弊害で、大事に育てても一年も持たずに寿命がきてしまうそうだ。
おじさん曰く、屋台側としてはそのほうが都合が良いらしい。
一度飼えば飼育道具だけが残るので、来年の縁日でまた釣ってくれる可能性が高くなるからだ。



「じゃあ、私も本格的に遊ばせて貰いますね」
「ハハハ! 兄ちゃんさっきはありがとうな!」
「いえいえ、あれぐらいのことでしたら」
「実はな、兄ちゃんのためにこんなのを用意したんだ」

そういって、おじさんは新たな赤ゆっくりを水槽に追加した。

「「「「「わきゃるよー!!!」」」」」

「おお?! 赤ちぇんじゃないですか!!」
「ハハハ! そうなんだ! やっと繁殖に成功してね!
 でもこいつらは動きが機敏だから、初心者には釣れそうにないんだよ」

水槽に放された途端に縦横無尽に飛び跳ねる赤ちぇんたち。
赤れいむや赤まりさを数段上回る軽快なスピードだ。
ゆっくり釣りは、動きが鈍い固体ほど釣りやすい。逆に言えば速い固体ほど釣りづらい。
パッと見ただけでも、赤ちぇんを釣り上げるのは難易度が高いのがわかる。
しかし、私は難しいほど燃える性分なのだ。今日は万札を使ってでも釣り上げる覚悟をした。

「でも兄さんなら、きっと釣れるんじゃないかい?」

それを見透かしたように、おじさんはニヤリと笑った。
本当にこの人は商売が上手いなと、心の中でつぶやいた。





作:248あき


過去作
・ふたば系ゆっくりいじめ 821 路地裏(後)
・ふたば系ゆっくりいじめ 808 路地裏(前)
・ふたば系ゆっくりいじめ 765 かまくら
・ふたば系ゆっくりいじめ 633 バス停
最終更新:2010年11月15日 18:54
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