『甘い言葉』 9KB
いじめ いたづら 野良ゆ 現代 虐待人間 暇つぶしにでも、どうぞ
『甘い言葉』
ある晴れた日のこと。
一人の青年がゆっくりまりさと呼ばれる、ゆっくりを発見した。
方向的にゴミ捨て場に向かっている。
都市部に住みつくのは野良ゆっくりと呼ばれる。
その野良ゆっくりという不衛生の固まりの様な存在で動く腐った生ごみの様なモノ、それが現在の野良のゆっくりへの認識だ。
人語を解し、ほとんどの野良ゆっくりは人の神経を逆なでにする事に関して、天性のモノを持っている。
野良ゆっくりと会話して、苛立ちも起きないモノは。
聖人や、常人と盛大に違うかとか、一般人では不可能だろう。
そんな野良ゆっくりの相手をするモノは少ない。
その野良ゆっくりの相手をする数少ない人の一人が、その青年であった。
決して野良ゆっくりが可哀そうだから助けようとかそんな理由で彼は野良ゆっくりと接するわけではない。
ゆっくりが不幸に落ちるさまを見るのが大好きだけだ。
自分が世界の中心だと信じて疑わないその面を実は世界の底辺以下の存在だと知らしめて不幸になる様を見る為に。
幸せの絶頂だと思っているその状況を一変させ絶望に染まる様を見る為に。
塵芥よりもか細い存在だと自覚させる為に。
その状況を見るのも大好きだし。
その状況を作り出すのも大好きだ。
今日もその青年はゆっくりを一匹のゆっくりを不幸にすべく動き出した。
「そこのまりさ」
「ゆゆっ! にんげんさん!」
すでにゆっくりの代名詞、ゆっくりしていってね! と人間に挨拶する野良ゆっくりはほぼ皆無である。
このまりさも例外ではなかったようだ。
しかし、なんか言ってる間にさっさと逃げろと思うものだが、ゆっくりというモノは自分の思考の8割は口に出しているモノである。
おまけに名前に恥じず、行動も遅い。
「にんげんさんはゆっくりできないんだぜ! ゆっくりにげるんだぜ!」
跳ねて逃走。
野良ゆっくりにしてはよく出来た行動である。
だが、悲しいかな本ゆんにしては全速力であろう、その行動は大人の大股歩き程度の速さでしかなかった。
普通だったら、ここで無視をするか、蹴りの一つでも喰らわせていただろう。
しかし、今回の青年は少しばかり趣向を凝らしたものだった。
「まりさ、飼いゆっくりにしてやろうか」
逃げるまりさに青年は魔法の言葉をかける。
ビクリと、その言葉に反応するまりさ、しかしまだ背を向けて逃げている。
飼いゆっくり。
それは野良ゆっくりの憧れの的であり、嫉妬や羨望の的でもある。
人間と一緒にいる飼いゆっくりを見れば、どんな野良ゆっくりでさえ、現状に不満を覚えるだろう。
綺麗な体、幸せそうな顔、そして何よりもゆっくりしている。
冷たい風に晒され、一日中生き残るために動きまわり、時に動物に狙われる毎日。
飼いゆっくりになれば、住処も餌も、飼い主によっては番でさえ、用意される。
飼いゆっくりになれるかもしれない。
そんな砂糖菓子の様に甘い言葉にまりさは反応してしまった。
まだ若い個体なのだろう、自分が飼いゆっくりになれるなんて自分の餡子脳より小さい小さい希望に縋ってしまうなんて。
「綺麗にしてやるぞー」
まりさの跳ねる速度と幅が徐々に小さくなっていく。
「住む場所もやるぞー」
もう跳ねることを止め、完璧に地面を這っている状態だ、もう青年の言葉に聞き耳を立てている。
「餌もやるぞー」
ピタリと動くのを止めてしまった。
「あまあまもやるぞー」
その最後の言葉にまりさは完全に青年への警戒心を解き、振り向いた。
「にんげんさん、ゆっくりしていってね!」
ゆっくりなんてちょろいもんである。
「ああ、ゆっくりしていってくれ」
「ゆゆ~ん」
挨拶を返され、さらに青年への警戒心を緩めるまりさ。
「にんげんさん、まりさをかいゆっくりにしてくれるってほんとうなんだぜ!」
「ああ、本当さ」
「ゆわーい! まりさこれからかいゆっくりになるんだぜ! しあわせでごめんね!」
誰へ言うわけでもなく、宣言するまりさ。
こんなことを言うまりさの顔を蹴り飛ばしてやりたい衝動に駆られるが我慢。
青年は次の言葉を言う。
「だがまりさ、お前を飼えないかもしれないんだ」
まりさが固まるのも数瞬、まりさは青年を糾弾するように叫ぶ。
「どうゆうことなんだぜ! うそつきはゆっくりできないんだぜ!」
「まあ、待て、かもしれないだ、絶対じゃないぞ」
「ゆゆ? どういうことなんだぜ?」
「ああ、まりさが飼いゆっくりになるためには、まりさの帽子を置いていかないと、帽子もまりさもゆっくりした飼いゆっくりにできないんだ」
「ゆがーん!!」
家族と今生の別れする様な表情をするまりさ。
しかし、これはゆっくりにとって当たり前のことである。
ゆっくりにとって、飾り、まりさでいう、帽子はゆっくりにとってはとても大切なものなのである。
生まれた頃から一緒にある、あって当然であるゆっくりの飾りだ。
自分の半身と言っていいほどである。
そしてその存在はとても重要だ。
教育を受けていないゆっくりは飾りがなければ個別認識さえできない。
ゆっくりできないゆっくりとして、他のゆっくりから迫害さえされてしまう。
それほどまでにゆっくりにとって、飾りは重要なのだ。
それとここで別れろと青年は言う。
まりさにとって、まさにゆん生の岐路である今、半身を取るか自身の栄光の未来を取るか。
決断の時である。
「ゆ゛ーーん゛」
「俺にはあまり時間がないんだ、早く決めてほしいんだが」
「まづんだぜ! いまがんがえでるんだぜ!」
頭から湯気が出そうなほど顔を赤くして考えているまりさ。
結論を待っていたら日が暮れてしまうと思い、青年は言う。
「しょうがないな、まりさ、この手を見るんだ」
「ゆ゛?」
茹った頭のまま、まりさは青年に促されるままにその手を見た。
「手から、5…… たくさん、指が出てるだろ」
まりさは頷く。
青年がなぜ5という数字から、たくさんという言葉に変えたのか。
それは教育を受けていないゆっくりは3以上の数はたくさんと認識するからだ。
そしてその認識能力は低く、自分の子供が3匹以下になるまで数が減っていることに気付かないほどだ。
「この指が全部折れたら、俺が勝手に色々やっちゃうからな」
「ゆ゛ーー」
「ほら、指はこんなにたくさんあるんだぞ、時間はたくさんあるんじゃないか?」
「ゆ゛ーー、……そうだぜ、ゆっくりかんがえるんだぜ!」
たくさんの指が折れるまでまだ時間はたくさんある。
そう思ったのだろう、まりさは長考に入った。
「ひとーつ」
「ゆーー」
青年の親指がゆっくりと内側に曲げられる。
まりさはゆっくりと考えている。
「ふたーつ」
「ゆーーん」
人差し指が曲げられ、引っ張られるように中指と薬指が少しだけ曲がった。
まりさはゆっくりと悩んでいる。
「みーーつ」
「ゆー、ゆゆ! もうふたつしかないんだぜ! ゆ、ゆゆゆゆゆ、まつんだぜ! おにいさんまつんだぜ! ゆっくりしてね!」
中指が曲がる。
まりさは指が後二つになってしまったことに気付いた。
あんなにたくさんあったのに、まりさはそう思う。
全くまとまらない考え、迫る時間。
並行にモノを考えることが苦手なゆっくりである、考えに集中することもできず、時間にばかり気を取られる。
「よーーつ」
「まつんだぜ! いまかんがえてるんだぜ、ゆっくりかんがえてるんだぜ! なのに、なんで、ゆっくりしてないぃぃぃぃぃ!!」
薬指が曲がる。
もはや、まりさにゆっくり考える余裕なんてない。
完全に混乱している。
「いつーーつ」
「ゆ゛あ゛ー! あ゛ー! あ゛ー! あ゛ー! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!、どぼじでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!! どぼずれ゛い゛い゛の゛ぉ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」
ついに最後、子指が曲げられ、5が数えられる。
考えはまとまらず、まりさにとってはたくさんの、青年にとってはたった5本の指を折り曲げただけの時間が終わった。
「まりさー、たくさん待ったのにまだ考えがまとまらないのかー、じゃー、勝手に俺が決めちゃうよ」
このままではまりさは帽子を置き去りに飼いゆっくりにされてしまう。
あんなに憧れていた飼いゆっくりなのに、この心にぽっかりと開きそうな感覚はなんなんだろう、とまりさは思う。
まりさの帽子に手がかかる。
これでまりさは帽子を外し、青年に連れて行かれるのだろう。
しかし、しょうがないと、まりさは諦める。
ついに、まりさの頭から帽子が離れる。
今までずっと一緒だった、帽子。
生まれた時から、遊んだ時から、悲しかった時も、嬉しかった時も、辛かった時も、ゆっくりしていた時も。
ずっと、一緒だった帽子。
これからもずっと一緒にゆっくりしていくんだと思っていた。
けれどこれでお別れだ。
涙で前がぼやける。
何時も頭に乗っていた帽子が無くなった頭は。
とても寒く、ゆっくりできなかった。
けれど、けれども。
まりさは帽子に別れを言うために言葉を紡ぐ。
「まりさはこれからおぼうしさんのかわりにゆっくりしていくんだぜ、だから……おぼうしさんゆっくりしていってね!」
青年の手ある帽子に、精一杯の笑顔で言えたはずだ。
「ああ、別れはすんだか」
まりさは頷く。
「じゃあ、これからこの帽子を家を持って帰るからな」
「……どぼいうごどぉぉおぉっぉぉぉぉ!!!!!」
「え、気が変わった」
そんな事はない、最初から汚らしい野良まりさを飼う気なんて一厘ほども考えていない。
「うそつきはゆっくりできないんだぜぇぇぇぇぇっぇぇ! まりさをかいゆっくりにしてくれるんでしょぉぉぉっぉぉぉ!!!」
「だから、俺は帽子を飼ってやるって言ってるじゃないか、お前たちなんて大切な帽子が飼われるんだぞ、ゆっくりするんだぞ」
「ばりざがゆっぐりでぎないんだぜぇぇぇぇぇ!!!」
「はいはい、ゆっくりゆっくり」
帽子を飼うなんて、青年は我ながら意味がわからないことだと思う。
けど相手は、混乱しているゆっくりだ、理由なんて適当で十分。
「じゃあな! 精々ゆっくりしていくといいさ!」
そう言うと、帽子を片手に青年は駆け出す。
「ゆえええええ!! まづんだぜぇぇぇぇぇ!!! まっでぇぇぇぇぇ!!!! ばりざをがいゆっぐりにずるんだぜぇぇぇぇ!! おぼうじざぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
青年はすぐに道路の角を曲がり、見えなくなった。
必死に追いすがるまりさ。
青年が見えなくなった曲がり角につき、その先を見るが、すでに青年の後姿すらなかった。
「ゆっぐ、ゆっぐ、ゆっぐりぃぃぃぃ! ゆっぐぢぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
叫び声をあげて立ち尽くすまりさであった。
帽子を無くした野良ゆっくりは、よほどの運がなければ、野良ゆっくり社会に戻れないだろう。
青年はそう思うだけで、腹を抱えて大笑いしたくなる。
しかし、笑いはしない、青年は角を曲がって曲がって、また同じ道に戻ってまりさの背後から見ているからだ。
帽子を返そうなんて思わない、せいぜい綺麗にして、家に飾っておいてやろうとは思う。
帽子を無くし、たったあれだけのことで信頼した青年に裏切られて。
まりさはベソベソとその場で立ち尽くして泣いている。
そんな姿を見ただけで、青年は気分がすっとする。
だから、思うのだ。
ゆっくりの大好きな甘い言葉を使い、また虐めてやろうと。
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17作目です。
では、最後まで見ていただけたら幸いです。
大きく振りかぶったあき
最終更新:2010年11月15日 18:55