anko2092 水

***まえがき***
・賢者のとっしーに捧ぐ
 ・ごめん、でも注文とは全然違うもんになった
・ゆっくりのセリフは『』で人間のセリフは「」です
**********



 先日から傾向はあったのだ。
 水が全く採れなくなったのである。
 どれだけ探しても、水がない。
 公園に行っても水がない。
 当然、蛇口を捻ることもできない。
 結果、野良ゆっくりたちは僅かな水を巡って争い合いをすることになった。

『おみずぅ……みずぅ……』
『おねがいします。 おちびちゃんたちがしにそうなんです。 どうか、どうかおみずをわけてください』
『くそどれいいい! でいぶにおみずをわだぜええええええ!』
『みず! みず! みずううううううう!』
『おちびちゃんをあげますから、おみずをくださいいいい!』
『みずはどこにあるんだあああああああああああああああああああああああああ!』
『しねぇえええ! ぜんぶ! みんなしねえええええ! みずをよこぜええええええええ!』

 ゆっくりたちの水不足は、地獄であった。
 街を行けば、そこらかしこで物乞いをしている野良ゆっくりを見ることができる。
 もちろん人間は野良ゆっくりのために水を与えるようなことはしない。
 害獣を喜ばせることをなぜしなければならないのか。

 マンホールにあんよをくっ付けて、絶叫を上げるゆっくりがいる。

『ゆぎゃああああああああああ! だずげでえええええええ! あづいいいいいいいいいいい! あっ! あっ! あっ! あああああああ
ああああああ!』

 カフェの店頭にあるホースの先端を咥えて暴れまわってるゆっくりがいる。

『おみずさんでてきてね! はやく! はやぐじろおおおおおおおおおお!』

 赤ゆっくりを取引材料に、人間に水をくれと迫るゆっくりもいる。

『どうか……どうか、このおちびちゃんをあげます。 いっぱいいじめてもいいです。 だから、だから、みずを……!』
『このとおりです! おねがいじまずううう!』

 ゆっくりが平伏して差し出した赤ゆっくりたちは、枯れ切ったなけなしの水分を涙として流しながら、己のゆん生の全てを悲しんだ。 も
ちろん、そんな取引に乗る人間はいない。 ゆっくりは枯れて生き絶えた赤ゆっくりを路上に捨てて、振り返らずにおうちへと帰っていく。

『…………おちびちゃんはまたつくればいいよ。 それよりも、おみずさんだよ』

 誰かが零したのであろう、ジュースが地面に染み込んでいる箇所がある。

『じゅーすさん! ゆっくりしないででてきてねえええええええええ!』
『やめろおおおおおおお! じゅーさんはまりさのものだあああああああ! よこどりするげすはじねえええええええ!』
『あまあまああああ! あばばばああああっばああああああああああ!』

 そこでは数えきれないほどのゆっくりが押し合い、潰し合いながら、地面を必死になめている。 もちろん、そんなことで水分は採れはし
ない。 どこに液体が染み込んでいるのかも分からず、ただひたすらに地面をなめるゆっくりたち。
 哀れだ。
 酷く、哀れな光景だ。

『ゆひぃ……あついんだぜ……おねーさん、おみずをちょうだいなんだぜ』
「しょうがないわねー」

 ある散歩中の飼いゆっくりは、優雅に飼い主から貰った水を飲んでいる。
 その幸せそうな顔を見て、野良ゆっくりたりは発狂しそうになりながら、全身を震わせた。
 しかし、野良ゆっくりは人間たちを襲わない。
 襲えない。
 絶対に勝てないことはしっているし、そんなことをすれば野良ゆっくりは駆除されて全滅するだろう。
 自分のせいで何万匹のゆっくりを殺すという引き金を、引く度胸はない。 あってはいけない。

 ゆっくりたちは、枯れ果てた身体から涙を振り絞って、今日も水を採れずに帰っていく。

 しかし、賢いゆっくりもいた。
 水を人間から貰うために、対価を用意するのだ。
 もちろん、赤ゆっくりなどではない。

『おちびちゃんたち、おうちにかえっておみずさんをごーくごーくしましょうね』
『ゆっくちー!』

 成体ありすと子ありすの親子がいる。
 親ありすは口にペットボトルを咥え、跳ねる度に中の液体が揺れている。
 この親子ありすたちは、水を飲んでいる人間からお金で買ったのだ。
 野良ゆっくりたちが必死に水を物乞いする間、猛暑の中で人間の通貨を探していたのである。
 その過程で三匹のおちびちゃんがゆっくりしていたが、ついに念願の水を手に入れることができたのだ。
 交渉した人間がとても優しい人間だったことが、何よりの幸運だった。

『ゆーん。 ありちゅ、おみずがのみたいわ』
『がまんしてねおちびちゃん! おうちでのみましょうね! それがいちばんとかいはだわ!』
『ゆ? とかいはなにょ!? だったらがまんするー!』
『ええ。 おちびちゃんはとってもとかいはよ』

 ペットボトルを一度開けると、もう閉じることはできない。
 だから、おうちで開けようという魂胆だ。
 強運によって、ありす親子は水を手に入れたが、やはりそれは賢さあってのものである。
 その笑顔は、実力の果てに得たものだ。




 だが、世の中にはもっと賢いゆっくりがいる。




 一匹のれいむが、ありす親子の背後に忍び寄った。
 れいむは一も二もなく、親ありすに体当たりをかました。

『ゆげぇえ!』
『おきゃーしゃん!?』

 転がった親ありすのあんよを、素早くれいむはかじり取る。
 わずかに粘性のあるカスタードは、れいむの喉を潤すには十分だった。
 親ありすは現状を把握したのか、痛みを堪えて叫び声を上げた。 

『おちびちゃん! にげて! にげてええええええええええ!』
『おきゃーしゃんになにしゅるの! このいなかも――――ゆぎゃ!』

 体当たりしようと飛び込んできた子ありすを、ぱくりとれいむは口に含んだ。
 そして、親ありすの目の前に、歯と歯の合間に挟まっている子ありすを見せつける。

『れ、れいむ……やめて……おみずさんはあげるから、おちびちゃんだけは……』

 ぶちゅっ

『くーちゃくーちゃ! げろまずうううううううううううううううううう! まずい! ちょーまずいよおおおおおおおお! くーちゃくー
ちゃ! まずっ! めっちゃまずっ! このありすめっちゃまずうううううう!』
『あ、あああ……』
『れいむのおみずさんをよこどりした、げすありすはせいさいっしたよ!』
『ゆあああああああああああああああ! れいむううううううううううううううう!』
『ゆぷぷ! うごけないくせになにいってるの? そこでみじめにしんでね!』

 足を齧られて負傷したありすは一歩も動くことができない。
 ありす親子が駆けずり回ってようやく手にしたペットボトルを横取りされて、悠々と去って行く背中を見つめることしかできない。
 怒りのあまり吐餡しながら、ありすは狂った叫び声を上げる。
 しかし、それもすぐに止まる。

『あづい……』

 探して探して探して、ようやく手に入れた水を、一滴も飲むことができなかった。
 身体の水分はとうに抜け切り、傷口から流れ出るカスタードを止める術もない。
 直射する日光で干からびると、出餡によって死ぬのはどちらが先であろうか。
 迫り来る死の足音と、圧倒的な苦痛の中で、おちびちゃんへの愛も、れいむへの恨みも流れでて、全てに絶望しながら、親ありすは生き絶
えた。



 野良ゆっくりの世界では、よくある話である。



 ペットボトルを持ち帰ったれいむは、大喜びのおちびちゃんを見ながら幸せな一刻を過ごした。
 一刻、そう、瞬きする間である。 少なくとも、れいむはそう思った。
 あっという間にペットボトルの水はなくなり、れいむ一家は再び深刻な水不足に悩まされることになった。
 
 ありす一家のような幸運は滅多にないし、それを見つけるのはもっと難しい。

 今度は、探しても探しても見つからない。
 あちこちに干からびているゆっくりの死体を見ることができるようになる。
 生きているゆっくりは他にいないのではないかと思うほど、死体ばかりが溢れている。

『おきゃーしゃん……おみじゅしゃん……』
『おみじゅ……おみじゅううううう』
『お……が……しゃ……ん』

 れいむ一家も、限界が近づいていた。
 おうちの中も蒸し暑くなり、どこに行っても暑さからは逃れられない。
 水を得ようにも、どこにもないし、強奪すべきゆっくりももういない。

『……おちびちゃん。 ちょっとだけ、まっててね』

 ゆっくりから奪えないならば、人間から奪うしかない。
 人間の暴力は恐ろしい。
 しかし、知恵ならば自分が勝る。
 れいむはそれを確信していた。
 
『……』

 最後に一度ちらりとおうちを振り返る。
 最悪、もう戻って来れないかもしれない。
 しかし、愛するおちびちゃんのためなら、できる。 やれる。

『そこのくそどれい! でいぶにおみずを――――』






******





 どさり、と何かが落ちる音がした。

『お……ちびちゃん……』

 自分たちを呼ぶ声がする。
 赤ゆっくりたちは死力を振り絞っておうちから這い出た。
 目の前にいたのは、無残に破壊された母親であった。
 目も、口も、肌も、髪も、お飾りも、破壊され尽している。
 ただ、個体識別ができるように、申し訳程度にお飾りが残されている。
 赤ゆっくりたちは、体内から口に溢れ出そうとする餡子を感じた。
 しかし、その力ももはや残されていない。
 おうちから這い出るという行為により、大幅にエネルギーを消費した。
 もはや、一刻も早く水を飲まなくてはいけない。

『おみじゅ……おきゃーしゃん……おねぎゃい……もうわがままいわないきゃら……おねぎゃいしましゅ……みじゅ……』
『おが……しゃ、ん。 みじゅ……』
『ゆっ……ゆっ……ゆっ……ゆっ……ゆっ……』
『おちびちゃん! おちびぢゃあああああん!』

 死に体のれいむには、何もできることはない。
 一縷の望みを込めて、れいむは背後を見上げる。
 そこにいるのは、人間だ。
 人間は、ペットボトルを取り出した。
 れいむ一家はペットボトルを知っている。
 その中に水が入っていることも知っている。
 人間は膝を落として、顔をゆっくりたちに近づけた。
 ペットボトルをゆっくりと顔の前に突き出す。
 一家の顔に希望が滲み出る。
 人間は、ペットボトルの口を、己の口へと運んだ。

「ごきゅ!ごきゅ!はあああああああああ!うまああああああああああああああああああい!」

 目の前で喉を鳴らして飲む、幸せそうな人間の顔を、一家は直視してしまった。
 それは、想像を絶する絶望を齎した。
 人間は、ペットボトルの中身を飲みつくすと、ゆっくり立ち上がって帰って行った。
 一家には、一滴たりとも与えられなかった。
 一滴たりとも、希望は残らなかった。

  最期の最期まで、水を求めて、苦しんで苦しんで、苦しみ抜いて、死んだ。



言い訳
・近くに水場ありません
 ・夏の温度(気温、地熱)のせいであまり動けません
・水不足で各地が断水しています


書いた人
フェチあき


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最終更新:2010年11月15日 18:56
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