『野良ゆっくり越冬物語(後編)』 26KB
虐待 不運 越冬 番い 野良ゆ 姉妹 赤ゆ 子ゆ 現代 寒いなぁ…… 以下:余白
『野良ゆっくり越冬物語(後編)』
人目につかないようになるだけ藪や茂みの中を進む四匹のゆっくり。
たまに木の枝や小石を踏んでしまい、顔をしかめたがあんよを止めることはない。
そんな道なき道をひたすら進むと、少しだけ開けた場所にでた。
そこにはたくさんの廃タイヤが積み上げられていた。
自分たちがやってきた方向以外にも道が延びており、その先には車が走る道路がかろうじて見える。
手入れの行き届いていない周囲の状況や、人間がやってくると思われる場所が一箇所しか考えられないことから判断したのだろ
うか。
「ここをまりさたちのおうちにするよ!!!」
とりあえず、おうち宣言。
しばらく誰からも反論がないことを確認した一家に、久しぶりの笑顔が咲く。
「こっちはにんげんさんにみつかっちゃうから、こっちがわにおうちをつくろうね」
「ゆっくりりかいしたよ!!!」
親まりさの声に呼応するのは親れいむである。
赤れいむたちは、両親の目の届く範囲で休んでもらうことにしていた。
しかしながらこのタイヤ。
基本的に重い。
これを動かしてどうのこうのというのは難しそうである。
だが利用しない手はない。
そこで、親れいむと親まりさは石や木の枝を咥えてタイヤの周りに穴を掘り始めた。
野生のゆっくりも木の根の付近に穴を掘ってそこをおうちにする。
それと同じことをタイヤの下でやろうとしていたのだ。
赤れいむたちも応援の声を張り上げる。
「えいえい、ゆー! ゆっ、ゆっ、おー!」
親まりさと親れいむが笑う。
しかし、二匹の親ゆっくりは見抜いていた。
本当は寒くて仕方がないのだろう。
ここから見ていても判るほどに震えているというのに、必死に笑顔を作りながら応援してくれる我が子の優しさに胸を打たれる。
やる気を出さざるを得ない。
「れいむ。 そっちのいしさんをどかしてね! まりさはこっちからほっていくよ」
「まかせてね!」
長年寄り添った二匹のコンビネーションが冴え渡る。
短時間で穴を掘っていく姿は、寒さに震える赤れいむたちも素直に驚いているようだった。
穴を掘りながらいろんなことを話し合う二匹の親ゆっくり。
「ゆっ! にんげんさんがくるとしたら、むこうからくることがおおいはずだから……。 まりさか、れいむのどっちかが、ぜ
ったいにむこうをみはっていようね」
「そうだね! それから、ちびちゃんたちがかくれられる、ぜったいにあんぜんなばしょをつくろうよ! にんげんさんのてが
とどかないくらいのばしょに!」
「それは、めいっあんっ!だね! なんとかして、ここにもぐりこめるようなみちをつくってあげようよ!」
親まりさのいう“ここ”とは、タイヤの内側にある隙間のことである。
穴を掘り進んでその中に潜り込むことができれば、人間が手を入れるには小さすぎて入らないかも知れない。
ということは、体の小さな赤れいむたちにまで危害が及ばない可能性があるのだ。
二匹とも工夫を凝らすことに夢中になっていた。
或いは、そうすることで赤まりさを失った悲しみを紛らわせようとしていたのかも知れない。
正午になった。
二匹の親ゆっくりが作業を初めて既に二時間以上が経過している。
さすがに疲労困憊の二匹の額には汗が浮かび、泥が頬にべったりと付着していた。
「ゆはー……、ゆはーっ……」
「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!」
「……ゆ?」
親まりさと親れいむの元に赤れいむ二匹がやってきた。
「ごめんね、ちびちゃん……もうちょっとでおわるから、まってて、ね……?」
そう言って、目を丸くするのは親れいむだった。
赤れいむの小さな口に咥えられているのは、付近から摘んできた小さな花である。
もう一匹の赤れいむはどこで見つけてきたのか、ヘビイチゴを咥えている。
二匹の親ゆっくりが互いに顔を見合わせて絶句する。
「これ……は……?」
「れーみゅたち、おきゃーしゃんたちががんばっちぇくれてたきゃら、ごはんしゃんをさがしちぇきたよっ!」
「どこ、から……?」
「そこのくさしゃんのなかにはいっちゃら、おいしそうにゃごはんしゃんをみちゅけたから、ひろってきちゃんだよっ」
確かに目の前に茂みがある。
赤れいむたちはこの中に入っていったのだろうか。
いや、それよりも。
作業に夢中になっており、二匹の赤れいむの行動にどちらも全く気づいていなかった。
これには、さすがの親ゆっくり二匹も反省せざるを得ない。
赤れいむたちは最初、自分たちを応援していた場所にずっといるのだと思いこんでいのだ。
それだけでも、親として申し訳がないのにまさか食べ物まで見つけてきて貰えるとは思いもしていなかった。
二匹の親ゆが赤れいむたちが採ってきてくれた食べ物に口をつける。
美味しかった。
我が子が自分たちのために採ってきてくれた食料だ。
美味しくないわけがない。
「ありがとう……ちびちゃん」
「ゆゆーん♪ どういちゃしましちぇ、だよっ」
親まりさがくすりと笑って空を見上げた。
(そうだね……。 かりのしかたをおしえてあげられる、ちびちゃんは……まだいるんだよね……)
「まりさ! ちびちゃんたちにまけていられないよっ!! がんばって、はやくおうちをつくろうね!!!」
「ゆっくりりかいしたよ!!!」
腹ごしらえを終えて、若干の休息を取った二匹の親ゆっくりが再び作業を開始する。
親まりさも、親れいむもこの付近の土を掘るのに慣れてきたのか、さらに作業の効率が上がっているようだ。
気がついたら、赤れいむたちも、おうちの材料になりそうな木の枝や大きめの葉っぱを集めてきている。
親まりさはそんな我が子の様子を横目で見ながら微笑んだ。
自分たちは、最高の家族だと。
世界で一番ゆっくりしている、ゆっくりの親子なんだと。
自信を持ってそう言うことができた。
誰一人して不満を漏らすことなく、ゆっくりするためにそれぞれがそれぞれの方法で頑張っているのだ。
こんな自分たちがゆっくりしていないはずなどない。
日が傾き始めた午後四時。
ようやく、タイヤを利用した新しいおうちが完成した。
製作時間は約六時間である。
ゆっくりにしては大工事に他ならない。
今度は元からあったものをそのまま使ったわけでもないので、基礎になっているタイヤをどうにかされても、巣穴の体裁は残っ
ている。
ここに置いてあるタイヤを根こそぎ奪われたとしても、いきなりまっさらの更地になることはないはずだ。
新居に入っていく赤れいむたちは中で「ゆわぁ」とか「ゆっくちー」だのと歓声を上げた。
親まりさと親れいむもその後に続く。
四匹が寄り添ってぴったりぐらいの大きさの巣穴しか作れなかったが、頬をくっつけ合っているととても温かかった。
しばらくして、親まりさがずりずりとあんよを這わせておうちを出て行こうとする。
「ゆ? まりさ、どこにいくの?」
「ごはんさんをさがしてくるよ。 みんなもおなかがすいたでしょ?」
「だいじょうぶだよっ、おきゃーしゃん。 れーみゅたちがごはんしゃん、すこしはあちゅめてきたきゃらっ!」
「ちびちゃんたち……」
なるほど、確かに。
巣穴の入口付近に葉っぱや木の実などが転がっている。
今日の晩ご飯としては充分な量が揃っていた。
「それじゃあ、ちびちゃんたちがあつめたごはんさん、おかーさんたちも、もらっていいかな?」
「ゆーんっ♪ もちりょんだよっ! みんにゃでむーちゃむーちゃしようにぇ!!」
「ちびちゃん、ゆっくりありがとう!!」
親れいむが涙目になって両の揉み上げを使って二匹の赤れいむを傍へと寄せる。
それから、一家団欒が始まった。
誰も口にはしないが、赤まりさのことも考えていただろう。
ここに一緒にいてくれれば、もっと幸せな気分になれたに違いないのに、と。
それから一週間、ゆっくり一家はのんびりと過ごしていた。
広すぎない巣穴の中に、時折冷たい風が入ってきても、親れいむと親まりさがそれを遮るため、二匹の赤れいむたちには問題な
い。
周囲のタイヤも風避けの役目を果たしているのだろう。
さらに一日目に赤れいむたちが食料を獲得してきたように、狩りにもあまり困らなかった。
目の前に広がる藪の中に入っていくと、大抵なんやかんやが食料として見つかる。
そんなわけで食料の備蓄も増えていった。
周囲の気温はますます下がり、時々地面に霜柱が立つことがあったが、それでも巣穴の中に潜り込んでいれば気にならない。
赤れいむも少しずつ大きくなってきており、そろそろ子ゆっくりと呼べるくらいのサイズに変化してきている。
それに伴い、赤ゆ言葉も少しずつ抜け始めていた。
「ゆっくりしていってにぇ!!」
「「「ゆっくりしていってね!!!」」」
両親よりも早く目覚めることもあり、起こす側に回ることも多くなってきた。
食事の用意も自分でするようになったし、自分たちで両親の視界に常に入っているように意識し始めたため、手がかからなくな
ってきた。
とはいえ、まだまだ独り立ちなどは夢のまた夢である。
このゆっくり親子は優秀な固体の集団だったのだろう。
物わかりが良く、物覚えも早く、要領が良い。
あくまでゆっくり基準の話で、ではあるがそれでも個々の能力は高い方に分類されるはずだ。
こういう集団は強い。
まず、自滅するようなことはしないだろう。
三、
そんなある日。
親まりさはいつものように気温が最も高くなる時間帯を見計らって食料集めに出かけた。
この廃タイヤ置き場自体、滅多に使われることがないのか人間がこの付近に現れたことはただの一度もない。
もし、仮にそれに関連する人間がやってきたとしても、大型のトラックに乗ってやってくるはずなので、すぐに気づいて隠れる
ことができただろう。
ここは、紛れもない穴場のゆっくりぷれいすだったのである。
「おかーさん! れーみゅも、おおきくなっちゃら、まりさおきゃーしゃんとかりにいってくるよ!」
「ゆーん。 おかーさんだって、ちびちゃんたちがもっとおおきくなったら、かりにいくことだってできるんだよ?」
「それじゃあ、みんにゃでかりにいこうよっ! そうすれば、きっと、もっとたくしゃんゆっくりできるにぇっ!!!」
「なあ、今、どっかでゆっくりの声がしなかったか?」
「~~~~~っ!!!!!」
親れいむと子れいむ二匹が途端に静まりかえる。
「したした。 絶対この近くにゆっくりがいるぜ……。 暇だしさ、見つけて殺して遊ぼうぜ!」
その言葉に絶句する巣穴の奥に隠れる三匹のゆっくり。
今、なんと言ったのだろうか。
暇だから、殺して遊ぶ……聞き間違いでなければ確かにそう言ったはずだ。
息を止めんばかりの勢いで声を押し殺すゆっくり親子。
(まりさ……。 まりさ……っ!)
助けて、とは願うもののこの状況で親まりさが帰ってきたら間違いなく殺されるだろう。
巣穴の中に隠れている限りは自分たちも安全なはなずなのだ。
だから、ここで、こうしてじっとしていればいい。
……はずだった。
「みーつけた。 これだろ、ゆっくりの巣穴。 ゆっくりって馬鹿だから、どこに巣があるかすぐ分かるんだよなぁ」
「…………っ!!!」
(おかーしゃん……っ)
蚊の鳴くような声で囁く子れいむ。
「よっと……うわ、結構深いなこの巣穴」
「あんまり、手を突っ込むなよ。 噛まれるぞ」
「ちぇ……」
「こういうのはな、ま、一回当たりをつけてみようぜ?」
巣穴の周辺に現れたのは二人の小学生である。
そのうちの一人が堅く細長い木の枝を取り出して先端をカッターで削り始めた。
あっという間に、木製の槍の完成である。
「こいつをな……一思いに、ずぶっと!!!!」
「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛ッ??!!!」
「ち、ちびちゃん……ッ?!!」
考えなしに突っ込まれた細長い木の枝が子れいむの右頬を深々と貫いた。
巣穴の中で泣き叫ぶ子れいむ。
突き刺された木の枝は頬の皮を貫通して、口の中心辺りで止まっている。
「い゛ぢゃい゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」
「あっはっは、釣れたぞ!!!」
巣穴から勢いよく木の枝を引き抜く。
しかし、子れいむの頬から木の枝が抜けてしまったのか、尖った木の先端には少量の餡子がこびりついているだけで、目的の物
を引きずり出すことができなかった。
一方、巣穴の中はパニック状態である。
「いちゃい、いちゃい、いちゃいよぉぉぉぉぉ!!!!」
「ちびちゃん、ゆっくり、ゆっくりしてね!! ぺーろぺーろぺーろ……」
思いっきり突き破られた皮の穴から餡子が漏れ出している。
それを舐め取りながら、必死に傷口を塞ごうとする親れいむ。
「れ、れいみゅのいもうちょが……」
長女の子れいむはがたがた震えながら妹の子れいむに頬を擦り寄せている。
「い゛ぢゃい゛よ゛ぅ゛……ゆっぐぢできな゛い゛ぃぃぃぃ……お゛がーじゃん……だじゅげでぇ……」
子れいむがぼろぼろと涙をこぼしながら、力なく脈打つ。
痛みから来る気持ち悪さのせいか、こぽこぽと中身の餡子も吐き出そうとしていた。
垂れ下がった揉み上げに力はない。
痛みにのたうち回りたいのを必死に堪えている様だった。
「ちっ……。 しゃーないな、コレ使うか」
そう言って少年が次に取り出したのは釣りに使う市販の餌木である。
餌木とはエビの形を模した釣り道具で主にイカを釣るのに用いられる。
ちょうどエビの尻尾の部分とお腹の部分に無数のフックがついた針が備わっているのだ。
それを先ほどの棒の先端部分に紐で巻き付けていく。
あっという間に狩猟具の完成だ。
それを再び巣穴の中に突っ込んだ。
「い゛だい゛ぃぃぃぃ!!!!」
今度は棒の先端が親れいむの頬を掠めた。
しかし、餌木はヒットせずに空を切る。
それから少年の一人は巣穴の中で滅茶苦茶に棒を振り回し始めた。
いつか、餌木のフックが突き刺さるという考えだろう。
そして。
「ゆ゛びゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!」
ついに妹れいむの口に餌木のフックが突き刺さった。
木の枝の先端に伝わる重みから判断して、少年が一気に木の棒を引き抜く。
「だじぇげ……」
言い終わるより先に、妹れいむは巣穴の中から消えてしまった。
先ほどの恐ろしい道具で外に引きずり出されてしまったのである。
「ほら、見ろよ。 不細工なツラだろ。 これ、れいむ、っていうゆっくりなんだぜ」
「あはは。 苦しんでる顔がえらい汚い奴だな」
散々に罵倒される言葉すら聞こえない。
貫かれた右頬と口周りに突き刺さったフックの部分が熱くて熱くて堪らなかった。
「なんだろう。 こいつ、どこまで不細工な顔になるのか興味があるな」
「だろ? めっちゃくちゃに、ぶっ壊してやろうぜ!!!」
「ゆひぃぃぃぃぃぃぃッ?!! やめちぇよぉぉぉ……」
「聞いたか、今の情けない声! ははっ、堪らねーよなぁ!!」
少年たちはこの近くにある溜め池で釣りをするためにやってきたのだ。
冬休みの時期に入ったのだろう。
釣り道具を納めたタックルケースの中には、ゆっくりを痛めつけるのに適した道具が山ほど入っていた。
ハサミ、針、釣り糸、ラジオペンチ……。
「おでがいじばずぅぅぅ!!! ちびちゃんをがえじでぐだざいぃぃぃぃ!!!!」
「おっ♪ やっぱり親ゆっくりがいやがったか。 こりゃ、ますます楽しめそうだな!!」
「お゛がーじゃあ゛あ゛あ゛ん゛!!! ごわ゛い゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!」
「にんげんざんっ!! ちびちゃんにびどいごどじないでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!! れ゛い゛む゛だち、なんにも゛わるい゛ごどじ
でな゛いよ゛ぉぉぉぉ!!!!」
「関係ねーよ、そんなこと。 俺は、お前らゆっくりが苦しみ藻掻いて死ぬのを見るのが好きなんだよ」
「……お前、いい趣味してんな……」
「どぼじでぞんな゛ごどい゛う゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!???」
「まずはこの糞チビの目玉を抉り出して親に無理矢理食わせるか」
(こいつ、頭やばいんじゃねぇのか……)
虐待好きの少年の目つきにもう一人の少年が怯えながらも、その瞳には好奇心が宿っている。
そして、手の中でぐねぐねと動く妹れいむの眼前にハサミを突きつけた。
寄り目でそれを見つめる妹れいむ。
おそろしーしーがちょろちょろと漏れ出していた。
涙も、涎も、溢れ返っている。
少年はニヤリと笑って、無造作にハサミを妹れいむの左目に突き刺した。
「い゛っぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!????」
「う、う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!」
体全体を激しく動かしながら激痛に耐える妹れいむ。
揉み上げがぶんぶんと振り回されて、それが手首にあたるのが気持ち悪かった。
「お゛べべぇ゛ぇぇ゛っ!!! い゛ぢゃあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛い゛ぃ゛!!!!!」
「おでがいじばず!!! おでがいじばず!!!! もうやべでぐだざい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!!!」
それから、じっくり、たっぷり、ねっとりとハサミの先端で妹れいむの眼孔の中を穿り回した後、ぬるりと目玉を取り出す少年。
妹れいむは既に気を失っており、びくんびくんと痙攣を起こしていた。
その様子を見ていた親れいむが顔面蒼白の様子で歯をカチカチと鳴らしている。
目玉の奥を掻き回される間、よほど苦しかったのか、しーしーだけでなくうんうんもかなりの量を漏らしていた。
今、ぐったりとしているほうが、よほど大丈夫なように思えてくる。
瞬間、親れいむが目を見開いた。
何か思いついたようだ。
「だめだよ!!! ぜったいにでてきちゃ、だめだよっ!!!!」
「あん? なんだ、まだガキがいるのかよ……?」
「もう、こいつらだけでいいよ。 お腹いっぱいだって」
「おい、そいつ、押さえつけろよ」
「わかったよ……」
もう一人の少年が親れいむを抱え込むようにしてヘッドロックした。
「ゆ? ゆゆ?」
「可愛いちびちゃんの目ン玉食わせてやんよ」
「ゆ゛ッ?!! ……どうじでぞんなごど、ずる゛の゛お゛ぉ゛ぉ゛!!!! やべでよ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!」
「うるっせーんだよ!!!」
親れいむの口に爪先を叩き込んで隙間を作る。
それだけで、親れいむは苦悶の表情を浮かべ大量に涙を噴射したが少年にしてみれば些細な事だ。
突っ込んだ足で、下唇を踏みつけて爪先で口の上側を無理矢理こじ開ける。
「はーい。 ちびちゃんのおめめ、ですよ~」
そして、ハサミに突き刺さったままの妹れいむの目玉を親れいむの口の中に放り込んだ。
瞬間、瞳孔が開き暴れ出す親れいむ。
そんな必死の抵抗を見せる親れいむを見て、少年はニタリと笑うと素早く足を引き抜き、親れいむが目玉を吐き出す前に何度も
何度も頭を踏みつけた。
口を開くことができない親れいむ。
それどころか、踏みつけられるたびに中身の餡子が喉の奥から逆流してくる。
慌ててそれを飲み込もうとすると、妹れいむの目玉も一緒に飲み込んでしまいかねない。
口の中いっぱいに中身の餡子を含んだまま、親れいむは少年を見上げた。
踏みつける足の裏ごしに見た少年は、親れいむにとって狂った化け物のようにしか映らない。
少年が笑い声を上げた。
「何見てんだよ!」
少年が持っていた餌木付きの木の枝を力任せに親れいむの脳天に突き刺した。
瞬間、目玉がぐるりと裏返り痙攣を起こし始める親れいむ。
そのまま、親れいむを裏返して口を思いっきり開かせたあとに、口の中に溜めていた中身の餡子を妹れいむの目玉もろとも、喉
の奥へと押し込んだ。
余程苦しかったのだろう。
咳き込みながら、必死に抵抗を試みたが、結局口内の全てのものを体内へと押し込まれてしまった。
無論、妹れいむの目玉も一緒に。
「お……きゃ……しゃん……」
妹れいむがガクガク震えながら残った右の目で親れいむを見つめる。
親れいむも、泣きながら妹れいむを見上げていた。
声にならない声で、「ごめんね。 ちびちゃんのおめめ、たべちゃって、ごめんね……」と訴えながら。
左目の疼きが止まらない妹れいむ。
せっかく意識を取り戻してのも、また激痛の海に放り出されただけだった。
我慢しきれない痛みは、妹れいむの呼吸をどんどん荒くしていく。
頬の皮を突き破られ、口をフックで突き刺されて、左目を抉られて。
いったい、自分が何をしたというのだろうか。
答えは簡単だ。
何もしていない。
本当に、何もしていないのだ。
それなのに、妹れいむの口から出た言葉は……。
「ごめ……なしゃい……」
「あ?」
「もう、ゆるちて……」
「ぷっ、あははははははは!!!! 何もしてないのに、“ごめんなさい”とか“許して”とか馬鹿じゃねーの?! 言葉の意
味も知らずに適当こくような、糞ゆっくりはやっぱりお仕置きが必要だな!!!」
「やめ、ちぇ……。 おにぇがいします……。 もう、やめちぇよぅ……」
「な、なぁ……もう、そのへんで良くないか? これ以上やったら本当に死んじまうよこいつら……」
「何言ってんだよ。 ここまで痛めつけたんだ。 死なせてやらないほうがよっぽど酷いぜ」
「……ったく……」
「せっかく、タイヤがあるんだしよ。 有効活用しようぜ」
そう言って今度は妹れいむのあんよをハサミでズタズタに引き裂いた。
ハサミが皮を突き破って、中身を抉り出し、ぐちゃぐちゃに掻き回されるたびに、妹れいむが絶叫を上げる。
親れいむはもう、ただ、ただ、泣くことしかできなかった。
少年の一人は開けた場所に妹れいむを置くと、適当にタイヤを五、六本集めてきた。
少年たちの動きを怯えた様子で見つめる妹れいむ。
これから何をされるのかは分からない。
だが、ものすごく痛いことをされようとしていることだけは理解できる。
「ちょうどいいのあるじゃん」
それから、新たに拾ってきた鉄筋を親れいむに突き刺して貫通させたまま、地面に張り付けた。
体内を完全に貫かれた親れいむが中身を吐き出しながら、白目を剥く。
しーしーが狂ったように噴き出していた。
「何するんだよ?」
「タイヤを使ったゆっくりボーリング~、ってな」
そう言ってタイヤの一つを転がす少年。
妹れいむが目を見開いた。
こっちに向かってくる。
動けない自分に向かって真っ黒い化け物が一直線に向かってくるのだ。
「ゆんやああああああああ!!!!!!」
しかし、僅かにコースがずれていたのか妹れいむの揉み上げの先端に触れただけで後方のタイヤの山にぶつかった。
妹れいむがガタガタ震え始めた。
あんなのに踏まれたら潰れて死んでしまう!
それは誰の目から見ても明らかだった。
少年たちがやろうとしている“ゲーム”の意図を理解した親れいむが声を張り上げて助けを求めようとするが、声にならない。
あのタイヤは間違いなく妹れいむを捉えれば確実に潰すほどの威力がある。
それが十分に理解できていた。
しかし。
「~~~~~~~ッ??!!!!」
次のタイヤは親れいむに向かって一直線に転がってきた。
しかも、正中線を捉えている。
「ゆ゛……ゆ゛あああああぇ゛ぶるびゅぇ゛あ゛ッ??!!!!!」
親れいむの顔面にタイヤが深々とめり込んだ。
顔面の形を変形させて目玉の隙間やあにゃるから餡子がびゅるびゅると飛び出す。
前歯もへし折られて顔を凹ませた親れいむが「かひっ、こひっ……」と切れ切れに呼吸をする。
後ろ目でそれを見ていた妹れいむが恐怖に全身を支配された。
(まり……さ……、ごめんね……れいむ、もう……だめみたいだよ……)
また、タイヤが転がされる。
今度は妹れいむの顔の左半分を踏み潰した。
左側を押しやられたせいか右半分の顔の一部が裂けて、パァン!という音と共に中身の餡子が噴き出す。
そのまま、妹れいむは動かなくなってしまった。
親れいむは一点を見つめて笑みを浮かべた。
それが親れいむの最後の行動。
(まりさ……。 ずっと……ずっと、ゆっくりしていってね……)
二度目のタイヤの直撃が、親れいむを完全に潰してしまった。
そのまま事切れる親れいむ。
少年たちは、動かなくなった親れいむに石を投げつけたり、蹴りつけたりしてようやくその場を後にした。
「れいむぅ……!!!! れいむぅ……!!!!!!」
茂みをガサガサとかき分けて親まりさが姿を現す。
親まりさは一部始終を見ていたのだ。
親れいむが「出てきてはいけない」と叫んだのは、巣穴の中の姉れいむのことについてもそうだったが、一番はこの親まりさに
対してだったのである。
あれから、数秒間、親まりさと親れいむは目と目でやり取りをかわした。
(れいむも、ちびちゃんも、たぶん、もう、たすけてもらえないよ……)
(まりさもいっしょに……。 さいごまでいっしょがいいよ!)
(だめだよ……ちびちゃんは、もうひとりいるよ……。 まりさは、そのちびちゃんをぜったい、ぜったい、まもってあげてね)
(れいむ……。 ゆっくり……りかい、したよ……)
親れいむは、妹れいむを助けてあげることはできなかった。
できなかったが、親まりさと、姉れいむの命を守ったのだ。
弾け飛んだ妹れいむの皮に舌を這わせる親まりさ。
「やっと……ちびちゃんことばがぬけてきたのにね……。 かりをてつだってくれる、っていっていたのにね……」
ひとしきり妹れいむの残骸に声をかけた後、ずりずりとあんよを這わせて最愛の親れいむの元へとたどり着く。
「れいむ……れいむ……れいむ……」
鉄筋に突き刺さったままの親れいむは起こしてあげることさえできなかった。
ただ、貫かれたままの姿勢でぐったりしている親れいむに、頬を摺り寄せてあげることしか許されない。
「さびしぃよ……。 れいむ……まりさと、ずっといっしょに、ゆっくりしよう、っていってくれたのに……それなのに……こ
んなのって……ないよ……。 ちびちゃんがなにをしたの? れいむがなにをしたの? なんにもわるいことしてないのに、ど
うして、こんなひどいことされないといけないの……? あんまりだよ……どうして……どうして……どうしてっ!」
「おかー……しゃん……?」
「!!」
巣穴から姉れいむが出てきた。
親まりさのように一部始終を見てはいないが、繰り返される母と妹の悲痛な叫び声は届いていただろう。
そして、それがぱったりと聞こえなくなった理由がどうしてなのかも、理解できていたようだ。
姉れいむは悲惨な殺され方をした妹れいむと親れいむを交互に見つめて、声も出さずに涙を流した。
「おかーしゃん……。 つぎは、どこにいくにょ……?」
「ちび……ちゃん?」
「ここはもう、ゆっくりできにゃいよ……」
「…………」
お互い、言わんとすることは判っていたのだろう。
だから、もう、敢えて何も言わなかったのだ。
言葉にしてしまえば悲しみだけが溢れだす。
それから何もする気が起きなくなってしまう。
五匹もいた家族は二匹にまで減ってしまった。
それでも、賢い親まりさと姉れいむは……次に何をすべきか判ってしまっていたのだ。
悲しみに暮れる時間などないことも。
残された時間が僅かしかないことも。
また、おうちを探さなければならない。
ここに留まるのも一つの選択肢ではあった。
しかし、ここにいると妹れいむや親れいむの絶叫をどうしても思い出してしまう。
それを理解していたからこそ、どちらからともなくこの場所を離れる方を選んだ。
「さいしょの、おうちに……かえろうか……」
「うん。 それがいいちょ、おもうよ……」
互いに顔を見合わせずにあんよを動かし始める。
遠くから聞こえる車の走る音が、怖くて堪らなかった。
四、
「むきゅー……ここはぱちゅたちのおうちよ……。 わるいけれど、でていってちょうだい……」
「ごめんね、まりさ……ありすたちも、いっしょうけんめいさがしまわって、やっとこのおうちをみつけたの……」
「ときゃいはなありしゅたちのおうちにはいっちぇこにゃいでにぇ……おにぇがいよ……」
横倒しのドラム缶。
その中には“先客”がいた。
ありすとぱちゅりーの番である。
二匹の間には、親まりさ同様にちびちゃんがいるらしい。
ドラム缶の奥には寒さでガタガタ震えている顔色の悪い赤ぱちゅりーがいた。
あの赤ぱちゅりーを守るためにも、この場所を譲ることはできないのだろう。
俯く親まりさに変わって、子れいむが一言言った。
「ぱちゅおねーちゃん、ありすおねーちゃん、ゆっくりごめんにぇ。 れいみゅたちは、ほかのおうちをさがしちぇみりゅよ」
「ちびちゃん……。 そうだね……。 ごめんね、ふたりとも。 ……ゆっくりしていってね」
「……ゆっくりしていってね……」
ずりずりとあんよを這わせて去って行く親まりさと子れいむの後姿を、ありすはずっと見つめていた。
ぱちゅりーがありすの隣に寄り添う。
「ありす……」
「わかっているわ……。 ありすたちだって、このおうちにたどりつくまで、たくさん、くろうをしたんだもの……」
「むきゅ……。 しかたがないのよ……。 ぱちゅたちだって……いきていたいんだもの……」
「そうよね……。 しかたのないことなのよね……」
雪が降り始めていた。
行く宛もない親まりさと姉れいむ。
アスファルトが氷のように冷たかった。
その冷たさは容赦なく二匹から体力を奪っていく。
「おか……さ……」
「ちびちゃんっ!?」
突然、姉れいむが動かなくなった。
目は虚ろになっており、呼吸が小さくなっている。
中身の餡子が尽きようとしているのだろう。
それは、当然のように死を意味する。
「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ、……」
「ちびちゃん、がんばってね……がんばってね……」
励ます親まりさも既に意識が朦朧としている。
予想以上の寒さだった。
風が強い上に振り続ける雪。
親まりさの三角帽子にも薄らと雪が積もっている。
リボンしかない姉れいむは冷たい雪の洗礼を直に浴びている形だ。
しかも、あんよも氷の床に晒されている。
電信柱の陰に隠れて親まりさが姉れいむを温めようと頬を摺り寄せる。
それも無駄な抵抗だった。
冷え切った姉れいむの体温を温めることなどできない。
親まりさの頬も氷のように冷たかったのだ。
自然と歯がカチカチと音を鳴らし始める。
野良ゆっくりの駆除がよほどのことがない限り、あまり行われないのには理由があった。
それはこの“冬”という季節の存在である。
野生でも越冬に成功するゆっくりのほうが割合的に少ないと言われる中で、野良ゆっくりの越冬の成功率は三割に達するかどう
かだ。
野良ゆっくりたちは、冬の街という舞台の中で逃れることのできない“命の椅子取りゲーム”を強いられる。
恐らくはドラム缶の中に住み着いたありすとぱちゅりーの番も、越冬に成功することなく命を落とすだろう。
どこへ行こうとも。
どこへ隠れようとも。
人間と自然が、確実に野良ゆっくりを追い詰めるのだ。
野良ゆっくりは、決して逃げることのできない鳥籠の中で足掻き続けるしかない。
運が良いか、悪いか。
野良ゆっくりの命はたったそれだけに左右されるのだろう。
姉れいむがそっと口を動かした。
「おか……しゃん……」
「なに!? ちびちゃん、ゆっくりしてね! おめめをあけてね!!」
「ふかふかの……べっどさんが……いいなぁ……」
「~~~~~~っ!!!!!」
「それから……ひなたぼっこがしたいよ……」
「だいじょうぶだよ! させてあげるからねっ! すぐにさむくなくなるよっ!!!!」
「おかぁ……さん……」
「なに?! どうしたの!?」
それから、小さな口を震わせて、消え入るような声で姉れいむは一言呟いた。
「だい……すき……」
「おかあさんもだよ! おかあさんも、ちびちゃんのことがだいすきだよ!!! だから、おめめをあけてよぉぉぉぉぉ!!!!」
「もっと……いっしょに、ゆっくり、したかった……――――」
「………………」
そのまま、姉れいむは動かなくなった。
ゆっくりに死因があるかどうかは判らないが、強いて言うならば凍死、である。
翌朝、電柱の陰に寄り添って眠るように息絶えた、親まりさと姉れいむの姿があった……。
La Fin
最終更新:2010年12月31日 18:58