anko2311 野生の掟 前編

野生の掟 前編 23KB
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・いつも通り過去作品の登場人物が出ますが読んでなくても大丈夫です。





「ふん!まったくとんでもないどいなかね!まったくさいごまできがきかないどれいだったわ!」

 とある大きな山の森にて、一匹のゆっくりありすがぶつぶつと不服そうに文句を言っている。
 ありすが今いるこの森はとても大きく、人間と簡単な協定を結んだ群れが存在しているぐらいなので、
 この場にゆっくりであるありすがいること自体は、なんら特別なことではない。
 が、しかしこのありすをよく観察してみると、どうもその場に相応しくないような印象を受ける。
 
 その違和感の正体はありすの見かけにあった。このありす、山や森で生活している野生のゆっくりにしてはやたら小奇麗なのだ。
 髪の毛はサラサラで、おめめはパッチリ、歯もキラキラと光輝いている。
 栄養状態が良いのか肌はもちもちであり、形も適度な楕円形をしており見栄えもなかなか悪くない。
 唯一の欠点は、ありすの特徴でもあるお飾りの赤いカチューシャに、何かを無理やり引き剥がしたような小さな傷が付いていることだ。
 が、それも些細な事。同属であるゆっくり同士の目には、このありすはさぞ美ゆっくりに映ることだろう。
 しかし何故こんなゆっくりがこの森にいるのだろうか?

「ふん!まあいいわ!あんなゆっくりできないどれいのところは、もういいかげんうんざりしていたしね!
 それにくらべれば、こんないなかでも、ひゃくばいはましなはず!これでおもうぞんぶんゆっくりできるってものだわ!」

 そう言い放つありす。
 どうやらこのありすは、この森で生まれ育ったわけではないらしい。
 なるほど。それならば、このありすのやたら小奇麗な見かけにも納得がいくというものだ。
 そもそもゆっくりが独力でこれだけの健康状態と見栄えを維持することなど至難の技だ。不可能と言ってもいい。
 となれば、このありすが言っている奴隷というのも同じゆっくりのことではなく、人間のことだと気づく。
 そう、答えは至極簡単な事。このありすは元飼いゆっくりで、捨てられてこの場にいるのだった。

 

 飼いゆっくりだったころ、ありすは毎日まったくゆっくりできていなかった。
 何故なら自分の世話係のはずの奴隷が、ちっとも自分の言う事を聞かないからだ。
 ありすは奴隷にいつも問いかけていた。なぜこんなゆっくりできないことをするのかと。
 それに対する奴隷の答えはいつも意味不明で、まったくゆっくりできないものであった。

 ありすは不満だった。いつも奴隷が決められた時間に、決められた量しかごはんがを持ってこないことに。
 何故好きなだけむしゃむしゃしてはいけないのか?そう問いかけると、奴隷は、
「それはありすの体型を維持するためだよ。食べ過ぎて身動きできないほど太ったらゆっくりできないだろ?」
 と、まったく意味不明なことを言う。
 まったく理解できない!好きなものを好きなだけ食べてゆっくりできなくなるはずもないだろうに!
 だからさっさとあまあま持ってこい!

 ありすは腹立たしかった。ここはありすのおうちで、そこの奴隷を住まわせてやっているというのに、
 奴隷はおうちの一角を柵のようなもので囲って、そこからありすが一匹で出られないようにしていたのだ。
 何故ありすをこんな狭い場所に閉じ込めておくのか?そう問いかけると、奴隷は、
「そりゃそうしておかないと、ありすは家中メチャクチャにしちゃうからね。その柵の中なら自由にしてもいいよ」
 と、まったく意味不明なことを言う。
 はあ?ふざけるのもいい加減にしろ!そもそもこのおうちはありすのおうちなのだ!
 自分のおうちを自分の好きなように、こーでぃねいとしてなにが悪いというのだ!
 だからさっさとこの狭い場所から出せ!
 
 ありすは不服だった。自分ほどの美ゆっくりならば、当然毎日それに見合うだけの美ゆっくりが、代わる代わるスッキリ奉仕しに訪れるべきなのだ
 しかしそんな気配は一向に無い。それならばしかたがないと、たまに奴隷と散歩に行くときに見かける町の他の美ゆっくりたちとスッキリしてやろうと思い近づく。
 しかしそうすると、必ず奴隷に邪魔されるのだ。
 何故すっきりしてはいけないのか?そう問いかけると、奴隷は、
「当たり前だろ!そんなむやみやたらスッキリして、子どもが出来ても面倒みきれないよ。
 それに、散歩中にほかの飼いゆに手を出そうとするなんて、事前に止められたからいいものの、
 もし相手に無理やりスッキリなんてことになったら飼い主になんて詫びればいいか……」
 と、まったく意味不明なことを言う。
 無理やり?いったいこの奴隷には目がついているのか?
 ありすほどの美ゆっくりとスッキリできて誰が嫌がるものか!あれはただ単にツンデレなだけだというのに!
 他の美ゆっくりに、とかいはない愛を与えることは自分の使命なのだ!
 だからさっさとすっきりするための美ゆっくりを連れて来い!


 度重なる意見の衝突、対立、争い。そしてついに最後の一線を越える日がくる。
 何故こいつは奴隷の分際でありすにこうも楯突くのか!
 何故ありすの命令に従い、ただ言うとおりにするという簡単な仕事さえできないのか!

 もういやだ!もうこんな狭い場所でゆっくりできない生活をおくるのはもうゴメンだ!
 外で暮らしたい!こんなところ出て行ってやる!
 そして大量の食料を好きな時に好きなだけ思う存分むしゃむしゃし、広大なおうちを自由にこーでぃねいとし、
 美ゆっくりたちと思う存分スッキリするのだ!
 出せ!ここから出しやがれこの奴隷が!せいっさいするぞ!
 
 奴隷はふう、とため息をつくと、こんなことを言った。

「チッ、ゆっくりってのは、多少我侭なところがあるって本には書いてあったけど、まさかここまでとは思わなかったよ。
 一度飼った以上責任があるから今まで置いていたけど、自分から出て行きたいってのなら話は別だよな。
 お望み通りここから出てってもらうことにするよまったく。せいぜい外でゆっくするんだな」

 それだけ言うと、奴隷はありすの口に何かを無理やり押し込んだ。
 それを口に含んだ途端、ありすの意識は途絶えた。

「ふう。やっぱり興味本位でゆっくりなんかに手を出すんじゃなかったかな。
 おっと、そうだ、これは外しておかないと」

 男は、ありすのカチューシャについてるバッチを無理やり引き剥がした。
 
「流石に殺したりこの近くに捨てるのは寝覚めが悪いな。
 …そうだな、少し面倒だけど、森にでも捨てに行くか…」

 そう言い、男はありすを抱えると、そのまま車に乗り込み森を目指して出発した。


 この飼い主はゆっくりについてはまったくの初心者だった。
 しかし、きちんと、飼いゆっくり初心者用のテキストの通りに飼育しており、
 別段甘やかしすぎたり、厳しすぎたりなどはせず、その飼育の方法はそれ程誤ったものではなかった。
 ただ、まあ彼はいろいろと運が悪かったのだ。
 
 その後飼い主は、友人の勧めで今度はちぇんを飼う事になったらしい。
 そしてその嘘の様な聞き分けの良さに驚くことになるのだがそれはまた別の話。



 とにかくこうしてありすは捨てゆっくりとなった。
 といってもありす視点からすれば、自分は捨てられたのではなく、自ら不自由な奴隷の下を去ったという感覚なのだが、
 それは見方の違いというやつで、現状が変わるわけではない。
 捨てられた場所が都会ではなく、田舎の森の中だったことは、飼い主の最後の情けだったのかもしれない。
 
 とにかくありすはこの広大な森にて、第二のゆん生を生きることとなった。
 
 
 
「ふう!とにかく、ずっとここにいてもしかたないわね!とりあえず、むれというのをさがしてみようかしら!」

 一匹森の中で呟くありす。
 以前聞いた奴隷の話によると、どうやら田舎の野生ゆっくりたちは、群れというものを作って集団で生活しているらしい。
 きっと一匹では満足に生活することすらできない無能ばかりなので、みなで助け合って何とかやっていっているに違いない。なんとも効率の悪いことだ。
 もしそんな中に、このとかいはない自分が現れたどうなるだろうか?
 きっとみなその威光に無条件でひれ伏してしまうに違いない。
 あるいは群れの長というやつに、是非なってくれと頼まれるかもしれない。
 そんな面倒なことは正直ごめんだったが、群れのゆっくり全員が土下座して頼むならまあ、考えてやらないでもなかった。
 そのときは精々奴隷として使ってやろう。とかいはな自分に、いなかものが奴隷としてでも仕えることができるなんて、
 これ以上の幸福はないだろう。まったくこの森に住んでいる連中はついている。

 と、そんな妄想をしながらありすが森を進んでいると、目の前にきょろきょろと周囲を見回しているれいむに遭遇した。

「れいむ!ゆっくりしていってね!」
 早速声を掛けるありす。
「ゆゆ?ありす!ゆっくりしていってね!」

 突然声を掛けられたれいむは、やや驚いたものの、すぐに挨拶に応じる。
 が、すぐに首をかしげて疑問を口にする。

「ゆん?みたことのないありすだね!いったいどこからきたの?」
 れいむの疑問にありすは、待ってましたとばかりに胸を張ってこう答えた。
「ゆふふふふ!きいておどろきなさい!ありすはとかいからやってきたのよ!
 こんないなかのやまとはわけがちがう、しょうしんしょうめいのとかいよ!
 どう!すごいでしょ!わかったらあいりすのこと、すうはいしてもいいのよ!」

 そう堂々と言い放つありす。
 ありすの考えでは、自分がとかいからやってきたと知ったら、あのれいむはきっと腰を抜かして、
 自らとかいはのありすの奴隷にしてくださいと懇願するはずであった。
 少なくとありすはそう信じて疑ってなかった。
 が、れいむは
 
「ふーん、そうなんだ!すごいんだね!……それじゃあねありす!れいむはいそがしいからもういくよ!」
 そう微妙なリアクションをして、そのままくるりと背を向け跳ねて行ってしまおうとするれいむ。
「ちょちょちょちょっとまちなさいよ!」

 予想外の事態に、慌ててれいむを呼び止めるありす。
 何なんだこのれいむは!このとかいはなありすを目の前に残しておいて、どこかに行こうとするなんて信じられない!
 このいなかものがぁ!

「ゆん?どうしたのありす!」
 まだ何かあるのかと疑問げな様子のれいむ。
「あ、あなたいま、だれをめのまえにしてるかわかってるの!とかいよ!とかいはなのよ!
 もっとほかにいうことがあるでしょうがああああああああああああああああああ!」
「ゆう?」

 ありすの激しい物言いに対して、頭にクエッションマークを浮かべて首を傾げるれいむ。
 だめだ!きっとこのれいむは、あまりにもいなかものすぎて、とかいの意味すらわからないような底抜けのバカなのだ。
 恐らく、とかいがどれだけ素晴らしいかという想像力すらも持ち合わせていないのだろう。
 だめだ!だめだ!こんなれいむじゃ話にならない!もっとまともなゆっくりに会わなくては!

「しかたがないわね!いいわ!れいむ、ありすをむれというところまであんないしないさい!」
 高圧的に命令するありす。
「ゆーん……うん、いいよ!れいむもそろそろかえろうとおもってたところだしね!
 それじゃあれいむについてきてね!」
 れいむは少し考えた後、うなずくと、ありすについてくるよう促し、さっさと移動しはじめた。
「まっ、まちなさいよ!は…はやっ…い」

 ポヨンポヨンと軽快に跳ねるれいむの後を必死になって追いかけるありす。
 こうしてありすは、ゆっくりの群れへ向かうこととなった。




「ゆっ!ここがれいむたちのむれのちゅうしんぶだよ!ゆっくりしていってね!ありす!」
 そう満面の笑みで言うれいむ。それに対して、
「はー、はー、ぜい、ぜい、ふう、ふう」

 ひたすらに荒い呼吸をくり返すありす。
 生まれてはじめての全力疾走に疲れ、息も絶え絶えのありすは、れいむに返事をする余裕すらないようだ。
   
「ゆう!それじゃ、れいむはもういくね!あ、むれにいれてほしいなら、まずおさにあうといいよ!
 それじゃあね、ありす!ゆっくりしていってね!」
 それだけ言うと、今度こそいずこかへ去っていってしまうれいむ。
「はあ、はあ、なんだってのよあのいなかものは……」

 れいむが去った後、一息ついたありすは群れの様子を見回してみる。
 大きな山だけあって、群れの規模もそれなり大きいようだ。
 大小さまざまな種族のゆっくりたちが、そこかしこに散らばって、思い思いにゆっくりしたり、何かの作業をしていたりしている。
 都会ではまず見られない光景だった。
 
「へ、へえ!いなかもなかなかやるじゃないの!」

 今まで主に室内での飼いゆだったありすは、これだけの数のゆっくりを一度に見たことがなかったため、その迫力に少々圧倒されていた。
 これだけの数がいれば、きっと中には自分のとかいてきな素晴らしさを理解できる固体もいるだろう。
 よくよく見れば、群れの中には自分ほどではないが、そこそこの美ゆっくりも混じってはいる。
 うん!なかなか悪くないじゃないか!
 はじめに会ったれいむみたいな、いなかものばかりだったらどうしようかと思ったが、これならまあ何とか許容できそうだ。

「ちょっと!そこのまりさ!」

 ありすは近くを通りかかったまりさに声を掛ける。

「ゆん?なんなのぜ?」
「むれのおさのところにあんないしてほしんだけど!」
 相変わらずの命令口調でまりさに言うありす。
「ゆゆ!みたことないありすなのぜ!さてはしんいりなのかぜ!おさのおうちは、このさきをずっといったところにある、どうくつにいるのぜ!
 むれにはいりたいのなら、しっかりあいさつしておくといいのぜ!
 それじゃありす、まりさはいそがしいからもういくのぜ!」

 それだけ一方的に言うと、まりさはどこかへと跳ねていってしまった。

「あ!ちょっと!……もう!なんだっていうの!ゆっくりしてないわねえ!」

 自分は、長のところまで案内しろと言ったのに、まりさは道を教えるだけで、さっさとどこかへ行ってしまった。
 さっきのれいむといい、どうもこのいなかの連中はゆっくりしてない。
 やはりとかいてきなゆっくりの精神をいなかに求めるのは無理があったのだろうか?
 いやいやと、ありすは思い直す。奴らはきっとただ無知なだけなのだ。
 とすれば、素晴らしいとかいはなゆっくりを奴らに教えられるのは自分しかいないじゃないか。
 そう!これは使命なのだ!このいなかものどもに、とかいの素晴らしさを広めなくてはならないのだ!

「そうときまれば、さっそくおさにあいにいくとしましょう!そしてさっさとこのむれのおさのちいをゆずってもらわないとね!」

 長など面倒だと思っていたが、こういう事情があるならばそれもやむを得えまい。
 このいなかの群れを都会的にするという使命を胸に秘め、まりさに教わった道を一直線に突き進むありす。
 
 ちなみにありすの、群れのみんなのためにとかいはなゆっくりを広めるというこの考えは、
 表面だけみればいかにも群れを思っての行動のように思えるが、
 結局は、都会を認めさせる=自分の価値や凄さを認めさせるという利己的な行動だと言える。
 無論ありすはそんなこと少しも意識してはいなかったが。
 






「あなたがこのむれのおさかしら!」

 長のおうちへ向かう道の途中での開けた場所で、一匹のぱちゅりーが数匹のゆっくりと一緒になにやら話をしていた。
 ありすは、このぱちゅりーに、自分ほどではないが、都会的な気配を感じたのだ。
 きっとこのぱちゅりーが群れの長に違いない。そう感じたありすは早速話しかけることにしたというわけだ。

「むきゅ!その通りよ!あなたは?この辺じゃ見ない顔だけど…」
「ゆっふっふ、ありすはありすよ!とかいからやってきたの!
 このいなかもののむれに、とかいはのすばらしさをしらしめるためにね!」

 ドドンと胸を張って答えるありす。
 それに対して長ぱちゅりーは訝しげな表情で、

「都会からきた?あなたもしかして、元飼いゆだったのかしら?」
 と、そう尋ねる。
「ゆ?かいゆ?…ああ、そういえばとかいにはそんなやつらもいたわね!
 じぶんからにんげんのどれいになるような、とんでもないいなかものたちのことでしょ!
 ふん!ありすはちがうわ!ありすはにんげんをどれいにしていたの!あんなれんちゅうといっしょにしないでしょうだい!」

 そう憤慨した表情で語るありす。
 その様子を見ていたぱちゅりーは、何か呆れたものでも見るかのような目つきでさらにこう尋ねた。

「その人間さんを奴隷にして、快適な生活をしていたありすが、なんだってこんな田舎の群れにいるのかしら?
 ずっとそこに住んでいればよかったじゃない」

 ぱちゅりーの最もな疑問に対して、ありすはなんだ、そんなことかという風に答える。

「あのどれいが、あまりにもやくたたずだからよ!まいにちごはんは、きめられたじかんにきめられたりょうしかもってこないし、
 ありすを、へやのいっかくのしきりにとじこめるし、あまつさえ、すっきりすることさえきんしときたわ!
 だからでていってやったのよ!きっといまごろありすがいないから、ゆっくりできなくなってないてるわね!」
「…………ああ、そう。だいたい事情はわかったわ」

 今までの流れで、何かを悟ったかのように呟く長ぱちゅりー。

「それでありすは、ぱちぇにいったい何の用かしら?」
「ゆゆ?いままでのはなしのながれで、わからなかったのかしら?まったくこれだからいなかものは!
 ありすはとかいはなの!だからありすをこのむれのおさにしなさい!そうすれば、みんなとかいてきなゆっくりをきょうじゅできるようになるわよ!」

 ありすは、早速自分を長にするようにと要求しはじめる。
 とかいはな自分が長をやることにより、この群れの全体がとかいはになり、みなゆっくりできるというのがありすの理屈だ。

「むきゅう、いきなりやって来て、急に長にしろっていわれてもねえ?
 だいたい都会に住んでたからって、かならずしもとかいはとは限らないんじゃない?」
「な、な、なんですってええええええええええええええええ!」

 自分がとかいではないと言われて顔を真っ赤にしてプルプルと震えるありす。
 というか、とかいはうんぬん以前に、ありすの主張は突っ込みどころ満載である。
 でもそんなことで言い合いしても埒が明かないと思った長ぱちゅりーは、恐らくありすが一番反応するであろう点を意図的に指摘したのだ。
 
「んほおおおおおおおおおおおおおお!しつれいしちゃうわああああああああああああああああああ!
 こんなとかいはなありすをつかまえて、とかいはとはかぎらないなんてええええええええええ!
 いいわ!おしえてあげる!ありすがとかいはなしょうこを!」

 それだけ言うと、ありすは一息ついてから、スゥと大きく息を吸い込み、
「ありすはねぇ!きんばっじなのよ!!!」
 と、これ以上ないくらいのドヤ顔で言った。

「ゆゆ!きんばっじさん!」
「ゆーめずらしいね!」
「はじめてみたよ!」
「わかるよー!きんばっじはゆっくりできるんだねー!」

 金バッジと聞いて、今まで周囲にいたゆっくりたちもざわめきだす。
 さすがにこんなド田舎の群れでも、金バッジ効果は絶大のようだ。

「ゆふふふふ!」

 周りのゆっくりのざわめきに有頂天になりながら、ありすはほくそ笑む。

 そう!ありすは金バッジゆっくり!
 本当にゆっくりした、特別なゆっくりのみ、つけることが許される金バッジをつけていたのだ!
 これこそが、ありすが真のとかいはであると信じて疑わないことの所以!絶対の自信の源!
 本来ならば、こんないなかものどもでは、一生口を聞くことすら出来ない天上の存在!
 それが群れの長をやってやると言っているのだ!断る理由などないはず!
 そもそもこの群れのゆっくりどもは…………。

「で?その金バッジは?」
 
 己の妄想に舞い上がっている最中のありすに、長ぱちゅりーが一言冷静なツッコミを入れる。
 
「そっ、それは…」

 途端に現実へと引き戻されるありす。
 そうだった、金バッジは寝ている隙にあの奴隷に奪われてしまったのだった。
 くっ、なんてことだ、最後の最後まであの奴隷はありすの邪魔をするというのか。

「バッジがないのなら、信じろっていうほうが無理ね!」
 長ぱちゅりーがそう冷たく言い放つ。
「ちっ、ちがうの!ほんとうにありすはきんばっじなの!
 ほ、ほら!わからない?このからだぜんたいからあふれる、とかいはな、きんばっじのおーらが!」
「むきゅ!生憎とぱちぇは、いなかもでねぇ、そんなの全然わからないわ!」
「そ、そんな……」

 がっくりとうなだれるありす。
 そんなありすに長ぱちゅりーは、
 
「まあ、でも落ち込むことはないわありす!貴女が本当にとかいはで、金バッジのゆっくりなら、
 そのゆっくりとした様を、この群れで実践してみんなに見せてあげればいいのよ!
 その上で、みなが貴女のことを、とってもゆっくりできる金バッジのゆっくりだと認めれば、
 ぱちぇの長の地位を譲ってあげてもいいわ!」

 と、こんな提案をした。
 
「ゆゆ!ほんと!それはとかいはなていあんね!ぜひおねがいするわ!」

 ぱちゅりーの話に、一も二もなくとびつくありす。
 自分のとかいはなゆっくりした生活を見せ付けることで、ありすを長へと認めさせる。
 それは、この群れをとかいはにしようと考えているありすにとっては、願ってもない話しだったのだ。

「むきゅ!それじゃきまりね!今からありすは、この群れの一員よ!」
  
 そう宣言する長ぱちゅりー。
 それを聞いたありすは、満足そうにうなずくと、
 
「それじゃあさっそくありすのおうちにあんないしてもらえるかしら?」
「むきゅ?」
「とうぜんでしょ!ありすはむれのいちいんなのよ!さっさととかいはなおうちにあんないしなさい!」

 当然のことのようにおうちをよこせと要求しはじめた。
 通常群れの所属することと、衣食住を保証されることは同一ではない。
 なので、群れ入ったからといっておうちを要求することは筋違いである。
 普通ならそれくらい自分で探すなりつくるなりしろ、と言われるところであろう。
 が、ぱちゅりーは、

「ああ、そうね。そういえば、空いている巣穴があったわね!早速案内しましょうか!ゆふふふ!」

 と、あっさりとありすの要求を受け入れたのだった。
 その際に、ニヤリと口の端を持ち上げて、一瞬だけ邪悪な笑みを形作る長ぱちゅりー。
 が、それはほんの僅かの間のことだったので、ありすはおろか、周りにいた他のゆっくりの誰もが、そのことに気づくことはなかった。
 

 




「な、なんなのおおおおおおおおおおおお!このせまいおうちわあああああああああああああ!」

 案内されたおうちを目の前にして、叫ぶありす。
 ありすが長ぱちゅりーによって案内されたおうちは、洞窟タイプのもので、
 その広さは、ごく普通のゆっくり一家が全員入って、まあまあゆっくりできる程度のスペースが確保されており、
 さらに、奥には食料を貯蔵できるスペースがあるつくりのものであった。
 この群れでは一番標準的なおうちだ。
 ありす一匹で住む分には何の問題もないはずである。
 が、しかしありすは不満な様子だ。

「こんなせまいばしょで、ゆっくりできるわけないでしょおおおおおおおおおおおおおおおお!
 きはたしかなのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 
 そう長ぱちゅりーに噛み付くありす。
 狭い!狭すぎる!
 以前の奴隷と住んでいたおうちの、囲まれていた部分のさらに半分の半分よりも狭いんじゃないだろうか?
 いったい何を考えているんだこのいなかものは!

「あら?お気に召さなかったかしら?生憎今はそこしか空きがなくてね。
 でもこの群れでは、どこのおうちもこんなもんよ。
 それに別に無理して、このおうちに住む必要はぜんぜんないのよ!自分でもっと広くて、とかいてきなおうちを作ればいいじゃない!
 とかいはな貴女なら、それくら簡単なことじゃなくて?
 これからは、自由におうちをコーディネイトするといいわ!」

 長ぱちゅりーは淡々とありすに語る。

「ゆぐぐぐぐ!もういいわよ!そんなことより、ごはんはいつになったらもってくるの!
 ありすはいいかげんおなかぺこぺこよ!」

 そう浅ましくも食料を要求するありす。

「あら、おうちの次は食料?流石にそこまではサービスできないわね。
 野生で生きていくつもりなら、自分の食料くらいは自分で確保しないと。
 群れの広場にいけば、どこでどれだけの食料が取れるかの情報交換をしているから、利用するといいわ!
 ま、もっとも、とかいはな貴女なら、そんなこと不要でしょうけどね!
 これからは、好きなものを、好きなだけ、好きなときにむしゃむしゃすればいいわ!」
「ゆ?……え?」

 ありすは長ぱちゅりーが何を言っているのか理解できなかった。
 自分の食料は自分で確保?何を言ってるんだ?食料は奴隷が持ってくるものじゃないのか?
 いや、待てよ、そもそも奴隷はいつもどこから食料を持ってきているんだ?
 わからない。わからないが、なんだか腹の底から未知の不安がせり上がってくるようなそんなゆっくりできない感じが……。

「あ、そうそう!肝心なことをいい忘れていたわ!
 この群れは人間さんと、協定むすんでいるの!だから絶対に守らなくちゃならない掟があるの!
 まず、山を降りたところにある人間さんの村には絶対近づかないこと!
 つぎに、むやみにおちびちゃんをつくらないこと!とはいえ別に、つがいになるのはかまわないわ!
 これからは、誰に邪魔されることなく、好きなだけほかのゆっくりと、とかいはな愛とやらを語ればいいわ!
 ま、もっとも、相手にも選ぶ権利があるけどね!ゆふふふふ!」

 意地悪く笑う長ぱちゅりー。
 何故笑ったのかありすには理解できない。
 だがその笑みには、何となく悪意のようなものがあることは理解できた。

「掟はほかにも、群れのゆっくりに迷惑をかけないとかいろいろあるけど、詳しいことは、群れのみんなにでも訊いてちょうだい!
 掟を破ると、せいっさいされたり、群れを追放処分になったりするから気をつけてね!
 それじゃあねありす!貴女がこの群れで、とかいてきなゆっくりの生活とやらがおくれるかどうか、期待してるわ!」

 自分の言いたいことだけ言うと、さっさと長ぱちゅりーはその場を退散していってしまった。

「あ、ちょ、ちょっと」

 その場に一匹ポツンと残されるありす。
 何だ?何なんだいったい?何かがおかしいぞ?
 ひょっとして自分はなにかとんでもない思い違いをしていたのではないか?
 そんな恐怖にも似た不安がありすをじわじわと苛む。
 それは、いままで決して崩れることがないと思っていた頑丈な足元が、突然何の前触れも無く崩壊していくような感覚…。

 いや!いやいや!そんなことあるはずがない!
 そうだ!自分はとかいはじゃないか!それは以前つけていた金バッジが証明してくれている!
 何も悩むことはない、全ては思い通りにいくはずだ!
 今は、いろいろなことが一度に起きたから、ただ単に疲れているだけなんだ!
 もう今日はさっさと寝てしまうとしよう。
 明日になれば、きっと全て上手く回りだすに違いない!
 そう思い、ありすは自分のおうちをきょろきょろと見回し、
 
「………………?」
 そしてあることに気づいた。
「どうしてふかふかのべっどさんがないのおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
  
 ない!とってもとかいはな、ふかふかとしたベッドさんがない!あれがないと、ゆっくりと気持ちよく眠ることもできないじゃないか。
 こんなゴツゴツとした地面で眠れというのか!ゆっくりできないなんてもんじゃない!
 いやそれどころじゃないぞ、ゆっくりとした、だんりょくのくっしょんさんも!とかいはないんてりあなかぐさんも!そのほかにも、
 奴隷のおうちにあったものがなんにもない!これじゃとかいはなこーでぃねいとだってできやしない!
 
「こんな!こんなのゆっくりできないいいいいいいいいいいい!」

 ようやくありすは少しずつ気づき始めてきていた。
 人間の元を去り、野生で生きるということがどういうことかということに。


 後編へ続く
最終更新:2010年10月06日 20:02
ツールボックス

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