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anko2266 長の資質 前編

長の資質 前編 34KB
制裁 自業自得 仲違い 同族殺し 群れ 自然界 いつもどおりムダに長め


・いつも通り過去作品の登場人物が出ますが読んでなくても大丈夫です。








「……むきゅ、どうやらとうとうぱちぇにもおむかえがきたようね…」

 とある群れの大きな洞窟内。
 今ここで一匹のゆっくりぱちゅりーの寿命が尽きようとしていた。

「ゆゆ!おさ!しんじゃいやだよ!」
「おさー!ゆっくりしなないで!」
「ゆー!おさ!ながいきして、れいむたちにもっといろんなことをおしえてね!」
「…………………」

 どうやら群れの長であるらしい老ぱちぇりーを取り囲む沢山のゆっくりたち。
 そしてそこからやや離れたところで黙って事態を見守っている一人の男。

 この男の素性は、ゆっくりに対して国が設立した専門機関の職員であった。
 その機関はゆっくりに対するあらゆる問題に対応しており、男はいわばゆっくりのプロといえる人間である。
 その彼が何故この群れにいるかというと、それはゆっくりたちの視察のためだった。

 今男がいるこの群れは人間との間に簡単な協定を結んでいた。
 その内容は、ゆっくりの数が増えすぎないように決められた数以上ゆっくりを増やさないこと、
 麓の村まで降りて来ないことなどの条件をゆっくりが承諾する代わりに、群れにむやみに人間が攻撃や干渉をせず、
 ゆっくりに自身に群れの自治を認めるというものだ。
 だが現実問題として一度協定を結んでそれっきりというわけにもいかない。きちんと協定が守られているかどうか定期的にチェックする必要があるのだ。
 そこで男のような人間が、群れへと確認のために訪れるというわけだ。
 
 そして男は今回の視察対象の群れにて、冒頭の今にも寿命を迎えそうな長ぱちゅりーに遭遇していた。




「ゆゆ!にんげんさん!おさをたすけてね!おねがいだよ!」
 
 ゆっくりならばどうしようもないことでも、人間ならば何とかできるかもしれない。
 そういった淡い期待を抱きながら、一匹のゆっくりが泣きながら男に懇願する。

「……悪いな。そいつはできない相談だ」
 だが無常にも男の答えはノーであった。
「ゆゆー!どうじてええええ!」
「にんげんさん!いじわるいわないでね!」
  
 それを聞いて騒ぎ立てるゆっくりたち。 
 別に男は意地悪を言っているわけではない。
 人間はゆっくりの群れに対して基本不干渉とはいえ、男はそこまで狭量ではく、おそらく簡単な怪我や病気程度だったら直してやっただろう。
 だが目の前の長ぱちゅりーはもう明らかに長くはない。野生のゆっくりとしては大変珍しい老衰による衰弱死の前触れであった。
 老衰を治す手段などない。それはゆっくりに限らず全ての生き物に共通していることである。 

「むきゅ、みんな、にんげんさんにむりをいってはだめよ。ぱちぇはもうじゅみょうなの。これはしかたないことだわ」

 そう何かを悟ったように静かにほかのゆっくりを諭す長ぱちゅりー。このぱちゅりーは既に自身の死を受け入れていた。
 
 このぱちゅりーの年齢がどれほどなのかを男は知らない。
 なぜならこの群れの視察は前任者からの引継ぎで担当することになったからだ。
 だが相当に長い間長としてやってきたいたという事は知っていた。
 つまりそれだけこのぱちゅりーは長として優秀だったということだ。その能力は今さら疑うべくない。
 だが、男には一つ気がかりなことがあった。

「あーと、ぱちゅりー。こんなときに聞くのも不謹慎かもしれんが、後任の長は決まっているのか?」

 男は長ぱちゅりーに尋ねる。気がかりなこととはこれだった。
 群れの長が死ぬ場合、後継者問題は重要である。
 長が、きちんと後継者を指名せずに逝ってしまった場合、誰を長にするかでつまらない諍いが起き、
 そのまま群れが空中分解してしまうこともよくあるのだ。

「むきゅ、それならだいじょうぶ。むれでいちばんあたまのいいぱちゅりーに、おさになるようにおねがいしておいたわ。
 のうりょくてきには、とびぬけてゆうしゅうというわけではないけれど、すでにおきてのかたちができているこのむれならば
 もんだいないとおもうわ」

 どうやら男の杞憂であったらしい。すでに長の後継者は指名済みのようだ。
 とはいえ、長ぱちゅりーの話では、新しい長として考えているぱちゅりーはそこまで優秀というわけではではないらしい。
 が、別にそれでも深刻な問題は発生しないだろうとも思う。
 通常、何もないところから新しい群れができる場合、当然ながらその群れの長は強いリーダーシップと高い能力が要求されるだろう。
 だが、この群れのようにすでにある程度の歴史のある群れならば、長にはそれ程高い能力は必要ないのだ。
 今までの運営で問題がなければ以前のやり方を継承して、無難にやっていけるだけの能力があればよい。
 そしてその程度の能力ならば、後継のぱちゅりーにもあると長ぱちゅりーは考えていた。

「そうか。それなら心配ないな」
 男が静かに答える。
「むきゅ、それはどうかしらね。いっぴき、げんきすぎるこがいるから、それがちょっとしんぱいなんだけどね…
 まあでもいまとなっては、ぶじにむれがつづいていくようにいのるしかないわね」
 そう静かに呟くと、長ぱちゅりーは疲れたのか、静かに目を閉じた。
「……………」
(あのぱちゅりー、おそらく明日までは持たないだろうな)
 そんなことを思いながら、男はひとまず退散することにした。


 そして男の予想通りその日の夜。長ぱちゅりーはふっと眠るように息を引き取ったのだった。
 



 次の日。

「むきゅ!というわけでこれからは、ぱちぇがむれをおさめることになったわ!よろしくね、にんげんさん」
 二代目長であるぱちゅりーが、この日もやってきた男に挨拶する。
「ああよろしくな。と、言っても別段何かが急に変わるわけでもないんだけどな。
 取りあえずは今まで通り、群れの規定数を守って、麓の村に降りてこなければこっちからは特に何も言うことはないよ」
 そう男が答える。
「むきゅ!それはたすかるわ!ぱちぇは、せんだいのおさからなにひとつやりかたをかえるつもりはなかったから」
 二代目は安堵したような顔で言う。
「それがいい。今まで上手くいってたんだから、急に何かを変える必要もない」
「むきゅ!」

 二代目ぱちゅりーが男に同意するようにうなずく。
 このぱちゅりーは先代の意思をきちんと理解しているようだった。
 これならばとりあえずは安心だろう。
 そう思い、男が群れを立ち去ろうとしたそのとき、
 
「ちょっとまってね!」

 男と長ぱちゅりーに声がかけられる。

「ぱちゅりー!まりさたちは、ぱちゅりーのやりかたに、いぎをとなえるよ!」

 そう声高々に主張するのは、一匹のまりさだった。
 その周囲にはたくさんのゆっくりを引き連れており、あまり交友的とは言いがたい視線でぱちゅりーを睨みつけている。

「む、むきょ?ど、どういうことなの!?」

 突然のまりさたちの宣言に目を丸くしておろおろするぱちゅりー。

「どうもこうもないよ!まりさたちむれのゆっくりにことわらずに、かってにおさをきめちゃうなんて、おかしいでしょおおおおおおおお!
 まりさはぱちゅりーがおさになるのは、はんったいだよおおおおおおおおお!」
「そうだ!そうだ!」
「おさにふさわしいのは、このとかいはなまりさなのよ!いなかもののぱちゅりーなんかじゃないわ!」
「みょん!まりさはゆっくりできるみょん!」

 口々に叫ぶまりさと、その取り巻きのゆっくりたち。
 それらの発言を要約すると、どうやらぱちゅりーは群れの長に相応しくない。まりさを長にしろ!と主張しているらしい。
 実にわかりやすいことだ。

「えーっと、まりさ。このぱちゅりーは前長の推薦で長になったわけだから、勝手に長になったわけじゃないぜ。
 ひょっとしてそのへんの話がまだ群れに伝わってなかったりするのかな?」

 男がまりさに尋ねる。
 前長は老衰とはいえ急死だっため、このぱちゅりーが長によって指名されたことを知らないのかと思ったのだ。
 
「もちろんしってるよ!」
 だが予想に反して、まりさはそのへんの事実を了解していた。
「じゃあなぜ反対する?前長の指名だ。何の問題もないはず」
 男はいぶかしげに顔をしかめる。
「もんだいおおありだよ!おさのやりかたはふるいよ!こんなんじゃみんなゆっくりできないよ!
 まりさがおさになったほうが、きっとみんなゆっくりできるようになるにちがいないんだよ!だからまりさがおさをやるよ!」
 そうまりさは、そうけたたましく主張する。
「……そういうことか」
 ふう。とため息をつきながら男は呟く。

 つまりこのまりさは、前長がぱちゅりーを指名したことを知りつつ、それを不服として、我こそが長に相応しいと抗議に来たというわけだ。
 まあ、組織のトップが入れ替わるようなときには、我こそは次のリーダーだと名乗りを上げる輩がぼつぼつと出るものだ。
 こういった事態はゆっくりの群れに限らず、何かしらの集団ならばわりとよくあることである。
 
 実際このまりさは、前長ぱちゅりーが死ぬ前から、次に群れの長には自分が相応しいと必死にアッピールしていた。
 あんなぱちゅりーなんかよりも、自分が長をやったほうが、みなゆっくりできると。
 だが、ついに前長はまりさを指名することはなかった。
 前長の目には、まりさは長として相応しくないとうつっていたのだろう。

 まりさの理想としては、前長に指名してもらうのが一番いい。
 だがそうはならなかった以上こうして直接の抗議行動に踏み切ったわけである。

「おらおら、いたいめをみたくなかったら、さっさとおさのちいを、まりさにわたすみょん!」
 取り巻きのみょんが一歩前に出てぱちゅりーに脅しをかける。
「むきゅ!むりやりおさのちいをうばうき?そんなことをしたって、だれもついてこないわよ!」
 毅然としてみょんに対して向き直るぱちゅりー。脅しに屈する気はないようだ。
「そうだな。それはやめておいたほうがいいな。死ぬから」
 そう言いながら、男はスッと目を細め、前にでたみょんを見下ろす。
「ひぃ…」

 その静かな迫力にびびったのか、情けない声を上げてのけぞるみょん。
 男は基本的にどちらの味方でもない。が、ここでぱちゅりーがやられれば結果として群れが荒れることになるだろう。
 そんなことになっても男の得は全然ない。だから取りあえずこの場はぱちゅりーの側につくことにしたのだ。

「そうだよ!くだらないことはやめてねみょん!ほら、ぱちゅりーにあやまって!」
 意外にも、まりさがみょんをたしなめる。
「ご、ごめんだみょん……」
 それに応じて、素直に謝罪するみょん。

 どうやらこのまりさたち、単純に力だけで長の地位を奪いに来たゲス集団とはちょっと違うようだった。
 まりさは言う。
 
「まりさは、おさのちいがほしいわけじゃないんだよ!ただこのむれのみんなをゆっくりさせたいだけだよ!
 だからこれから、ひろばにむれのゆっくりたちをあつめて、ぱちゅりーのしゅちょうとまりさのしゅちょうをきいてもらうことにするよ!
 それでどっちが、おさにふさわしいか、みんなにえらんでもらうんだよ!それならもんだいないでしょ!」
「むきゅ!いいわ!」

 まりさの提案を受けて立つぱちゅりー。
 前長の推薦を受けて長になったぱちゅりーは、本来ならばこんな提案を受けるまでもなく長として確定しているし、
 恐らく群れのみなもそれを支持するだろう。
 だがあえてぱちゅりーはこの提案を受けることにした。
 ぱちゅりーは自分には負ける要素がないと思っていたし、ここでしっかりとこのまりさを納得させておいたほうが、
 今後このまりさとのトラブルが少なくなると考えたからだ。
 こうして、二匹の長候補による公開演説が決定した。

 
「みんなをゆっくりさせたいねぇ…。そりゃちょいと危険な考えなんだよな」
 ことをの推移を見守りながら、誰にも聞こえないような小さな声で男がぼそりと呟いた。







 ざわ…ざわ…
 群れの中央ある広場にて、群れ全てのゆっくりたちがごった返している。

「なんだかあたらしいおさをきめるために、ぱちゅりーとまりさがえんぜつするらしいよ?」
「わかるよー!あたらしいおさは、ぱちゅりーできまりなんだねー!」
「そうだね!まえのおさがえらんだんだからまちがいないよね!」
「もういっぴきのこうほのまりさは、わかいこたちにはにんきがあるみたいだけど…」
「みょん!どこのうまのほねともわからないゆっくりにおさをやらせるわけにはいかないみょん!」
 
 二匹の長候補について雑談をするゆっくりたち。
 前評判ではやはり、前長の指名という強力なバックがあるぱちゅりーが圧倒的優位なようだ。
 それに対してまりさの方は、取り巻きの若いゆっくりたちからはそれなりに人気があるようだが、
 群れ全体としてはあまり知名度が高くないようだ。
 こうなるともはや勝負は決まっているようにも思える。

「ゆっ!ぱちゅりーがでてきたよ!」

 誰かが叫び声を上げ、広場の中央に演説するために現れたぱちゅりーへ一斉に注目が集まる。
 そんな中、ぱちゅりーは皆の視線が自分に集まったのを確認すると、ゆっくりと話はじめた。

「むきゅ!みんなきいてちょうだい!ぱちぇがあたらしくおさになっても、むれのルールはいままでとまったくかえるつもりはないわ!
 みんなもいまのままでおなじようにゆっくりすればいいのよ!それでうまくいっていたんだから!
 みんなもそっちのほうがいいでしょ?むずかしくかんがえることはないの!いままでどおり、みんなでむれをいじしていきましょう!」
「「「「ゆーー!」」」」

 ぱちぇりーの演説に答えて、複数のゆっくりが賛同の声を上げる。中々の好感触といえるようだ。
 そもそもこの群れは前長が有能なこともあって、今まで大した問題が起こることなく長い間そこそこにゆっくりすることができていのだ。
 ゆえに別に今のままでも、耐えられないような大きな不満などない。今までと同じ統治をするというぱちゅりーを否定する理由はないのだろう。

「やっぱり、ぱちゅりーがおさできまりだね!」
「とってもとかいはなえんぜつだったわ!」
「わかるよー!ぱちゅりーならあんっしんできるんだねー!」

 口々にうなずきあう広場のゆっくりたち。
 今、この場は完全にぱちゅりームードだった。

「みんなきいてね!!!」

 と、そんな雰囲気の中、大声で演説を始めるもう一匹の長候補のまりさ。
 みながすっかりぱちゅりームードに染まる中で、いったい何を語ろうというのか?

「たしかにせんだいのおさは、それなりにはゆっくりできたよ!でもみんなそんなちいさなゆっくりでまんぞくなの?
 そうじゃないよね!まりさがおさになれば、みんなをもっともっとゆっくりさせることができるよ!」
「「「「……………」」」」

 自分が長になれば今よりずっとゆっくりできる。
 まりさはそう主張した。だがその話を聞いているゆっくりたちの反応はいま一つであった。
 それはそうだろう。何の根拠もなく、突然自分がやったほうがよくなると言われても信じられるはずもない。
 そんな訳のわからない主張のゆっくりを長にするくらいなら、いままで実績のある前長のやりかたを踏襲すると主張している
 ぱちゅりーを長に選択するのは極めて常識的な判断だ。
 
 そんなことはまりさとてわかっていた。
 だからこそまりさは語ったのだ。自身が長になったときの具体的な政策を。

「まりさがおさになったらまずてはじめに、むれのおきての、しゅうきゅうふつかせいをはいしするよ!」
「ゆゆ!?」

 今まで適当に聞き流していた、一部のゆっくりたちがその言葉にピクリと反応する。

 週休二日制とはこの群れが導入している掟の一つで、具体的には五日間働いて、二日間休む制度のことである。
 我々にしてみれば、何当たり前のこと言っているんだというこの制度だが、ゆっくりの群れでこういう概念を適用しているのは珍しかった。
 つまりこの群れでは、一週間の内に五日間はかならず働かなければならないことを、群れの掟としていたのだ。
 働くといっても、別に会社勤めや公共事業を行うわけではなく、つまり普通の狩りなどの生きるための普通の行為を
 週五日は必ずしなさいということだ。

 ゆっくりは、いやこれは人間にも言えることなのだが、基本的にめんどくさがりやな者が多い。
 なので、ゆっくりしたさ優先で、何とかなるやと思ってギリギリまで狩りに行かなかったりして、
 そのまま食糧不足に陥って餓死したり、犯罪に走ったりするものがよく出てしまうのだ。
 そういった堕落を避けるために、いっそのこと、群れである程度の労働を義務化してしまおうというのがこの週休二日制の狙いだった。
 事実、この掟のおかげで群れは、他の群れと比較しても、圧倒的に餓死率や犯罪率が低かった。
 みんな掟に従って、多少嫌でも五日間きちんと働いて食料を得ているからだ。
 その意味でこの掟は群れの維持にかなり貢献しているといえる。
 
 だがまりさはこの掟を廃止するというのだ。
 
「こんなゆっくりできないおきてはいらないよ!これからはじぶんのすきなときに、すきなだけゆっくりすればいいんだよ!」
 まりさは力強く主張する。
「ゆゆ!しゅうきゅうふつかせいがなくなるの?」
「もしそうなったらいまより、たっくさんゆっくりできるようになるね」
「わかるよー!まいにちがにちようびなんだねー!」

 まりさの演説を聞いて、にわかにざわめきだす聴衆たち。

「ゆゆ!こんなんでまんぞくしてたらだめだよおおおおおおおおおお!」
 自分の主張に確かな手ごたえを感じたのか、さらに声を大にして演説を続けるまりさ。
「まりさがおさになったあかつきには、みんなからもらうぜいを、もっともっとすくなくするよおおおおおお!」
「!?」

 まりさの発言に対して、今度は先ほどよりも明らかに多くのゆっくりたちが反応する。

 この群れでは、みなが取ってきた食料のいくらばかりかを、税として取り立てる掟があった。
 それらはもしもの時のために貯蓄され、群れの運営のために有効活用されるのである。
 まあ、これはわりとどの群れでも行っていることだ。特別なことではない。
 が、もちろん自分が取って来た食料を税として捉えるのはゆっくりできないことだ。
 不満に思っているゆっくりが多いことを理解するのに、特別な想像力は必要ないだろう。
 その税の量を減らすとまりさは主張しているのだ。

「ゆゆ!ぜいのりょうがすくなくなるの?」
「もしそうならいまよりたっくさんむしゃむしゃできるようになるね」
「わかるよー!まいにちがごちそうなんだねー!」

 ざわ…ざわ…。
 広場の様子は、さっきまでは小さな小波の様なざわめきがちらほらと聞こえる程度だったのが、
 今ではそれは、はっきりとした大きなうねりになりつつあった。
 
「まだまだこんなもんじゃないよ!ほかにもむれのゆっくりたちを、ゆっくりさせるためのせいっさくが、
 まりさにはたっくさんあるよおおおおおおおおおおおおお!
 いまいったことは、まりさがおさになれば、げんっじつのものとなるんだよおおおおおおおおおお!
 みんなまりさといっしょに、このむれをさいっこうのゆっくりぷれいすにしていこうよおおおおおおおお!」
 
 広場の様子から確かな手ごたえを感じたまりさは、ここぞとばかりに一気に畳み掛ける。
  
「んほおおおおおおお!すてきよおおおおおおお!まりさあああああああ!」
「さっすがまりさだね!さいっこうにゆっくりしてるよおおおおおおおおおお!」
「まりさこそがしんのおさだみょん!いままでのやりかたはふるいんだみょん!」
「わかるよー!まりさがおさになれば、いままでとはくらべものにならないほどゆっくりできるんだねー!」

 加えて、まりさの取り巻きである若いゆっくりたちも、場を盛り上げるために口々にまりさを賞賛し始める。
 いわゆるサクラ行為というやつだが、今のこの場では効果は絶大だった。
 
「ゆゆ!れいむなんだか、あのまりさがおさになったほうがゆっくりできるきがしてきたよ」
「たしかにゆっくりできそうな、おきてばかりだったね」
「ぜんおさは、たしかにそれなりにゆっくりできたけど、なんだがよゆうがないかんじだったよね」
「くちだけじゃなくて、きちんとかんがえをもっているみたいだし、いっかいやらせてみたらどうかしら?」

 さっきまでのぱちゅりームードはどこへやら、口々にまりさ優位の発言をするゆっくりたち。
 まあそれも当然だ。
 自分たちの生活に直接有利になるような政策を、大々的に主張されたらそれに耳を傾けたくなってしまうのが人情というものだ。
 ましてやゆっくりというのは、知っての通り基本的にゆっくりすることを最優先する特徴がかなり強いのだ。
 この流れはある意味必然と言えたかもしれない。
  
「む、むきゅ!こ、こんなことって、いったいどうすれば……」

 さっきまで自分優位の展開だったはずなのにいつの間にか、すっかりまりさムードに変わってしまった広場の様子に、
 ただおろおろとすることしかできないぱちゅりー。

 このぱちゅりー。前長が死ぬ前に男に言っていた通り、バカではないが別段特別に優秀というわけでもなかった。
 既にある掟の通りに群れを堅実に運営していくことは出来るだろうが、今この場で起こっているような予想外の出来事を、 
 独力で何とか解決するだけの力は持ちえていないのだ。
 いかに前長が優秀だったとはいえ、後継者の資質だけはいかんともしがたい問題だったわけだ。

「ゆゆ!これはもうまりさがおさできまりだね!」
「そうね!このむれも、あたらしくうまれかわるときがきたのよ!」
「ゆっくりー!ゆっくりー!」

 広場のゆっくりたちの興奮は最高潮に達し、その勢いのままに、まりさが長へと確定しようとしていた。

「ゆゆ!それじゃあみんなまりさがおさにけっていでいいね!」

 場の勢いのままに、まりさが長への就任を宣言したその時、

「……あのー、ちょっといいっすかねぇ」
「ゆ?」

 広場のゆっくりたちの集団の一番後ろにて、黙ってことの推移を見守っていた男が突然まりさに話しかけた。
 そう。今、この場にいたのはゆっくりたちだけではなかったのだ。
 人間の男もしっかりとぱちゅりーとまりさの演説の様子を聞いていたのだ。

「なに?にんげんさん!なにか、まりさにもんくでもあるの!」
 自分の勝利宣言を邪魔されたのが気にさわったのか、まりさは若干不機嫌な様子で男に尋ねる。
「いや、まあ文句ってわけでもないんだけどさ。
 さっきから聞いてると、前長の掟を廃止するような主張ばかりみたいなんでね。
 確かに掟ってのは、基本的には自由を縛るもんだ。沢山あればそれだけゆっくりできなくなるかもしれないし、
 逆になくなれば、そのぶんだけゆっくりできるようになるかもしれないよな。
 だけど、それでもあえてそんな掟が存在するという意味を考えてみてもいいんじゃないか?
 きっとそれは群れのを運営する上で、必要なことだったはずだ。
 今までそれなりにゆっくりと暮らしてこれたのは、案外その掟があったおかげだったのかもしれないぜ」
 
 本来なら自由を縛るルールなんてないに越したことはない。
 だがそれは理想論なのだ。
 十人十色とはよく言ったもので、人が十人集まれば、十通りの物の見かた、考え方というものがある。
 それらがまとまるためには、ある程度の縛りは絶対に必要なのだ。
 ましてやこれはやたらと我が強いゆっくりたちの群れの話なのである。
 しっかりとやっていことうすれば、多少ゆっくりできなくとも、それなりにきちんとした掟は必要不可欠なのだ。

 男がまりさに語った内容はつまりそういうことであった。
 だが、まりさの返答は……。
 
「うるさいよ!これはゆっくりのむれのもんだいでしょおおおおおおおおおおおおお!ぶがいしゃのにんげんさんはだまっててね!
 そもそも、いままでのむれのおきては、せんだいのおさがにんげんさんとそうだんしてきめたってきいたよ!
 にんげんさんが、かんがえたおきてで、ゆっくりがゆっくりできるわけないでしょおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 
 ぎゃーぎゃーとがなりたてるまりさ。
 まりさが言ったことは事実であり、実はこの群れの掟の基礎は、男の前任者が考案したものである。
 というのも前長であるぱちゅりーが、群れが出来たばかりの頃に、
 上手く群れを治めてくにはどうすればよいかと前任者のアドバイスを求めたからだ。
 そこで提案された掟は、群れの全てのゆっくりをゆっくりさせることのできるものではなかったが、
 実に堅実で、長い間群れを存続させていくことのできる内容のものであった。

 だがしかし、若いゆっくりであるまりさには、これらの掟は人間が自分たちの都合で作り上げたゆっくりできないものとして捉えていた。
 人間なんかが作った掟なんかでゆっくりがゆっくりできるはずはないのだ!
 自分ならもっとゆっくりさせることができる。これがまりさの行動原理だった。
 それ故に、男の発言はまりさに激しい反発を引き起こした。
 
「にんげんさんがゆっくりのぷろ?わらわせないでね!ゆっくりのことはゆっくりがいちばんよくわかってるんだよ!
 にんげんさんはどうすればゆっくがほんとうにゆっくりできるかわかる?わからないでしょおおおおおおおおお!
 まりさにはそれがわかるっていってるんだよおおおおおおおおおおおおお!」
 
 やかましく騒ぎ立てるまりさ。
 さっきまでの演説で高揚したまりさのテンションは、明らかにどこかあさっての方向に振り切れていた。
 それと対照的に広場のゆっくりたちは、みな緊張の面持ちであった。
 何故なら、まりさの人間に向かって暴言ともとれる物言いに、人間が怒ってまりさを潰してしまうかもしれないと思ってたからだ。

 だがそれに対して、男は別段気を悪くした風でもなく答えた。

「なるほどね。まあ確かにお前の言っていることで正しいこともあるよ。
 オレには……いや、たとえ他のどの人間であっても、ゆっくりの気持ちなんてもんはさっぱりわからないだろうさ。
 てか、ぶっちゃけそんなもんどうでもいいしな。重要なのはそこじゃねえ。
 オレがわかってることはさ、まりさ。もしこのままお前がこの群れの長になったら、群れが悲惨な未来をたどる可能性が高いってことだ」
「はああああああああああああん!なにわけのわからないこといってるのおおおおおおおお!
 しんのゆっくりのぷろであるこのまりさがおさになったむれが、ひさんなわけないでしょおおおおおおおおおお!
 あたまだいじょうぶなの?ゆっくりのことをなにもわかってない、とーしろはだまっててねええええええええええええええ!」
「ま、まりさ。もうそのへんで……」
「そ、そうだみょん。もうじゅうぶんだみょん」
「わからないよー!ちょっとおちついてねまりさ……」

 流石にこれ以上人間に対しての暴言はまずいと思ったのか、取り巻きのゆっくりたちが、やんわりと止めに入る。

「ゆゆ!だめだよみんな、そんなよわきなことじゃあ!
 まりさはむれのあたらしいりーだーとして、たとえにんげんさんにでもびしっといいたいこというよおおおおお!
 まえのおさとちがって、にんげんさのいいなりにはならないよおおおおおおおおおおお!」

 興奮気味に叫ぶまりさを尻目に、男は諦めた様にふぅとため息をつくと、

「あーわかった、わかった。それじゃあまりさ、一つ質問するが、
 お前が長になったとして、その時は今までと同じように群れの規定数や麓の村へ降りて来ないルールを守るつもりはあるのかな?」
「ゆ?そんなのとうぜんだよ!まりさはにんげんさんたちとのるーるはきちんとまもるよ!
 だからにんげんさんも、まりさたちのるーるをまもって、むれによけいなくちだししないでね!」
「ああ、わかったよ。それだけ聞けりゃ文句はないさ。
 それじゃお邪魔みたいだし、そろそろおいとましようかね。次の視察のときにはよろしくなまりさ」
「ゆゆ!やっとわかってくれたみたいだね!ゆふふふふ。
 つぎににんげんさんがきたときには、びっくりするほどゆっくりできるむれになってるよ!」

 自分の主張が認められたと思ったのかゆっへんと胸をはるまりさ。
 男はめんどくさそうに、手をぶらぶらと振って、それに応えるとそのまま振り返ることなくあっさりと群れを去っていった。

 こうして、まりさは見事に長の座を実力?で勝ち取ることに成功したのであった。


 


 それから少し月日が流れ……。

「ゆっくりしていってね!!!ありす!」
「あられいむ!ゆっくりしていってね!」

 軽快な挨拶を交わす群れのゆっくりたち。
 みな顔一杯に生気がみなぎっており、とってもゆっくりした表情だ。

「まりさがおさになってからは、みんなすごくゆっくりできてるね!」
「すきなときにすきなだけ、ゆっくりできるからね」
「わかるよー!おさめるぜいのりょうもへったから、いままでよりたくさんむしゃむしゃむしゃできるんだねー!」

 互いに長の業績を賞賛しあうゆっくりたち。
 群れのゆっくりたちはみな現在の長まりさの統治にとても満足しているようであった。



「ゆゆーん!おちびちゃんはとってもゆっくりできるよー!」
「ゆっくちー!ゆっくちー!」
「すーや!すーや!」
 また、とあるおうちでは、まりさとれいむのつがいが、数匹の赤ゆに囲まれながら、最高にゆっくりとしていた。
「ゆゆーん!まったくだよ!これもみんなおさのおかげだね!」
 れいむの言葉にうなずくつがいのまりさ。

 まりさが長になった直後に、長い間厳しく続けられてきたスッキリ制限が大々的に解除されたのだ。
 これは別に長まりさが人間との協定を破ろうとかそういうわけではなく、もともとこの群れでは規定数までかなり余裕があったのだ。
 それを、前長は群れのバランスが何とかと意味不明なことを言って子ゆっくりの数を厳重に管理していた。

 もちろん、まりさが長になったからには、そんなゆっくりできない掟は即時撤回だ。
 これにより、今まで子どもがもてなかったつがいも子作りできるようになり、長まりさの支持率はさらに跳ね上がったのだった。





「ゆーむ」

 一匹、自分のおうちで悩んでいる長まりさ。
 今のところ群れの運営は順調そのものであり、悩む事など何もないように思える。
 だがしかし、長まりさはこの現状に満足していなかった。
 何故なら、今のところ自分がやったことといえば、前長が人間と共に決めたゆっくりできない掟を廃止しただけで、
 自分から積極的に何らかの掟を作ったわけではないからだ。
 既にある物を、批判する事はたやすい。自ら何か新しく作り出してこそ新の長と言える。
 みんなをもっともっとゆっくりさせてあげるには、何か新しい掟を作らなければならない。
 長まりさはそう考えていたのだ。

 だが長まりさはわかっていない。実はその考えの根底には多分に私情がまじっていることに。
 まりさはきっと認めないだろうし、おそらく自分でも気づいていないだろう。
 だが、以前演説のときに男との会話で、前長の掟を廃止するような主張ばかりしかしてないと指摘されたことが、
 まりさの過大なプライドをいたく傷つけていたのだ。
『お前は、今ある掟を否定することしか出来ないじゃないか、自分では新たに掟を作れないのか?この無能が!』
 そういうふにまりさは男の発言を受け取っていたのだ。
 無論男はそういう意味で言ったわけではない。
 だが無意識下で常に他ゆを見下してきた長まりさは、男の発言は自身を見下したものだと本能的に感じてしまっていたのだ。
 そしてその屈辱を払拭するためには自身で新しい掟を作り出し自身の有能さを証明しなければならない。
 その強迫観念にも似た思いが、まりさを内側から駆り立てるのだ。
 なんとも器の小さい話である。

「ゆゆゆ!かんがえるんだよ!むれのゆっくりたちが、さいこうにゆっくりできるおきてを!」

 必死に知恵を振り絞るまりさ。
 そう、自分こそがゆっくりのプロなのだ。
 あんなバカな人間が思いつかないようなとってもゆっくりできる掟を作らなければならない!
 自分にはそれができるはずだ!

「ゆゆ!そうだよ!」

 何か閃いたのか、突然顔を上げる長まりさ。
 
「ゆふふふふ!いいことをおもいついたよ!これでこのむれは、もっともっとゆっくりできるようになるよおおおおおおおお!」

 自らの考えに酔いしれながら、おうち内で叫ぶ長まりさであった。
 

 



 ざわ…ざわ…

 毎度おなじみの群れの広場。
 そこに群れの一同が集まっている。

「みんな!またおさがゆっくりできるおきてをつくるみたいよ!」
「こんどはいったい、どんなとかいはなおきてができるのかしら?」
「わかるよー!たのしみなんだねー!」

 すっかりと長としてのまりさに実力に信頼を寄せている群れのゆっくりたち。
 これから発表される掟も、自分たちをゆっくりさせるもと信じて疑っていないようだ。
 そして、

「みんなきいてね!」

 広場の中央へと進み出た長まりさが、得意げに話し出す。

「まりさはまた、みんなをゆっくりさせるためのおきてをかんがえたよ!
 こんどは、いままでみたいに、ゆっくりできないおきてをはいしするのとはわけがちがうよ!
 これはまりさが、いちからかんがえた、にんげんさんや、ぜんおさのなんかがとうていまねできないような、
 しょうしんしょうめいのあたらしいおきてだよ!
 ゆふふふふ!きいておどろいてね!そのなも、おちびちゃんてあてだよ!」
「ゆゆ?」

 おちびちゃん手当て?
 どうにもきき慣れない名前の掟に眉を潜める広場のゆっくりたち。

「ゆふふふふ!きいたことがないのもとうぜんだよ!だってこのおきてをかんがえたのは、まりさがはじめてなんだからね!
 おちびちゃんてあてはね、おちびちゃんがいるおうちに、そのおちびちゃんがおおきくなるまでのあいだ、
 むれでしょくりょうのえんじょをするおきてだよ!
 おちびちゃんができると、くいぶちはふえるのに、こそだてしなくちゃいけないから、かりのりょうはへっちゃうもんね!
 そんなつがいをおうえんするために、まりさはこのおきてをじっこうにうつすよ!
 おちびちゃんはむれのたからだからね!」

 そう長まりさが言い終えた直後、広場はゆっくりたちの大歓声につつまれた。
 
「すごい!すごいよおおおおおおおおおお!こんなゆっくりできるおきてはきいたことないよおおおおおおおおおお!」
「んほおおおおおおおおおおおおお!なんってとかいはなまりさなのかしらあああああああああああああ!」
「みょん!そこにきづくとはやはりてんっさいだみょん!」
「わかるよおおおおおおお!たいしたやつだなんだねええええええええええええええ!」

 広場の興奮は最高潮に達していた。が、その時、
 
「そこまでよ!!!」
「ゆ?」

 この興奮に水を差すかのように一匹のぱちゅりーが待ったをかける。
 それは以前まりさと共に、長の地位を争った元長候補ぱちゅりーであった。

「まりさ!いいかげんにしなさい。せんだいのおきてを、つぎつぎにはいししたばかりか、
 またあたらしくそんなおきてをつくるなんて!
 だいたい、そのおきてをじっこうするためのざいげんはどこからもってくるきなの!
 きっといまのぜいりつじゃ、まかなえないわよ!」

 するどく問題点を指摘するぱちゅりー。
 このぱちゅりー、やはり前長が指名するだけあって特別優秀ということはないが、群れのその他のゆっくりとちがって、
 バカではなかった。
 このまま、まりさのやりかたを続けていては、そのうちにまずいとになるのではないかと薄々感じていたのだ。

 だが長まりさは、そんなぱちゅりーに対して、フンといちべつをくれると、

「なにかとおもったらそんなことなの?そんなのこのまりさがかんがえてないわけないでしょおおおおおおおおお!
 ぜいでたりないぶんは、しょくりょうこからまかなうことにするよ!
 あそこにはたいりょうのしょくりょうがちょちくしてあるからね!」
 あっさりと言うまりさ。
「んなっ!あなた、あのしょくりょうにてをつけるきなの!」
 それに対して驚愕をあらわにするぱちゅりー。

 まりさが言っている財源とは、先代のときから有事に備えて少しずつ食料が蓄えられている食糧庫のことだ。
 確かにその食料庫には、大量の食料が貯蓄してあることだろう。それこそ群れ全体が一冬ぐらいなら無事過ごせるくらいに。
 だがしかし、それはあくまで危機的状況のときのための備えであって、通常の予算とは訳が違う。
 それを何でもない平時である今使おうというのだ。
 ぱちゅりーの驚きも最もである。

「うるさいよ!あのしょくりょうは、ためてあるだけで、いままでいちどもやくにたったことがないよ!
 むだにあそばせておくくらいなら、みんなをゆっくりさせるためにつかったほうが、ずっとゆいぎだよ!
 それがわからないの!ぱちゅりーはにんげんさんといっしょでほんとうにゆっくりしてないねえ!」
「むきゅ!まりさ!いいかげにしなさい!なんでもかんでもゆっくりできればいいというわけではないわ!
 せんだいのおさや、あのとききにんげんさんのいっていたことばのいみがまりさにはわからないの!」
 
 長まりさの反論にぱちゅりーも言葉を返す。
 その反論で、過去の長のことや、人間のことを持ち出され、不愉快そうに歯をギリギリとかみ締める長まりさ。
 そのことを指摘されるのは長まりさのプライドにかかわることだからだ。
 自分よりも、前長や人間のほうが正しかったなどということは決してあっててはならない。
 よってそれを口に出すこのぱちゅりーは決して許されるべきではない。
だから、長まりさは意地悪く笑うとこう言った。
 
「ぱちゅりー……まりさがにんきだからって、しっとはよくないよぉ!
 まりさはしってるんだよ、ぱちゅりーはさ、じぶんがおさになれなかったからくやしんでしょ!
 だからまりさのやること、なすことにいちいちけちをつけてるんだ。
 そうゆうのよくないとおもうよぉー、まりさがおさになったのはみんのはんだんなんだからさぁー
 ぷぷぷぷ!まったくねんちゃくしつな、しっとはみにくいねぇ!
 まりさをひていしたって、じぶんのただしさがしょうめいされるわけじゃないのに、がんばっちゃって!
 おお、みじめみじめ!」

 お互いの主張をぶつけ合うことでは事態は解決しないと悟った長まりさは、ぱちゅりーを悪者に仕立て上げる作戦に切り替えたのだ。
 自分の人気に嫉妬しているぱちゅりーが、しつこく粘着してきている。
 そう自らを被害者ぶることにより、自らの正当性やぱちゅりーの不当性を、群れのみなの前でアッピールし始めたのだ。
 まあ、何とも小物が考えそうなことである。

「みょん!やっぱりそうだったのかみょん!」
「じぶんがみとめられないからって、たにんのあしをひっぱるなんてさいていだね!」
「まったくいなかもののしっとはみにくいわねえ!」
「これはあくしつなこういだよ!もうせいっさいしたほうがいいんじゃないかな!」

 長まりさに同調して、口々にぱちゅりーの悪口を言う取り巻きのゆっくりたち。
 今やこの群れではまりさは絶大な人気を誇っているのだ。
 そのまりさの言うことに、群れのゆっくりたちはたやすく賛同してしまう。
 それはつまり、普段は自分では何も考えてないことの証明でもあるわけなのだが…。

「ち、ちがう!ぱちぇはそんなわけじゃ…」

 みなに一斉に攻められたじろぐぱちゅりー。
 ぱちゅりーは、他の群れのゆっくりよりは、群れを運営していく上で正しいバランス感覚を持っていたが、
 やはりこういった逆境には弱かった。

「ゆゆ!みんなだめだよぉ!ぱちぇりーをいじめちゃぁ!
 こんなんでも、むれのいちいんなんだからねぇ!
 まりさは、ぱちゅりーのことをみすてないよぉ!」

 ニヤニヤ顔でわざとらしく言う長まりさ。
 長まりさがとった次なる作戦は、お次は悪者にしたぱちゅりーを許し庇うことで、自分の大きさを周りにしらしめようとする手だった。
 まったくこのこざかしさは、まるで小物のお手本のようですらある。

「さっすがおさ!うつわがおおきいね!」
「それにくらべて、ぱちゅりーは、ちいさなことにこだわって、いなかものねえ!」
「まったくぱちゅりーはゆっくりしてないみょん!」

 ぱちゅりーを馬鹿にする話題で盛り上がる一同。
 皆で誰かをけなす話とは楽しいものだ。
 それを外から見たときは、醜いことこの上ないが。

「………………でていくわ」
「ゆ?」
 ぱちゅりーがぼそりと呟く。

「むっきゅうううううううううう!こんなむれでってってやるっていってるのおおおおおおおおおおお!
 ふん!こんなむれのおさになんか、ならなくてせいかいだっわ!
 もうぱちぇはうんざりよ!こんなところでゆっくりなんてとてもできないわ!
 それじゃあね!おさ!せいぜい、みんながゆっくりできるむれでもがんばってつくってればいいわ!
 どうせむりだろうけどね!」

 それだけ吐き捨てると、ぱちゅりーはくるりと背を向けて、群れを去っていってしまった。

「ふうまったくゆっくりしてないぱちぇりーだったよ!」
「でていってせいせいするね」
「きっといなかもには、とかいてきなむれはすみにくいのよ!」

 ぱちゅりーが去ったあと、口々に文句を言う群れのゆっくりたちに混じって、長まりさはニヤニヤとした笑みを崩せずにいた。
 
 勝った!自分は勝ったのだ!人間たちが定めた古き掟を支持するぱちゅりーに!
 これは、先代の長に勝ったも同然のことであり、自分の政策の正しさの証明でもある。
 そう!やはり自分が正しかったのだ。自分こそが真のゆっくりのリーダーなのだ。
 
「ふふふふふ!これからはまりさのじだいだよ!ゆふふふふふふ!」

 自らの勝利を確信したまりさは、いままでのゆん生最高の気分だった。

 こうして、長まりさによるおちびちゃん手当ては無事成立した。
 この掟によって親ゆっくりたちが歓喜し、まりさの支持率がさらに上昇したことは言うまでもない。


                                      後編へ続く
最終更新:2010年10月06日 20:07
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