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anko2156 ゆっくりおうちにかえろうね

・ちょっとチートっぽいアイテムが出ます。
・既に誰かがやってそうなネタですが、ネタ被りが怖くてテンプレ作家がつとまりますかってんだちくしょうめぇ~ヒック!ごめんなさい

==========


【AM 8:00】


「それじゃあ、まりさはかりにいってくるのぜ!!」
「おとーさん! ゆっくりいってらっしゃい!!」
「いっちぇらっちゃーい!!」
「おいちいあまあましゃん とっちぇきちぇにぇぇ!!」
「おとーさんにまかせるんだぜ! たのしみにまってるんだぜ、おちびちゃんたち!」

とある街、とある路地裏、ダンボールのおうちの前。
狩りにでかけるお父さんまりさを子ゆっくり達が見送っています。

お父さんまりさの頼もしい言葉に、ぴょんぴょん飛び跳ねてゆわーいゆわーいと大喜びするのは、
いつも仲良しな二匹の赤ちゃんれいむ達。

つぶらなおめめをキラキラさせて、尊敬と憧れの眼差しでお父さんまりさを見上げているのは、
早くおとなになりたいお年頃のお姉ちゃんの子まりさ。

そこへ、慌てた様子のお母さんれいむがダンボールのおうちから飛び出してきました。

「まってね、まりさ! おべんとーさんをわすれてるよ!」
「ゆ? ゆゆっ! う、うっかりしてたのぜ!! ゆへへ…」

お母さんれいむから渡されたのは大きめの葉っぱでくるまれたお弁当。
お父さんまりさは、少し照れながら、そのお弁当を大切そうにお帽子の中にしまいます。

今日のお弁当は、お父さんまりさの大好物のいもむしさん。
そして、お父さんの健康を考えて、4種ぐらいの草さんのたっぷりサラダ。
お母さんれいむのあいっじょうっ!がたっぷり詰まった愛妻弁当です。

「ゆもう! まりさはうっかりやさんだね! れいむがついてないとだめだね!」

なんて言いながら、お母さんれいむはお父さんまりさのほっぺたに、ちゅっ!とお見送りのご挨拶。

「ゆふふ~ん♪ じゃあ、こんどこそいってくるのぜ、れいむ!」

お父さんまりさも負けてはいません。
お母さんれいむのお口に、ご挨拶を返します。

「おにぇーちゃん! みえにゃいよ!」「ゆっくちみしぇてにぇ!」

お姉ちゃん子まりさは、お帽子とおさげで妹達の目隠しをしながら、お顔を真っ赤にしています。
毎朝の光景ですが、どうやらお姉ちゃんにはまだ少し刺激が強すぎるようですね。


  ◇  ◇  ◇


「ゆんしょ! ゆんしょ! おそうじするよ!」

お父さんまりさをお見送りをした後は、お母さんれいむの家事の時間。
今は家族の朝うんうんのお片づけです。

家族みんなのうんうんが乗った葉っぱを引っ張って、おうちの外へずーりずーりと運び出します。
お口に咥えた葉っぱから漂ってくるうんうんの匂いで、エ゛ンッとなりそうですが、涙を飲んで我慢我慢。

うんうんをおうちに中に置きっぱなしにしておくと、
ゆっくりできない匂いがこもって、おうちの中がゆっくりできなくなってしまいます。
狩りがお父さんまりさのお仕事なら、おうちをゆっくりできるよう保つ事がお母さんれいむのお仕事なのです。


「おかーさん! まりさ、ちぇんのおうちにあそびにいってくるね!」

お母さんれいむが、おうちから少し離れたところにうんうんを捨て終えたところで、
おうちから出てきた子まりさが声をかけてきます。
これから仲良しのお友達のところへ遊びに行くようですね。

「ゆ! いってらっしゃい、おちびちゃん! おひるごはんさんまでにはかえってくるんだよ!」
「はーい!」

元気良くお返事をして、子まりさがぽよんぽよんと跳ねていきます。
でも、お母さんれいむのターンはまだ終わっていません。

「おちびちゃん! よそのおうちにおじゃまするときは、ちゃんと『ゆっくりしていってね!』っていうんだよ!
 あと、にんげんさんがたくさんいるみちはとおらないでね!
 こわいにんげんさんにつかまったら、ゆっくりできなくされちゃうよ!
 ねこさんやからすさんもこわいこわいだよ! きをつけてね!
 ごしんようのえださんはちゃんとおぼうしにいれた?
 ゆゆっ! おぼうしさんがちょっとまがってるよ! しっかりかぶってね! それから…」

「ゆ、ゆううぅ! おかーさん!
 まりさ、もうおちびじゃないから、そんなにいわれなくてもわかってるよう!」

子まりさはそう言うと、そそくさと跳ねていってしまいました。

「ゆ! ま、まってね、おちびちゃん…! …ゆも~…」

既に小さくなってしまったおちびちゃんの背中を見ながら、お母さんれいむが溜息をつきます。

でも、仕方がありません。
お姉ちゃんの子まりさは、背伸びをしたいお年頃。
いつまでもおちびちゃん扱いされるのは恥ずかしいものです。

お母さんれいむもそれがわかっているので、本気で怒ったりはしません。
ただちょっと、おちびちゃんの成長が嬉しくもあり、寂しくもあり、そんな気持ちになっているだけなのです。


子まりさの姿が完全に見えなくなると、お母さんれいむはおうちの中に戻ります。
お母さんれいむには、まだ大事なお仕事が残っています。
そう、赤ちゃん達のお世話です。

朝ごはんと朝うんうんの次は、赤ちゃん達のすーぱーすやすやタイム。
赤ちゃんは、たくさんむーしゃむーしゃして、いっぴゃいうんうんをだして、たくさんすーやすーやするのがお仕事。
そのお手伝いをするのです。


「ゆ~んゆゆ~…ゆ~んゆゆ~…♪」

ダンボールのおうちにゆっくりできる子守歌が響き渡ります。
おうたが始まるまでは、大好きなお母さんのおうたが聞けるとあって、
ゆんゆん元気にはしゃいでいた赤ちゃんれいむ達でしたが、
そこは流石の三児の母ゆっくり。
いざ子守歌が始まると、たちまち赤ちゃん達はゆぴーゆぴーと可愛い寝息を立て始めました。

「ゆ~んゆゆ~…♪ …ゆふふ…あかちゃんたち、もうねちゃったんだね…… ゆ~んゆ~…♪」

寝息に気付いたお母さんれいむは、赤ちゃん達に笑いかけてから、子守歌を歌い続けます。
赤ちゃん達のしあわせそうな寝顔を見ていると、れいむの顔にもしあわせーが浮かびます。
そうして、春のお日さまさんのように暖かい気持ちに浸っている内に、
れいむもウトウトとし始め、ゆっくりと眠りに落ちて行きました………


【PM 12:00】


「ゆ…ゆ~ん………ゆっくりおきたよ! …ゆゆ?! れいむ、うっかりおひるねしちゃったよ!」

お母さんれいむが目を覚ましました。
ダンボールのおうちの入り口からお外を覗くと、おひさまさんが真上に来ています。

「ゆ~…もうおひるさんになっちゃったよ…」

れいむはちょっとがっかりします。
午前中におうちのお掃除をしようと思っていたのに、予定が狂ってしまったのです。
でも、大丈夫。

『明日できることは明日やればいいよ!』

それがお母さんれいむのゆっくりしたモットーです。
れいむは、すぐに気持ちを切り替えます。
お掃除は明日やる事に決めて、まずはお昼ごはんの用意を始めます。

「しゅーやしゅーや…しゅーやしゅーや……ゆ…ゆぅん………ゆっくちおきちゃよ!!」
「ゆぴー…れいみゅの…あみゃあみゃしゃん…ゆっくちたべらちぇにぇ……
 ゆう~…? ゆーん! おきゃーしゃん! れいみゅがゆっくちおきちゃよ!!」

おやおや。
お昼ごはんの匂いにつられたのでしょうか?
赤ちゃんれいむ達が起き出してきました。
お母さんれいむは、赤ちゃん達の口元のよだれ跡をぺーろぺーろしてあげながら言います。

「れいむのあかちゃんたち! ゆっくりおめざめさんだね!
 まっててね! おねーちゃんがかえってきたら、おひるごはんさんにするよ!」
「ゆわーい! ごはんしゃん! ごはんしゃん!」
「れいみゅ、おにゃかぺこぺこしゃんだよ! いっぴゃいたべりゅよ!」

大好きなお母さんのぺーろぺーろと、お昼ごはんのしあわせだぶるぱんちに、
赤ちゃん達はおうちの床をころころ転がって大喜び。
その後、もちもちのほっぺたをお母さんにすーりすーりしてもらいながら、お姉ちゃんの帰りを待つのでした。


【PM 12:30】


「おきゃーしゃん…おにぇーちゃんかえってこないにぇ…」
「ゆ…れいみゅ…おにゃかしゅいちゃよう…」
「ゆう…そうだね…ちゃんとおひるごはんまでにかえってくるっていってたのに…」

子まりさお姉ちゃんはまだ帰ってきません。
赤ちゃん達は、おなかが空き過ぎて元気がなくなってきました。
お母さんれいむは、お姉ちゃん子まりさの姿を求めておうちの外にチラチラと目をやります。
しかし、いつまでたってもお姉ちゃんは姿を見せません。

「ゆーん…しょうがないね…あかちゃんたちは、さきにごはんさんをむーしゃむーしゃしようね!」

そう言うと、お母さんれいむは、赤ちゃん達のお昼ごはんを持ってきます。
今日のお昼は、お母さんれいむの得意料理、草さんのおひたし。
少し固い草さんを、赤ちゃん達が食べやすいようにむーしゃむーしゃと噛んで柔らかくします。
ゆっくりの甘い唾液が染み込み、少しにがにがな草さんも食べやすくなるのです。

「「むーちゃむーちゃ、しょれなりにちあわちぇ~!!」」

美味しそうにごはんを頬張る赤ちゃん達を眺めて、ゆふふと笑っているれいむですが、
自分はごはんを口にしていません。

れいむは、お姉ちゃん子まりさが帰ってきてからごはんを食べようと思っているのです。
お姉ちゃんがごはんを食べるときに、いっしょにむーしゃむーしゃする相手がいないと、
美味しさが半減してしまうからです。


【PM 1:00】


赤ちゃん達のごはんが終わっても、お姉ちゃんは帰ってきませんでした。
さすがのお母さんれいむも待ちきれません。
と言っても、先にごはんを食べてしまおうと言うわけではありません。

「ゆぅ~…おかあさん、ちぇんのおうちまでいってくるよ!
 あかちゃんたちは、ゆっくりおるすばんしててね!」
「「ゆっくちりきゃいちたよ!」」

れいむは、おなかがいっぱいになってゆっくりしている赤ちゃん達にそう言い残し、
可愛いおちびちゃんを迎えに行く事にしました。
おうちを出ると脇目もふらず、まっすぐに跳ねていきます。

「ゆゆ? なにかあるよ?」

と思ったら、おうちを出てわずか三歩で脇目をふってしまいました。
おうちのすぐ近くに黒い何かの塊が落ちていたのです。

「ゆう~~?」

れいむは頭を傾げて、黒い塊を見つめます。
それは、まるい形をしていて、大きさは…れいむのお口の高さと同じくらいの高さがあるでしょうか
用心して離れて様子を見ていたれいむでしたが、暫くするとずりずりと這って近づいていきます。

「ゆぅ…おいしそうなにおいだよ~…」

その黒い塊からは、とても甘そうな匂いが漂ってきていたのです。
まだお昼を食べていないれいむの喉とおなかが、ごくんごくんぎゅるるるるんと鳴ります。

「ちょっとあじみしてみるよ!」

誘惑に耐えきれなくなったれいむは、お口の先でちょっとだけその黒い塊を囓ってみました。
これはいけません。
もし、ゆっくりを邪魔物扱いする人間さんが置いた毒のごはんだったらどうするのでしょう。

でも、れいむは苦しみ出すことも、餡子を吐くことも、「これどくはいってる!」と叫ぶ事もありませんでした。

それどころか

「むーしゃむーしゃ…し、し、しあわせぇーーっ!?」

と、天を仰ぎながら、本当に幸せそうな表情で叫んだのです。
興奮でもみあげを上下にばっさばっさと羽ばたかせ、このままどこかへ飛び去ってしまいそうな勢いです。

「ゆううぅ!! これすっごくあまあまだよう!! もっとたべるよっ!!
 むーしゃむーしゃっ! むーしゃむーしゃっ! しあわせぇぇ~~っ!!」

喜びのあまり、子ゆっくりのようにぽいんぽいんと無邪気に飛び跳ねてから、またあまあまに口をつけます。
一口、もう一口と、夢中で囓っていきます。
そして、あまあまが四分の一ぐらいおなかに収まったところで、ようやくれいむは我に返りました。

「しあわせ~!! ゆ…ゆゆっ…!? だ、だめだよ! あぶないあぶないだよ!
 れいむひとりでたべちゃうとこだったよ!
 おちびちゃんと、かりでつかれてかえってくる まりさにもたべさせてあげなきゃだよ!
 ゆ~ん♪ れいむ、りょうっさいっけんぼでごめんねぇ~!」

そう言って、もう一口だけあまあまを囓ると、れいむはあまあまを持っておうちへ戻りました。


「ゆゆっ! おきゃーしゃん、おきゃえりなしゃい!!」
「ゆ~? おにぇーちゃんは…ゆゆっ?! なにしょれ! おいちしょう…!」

お家で留守番をしていた赤ちゃんれいむ達は、
お姉ちゃんを迎えに行ったはずのお母さんがあっと言う間に帰ってきたので、
ちょっと不思議そうな顔をしましたが、
めざとくお母さんが運んでいるモノをみつけます。

「これはおかーさんが、かりでとってきたあまあまさんだよ!
 とってもあまくっておいしんだよ!」

誇らしげに答えたお母さんれいむの言葉を聞いて、赤ちゃん達はぷるぷると震えます。
まるで小さな体の中に力を溜めているかのようです。
そしてたっぷりぷるぷるした後、溜めた力を一気に爆発させ、ぴょーーんと高く飛び跳ねました。

「ゆわあああぁぁ!! あみゃあみゃしゃん!! ちょうりゃいにぇ!」
「ゆっくちできりゅにぇ!! ゆっくち!! ゆっくちぃ!!」

赤ちゃん達が喜ぶのも無理はありません。
あまあまさんは、ゆっくりにとって最高のご馳走なのです。
でも赤ちゃん達はこの後すぐに涙目になってしまいます。

「あかちゃんたちは、もうおひるさんをたべたから、これはゆうごはんにしようね!」
「「ゆぎゃーん?!」」

お預けを喰らった赤ちゃん達が、今すぐあまあまさんを食べたいと、駄々をこね始めます。
これにはお母さんれいむも困ってしまいます。

でも、そこはふたりともお母さんの自慢の赤ちゃん達。
お母さんれいむが優しく諭しながら、大きなもみあげさんでなでなでしてあげると、
ふたりともすぐにゆっくりとした表情になりました。
まだちょっと目の端に涙を溜めてはいますが、お母さんの言いつけをりかいして、
あまあまさんは夜まで我慢することを約束します。

お母さんれいむは、そんな良い子の赤ちゃん達にたっぷりすーりすーりをした後、
今度こそ子まりさのお迎えに出発するのでした。


【PM 2:00】


お母さんれいむは子まりさのお友達のちぇんちゃんのおうちに到着しました。

「ゆう…おそくなっちゃったよ…」

おなかを空かせたれいむが少しくたびれた声を上げます。

普通なら、れいむのおうちからここまで、おとなのゆっくりで30分、子ゆっくりでも1時間で着きます。
でも、ここに来る途中でお母さん友達のありすとバッタリと会い、
お互いのおちびちゃんの事やおちびちゃんの事やおちびちゃんの事を話しこんでいるうちに、
すっかり遅くなってしまったのです。


ちぇんちゃんのおうちは、しんぐるまざーのお母さんちぇんと、可愛い子ちぇんのふたり暮らし。
れいむ一家と同じくダンボールのおうち住まいですが、
こちらは食べ物屋の入ったビルが立ち並ぶ路地裏にあり、
人間さんの食べ残しの美味しいご馳走が手に入りやすい、いっとうちっ!です。

もちろん、おうち自体は人間さんに簡単に見つからないよう、放置された大きなゴミの影に作られています。
そうしないと、ゆっくりできない人間さんにゆっくりできなくされてしまいますからね。


さて、れいむはもみあげさんでおうちの入り口のブルーシートをばさばさとノックしています。

「ちぇんちゃんいる? れいむはれいむおばさんだよ!」

しかし、何度ノックをしても、お返事がありません。

「ゆぅ…へんだよ…おへんじがないよ…」

れいむは困惑してしまいます。

子まりさは確かにちぇんちゃんのおうちに遊びに行くと言っていました。
お互いの家を行き来するときの通り道は、できるだけ安全な道を選んで決めてあるので、
どこかで行き違いになったなら気付く筈です。

ひょっとして、ちぇんちゃんを誘って、お外へ遊びに行ってしまったのでしょうか。
遊びたい盛りのおちびちゃん達なら、十分ありえることでしょう。
でも、ふたり揃ってお昼寝をしているのかもしれません。

れいむはおちびちゃん達の寝息でも聞こえないかと、ブルーシートに横顔を押しつけ、
中の様子に無い耳をそばだてようとします。

すると、れいむに押されたブルーシートがふわりと動いて、おうちの内側が少し見えました。

「ゆ…あいてるよ…?」

それはそうです。

少しの間、中に入ってよいものかと躊躇っていたれいむでしたが、
やがて、ブルーシートのドアを開いておずおずと中に入ります。

「ゆ~……かわいいれいむがゆっくりおじゃまするよ………ゆ……だれもいないよ…」

ちぇんちゃんのおうちの中には、子まりさやちぇんちゃんの姿はありませんでした。
お母さんちぇんの姿も見えませんが、この時間ならいつもは狩りに出ているはずです。

「ゆーん…おちびちゃん、どこかにあそびにいっちゃったんだね…」

れいむはおうちから出ようと振り返りますが、そこでぴたりと動きを止めます。

「ゆ? なんだかいいにおいがするよ…」

れいむはおうちの中に漂っている甘い匂いに気付いて、口の少し上あたりをすんすんと動かします。
匂いの元を探してすんすん言いながら周りを見回し、やがて、おうちの片隅に目を止めました。
そこにあったのは、黒い何かの塊です。

「ゆゆ…これはれいむがみつけたあまあまさんとおんなじだね」

それは確かにれいむがおうちの前でみつけた黒い塊によく似ていました。
それが二つ、一つはれいむがみつけたのと同じくらいの大きさ、
もう一つはそれよりもずっと大きかったようです。

『大きかったようです』と言うのは、大きい方の塊はだいぶ食べられてしまっていて、
元の大きさが正確にわからないからです。
ただ、塊の下の部分がまだ残っているので、その大きさから元の大きさの想像が付きます。
残っている部分は、幅にしてれいむのもみあげから反対側のもみあげぐらいまであるでしょうか。
ちなみに小さい方も四分の一ほど囓られています。

「ゆうぅ…それにしてもいいにおいだよお…」

れいむは黒い塊を見て、はしたなくヨダレを垂らします。
ただでなくても甘~い匂いを放っているところに、さきほど食べたあまあまの味の記憶が舌の上に蘇り、
れいむのおなかは、まるで道路工事のような音を立てます。
思わず一口囓りそうになってしまった後、れいむは激しく頭を横に振りました。

「ぶーるぶーる! だ、だめだよ! これはちぇんのおうちのごはんだよ!」

そして、これ以上ここにいると誘惑に負けてしまいそうなので、慌ててちぇんのおうちを飛び出しました。



「ゆふー…あぶないところだったよ…」 ガチャ 「ゆ?」

ちぇんのおうちから出たれいむが、盗み食いをする悪いゆっくりにならなかった事にほっと安堵していたとき、
何かが開く音が聞こえました。
れいむは、音のした方向に目を向けます。

「ゆ…ゆひいいぃ!! にんげんさん!?」

そう。そこにいたのは人間さんでした。
どうやら路地裏のゴミ置き場に生ゴミを捨てに出てきたようです。
れいむの叫び声に気付いた人間さんが視線を下ろし、れいむと目を合わせます。

「なんだ、まだいたのか…」

人間さんは、不機嫌そうな顔と声でそう呟きました。

(ゆわわわ……!)

人間さんのゆっくりしていない様子に、れいむはこのままここで潰されてしまうに違いないと思い、
怖くてギュッと目をつむります。

しかし、れいむの予想とは違い、人間さんはすぐに建物の中に入ってしまいました。

れいむはそ~っと目を開いてから、たすかったよぉと、ほっと溜息を吐きます。
その瞬間にまた人間さんが建物から出てきたので、驚いて飛び上がってしまいました。

そんなれいむの足下に、人間さんは黙って何かを投げました。
ビー玉くらいの大きさの黒い玉が一つ、コロコロ転がって、れいむのすぐ前で止まります。
キョトンとした顔で黒い玉を見ていたれいむですが、すぐにその黒い玉から甘い匂いがする事に気付きました。
れいむのおなかが、またまたオーケストラを奏で始めます。

れいむは不思議そうな顔で人間さんを見上げると、恐る恐る、聞いてみました。

「ゆ…? …これ、れいむにくれるの…?」
「…ああ」

答える人間さんは、相変わらずゆっくりしていません。
れいむは困ったように人間さんと黒い玉を交互に見ていましたが、
ついに意を決して黒い玉を舌先で舐めてみました。

「ぺーろぺーろ…ゆゆっ!? あ、あまあましあわせええぇ~!!」

黒い玉はあまあまさんでした。
れいむのおうちの前で見つけたあまあまさんに勝るとも劣らない甘さです。

れいむは地面の上の黒い玉を口に含むと、一心不乱に舌の上で転がします。
黒い玉が舌の上を行き来する度に、玉の表面から溶け出した甘味が口一杯に広がります。
思わず感激にグネグネと身を躍らせる甘さです。
無我夢中で舐めていると、黒い玉はあっという間に溶けてなくなってしまいました。

「ゆうぅ…おいしかったよお…にんげんさん…ゆ?」

あまあまを舐め終えたれいむは、人間さんにお礼を言おうとしましたが、
いつの間にか人間さんはいなくなっていました。
仕方ないので、人間さんが出てきた建物に向かってお礼を言うと、子まりさを探しに向かうのでした。


【PM 4:00】


「ゆひぃ…ゆひぃ……」


元気に跳ねていたれいむが、今はずりずりと力無く地面を這っています。
おなかが空いて力が出ないため…ではないようです。

「ゆぐぐ…なんだかへんだよ…からだぢゅうがいたいよ…くるしいよ…ゆっくりできないよ……」

どうやら体の具合が悪くて、跳ねる力が出ないようです。

れいむは、ちぇんのおうちを出てから、
1時間ほど近くで子まりさ達が遊びに行きそうな心当たりを回ってみたのですが、結局みつかりませんでした。
他に行きそうなところは…と考えている内に、急に具合が悪くなってきたのです。


「ゆひぃ…ゆひぃ…か、かえらないと…おうちにかえらないとだよ…」

子まりさを探すのは諦めたようですね。
懸命な判断でしょう。
こんな体で闇雲に探し回るのは無理があります。
ますます具合が悪くなって、永遠にゆっくりしてしまうかもしれません。

それに、もう夕方近くです。
子まりさとはどこかで行き違いになっていて、既におうちに帰っているに違いありません。


おうちへ帰ろうとしているれいむでしたが、這うことしかできないので、その歩みは遅々として進みません。
普段なら30分の道のりを、更に危険を冒して人間さんのいる近道を通っているにも関わらず、
おうちに向かい始めてもう1時間が過ぎましたが、まだおうちに辿り着いていません。

今、れいむは小さな公園の中を通っています。
ここを越えた後は、小さな川にかかる橋を渡れば、すぐにおうちです。


「ゆぎぎ…いだいよお…………」 ぱさ

痛みに呻いている最中に自分の視界のすぐ前を何かが落ちていったような気がして、れいむはあんよを止めました。

「ゆ……?」

地面を見ると、すぐ目の前に何か黒い物が落ちています。

「なに…これ……?」

れいむは舌を出して、その黒い物に触れます。
すると、束になっていた黒い物がバラバラにほぐれました。
何か細くて長い物が束になっていたようです。
黒い物はれいむの舌にも、何本かまとわりついてきました。

れいむは、どこかでそれを見たことがあるような気がして、ボーッとする頭で思い出そうとします。
たっぷり1分はかかったでしょうか。
ようやくその正体に思い当たったようです。

「かみのけ…さん……?」

そう呟いた後、れいむは既に青くなっていたお顔を更に青くさせて、
左のもみあげを持ち上げて自分の頭を探ろうとします。

ばさ

れいむのすぐ横で何かが落ちる軽い音がしました。
わずかに向きを変え、自分の横の地面を見ます。
その途端、れいむの丸いおめめが大きく見開かれます。

「な…なに…これ……なに……なにごれええぇえぇぇ!?」

それから、悲痛な叫びを迸らせました。

れいむが見た物は、地面に落ちた、れいむ自身のもみあげさんでした。
持ち上げようとしたもみあげが、根本からごっそりと抜けて地面に落ちていたのです。

それだけではありません。
もみあげさんについている赤いお飾りが見当たりません。

いえ、よく見るとついているのです。
でも、赤くはなく、髪の毛の色と区別が付かないような色をしています。
お飾りは、まるで腐った食物のように黒く変色していたのです。

「ゆあああぁ!? せかいぢゅうのまりさをみりょうする れいむのうつくしいもみあげさんがああぁ?!
 もどってねえぇ! もみあげさんもとにもどってねえぇ!」

もみあげさんを治そうと、れいむは必死にぺーろぺーろをします。
れいむの大切なおちびちゃんが怪我をしたときでも、
たいていぺーろぺーろ一発で治るような気がするものです。

でも、れいむの舌が触れると、黒く変色したお飾りはボロボロに崩れてしまいました。

「ゆああぁ!? ゆあああぁ!?!?」

れいむはちょっぴりパニック気味です。
もう片方のお飾りの様子を確認するため、残った右のもみあげさんを顔の前に回そうとします。
しかし、何かが変です。
もみあげさんを動かそうとしている筈なのに、何の感覚もないのです。
まるで、もみあげさんが無くなってしまったみたいです。

れいむは恐る恐る自分の右の地面に顔を向けます。
そこにもう一本のもみあげは落ちていませんでした。
れいむは少しだけホッとします。

ですが、次の瞬間には視界の右端に何か黒い物が映っている事に気付き、ギクリとします。

れいむは更に右側へと顔を向けます。
最初の向きから見るとちょうど真後ろを振り向く形になりました。

そこにあった物を見て、れいむのおめめからじんわり涙が溢れました。

「ゆぎゃああぁ!? れいむのしっとりなめらかなくろかみさんがあああぁぁ!?」

れいむが涙を流しながら叫びます。

れいむが這ってきた道筋を辿るように、大量の黒い髪の毛が点々と落ちていたのです。
もう片方のもみあげもずっと遠くの方に落ちていました。


  ◇  ◇  ◇


「ゆひ…ぐるじい……やだ……こんなのやだよ…ゆひぃ……おうちかえる……おうちかえるよ…」

すっかり髪の毛の抜け落ちたれいむが、苦しそうな声をあげて公園の中を這っています。
あの後で髪の毛と一緒に抜け落ちてしまったおリボンさんを大事そうに口に咥えています。
そのリボンも黒く変色し、もう元の色が何色だったかわかりません。

時間が経つほどに餡子の痛みと苦しさが激しくなってきています。
まだお日様が沈む時間ではない筈なのに、辺りが暗く見えます。
れいむ自身には理由はわかりませんでしたが、れいむのおめめまでが黒く変色してきていたためです。

「たすけて…まりさぁ……れいむをたすけてよぉ……」

番のまりさに助けを求めますが、当然ここにまりさはいません。
その替わりと言ってはなんですが、れいむが進む先で、一人の人間さんがベンチに腰掛けていました。
買い物帰りなのか、スーパーのビニール袋を横に置き、何やら携帯電話をカコカコ弄っています。


「たすけてぇ…にんげん…さん…れいむを…たすけてぇ…」

れいむは人間さんに助けを求めます。

にんげんさんにうかつにちかづくと ゆっくりできなくされるよ

いつもれいむ自身がおちびちゃん達に口を甘ずっぱくして言っている事ですが、今は緊急事態です。
それに、こんなに具合が悪くて可愛そうなれいむを見れば、
ゆっくりできない人間さんだって、同情してれいむを助けてくれるはずです。

そう考えてれいむは助けを求めます。
もう声を出すのも辛くなってきていますが、それでも力を振り絞って助けを求めます。

「ん…? おわっ?! な、なんだこれっ!? キモッ!」

れいむが近づくと、ベンチに座っていた人間さんは驚いて立ち上がりました。
でも、すぐに安心した顔に変わります。

「…って、ゆっくりか…驚かせやがって…
 それにしても本当にこんな風になるのかぁ。CMで見た通りだな」

れいむにはよくわからない事を言って、もう一度ベンチに腰掛けます。
よくわからないので、れいむはそのまま助けを求め続ける事にしました。

「おねがいだよ……に…んげん…さん……れいむ…なんか…びょうきさんになったみたいだよ…
 くるしいよ……しにたく…ないよ…おちびちゃんと…まりさに…あいたいよ…たすけて……」
「ん? あー、会えるんじゃない? そういうもんらしいし」

ヒマだったのでしょうか。
人間さんはれいむの言葉に答えます。
どうやら今のれいむの状態について、何か知っているような口振りです。

「ゆ…そう…なの…? にんげんさん…? れいむ…しなない…?
 れいむのびょうきさん…なおるの…?」
「いや、死ぬだろうし、治らないんじゃない?」
「ゆ…ゆううぅ…!」

無慈悲な宣告にれいむが絶望の悲鳴を上げます。
その間も、人間さんは携帯電話を何やら弄っていましたが、
ようやく用事が終わったのか、携帯電話をポケットにしまいました。


「お前、これ食ったんじゃないか?」

人間さんは、買い物袋をゴソゴソと探り、何かの箱を取り出します。
れいむは、箱の表面にゆっくりの親子のイラストが描かれているのに気付きました。
イラストの横には何か文字が書かれていますが、当然、れいむには読めません。

人間さんは箱を開けて、透明なビニールの小袋で包装された物を中から取り出します。
そして、その袋をれいむの目の前に放り投げました。
袋の中には何か黒い物が入っています。

「ゆ…これは……あまあまさん…?」

袋に入っている、いないの違いこそありますが、
それは確かに、れいむがちぇんのおうちに行ったときに人間さんから貰ったあまあまさんでした。

「食ったんだろ?」

人間さんにもう一度問いかけられ、ハッとしてれいむは答えます。

「たべたよ……しんせつな…にんげんさんが……くれた…よ……」

答えるれいむの語尾が震えます。
もうそろそろれいむも気が付き始めていました。
自分が食べたあまあまが何だったのか。

れいむが、人間さんが手にしているあまあまの箱にもう一度目を向けます。
そこに描かれているゆっくりのイラストは、目をバッテン印にして苦しそうな表情をしていました。
もし、れいむが字を読めるゆっくりだったなら、その横のフキダシにこう書いてある事に気が付いたでしょう。

『これどくはいっちぇる!!』


「これはおまえらゆっくりを駆除するための殺ゆ剤だよ。
 俺の家も散々花壇が荒らされててな。
 この新製品の評判が良かったから買ってみたんだが、お前の様子を見る限り、効果は期待できそうだ」

「そ…そんな…そんな……れ、れいむ、どうなるの……?」
「え? 知りたいの? んー、ちょっと待ってろよ」

親切な人間さんは箱の中から説明書きを取り出し、れいむに読み聞かせてあげます。

「えーと…
 『本剤を摂取したゆっくりは、しばらくすると中枢餡に異常をきたし、急速に餡子や皮が腐り始めます』…
 ふんふん…『効果が現れるまではサイズにより時間差があります』と…
 んーと…おまえぐらいの大きさのゆっくりなら…大体2時間ぐらいで腐り始めるんだってさ。
 何々…『本体だけではなく、髪の毛や、目玉』…
 へー、飾りまで腐るのか。不思議なモンだ。
 まあ、おまえらの飾りは体と一緒に成長するって言うし、体の一部って事なのかな?
 えーそれから……『ただし、ゆっくりの底部(足)、及び』…」

人間さんが殺ゆ剤の効能を説明してくれている間、れいむはずっと涙を流して震えながら聞いていました。

そして、人間さんの話が終わったとき、遂にれいむは叫びました。
蚊の鳴くような掠れた声でしたが、それでも、懸命に喉の奥から声を絞り出して叫びました。

「どーして…どーしてそんなことするのおおぉ…!?
 れいむたち、ただいきているだけなのにぃ…! どーし…?!?!」

その叫びが途中で途切れ、れいむは急に咳き込み始めます。
ゆほっ、ゆほっと少し吐餡混じりの咳をします。
何回目かの咳と一緒に、何かがれいむの喉の奥から飛び出して、地面にベチャッと落ちました。

「……!? ……!?」

れいむはそれが何かすぐにわかったようです。
口をパクパクとさせながら、大粒の涙をボロボロとこぼしています。

喉から飛び出したのは、れいむの舌でした。
舌がれいむの口の中で根本から腐って崩れ落ち、れいむの喉に詰まったのでした。
落ちた舌は、まるで別個の生き物であるかのようにぷるぷる震えていましたが、暫くすると動きを止めます。

「そんな事、俺に言われてもなぁ……まあ…なんだ…ご愁傷様?
 今度はゆっくり以外に生まれてこれるといいデスネ。じゃあな」

落ちた舌に気を取られているれいむには構わず、人間さんはれいむの質問に答えました。
殺ゆ剤の箱を買い物袋に戻すと、また携帯電話を弄りながらその場を立ち去ります。

「…! はっふぇひょお…! へいふほひゃふへへ!(まってよお…! れいむをたすけてえぇ!)」

れいむが慌てて人間さんに追いすがろうとしますが、助けを求めて開いた口からポロポロと何かがこぼれ落ちます。
それは、腐って抜け落ちたれいむの歯でした。
それに気付き、れいむの瞳から流れる涙の川は激しく増水します。
そうしている間にも、人間さんはどんどんと離れて行きます。

「ひゃ………! ひふぃ………! (やだよおぉ!! しにたくないよおおぉ!!)」

舌と歯がなくなっても、まだ必死に助けを求めようとしますが、
顎の部分の餡子が腐ったのか、もう満足に口を開く事もできません。
あんよは動くのですが、ずりずりと這うだけでは、人間さんの歩く速さに追いつける筈もありません。
れいむの見ている前で、人間さんの背中はどんどん小さくなって行きました。


  ◇  ◇  ◇


(かえる…おうちかえる………)

れいむがずりずりと橋の上を這っています。
おうちに向かって、まっすぐに這っています。
この橋を越えれば、もうすぐおうちに着きます。

帰りたい
何よりも大事な家族が…おちびちゃん達とまりさが待つ…ゆっくりできるおうちに帰りたい

その強く激しい想いに突き動かされ、まだ健在なあんよをずりずりと動かし続けます。

れいむのおめめは腐って黒く濁り切り、
まだ昼間なのにれいむの周りだけ夜になったみたいです。
わずかに見える足下の様子だけを頼りに、れいむはおうちに向かって這い続けます。

いつもまりさやおちびちゃん達と親愛のすりすりをしていた、もちもちの柔らかい饅頭肌も、
今は腐って黒くなり、以前の面影はありません。

髪が抜け、饅頭皮もおめめも黒くなり、お口も開かないれいむの姿は、はたから見ると不気味な動く黒い塊です。
道行く人間さん達はれいむを見ると最初はビックリした顔をしますが、すぐに平静を取り戻します。
公園にいた人間さんと同じです。
みんな、"それ"が何なのか、知っているのです。

(かえりたい…おうちかえりたいよ……あいたいよ……おちびちゃん………まりさぁ!)

おうちが近づく程に、おうちに帰りたいというれいむの願望はどんどん強くなっていきます。

でも、れいむはその願望に抗おうとします。

(かえり…たい……でも………かえれ…ないよ……れいむが……かえったら………)

れいむは思い起こします。
公園で人間さんに説明された、恐ろしいお薬の事を。



「えーそれから……
 『ただし、ゆっくりの底部(足)、及び、一部の感覚器官は機能を失いません。
  また、完全に死滅するまでは直径30cmの成体で約24時間かかります。
  本剤の効果により、ゆっくりはその帰巣本能』
 …帰巣本能って言ってもわからないか。
 まあ…お前らで言うところの『おうちかえる!』って気持ちか。そう言えばわかるか? ん、そうか」

人間さんは、説明書きを読み上げた後、れいむにもわかりやすい言葉で丁寧に説明し直してくれます。

「『帰巣本能を強く刺激され、全身が黒く腐敗した状態で自分の巣に戻ります。
  巣の近くにまで辿り着き、"巣に着いたからゆっくりできる"という餡神経信号が中枢餡に流れると
  本剤の第二段階の効果が現れ、底部の運動餡神経が破壊されると共に、
  体からゆっくりが好む甘い匂いを放つようになります』
 へー、どんな仕組みになってんのかねぇ。科学スゲエな。で、と…」

「『巣の中に隠れている他のゆっくりは、匂いに惹かれて本剤を摂取したゆっくりを食べます。
  ゆっくりが個体識別に使用する飾りが腐り落ち、体色も黒く変色しているため、同族だとは認識しません。
  ゆっくりを食べたゆっくりに対しても本剤の成分が効果を発揮し、巣の中のゆっくりは全滅します』
 か…ふーん、なるほどねぇ…
 あ、ごめん、今のじゃお前にはわからないよな。まあ簡単に説明するとだな………」


「いや、ホント凄いな。これでウチの花壇の被害も減ってくれるといいんだけどな」

一通りの説明を終えると、人間さんは、そうこぼしながら殺ゆ剤の箱を眺めていました。
れいむには読めませんでしたが、その箱、ゆっくりのイラストが書かれた面の裏面には、

『ゆっくりの巣コロリ』

と書かれていました。



(おうちかえる…! おうちかえる…! れいむ、おうちかえるよ…!
 だめだよ…! かえっちゃだめなんだよ…! れいむが…れいむがかえったら…
 おちびちゃんたちも…まりさも…みんなゆっくりできなくなっちゃうんだよ…!!
 でも……でも…! かえり…たいよぉ…!!)

おうちに帰ってはいけない

そう頭ではわかっていても、れいむのあんよは勝手におうちを目指して這い続けます。

それはそうです。
れいむがおうちに帰りたいと想う気持ちは、家族にもう一度会いたいと想う気持ちは、
とてもとても強い物なのですから。
その気持ちを薬の効果で更に強くされているのですから。

苦悩の涙を流しながら橋の上を這うれいむの側頭部の餡子に、さらさらと流れる水の音が聞こえてきました。

その音でようやくれいむは思い出します。
ここが橋の上だった事を。

(ゆ……)

水の音はれいむのすぐ左手から聞こえてきます。

(かわ…さん……)

れいむがゴクリと唾を飲み込みます。
前へ前へ進もうとするあんよに何とか言う事を聞かせ、進路を少しだけ左に曲げます。
しばらくすると、あんよが橋の縁にかかったのがわかりました。
もう一歩だけ進むと、その先には流れる川の水が待ち構えているのです。

れいむの体がブルブルと震えています。
もし、歯が残っていたなら、ガチガチと音を鳴らしていたことでしょう。

(もう…これしかないよ……)

れいむの頭の中に、次々に顔が浮かび上がります。


すやすや眠る赤ちゃん達の可愛い寝顔

元気良く跳ねて出かけたお姉ちゃん子まりさのちょっと恥ずかしそうにしていたお顔

そして、れいむの目の前を塞ぐ、ちょっとうっかりやさんだけど、優しくて愛しいまりさの笑顔


れいむは、もう一度そのお顔が見たくてたまりません。

でも、もし、それをしてしまったら、
れいむの大切な家族達は、もう二度とそのゆっくりできるお顔を浮かべることはできなくなるのです。

不意にれいむの脳裏に公園の人間さんが立ち去った後の光景が浮かびます。

黒く腐ってしまった、赤ゆっくりの頃から大事にしていたおリボンさん。
人間さんと話すために地面に置いたおリボンさんを、口に咥えなおそうとしたときの光景が。
端の方からボロボロと崩れ、ただの土くれのようになってしまった、変わり果てたおリボンさんの姿が。

そのおリボンさんの姿に、れいむの家族のお顔が重なります。
ボロボロに腐って崩れ落ちていく、大切な家族達の………


(ゆ……ゆああああああぁぁぁぁ!!!)


れいむは、残されていた力の全てを振り絞り、橋の上から飛びました。
黒い視界の先に、太陽の光を反射してキラキラと光る水面が微かに見えます。
その光る水面が、まるでスローモーションの映像を見ているかのように、ゆっくりと近づいてきます。

(あかちゃんたち…ごめんね……おかあさん…もっとあかちゃんたちに……いっぱい…いっぱい…)

(おねえちゃん……ごめんね…いもうとたちのめんどう……しっかりみてあげてね……)

(まりさ…………ごめんね………れいむとまりさの…おちびちゃんたちを…………)

残される家族達に伝えたい事がたくさんあります。
でも、れいむの口からは声が出ません。
その時間も残されていません。

川の水面はグングンと近づき、もはやれいむの腐った目でも、
そこに映るれいむ自身の姿がはっきりと見えるようになりました。

(………!?!?)

その姿を見たれいむの黒い目が驚愕に見開かれるのと、川面に大きな水柱が立つのはほぼ同時の出来事でした。


(ごめんねえぇ!! おちびちゃああん!! ごめんなざいいいぃ!!
 おかあさん しらなかったんだよ…!! ごべんねっ!! ごべんねえええぇぇ!!!!!!)

水面との衝突の衝撃で腐敗した饅頭皮のあちこちが破れ、急速にいのちの源の餡子が川に流れ出していきます。

薄れていく意識の中、れいむは最期まで、ただひたすら、謝り続けていました。


【PM 5:00】


「ゆぅ~ん…おきゃーしゃんたち…おしょいにぇ……」
「おにゃかしゅいちゃよ……」

ダンボールのおうちの中で、二匹の赤ちゃんれいむ達が、頬を寄せ合って寂しさと空腹に震えています。
いつもなら、もうそろそろ夕ごはんの時間なのですが、お母さんれいむも、お父さんまりさも帰ってきません。
赤ちゃん達のおなかが、ぐ~ぐ~と可愛い音を立てています。

「ゆぅ…しゅこちだけ…ちゃべちゃおうきゃ……」
「ゆ…おきゃーしゃんにおきょられちゃうよ…」

赤ちゃん達が昼間お母さんが持ってきたあまあまさんをじっと見つめます。
ただでなくてもお腹が空いているところへ、あまあまさんのいい匂いがおうち中に充満しています。
これでは生殺しです。
食べ盛りの赤ちゃんゆっくりに、我慢しなさいと言うのも酷な話でしょう。

案の定、赤ちゃん達は誘惑に負けてしまいました。
ずりずりと、甘い匂いを放つあまあまさんに近づいて行きます。

(や、やめてねっ! こっちこないでねっ! おねえちゃんをたべないでねえぇ!!)

お姉ちゃんの子まりさが、声にならない声で必死に止めようとしますが、赤ちゃん達は止まりません。

「ゆう…ひちょくちだけにちようにぇ…」
「ゆん…」

ぱくん

「ゆ…ゆうううぅ!!! ち、ち、ち、ちあわちぇええぇぇええぇぇぇえぇ!!」
「あみゃあみゃああぁ!! ちあわちぇえええええええええぇぇ!!!」

(ゆぴいぃ!! いぢゃいっ!! やめぢぇっ!! たべないでええぇ!!)

「ゆううぅ!! こりぇしゅっごくあみゃあみゃだよう!! もっちょたべりゅよっ!!」
「むーちゃむーちゃっ! むーちゃむーちゃっ! ちあわちぇぇ~~っ!!」

おやおや。
赤ちゃん達の食い意地の強さはお母さん譲りのようですね。
一口だけの筈だったあまあまさんをパクパクと夢中で囓っていくではありませんか。

(やめでえぇ! たべないでっ! おねえちゃんだよっ!! どうしてたべるのおぉ!?
 あぎっ…! いぢゃいよおぉ!! ゆぎっ…! ど、どうじでっ! どうじでええぇ!?
 どぼじで いもーとも おかーさんも まりさをたべるのおおぉ?!
 まりさ あまあまさんじゃないよおおぉ!!!)

お母さんれいむとまったく同じ姿をした子まりさがぷるぷると震えますが、
赤ちゃん達は構わず食べ続けます。

「ゆゆっ! こりぇ、ちゅるん!とちてておいちいよっ!」
「ゆーん…ほんちょだ! おいちいにぇぇ!!」

(ゆぴいいぃっっ!! まりじゃのおめめがああぁ!! にゃんにもみえないいいぃ!!
 もうやべでええぇ!! もうゆるじでえええぇ!!
 ごべんなじゃいっ!! あやまりまじゅ!! あやまりまじゅがらっ!!
 もうよそのおうちのごはんさんを かってにたべたりじまじぇんっ!!
 ちぇんがかえってきたら まりさ、ちゃんとあやまりまじゅがらああぁっ!!
 だがら もうやめでよおおぉぉ…!!
 たしゅけてええ!! おとうしゃあん!! おかあしゃああん!!)


  ◇  ◇  ◇


「ゆぷぅ~…おにゃきゃいっぴゃいぢゃよお…」
「ゆ~ん……ゆゆっ!? あみゃあみゃしゃんちゃべちゃったよ!?」
「ゆ…? ゆううぅぅ!?」
「ゆえええん! おきゃーしゃんにおきょられりゅよおぉ!!」

何を今更という気もしますが、うっかりつまみ食いをしてしまった赤ちゃん達が慌て始めます。

それにしても、本当に赤ちゃん達はいっぱいあまあまさんを食べました。
ピンポン玉のようだった赤ちゃん達が、蜜柑ぐらいの大きさに膨れています。
最初は夏蜜柑ぐらいの大きさだったあまあまさんも、
今は赤ちゃん達と同じ、蜜柑くらいの大きさの塊しか残っていません。

「ゅぅ………」
「……ゅぇ……ゅぇ……」

赤ちゃん達はべそをかき始めてしまいます。
でも、大丈夫。
お母さんは赤ちゃん達を叱ったりはしません。

「ゆ……おきゃーしゃんがかえっちぇきちゃりゃ…いっちょにごみぇんにゃしゃいちよう…?」
「ゆん…しょうりゃにぇ……」

赤ちゃん達は素直に謝る事に決めたようですね。
悪い事をしたら、まずは素直に謝るのが一番です。

そう決めると、少しだけ安心したのか赤ちゃん達のお顔に小さく笑顔が浮かびます。

そのときでした。


ぱさ


「ゆ…れいみゅ…? なにきゃおちたよ……?」



【PM 6:00】


西の空が赤く染まり、夕日の中をカラスの群れが飛んでいます。

ぽいんぽいんと飛び跳ねながら、お父さんまりさがダンボールのおうちに戻ってきました。
よほど収穫があったのか、黒いお帽子をぱんぱんっに膨らませてニコニコしています。

「ただいまなのぜ!! ゆう~すっかりおそくなっちゃったのぜ!! でも、ごはんさんいっぱい……」

誰もお出迎えをしてくれません。
れいむも、お姉ちゃんの子まりさも、赤ちゃん達もおうちにいないのです。

「ゆ…? ど、どうしたのぜ…?」

静まり帰ったおうちの中で、大事な家族に何かあったのかと慌てるお父さんまりさでしたが、
見たところ、おうちに争った形跡などはありません。
少なくとも人間さんや、捕食種、他の動物さんなどに襲われたのでは無いようです。
暫くおろおろとしていたまりさでしたが、多分、ご近所のゆっくりのおうちにでも遊びに行ってるのだと思い直し、
少し待ってみることに決めました。

張っていた気が緩むとおなかが空いてきます。
一日狩りを頑張ったお父さんまりさのおなかは、もうペコペコ。
今日のごはんは何なのかぜ~と考えている内に、おうちの中に甘い匂いが漂っている事に気付きました。

まりさがキョロキョロと周りを見回し、おうちの隅に目を止めます。
そこには、蜜柑くらいの大きさの、甘い匂いのする黒い塊が置いてありました。
しかも三つも。

「ゆう…? なんなのぜ、これ…? ゆーん…おいしそうなにおいなんだぜ~…
 ゆゆっ!! わかったのぜ!!
 きっとかりでおつかれのまりさのために、れいむがよういしてくれたあまあまさんなのぜ!!
 ゆふふ~ れいむは、りょうっさいっけんぼなのぜ~!!」

三つの塊の内の二つがプルプルと震えていますが、まりさは気付きません。
あまあまの周りに少しゴミが落ちていましたが、こちらも気にしません。
大方れいむが今日のお掃除を明日やる事にしたから汚れているのだろう、程度にしか思いませんでした。

お父さんまりさは、嬉しそうにあまあまさんまで跳ねていき、あんぐりと大きなお口を開けました。


「それじゃあ えんりょなくいただくんだぜ!!」




==========

あとがき

実際には時限発火式だと使い勝手が悪いかなー、などと考えつつ。


by お説教されたいあき


これまでに書いたもの

anko315  『たくすぃー』
anko433  『ゆっくりで漬け物』
anko502  『ただ一つの』
anko572  『えーき様とお義母様』
anko621  『「餡子ンペ09」ゆっくりの電車』
anko751  『「餡子ンペ09」れいむ、俺の為に赤ちゃん産んでくれ』
~anko753
anko768  『ゆっくり達のクリスマス』
anko1547 『まりしゃと遊ぼう!』
anko1630 『うつくしくってごめんね!』(餡コンペ10春)
anko2056 『ねんがんのSuKimaモニタをてにいれたぞ!』
最終更新:2010年10月06日 20:10
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