『まりちゃはゆっぐぢしてるにょにいいい!!! (後)』 25KB
虐待 思いやり 愛情 差別・格差 仲違い 誤解 飾り 家族崩壊 同族殺し 番い 野良ゆ 赤ゆ 自然界 現代 虐待人間 タイトルが途切れてますがこちらは後篇です。
「まりちゃのあまあま……にゃい……、ゆっくちできにゃいゆっくちだかりゃ……」
親れいむ見る。
親まりさ見る。
そこにいたのは餡子を減らし、ぐったりとしている赤まりちゃだった。
「ゆううううう!!??」
「どぼぢておちびちゃんげんきなくなっちゃてるのおおお!!???」
ケツにぶっとばされたり、そういうことで受けた外面的な傷もある。
しかし、自分だけがあまあまを貰えないという敗北感。
始めて味わった暗い感覚。
自分はもうかわいいおちびちゃんではないんじゃないかという不信感。
それが精神を蝕み軽度の非ゆっくち症として表面に現れたのだ。
妙に生気の無い顔、灰がかりはじめる肌……。
ゆっくりの死因としては珍しくないから、野良の身でもその発症が分かる。
「ゆっくちできにゃいまりちゃはのけもにょ……、まりちゃはゆっくちできないゆっくち……」
そんなゆっくりしていないまりちゃ姿を初めて見た親たち。
当然動揺した。
「げんきになってね、おちびちゃん!!! ぺーろぺーろ!!」
「ゆっくりしてね! ゆっくりしてね!」
しかしそんなことで元気になろうはずもなく、
赤まりしゃはただただつぶやく。
「あまあましゃん……、にゃい……、まりちゃがゆっくちできにゃいゆっくちだかりゃ……」
親ゆたちの手元にはもうあまあまがない。
おちびちゃんを癒すことができない。
「お、おにいさん!! おちびちゃんにあまあまをあげてね!!」
親れいむはおにいさんを見て、あまあまを要求する。
しかしおちびちゃんに対するおにいさんの態度は、親ゆたちへのものとは正反対。
可哀そうとも思わない、そういう振舞いだった。
「やだよ、そんなゆっくりできないゆっくりに。ほっとけばいいんじゃない?」
「どぼぢてそんなこどいうのおおおおお!!???」
「おぢびちゃんがかわいそうでじょおおおお!!???」
八方ふさがりの悲しみに。親ゆはその言葉を発した。
必死にツバを飛ばし、鬼意山にすりよってくる。
しかしあまあまはもうない。
とりあえず無いということにしてある。
それにしても大量のあんぱんを食べてしまったのは誰だっただろう?
「いやいやそんなこと言われても、そもそも二人が全部食べちゃったからもうあまあまは無いし」
「「ゆがーん!!!」」
おちびちゃんのあまあまはない。
情報を咀嚼し、その意味を理解して、漸く自分が行った愚行に気付いてしまった。
「ゆっくりできないゆっくり抜きで食べるあまあまは、とっても美味しかっただろ?」
非ゆっくち症の入り口を開けてしまった赤まりちゃ。
あまあまが食べられなかったせいで。
この病気はこわい。
野良ゆっくりでも本能的に知っている。
ゆっくりできない状態が続くと症状が悪化し、最後にはゆっくち発作を引き起こす。
ゆっくち発作がおきると人間の手による手術を除き回復の可能性はない。
発作が起きたゆっくりはゆっくちゆっくちと連呼せずにいられなくなるが、
一言度に中枢餡が筋餡で締め付けられ、激しい傷みが襲う。
ゆっくりしなければ治らない病気なのに、発作で常にゆっくりできなくさせられるならば
それはもう直す手段がないと言っているのと同じである。
あまあまが食べられないあまりゆっくりできていないおちびちゃん。
回復してもらうにはあまあまを食べさせるしかない。
自分達のあまりの馬鹿さにようやく気がついた親ゆたち。
それらがとった行動は、土下座だった。
「ずびばぜん!! ばりざはしょくようがおうせいすぎるゆっぐぢでじた!!」
「ごのままがおちびちゃんがゆっぐちできまぜん!! あばあばをくだざい!!」
しかし鬼意山は残酷な宣告をする。
「残念だけど、あまあまはもう無いんだよ」
親ゆ二匹は顔をあげ、止まった。
「そ、それじゃあにんげんさんのおうちからもってきて……」
「そう言うけど、あまあまを手に入れるのは人間さんでも大変だからなあ」
「ぞんなぁ……」
二匹は絶望した。
あまあまが無いのに、これからおちびちゃんをどうやってゆっくりさせれば……。
あまあまを食べられなかったことは心の傷として残り続けるだろう。
「あーあ。どこかのゆっくりが、あんぱんを一つ残らず食べるから……」
赤まりちゃの姉妹は、れみりゃの攻撃でやられてしまった。
たった一匹だけ生き残ったおちびちゃんなのに、
もしかしたら死んでしまうかもしれない。
自分達のせいで。
そんなの耐えられない。
呆然とする。
「ばりざは……、ばりざはおちびちゃんを……」
ぱくぱくと口を開けるが、次の言葉が出て来ない。
どうしたらいいのかわからない。
お兄さんは人差し指をたてる。
「なんなら、お兄さんに良い考えがあるよ」
鬼意山は親ゆ二匹をすっとまたいで切り株前で倒れているまりちゃに近づく。
赤まりちゃは濁った眼でそれを見る。目の前に靴がやってくる。
まりちゃは人差し指と親指で先ほどと同じようにつままれた。
「町までまりちゃを捨ててきてあげよう」
そして始まる軽やかなスキップ。
「ゴミはゴミ箱に~♪ ゴミはゴミ箱に~♪」
うららかに歌いながら、華麗にスキップしてゆく。
ゆっくりがギリギリ追いつけないようなスピードで。
それを親ゆたちはじっと眺めていた。
鬼意山の突然の奇行。
何をしているのか。
フリーズしていた。
吃驚しすぎて逝ってしまわないように、ゆっくりはたまにフリーズする。
「ゴミはゴミ箱に~♪」
ゴミ・まりちゃ・捨てにいく。
三つのワードが組み合わさって餡子の中で意味をなすまで20秒かかった。
「ばりざのおちびちゃんはごみじゃないでじょおおおおおお!!!!」
「まっでねええええ!! まっでねええええええ!!!!!」
ゆっくりにしても遅すぎる。
おかげで鬼意山は非常に遅くスキップをするはめになった。
鬼意山の目的はなにも赤まりちゃを捨てることではない。
「こんなゆっぐりできないゆっくり、捨てたほうがいいでしょ?」
ゆっくりとスキップを続けながら、鬼意山は問いかける。
「ぢがううううう!!!! ゆっぐりできるこなのおおおおおお!!!!!!」
鬼意山と親ゆたち、ぴょんぴょん跳ねる。
全速力で跳ねるまりさとれいむは、どうしても鬼意山に追いつけない。
「非ゆっくち症にかかってるし、どうせ死んじゃうでしょ。無理して育てること無いんじゃない?」
また問う。
つままれてもなお、ぐったりしている赤まりちゃ。
「おぢびちゃんはばりざがゆっくりざぜるよおおお!!! ざぜるがらああああ!!!」
「ごべんでええええ!!! でいぶだちがばがだっだんでずううううう!!!!」
よだれを吐きながら必死におちびちゃんを求める両親。
縮まらない距離。
だがぐったりしていたまりちゃには、一つの変化が起こり始めていた。
「治すには毎日あまあまがいるだろうね。毎日日が暮れるまで狩りをしなきゃいけないくなるよ?」
必死で食らいつく。
絶対にあきらめない。
「ぞれでもいいい!!! ぞれでもいいがらああああ!!!!」
「ごれからとれたあばあばはぜんぶおちびちゃんのものでずうううう!!!! だからがえじてえええ!!!」
親まりさたちは既に100回はねた。
土まみれの汚らしい体は、余計に汚らしくなっていた。
まだ食らいつくかなあ。
鬼意山は思った。
「ごれがらはぜっだいゆっぐりざぜてあげるからあああああ!!!!!!」
ぴくり。
つまんでいた赤まりちゃが、反応した。
鬼意山もつい手元を見た。
「まりちゃ……、まりちゃはだいじにゃかじょくなの……?」
親ゆがまりちゃを必死で追いかける姿。
それがまりちゃに元気を与えていたのか。
親れいむはゆっくりらしからぬ反応速度で、その言葉に言葉を返す。
「ぞうだよおおお!! かぞくだよおおお!!! おにいざんもわがってよおおおお!!!!」
涙であふれる臭そうな顔。
どんな美しい言葉よりもずっと、それは家族の、絆の証明になった。
「まりちゃ……、まりちゃをもうのけもにょにしにゃい……?」
親まりちゃは大口を開けて返答する。
「ごべんでえええええ!!! ばりざはばがだった!!!! ばがだったんでずううううう!!! あばあばはおちびちゃんにぜんぶあげるよおお!!! だからゆっぐりしようよおおおおお!!!!」
鬼意山のスキップはもう止まっていた。
これは予想外の展開である。
50メートル離れ。言葉を交わす親子の姿。
笑いがこみ上げるほどクサい家族愛がそこにはあった。
鬼意山に侮辱され、家族にのけものにされたことで、
まりちゃは自分がゆっくり出来ないゆっくりなのではないかと思った。
しかしそこで家族の絆に触れることで、自分はかけがえの無い存在なのだと確信できるようになった。
「まりちゃは、ゆっくちできるゆっくちだよおおおお!!!」
高らかに宣言する。
親ゆたちも肯定する。
家族の絆を再確認した赤まりちゃの目には、すでに迷いは無くなっていた。
肌のいろつやも、いつのまにか良くなっている。
ゆっくりできないゆっくりという鬼意山が仕組んだ絶望から這い上がってきた。
鬼意山が脳みその中で描いていたシナリオの最終工程は、
親ゆたちが諦め追ってこなくなる姿を見せるというもの。
ゆっくりできない要素を並べ立てれば、愛情も尽きてしまうというもの。
鬼意山はそう考えていた。
自分は大事なおちびちゃんで、ゆっくりしたゆっくりだという思いの
最後のよりどころである親子の絆が崩れてしまうところを見せる。
自分がゆっくりできないゆっくりと確信したまりちゃはどう振舞うのか……。
しかしこの親子の絆は意外とかたかったらしい。
鬼意山のシナリオをゆっくりが狂わせた。
鬼意山は泣いた。
笑い涙でいっぱいだった。
ここで赤まりちゃが復活に至るとは。
てくてくと親ゆたちのもとへ近づいてゆく。
このまりちゃをこのまま連れ去っても仕方あるまい。
「ごめん、お兄さんが間違ってたよ。この子はゆっくりできるゆっくりだ」
指で赤まりちゃをなでると、恨みも忘れてゆっくりした顔を見せる。
「おっと、すこしだけあまあまが残っていたぞ」
更にどこからともなくあんぱんのかけらを取り出してやる。
あまあまがようやく赤まりちゃの口に入った。
「ゆゆ!! あまあましゃん!!!!」
目が超新星のように輝く。
「ち、ち、ち、ち、ちあわちぇええええええええええ!!!!!!!」
立て続けに押し寄せるゆっくり。
まりちゃは極楽の姿を垣間見た。
鬼意山の手の上で、うれしーしーまで漏らしている。
生温かいうれちーちーが、指の間をすり抜ける。
ほっこり。
目もとから緊張が消えゆるやかな笑顔が戻ってきた。
あまあまを食べたことで体力が回復し、ようやく頬にも健康的な赤みがでてくる。
「かえしてね!!! かえしてね!!!」
「おちびちゃんをかえしてね!!」
両者の距離は5mほどにまで縮まった。
ようやく……、再開の時が来る。
手をティッシュで拭く。
どんどん縮まる距離。
「ああ、もちろん返してあげるよ」
ふと。
赤まりちゃの帽子が消え去った。
気付かれないようにそっと持ち上げ、尻ポケットの中に消し去ったのだ。
親まりさ・親れいむ。
ぜはぜはと息を繰り返す二匹の前に赤まりちゃが置かれる。
戻ってきたゆっくりできる家族という居場所。
こんなにかけがえの無い物で、そしてこれほどまでにゆっくりできるもので。
そんなこと今まで考えたことも無かったのに。
まりちゃは感動に打ち震えていた。
「おとーしゃん、おかーしゃん……!!!」
元気な笑顔。
:D
「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!!」
ゆっくりの絆はもろい。簡単に崩れてしまう。
どんなに固く見えても大抵ははりぼてだ。
今回も例外ではなかった。
「ゆぷぷぷ!!! ゆっくりできないゆっくりがいるよ!!」
「おぼうしのないがきまりさだね!!! おおあわれあわれ!!!」
軽蔑と偏見に満ちたその顔。
数秒前までゆっくりしていたはずの顔はどこかへ無くなってしまった。
ゆっくりはお飾りで個体識別をしている。
まりさ種の場合はお帽子だ。
いくら愛情が深かろうと、お飾りが無ければおちびちゃんには見えない。。
お帽子が無いゆっくりなんて、ゆっくりできない奇妙な生物にしか見えない。
ゆっくりの認識能力の限界だった。
人間が肉眼で紫外線を視認できないことと同じ、種としての限界。
ゆっくりの限界だ。
親れいむはつばをはきかけ、親まりさは歯ぎしりをする。
「きもちわるいね!! れいむはぜんぜんゆっくりできないよ!!」
「ゆっくりできないゆっくりは、まりさのしかいにはいらないでね!!!」
ゆっくりできないゆっくり。
ゆっくりをゆっくりと認めない言葉。
そんな暴言を平気で吐きかけてゆく。
絶対的な嫌悪。
赤まりちゃはあまりに突然の出来事に目を白黒させる。
しかし気丈にも親ゆにすりよってゆく。
「おとーしゃん! おかーしゃん! まりちゃはまりちゃだよ!! おちびちゃんのまりちゃだよ!!!」
あくまで絆を信じるまりちゃ。
おぼうしがないと個体識別できないなんて、あかちゃんのまりちゃは知らない。
悪い冗談だと思った。
いきなりそんな嫌われ方をするなんてあまりに現実離れしたことだった。
まりちゃはあの、確かめ合った愛情を信じていた。
親ゆ二匹にすりよってゆく。
「きたないからだでちかづかないでね!」
親まりさの体当たり。
重量比から言えば、ヒトが象に体当たりされるようなものだ。
接触の瞬間、まりちゃの体は半ば潰れたような形になった。
表皮を襲う痛覚の爆発。
中枢餡がつぶされる、気味の悪い痛み。
「ゆげええええ!!!!」
べちょりと地面にたたきつけられ、餡子をだばだばと吐く。
草のあいだでみじめに潰れている。
しかし幸いにも皮は破れなかったらしく即死は免れたようだった。
鬼意山は見た。
あれは殺気のこもった本気の体当たりだ。
ゆっくりできないゆっくりなんてゆっくりじゃない。
殺しても群れの制裁を受けない唯一のゆっくりだ。
「まりちゃ……かじょく……」
まりちゃの目からは涙があふれる。
どうして……?
どうしてこんなことするの……?
親から受けたのは、生まれてからいままでで最大の侮辱と暴力だった。
親まりさは怒ったような顔でおにいさんを見る。
「おにーさん! わるいじょうだんはよしてね!! ゆっくりできないゆっくりじゃなくて、ちゃんとまりさのおちびちゃんをかえしてね!!」
鬼意山は泣いていた。
笑い涙が止まらなかった。
茶番劇を通じ、ゆっくりを取り戻した赤まりちゃ。
あまあまも食べて絶頂気分だった。
その幸せが、たったの1分たらずで滅茶苦茶になったのだ。
持ち上げて落とす虐待というものは、どうしてこんなに楽しいのだろう。
鬼意山の笑顔はここ一週間で一番のものになった。
「ごめんごめん、ほら、本物のおちびちゃんだ」
親ゆの目の前に、こんどは赤まりちゃの帽子をかぶったあんぱんが置かれる。
そうすると親まりさも、親れいむも心の底からの笑顔を見せてくれた。
「ゆわああああ!!! おちびちゃん、かえってきたああああ!!!」
「すーりすーり!! これからはずっとゆっくりしようね!! いっしょうゆっくりしていこうね!!!」
赤まりちゃを放置して、自分達だけであまあまを食べた愚かさ。
両親は心のそこから反省していた。
まりちゃの帽子をかぶったあんぱんに、愛情いっぱいのすーりすーりをする。
本物の赤まりちゃは向こうの方でぐったりしているのだが。
ようやく体力を取り戻した時、赤まりちゃの目に映ったのがこの光景であった。
幸せいっぱい夢いっぱい。
そんな家族の輪の間にあるのは、ただのあんぱん。
五個入り100円のぷちあんぱん。
「ゆ、ゆううううう!!!!!」
赤まりしゃは飛び上がる。
まりしゃのゆっくりぷれいすにあんぱんが収まっている。
おとーさんの左頬とおかーさんの右頬に挟まれて、だぶるすーりすーりを味わっている。
特別な時にしかされないもっともゆっくりできるすーりすーり。
あんぱんが、赤まりちゃのものだった愛情を一身に受けている。
ただのあんぱんが。
「ぞれはあまあまだよおおお!!! ぱりちゃはここだよおおおお!!!!」
必死に叫びながらまた跳ねてゆく。
あんぱんに体当たりをしようと全速力で走ってゆく。
鬼意山のてのひらで踊る、みじめなまりちゃ。
もう家族の愛情は得られないのに。
「ばりちゃのふりをずるげしゅなあばあばはゆっぐぢちねええええええ!!!!」
あいつを殺せば、お父さんもお母さんも目を覚ます。
そういう体当たり。
しかしその体当たりはとてもやわらかいなにかで遮られた。
それは、いつもまりちゃにぷよぷよすりすりしてくれていた、おかーさんのおなかだった。
「ゆっくりできないゆっくりがちょうしにのらないでね……」
歯茎が見えるほどの大口、はぎしりをするれいむ。
親れいむは非常に怒りを感じた時、歯茎が露出してしまうタイプのゆっくりのようだ。
目は充血し、息は荒く、いかに怒りが深いかがわかってしまう。
「まりさ、ひさびさにきれちまったよ……」
親まりさは歯茎こそ露出していないものの、
その瞳は鋭く、まったくゆっくりできていないことがうかがわれる。
赤まりちゃはきょろりきょろりと両親の顔を見比べた。
「ど、どうちたの……? まりちゃはまりちゃだよ……?」
涙目のまりちゃだった。
うるうると涙があふれている。
あまりにも恐ろしいおとーさんとおかーさんの顔。
それでもまりちゃは逃げなかった。
「めをしゃまちてね……。まりちゃがおちびちゃんだよ……。ありぇはげしゅのあまあまだよ……?」
きゅっと両親を見つめる。
しかしまりちゃは日常に戻れなかった。
その最期の言葉が両親の怒りに火を付けてしまったのだ。
「ふざげるなあああああああ!!!! ゆっぐりでぎないごみが!! おちびちゃんのわるぐぢをいぶなああああああ!!!!」
「じね!! いやごろず!! いまずぐごろじでやるううううう!!!!」
飛び上がるのは二匹同時だった。
赤まりちゃを覆う、大きな陰。
親まりさと親れいむのあんよの陰。
重力に従って落ちてくるあんよ。
大きなあんよ。
やわらかいあんよ。
赤まりちゃが見た最期の光景だった。
後に残ったのは死臭漂う餡子のシミと、破裂した目玉や皮などの不気味な残骸だけであった。
「ぷんぷん! ゆっくりできないゆっくりだったよ!!」
「さあおちびちゃん! ゆっくりおうちにかえろうね!!」
しかしおちびちゃんは何の反応も示さない。
「ゆゆ? おちびちゃん?」
れいむの瞳にも、まりさの瞳にも、にこにこしたおちびちゃんが映っていた。
しかしそのおちびちゃんは、まるで死んだかのように動かなかった。
親れいむのぴこぴこがあんぱんにあたる。
そしてようやく、赤まりちゃのお帽子は、あんぱんからずり落ちた。
両親が幻覚からさめる。
それは間違いなく、ただのあんぱんであった。
「ゆ?」
「ゆゆゆ?」
きょろきょろとあたりを見回す。
「おちびちゃん?」
親ゆたちの瞳には、つがいとおぼうしと鬼意山、ゴミの死体とあんぱんしか映らなかった。
鬼意山は腹を抱えて笑っている。
成り行きに任せていたが、その結末はなかなか面白いものだった。
「ゆっ! おにいさん! わらってるばあいじゃないよ!! おちびちゃんがきえちゃったんだよ!!」
鬼意山は咳払いをして笑いを納め、おちびちゃんのありかを教えてやる。
指差した先には、ゆっくりできないゆっくりの死体。
「二人のおちびちゃんならここにいるじゃないか」
だが二匹とも明らかに不機嫌な顔をする。
「ゆ、これはゆっくりできないゆっくりだよ?」
「れいむたちがさがしてるのは、おちびちゃんなんだよ!!」
もうこの家族から笑いは引き出せないだろう。
ネタばらしをして切り上げよう。
ちっちゃくて黒い赤まりちゃのお帽子を、その死体に返してやった。
「ああ楽しかった。それじゃばいばい!」
鬼意山はそれだけ言って、満足そうに帰路についた。
大きかった鬼意山の体。
瞳に映るその姿はだんだんと小さくなり、やがて消えた。
硬直するまりさ。
れいむ。
絶対ゆっくりさせると誓ったはずだったおちびちゃん。
それが死んでいた。
何の言葉を発することもできなかった。
■
太陽は真上にのぼりやがて下って紅くなった。
「おばえがおちびちゃんをごろしたんだああああああああ!!!!!!」
「ちがうううう!!!! ごろじたのばおばえだあああああああ!!!!!」
ほんのり赤く染まった夕暮れの森。
ぽよんぽよんとぶつかり合うかつてのつがい。
殺し合いをしていた。
結局どちらがおちびちゃんにとどめをさしたのかという争いを
数時間にわたって繰り広げていた。
「ごのゆっぐりごろじいいいいいい!!!!!!」
「ゆっぐりごろじはおまえだあああああ!!!!!!」
おちびちゃんを拒絶し最後には殺したという失敗は、
あまあまを全部食べてしまったという失敗とは比べ物にならない。
それを背負っていけるほど丈夫なまんじゅうではなかった。
「じねえええええ!!!!」
「おばえごぞじねええええええ!!!!!」
お互いの体力が尽きるまで
いつまでもいつまでも
仲の良かったつがいは
延々と責任のなすりつけ合いをして、
くたばってしまいましたとさ。
【おわり】
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●今日からは「とかいはうんうん」という名前で投稿していこうと思います。
・最近の過去作さん
anko2317 赤ゆのたのちいイス取りゲーム (後)
anko2316 赤ゆのたのちいイス取りゲーム (中)
anko2315 赤ゆのたのちいイス取りゲーム (前)
anko2271 ゆっくりたちの地雷行進
最終更新:2010年10月09日 16:48