anko2142 柵とゴム手と私

「にんげんさんはゆっくりできるひと?」
「ゆっくりできるひとならいっしょにゆっくりしてもいいのぜ!」


ペットショップで銅バッジゆっくりのれいむとまりさを買った。
成体二匹で1000円(税込) お手ごろ価格。

家に持ち帰り、用意してあったゆっくり用のスペースに置いたとたんに言ったことがこれである。
なんともまあ、ふてぶてしい言い草ではあるが銅バッジだ。この程度なら気にするほどでもないだろう。

「私はゆっくりが好きなんだ。ゆっくりを見てるとゆっくり出来るから君達を買うことにしたんだよ」

先ほどの質問に答えてやる。
ゆっくり達はそれを聞くと、パァァという擬音が出ているかのように顔を輝かせ

「ゆっ!ゆっくりできるひとなんだね!ゆっくりしていってね!!」
「いっしょにゆっくりしていってもいいのぜ!!まりさもゆっくりするのぜ!!」

と、喜びの声をあげている。ちょっとうるさい。

「はいはい、あんまり大きい声で話さないようにね。じゃあ今から君達の住む場所の説明をするから」
「「ゆっくりせつめいしてね!!!」」


私の家ではリビングの端の方をちょっとした柵で囲い、そこをゆっくり専用の空間としている。
約2畳ほどのスペースだが、「立って半畳、寝て半畳」のゆっくりにとっては十分な広さだ。
床には柔らかい絨毯を敷き、寝床となるクッション、餌皿水皿、トイレ、ちょっと隠れられる屋根などなど
ゆっくりが生活する上で快適な空間を用意している。

二匹はそれぞれを説明するたびに「ゆっくりしてるね!」「ゆっくりできるね!」などのリアクションを返してくる。
うんうん、喜んでくれると用意した甲斐もあるというものだ。

「……さて、これで説明は終わりだ。わかったかな?」
「「ゆっくりりかいしたよ!!」」
「いい返事だ、じゃあ次はここで暮らす上で守って欲しいルールを教えるよ」
「「ゆっくりせつめいしてね!!」」

「ルールといっても一つだけだ。『勝手に子供を作らない』これだけ守ってくれればそれでいい」
「ゆー?どうして?おちびちゃんはゆっくりできるよ?」

やはりれいむが食いついてくるか。まりさも何も言わないが、納得してはいなさそうな顔だ。

「まあ落ち着け、子供を作るなってのはご飯が足りなくなるからだ。私としては今のところ君達の分しか用意できない。
 おちびちゃんの分のご飯が足りないから自分達の分をあげるよ!ってのもいいが、それじゃあ君達がお腹いっぱいになれないだろう?
 結局みんなゆっくりできなくなるから、子供は作らないようにしようってことさ」
「「ゆー……ゆっくりりかいしたよ……」」

あらら、なんだかしょんぼりしてしまった。 助け舟を出しておくか。

「そんなにガッカリすることもない。「勝手に」するなってだけだ。私が許可を出せば子供を作っていい」
「「ゆゆっ!?」」

バッと伏せていた顔を上げるゆっくり達。現金というか、素直というか。

「それじゃあはやくきょかをだしてね!!たくさんでいいよ!!」
「きょかをだすのぜ!ゆっくりしなくていいのぜ!?」

おやおや勢い余って調子に乗ってきたな。

「ダメダメ。そんなすぐに許可を出したら最初にルールを決めた意味が無いだろう。
 君達がルールを守って、とてもゆっくりしているいい子だってことがわかれば、その時許可をだしてあげよう」
「ゆっくりりかいしたよ!!ゆーん、はやくおちびちゃんほしいよー!」
「ゆっくりするのぜ!まりさはいいゆっくりなのぜ!!」

本当に調子のいいことだ。
まだしつこく食い下がってこないだけ聞き分けがいい方……だと思いたいが。

「それじゃ、今日から君達はうちのゆっくりだ。ゆっくりしていってね!」
「「ゆっくりしていってね!!!」」


その後、餌と水を用意してやり、むしゃむしゃガツガツ食うニ匹を眺めた後、夜も遅かったので寝ることにした。
明日はボールでも使って遊んでやろうか。私はベッドに入りながらそんなことを思っていた。


……思っていたのだが。





「ゆゆーん!れいむたちのおちびちゃんとってもゆっくりしてるよぉ~!!」
「まりさたちのおちびなんだぜ!!ゆっくりしてるのはとうぜんなのぜ!!」

次の日リビングに行くと、れいむの額には立派な茎が生えていた。
……まさか一日持たないとは思ってなかった。

ぼんやりゆっくりを眺めていたら、こちらに気が付いたのだろう、二匹揃って自身ありげな顔をして話し掛けてきた。

「れいむたちのおちびちゃんかわいいでしょ!れいむすごくゆっくりしてるよ!だからはやくきょかをだしてね!!」
「いまのまりさたちよりゆっくりしてるゆっくりなんていないのぜ!これじゃあきょかをださないわけにはいかないのぜ!」

「……勝手に子供作っちゃいけないって言っただろ?覚えてないのか?」

「ゆふん!そんなことしってるよ!ゆっくりしてればおちびちゃんのきょかがもらえるんでしょ?
 おちびちゃんがいるとすごくゆっくりできるんだよ!!だからぜったいきょかがもらえるんだよ!!
 ぜったいきょかがもらえるんだからおちびちゃんがいてもいいんだよ!だからはやくきょかをだしてね!!」

……なるほど。なんとも突飛な考え方をしてくれたものだ。
元々、ゆっくりの言う「ゆっくりりかいしたよ!」をそこまで信用していた訳でもないが。

「ゆっ!ゆっ!きょーか!きょーか!はやくきょか!!」
「きょかするのぜ!ゆっくりしないではやくするのぜ!」

大きな声で「きょか」を求めるれいむとまりさ。

もう、これは……「限界」かな。

私はゆっくり用スペースの中に入り、柵に掛けてあったゴム手袋を両手に付けると


れいむの額に生えている茎を引き抜いた。



「きょーか!きょーか!きょ……ゆ? ゆゆゆゆゆゆっ!!!?」

一拍遅れて現状を把握したれいむが喚く。

「れ、れいむのおちびちゃんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

目を見開き、大声で叫ぶれいむ。

「どうしてこんなことするの!!?はやくもどしてね!!れいむおこるよ!!!」

どうやら怒ってしまうらしいれいむを見ながら手の中の茎をポキポキ折り畳む。
3回ほど折り、片手に収まるサイズまで纏めた後、一息に握り潰す。ぐちゃりという音に混じって小さくチュブッという音が聞こえた。

「あ、あ、あああああああああああああ!!!おちびちゃんがぁぁぁぁぁ!!!れいむのかわいいおちびちゃんがぁぁぁぁぁ!!!!」

潰した茎をとりあえずゆっくり達のトイレに置く。既に2つうんうんがあった。
ゆっくりに目を戻す。
れいむはこちらをすごい形相で睨み付けていた。まりさは今だ現状についていけていないらしく目を見開いたまま身動き一つしていない。

「うそつき!!!にんげんさんはぜんぜんゆっくりできないにんげんさんだったんだね!!!れいむおこったよ!!!」

れいむは顔を膨らませる、いわゆるぷくーの体勢をとりながらこちらを非難している。

「もうゆるさないよ!!れいむのおちびちゃんをころすようなげすなにんげんさんは、れいむがせいっさいすぶゆぇ!?」

喋っているれいむの口の中に右手を突っ込む。そして左手で頭頂部を掴みトイレの上まで運ぶ。
れいむはいきなり口に手を突っ込まれパニックに陥っているようだ。ぐにぐにと動く餡子の感触が手に伝わる。

「んんー!!んんんーーーー!!んぐぶっ!!!??ぶごごごっ!??」

私はれいむの中で右手を動かし、中身を攪拌していく。

「ゆう゛っ!!?ゆごぼぉぉっ!!ぶべうぐっ!!?ごっごごごごっ!!?ぶぎゅごろぇ!?」

奇声を上げながら目を上下左右とせわしなく、ぐりんぐりんと動かすれいむ。
下の穴からはうんうんとしーしーが垂れ流され、体全体がビクビクと痙攣している。
握り潰された茎の上に、排泄された餡子と砂糖水が重なってゆく。


2分ほど手を動かし続けると、れいむが痙攣しなくなった。
手を引き抜く。れいむはもうピクリともしない。
私はれいむをトイレの横に置くと、先ほどからやけに静かなまりさを捜した。


まりさは隅の方で体を縮こませ、震えながらこちらを見ていた。
私がまりさの方へ歩を進めると、まりさは泣きながら叫びだした。

「ゆぁぁぁぁ!!!ごっちくるな!!!こっちにごないでぇぇぇぇ!!うそつき!!うそつぎぃぃぃぃぃ!!!!」

む、いきなりの嘘つき扱いは心外だ。

「嘘つきって何がだい?むしろ「勝手に子供を作らない」ってルールを破ったまりさ達の方が嘘つきだろう」

「にんげんざんはゆっくりがすきっていったんだぜ!!まりさだちをみでるだけでゆっぐりできるっていったのぜ!!
 だっだらおちびをみでもゆっぐりできるはずなのぜ!!だがらきょかをだずはずなんだぜ!!
 なのになんでごんなごどするのぜ!!ぜんぜんゆっぐりできないのぜ!!うそつきなんだぜ!!うぞつぎなんだぜ!!
 うぞづきうそづきうそづきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

……ああ、なるほど。まりさは勘違いをしている。

「なあまりさ。確かに私はゆっくりが好きだし、ゆっくりを見てるとゆっくりできる。これは嘘じゃない」

「ゆ゛っ!!だ、だっだらどぼちて」




「でもそれは別に君達じゃなくてもいいんだよ」


「…………ゆ?」

「私は別にどうしても君達じゃないとダメってわけじゃないんだ。君達が言う事を聞かない悪い子だったら
 また別のいい子を買ってくるだけさ。変わりはそれこそ掃いて捨てるほどいる」

「ゆ……ゆあ……」

「君らがルールをちゃんと守れるいい子だったなら、君達が喜んでくれていたご飯もベッドも思う存分使ってもらって構わなかったし、
 しばらくしたら許可を出して、本当に子供を作ってもらってもよかったんだ。これも嘘じゃないさ」

「ゆ……ひ……」

「でも君達はルールを守れない悪い子だったから」

「ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆ」

「私はまた新しいゆっくりを買うことにするよ」

「ゆあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」








ゆっくりをペットとして飼おうとした場合、そののほほんとした間抜けな外見からは想像もつかないほどの手間がかかる。
そもそもペットに適した金バッジゆっくりが結構なお値段になっているということで最初のハードルが高い。
そこをクリアしたとしても、そこからは脆弱な肉体を持つゆっくりへの配慮、記憶力の低さを補うための継続的な躾。
ゆっくりのことを常に考えていなければやり遂げられないような「正しい付き合い方」をしていかねばならない。
それらを全てやり遂げたとしても、事故的なゲス化は100%防ぐことはできないそうだ。なるときはなる、らしい。

高い金を出し、手間隙をかけて育てた結果が「おい!くそどれい!」では泣くに泣けない。不幸すぎる。

一段劣る銀バッジであっても、まだ簡単に買い換えられる価格ではない上、その分躾の手間が余分にかかってしまう。
根本的な解決にはならない。


私はゆっくりをペットとして飼うことを諦めた。

ゆっくりを消耗品として割り切り、「喋って動くインテリア」として買い換えていくことにしたのだ。


安価な銅バッジゆっくりを買い、衣食住だけ用意してあとは放っておく。眺めたり、気が向いたら話しかけてみたり遊んでみたり。
結果として、不慮の事故で死のうが、ゲス化しようが、なんかイラッとさせてこようが、潰して買い換えればすべてが解決するという寸法だ。

ゆっくりを眺めて楽しむという目的を満たす手段としてはこれが一番性に合っていた。


一つ「ルール」を決めるのも、躾をしたいというわけではなく、単に観察する上でのちょっとした変化を楽しもうという遊び心だ。
今回は「勝手に子供を作るな」だったが、「勝手に歌を歌うな」「餌の催促をするな」「跳ねて移動するな」などそのときの気分で適当に言っている。
最初から守る気の無かった奴、守ろうとしたが我慢できなかった奴、だんだん調子に乗って守らなくなった奴、など様々な性格がわかって楽しい。


こんな生活を半年ほど続けているが、未だに出費が銀バッジ一匹買うより安いというのがなんともいえない。すごい価格差。
まあ、金のかからない趣味としては悪くないかなと思っている。


さて、今回は一日も持たなかった。やはり番で買うのは失敗だったか。
しかし、前回は一匹だけ買ったら番が欲しいと駄々をこねた挙句のゲス化だったし……難しいものだ。



次は何を買おうか。ありすを買おうか。ちぇんにしようか。1匹?2匹?3匹以上ってのもありかもしれない。

そんなことを考えながら、私はもう動かなくなったまりさから右手を抜いた。





おしまい




前に書いたの

・anko1665 『ゆっくりの飼い方』
・anko1676  ゴミの分別

書いた人
 ボンジョビあき
最終更新:2010年10月09日 16:49
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