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anko2173 かりのめいしゅ

 梅雨も明け本格的な暑さを感じる季節。ここは郊外にある大きな森林公園。
 強い日差しを和らげる木陰の中をあるゆっくり一家が跳びはねながら移動していた。

 先頭を跳ねる親まりさが立ち止まり、後続の2匹に声をかける。
 
「おちびちゃんたち! みちくさしないでちゃんとおとーさんについてきてね!」
「「ゆっ! 「まりしゃは」「れいみゅは」ちゃんとおとーしゃんについていっちぇるよ!」」

 2匹の小まりさと小れいむが嬉しそうにその場で跳ねながら親まりさの問いに答えた。
 大きさは野球ボールほど。そろそろ赤ゆから子ゆへと成長する時期だ。
 まだ赤ゆ言葉が抜けきっていないが健康状態はすこぶる良く、何をするにも大きな声と大きな動きを伴っている。

 それを見聞きし安心した親まりさの目に甘い味の涙が浮かぶ。
 
『ふたりのおちびちゃんが、げんきにそだってくれてほんとうにうれしいよ・・・』
 
 実は春先に産まれたおちびちゃんたちは6匹姉妹だったが、そのうちの4匹がすでに永遠にゆっくりしてしまっていた。
 原因は季節はずれの寒さや梅雨の時期の湿気などで、ゆっくりの死因としてはそれほど珍しいものでもない。
 1匹が死ぬたびに自分自身が融けてしまうほど大泣きした親まりさと親れいむだったが、それでも残ったおちびちゃん
たちだけはなんとしてもゆっくりさせなければという思いでここまでやってきた。

 その甲斐あってこの2匹だけは死亡率の異常に高い赤ゆの時期をどうにか越えるまでに成長してくれている。
 そんな親の思いなど知らずにその場でこーろこーろやのーびのーびをして遊び始める子ゆ2匹。
 親まりさは微笑ましそうにその様子を見ながらもキリッと眉毛を引き上げ、

『かりのめいしゅのまりさが、おちびちゃんたちにいきぬくすべをしっかりとおしえるよ!』

 と、空を見上げ1匹で張り切っていた。




 そうこの親まりさは自称『かりのめいしゅ』であった。
 ゆっくりの行う狩りとは実際のところただの採取なのだが、運動能力も知能も低い自然界最弱の生物(ナマモノ)である
ゆっくりのこと、その辺に生えている草を採ったり小型の昆虫類の死骸を拾い集めることですら、
ときには生命を落とすほどの危機に晒されることも珍しくはない。
 だから彼らゆっくりの中ではそれをどこか危険の伴うイメージを持つ狩りと表現することに
大した違和感は抱いていないのだろう。
 
 この親まりさはこの森林公園を棲みかとする群れの一員である。
 この森林公園に棲むゆっくりの群れは人間のテリトリーにいながらも半野生のような暮らしをしている珍しい群れであった。
 棲みかである公園の敷地が広大で、自然豊かであるという最大の幸運がそれを可能としていたのである。

 群れのゆっくりの数も(今のところは)せいぜいが20匹前後なので、近所の住人が問題視するほどの
環境破壊や騒音被害などのゆ虐が出ていない。
 そのため、この公園ではゆっくりたちがもっとも恐れる人間による一斉駆除などが行われる様子はなかった。

 また他所の地域から流れ着き、この公園で群れを形成した何匹かの古株たちは、人間の怖さをよく理解していたらしく、
群れの他のゆっくりたちに「ゴミ漁り厳禁」や「人間に近づくことの禁止」といった厳密な決まりを課していることも
駆除が行われない要因となっているようだ。

 人間側の都合としても面倒な作業である駆除はできれば御免被りたいものである。
 ゆっくりが人間に迷惑をかけない範囲で棲むのなら、という理由でこの群れを目こぼししてやっているわけである。

 さてこの小ゆ2匹だが、当然のことながらまだ狩りなどできる大きさではない。
 ゆっくりの成長時期としてはようやく巣を出て母ゆっくりと外で遊んだりお歌を歌ったりする頃合である。
 この時期に外で遊ぶことで「雨はゆっくりできない」ことや「夜はれみりゃやふらんが出て危険である」ことなど、
ゆっくりの生存にとって基本的なことを学ぶのである。

 この時期の小ゆに狩りの手解きを教えようと提案したのは親まりさである。
 過酷な自然の中で生き抜いていくには必須ともいえる狩りの技術を、その名手である自分が子に伝授するのは当たり前だと思ったからだ。
 母である親れいむも今まで楽に生きてきたわけではない。狩りの仕方を覚えておいて損なことは何もない。
 まりさの提案には基本的に賛成である。しかし母性溢れるれいむはまりさにひとつの疑問をぶつけた。

『ゆう~、でもまりさ、まりさのかりをおしえるのはまりさだけでいいんじゃないの?』
『れいむにはれいむがとくいな、こそだてやおうたをおしえたいよ』

 その疑問に対してまりさはうんうんと頷き、

『そうだね、れいむのいうことももっともだね』
『でもまりさやれいむにもしものことがあって、おちびちゃんだけがのこされるようなことになったとき、
まずやくにたつのはかりだよ』
『おうたのうたいかたも、こそだてのほうほうもだいじだけど、おちびちゃんたちにはまずかりをおぼえてもらいたいよ』

 とゆっくりらしからぬ理路騒然とした答えをはっきりと言い切った。
 この自信に満ち溢れたまりさの表情を見て惚れ直したのかれいむは頬を赤らめながら、

『ゆっ! まりさのいうとおりだね! さすがれいむのえらんだまりさだよ!』
『れいむはこんなりっぱなまりさのおよめさんになれてしあわせ~だよっ!』

 と、思わずまりさにすーりすーりをし始める。

『ゆぅ~、てれるよ~れいむぅ~』とまんざらでも無さ気な狩りの名手。

 そういったある種の人間にとってはうっとおしいことこの上ないやりとりが行われたのが今朝方で、
こうして親まりさは番承認の元、子ゆ2匹を連れていつもの狩場へと向かっているのだった。




「さっ、おちびちゃんたち! おあそびはそのへんでおしまいにしてね!」
「これからおちびちゃんたちは、おとーさんのかりをよーくけんがくするんだよ!」

「「ゆっくちりきゃいしちゃよっ!!」」

「それじゃあ、かりばにいくからねっ! ゆっくりおとーさんのあとについてきてねっ!」

 3匹は再びぽよんぽよんと間抜けな擬音と共に先を進んだ。
 まだ昼前だというのに日差しはすでに相当な強さになっていた。
 こんな真夏日に日当たりのよい場所に出ればゆっくりなどほんの数時間ほどで干し饅頭になってしまうだろう。
 帽子のつば先から差し込む強い日光に目を細め、親まりさは注意深く木陰を縫うように跳ねていった。

「さあ、かりばについたよおちびちゃんたち!」

 3匹は森林の中にあるやや開けた場所に出た。
 周囲を背の高い木に囲まれたこの狩場には、青々と草花が茂っており、
それに誘い出された無数の子虫が周囲を飛び回っていた。
 日陰で程よく冷えた剥き出しの地面には大小様々な石が落ちていて、中心部には朽ちた大木が横たわっている。

 さらさらと木の葉を揺らす風が吹き、木漏れ日が薄暗い狩場をスポットライトのように移動した。

「「ゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~~~っ!!!!!!」」
 
 2匹の子ゆにとってこの狩場の光景は宝の山に見えたようだ。ぷるぷると饅頭皮を揺らし感動に打ち震えている。
 子れいむにいたってはうれしーしーまで漏らしている始末である。

 その子れいむの頭上をひらひらと1匹のモンシロチョウが飛んでいき、すぐ近くに生えているタンポポの花に止まった。

「ゆっ! ちょうちょしゃん、まりしゃにゆっくちたべられちぇねっ!」
 
 涎を垂らしながら勢いよく飛び跳ねてタンポポへ近づく子まりさ。
 当然、モンシロチョウは子まりさの接近に気付いてタンポポから飛び立ってしまう。

「ゆわーんっ! ちょうちょしゃんいじわるしないじぇねっ!」

 その場で跳ねながら悔しがる子まりさ。
 そんな子まりさを小馬鹿にするように蝶は子まりさの目の前を通過して、今度はその先のオシロイバナに止まった。
 さっそく勇ましく蝶に向かおうとする子まりさを親まりさがやんわりと制した。

「ゆふふ、だめだよおちびちゃん。ちょうちょさんをつかまえるときはこうするんだよ」

 親まりさは跳びはねることをせずあんよで地面を這い出した。ずーりずーりと呼ばれるゆっくり独特の歩き方だ。
 
「そろーり、そろーり・・・・・・」

 行動を口に出すのはゆっくりのしょうもない習性の一つだが、狩りの名手も例外ではないようだ。
 跳ねて近づくよりは感づかれ難いだろうが、これではよほどの幸運が働かなくては蝶を捕らえることなど不可能であろう。
 
 しかしここからが狩りの名手の本領の発揮である。

 親まりさはあと数十センチといった距離まで蝶に近づくと「ゆんっ!」 と顔(というか身体全体)を素早く動かして
自身のお帽子を蝶に向かって飛ばした。
 お帽子はふわりと宙を舞うとまるで虫捕り網のようにオシロイバナもろとも蝶の上へと被さった。

 すかさず全力でジャンプする親まりさ。跳躍の高さは約30センチほどだ。

「ちょうちょさん! ゆっくりつかまってねっ!」 

 そう叫ぶと、親まりさはどすんとそのままお帽子の上へと着地した。

 親まりさはすぐにその場から一歩横に退き、おさげを使って器用にお帽子を持ち上げる。
 そこでは半分潰れたオシロイバナと圧迫によって息も絶え絶えのモンシロチョウが力無く羽を動かしていた。

「「ゆうううううう!!! おとーしゃん、しゅごおおおおおおおいいいいいいっ!!!」」

 親まりさの見せた華麗な狩りのテクニックに2匹は惜しみない賞賛を送った。
 子れいむはまたもうれしーしーを漏らしている。
 子ゆたちの尊敬のまなざしを一身に受け自尊心をくすぐられた親まりさは最高にキリッとした表情を見せていた。

「そらをとぶむしさんはこうやってつかまえるんだよ! よーくおぼえておいてね、おちびちゃんたち!」

 お飾りはゆっくりにとって生命の次に、いや生命そのものといってもいいくらい大事なものである。
 それを狩りの道具として自らの身体から(例え数十センチの距離でも)離れた場所に投げ、
さらに捕まえた虫にトドメを刺すためその上に乗るなど通常のゆっくりにとっては考えられないことである。
 
 普通、ゆっくりの捕まえられる虫類は死んだ虫か弱って死にかけた虫、
またはゆっくりよりも動きの遅い芋虫やダンゴムシの類だけなのだが、このお帽子を虫捕り網化する方法を使えば
生きている新鮮な虫を捕らえることが可能となり、その分狩りの成果も上がることになる。
 一部のまりさ種はこういった「お帽子を使った狩り」の手段を考え出すことがあるらしく、それを実行しているこの親まりさは
確かにゆっくり基準で考えれば狩り名手といえるだろう。
 
 親まりさは舌を伸ばしてモンシロチョウを掴むと2匹の子ゆの前に置いた。

「かりでとったえものはここにあつめるよ! さいごにおとーさんのおぼうしにつめておうちにもってかえるからねっ!」
「「ゆっくちりきゃいしちゃよっ!」」

 子ゆたちの素直で元気のいい返事にまたも親まりさの涙腺が緩む。
 
『ゆうううう~~、まりさのおちびちゃんたちはほんとうにいいこだよ~~』

 子ゆたちの反応に気を良くした親まりさは次々に狩りのコツを教えていく。

「このはっぱさんはにがいにがいだよ! とっちゃだめだよ!」
「このおはなさんはたべられるおはなさんだよ!」
「あのあたたかいじめんさんからは、まっていればおおきいみみずさんがでてくるよ!」
「いしさんをどけると、ちいさいむしさんがいっぱいいるよ!」
「がさんはちょうちょさんよりおいしいけど、よるにならないとつかまえられないよ!」
「もうすこしあつくなったら、きのうえでないてるせみさんがおちてくるからそうなったらつかまえようね!」

 はっきり言って子ゆの中枢餡に搭載されたごく小さな記憶容量では、1度にこんなに物事を覚えられるわけがないのだが、
狩りの知識を披露するたびに子ゆたちから賞賛と言葉と尊敬の念が送られてくるため、
親まりさはすっかりテンションが上がってしまっていた。

 子ゆたちが狩りの見学に飽きてシャクトリムシの動きを真似して遊び始める頃には、最初にモンシロチョウを置いた場所は
ヨモギの若葉、タンポポの花、オオバコの葉、ダンゴムシ、ミミズ、カナブン、シジミチョウの幼虫などで小山が築き上げられていた。

「ゆっ! きょうはいっぱいとれたねっ! おちびちゃんたちがみててくれたからおとーさんがんばっちゃったよ!」
「「ゆっ! 「まりしゃは」「れいみゅは」おとーしゃんのかれいなかりをよーくけんがくしたよっ!」

 返事を返したタイミングで2匹のぽんぽんがぐぅと鳴った。
 幼体のゆっくりは1日に自分の体積の数倍以上の餌を必要とする燃費の悪い生物(ナマモノ)である。
 2匹が朝食を食べてすでに1時間が経過している。その後、巣から離れた狩場までの移動もあったためか
昼を前にして早くも空腹状態となっていた。

「ゆふふ、おちびちゃんたち、もうぽんぽんすいちゃったんだね! おうちにかえってはやめのおひるごはんさんにしようね!」

 おうちでは番のれいむが巣に備蓄してある草で昼食である草団子を作ってくれているはずである。
 ちなみに草団子の作り方はヨモギなどをれいむが口に含み、砂糖の混ざった唾液と丹念に混ぜ合わせるように
咀嚼して吐き出し、おさげと舌を使って適当な大きさに丸めるといったものだ。
 乾燥させれば保存もきくため、草団子はこの森林公園に住むゆっくりたちの常食となっている。

「「ゆうううう!!!! おひるごはんしゃんはやきゅたべちゃいよお!!!!」」

 おさげをぴこぴこと上下に動かし、その場で跳ねながら大喜びする2匹。
 子れいむに至っては3度目のうれしーしーを漏らしている。

 狩りの成果をお帽子に詰めた親まりさが2匹に話しかけた。

「でもおちびちゃん! おうちにかえるまえにもういっかしょだけよるばしょがあるからね!」

 今日はおちびちゃんたちに狩りを教えた特別な日である。そんな日には特別なご馳走が必要であると親まりさは思っていた。
 実はこの狩場からほんの少し離れた場所にクサイチゴが自生している場所がある。
 これは群れの誰にも話していない、本当に親まりさしか知らない秘密であった。

 ゆっくりにとってのあまあま、すなわち甘い食べ物は麻薬的な魅力を持つ禁断の食べ物である。
 ときにはたった1枚のクッキーが原因でゆっくり同士が殺し合うことすら珍しいことではない。
 山に棲むゆっくりなら秋に果物の類を拾うこともあるが、この群れのように公園で草や昆虫を主食として暮らしているゆっくりにとって
甘い食べ物が入手できる機会など無きに等しい。
 現にこの子ゆたちが食べたことのある甘い食べ物といったら、親れいむの頭に生えていた自分たちがぶら下がっていた茎か
前述の草団子くらいのものである。

 そんなおちびちゃんたちがクサイチゴが大量になっている木を見たら・・・・・・

『ゆふふ~、おちびちゃんたちのよろこぶかおをみるのがたのしみだよ~』

 気味の悪い笑顔を饅頭皮の表面に貼りつけた親まりさがぽよんぽよんと狩場の先へと進んでいく。

「おちびちゃんたち! かりのめいしゅのおとーさんについてきてね!」
「「ゆっくち、ついていきゅよ!」」

 親子は狩場を抜け公園内にある林道に出た。クサイチゴの木の生えている秘密の場所はこの林道の少し先にあった。

『おちびちゃんたちがおおきくなって、かわいいあかちゃんをうんだら、そのあかちゃんにもきっとこのばしょをおしえてあげてね』
『そのあかちゃんがおおきくなって、またかわいいあかちゃんをうんだら、そのあかちゃんにもひみつのばしょはつたわるね』
『こうやってたいせつなことはえいっえんにうけつがれていくんだね! それはとてもすばらしいことだね!』

 後ろからついてくる2匹のはしゃぎ声を聞きながら、親まりさは満ち足りた笑顔でそう感慨に耽っていた。
 目に嬉し涙を溜めながら微笑むその顔は、自分たち一家のしあわせーな未来を信じて疑わない純真無垢な笑顔であった。

 そのときである。

 ガサリ、とふいに前方の茂みが揺れ、何かが親子の前に現れた。

「「「ゆっ?!」」」 3匹のあんよが同時に動きを止める。

 揺れ動く草葉の隙間から出てきたのは1匹の猫であった。
 おそらくは近所の人間の家で飼われている猫だろう。首輪に小さなタグのついた名札をつけていた。
 猫はアメリカンショートヘアと呼ばれる種類で艶やかな白毛の体毛に美しい雲模様の黒い柄が描かれているのが特徴的だ。

 猫は茂みから林道に出ると、ゆっくり親子のほうを見た。
 しかしそれも一瞬だけですぐにその場にぺたんと横たわると、物憂げそうにふーっと大きく溜め息を一つついた。

 おそらく涼を求めてこの森林公園まで足を伸ばしたのだろう。
 日陰でひんやりとし、時折、涼風の吹くこの林道は猫にとってお気に入りの場所となったようだ。

「・・・ゆぅ~、おとーしゃんきょわいよぉ・・・・・・」
 子れいむが親まりさの身体に密着してぷるぷると震え始めた。子まりさも不安そうに親まりさをちらちらと見ている。
 子ゆたちは初めて見る自分たちとは別種の大きな動物の存在に怯えているようだ。

 しかし親まりさの反応は違っていた。

「ゆっ、しんぱいはいらないよ、おちびちゃん」
「あれはねこさんっていうどうぶつだよ、ねこさんはとってもおくびょうなんだよ」

 子供たちを導く狩りの名手として親まりさは胸(顔?)を張って自信満々にそう断言した。
 
 実際、この親まりさは狩りの最中に何度か猫を見かけたことがあった。
 そして経験則として「猫は大きな声で話しかけると逃げる」ということを知っていたのだ。

『ゆふふ、まりさのひとこえであのねこさんをおっぱらってみせるよ!』

 親まりさは大きく息を吸い込むとゆっくり特有の例の挨拶、

「ゆ っ く り し て い っ て ね ! ! ! ! ! !」 を渾身の力を込め、
数メートル先でくつろぐ猫に向けて言い放った。

 親まりさの大声に周囲の空気がかすかにピンと張り、頭上の木々が揺れて数枚の青葉がひらひらと舞った。

 ゆっくりは本来、声が大きい生物(ナマモノ)である。
 それが本気で意識して大声を出せば一瞬ではあるがフルボリュームのスピーカーにすら匹敵する声量となる。

 親まりさは最高のドヤ顔で林道の猫を見た。
 大声を浴びせられた猫は寝そべっていた体勢から半屈みに体勢を変え、大きな目と耳を親まりさに向けて固まっていた。

「ゆっ! ねこさん、ここはまりさたちのゆっくりぷれいすなんだぜ!!!」
「いまのはけいこくなのだぜ!!! まりさがほんきをだすまえにはやくにげたほうがいいんだぜ!!!」

 脅しの意味も込めてか子ゆの教育に良くないという理由で普段は使わない「だぜ言葉」を使い、
親まりさはさらに大声で猫を追撃した。

 しかし、猫は一向にその場を立ち去る気配を見せない。
 それどころか屈んだ体勢からすっと立ち上がり、大声の元凶である親まりさに向かって歩き出してきた。

 親まりさには想像すらつかないことなのだろうが、ゆっくりに個体差(馬鹿か凄い馬鹿か程度の差だが)があるように
猫にも当然、個体差がある。どうもこのアメリカンショートヘアは大きな音に動じない勇敢な個体だったようである。

『ねこさん、どうしてにげださないのおおおおおおおおお???!!!』

 心の中で絶叫し狼狽する親まりさ。しかし子ゆの手前そんな素振りは一切見せていない。
 
「ゆぅ~、おとーしゃん、ねこしゃん、こっちにきてるよ?」
「れいみゅきょわいよ~!」 

 子ゆ2匹の不安そうな視線を受け親まりさが決意を固める。

「ゆっ! しかたないよ! つかいたくなかったけどおくのてをみせるよ! ねこさんかくごしてね!」

 親まりさは再び大きく息を吸い込み、ゆっくり最大の攻撃であるぷくーをして見せた。
 この「体積が1.1倍程度に大きくなる」というゆっくり最大の攻撃は、同属に大しては恐怖の威嚇、
人間に対しては「早く叩き潰してね」という自殺の意思表示のようなものだが、動物に対しては効果がまるでないわけではない。

 今まで親まりさの出会ってきた臆病な個体の猫ならばぷくーを見てその場を逃げ去った可能性もあっただろう。

 しかし、今この親子に近づいてくる美しい獣は先ほども言った通り勇敢な個体である。
 猫は親まりさが禁じ手としている必殺のぷくーなどまるで気にしていない様子で3匹に接近し、おもむろにヒゲをピンと跳ね上げた。
 そして水晶球のように輝く両眼にゆっくりの姿を映しながら、牙と爪を剥き出しにして尻尾と背中の毛を大きく逆立てる。

 シ ャ ァ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ッ ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !

 正真正銘、真の捕食者の威嚇を目にして、しょせんは紛い物の狩人である親まりさの心はいともたやすくぽっきりと折れた。
 水鉄砲のようにおそろしーしーを噴出させながら、全速力で回れ右をする。

 「「ゆべっ!」」 その回転で寄り添っていた子ゆ2匹が跳ね飛ばされたがそれどころではない。
 親まりさは今まで感じたことのない、全身の餡子の隅々から湧き出してくるような恐怖によって理性を完全に失っていた。

「ゆんやあああああああっ!!! ねこさぁん、こっちにこないでねええええええええっ!!!!!!」

 この恐ろしい敵から少しでも距離を取りたい。今の親まりさの脳裏にはその思いしか存在していなかった。
 そしてその思いの取らせた行動は「猫科動物と対峙した際に、背中を見せて真っ直ぐに逃亡する」という最大の愚行に他ならない。

 ぽよん、と逃走のための第一歩を踏み出そうとする親まりさに向かって、猫は驚異的な反射神経と瞬発力で飛びかかっていた。

「ゆぎゃ!!!」 背後から猫に押し掛けられ、地面に顔面(というか身体前面)を叩きつけられる親まりさ。
 その勢いでお帽子がとばされ、中に詰まっていた先ほどの狩りの成果が周辺にまき散らかされた。

「ゆぎゃあああ!!! ねこさん、まりさのうえからどいてねええええええっ!!!」 

 おしりをぷりんぷりんと振りながら抵抗する親まりさ。その動作によって左右に激しく揺れ動く金髪。
 それを見た猫の狩猟本能に火がついた。このとき初めてこの親まりさは猫にとっての獲物となったのである。
 
 猫は短く一声鳴くとまりさの後頭部に両前足の爪を深々と突き立て、爪を研ぐように一心不乱に掻き毟り始めた。

 バリバリという饅頭皮の裂ける音とともに、こそげ落とされた砂糖細工の金髪の束が辺りに飛び散る。

「いじゃいいいいいいいい!!! まりさのつややかなきんぱつがあああああ!!!」
「やめてねええええ!!! ねこさんゆっくりはやくやめてねええええええ!!!」

 さらに抵抗の動きを激しくする親まりさ。猫は掻き毟るのを一時中断しポジションを素早く変えた。
 するりと横向きに寝そべる形を取ると、親まりさと猫はちょうど横向きに向かい合って寝ている状態となった。
 猫は両前足を親まりさの頬に突き立て動きを封じると、目と目のあいだに勢いよく噛み付いた。

「ゆががががげげげごごご!!! も゛っ゛、も゛う゛お゛う゛ぢがえ゛る゛う゛う゛う゛!!!」

 猫は噛み付き攻撃と同時に、後ろ足でまりさのあんよに激しいバックキックを繰り返し叩き込むことも忘れていない。
 一蹴りごとにゆっくりの身体の中では比較的丈夫な作りのはずのあんよの皮が引き裂かれていく。

「ゆ゛ぎぎぎょげげげぎぃ!!! ばでぃざのがも゛じがざん゛の゛よ゛う゛なあ゛ん゛よ゛があ゛あ゛あ゛!!!」

 あまりの激痛にしーしーとうんうんを同時に漏らしながら絶叫する親まりさ。
 その姿にはわずか数分前にみせていた「かりのめいしゅ」としての威厳は欠片すら感じられない。

「・・・・・・おと・・・しゃん・・・・・・」
 さきほど親まりさに跳ね飛ばされた子ゆ2匹は、林道脇の少し離れた場所の草むらで
この惨状を目の当たりにして青くなり言葉を失っていた。
「・・・ゆっ、ゆげっ、ゆげえっ!」
 子れいむはショックのあまり少量の餡子を吐き出している。身体の下に水溜りが出来ているところを見ると
もう本日何度目かもわからないしーしーも同時に漏らしている様子だ。

 ざくり。

 猫が親まりさの顔面を大きく噛み千切った。

「く ぁ w せ d r f t g y ふ じ こ l q ! ! ! ! ! !」

 顔面中央を大きく抉られ、寒天の両目をだらんとこぼしながら声にならない悲鳴を上げる親まりさ。
 饅頭皮と餡子を咀嚼する猫の動きが止まる。

「???」

 猫の舌には甘味を感じ取る機能がない。
 そのため口中に広がる餡子の味に困惑しているようだった。

「・・・ゆっ! は、はやきゅおとーしゃんをたしゅけなきゃ!」
 固まっていた子まりさが我に返り、ぽよんぽよんと前に進み出た。そしてぷるぷると震えながらも、

「ねっ、ねこしゃん! やめちぇあげちぇね! お、おとーしゃんいたがっちぇるよっ!?」

 と、未だ親まりさを蹂躙し続ける猫に向けて出せる限りの大声を放った。
 その声に釣られ猫がふいの子まりさのほうを向いた。

「・・・・・・っ!!!」 (もりもりもりもりっ)

 猫の殺意で澄み切った射るような視線に貫かれ、子まりさは恐怖のあまりその場で盛大にうんうんを漏らした。

「・・・ねっ・・・ね・・・こしゃ・・・ん・・・や、や、やめちぇ・・・あ、あげ・・・ちぇ・・・・・・」
 絞り出した勇気が急速に萎んでいく。涙で視界が滲み、身体中の感覚が痺れたように無くなっていくのがわかった。
 子まりさは今まで考えたことすらない「自身の死」が今まさに目前に迫っていることを感じ取っていた。

「ゆ゛っ゛!!!、お゛、お゛ぢびぢゃ゛ん゛???!!!!」

 髪を掻き毟られ、顔中を引っ掻かれ、顔面を抉られ、あんよをズタズタに裂かれた親まりさは
耐え難い苦痛の中でやっと理性を取り戻した。
 もはやまともに機能しない寒天の眼球にかすかに子まりさの姿が映り、現在の危機的な状況を認識する。

『お゛、お゛ぢびぢゃ゛ん゛ば・・・・・・お゛どーざん゛を゛・・・・・・だずげよ゛う゛どじでぐれでい゛る゛ん゛だね゛・・・・・・』
『で、でも゛だめ゛だよ゛・・・・・・ね゛ござん゛に゛ば・・・・・・がな゛わ゛な゛い゛よ゛・・・・・』
『ばでぃざ、じら゛な゛がっ゛だよ゛・・・・・・ね゛ござん゛が、ごん゛な゛に゛づよ゛い゛な゛ん゛で・・・・・・』

 猫が親まりさの上から華麗な動作で飛び降り、子まりさに向かって歩き出す。

『あ゛あ゛あ゛あ゛・・・・・・・ばや゛ぐ、な゛ん゛どがじな゛い゛ど・・・・・・』
『・・・・・・お゛ぢびぢゃ゛ん゛が、ごろ゛ざれ゛ぢゃ゛う゛よ゛お゛お゛お゛お゛!!!』
 親まりさがなんとか起きようと身体に力を入れると、顔とあんよに開いた穴からゆっくりの生命の源である
餡子が無残にもぼろぼろと零れ落ちた。

『う゛ごげな゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!』 
 想像を超えた痛みと耐えがたき無念に、垂れてぶら下った眼球から砂糖水の涙が大量に滴り落ちる。

 猫はすでに子まりさのところにたどり着いている。
 虚ろな目で小刻みに震え続ける子まりさに猫は鼻を近づけくんくんと臭いを嗅いでいた。

『どお゛ずれ゛ばい゛い゛の゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛???!!!』 
 
 子ゆを助けようにもその場で無様にうねうねと身体を動かすことしかできない親まりさ。
 この現状をなんとかしようと餡子が発熱するほど中枢餡をフル回転させて解決策を考える。

 ふと、視界の端に自身の餡子にまみれたシャクトリムシが地面を這っている姿が見えた。
 猫からもらった最初の一撃で飛ばされたお帽子の中に詰まっていた狩りの成果の一部である。
 
 その瞬間、親まりさの中枢餡に稲妻が走った。

「ね゛っ、ね゛ござぁん! ばでぃざがわ゛る゛がっ゛だでず! ゆ゛る゛じでぐだざい!」
「ばでぃざが、がり゛でどっだ、え゛も゛の゛ば、ぜんぶ、ね゛ござんに゛ざじあ゛げま゛ず!」
「ば、ばでぃざも゛どう゛な゛っでも゛がま゛い゛ま゛ぜん゛!!!」
「だがら゛! お゛、お゛ぢびぢゃ゛ん゛だげば! み゛の゛がじでぐだざい゛っ!!!!!!」

 薄暗い林道にしばしの沈黙が訪れる。蝉の鳴き声だけが樹上から聞こえていた。

 子まりさの臭いを嗅いでいた猫が、ふと顔を上げ別の方向を見た。

「・・・・・・ゆぅ・・・・・・?」

 自身のひり出したうんうんに埋もれる形で死を覚悟していた子まりさが小さく声を上げた。
 猫は親まりさのお帽子が転がっている一角を見ていた。そこは狩りの成果がぶちまけられた場所でもある。
 猫は子まりさに興味を失ったかのようにそこへ向けて歩き出した。
 そして狩りの成果の一部である雑草に鼻を近づけ匂いを嗅ぐと、おもむろにそれをむしゃむしゃと食べだした。

 親まりさの採取した雑草の中に偶然にもメヒシバが混ざっていたようだ。
 メヒシバはいわゆる猫草の一種で毛玉を吐き出すために猫はこの種の雑草を好んで食べる習性を持つ。

「ゆ゛っ゛・・・・・・ね゛、ね゛ござん゛・・・・・・ゆ゛る゛じで・・・・・・ぐれ゛だん゛でずね゛・・・・・・」

 猫が草を食みはじめて数分後、、ようやく子ゆ2匹の金縛りが解ける。
 地面にしーしーの跡を点々と残しながら2匹は傷だらけの親まりさの元に跳ねていった。

「「おとーしゃん、きょわきゃっちゃよおおおおおお!!!!!!」」
「お゛、お゛ぢびぢゃん゛だぢ・・・・・・ぶ、ぶじでよ゛がっだよ゛・・・・・・」

 親まりさのおさげが震えながら持ち上がり子ゆ2匹の涙で濡れた頬に触れる。

「ゆわーん、おとーしゃん、きゃわいそうなれいみゅをぺーろぺーろしてなぎゅさめてにぇ!」
「おとーしゃん、ちっかりしちぇね! だいじょーぶじゃよ! こんなきじゅしゅぐになおりゅよ!」
 ぐずるれいむの横で傷だらけの親まりさを懸命にぺーろぺーろする子まりさ。
 焼け石に水とはまさにこのことである。
 この状態のゆっくりを治療するにはタライいっぱいに満たしたオレンジジュースが必要だ。

 親まりさが荒い息を吐きながら、子ゆ2匹に話しかけた。

「ぐ、ぐざい゛ぢござん゛の゛な゛っでる゛ばじょを゛、お゛、お゛じえ゛だがっだげど、も゛う゛だめ゛み゛だい゛だね゛・・・・・・」
「ゆ゛っ・・・・・・ま゛、ま゛り゛ざの゛がわい゛い゛、お゛、お゛ぢびじゃん゛だぢ・・・・・・よ゛ーぐぎい゛でね゛・・・・・・」
「お゛どーざん゛ばも゛う゛だめ゛だよ゛・・・・・・ごの゛ま゛ま゛え゛い゛え゛ん゛に゛ゆ゛っぐり゛ずる゛よ゛・・・・・・」

 それをきいた子ゆ2匹がそれぞれの反応を示した。

「ゆわーん! やじゃよー! まりしゃもっちょ、おとーしゃんにきゃりおしえてもらいちゃいよー!」
「ゆわーん! れいみゅとってみょきょわいおもいしちゃのに、おーしゃんどーちてなぎゅさめてきゅれにゃいにょー!」

 ぴこぴこと激しく上下する子ゆたちのおさげももう親まりさの目には霞んで見える。

「お゛ぢびじゃん゛だぢ・・・・・・お゛がーざんの゛でい゛ぶを゛・・・・・・だい゛ぜづに゛ずる゛ん゛だよ゛・・・・・・」
 
「ゆわーん! おとーしゃんそんなきょといわにゃ」サクッ

 子まりさの姿がそこから消えた。

 子まりさは数メートル先の上空でくるくると回転しながら宙を舞っていた。
 音も無く忍び寄った猫が下からすくい上げるように前足を振るい、子まりさを叩き飛ばしたのだ。

 空を舞う子まりさは何故かキリッとした表情で、

「おしょらをとんじぇ・・・」

 と、テンプレセリフを言うとしたが、自分のいた場所にある黒い切れ端が目に入った途端、

「ゆわあああ!! まりしゃのだいじなおぼーしぎゃあああ!!」

 と、それを絶叫に変えた。

 幸運か不運か、猫の一撃は子まりさのお帽子をさっくりと切り裂いていた。
 このおかげで子まりさは傷一つ無く飛ばされただけで済んでいる。

 だからといって子まりさが無事なわけではない。
 子まりさは1秒程度の浮遊状態ののち、飛ばされた先に生えていた木の幹にぶつかった。

「ゆぐべっ!」

 そのまま幹にそって地面に落ちると口から少量の餡子を吐き散らしながらぽわんぽわんと数回バウンドした。

 その様子は親まりさの失われつつある視力でもはっきりと捉えられていた。

「ね゛こ゛ずわ゛ぁぁぁぁぁん゛っ! どぼじでごん゛な゛ごどずる゛の゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!???」
「や゛ ぐ ぞ ぐ が ぢ が う ゛で じ ょ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ! ! ! ! ! !」

 親まりさは生命の残り火を燃焼し尽すかのように怨嗟の声を上げた。

 自分たちのもつ食糧と自分の生命の代わりに子供たちだけは見逃す。

 そう約束したと勝手に思う込んでいるのは親まりさの方だけである。
 そもそも猫には人語は通じないということすら理解していないようだ。
 もっともゆっくりの話は人間にも、ときには同属であるはずのゆっくりにすら通じないことが多いが。

「ややややややややややややめちぇねっ! きゃわいいれいみゅをいじめにゃいでにぇっ!」
 再度おろそしーしーとうんうんを同時に漏らしつつ、猫に媚を売るようにおさげをぴこぴこと動かし
可愛さアピールを振りまく子れいむ。

 そんな醜悪な物体を可愛いとは砂粒ほども思っていないような猫だったが、世話しなく動くおさげには興味を持ったようだ。
 ぱくっとれいむのおかざりを咥えると「ゆ゛っ・・・・・・ゆっ゛・・・・・・ゆ゛っ・・・・・・」と痙攣を始めた親まりさには一瞥もくれず、
来た道を足早に去っていった。

 子れいむの発した「おしょらをちょんでりゅみちゃい!」の声がみるみる遠ざかっていく。

 数分後、子まりさが這いずりながら親まりさの元へたどり着いた頃には、すでに親まりさは痙攣も止まり
ただの物言わぬ饅頭と成り果てていた。
 早くも空からは蝿が、地面からは蟻がどこからともなく集まり親まりさにたかり始めてきている。

 子まりさは親まりさと妹を助けられなかった自分の弱さを悔いて涙を流した。
 そしてこれからは父を超えるような強いゆっくりになることを決意した。
 突然見舞われた悲劇に身も千切れそうな思いだったが、これからはおうちで待つ母れいむを守るのは自分しかいないのだと
考えると自然と勇気が湧いてきた。

「おとーしゃん! まりしゃはつよくなりゅりょ!」
「だれよりみょつよくなって、かならじゅ、おきゃーしゃんをまもりきってみせりゅよっ!」
「だから、おとーしゃん! てんごくでまりしゃとおかーしゃんのことみまもっててにぇ!」

 ふり返ることもなくおうちへと向かう子まりさの後姿は明らかな成長の跡が見て取れた。
 このままその思いを持ち続け経験を積んでいけば、きっと群れのリーダーを務めるような立派なゆっくりになるに
違いないとすら予感させるほどであった。

 ちなみにこの子まりさはこの後、おうちで待つ母れいむに「おかざりのないゆっくりできないゆっくり」と認定され
酷いリンチの末に叩き潰されてそのゆん生を終えることになる。

 

さて一方、猫に連れ去られた子れいむはというと・・・・・・



「ねこしゃんはなちてにぇ! きゃわいいれいみゅをゆっくちはやきゅはなちてにぇ!」

 口元で煩く喚き散らす子れいむを無視して、猫が森林公園を出て道路を1本横断し住宅街へと入る。

「ゆうう~? にんげんしゃんたちのおうちがいっぴゃいありゅよ?」

 猫はそのうちの一軒の庭へと向かう。そして玄関に設置されたネコドアを頭で押して家の中に入っていった。
 ダンボールのおうちで生まれ育った子れいむは初めて見る人間の住居に驚きの色を隠せない。

「ゆううううううう!! しゅごいよ~! ここをれいみゅのゆっくりぷれいしゅにしゅるよっ!」

 この子れいむ、生命の危機の晒されたせいででいぶ因子が急速に発現でもしたのか、
この猫の行動を極めて自分の都合のいいように解釈した。

「ゆっ! かしこきゅってきゃわいいれいみゅは、ねこしゃんのしたいことをゆっくちりきゃいしちゃよっ!」
「ここをれいみょのおうちにしてほしいんじゃにぇっ!」
「そしてねこしゃんはきゃわいいれいみょのどれいになりちゃいんだにぇっ!」

 猫は玄関を抜けて廊下を渡り、右折するとリビングへと出た。

 子れいむはキリッとした表情で自分勝手な注文を猫に向かって話していた。
「いいよ! ねこしゃんをとくべちゅにれいみゅのどれいにしてあげりゅよ! だからはやきゅあまあま・・・」

 ぺっと子れいむを口から放す猫。
「ゆべっ!」 っと床に顔面から叩きつけられる子れいむ。

「ねこしゃんなにしゅるにょっ!? どれいのくせになまっいきだよ!」
 抗議するれいむを尻目に、猫は俊敏なジャンプでリビングのソファーの上に移動した。

 スフィンクスのポーズでソファーに座り自分の手や肩のグルーミングを始める猫。
 床ではまだ子れいむが文句を垂れている。

「れいみゅのきゃわいいかおがゆかしゃんにたたきちゅけられたんじゃよっ?! いちっだいじでしょ?!」
「どれいははやきゅれいみゅにあやまっちぇね?! それとはやきゅあまあまもってきてにぇ!」
「れいみゅ、おこりゅときょわいんじゃよっ?!」

 この猫に親と姉がまるで敵わなかったことなどまるで覚えていない様子だ。
 それどころか大胆にも脅しまで入れている。
 すでに猫=奴隷であるという図式が(子れいむの中だけで)出来上がっているのでこんな態度に出れるのだろう。
 
 ぽよんぽよん跳ねながら勝手な言い分をさも当然のことのように主張する子れいむ。
 興奮して騒いでいたせいか、自分に接近してきた存在にはまるで気がついていないようだ。

 大事なりぼんに何か触れる感触がした。

 ふり返った子れいむはキジトラの子猫が鼻をくっつける距離でくんくんと匂いを嗅いでる姿を見た。
 軽く10秒間は固まっていた子れいむだが、ふいに不敵な笑みを浮かべる。

『れいみゅがほんきをだしちゃら、どれだきぇきょわいきゃみせてあげりゅねっ!』

 れいむはぷくーをしようと両頬に目いっぱい空気を吸い込んだ。
 次の瞬間、キジトラが子れいむを右前足の肉球でパンッと上から叩きつけた。

「ゆべっ!」 (ぶりゅっ) 
 衝撃であにゃるからうんうんが飛び出て床を餡子色に汚した。キジトラはそのまま爪を立てずに、
力だけで子れいむを上から押し潰す。

「・・・ちゅっ、ちゅぶりぇりゅ~~~!!!!」
 
 圧迫の苦しさに両方のおさげが出鱈目ぴこぴこと動き、おしりはぷりんぷりんと大きく左右に振られていた。
 少しずつ加わる力によってあにゃるからさらにうんうんが絞り出されている。

 キジトラが前足を持ち上げる。荒い息を吐いてぐったりとする子れいむ。
 そこに鳴き声とともにさらにもう一匹、サバトラの子猫が現れた。

 サバトラ子猫は兄弟の足元でもぞもぞと動く子れいむを発見すると、その身を伏せて両目を爛々と輝かせ始めた。
 くいっとお尻を振って子れいむ目掛けて一直線に突進するサバトラ。

「ゆ ん や あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! ! ! !」

 ひょいとその場を退けるキジトラ。そこへサバトラが猛スピードで滑り込んでくる。
 大きく振るわれた鋭い爪がりぼんに引っかかりリビング上空を舞う飛ぶ子れいむ。

 中空で逆さまとなった子れいむは、自分に向かって走る2匹の子猫の姿を確認した。

「き ょ っ ち き ょ な い で ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ~ ~ ~ ~ ! ! ! ! ! !」

 子れいむの墜落地点で二つの牙と八つの爪が思う存分に暴れまわった。
 数秒後には赤いりぼんの切れ端と饅頭皮の残骸がリビングの床に転がっているだけとなっていた。

 子猫の狩りの練習用にと子れいむを持ち帰った親猫だったが、手加減することを知らない子猫たちにとっては
ゆっくりはあまりにも脆過ぎる玩具だったようだ。

 ソファーの上で尻尾を振りながら親猫は退屈そうに欠伸を一つした。
 この後、この親猫は帰ってきた家の住人に「またリビング汚して!」とデコピンを一発貰うことになる。



 おしまい
最終更新:2010年10月09日 16:53
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