anko2391 いきてるんだよ!

『いきてるんだよ!』 17KB
虐待 自然界 現代 独自設定

※独自設定垂れ流し
※このSS上では倫理的に明らかに間違ったことが主張されていますが、
 あくまでこのSS内でしか通用しないフィクションです
※最近「ゆっくりだっていきてるんだよ!」ネタをちょくちょく見かけ、
 触発されて書きました



それは、れいむにとって言葉にするまでもない当たり前のことだった。
ゆっくりは生きている。命は大切で、大事にしなくてはいけないもの。
ずっとずっと。意識するまでもなく、無邪気に信じていた。
信じて、いた。



いきてるんだよ!




「かりにいってくるのぜ!」
「まりさ、ゆっくりがんばってね!」

森の一角、木の根元に掘ったおうちで迎えるいつもの朝。
みんなで仲良く朝ごはん。愛しいツガイのまりさに、かわいくてたまらない子まりさと子
れいむ。なによりもかけがえの無い家族との、ゆっくりとしたいつもの朝だった。
ちゅっちゅで送り出したまりさの後ろ姿もいつもどおりの頼もしさだった。きっと今日も
、おいしいごはんさんをいっぱいとってきてくれるに違いない。そう思うと、れいむはと
てもゆっくりできた。
そして、おうちの中に入る。そこにはかわいいおちびちゃんたちが待っている。今日もゆ
っくりと子育てをししよう。れいむは顔をほころばせた。
なにもかもいつもどおり。今日も昨日と変わらず、明日もきっとゆっくりできるに違いな
い。れいむはそう、信じていた。
だが、

「ゆっぎゃあああああ!」

悲鳴とともに、ゆっくりとした時間は終わりを告げた。
外から聞こえたその声は、紛れも無く愛しのまりさのものだった。れいむは慌てておうち
の外に出た。

「ゆびゅえっ!?」

状況をうかがう暇も無く、れいむのすぐそばで奇妙な悲鳴となにかがつぶれる音が響いた
。目を向けると、そこには大きくて太い人間の「あんよ」があった。
呆然と眺める中、その足が持ち上がった。その下には、黒く広がる餡子とぐしゃぐしゃに
なった小麦粉の皮がある。なぜ家の前にこんなものが……混乱した餡子脳が推測をめぐら
すより先に、目に入ったものがれいむに何が起きたかを理解させた。

「れいむのおちびちゃんがああああああ!?」

餡子と皮の混合物の中に、これだけは見間違えようの無い、子れいむのおりぼんがあった
のだ。
れいむは後悔した。おちびちゃんたちが外に出ないよう、注意してから出るべきだった。
あまりに慌てて飛び出して、おちびちゃんも一緒についてきているのに気が付かなかった
のだ。

「しまったな……ほっぺたの横をギリギリかすめてちょっと驚かすはずだったのに、ちび
が出てきてるとはなあ……失敗失敗」

上から響くやけに軽い調子の声に目を上げると、おうちの前に人間の男が立っていた。そ
の顔は忘れ物をしておうちに帰ってきたときみたいな、ちょっと失敗しただけ、といった
感じの困り顔だった。
子れいむをあんなにひどい有様にしておいて、そんな顔をしている人間の男。
あまりにゆっくりできないことの連続に、れいむの餡子脳は思考停止に陥った。

「次はゆっくりじっくりやらないとなあ……」

目の前の男が何かを言っている。だがその意味を理解する余裕など無かった。
そんなフリーズ状態のれいむを解凍したのは、叫びだった。

「おちびちゃん! にげるのぜえええええ!」

声の方に目をやれば、そこにはまりさが横たわっている。さっきちゅっちゅしたほっぺは
黒ずみ、醜く陥没している。おそらく男にやられたのだろう。そんな痛ましい有様なのに
、必死に叫ぶ愛しのまりさ。
無意識にまりさの視線を追うと、そこには、

「おしょらをとんぢぇるみちゃいなのじぇええええ!?」

男によって持ち上げられる子まりさの姿があった。子れいむ同様、子まりさもれいむとい
っしょにおうちの外に出てきてしまっていたのだ。

「やべでえええ! おちびぢゃんをがえじでえええええ!」

れいむは必死に男のあんよに体当たりをした。
生まれてから争うことなどほとんどなく、平和に暮らしてきたれいむ。
だが、れいむはおかあさんなのだ。わが子を守るためだったらいくらでも強くなれる。鬼
にだってなれる。だかられいむは躊躇しない。目の前の男に向け、容赦なく全力で体当た
りを繰り返した。

「かえすのぜ! かえすのぜ! おちびちゃんをかえすのぜええええ!」

れいむが体当たりを続けていると、傷ついたまりさも加勢してくれた。
人間さんは強い。そのことは群れの物知りぱちゅりーからよく聞かされていたし、人間さ
んのおやさいを取りにいって帰ってこなかったゆっくりだって何人も知っている。
でも、れいむがこれだけ力をこめて体当たりし、その上まりさも加わってくれたのだ。絶
対におちびちゃんを取り戻せる。
そう、れいむが確信したときだ。

二つのモノがれいむに降ってきた。

ひとつはれいむの頬に当たり、ぬるりと垂れる生暖かい何か。
もうひとつは、

「ちゅ、ちゅぶれりゅう……」

苦しげな子まりさの声だった。
ぞっとする悪寒とともに、上空の子まりさを見上げ、れいむは自分の頬を滑るものが何で
あるかを理解した。
それは、人間の手に押しつぶされ、口から吐き出された子まりさの餡子だ。

「おちびちゃん! あんこさんをはいちゃだめえええええ!」

ゆっくりの吐餡は、人間の嘔吐とはその意味も質も大きく異なる。
ゆっくりの身体は饅頭だ。体内の餡子は、脳であり、内臓であり、血液であり、筋肉であ
る。吐餡とは、それらを吐き出すということだ。その苦しみは想像を絶する。
まして子まりさは今、男によって無理やりに吐き出させられているのだ。それは体の中身
をぐちゃぐちゃに破壊されながら搾り出されていると言うことだ。

「ちゅぶりぇ……ちゅぶ……ちゅびゅ……ちゅぶれりゅうううう……!」

男はゆっくり、実にゆっくりと子まりさをつぶしていった。その力の調節は絶妙で、子ま
りさが一気に吐餡することはない。
ぽたぽたと、水滴のように少しずつ餡子が落ちてくる。
それはどれほどの苦しみを子まりさに与えていることだろう。想像するだけでれいむは頭
が変になってしまいそうになった。

「やべで! やべで! やべでえええええ!」
「やめるのぜえええ! おちびちゃんがくるしがってるのぜえええええ!」

れいむもまりさも必死に体当たりを続けた。だが、何度体当たりしようと、落ちてくるも
のは変わらない。途切れない。
子まりさの苦鳴と吐餡が、止まってくれない。
そして、何度目の体当たりをしようとしたときだろう。
別のものが、またしても二つ、降ってきた。

ひとつは、塊。
いつもぺーろぺろしてきれいにしてあげていた、かわいらしいおぼうし。いつも自慢して
いた、きらきらの金髪。ついさっきすーりすりして、もちもちったのに、今はかさかさに
乾いてしまった皮。それらの、塊。

もうひとつは、言葉。

「もう、終わったよ」

あまりにも淡々とした、男の言葉。

「おちび、ちゃん……?」

れいむはおそるおそる近づいた。
ふっくらとしあわせに膨らんでいたその体は、全ての餡子を失い歪つにひしゃげている。
所々に刻まれた子ゆっくりらしからぬ数々の皺は、子まりさがどれほど苦しんだかを物語
っているかのようだ。
子れいむのあまりにもあっけない死と、子まりさのあまりにも長引かされた死。
だが、れいむの悲劇はそこで終わらなかった。

「さあて、じゃあ次はまりさを……って、なんだこいつ? 死んでら」


男のひとりごとに驚き、れいむはまりさを見た。先ほどまで、自分と一緒に体当たりをし
ていたまりさ。傷の痛みも気にせず、傷口が開いても体当たりをやめず、餡子が漏れても
、おちびちゃんを助かるためにがんばった。

「まりさ……まりさあああああ!!」

れいむの叫びを全身に浴び、しかしまりさはぴくりとも動かない。まりさはとっくの昔に
、出餡多量で「永遠にゆっくり」してしまっていた。
助けようとした子まりさは、結局「永遠にゆっくり」してしまった。結果からすればまり
さの死は無駄に終わった。だが、それを誰が笑えよう。まりさは自分の命すら顧みず、子
供のためにがんばったのだ。

「やれやれ。ゆっくりした結果がこれだよ……ってか。まったく、さっきはあっさりつぶ
れちまうし、今度は勝手に死ぬし。ゆっくりってのはどうしようもないな」

れいむは体中の餡子がカッと熱くなった。いまのれいむはお饅頭じゃなくて蒸したてのあ
んまんのようだった。
この目の前の男は、家族を惨殺したのみのならず、立派にがんばったまりさを貶めたのだ

信じられない。許せない。
だから、れいむは叫んだ。涙を流しながら、それでも力強く、餡子の底から叫んだ。

「れいむたちだって……ゆっくりだっていきてるんだよ! こんなことしちゃいけないん
だよ!」

言った。きっといままで口にしてきた中で、最も大事なこと。それを口にした。
れいむはある種の満足を覚えていた。誇りすら感じた。
生き物には命がある。命は大切なものだ。それを踏みにじってはいけない。
誰にでもわかる当たり前のこと。
それなのに、

「なんで?」

目の前の男は予想外のことを聞いてきた。
れいむには信じられなかった。
疑問に思ったことすらない、当たり前のこと。どんな頭の悪いゆっくりだってわかる常識
。それに男は疑問を唱えるのだ。
れいむは激昂した。

「ゆっくりだっていきてるんだよ!」
「ああ、よく知ってる」
「いきてるんだから、いのちがあるんだよ!」
「ああ、そのとおりだ」
「いのちはだいじなんだよ!」
「そうだな。命はかけがえのないもので、その重さは地球の重さに匹敵するとか言うから
な」
「だから、たいせつにしなくちゃいけないんだよ!」
「うんうん、そうそう。ゆっくりにしてはかしこいな、お前」

当たり前のことを主張するれいむに、あっさりと理解を示す男。
れいむはわけがわからなかった。こんな当然のことをわからないから、男はあんなにひど
いことをしたのだと思った。それなのに、男はちゃんとわかっているようなのだ。
男の得体の知れない様子に、恐怖がわきあがる。それを振り払うように、れいむは餡子の
そこから叫んだ。

「ゆっくりだっていきてるんだよ! こんなことしちゃいけないんだよ!」
「だから、なんでそうなるんだよ?」

今まであんなにあっさりとれいむの言葉を肯定していたのに、最後だけ理解してくれない

れいむの餡子脳は混乱に包まれた。
男は首を傾げてしばし考え、そして何かを思いついたようにぱん、と手を打ち合わせた。

「あー、お前、勘違いしてるんだろ」
「ゆ?」
「ひょっとして、命はみんな平等に大事で、全ての命が大切……なんて、思ってる?」
「ゆ? ゆ? ゆううう……あ、あたりまえでしょおおおおおおお!?」

「永遠にゆっくり」してしまったまりさ、子れいむ、子まりさ。どれもかけがえのない命
だ。
命は平等で、どれも大切だ。そんな当たり前のことを、この男は理解してないというのだ
ろうか。そんな愚かな男に、自分の家族は殺されてしまったと言うのか。れいむは自分の
中の餡子が再び熱くなるのを感じた。

「まあ、仕方ないか。人間だって勘違いしているやつは多いくらいだ。まして、ゆっくり
じゃなあ……」
「なにが『かんちがい』なのおおお!? いのちは……」

れいむの言葉は最後まで続けられなかった。

「ゆううう!? なにこれええええ!?」

れいむの言葉をさえぎったのは、近くに住むゆっくりありすだった。番のまりさはいつも
このありすと狩りに行っていたことをれいむは思い出した。きっと今日もいっしょに行く
約束をしていて、いつまで経ってもやって来ないまりさを心配して来てしまったのだろう


「ありす! にげ……」

警告は間に合わなかった。
ゆっくりでは認識できない速さ……しかし、人間としてはちょっとすばやく動いた程度で
、ありすはあっさりと男に踏み潰され、「永遠にゆっくり」してしまった。

「さて。たった今こうしてこいつは『永遠にゆっくり』してしまったわけだが……」
「どぼじでっ……どぼじでごんなごどずるのおおお!?」
「なに、ちょっとお前に教えてやるためさ。さっきお前、命は平等かって聞いたら当たり
前だ、とか答えたな。このありすの命も大切か?」
「ゆううう!? た、たいせつだよおお! ありすだっていきてたんだよおおお!!」
「ありすが『永遠にゆっくり』して、悲しいか?」
「あだりまえでじょおおおお!! かなしいよおおおお!!」

あのありすとは幼い頃からの付き合いだった。まりさと番になってから、まりさともども
交友は続いていた。ありすとの思い出が餡子脳内に蘇り、心が震えとめどなく涙が流れ出
した。れいむは心の底からありすの死を悲しんだ。

「で、さ。家族が『永遠にゆっくり』したのより、悲しいか?」
「ゆっ!?」

ありすとの思い出のフラッシュバックも、涙も、悲しむ心すらも。男の言葉によって止ま
った。
確かに、ありすは幼馴染で大切な存在だった。しかし、家族が死んだことより悲しいかと
問われると……。
れいむは男の問いに答えることができなかった。いや、答えたくなかった。
押し黙るれいむを見ながら、男はうんうんと頷いた。

「そうだよな。家族が『永遠にゆっくり』した方が悲しいよな。当たり前のことだ」
「………」
「おかしいよな。お前、命は平等だって思ってるんだろ? それなのに、あのありすより
家族の方が大切だって思ってるわけだ。それって差別してるってことだ。平等じゃないよ
な」
「ゆっ! そ、それはっ…!」

家族は大切だ。ありすは大切な友達だった。それらは比べられるものではない。それでも
なお、どちらか決めなくてはならないとしたら……答えは決まっている。だが、それを口
にするのは憚られた。

「いいんだよ、そういうもんだ。知り合いにもいたよ。飼いゆっくりが死んで大泣きする
ようなやさしいヤツなんだけどさ、遠くの国で何万人も死んだニュースが聞いていちいち
涙を流したりしない。涙どころか、ため息だって吐かないものさ。まあ、それが普通さ。
人間だってそうなんだから、ゆっくりなんてもっとひどいだろ?」
「ち、ちがうよ……いのちはたいせつで……ゆっくりだっていきていて……!」
「それはわかってる。で、生きている以上、他の生き物の命を犠牲にしているだろ? チ
ョウやバッタをつかまえて食べたり、木の実や花を喰ったりしてる。それで悲しく思った
ことがあるか? かわいそうだと泣いたことがあるか?」
「ゆっ……」
「ゆっくりって、飾りのないゆっくりを『せいっさい』したりするよな。それにゲスとか
れいぱーとか、群れの平和を乱すゆっくりを『永遠にゆっくり』させるのも、珍しいこと
じゃないだろ。あいつらも生きている。命がある。で、そいつらの命を、家族の命と平等
に扱えるか?」
「ゆう……ゆうう……!」

れいむは答える言葉が無かった。
ゆっくりは嘘をつけない。正確には、嘘をつきはするが隠すほどの知恵も器用さもない。
れいむの態度は明らかだった。男の言うことを餡子脳の中で肯定している。れいむは命を
差別して生きてきた。
一方で、命が平等であると言うことも間違っているとは思えない。
れいむの餡子脳は、この矛盾に大いに混乱した。

「なあ、お前、不思議に思ったことはないか? 命は大切。そして、平等。ゆっくりにだ
ってわかる当たり前のことだ。実に道徳的で美しい言葉だよなあ。それなのに、誰もそれ
を実践できていない。なんでだろうな。考えたことあるか?」
「ゆうう……わからない……わからないよ……」
「俺もガキの頃に悩んだりしたこともあったよ。でも、考えてみたら当たり前なんだよ。
カンタンなことだ」
「ゆうう!? なにがかんたんなの!? どうして、どうして、どうしてえええ!? み
んないきてるのにいいい! いのちはたいせつなのにいいい! どうしてれいむはさべつ
しちゃうのおおおお!?」

れいむの疑問に、男はひどく簡潔に答えた。


「命があるからだ。生きているからだよ」


あまりにシンプルすぎるその答えに、れいむは絶句した。
命がある。生きている。だから命が大切だということがわかるし、命が平等だと言う言葉
が大切なことだって理解できる。
それなのに、「命があるせいで命を平等に扱うことができない」なんて、矛盾している。
れいむは眉間に皺を寄せ、体中から脂汗を流して必死に理解しようとした。だが、餡子脳
をどれだけひねっても答えは出そうになかった。
男はそんなれいむの様子にやれやれとため息を吐き、説明を始めた。

「難しく考えるな。生きている。命がある。だから……誰だって、自分の命が一番大事な
んだ。それは当たり前のことなんだよ」
「そっ……! そんなことないよ! れいむもまりさも、おちびちゃんのことばじぶんよ
りだいじだったよ!」

男の言葉にれいむは反駁する。まりさは自分の命を賭して子まりさを救おうとしたのだ。
れいむだって同じだった。
だが、男はまったく揺るがず言葉を続ける。

「ああ、そうだな。厳密に言うと、自分と自分のまわりの命が大事ってとこかな。なんに
しても、生き物は生きている。だから命の重さを考えるとき、まず自分を基準にしちまう
。自分の命と比べて、大事かそうじゃないか、って考え方になっちまう。そうすると……
どんなにがんばったって、命を平等になんて扱えっこないさ」
「いきているから……さべつしちゃうの……?」
「もし命がなくて物を考えることのできるやつがいたら、きっと命を平等に扱えるんだろ
うな。もっともそいつにとって、命なんてきっと『平等に無価値』になっちまうんだろう
けどな。ゆっくりのお前にゃわからないだろうけど、本当の意味での平等なんてろくなも
んじゃないぞ」
「そんな……そんな……」

自分の中に漠然とあった、命に対する価値観。それを粉々にされて、れいむは呆然とした

ゆっくりと、あたりを見回す。
ぺしゃんこになった子れいむ。身体の中の全てを吐き尽くした子まりさ。死ぬまで子まり
さを救おうとして力尽きたまりさ。
なによりも大切で、かけがえのない家族だったもの。
その命の価値は、なんだったのだろう。

「れいむたちだって……ゆっくりだっていきてるんだよ……こんなことしちゃいけないん
だよ……」

男に言った言葉を繰り返す。最初に言ったときとは比べ物にならない、力のないつぶやき
。それに、男は答えた。

「お前らみたいな不条理饅頭、生きているのかどうかわからない。生き物だって認めない
やつだっている。でも、俺は生きているって認めてやるよ。でも、その命はそんなに大切
なものだと思わない。なにやったって構わないと思ってる。だから、お前のその言葉に対
して言ったんだ。『なんで?』ってな。なんか面白いこと聞けるかってちょっと期待した
けど、所詮ゆっくりはゆっくりだったな」

実のところ、男にとってゆっくりの命に大した価値がなくとも、れいむにとっての家族の
命の重さが変わったわけではない。
だが、れいむはゆっくり。ゆっくりは思い込みのナマモノ。今までは、自分たちの命を、
無根拠に無条件に価値有るものだと信じることができた。しかし今、男の言葉でそれでき
なくなった。
だから、れいむはもう、ゆっくりなんて、できない。
れいむはがっくりとつぶれた。

「そんなに落ち込むなよ。俺なんてましなほうだぜ。世の中の大抵の人間は、ゆっくりの
命の価値なんてゼロだって言いやがる。でも、俺は違うんだ。ちゃんと価値を認めている


男の言葉に、れいむはのろのろと見上げた。
れいむはつかの間、場違いにもしあわせだったときを思い出した。初めておそとへのおさ
んぽへおちびちゃん達を連れ出した日。あの日、おちびちゃん達はとても楽しそうに笑っ
ていた。
男は、あのときのおちびちゃん達のような無邪気な笑みを浮かべていたのだ。

「ゆっくりの命は、俺にとって最高のオモチャだ」

れいむは絶望した。
男の笑みはあまりにも無邪気で無垢だった。だから、その言葉にひとかけらの嘘もないこ
とがわかってしまったのだ。
自分はきっと、おそろしくゆっくりできない目に遭い、「永遠にゆっくり」してしまうだ
ろう。それはもはや決定された未来だった。
れいむは、これ以上の絶望などどこにもないと思った。
それなのに、もう底まで着いたと思われた絶望をさらに加速させる音が聞こえてきた。

「こっちだよー! なにかゆっくりしないこえがしてたんだよー!」
「こっちにはまりさとれいむのおうちがあるのぜ!」
「むきゅ! これはむれのいちだいじね! けんじゃのぱちぇのでばんだわ!」

今頃になって騒ぎを聞きつけたゆっくりがやってきたのだ。
男の笑みが深くなった。それを見て、れいむは理解した。目の前のこの男は、この一帯の
群れのゆっくりの命を、「オモチャとして」存分に遊びつくすことだろう。
止めることはできない。そのための力はないし、そのための意志はとっくに折れている。
れいむにはなにもできない。
だから、れいむは。
叶いもしない願いをこめて。
ただこのひとときだけでも、と。
本能に従い、叫んだ。

「ゆっくりしていってね!」






by触発あき


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ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKI - 触発あきの作品集
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最終更新:2010年10月09日 20:16
ツールボックス

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