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水銀燈「おっはよぉ~♪」 少々遅刻気味なことなどお構いなしに、元気よく職員室のドアを開ける水銀燈。 それは、いつもと変わらぬ光景だった。ただ、ある一点を除いては。 真紅「遅いわよ、水銀燈。教師として時間に…」 そこまで言ったところで、完全に動きが止まる真紅。その目は、今まさに水銀燈が抱えているものに釘付けになった。 真紅「…ね、猫…!?」 そう、水銀燈が抱えてきたのは1匹の猫だった。しかし、猫嫌いの真紅にとってはたまったものではない。 真紅「な、何でそんな野蛮な動物を学校に持ってくるのよ!?汚らわしい!!」 水銀燈「あらぁ?こんなに可愛いのに何でそんな事言うのぉ?」 そういって、真紅に猫を近づける水銀燈。それを威嚇する猫。 真紅「お、怒ってるじゃないの!!早く捨ててきなさい!!」 水銀燈「…うるさいわねぇ。まぁいいわぁ、別にあなたに助けてもらおうなんて、これっぽっちも思って無いしぃ。」 そういうと、水銀燈は猫を抱えたまま給湯室へと入っていってしまった。 熱湯と水を、ちょうどいい温度になるように混ぜ、丹念に猫を洗ってやる水銀燈。 そこへ、薔薇水晶が近づいてきた。 薔薇水晶「銀ちゃん…ホームルーム行ってくるね…。ところで、その猫…どうしたの?」 水銀燈「あ、うーん…何か昔の私に似てたんで、つい…ね。」 そう言って、恥ずかしそうに笑う水銀燈。その言葉に、薔薇水晶は、昔の水銀燈の姿を思い出した。 ---- ラプラス「…というわけで、今日から皆さんと一緒に働くことになりました、薔薇水晶さんです。」 薔薇水晶「あ…よろしく、お願いします…。」 簡単な自己紹介の後、私…薔薇水晶はすぐに他の教師たちとも打ち解けることができ、やがて話は、私の歓迎会の話に移っていった。 しかし、私には1つだけ、どうしても気になる点があった。 それは、話の輪から一人だけ距離を置き、ファッション雑誌をパラパラとめくる銀髪の女の人がそこにはいたからだった。 蒼星石「…水銀燈、君も一緒に来ないかい?」 水銀燈「…遠慮しとくわぁ。だって、行ったってしょうがないでしょお?私、いずれココ辞めるしぃ…」 視線を雑誌から離すことなく、彼女はそうつぶやいた。 私に対する人見知りのためか、それまで会話にあまり混ざろうとしなかった翠星石さんも、このときばかりはそれに反論した。 翠星石「でも、今日ぐらいは…仲良くみんなで…」 水銀燈「うるさいわね…給料もロクにもらえないのに、時間まで拘束されちゃたまったモンじゃないわ。仲間同士で馴れ合いたいなら、自分たちだけでやりなさぁい。」 結局、その日の歓迎会に銀ちゃんが姿を現すことは無かった。 翠星石「まーったく、何で水銀燈はああ空気を読めないですか!?」 帰り道、蒼星石さんに抱えられ、翠星石さんはそう叫んでいた。 真紅「飲みすぎよ、翠星石。…でも、悪いわね。せっかくの歓迎会なのに…。」 薔薇水晶「いえ、とんでもない…。それに、あの方…ホントは参加したかったんじゃないでしょうか…?」 私の脳裏に、彼女がいったある言葉が思い浮かぶ。 昼休み、屋上で私に言った『生徒に期待なんかしないほうがいい。そうすれば傷つかずにすむ』という言葉が…。 翠星石「はぁ?考えすぎですぅ。アイツにそんな感情あるわけないですぅ。アイツはいっつも自分のことしか考えてないですぅ♪」 蒼星石「…言いすぎだよ、翠星石。」 蒼星石さんがそれをいさめていたが、それを言った翠星石さんも悪気があって言ったわけではないようだった。 …こうして、私の1日目の学園生活は終わりを告げた。 そして数日後、私は何故か銀ちゃんのクラスの担任になっていた。 銀ちゃんが『もう、あらかたのことは教えたから、後は任せるわぁ』といって、私にクラスを仕切る権利を譲渡したのが原因だった。 いきなりの大役を与えられ、嬉しくないといえばウソになる。しかしそれ以上に、私はその無責任な態度に腹が立った。 薔薇水晶「水銀燈さん!ちょっと、あなたに話があります!!」 水銀燈「…なぁに?私は忙しいの。手短に済ませてくれるぅ?」 薔薇水晶「あなたのやってること、それって全部逃げてるだけじゃないですか!?」 水銀燈「…何が言いたいの!?」 薔薇水晶「いつか、あなた言いましたよね?『期待しなければ、傷つくこともない』って!ホントは自分のしたいこと、放棄してるだけじゃないんですか!?」 水銀燈「何言ってるの!?前から言ってるでしょ、こんな仕事いつでも辞めてやるって!だから、私には関係ないの!」 薔薇水晶「嘘です!本当はみんなと仲良くしたい…でも傷つくのが怖いんでしょう…!?」 水銀燈「…違う…!!」 薔薇水晶「全力でぶつかっていって、それが拒絶されるのが怖いんでしょう!?」 水銀燈「…うるさい!!あなたに一体何が分かるっていうのよ!!」 そのとき、銀ちゃんはすでに大粒の涙を流していた。そしてそれは、私の言ったことが『YES』である何よりの証拠だった。 薔薇水晶「…でも、いつかは変わらなきゃいけないんですよ?今のままじゃ、絶対ダメ…!」 なおも銀ちゃんは「うるさい」と小さく声を漏らしていた。そんな、銀ちゃんの手をとってこう言った。「今ならやり直せる、今だったらやり直せる」と。 でも銀ちゃんは、そう言う私の手を振り払い、家に帰っていってしまった。 次の日、私はあまり学校に行く気がしなかった。あんな事があった後、銀ちゃんと顔を合わせるのがものすごく気まずかったからだ。 しかし、そんなことを言っていても始まらない。重い気持ちのまま学校に行くと、意外にも銀ちゃんはいつも通り雑誌を見ながら、私を出迎えてくれた。 金糸雀「やったかしらー!!今月はお給料減ってないかしらー!!」 後ろから元気な声が聞こえる。 そうか、今日は給料日…見ると私の机の上にも給料明細が置かれていた。 …もっとも、ここに来てまだ数日なので、あまり期待できる額では無いだろうが。 翠星石「んっ!?それはいい事を聞いたですぅ!みんな、今日は金糸雀がおごってくれるらしいですぅ♪」 金糸雀「な!?何でそうなるかしらー!?」 翠星石「薔薇水晶!!おめーも参加したいですね!?」 勢いに負けて、つい首を縦に振ってしまう私。そこで、ふとある考えが私の頭のなかによぎった。 薔薇水晶「そうだ…!水銀燈さんも…参加しませんか?」 翠星石「そうです!たまには参加しやがれで…」 水銀燈「いいわよ、ついていってあげるわぁ…」 翠星石「…へ?」 水銀燈「何よその顔…。私も今日は飲む予定だったから、どうせならって思っただけよ。ただそれだけ…。」 少し顔を赤くしながら、銀ちゃんはそういってくれた。そんな銀ちゃんを見て、真紅さんも声をかける。 真紅「…いい子ね、水銀燈…。」 水銀燈「!?な、何よその言い方!?そんな、人を下に見たような言い方止めてくれなぁい!?」 真紅「あら、せっかく褒めてあげたのに、お気に召さなかったかしら?」 水銀燈「余計なお世話よ、おばかさぁん!!」 このやり取りに、たまらず笑いがこみ上げる一同。それにつられて、銀ちゃんもクスクスと笑い出した。 そう、私はその日…初めて銀ちゃんの笑顔を見た。 ---- 水銀燈「よし、出来たわぁ♪」 嬉しそうに猫を抱き上げる水銀燈。そこへ、蒼星石が1枚の紙を持ってやって来た。 蒼星石「水銀燈、もしかしてその猫、このチラシに書いてある猫じゃない!?」 それは、迷子になった猫を探すためのチラシだった。 水銀燈「あらぁ、そっくりねぇ…多分そうだわぁ。ありがとう蒼星石♪」 そう礼をいうと、猫を再び真紅の元へ近づける水銀燈。 水銀燈「真紅ぅ~、この子の飼い主が見つかったわよぉ。あなたに言われたとおり捨ててたら、きっと見つからなかったわぁ…♪ 人でも猫でも、道に迷うことはある…でも、救いの手を差し伸べる人がいればきっと大丈夫…そのことをよぉーく覚えておきなさぁい♪」 真紅「わ、わかったわ!だから、その猫を早く返してきなさい!!」 薔薇水晶は思う。 …あの日、私が言ったことが銀ちゃんを変えたのかどうかは分からない。でも、今こうやってみんなで笑いあえるようになってよかったと…。 そして、いつまでもこんな日々が続けばいいな…と。 おしまい。 関連する物語 [[昔の水銀燈と薔薇水晶  その2]] [[昔の水銀燈と薔薇水晶  その3]]  
水銀燈「おっはよぉ~♪」 少々遅刻気味なことなどお構いなしに、元気よく職員室のドアを開ける水銀燈。 それは、いつもと変わらぬ光景だった。ただ、ある一点を除いては。 真紅「遅いわよ、水銀燈。教師として時間に…」 そこまで言ったところで、完全に動きが止まる真紅。その目は、今まさに水銀燈が抱えているものに釘付けになった。 真紅「…ね、猫…!?」 そう、水銀燈が抱えてきたのは1匹の猫だった。しかし、猫嫌いの真紅にとってはたまったものではない。 真紅「な、何でそんな野蛮な動物を学校に持ってくるのよ!?汚らわしい!!」 水銀燈「あらぁ?こんなに可愛いのに何でそんな事言うのぉ?」 そういって、真紅に猫を近づける水銀燈。それを威嚇する猫。 真紅「お、怒ってるじゃないの!!早く捨ててきなさい!!」 水銀燈「…うるさいわねぇ。まぁいいわぁ、別にあなたに助けてもらおうなんて、これっぽっちも思って無いしぃ。」 そういうと、水銀燈は猫を抱えたまま給湯室へと入っていってしまった。 熱湯と水を、ちょうどいい温度になるように混ぜ、丹念に猫を洗ってやる水銀燈。 そこへ、薔薇水晶が近づいてきた。 薔薇水晶「銀ちゃん…ホームルーム行ってくるね…。ところで、その猫…どうしたの?」 水銀燈「あ、うーん…何か昔の私に似てたんで、つい…ね。」 そう言って、恥ずかしそうに笑う水銀燈。その言葉に、薔薇水晶は、昔の水銀燈の姿を思い出した。 ---- ラプラス「…というわけで、今日から皆さんと一緒に働くことになりました、薔薇水晶さんです。」 薔薇水晶「あ…よろしく、お願いします…。」 簡単な自己紹介の後、私…薔薇水晶はすぐに他の教師たちとも打ち解けることができ、やがて話は、私の歓迎会の話に移っていった。 しかし、私には1つだけ、どうしても気になる点があった。 それは、話の輪から一人だけ距離を置き、ファッション雑誌をパラパラとめくる銀髪の女の人がそこにはいたからだった。 蒼星石「…水銀燈、君も一緒に来ないかい?」 水銀燈「…遠慮しとくわぁ。だって、行ったってしょうがないでしょお?私、いずれココ辞めるしぃ…」 視線を雑誌から離すことなく、彼女はそうつぶやいた。 私に対する人見知りのためか、それまで会話にあまり混ざろうとしなかった翠星石さんも、このときばかりはそれに反論した。 翠星石「でも、今日ぐらいは…仲良くみんなで…」 水銀燈「うるさいわね…給料もロクにもらえないのに、時間まで拘束されちゃたまったモンじゃないわ。仲間同士で馴れ合いたいなら、自分たちだけでやりなさぁい。」 結局、その日の歓迎会に銀ちゃんが姿を現すことは無かった。 翠星石「まーったく、何で水銀燈はああ空気を読めないですか!?」 帰り道、蒼星石さんに抱えられ、翠星石さんはそう叫んでいた。 真紅「飲みすぎよ、翠星石。…でも、悪いわね。せっかくの歓迎会なのに…。」 薔薇水晶「いえ、とんでもない…。それに、あの方…ホントは参加したかったんじゃないでしょうか…?」 私の脳裏に、彼女がいったある言葉が思い浮かぶ。 昼休み、屋上で私に言った『生徒に期待なんかしないほうがいい。そうすれば傷つかずにすむ』という言葉が…。 翠星石「はぁ?考えすぎですぅ。アイツにそんな感情あるわけないですぅ。アイツはいっつも自分のことしか考えてないですぅ♪」 蒼星石「…言いすぎだよ、翠星石。」 蒼星石さんがそれをいさめていたが、それを言った翠星石さんも悪気があって言ったわけではないようだった。 …こうして、私の1日目の学園生活は終わりを告げた。 そして数日後、私は何故か銀ちゃんのクラスの担任になっていた。 銀ちゃんが『もう、あらかたのことは教えたから、後は任せるわぁ』といって、私にクラスを仕切る権利を譲渡したのが原因だった。 いきなりの大役を与えられ、嬉しくないといえばウソになる。しかしそれ以上に、私はその無責任な態度に腹が立った。 薔薇水晶「水銀燈さん!ちょっと、あなたに話があります!!」 水銀燈「…なぁに?私は忙しいの。手短に済ませてくれるぅ?」 薔薇水晶「あなたのやってること、それって全部逃げてるだけじゃないですか!?」 水銀燈「…何が言いたいの!?」 薔薇水晶「いつか、あなた言いましたよね?『期待しなければ、傷つくこともない』って!ホントは自分のしたいこと、放棄してるだけじゃないんですか!?」 水銀燈「何言ってるの!?前から言ってるでしょ、こんな仕事いつでも辞めてやるって!だから、私には関係ないの!」 薔薇水晶「嘘です!本当はみんなと仲良くしたい…でも傷つくのが怖いんでしょう…!?」 水銀燈「…違う…!!」 薔薇水晶「全力でぶつかっていって、それが拒絶されるのが怖いんでしょう!?」 水銀燈「…うるさい!!あなたに一体何が分かるっていうのよ!!」 そのとき、銀ちゃんはすでに大粒の涙を流していた。そしてそれは、私の言ったことが『YES』である何よりの証拠だった。 薔薇水晶「…でも、いつかは変わらなきゃいけないんですよ?今のままじゃ、絶対ダメ…!」 なおも銀ちゃんは「うるさい」と小さく声を漏らしていた。そんな、銀ちゃんの手をとってこう言った。「今ならやり直せる、今だったらやり直せる」と。 でも銀ちゃんは、そう言う私の手を振り払い、家に帰っていってしまった。 次の日、私はあまり学校に行く気がしなかった。あんな事があった後、銀ちゃんと顔を合わせるのがものすごく気まずかったからだ。 しかし、そんなことを言っていても始まらない。重い気持ちのまま学校に行くと、意外にも銀ちゃんはいつも通り雑誌を見ながら、私を出迎えてくれた。 金糸雀「やったかしらー!!今月はお給料減ってないかしらー!!」 後ろから元気な声が聞こえる。 そうか、今日は給料日…見ると私の机の上にも給料明細が置かれていた。 …もっとも、ここに来てまだ数日なので、あまり期待できる額では無いだろうが。 翠星石「んっ!?それはいい事を聞いたですぅ!みんな、今日は金糸雀がおごってくれるらしいですぅ♪」 金糸雀「な!?何でそうなるかしらー!?」 翠星石「薔薇水晶!!おめーも参加したいですね!?」 勢いに負けて、つい首を縦に振ってしまう私。そこで、ふとある考えが私の頭のなかによぎった。 薔薇水晶「そうだ…!水銀燈さんも…参加しませんか?」 翠星石「そうです!たまには参加しやがれで…」 水銀燈「いいわよ、ついていってあげるわぁ…」 翠星石「…へ?」 水銀燈「何よその顔…。私も今日は飲む予定だったから、どうせならって思っただけよ。ただそれだけ…。」 少し顔を赤くしながら、銀ちゃんはそういってくれた。そんな銀ちゃんを見て、真紅さんも声をかける。 真紅「…いい子ね、水銀燈…。」 水銀燈「!?な、何よその言い方!?そんな、人を下に見たような言い方止めてくれなぁい!?」 真紅「あら、せっかく褒めてあげたのに、お気に召さなかったかしら?」 水銀燈「余計なお世話よ、おばかさぁん!!」 このやり取りに、たまらず笑いがこみ上げる一同。それにつられて、銀ちゃんもクスクスと笑い出した。 そう、私はその日…初めて銀ちゃんの笑顔を見た。 ---- 水銀燈「よし、出来たわぁ♪」 嬉しそうに猫を抱き上げる水銀燈。そこへ、蒼星石が1枚の紙を持ってやって来た。 蒼星石「水銀燈、もしかしてその猫、このチラシに書いてある猫じゃない!?」 それは、迷子になった猫を探すためのチラシだった。 水銀燈「あらぁ、そっくりねぇ…多分そうだわぁ。ありがとう蒼星石♪」 そう礼をいうと、猫を再び真紅の元へ近づける水銀燈。 水銀燈「真紅ぅ~、この子の飼い主が見つかったわよぉ。あなたに言われたとおり捨ててたら、きっと見つからなかったわぁ…♪ 人でも猫でも、道に迷うことはある…でも、救いの手を差し伸べる人がいればきっと大丈夫…そのことをよぉーく覚えておきなさぁい♪」 真紅「わ、わかったわ!だから、その猫を早く返してきなさい!!」 薔薇水晶は思う。 …あの日、私が言ったことが銀ちゃんを変えたのかどうかは分からない。でも、今こうやってみんなで笑いあえるようになってよかったと…。 そして、いつまでもこんな日々が続けばいいな…と。 おしまい。 関連する物語 [[昔の水銀燈と薔薇水晶  その2]] [[昔の水銀燈と薔薇水晶  その3]] [[翼の折れた天使]]  

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