地に足が着いた感触と同時に、光に覆われていた視界を一挙に取り戻していく。
その瞬時に本郷猛は、後天的に与えられた鋭敏な感覚でもって周囲の状況を把握していた。
民家が建ち並ぶ市街地の道路上。それが現在、本郷の立っている場所。
本郷は即座に、その場から一番近くの民家の塀を飛び越え、庭先に身をひそめた。
身を低くして内側から塀に張り付き、息を整えながら改めて周囲の気配をうかがう。
(すぐに奇襲を受ける心配は無いようだ……。いや、そもそも周囲に人の気配は無いか)
懸念していた開始すぐの奇襲は、免れたようだ。
とりあえず、落ちついて手元の情報を確認できる。
まずは、ここに送られる前の場所で見た一文字隼人に呼びかけた。
改造人間である本郷と一文字は、距離を隔てても電子頭脳で通信することができる。
……筈なのだが通じない。応答がない、というより通信そのものができない状態だ。
おそらく死神博士が何らかの妨害をしているのだろう。
しかたなく本郷は、いつの間にか背負っていたデイパックを手に取った。
死神博士が説明していた支給品が中に入っている。
地図を見る。それによれば殺し合いの舞台は、かなりの広さと見受けられた。
おそらく参加者は分散して送られたのだろう。
現在位置は森を囲むようにある市街地のどこか、としか見当が付かない。早急に確かめる必要がある。
そして参加者の名簿。
知った者の名前は一文字だけだった。
……いや、それは正確ではない。
会ったことは無いが、知った名前が何人も居る。
関羽に許チョに荀イクに孔明に曹操に張遼に董卓に劉備に呂布。
この9人はあの『三国志』で有名な人物である。
何れも実在の人物だが、それは1000年以上前の話。
当然生きているはずがない。つまり『三国志』の人物と別人だと考えてしかるべきだ
だが死んだ者が生きていた事例をつい先程目撃した。
死神博士。自分が確かに倒したはず。
なぜ生き返ったかはともかく、『三国志』の人物も本人である可能性がある。
こんなところまで連れてこられた以上、今更タイムパラドックスの心配をするつもりはないが
そんな太古の人間を蘇らせる、死神博士の意図が気になった。
デイパックの荷物を見終えて、手元の情報を確認を終わらせる。
ではこれから何を目的とし、どう行動するか?
当然、このバトルロワイアルを打破し巻き込まれた全ての人を助け出す。
このバトルロワイアルを行う目的は分からない。
しかし如何なる事情があれ、こんな無残な殺し合いが行われていい筈がない。
本郷は世界征服を企む悪の秘密結社ショッカーに改造された改造人間である。
そりゆえ本郷はこれ以上自分のような犠牲者を出さないためショッカーと、悪と戦う決意をした。
悪しき陰謀から、平和に暮らす罪もない人々の自由と平和を守る。それが本郷が自分に課した使命だ。
(しかし妙だ……ゲルショッカーは首領が倒されて壊滅した。ならばこのバトルロワイアルの黒幕は一体なんだ?)
ショッカーの後身組織ゲルショッカーは、本郷と一文字の活躍により壊滅したはずである。
そうなると他にバトルロワイアルを主催しそうな組織というのは思い当たらない。
死神博士自身がそのまま首謀者とも考えられるが、それにしても死神博士を蘇らせた何者かは存在する。
黒幕が掴めないとなると、バトルロワイアルの打破にあたって敵戦力の種類や規模が掴めない。
事実、死神博士は瞬間移動などの不可思議な手段をとっている。
どうにかしてそれらの情報も集めなければならない。
そう、バトルロワイアルを打破するとなると避けられない難問がいくつか存在する。
首輪の解除。
主催者の全容の把握と、それに対抗し得る戦力の確保。
現在位置の特定と、ここからの帰還方法。
首輪。
まずは内部構造の解析が必要だ。
しかしそのためには、解析用のサンプルとなる首輪がいる。
すなわち、誰かは死ぬ必要がある。
本当なら自分の首輪で解除実験をするところだが、現状ではそうもいかない。
戦闘能力と経験を持ち、首輪解除に役立てそうな工学知識と技術を持ち、死神博士の情報も有している『本郷猛』は
極めて貴重な対主催戦力なのだ。他からサンプルを用意しなくてはならない。
不本意なことだが、この殺し合いに乗る者もおそらく居るだろう。
その者を倒し、サンプルを回収するしかあるまい。
酷薄な考えだ。だが悪との戦いが綺麗事では済まないのは、本郷とてよく知っている。
そして首輪の解除は優先順位の最も高い急務に当たる。
これを解除しないことには、主催者に命運を握られたままだし
解除さえすれば当面の危険は退けられる。
主催者。
殺し合いから完全に抜け出すには、主催者との対決は避けられまい。
たとえ逃げ延びたとしても、また殺し合いに連れ出されては元の木阿弥だ。
それに二度とこんな非道なことの被害者を出さないためにも、主催者はここで必ず倒す。
死神博士の背後に、おそらく何らかの強大な力を有する者がいるだろう。
殺し合いの中からそれらの情報を集めなければならない。
そして主催者との戦いに備え、戦力を確保する。
これに関しては、少なくとも直接的な戦闘は自分と一文字が無事なら請け負えばいい。
多くの参加者を守りながら未知の主催者を倒す。困難だが、自分と一文字なら必ずやり遂げてみせる。
現在地。
ここがどういう場所で、どうすれば巻き込まれた人たちを帰せるのか。
単純にここが地球上のどこかだと言うのなら問題はない。
しかし地球から離れた場所や、時空や次元を異にしている可能性だってある。
そうなれば帰還方法も難しくなってくる。
やはり更なる情報の収集は必須だ。
手近なところから当たるべく、本郷は目の前のガラス戸を開け民家の中に入る。
そこは和室。ちょうど居間となる部屋で、台の上にテレビが置かれてある。
35インチ以上ありそうな、家庭用としてはかなり大型のテレビ。
しかも奥行きが極端に薄い。30cmほどしかないのだ。
よく見ればこのテレビの画面はブラウン管ではなく、液晶を使っている。
こんな技術は、本郷の知る限り現在には存在しない。
電源を入れてもつかない。どうやらこの家に電気そのものが来ていないらしい。
今度はタンスを見る。
木製だが細かく観察しても、傷1つ付いていない。
中には衣類が敷き詰められている。当然それなりの重量を持つタンスだが、本郷は片手で軽々と持ち上げた。
下は畳になっていた。
畳の上にタンスくらいの重量のある物を置き続けていれば、どうしても跡がつく。
タンスの後ろ側を見る。埃は溜まっていないし、掃除をした形跡もない。
最近に置いたのだろうか?
ただどうにも引っかかるのは、タンスだけではない。
家具にはどれにも傷1つないし、床には汚れ1つなかった。
年季が入っていないどころか、生活感がまるでないのだ。
本郷はガラス戸からその家を出て、別の民家へ移る。
リビングを覗く。そこにあるテレビは40インチはあり、異常に薄い。
これの画面はブラウン管でも液晶でもない。表面のガラスの下で電極が発光する仕組みと思われる。
やはり本郷の知らない技術。
リビングから一繋がりになっているキッチンへ行く。
見たことも無い装置が幾つもある。
上の方にある機械は食器を自動で洗ってくれる物らしい。
電子レンジもある。しかし随分小型で多機能だ。
ただどちらも使用された形跡がない。
冷蔵庫の中は空。汚れ1つなく、これも使われた形跡はない。
傾けて裏側を見てみるが、埃はたまっていない。
民家を調査してみて分かったことは2つ。
まずは、ここが本郷の知る現在の街ではないこと。
そしてこの街は、バトルロワイアルのために新しく用意された物だということ。
この2つの結果を、複合して考えれば
『バトルロワイアルの会場は未来の世界をモデルに作られた人工空間』という結論に至る。
更に参加者に過去の世界の住人である自分や、三国志の人物の名前があったことと合わせて推測すれば
『参加者は複数の時代から集められた』となる。
当然これらはあくまで推測だ。
他の参加者から情報を集め、検証する必要がある。
そしてもし推測が正しければ、帰還は極めて困難なことになる……。
(……これは足音だな)
さっそく、他の参加者を発見できたようだ。
改造人間である本郷の聴覚は、普通の人間よりはるかに遠方の足音も聞き取れる。
本郷は注意深く身を隠しながら、音源を探りに向かった。
足音の主が道路上を歩く姿はすぐに見つけられた。
まだ7、8歳くらいだろうか。赤い長髪を2本の三つ編みにしている。
デフォルメされたドクロのシルエットがあしらわれた白いTシャツ。
黒いミニスカートからすらりと細い足が伸びて、オーバーニーソックスを纏っている。
そして手に持っているのは、少女自身よりはるかに長大な戟。
両の脚を気忙しく動かし、ただ前だけを見つめ進んでいる。
どうみても幼い少女。
だが見たままの存在ではないことは、容易に感じ取れる。
外見とは裏腹に身にまとう空気は血生臭く、重厚ささえ伺えた。
大人でも手に余りそうな戟を片手で軽々と持ち運ぶ膂力。武器を持つ様からは風格すら漂う。
修羅場を潜ってきた、なんて生易しいものではあるまい。おそらくは自らが修羅と化して多くの敵を屠ってきた兵。
自身もショッカーと戦い続けてきた本郷だからこそ、それが感じ取れた。
接触するには危険がともなう。
だが避けて通る訳にはいかない。
どうするか?
◇ ◇ ◇
夜の街の中、少女は足早に急いでいた。
殺し合いの渦中を恐れもなくただ焦りを抱いて、短いスカートと三つ編みをなびかせている。
全力で両の脚を前へ進めているが、それすらもどかしい。
今はただ先を急ぐ。
主――八神はやての下へ。
はるかな古に失われた次元世界ベルカ。
そこで作られた融合型デバイス『闇の書』。
少女は『闇の書』とその主の守護、および魔力蒐集のために作り出されたプログラム
守護騎士ヴォルケンリッターが1人、鉄槌の騎士ヴィータである。
だが、そのヴィータとてこの場に連れてこられた当初から迷いなく行動できたわけではない。
光が晴れ、街角に降り立った後もしばらくは状況が飲み込めなかった。
ここが戦場なら状況把握の遅れは死に繋がる。ヴィータはすぐさま、思考を巡らす。
たしか死神博士とやらは、殺し合いをさせるとか言っていた。つまりそのための場所に送られたのか。
転移魔法を使った形跡は見られなかったが、とにかくこの場に瞬間移動させられたことに違いない。
しかし自分の他にも数多くの参加者がいた筈。それらはどこへ行ったのか?
恐らく『殺し合いの会場』はそれなりの広さがあって、そこに参加者は散らばって送られたのだろう。
大まかな状況把握は済んだ。
(……で、これからどうすんだ?)
『それでどう動くべきか?』の考えがうまく進まない。
途方に暮れて、とりあえず仲間との思念通話を試みてみる。しかし結果は不可能。
結界魔法や次元世界を隔てるなどして通じなかったり、ジャミングなどで通話そのものが妨げられているのではなく
思念通話そのものが使えなくなっていたのだ。
しかたなく先に、足下に有ったデイパックの中身を確認することにした。
地図を見るとなるほど、会場はかなり広いことが分かった。
他にも食料や武器を確認する。
どれだけ探しても愛用のデバイス『グラーフアイゼン』が無い。取り上げられたらしい。
ヴィータにとってアイゼンはただの武器ではない。長く命を預けた戦友だ。何としても取り返さないと。
代わり、と言っては何だが方天戟と呼ばれる武器が入っていた。
先端に刃物が付いているが、重量で叩き潰す使い方もできる長物。
ヴィータには扱いやすい類の武器。得物としてたずさえる。
最後に名前が羅列された紙――名簿を確認。
知った名前を見つける。
シグナム。
同じヴォルケンリッターの将。剣の騎士。
仲間が殺し合いに巻き込まれた憤りはあるが、この場では心強い味方でもある。
高町なのは。
こいつは魔力蒐集の際に戦った高町なんとかだ、……多分。敵であるこいつが居るとなると厄介だ。
(…………何でだよ!? 何で、はやてが居るんだよ!!?)
そこには現在の闇の書の主、八神はやての名前があった。
自分にシグナムに高町なんとかが居るのだ。同姓同名の別人の可能性は低い。
本物のはやてが居る。
しかし何のために? 脚が動かない子供を何でこんな殺し合いに参加させる。
いや、そもそも自分たちが参加させられている理由だって分からない。この殺し合いに何の意味がある?
(……何で殺し合いをするかじゃねー、これからどうするかだ!)
混乱する思考を整理する。
はやてが殺し合いに参加させられている以上、これからどうするかなど決まっている。
いや、今までと何ら変わりはしないというべきか。
はやてを守り、この窮状から救う。
ヴィータにとってはやては命に代えても守らなくてはならない主であり、それ以上の存在でもある。
長きヴォルケンリッターとしての生。
闇の書の1部として転生を繰り返し、その度に魔力蒐集のため戦った。
当然だ。ヴォルケンリッターはそのために存在する。
人としての形を与えられれば、ひたすら戦いに明け暮れる生。それがヴィータの全てだった。
はやてと出会うまでは。
はやてはヴォルケンリッターを人として、家族として扱ってくれた。
家族との暖かい生活。
魔力蒐集の使命以外の楽しみ、喜び。
ヴィータの知らない、夢にも見なかった幸せがそこにあった。
しかし闇の書の魔力は、はやての身体を蝕んでいた。はやての生命活動を阻害するほどに……。
闇の書はいずれ、はやてを死に至らしめる。
だからこそはやて本人と魔力蒐集を行わない約束をしていたにも関わらず
はやてを救うため、主に無断で魔力の蒐集を開始した。
ヴォルケンリッターが自身の意思で使命を遂行する。前代未聞のことだ。
それほどにヴォルケンリッターのはやてへの想いは強い。
そして今また騎士の使命と自身の意思をもって、ヴィータははやてを救うために戦う決意をした。
ではどうやって?
アイゼンがあれば、結界を張って魔力を探知することもできたが
デバイス無しではそれも叶わない。
だが、はやての居場所を知る方法はある。
死神博士は言っていた、『3人殺せば参加者1人の位置と状態を教える』と。
位置さえ分かれば直接はやてを守りにいける。
勿論、そんなやり方をはやてが喜ばないのは分かっている。
たとえ独断でやったことでも、はやてがどれほど哀しむだろう。
はやての未来を血で汚さないために他者の命は奪わない。それはヴィータが言い出したことだ。
「……でも、今はこうするしかないんだよな…………。はやてが笑わなくなったり、死んじゃったりしたら……やだもんな!!」
魔力の蒐集とは違い、今は手段を選んでいられる状況ではない。
血で汚れても
笑顔を失くしても
はやてには何としても生きていて欲しい。
それは騎士の果たさなければならない使命であり、ヴィータ自身の望みだ。
とにかく一刻も早くはやての安全を確保する。その後の事は、それから考える。
未来のことは漠然とだが、どこか楽天的に考えていた。ずっとはやてと一緒に静かに暮らすと……。
だがこの手を血で染める以上、もうそれは叶うまい。
はやてに隠し通すのはさすがに無理がある。
つまり、たとえどんな結果になっても、もう自分がはやての笑顔をみることはないのだろう――。
まずは現在位置の分かる場所か、他の参加者を捜す。
はやてが見付かればそれでよし。
参加者は見つけ次第に殺し、3人殺しの褒美ではやての居場所を聞き出す。
行動方針を定めたヴィータはすぐに荷物をまとめ飛び出した。
もはや主の笑顔を守るためですらない、ただただ命を守るための戦いに
鉄槌の騎士は出陣する。
アイゼンは無い。
それでも戦うことはできる。
自分は鉄槌の騎士。
鉄槌を得物とするからそう呼ぶ、のではない。
戦いのために生まれ、戦いに生き、何者よりも力強く敵を粉砕する。
まさに自分自身が鉄槌そのものだから、そう呼ぶのだ。
「チッ、何で飛んだだけなのに、こんなにバカみてーに魔力を喰うんだ?」
ヴィータの行動は始まってすぐに躓きをみせた。
ベルカの騎士ならばデバイス無しでも、走行と同じ程度の気安さで飛行魔法を行える。
しかし何故かここでは、飛行魔法を使ってみると異常に魔力を消耗するのだ。
思念通話の時といい、自分の魔力そのものに何か問題があるのかと思ったが
肉体に魔力を巡らす分にはほとんど支障は見られない。
理由は分からないが、思念通話や飛行などの特定の魔法使用にだけ問題が有るらしい。
何れにせよこのまま飛び続ければ、誰かと接触する前に魔力が尽きてしまう。
仕方なく飛行魔法を止め、自分の脚で移動をする。
しかしこれでは、何時はやてに辿り着けるか分からない。
今にもはやてに危険が迫っているかもしれないのに。
気ばかり焦るが、伸びきっていない脚がついてこない。
焦燥を振り払うかのように、当てもなく走り続ける。
「待て!」
斜め後方から野太い制止の声。
声のした方に振り向く。当然、はやてではない。
大柄で屈強そうな男が、衣料品店のショーウインドウの中から声を掛けている。
店内は暗くてはっきりと見とれないが、どうやら最初の会場で死神博士に本郷猛と呼ばれていた男らしい。
「俺は本郷猛だ。こちらに敵意はない。君も同様なら名前を教えてくれ」
はやてではない、ということは1人目の獲物ということだ。
本郷は武器も持たず、デイパックも背負ったままの無防備な状態。
どういうつもりかは知らないが、相手の状況を慮ってやる必要はない。
殺せる者は、早く確実に殺す。
不退転の覚悟を己に確認し、ヴィータは一足に本郷へ向かった。
「ハアァっ!!」
両足で魔力が渦を巻き踏み込む、というより前方へ跳躍する。
高速移動魔法フェアーテ。その一足でもって、5mは離れていた衣料品店のショーウインドウを破り店内に飛び込んだ。
瞬時に本郷との間合いを詰める。
だが、どこか本郷の様子がおかしい。
視線も体勢も自分から微妙に外れている。
違和感を覚えながらも、ヴィータは構わず方天戟を本郷の頭へ目掛け振り下ろす。
ガシャンと音を立て、本郷は砕け散った。
本郷の破片が四散。あるいは光を反射し、あるいはヴィータの姿を映す。
(鏡か!? くそっ、つまんねー手に引っかかった!)
自分が破壊したのは、本郷を映した鏡だった。
そう認識した瞬間、背後から両脚を刈り取られるように払われた。
うつ伏せに倒され、方天戟を持つ手が捻り上げられる。
本郷が首筋に膝を乗せ、ヴィータは完全に取り押さえられた形になった。
「おとなしくしろ怪人! 抵抗すれば、怪我では済まさんぞ!!」
問答無用で仕掛けてくるとは。
しかも尋常ならざる能力を持っている。
どうやら改造人間でもなさそうだが、普通の人間でもない。
本郷は少女の姿をした怪人――ヴィータに最大の警戒をむける。
ヴィータを取り押さえはしたが、状況は膠着している。
どう動くか本郷が思案していると、突如身体が浮き上がる。
ヴィータが背中に乗せた本郷ごと、足の力だけで立ち上がった。
そして捻り上げられている腕を強引に振るう。本郷はその力に負け、床に身体ごと叩きつけられる。
ヴィータは無造作に蹴りを放つ。
凄まじい衝撃。本郷の身体が根こそぎボールの様に飛ばされる。
本郷は商品棚を突き破り、壁に叩き付けられた。
(なんだ、こいつのこの力は!!?)
全身の痛みをおくびにも出さず、本郷は立ち上がろうとするが
それをのんびり眺めているヴィータではない。
本郷の頭上から、方天戟がうなりを上げ迫る。
しかし本郷とて歴戦の者。方天戟ほどの質量の武器なら、軌道を読み取ることも難しくない。
回り込むように、方天戟の側面に避ける。
方天戟が床に突き刺さるも、即座に本郷へ向け跳ね上がった。
腹を殴られた衝撃で本郷はまたも身体ごと、今度は店外まで飛ばされた。
玩具のごとくアスファルトを転がる。
痛みが全身に負ったダメージの深さを本郷の脳に訴える。
(なんという強力さだ! こんな恐るべき怪人が存在するとは……。一体何者だ!?)
割れたショーウインドウから、ヴィータが悠然と出てくる。
傲然と本郷を見下ろす視線の重圧は、それだけで人を圧殺しそうなほどだ。
しかし本郷に恐れはない。ここに来て尚、強大な敵から逃げるつもりもない。
怪人ヴィータの暴虐を他に及ぼさぬため、全て己で引き受け打ち倒す。
不退転の覚悟を己に確認し、本郷はヴィータに立ち向かう。
ヴィータの足下に生成される小さな竜巻。
砲弾のごとくヴィータが飛び掛ってくる。その勢いのまま、方天戟を突いてきた。
本郷はそれにタイミングを合わせ踏み込む。
方天戟を横に避わし、ヴィータの顔にカウンターの拳を打ち込んだ。
ガードレールまで吹き飛んだのは、勢いに負けた本郷の方。
顔面を殴られ口元に血を滲ませながら、まるで意に介する様子もなくヴィータは更に飛び掛ってくる。
ヴィータの足下に本郷が転がり込んで、足払いを仕掛ける。
それを受け、ヴィータは更に大きく踏み込んだ。
足払いを仕掛けたはずの本郷が、蹴り飛ばされた形でまたもアスファルトを転がった。
両手をついて立ち上がろうとする横から方天戟が払われる。
方天戟がいかに重量があろうと、それだけではありえない異常な重圧。
トラックに刎ねられたがごとき衝撃で、本郷は宙を舞う。
アスファルトに全身を打ちつけ、立ち上がることもままならない本郷。
その上からヴィータは本郷を押し潰すように、方天戟で打ち据える。
肋骨が折れ、本郷の顔が苦悶に歪む。口からは勢いよく血が吐き出された。
更に、上から方天戟が振るわれる。
一片の躊躇も、一切の情けも混じらない、純粋な殺意による打撃。
更に一撃、二撃、三撃、四撃、五撃、六撃。
本郷の命を確実に奪うまで徹底的に叩き潰す。
ヴィータがこれまでも幾多の次元世界で敵を撃滅してきたのと同じように。
圧倒し
蹂躙し
粉砕し
撃破し
破壊し
圧殺する。
その豪壮にして強力なる様をあえて例えるなら
『鉄槌』の二つ名をこそ相応しい。
(……い、今の状態では、この怪人には勝てない! 何とか隙をついて……変身しなければ!!)
(雑魚のくせに、しぶてー奴だ)
ヴィータがこれまで繰り出してきた攻撃は全て魔力付与攻撃だった。
肉体や武器に魔力を乗せ、威力を増す魔法攻撃。
普通の人間なら確実に殺せる一撃。それを幾度も打ち込んだ。
しかし未だに本郷の命を奪えない。
まず本郷の肉体の耐久力が尋常ではない。
その上本郷は、あるいは腕で防御しあるいは巧みに打点をずらし、こちらの攻撃を受けている。
七撃目を振り下ろす。本郷の交差した両腕に挟まれ威力が殺されていた。
交差した両腕の向こう本郷と視線が交差する。
その双眸の光には、恐怖も絶望の色もない。
それどころか絶対的な力の差を見せられても、戦いを諦めていない者の光だ。
譲れぬものためには、何があろうと諦めることのない強靭な意思。
形としては表れぬ、それゆえ敵としては最も厄介な強さ。
本郷からはそれほどのものを感じ取れた。
だからといって、こっちから諦めてやる義理はない。
意思が折れぬなら、肉体を完膚なきまでに破壊するまで。
乱れた息を整え、方天戟を振りかぶる。
本郷が両脚を大きく振ったで、一気に起き上がる。
まだそんな力を残していたのかと驚くも、ヴィータが方天戟を振り下ろす手は止まらない。
方天戟の重量に引かれ前方に重心の傾いたヴィータの襟元を本郷が掴んだ。
ヴィータの勢いを利用され、投げられる。
それも頭からアスファルトに叩きつけられる形でだ。
歴戦のヴィータが完全に油断を突かれた。
同じくショッカーの改造人間との歴戦で鍛えられた技量を持つ、本郷だからこそ為せた技。
無防備だった頭部を襲う痛打。さすがのヴィータも一瞬、意識が混濁する。
「こんのぉ!!」
ヴィータは立ち上がり、体勢を立て直す。
痛みと、何よりはるかに格下だと侮っていた相手から思わぬ反撃を受けた怒り。
怒りを込め、間合いを取り構える本郷を見据えた。
その本郷の構えに、違和感がある。
両脚を肩幅以上に開き、右腕を左上方にまっすぐ伸ばしていた。
「ライダー……」
本郷の右腕が円を描くように天へ向けていく。
戦闘のための構えではない。まるで意図が分からない。
だが、数多の次元世界で多種多様な魔法や怪物と戦い培われたヴィータの勘が告げていた。
――――自分にとって危険な存在が現れようとしている、と。
「変身!」
そして右腕を腰にひきつけ、左腕を勢いよく右上方へ伸ばす。
本郷のベルトの中心部分にある風車が回る。
「トオ!」
本郷の跳躍。
否。もう、その姿は本郷猛ではない。
着地する。その両脚は黒く、側面に白いラインが走っていた。
緑色の分厚いボディ。
赤い双眸が輝くマスク。
風になびく真紅のマフラー。
其は伝説の戦士――――。
其は人間の自由と平和の守護者――――。
其は史上最初の仮面ライダー――――。
――――仮面ライダー新1号。
「ゆくぞ怪人! 貴様の相手は、この仮面ライダーだ!!」
死神博士の仕掛けた陰謀、バトルロワイアルの渦中に放り込まれた本郷猛。
そこで恐るべき怪人ヴィータの襲撃を受ける。
果たして、われらの仮面ライダーはどうなってしまうのか?
【C-9/市街地/一日目-深夜】
【本郷猛@仮面ライダー(テレビシリーズ)】
[状態]:仮面ライダー新1号に変身中、疲労(中)、全身に打撲、肋骨の骨折
[装備]:無し
[持物]:支給品一式、不明支給品×0~2
[方針/目的]
基本:バトルロワイアルの打破。
1:首輪の解除。
2:死神博士を倒す。
3:参加者を帰還させる。
4:ヴィータを倒す。
[備考]
※仮面ライダー(テレビシリーズ)原作終了後からの参戦です
【C-9/市街地/一日目-深夜】
【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:健康
[装備]:方天戟@蒼天航路
[持物]:支給品一式、不明支給品×0~1
[方針/目的]
基本:はやてを守る。
1:3人を殺してはやての居場所を聞き出す。
2:本郷を殺す。
[備考]
※魔法少女リリカルなのはA's原作第6話終了後からの参戦です
最終更新:2010年02月19日 09:30