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ダ・ヴィンチの洞窟 - (2005/11/12 (土) 20:07:07) の1つ前との変更点
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**レオナルド・ダ・ヴィンチ展
直筆ノート「レスター手稿」日本初公開
六本木ヒルズ:森アーツセンターギャラリー
もはや異界でなくて,ミュージアム・レポートになってるけど…。
ダ・ヴィンチ展に行ってきた。六本木ヒルズ初上陸!なんだか必要以上にビルが高くて,ややこしい構造。道に迷いつつ,おどおどしながら,ようやくのことチケットを買い,エレベーターで52階へ(一人で行ってたら辿りつけなかったね,たぶん)。
平日なのにお客の数がすごい(会社帰りの時間だからか)。『ダ・ヴィンチ・コード』(未読)もヒットしたし,今ダ・ヴィンチはブームなのだろうか。
今回は,ルネサンス最大の「普遍人」(uomo universale)と目されるレオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci,1452-1519)の自然学的考察の記録である「レスター手稿」が日本で初公開。これは1505,1507-8年に執筆された18枚/36紙葉/72ページの手稿で,一年に一度だけ一カ国に公開展示が許されているという。現在はビル・ゲイツの個人蔵。鏡文字(!)で書かれたイタリア語の手稿だが,ビル・ゲイツはこれを読むのだろうか…。
手稿の内容は,現代でいうところの天文学・水力学・地球物理学の分野にあたる。手稿を展示するだけではなかなか理解ができないので,解説ビデオや,手稿の挿図に基づいた模型や実験装置が数多く並ぶ。解説を読みながら,ダ・ヴィンチが行ったのと同じ実験を自分でやってみることができる。やはり自分で試したり,触ったりできるというのは面白くて,よく工夫された展示だった。
----
ダ・ヴィンチは自らをこう呼んだ。「経験の弟子レオナルド・ダ・ヴィンチ」。
スコラ的な思弁を軽蔑し,自らは実験と観察をくりかえしたダ・ヴィンチ。
水流や波紋の実験装置をいじりながら,その思考力に驚嘆する。「いろんなことを考えていたのね」「何百年も前に,こんなことを考えていたとは」…お客さんの誰かが呟いた。
ただ一つ気になるのは,展示が手稿の考察を現代科学にばかり引きつけて考えているということ。たしかに経験主義者として観察を繰り返したダ・ヴィンチは,近代自然科学の始まりと言われるガリレイやデカルトの時代まであと少しのところにいる。しかしダ・ヴィンチ自身が基づいていた世界観は,古代から受け継がれてきたものだった。
たとえばダ・ヴィンチは地球を人間の身体のように,身体を地球のように考える。血管は河川であり,骨は岩石,洞窟は母親の胎内であり,呼吸は風,心臓は海…。
なぜこのように考えたのか。この地球と人間身体とのアナロジーは明らかに,マクロコスモス(大宇宙)とミクロコスモス(小宇宙)との照応という近代以前の西洋思想の隠れた底流をなしていた考え方に由来する。ダ・ヴィンチがこれを知っていたことは有名はウィトルウィウス人体比例図からも窺えるが,こうした言及は解説ではあまりなされない。
現代の自分たちの立場からだけ見て「ああ,昔の人もこの程度までは正しいことを考えていたんだな」と優越感に浸りながら言うとしたら,それはあまりにもお粗末なホイッグ史観といえないだろうか。
過去に生きた人々はもっと色んなことを考えていたし,現代に生きる自分は全てを知っているわけではない。世界はもっと複雑なのだ。ダ・ヴィンチ自身の暗示的な文章を引いておこう。
>…そしておのれの熱い欲望にひかされて巧妙な自然の創り出した種々さまざまな奇形な形態の数々を見んことをあこがれ,翳深い巌群の間をしばしめぐったのち,とある巨大な洞窟の入口にやってきた。暫くの間そのあることも知らず茫然とその前に立ちすくんでいたが,やがて背を弓なりに折って,左手を膝の上にしっかり立て,右手でひそめた眉に目陰をする。そして洞窟の奥に何かが見きわめられはしないが,のぞいてみようとあちらこちらにしゃがんでみたが,その奥は真暗な闇で何も私にはわからなかった。そこでしばらく立っていると,突如,私の心の中に二つの感情が湧きのぼってきた。恐怖と憧憬とが。すさまじい暗い洞窟にたいする恐怖,その奥になにか不思議なものが潜んではいはしまいか見たいものだとおもう憧憬である[松浦明平・訳]
未知のものに溢れる世界という洞窟を,我々もまたダ・ヴィンチのように覗きこんでみよう。
四元素(火・空気・水・土)のうち,何故ダ・ヴィンチはとりわけ水の研究に没頭したのか。何故,正多面体の研究に取り組んだのか。何故,大洪水に関わるテキスト・スケッチが多く残されているのか。
正二十面体といえば,プラトンの『ティマイオス』で水に割り振られた多面体であったが,関係があるのかないのか。
いろいろ疑問が湧いてきたが,これから勉強してから,何かわかったらまた書くことにしたい。
しかし一週間に4回もミュージアムに行くとは…。疲れたなあ。
-国立西洋美術館:キアロスクーロ
-神奈川県立歴史博物館:[[聖地への憧れ,東国の熊野信仰>http://www4.atwiki.jp/ikaikai/pages/64.html]]
-森アーツセンターギャラリー:レオナルド・ダ・ヴィンチ展
-日本大学文理学部図書館:ファウスト展,「魔術師」の変身
●ブックガイド
ダ・ヴィンチに関する本はたくさんあるので,読んだもの,読もうと思っているものから一部を
-『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』上・下(岩波文庫,松浦明平訳)
-ヨーゼフ・ガントナー『レオナルドの幻想 大洪水と世界の没落をめぐる』(美術出版社,藤田赤二・新井慎一訳)
-若桑みどり『イメージを読む 美術史入門』(ちくま学芸文庫)
[[menocchioの部屋>http://www4.atwiki.jp/ikaikai/pages/43.html]]に戻る
**レオナルド・ダ・ヴィンチ展
直筆ノート「レスター手稿」日本初公開
六本木ヒルズ:森アーツセンターギャラリー
もはや異界でなくて,ミュージアム・レポートになってるけど…。
ダ・ヴィンチ展に行ってきた。六本木ヒルズ初上陸!なんだか必要以上にビルが高くて,ややこしい構造。道に迷いつつ,おどおどしながら,ようやくのことチケットを買い,エレベーターで52階へ(一人で行ってたら辿りつけなかったね,たぶん)。
平日なのにお客の数がすごい(会社帰りの時間だからか)。『ダ・ヴィンチ・コード』(未読)もヒットしたし,今ダ・ヴィンチはブームなのだろうか。
今回は,ルネサンス最大の「普遍人」(uomo universale)と目されるレオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci,1452-1519)の自然学的考察の記録である「レスター手稿」が日本で初公開。これは1505,1507-8年に執筆された18枚/36紙葉/72ページの手稿で,一年に一度だけ一カ国に公開展示が許されているという。現在はビル・ゲイツの個人蔵。鏡文字(!)で書かれたイタリア語の手稿だが,ビル・ゲイツはこれを読むのだろうか…。
手稿の内容は,現代でいうところの天文学・水力学・地球物理学の分野にあたる。手稿を展示するだけではなかなか理解ができないので,解説ビデオや,手稿の挿図に基づいた模型や実験装置が数多く並ぶ。解説を読みながら,ダ・ヴィンチが行ったのと同じ実験を自分でやってみることができる。やはり自分で試したり,触ったりできるというのは面白くて,よく工夫された展示だった。
ダ・ヴィンチは自らをこう呼んだ。「経験の弟子レオナルド・ダ・ヴィンチ」。
スコラ的な思弁を軽蔑し,自らは実験と観察をくりかえしたダ・ヴィンチ。
水流や波紋の実験装置をいじりながら,その思考力に驚嘆する。「いろんなことを考えていたのね」「何百年も前に,こんなことを考えていたとは」…お客さんの誰かが呟いた。
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ただ一つ気になるのは,展示が手稿の考察を現代科学にばかり引きつけて考えているということ。たしかに経験主義者として観察を繰り返したダ・ヴィンチは,近代自然科学の始まりと言われるガリレイやデカルトの時代まであと少しのところにいる。しかしダ・ヴィンチ自身が基づいていた世界観は,古代から受け継がれてきたものだった。
たとえばダ・ヴィンチは地球を人間の身体のように,身体を地球のように考える。血管は河川であり,骨は岩石,洞窟は母親の胎内であり,呼吸は風,心臓は海…。
なぜこのように考えたのか。この地球と人間身体とのアナロジーは明らかに,マクロコスモス(大宇宙)とミクロコスモス(小宇宙)との照応という近代以前の西洋思想の隠れた底流をなしていた考え方に由来する。ダ・ヴィンチがこれを知っていたことは有名はウィトルウィウス人体比例図からも窺えるが,こうした言及は解説ではあまりなされない。
現代の自分たちの立場からだけ見て「ああ,昔の人もこの程度までは正しいことを考えていたんだな」と優越感に浸りながら言うとしたら,それはあまりにもお粗末なホイッグ史観といえないだろうか。
過去に生きた人々はもっと色んなことを考えていたし,現代に生きる自分は全てを知っているわけではない。世界はもっと複雑なのだ。ダ・ヴィンチ自身の暗示的な文章を引いておこう。
>…そしておのれの熱い欲望にひかされて巧妙な自然の創り出した種々さまざまな奇形な形態の数々を見んことをあこがれ,翳深い巌群の間をしばしめぐったのち,とある巨大な洞窟の入口にやってきた。暫くの間そのあることも知らず茫然とその前に立ちすくんでいたが,やがて背を弓なりに折って,左手を膝の上にしっかり立て,右手でひそめた眉に目陰をする。そして洞窟の奥に何かが見きわめられはしないが,のぞいてみようとあちらこちらにしゃがんでみたが,その奥は真暗な闇で何も私にはわからなかった。そこでしばらく立っていると,突如,私の心の中に二つの感情が湧きのぼってきた。恐怖と憧憬とが。すさまじい暗い洞窟にたいする恐怖,その奥になにか不思議なものが潜んではいはしまいか見たいものだとおもう憧憬である[松浦明平・訳]
未知のものに溢れる世界という洞窟を,我々もまたダ・ヴィンチのように覗きこんでみよう。
四元素(火・空気・水・土)のうち,何故ダ・ヴィンチはとりわけ水の研究に没頭したのか。何故,正多面体の研究に取り組んだのか。何故,大洪水に関わるテキスト・スケッチが多く残されているのか。
正二十面体といえば,プラトンの『ティマイオス』で水に割り振られた多面体であったが,関係があるのかないのか。
いろいろ疑問が湧いてきたが,これから勉強してから,何かわかったらまた書くことにしたい。
しかし一週間に4回もミュージアムに行くとは…。疲れたなあ。
-国立西洋美術館:キアロスクーロ
-神奈川県立歴史博物館:[[聖地への憧れ,東国の熊野信仰>http://www4.atwiki.jp/ikaikai/pages/64.html]]
-森アーツセンターギャラリー:レオナルド・ダ・ヴィンチ展
-日本大学文理学部図書館:ファウスト展,「魔術師」の変身
●ブックガイド
ダ・ヴィンチに関する本はたくさんあるので,読んだもの,読もうと思っているものから一部を
-『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』上・下(岩波文庫,松浦明平訳)
-ヨーゼフ・ガントナー『レオナルドの幻想 大洪水と世界の没落をめぐる』(美術出版社,藤田赤二・新井慎一訳)
-若桑みどり『イメージを読む 美術史入門』(ちくま学芸文庫)
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