もっぷ!2

もっぷ!(その2)


  • しゃしん!

その後、憂は泣きながら池沼が破壊したリビングを片付け、掃除した。
ガラスの破片が部屋中に散らばっていたし、唯が漏らしたウンチもあちこちに落ちていた。
なぜ私だけがこんな目に遭わなくてはいけないのか。私の人生はいったいなんなのだろうか。
瓦礫と悪臭に満ちた部屋で、憂は絶望に打ちひしがれた。

憂は、唯のウンチの下から、粉々になった写真立てを拾い上げた。
まだ不幸という言葉の意味すら知らなかったころ、家族で撮った最後の写真だ。
長い間、当たり前のように飾られ、目にしてきたが、改めて見ると幼いころの自分の笑顔に愕然となる。なぜこんなに笑えるのだろう。
両親は池沼の世話に疲れ、死んだ魚のような目をしている。2人は、この写真を撮った数週間後に自殺してしまった。
そして憂の隣には「おしめ」と書かれた汚いTシャツを着た、今と変わらない汚い池沼笑いを浮かべる唯の姿がある。

幼い自分の周りを取り巻く絶望。それに気が付かず、無邪気に笑っている。それを見ていると、涙が溢れてとまらなかった。

憂「う、うわあぁぁん!」

憂は写真を丸め、ウンチと一緒にビニール袋にすてると、子供のように泣きじゃくった。

  • もっぷ!

憂がリビングを片付け、掃除を終えると、もう夜になっていた。
片付けたと言っても、破壊された装飾品やテレビなどは撤去してしまったし、割れたガラス戸や破れたソファーなどは明日にならないと業者が来ないのでそのままだったが、半日であの惨状をここまで綺麗に回復させた憂の手腕には、素直に感嘆するしかない。

憂「ふうっ。やっと終わった!さて、遅くなったけど晩ご飯の支度をしなきゃ」

ぴんぽーん♪


その時、再び玄関のチャイムが鳴った。

憂「あれっ、誰だろう、こんな時間に」

憂が時計を見ると、もう9時になろうというところだった。

憂「はーい!あれっ、純ちゃん」
純『やっほー』

モニターの向こうで手を振るのは、中学の時からの親友である純だった。旅行に行っていたと聞いたが、帰ってきたようだ。

憂「まってて、すぐ行くねー」

憂は玄関へ向かう。

 ガチャ


憂「おかえり、純ちゃん!」
純「あれ、私が旅行に行ってたって知ってたの?」
憂「ううん、梓ちゃんに聞いたんだよ。せっかく遊びに行こうって電話したのに、純ちゃん出ないんだもん」
純「あはは、ごめんごめん。家族の付き合いってもんがあってさー…あっ!ご、ごめん…」

純は話の途中で言葉を濁してしまった。憂の家庭環境を考えずに無神経な発言をしてしまったと、言ってから激しく後悔する。

憂「え、そんな、べつにだいじょうぶだよー」

憂はそういって、困った顔をする。
どんなに惨めな人生でも、憂は他人に嫉妬したりはしない。それどころか、この親友の笑顔を見ていると自分まで幸せになれる気がする。だからむしろ、純が自分に気を遣ってしまうのは悲しいのだ。

純「うん…あ、これっ!おみやげ!」

「金満」と書かれた包み紙を憂に差し出す。

憂「わあっ、ありがとう!純ちゃん大好き!」
純「へへへ」

憂「立ち話もなんだから上がってよ!」
純「あー、ありがたいけど、これから梓の家にも行かなきゃいけないし」
憂「あれ?」
純「ん?」
憂「そっちの箱のほうが大きい…もしかして梓ちゃんへのおみやげじゃぁ…」
純「もー、梓には猫を預かってもらったから大きいおみやげなの!」
憂「えへへ-、冗談だよ」
純「プクー」

憂「あ、そうだ!この間純ちゃんに借りたCD返さなきゃ!」
純「おー、そうだった」
憂「取ってくるからちょっと待っててね!」

そう言って憂は階段を小走りに上がっていった。
その時である。

唯「ぅ~い(~q~)」
純「ぎゃっ」

振り向くと、背後に唯の巨体が迫っていた。
憂によって庭へ蹴り出された唯だったが、夜の寒さで目を覚ましたらしい。
お仕置きによって身体はあざだらけになり、「おじや」と書かれたいかにも池沼らしいTシャツはびりびりに破け、丸出しのオムツは茶色く変色しており、直視できないほどの醜悪な姿だ。
だが池沼とはいえ、親友の姉を邪険に扱うわけにもいかない。純は精一杯笑顔を取り繕って、唯に挨拶をした。

純「こ、こんばんは。唯先輩」
唯「あう?(゚q゚)」

唯が素っ頓狂な声を返す。

純「あ、あれ。覚えてないですね。憂の友達の鈴木です。ははっ…」
唯「むぅ~、むふぅ~(`q´)」
純「あ、あれ?」

唯は不気味な唸り声をあげながら、純をにらみつけていた。
純はわけがわからず、一歩後ずさる。
その瞬間

唯「もっぷさんでつ!!!!!(^q^)/」

唯が突然、奇声を発した。

純「え、ええ!?」

一瞬あっけにとられている間に、唯の巨体は純に向かって突進していった。
そして


純「きゃああ!痛い!痛い!やめてぇーー」

唯が純の髪をつかみ、振り回し始めた。
彼女のコンプレックスであり、しかしアイデンティティであるくせっ毛をモップだと思いこんでしまったのだ。
「もっぷをすれば褒められる」それだけが、今の唯を動かしていた。

唯「ゆいおりこー。もっぷさんじょーず!もっぷさんじょーず!キャキャキャ(^q^)」
 ゴンドゴンガシャン

髪を掴まれ抵抗できない純の頭は、唯によってあちこちに叩きつけられてゆく。

純「いやあぁ!お願い、やめてぇー!」

純が泣きながら訴えても、唯は耳を貸さない。池沼である唯が見ているのはあくまでモップであって、純本人を認識することができないのだ。
純は必死に唯から逃れようとする。

唯「あ~う!もっぷさんあばれるだめ~わるいこ!だめ~(`q´)」

唯は思うように振り回せないモップに対して、だんだん苛立ちをつのらせてきた。
そして


唯「むふぅ~~~~~~!!!!!!(`q´)」
 ブチブチブチブチブチブチ!!!
純「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
純「」
唯「あう!もっぷたんいいこになったでつ!いいこいいこ~キャキャキャ(^q^)」

純の髪の毛をむしり取った唯は、意気揚々とモップを始めるのだった。

 トタトタトタ

憂「純ちゃんおまたせ~…え?」

2階から降りてきた憂は、目の前に広がる光景に目を疑った。
昼間のリビングと同じように盛大に破壊された玄関で、唯がモップを振り回して暴れている。その足下に転がる親友の髪の毛は、半分ほど失われていた。
時間差で、唯が得意げに掴んでいるのは純の髪の毛であることに憂も気づいた。

憂「え…え?」

理解できなかった。自分が目を離した僅か数分の間に、何があったのか。なぜこんなことになっているのか。
池沼の思考を理解しようとしても無駄であろう。唯一わかることは、この池沼が親友をこんな目に遭わせ、家を破壊しているということだ。

唯「うーい!ゆいもっぷさんじょーず!おりこう!あいすよこすでつ!ふんす(^q^)」

唯の頭には、昼間に同じことをしてボコボコにされたことなどすっかり残っていなかった。だから得意のもっぷを披露すると、アイスがもらえると信じ込んでいる。

憂「な、な、な…」
唯「あう(゚q゚)?うーい、あいす」
憂「なにさらしとんじゃこの池沼うんたんがああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 メコッ

唯「あんぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ("q")」

憂は鬼になった。
ヤクザキックで唯の鼻をつぶし、馬乗りになり、無心で何度も拳を振り下ろす。頭だろうと腹だろうと、お構いなしだ。
潰れた鼻から噴水のように鼻血を撒き散らしながら、唯の意識は無くなっていった。

どれだけの時間が経っただろうか。自分の手も動かなくなるまで殴り続けた憂は、やっと我に返り、あたりを見渡した。
無残に破壊された玄関、髪を引きちぎられて倒れている親友、あたり一面に散らばる髪の毛。

憂「ああああああああ!うわーーーーーーーーーーーん!」

憂は再び、絶望の叫びをあげるのだった。


  • えぴろーぐ!

こんにちは!梓です。今日はあれからあったことをちょっぴりお話します!

あの夜、純がいつまで経っても来ないので電話すると、純のお母さんが出て、彼女が病院に運ばれたことを告げられました。
私はお母さんにあずにゃん2号を預け、慌てて病院へ向かいました。

梓「憂!?」

廊下で憂が泣きじゃくっていました。私はそこで最悪の展開を予想してしまいました。
そして病室に入ると、そこには頭に包帯を巻いた純がいました。目を覚まして上半身を起こしているので、命に関わるようなことではないとすぐわかりました。だけどいくら呼びかけても返事がありません。
その時、憂が私の後ろから泣きながら入ってきて、何が起こったかを話してくれました。池沼がすべて破壊してしまったことを。

愕然としている私に、最後に憂はこう言いました。

憂「やっぱり梓ちゃんの言うとおりだったんだね。やっと決心がついたよ。こんな、ことになるまで気がつかないなんて、わたしってほんとバカ」

純のお母さんに頼まれ、あずにゃん2号はもう一晩私が預かることになりました。

3日後、平沢家の豚小屋は完成し、唯先輩はそこに隔離されました。
だけど何度も脱走しようとするので、憂は唯先輩の手足を潰しました。歩くことができなくなった唯先輩は、脱走をあきらめたようです。
手も使えないので、動く時は転がるか、芋虫のような気持ちの悪い動きしかできなくなりましたが、元々怠惰だったので、そのうちほとんど動くことをやめました。

1週間ほど経って、平沢家の近所から豚の鳴き声がうるさいと苦情が出始めました。
憂に褒めてもらってアイスをもらおうと企み、夜通しうんたん♪をやっているそうです。池沼なので、憂が何度お仕置きをしても、数時間後にはそのことをすっかり忘れ、再びうんたん♪を始めるのです。
心配になって様子を見に行った私の前で、憂は唯先輩の喉を潰しました。
「ゴケッ("q")」っと気持ちの悪い声とともに大量の胃液がはき出され、豚小屋の床を汚しました。

同じ頃、髪を失った純は、出家して尼寺の門を叩きました。

私は受験勉強を憂と一緒にするため、週末はほとんど平沢家に入り浸っていました。
平沢家に行く前は、必ずコンビニでアイスの実を買い、家に入る前に豚小屋の唯先輩に一粒あげるのです。唯先輩は奇妙な動きでアイスの実にむしゃぶりつき、潰れた喉から「あ゛~あ゛(^q^)」と、かすかな唸り声を発して喜ぶのでした。

夏休み、帰省した律先輩が、間違ってドラムのスティックで唯先輩の目を潰してしまいました。

生物の機能をほとんど失った唯先輩。
一度、アイスの実を与えながら憂に聞いたことがあります。

梓「飛べない豚はただの豚だ、ってことわざがあるじゃん。でも、ただの豚にもきちんと人間の役に立っているんだよね。だから家畜として生きている。だけど、ここに居る豚はなんの役にも立たない。ただアイスの実をねだるだけ」
梓「…ねえ、どうして憂はこの豚を殺さないの?」

すると憂は顔を赤くしながらこう答えました。

憂「ごろごろしてるお姉ちゃんもかわいい~」

そんな憂でしたが、受験勉強が追い込みに入るにつれ、唯先輩の世話をするのを忘れるようになってきました。
でも隣の優しいとみおばあさんが毎日残飯をあげにきてくれるのと、週末はあいかわらず私がアイスの実を与えるので、食べ物の不自由はないようでした。

そして2月。
私と憂は、そろって澪先輩たちのいるN女子大を受験し、合格しました。

憂と2人で合格発表を見に行った日のことです。
朝、私が平沢家を訪ねると、豚小屋で唯先輩がぐったりしていました。世間では豚インフルエンザが流行っていたので、きっと感染したのでしょう。

大学の掲示板で名前を見つけた時、私と憂は手をとって喜びました。
そして憂がお祝いにご馳走を作るというので、夜も平沢家にお邪魔しました。
れしくてテンションの上がっていた私は、アイスの実ではなくピノを買い、唯先輩に与えました。
だけど唯先輩は相変わらずぐったりしていて、アイスどころではないようでした。せっかく奮発したのに。

その晩、私と憂はいろんな話をしました。
うれしいけど、もう私たちも卒業なんだな、とか。高校の思い出話とか。私たちが居なくなった後、菫と岡田さん2人で大丈夫なのかとか。大学の軽音部はどんなところなんだろうな、とか。
話しているうちに夜が更け、その晩は平沢家に泊まることになりました。

翌朝、唯先輩が息を引き取りました。
2月の寒空の中、唯先輩の脇には私が与えたピノが一粒、溶けずに残っていました。

唯先輩の死を、僅かながら関係のあった人達に伝えると、軽音部の先輩たちは笑ってくれました。
純は大爆笑していました。
とみおばあちゃんは「おや、唯ちゃん死んじゃったの!」といいながら微笑んでいました。

そして憂も、いままで誰にも見せたことのなかった笑顔を見せてくれました。
多くの人に迷惑をかけ、疎まれ、憎まれ、虐げられてきた唯先輩でしたが、死ぬことによってやっと皆を笑顔にすることができたのです。よかったね、唯先輩!

暖かい陽気に包まれた3月の終わり、私はむったんを背負い、憂を迎えに行きました。今日から、澪先輩達のいる大学の寮に入るのです。

梓「憂ー!はやく出ないと電車に間に合わないよー」
憂「ごめーん!戸締まり確認してたらおそくなっちゃった!」

玄関に鍵をかけ、憂は目を細めて生まれ育った家を見上げます。

ふと見ると、庭の片隅、唯先輩を埋めた場所には桜の花びらが降り注いでいました。まるで、憂の新しい一歩を祝福するかのように。

憂「お姉ちゃん、バイバイ」

そうつぶやくと、憂は私の手を取り、歩きだしました。

  -おわり-


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    (2011.07.03)


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最終更新:2017年02月17日 19:12