「バクバク!!!!!」
「仮屋。もう少し落ち着いて食べれないのか?何時も言っていることだが」
「バクベリガブボリ(だって、おいしいんだも~ん)」
「・・・済まないな」
「フッ、別にいいさ。それだけおいしそうに食されれば、料理人側は作った甲斐があるんじゃないか?」
「そうですね。私が作り手なら、仮屋さんのように食べて貰ったらすごく嬉しいと思います」
「へぇ、リンリンって料理は得意なのか?」
「・・・余り」
「だったら、練習しないとな。・・・な?」
「ッッ!!・・・はい」
「そうだ。記立はすごく料理を作るのがうまいぞ?今度教えて貰ったらどうだ?」
「い、いいんですか!?わ、わかりました!!今度、厳原先輩にお願いしてみます!!」
このテーブルに座っているのは、仮屋・不動・破輩・一厘の4名。テーブルには、『恵みの大地』・『
百来軒』・『根焼』の料理が所狭しと並んでいる。
これ等の殆どを頼んだのは、もちろん仮屋である。
「お待たせしました!大地さんお手製の特性メロンパンですよぉ!!それと、オレンジジュースを頼まれた方はどなたでしょうか!?」
「はい・・・私です」
「あっ、こちらの方・・・・・・(ギロッ!!)」
「ビクッ!!ど、どうされたんですか?」
「そ、そのデカパイ・・・。制服越しでも大きいと思っていたけど・・・これ程なんて・・・!!」
「あっ!///」
「・・・オレンジジュースです。・・・(チラッ)・・・ふぅ」
「・・・どうして、あなた様は私の胸を見て顔を綻ばせておられるのですか?」
「いや・・・。特に他意はありませんことよ。ホホホ。はい、これはサービスの飴玉です。どうぞ」
「遠藤さん。このメロンパン、すっごくおいしいですね。私、『恵みの大地』に行ったことが無かったんですけど・・・これならお店の方にも今度寄ってみようかな?」
「でしたら、遠藤が案内します!!きっと、春咲様が舌鼓を打つようなおいしい物が一杯ありますよ!!」
このテーブルに居るのは、鬼ヶ原・真珠院・春咲・遠藤の4名。
そこに注文の品を運んできた『恵みの大地』のアルバイター石墨が、鬼ヶ原の胸を見て凹み、真珠院の胸を見て立ち直る。
彼女は、自分より年下の胸の大きさに敏感なのである。
「やっぱり、『百来軒』のラーメンはうまいでやんすね!!」
「そうだね。というか、前に食ったのより更においしくなってる気がするな。ゆかりちゃんは、どう思う?」
「そうですね。ちょっと味を濃くしたのかな?私としては、こっちの方がいいかも。こういう暑い日に食べるには丁度いいわ」
「うむ!!確かに、
十二人委員会が1人の葉原嬢が言うことは一味違うな!!この美味なラーメンのように!!」
「さすがは、師匠!!言葉の掛け方も見事でござるな!!」
「俺にはよくわかんないけど、確かにこのラーメンはうめぇ。『百来軒』か・・・。今度からマークしておこうかな?」
「・・・誰がそんなわけのわからないグループに入ったなんて言ったのかしら?あん?もういっぺん言ってみろ・・・!?」
「「(ゆかりちゃんが怒ってる(でやんす)!!)」」
「葉原嬢の心の声が、俺の心に訴え掛けて来たのだ!!ハーハッハッハ!!!」
「「(こっちもこっちで張り合ってる(でやんす)!!?)」」
この賑やかなテーブルで食事を取っているのは、梯・武佐・葉原に何故か居る啄・仲場・ゲコ太の6名。
十二人委員会に勝手に入れられている葉原が、何時もの敬語口調を取っ払って本気で怒りつつあるのを全く無視して啄が煽りまくるので、梯と武佐はハラハラしている。
「プハッ!はぁ、やっぱりおいしいな。ここのラーメンは。何だか、力が湧いてくるって感じかな?」
「おぅ、その意気だ。何時までもヘナってんじゃ無ぇよ!!」
「荒我に言われなくてもわかってますーだ!!」
「ハン、それがさっきまでグッタリしていた奴が吐く台詞かよ?」
「何よぉ~」
「緋花と荒我・・・か。本当に相性抜群だな、こいつ等」
「姉であるしゅかんにとっては、少し寂しくもある?妹に頼れる人ができたんだし」
「・・・ふん。少しは楽ができるって思っただけよ」
「フフッ。素直じゃないね、しゅかんは」
ここにはテーブルは無く、椅子だけが並べられている。その代わり、影の中にスッポリ納まるので暑さは大分マシである。
焔火・荒我・朱花・加賀美の4名は手に椀を持ち、汗をかきながら『百来軒』のラーメンを食べている。どうやら、焔火も復調したようだ。
「・・・はい」
「・・・何なの、これ?全部コゲてるんだけど?」
「バカなサニーのために、じっくり焼いてあげただけだよ。わたしってやさしー」
「ムキー!!!ムキー!!!」
「・・・(ピリッ!!)」
「苧環・・・。イタズラに本気で怒っちゃ駄目だよ。苧環自身が言ってたじゃない。『成長するチャンス』だって」
「わ、わかってるわよ!にしても・・・またどっかに行っちゃったわね、界刺さん」
「バカ界刺は、神出鬼没だからね。何時消えて、何時現れるかわからないんだよな。こっちにしたら、堪ったもんじゃ無いよ」
「流麗の言う通りね。界刺さんにも困ったものだわ。私が『
シンボル』に入りたての頃、界刺さんが冗談半分で自分が殺されたことにした挙句に雲隠れしたことがあって、
殺した相手を見つけ出した上でこの手で殺そうと血眼になっている私と、それを止めようとした不動先輩と仮屋先輩との間で殺し合いにまで発展したこともあるし」
「(重い・・・重いよ、水楯さん)」
「(・・・涙簾さんを怒らせないようにしよう、うん)」
“シワジ~ワ”の前にあるテーブルに居るのは、月ノ宮・形製・苧環・水楯の4名。抵部の嫌がらせに怒り心頭の月ノ宮に釣られて機嫌が悪くなる苧環。
そんな彼女を形製が宥め、水楯が場の雰囲気を凍えさせる。そして・・・それは、何の前触れも無く現れた。
ゾクッ!!!!!
それは、“王者”。頂点に君臨する絶対的強者。誰もが見ているだけしかできない、暴君が如き存在。
その存在から発せられる気配に、この場に居る全ての者が戦慄する。
「・・・『恵みの大地』。・・・『百来軒』。・・・『根焼』。・・・美味しそう」
その者は、少女。幼児体型で、水着を着ているにも関わらず女性的な色気が全く感じられない。その代わりに感じるのは・・・凄まじい威圧感。
「あ、あいつは・・・!!!」
不動だけが彼女に対して何とか声を振り絞ることができた。そう、彼女は以前『根焼』にて見掛けた人間。
“ステーキ3キロ10分以内に完食したらボーナスGET!!大会”にて、あの仮屋より早く完食した恐るべきフードファイター。
「・・・久し振り」
少女―“闘食の王者(キングフーディスト)”
羽千刃最乃―が仮屋の前に立つ。その瞳には、好敵手を見付けた喜色がありありと浮かんでいた。
「全~く、忙し~い時に何の用で~すか、カイ~ジ?」
ここは、『マリンウォール』のある一角。人目や監視カメラから逃れた極小のスペースに居るのは、“変人”
界刺得世と“変人店長”
奇矯杏喜。
「・・・ここは、監視カメラとかからも死角になっている。『光学装飾』で偽装や監視もしているし。だから・・・大丈夫だよ、清廉止水?」
清廉止水。その名前で呼ばれた奇矯は笑みを浮かべ、装着しているサングラスを外す。今まで隠されていた瞳が露になる。清廉そのものの瞳が。
「・・・やれやれ。君も人使いが荒いね。折角の稼ぎ時に・・・何の用だい?昨日君から依頼された盗聴器や小型カメラのデータは、ちゃんと複製して保存してあるけど?」
口調が変わる。雰囲気が一変する。そう、彼の名は清廉止水。奇矯杏喜という名は、所謂偽名である。何故彼が偽名を用いているかについては、今は語らないでおこう。
「その件じゃ無いよ。そういや、あれから成瀬台(ウチ)の先輩が慌てて俺の部屋に来たぜ?俺が清廉さんの所から帰って30分後くらいかな?タイミングはギリギリだったね」
「君もあくどいことをする。もう、データは抽出済みの機材を素知らぬ顔をして返したんだろ?」
「まぁね。どうせ、すぐにデータがあるかどうかを調べただろうけど。んふっ。でも、あれからこっちには何のリアクションも無い。
もう諦めたのか、それとも『光学装飾』のサーチ能力を警戒して動けないのか・・・。まぁ、何でもいいや。尻尾を出すような馬鹿な真似を俺はしねぇ」
昨日仕掛けられた盗聴器と小型カメラを、界刺はすぐさま『根焼』の店長である清廉に持ち込んだ。
清廉は、学園都市において最高レベルの“元”科学者であり、彼の技術なら機材の中にあるデータの抽出等造作も無いことであった。
界刺の依頼を受けて仕事を抜け出し、短時間の間にデータ抽出を終えた清廉に礼を言い、界刺は急いで寮に戻った。
約30分後、成瀬台支部のリーダーである椎倉が焦りに焦った表情で界刺宅を訪れた。
肝心要の盗聴器と小型カメラの存在を失念していたことに、
花盛学園の屋上で固地に指摘されるまで気付かなかったからである。
界刺は、素知らぬ顔で椎倉に盗聴器等を渡した。そのアッサリ加減に、椎倉は顔を蒼白にさせていた。失念そのものが、界刺による仕掛けだったことに気付いたのだろう。
この時点で、『光学装飾』によって近くに固地と閨秀の姿を確認していた界刺は心中でガッツポーズしていた。そして、椎倉は何も言わずに部屋を去って行ったのだった。
「それじゃあ、何の用かな?」
「実は・・・この小型アンテナについてのことなんだけど」
そう言って界刺が清廉に見せたのは、複数の小型アンテナ。
「これは?」
「薬物中毒にした人間の頭に刺した後に、特殊な電波を受信するアンテナだ。これで、送信側の思い通りに人間を操ることができるって寸法だよ」
「・・・へぇ。そんな『必要の無い犠牲』を生み出すような馬鹿な真似をしている人間が居るのか・・・」
清廉の声色が微かに変わる。含まれる色は・・・怒り。自身が愛する科学の結晶に、そんな下らない真似をさせている者達に対する確かな怒り。
「この受信機であるアンテナから受信する電波に関するデータを抽出・分析して、ジャミング用の電波波長の範囲を割り出して欲しいんだ」
「・・・操作用の電波が1種類とは限らないよ?こういう場合は、アンテナごとに複数の波長を用意している可能性が高い。できる技術があればの話だけど」
「だから、こうやって数十個ものアンテナを持って来たんだよ。アンテナごとに受信する電波が違っても、人間を操作する以上波長や振幅の範囲は自ずと限られて来る。
だったら、分析するためのサンプル数を増やせばいい。そして、分析する中でおおよその範囲を割り出し、
この<ダークナイト>にジャミング用の電波を予め実装して欲しいんだ。こんなことができるのは、アンタしかいない」
「・・・・・・」
界刺が持っている小型アンテナ―“手駒達”を操作する小型アンテナ―は、かつて自身が単独で『
ブラックウィザード』の“手駒達”と偶発的な戦闘になった際に、
念のために奪い、保管していたもの。電波によって小型アンテナの居場所が割り出されないように、アンテナ部分は破壊してある。だが、データ部分は傷付けていない。
これは、界刺だけの物では無い。“手駒達”との戦闘経験がある不動と仮屋に、予め界刺が依頼していた物。
『もし、“手駒達”と戦闘になった時はアンテナを奪って俺にくれ。但し、受信部分は破壊した上で』
そう言って、彼等から譲り受けた物。何時か使える日が来るかもしれない。そう考えて。
「最近の物は殆ど無ぇけど、波長とかはそんなに変化していない筈だ。きっと、こいつ等からある程度の範囲は割り出せると思う」
「・・・今の『送受棒』の機能じゃ不満なのかい?」
「いや、そうじゃない。一々傍受してからジャミングしてると、それが命のやり取りをしている場面だと、文字通りの命取りになる可能性がある。
事前に対策可能ならやっておく。それだけの話さ」
「ふむ・・・。一理あるね。君のそういう考え方というか用心深さは、僕も気に入っている。それでいて、突拍子も無いことも思い付くんだから恐れ入る」
「その言葉、そっくりそのままお返しするぜ?アンタだって、似たようなモンだろ?詳しくは知らねぇし、今ン所は知るつもりも無いけど」
「それが、賢明だ。ところで・・・その数少ない『最近の物』はどうやって手に入れたんだい?」
「・・・・・・」
清廉の瞳が界刺を映す。汚れの無い清廉そのものの瞳が、汚れ(かいじ)の存在を押し潰すように圧を強める。
「もし、その『最近の物』が昨日僕の所へ来る前に手に入っていれば、君なら盗聴器とかと一緒に持って来ただろう?なのに、今この時に僕へ渡そうとする。
ということは、それを手に入れたのは昨日『根焼』から出て行った後・・・違うかい?君のことだ。狙って手に入れた物なんだろう。さぁ、詳しく聞かせて貰おうか?」
「・・・全く、耳聡いねぇ。害は無いですよー的な雰囲気を醸し出してる癖に、聞く所はちゃんと聞いているし。アンタも相当なタマだ」
「褒め言葉として受け取っておこう。さて、聞こうか?」
「え~と・・・」
清廉が指摘した『最近の物』。それは、今日手に入れた物である。それは、焔火達を遠くから監視していた“手駒達”から奪い取った物である。
昨日、武佐の口から遊びに行く場所として『マリンウォール』の名前が出た瞬間から、界刺は考え続けていた。『ブラックウィザード』に出方について。
「もし、俺が『ブラックウィザード』の立場なら、休暇中の風紀委員や警備員の動きとかも気にするね。何せ、休暇明けからは単独行動が始まるから。
休暇中に、支部員が何人か集まって単独行動の方針とかを決めるかもしれない。だったら、休暇中に誰と誰とが接触していたくらいは最低限把握したいモンさ。
そして、監視任務に最適な操り人形が居る。薬とかで記憶や人格をぶっ壊した上に、捕まったとしても痛手にはならない“手駒達”(にんぎょう)がな」
椎倉に今日の休暇を進言した時から、可能性の1つとして思い浮かんでいたこと。
それは、『休暇中に、風紀委員や警備員の動きを「ブラックウィザード」が監視するかもしれない』ということ。
何時もの厳戒態勢では無い、休暇という気が緩む状況下なら監視の目を向けて来る可能性はある。そう睨んだ界刺は、わざと荒我達を焚き付けた。
別に、荒我と焔火の仲を応援するためでは無い。自分の目的に利用できると踏んだから、そうしたまで。
『マリンウォール』に赴いたのは、自分に告白してくれた少女達のため。その“一面”は確かにある。だが、それだけでは無い“一面”もある。
ちなみに、今日ここに『根焼』の出張店を出すと昨日の時点で清廉から耳にした時点で、更なる“一面”も付け加えられている。
「『マリンウォール』に来るってことがわかっていれば、後は『光学装飾』と『送受棒』を展開して待ち構えているだけでいい。
警備員とかが使用している衛星監視網だって、光学監視を『光学装飾』で、レーダー監視を『送受棒』でノイズレベルの上昇に導けば俺の姿は映らない。
つっても、日中は光学監視が主だろうけど。レーダー監視は、光学監視に比べればどうしても解像度が落ちるし。今日みたいな快晴の時は、尚更光学監視を展開してるだろうさ」
「君の『光学装飾』は大したものだね。君なら、『ひこぼしⅡ号』に積まれている“白色光波”を用いた大型レーザーさえ防いでしまえるのかもしれないね。
もしかしたら、そっくりそのまま反射してお返しすることもできたりして・・・」
「無茶言うなよ。幾ら俺の『光学装飾』が“白色光波”を操作できるっつっても、あの衛星に積まれてる光学爆撃兵器を防ぎ切れるとは思えねぇ。
俺の中じゃあ、“白色光波”を操るのが一番面倒だし。まぁ、ここ2ヶ月は“白色光波”の訓練を重要項目としてたけど。
制御範囲とかの拡大・移動には“白色光波”の鍛錬が欠かせねぇし。今の実力なら、もし防げたとしても少しだけ逸らすので精一杯だね。
そんでもって、発生した衝撃波の余波で吹っ飛ばされるのがオチさ。・・・いずれは、“白色光波”も完全統御して“真の切り札”にしてみせるけど(ボソッ)」
「へぇ・・・防げる可能性はあるんだね。・・・『樹脂爪』を使えば何とかなるかもしれないよ?フフッ」
「・・・俺を実験体にでもしたいのか?」
「『必要な犠牲』なら喜んで」
「・・・まぁ、いいや。警戒している風紀委員も居るだろうから、リスクを負って連中が監視に来る可能性はそんなに高く無かったし、外れても別にいいやとは思っていたけど。
それに、荒我達が朝から来るって保証は無かったし。まぁ、その場合は『マリンウォール』から怪しい奴がいないか確認するつもりだったけどね。
でも、やっぱり連中にとっては気になるモンしい。こりゃ、他の風紀委員や警備員にも張り付いているかもね。んふっ!」
だから、早朝から自身を不可視状態+『送受棒』展開状態にして『マリンウォール』周辺に張り付いた(『送受棒』展開は保険である)。
この辺りの地理を観測し、自分ならどの位置から監視するとか色々考えながら待ち構えた。そして、午前9時半前に焔火達女性陣の姿を捉えたのだ。
「・・・どうやって、その操り人形達を倒したんだい?」
「『閃熱銃』で脚を焼き貫いた。監視するために人目の付かない所に居た所を狙ったし、“手駒達”は薬で痛覚を麻痺させられているからね。
大声を出すこと無く、その場にぶっ倒れたよ。他にも、目潰しのために可視光線をちょちょいと。
そいつ等の能力がわからない以上、動きを封じるのとこちらの挙動を察知されないのを両立させるには、遠距離からの狙撃が一番だよ」
「・・・どうやら乱暴に扱っているようだね。<ダークナイト>(かのじょ)は気品溢れる娘なんだから、もう少し労わってあげた方がいいよ?」
その数分後に“手駒達”を捉えた。『光学装飾』によって離れた位置からも小型アンテナの所在を認識できる界刺は、すぐさま行動を開始した。行動とは、即ち『閃熱銃』の使用である。
すぐに最適な照射ポイントに移動し、“手駒達”が人気の少ない道(工事現場の傍であったことから、道の上空はビニールで覆われていた)を歩いている瞬間に『閃熱銃』を解き放った。
監視していた“手駒達”は3人。ジャミング中だったので、<ダークナイト>は連結状態にあった。なので、1人ずつ『閃熱銃』を見舞った。
最初に『閃熱銃』を行使した者以外の“手駒達”には、可視光線による目潰しを喰らわした。もちろん、すぐ後に『閃熱銃』を見舞ったが。
脚を貫かれた“手駒達”は、その場で動けなくなった。如何に痛覚が無かろうと、脚の骨を『閃熱銃』で焼き貫かれたのである。
念のため“手駒達”の周囲を不可視状態にし、近付きながら『送受棒』によりジャミングを行い、“手駒達”及び 無線通信を行っている小型カメラ等を完全無力化した。
この中に透視系や念話系が居たとしても、電波による操作が無ければ唯の薬物中毒者である。
まともに能力を発動できるわけも無いし、そもそも小型アンテナを無力化させられた時点で“手駒達”は気絶するのである。
その後、“手駒達”の頭に刺さっている小型アンテナを奪い取った。小型カメラ等も、『閃光剣』によって全て潰した。
どうせ、カメラ等を調べても『ブラックウィザード』の手掛かりになるようなものは無い。そんな愚行を連中が犯すわけが無い。
『送受棒』により逆算した発信源は1km程離れており、しかも急速に離れていった。おそらく、車等に装置を積んでいるのだろう。
『送受棒』の探知範囲にも限界がある。故に、今回は追跡を諦めた・・・というか最初からするつもりは無かった。『ブラックウィザード』の追跡は、自分の仕事では無い。
一方、一厘や急遽参加することになった159支部リーダーの破輩についても同様のサーチを掛けたが、幸か不幸か彼女達の周囲には“手駒達”は居なかった。
その分時間をロスしたので、界刺は最後に顔を出す羽目になったのだ。
「その“手駒達”はどうしたんだい?」
「そんなもん、放っておいたさ。あんな連中がどうなろうが知ったこっちゃ無い。まぁ、警備員の手によってどっかの病院にでも送られたみたいだけど。
幾ら人目に付かないからって、誰も通らないってわけじゃ無いし。俺が『マリンウォール』に入った時点で路地裏の不可視状態は解いたしね。
これで、少なくとも今日は『マリンウォール』周辺に『ブラックウィザード』の連中は近付けない。警備員がウロついているし。俺も、安心して涼めるってモンだよ。
もし、風紀委員や警備員に疑われてもシラを切れるし。そのための取引だし。いや~、事前準備ってのは大事だね~」
「・・・君は、間違っても“ヒーロー”と呼ばれる人間じゃ無いねぇ・・・」
「別にそれでいいさ。なるつもりも無いし。俺は俺だし。リンリンが言う所の『界刺さん』だし。んふっ」
清廉の問いに平然と答える界刺。界刺にしろ清廉にしろ、何処か一般人の感覚とはかけ離れた人種であることには違いない。
「君は、風紀委員や警備員に協力して、その『ブラックウィザード』を倒すつもりなのかい?」
清廉は、最後の問いを発する。わかり切っている返事をそれでも待つのは、もう一度この碧髪の男の在り方を見定めるためか。
そして、碧髪の男は寸毫の躊躇も無く答える。わかり切っている答えを。
「んふっ。何で俺がそんなことをしなきゃなんないの?あんなモン、風紀委員や警備員の仕事さ。俺がやることじゃ無い。
俺は、あくまで“私闘”の邪魔になる可能性がある“手駒達”を潰せる手段を確保しているだけだ。これは、あくまで“私闘”における事前準備の一環でしか無い。
だから、風紀委員を利用した。利用できる不良共を焚き付けた。取引もした。全ては俺のため、全ては俺の自業自得。・・・単純だろ?
まぁ、今後も俺の目的次第で連中を助けることも敵に回すこともあるだろうけど」
「・・・あぁ。単純明快だ。だが、その裏は実に複雑怪奇。心意を表に出すことはまず無いし。
君の言ってることが嘘か真か、それすらも容易に量らせない。全く、君は本当に興味深い人間だよ・・・界刺得世君」
そう言って、清廉は界刺の手に乗っていた小型アンテナを掴み取る。そして、外していたサングラスを顔に持って行く。
「いいだろう。そんな君の依頼に応えよう。君が、僕の産み出した<ダークナイト>(かのじょ)と共に、この科学の世界で一体何を見せてくれるのか・・・楽しみにしているよ?」
「・・・ありがとう、清廉止水」
「・・・そ~れでは、さっさと“ジワジ~ワ”に戻~りましょう!!我がベス~トフレンド・・・カイ~ジ!!」
「あぁ!!」
サングラスを掛け、清廉止水は“変人店長” 奇矯杏喜となる。そして、2人の“変人”は足早に駆けて行った。
continue…?
最終更新:2012年08月14日 19:48