オズに纏わりつく灰色の鱗の乱流が収まったかと思えば。
発生した衝撃波に一瞬目をくらませてしまい、それを見失った。

「アイツ、何処に……?」


ぴちゃり、と鬼島の頬に何かが付着した。
鬼島は頬をぬぐい、正体を確かめる。真っ赤な、血液だった。
反射的に、辺りを見回す。床に溜まった血の池に、波紋が作られているのが解った。
次に粘着質な音を響かせて、何かが落ちてきた。

平べったく、白い何かが一列にU字型に並んでいる。Uの中にあるのは、鮮やかなピンク色をした柔らかそうな物体だった。
一瞬にして、鬼島は二つの事実に気付いた。

一つ目は、落ちてきたソレが人間の下顎だと言うこと。
二つ目は、人間の下顎が真上から降ってきたと言う事だ。

すかさず、鬼島や構成員はすぐに上を向く。



















この魔術結社は廃墟を基に改造されている。そのため案外ボロボロな部分もあるのだった。
例えば、壁に空いた大穴。
例えば、ズタボロになった床。
例えば、窓ガラスが破れたままの、天井の大きな円形のガラス。

その窓格子に大きな何かがぶら下がっていた。
ソレは巨大な尾を窓格子に巻き付けていた。
蝙蝠の様に翼を畳んでいるソレは血を滴らせていた。
血だけではなく、肉片、骨、千切られた手足、破壊された霊装が落ちてくる。

そして、ソレは―――――――『オズウェル=ホーストン』は翼を広げた。

灰色の鱗に覆われた固い表皮。ティラノサウルスの様な顔。頭に生えた羊の様な角。筋骨隆々として、鋭い爪の生えた手には血液が大量に付着していた。

その姿は、竜。
神話や伝説に語られる怪物、『ドラゴン』の姿をしていた。
手中にはイルミナティの構成員の一人がいた。
下顎をもぎ取られ、手足は千切られた魔術師はショックで白目をむき、口からコヒュウ、コヒュウと空気が漏れるかのような喘ぎ声と血の混じった泡を吐いていた。
















「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

そして、ギザギザの牙を剥き出しにしながら吼えた。手中の魔術師はバラバラに引き裂いて手放した。
散らばり振りかかる臓物を気にしている者はいなかった。
響き渡る咆哮にある者は括目し、ある者は怯え、ある者は悲鳴を上げるも咆哮に掻き消され。
鬼島甲兵は、あの日家族を殺した『鬼』の姿を目の前の竜の姿の狂戦士に投影させていた。

これがオズウェルの扱う術式。『幻獣の狂戦士(ファンタジア=ベルセルク)』の切り札、フォルム≪ドラゴン≫。
その上、理性と引き換えに体全てに対応させることで桁違いのレベルになった。

今まさにオズウェルは狂戦士として覚醒した。





翼を広げたまま窓格子から尾を離す。
かと思えば。
轟!!という衝撃波を撒き散らしながら、魔術師の一人を掴み引きちぎった。下半身だけになった魔術師はぴくぴくと筋収縮による痙攣をさせながら倒れる。
まるで倒したコップの中の飲み物が零れるかのようだった。しかし零れたのは臓物と血液のジュース。本来ならば零れてはならないものだ。

狂戦士は引きちぎって上半身のみとなった魔術師の頭を掴みながら、鬼島達の上空を悠々と飛行している。
距離が離れていたとしても解る。
鬼島や手下たちには解る。

狂戦士は、人間に恐怖を与える存在としては十分すぎる化け物だと。

「“じゅ、術者を担ぐ悪魔達よ!!”」

そして、恐怖故に一人の魔術師が詠唱を始める。

撃墜術式。
その名の通り、魔術的な力で飛行しているものを撃墜する術式。
十二使徒の一人である聖ペテロが「『悪魔の力を借りて空を飛ぶ魔術師』シモン=マグスを、主に祈るだけで撃墜した」という伝承に基づいている。
伝承では墜落した魔術師シモンはそのまま死亡したことから、この術式の本質は『高度を0メートルにする』事ではなく、『本来の墜落ダメージ以上の何か』を付与することとされる。

しかし、詠唱を唱えきる前に狂戦士は着地。しかも着地地点は当の詠唱を施していた魔術師の上だ。
痛みを感じないで即死だったのがせめてもの情けか、或いは救いか。
スクラップになった魔術師の上で再び咆哮を上げながら、右手に掴んだ魔術師の上半身を布きれか何かの様に振り回す。巻き込まれたのは二人の魔術師。まるで自動車事故にでも巻き込まれたかのように、大きく跳ね飛ばされる。






「わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

後ろから自棄になって、魔術師は槍を突き刺した。
しかし、槍は貫通するどころか粘土細工か何かの様に折れ曲がってしまった。
鱗の鎧はたとえマシンガンの掃射ですら意に介すことは無いだろう。

「な、槍がふぉっ!!」

目の前で己の無力さを見せつけられた魔術師に大木の様に太く鞭のようにしなやかな尾が巻き付けられた。

「あ、がぁああ、あああああ、ああああああああああああああああああああああああああああ!!?」

もがきながら、必死の抵抗を続ける。しかしそれも虚しく尾はまるで大蛇の様に絡みついていく。

「あ、は…。」

そして、全身に巡り縛り付けた尾は魔術師を絶望させ、生への強欲を手放させるのに十分だった。
直後、ボキバキャゴキメギメキャ!!と、硬質的でありながら生々しい破砕音がした。
その後、肉塊と化した魔術師はまるで野球ボールの様に尾で投擲された。

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「だ、ダメだ俺たちじゃかなわねぇ!!」
「逃げろ!!出ないと俺たちも、俺たちもぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

残った4人の魔術師は一斉に逃げ出していた。
撃墜術式の詠唱を施そうとしていた魔術師が殺された時点で、逃亡を決め込んでいた。
抜けきってしまった腰を必死に動かし、生への渇望を求めて撤退しようと出口へ向かっていた。
夜だというのに、出口には光が漏れている幻想さえ湧いてきた。









しかし、幻想は灰色に遮られた。
対峙しているのは竜の狂戦士。
目は真っ赤に熱せられた溶岩の様に輝いていた。それは死のイメージを抱かせる、血液の赤でもあった。

「ひ……!!」

ただ一言、絶望を漏らした男は後ろにいる仲間二人を見るために振り返る。



誰もいなかった。
ただ、そこにあったのは赤と白と、ピンク色がそれぞれ3つ。
その正体は、血液と骨と、内臓の色だった。
仲間は目の前の狂戦士によって肉塊になってしまった。それすら認識する余裕も無かった。

「ひぃいいいいい。お願い、だ。お願いします!!助けて。助けて下さぁあああいい!!」

男は必死に命乞いをする。
まだ、死にたくない。生きたいと強く願い、神に祈るかのように目の前の狂戦士に縋る。

もし、今の狂戦士にほんの少しでも理性があればためらいも見せたかもしれない。
しかし、狂戦士には理性が、人間性が無い。
生きているならば手あたり次第襲い掛かる獣だ。

そして無慈悲にも、狂戦士は男の薄っぺらい胴体を懇願と共にその爪の生えた巨腕で貫いた。

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

そして再び雄叫びを上げる。
血と戦で満たされた竜は歓喜の咆哮を月下に響かせた。


◇      ◇      ◇      ◇      ◇


「“殺シタ!!アァ、殺シタゾ!!”」

竜の鎧の中で、勝ち鬨が響き渡る。
狂戦士の革の中で、咆哮を上げる。
ワニやトカゲ、蝙蝠の皮を合成して作り上げた霊装の中でオズウェルは歓喜する。

「“殺シタ!!十人殺シタ!!グチャグチャニシテ殺シテ!!振リ回シテ、引キチギッテ!!”」

歓喜のあまり、叫び声をあげる。叫び声が咆哮になって、建物内を振るわせているのが、狂ったオズウェルでもハッキリと感じ取れていた
月明かりに照らされた自分の心はいつもの自分では無く完全に狂いきった獣の物になり果てていた。

咆哮を終え、オズウェルはまだ血を流していない二人の人間を見つけた。
一人は日本刀を持った、呆然としている金髪の東洋人。
もう一人は金髪の女。しかし横たわっていて生きているのか死んでいるのかわからない。

「“殺セ!!殺シタイ!!殺サセロ!!………………………………………………………………アノ剣士ヲ、殺ス!!”」

頭の中に浮かんだ血文字はただオズウェルに殺害命令を下す。
標的を定めたオズウェルは、再び吼えた。


◇      ◇      ◇      ◇      ◇


「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

鬼島を見据えた後、狂戦士は咆哮を上げた。
言葉にしなくても分かる。アレは完全に鬼島を狙っている。

「くく、カカカ。」

鬼島もつられて微かに嗤う。
凄惨な光景を見せつけられておかしくなったのではない、ただ自分の中に使命が芽生えたのを自覚したのだ。

“この人外(ばけもの)を殺さなければ”

「クカカカカカカカカカカカカカカカカカ!!そうこなくちゃなぁ化け物!!それでこそ俺が殺すべき化け物だ!!
ここで殺さないと、お前はあと何人殺すんだ、ええ!!?
だから待ってろ。俺が今この手で掻っ捌いて、翼もぎ取って、尾を斬り落として、

ぐちゃぐちゃにして斬り殺してやるよ化け物ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

竜と鬼。
二人の狂戦士がぶつかり合う。
片方は狂気と虐殺の権化たる竜。片方は人外殺しに特化した鬼。
爪と刀が、交差した。






最初はお互いが傷を負う一撃だった。
『童子切安綱』の一閃は竜の角を豆腐の様に切り崩した。
狂戦士の拳の一撃は掠めるだけで鬼島の脇腹に衝撃が走った。

次は、お互いが負傷を避けることに成功した。
鬼島が『童子切安綱』を、下から上へと振り上げる。
狂戦士は飛びあがり、上から鬼島を踏みつけようとするが躱されてしまい、コンクリートを大きく陥没させただけだった。

続けて鬼島は不安定な足場であるにもかかわらず問題なく直進。強力な突きを放つ。
狂戦士が刀身を掴みとることで防いだ。
真剣白羽取りとは程遠い、刀身を素手でつかむという危険極まりない物だ。
しかし。もし、ほんの数秒でも遅かったならば、戦いは鬼島の勝利となっていた。

そして刀身を放すと、すかさず狂戦士は尾を振りかざす。
人を真っ二つに、無理やりな力で吹き飛ばすそれを鬼島は刀で防ぎ、大きく飛ぶことで威力を殺した。
とはいえ、その打撃は相当重く骨まで響く威力。鬼島は大きく吹き飛ばされ、結果として二人の距離は遠い物となった。

「チッ……なんて馬鹿力だ。ふざけているにも程がある。」

思わず鬼島は悪態をつきながら傷の様子を見る。
脇腹を掠り。全身を衝撃が襲った。
ただそれだけだが、まともに食らえばその時点でゲームオーバー。構成員の様に挽肉の仲間入りだ。

しかし、鬼島は決して怯みはしない。
鬼島は自身の力量に自信を持っていた。
鍛え上げることで獲得した、一流と謳われてもおかしくない剣技。
如何なる手段を持っても斃すという強靭な精神力。否、復讐心。
それらを持ってして、格上の戦闘能力を持つ人外を屠ってきた。


故に鬼島は決して目の前の狂戦士を斃すことを諦めない。




「A、uuu……。」

一方のオズウェルの戦闘スタイルは正に獣。
圧倒的な力と備え持つ本能で敵を屠ろうと試みる。
しかしただやみくもに力を振るうだけではない。
獣は無駄な動作をとる暇があるならば、その爪と牙、持てる自分の全てを持ってして敵を斃す。
そして自身は手負いの獣であるからこそ、全てを投げ打つと決めた。全てを投げ打って相手を殺すと決めた。


故にオズウェルは目の前の鬼を屠ることに専念している。


「おっとそう言えば忘れてた。一応名乗るだけなのっとこうか。

『Fortis222(我が最強は誰が為に)』。

さぁ、死合おうぜ人外ィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

殺し名を名乗った鬼に、竜の姿の狂戦士は咆哮を持って応える。
この血みどろの戦いはどちらかが斃れるまで終わることは無い。


◇      ◇      ◇      ◇      ◇


「あ、やっと目を覚ました。」

マティルダは気絶から覚醒したオズウェルを見て、思わずそう呟いた。

「あっれ、マチさん?僕は……痛ッ。」

オズは『全身に対応させたまま理性を保つかもしくは理性を発現させる。』という実験をしていたことを思い出し、起き上がろうとすると激痛が走った。
無理やり起き上がろうとするオズウェルだったが身体に奔る激痛がそれを阻止した。
まるで全身を寝違え、関節に来る鋭い痛み上と頭から爪先まで襲い掛かる筋肉痛のような鈍い痛みが合わさったかのような痛みだった。

とにかく、全身がすごい痛い。
それでもオズウェルは慣れているからなのだろうか、「痛ッ。」程度で済ませていた。

「全く、あんな無茶やって。鎖で自分を雁字搦めにして全身に皮を対応させて狂戦士になったかと思えばあっさり鎖引きちぎっちゃってさ。隙を見てあたしが気絶させてなかったらどうなっていたのやら…。」

世話が焼けるなぁー、と先輩風を吹かせているマチはボロボロだった。
全身がすり傷だらけで、いつも着ているランジェリー系の衣服とデニムホットパンツ、ニーソックスは所々破れていた。
特に、ニーソックスの破れ方はオズにとって目のやり場に困った。

「マチさん、その傷。御免なさい、僕のせいで……。」
「大丈夫だって。このくらいの傷でギャーギャー言ってたら必要悪の教会の戦闘員なんてやってらんないし。



でもさ、その術式。全身に対応させて理性を保てたのならさ、それってすごいよね。」
「え?」

突然マチの振った話題の内容に、オズは項垂れて抱えていた頭を上げる。








「だってさ、唯でさえ強いオズ君がさらに強くなって、そのオズ君と私が戦うんでしょ?そう思ったらさ、楽しみだよ本当に!!」

その一言で、『マチは本当に闘いにしか興味が無い』人物だと、オズは改めて認識する。

「(…………本当に僕は、難しい人に恋をしてしまったなぁ。)」

そんなどうしようもない自分に、自嘲気味に苦笑してしまった。

「オズ君?」

気が付けば、そんな自分を覗き込むマチが視界いっぱいに映る。
具体的には、唯でさえ露出度の高い上着が破れかけ、下着と――――――――その中身が見えてしまった。

「ま…………マチさん、早く服上から羽織ってくださいよほら!!」
「オズ君だって、ほとんど裸じゃん。」
「え……うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

自分の姿に狼狽しながら、オズは『この姿になる時は予備の服を用意しよう』と誓った。
慌てるオズと、強くなったオズとの戦いを夢見るマチ。
戦い以外の一時が、マチは何故か楽しく思えた。


◇      ◇      ◇      ◇      ◇


「う、ん……。」

マティルダが気絶から目覚める。そして、息をのんだ。


戦場を縦横無尽に跳び回る竜。戦場の中心で刀を振り翳す鬼。
その二人の狂戦士は打ち合うたびに血潮を撒き散らし、互いを傷つける。

その狂戦士達にマチは見覚えがある。うち一人は同僚にして、親友だった。

「オ、ズ君……?」

その血みどろとなり、大きく変わり果てた同僚の姿を認識することすら時間がかかるほど、マチはボロボロだった。
フォルム≪ドラゴン≫の強力な鱗の鎧も、『人外殺し』の性質を持つ『童子切安綱』の前には成す術が無かった。
所々が斬られ、翼はまるでボロ傘か何かの様にズタボロだった。
如何に能力を強化しようと、根本的な部分では鬼島は相性最悪な相手であることには変わりはないのだ。

では、鬼島のワンサイドゲームかと言えばそうでも無かった。
手負いの獣となり、本能と狂気によって攻め込む戦士の動きに完全に対応しきれているとは言えなかったのだ。
直撃こそ避けてきたものの、余波だけでも通常の戦闘で負うダメージと何等変わりはない。
改めて人外への脅威、そして殺戮欲求が湧き上がってくる。

「ちぃ、しぶといなぁ化け物ぉ!!」

鬼島が一旦距離を置き、錯乱の為に駆け巡る。
その行動に狂戦士は振り上げた拳を下ろすのをやめ、鬼島の動きを確かめようとする。

「AAAAAAAAAAAAAA……。」

くるくるとメリーゴーラウンドの様に駆け巡るかと思えば、壁や天井を蹴り立体的に動き回る。
そんな惑わすかのような動きに、狂戦士は完全に戸惑っている。
ボロボロとなった翼では空を飛ぶことは出来ない。そんな狂戦士にとって立体的に動く鬼島を捕える事は困難だ。
括目して完全に捕えきれない狂戦士の決定的な隙を見つける。

「(今だ、その首もらった!!)」

背後を完ぺきに捕らえた。首を刎ねるために、鬼島は地を奔る。
槍でさえ粘土細工のように曲げた鱗の鎧も、『人外殺し』の力を持つ『童子切安綱』ならば貫通して首を刎ねることも出来る。
これで、完全に狂戦士を殺せる。
そう、殺したはずだった。




突如、地面が揺れた。
都合のいい地震では無い。狂戦士が尾を地面に打ち付けた事で地を揺らした。
揺れた地は陥没して、飛び散った破片や粉じんは鬼島の目をくらませ、怯ませた。
その振動で、呆然としていたマチもハッキリと狂戦士の戦闘を目に焼き付けた。

「(チッ…まさかアイツ、俺を怯ませて位置を掴ん、ッ…………!!)」

粉塵の中から、腕が突き出た。
狂戦士の腕は、鬼島の左腕を捕え、掴んだ。
捕えるなんて生温かった。掴んだだけで左腕を引き千切った。

「テメェ……だがな、こっちだってテメェを斬れるって事を忘れんなよぉ!!」

その一撃に、鬼島は激昂して、しかし的確に『童子切安綱』を振るう。
そして、その斬撃はオズウェルの右翼を綺麗に切断した。

「AAAAAAAAAAAAAAッ!!」

翼の切断面を抑え、苦しそうに呻いた。
そんな光景に、仲間の負傷に叫ばずにいられなかった少女がいた。

「オズ君!!」

マティルダ=エアルドレッド
戦友が傷ついた様に、思わず叫ばずにはいられなかった。

その声に、狂戦士は反応する。
右手に、自身の翼を掴み、左手に鬼島の腕を掴む。ソレはさながら二刀流の構えだ。

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

残骸の武器を両手に持ち、咆哮を上げる。
そして狂戦士が生贄に選んだ対象は、マティルダ=エアルドレッドだった。


◇      ◇      ◇      ◇      ◇


「殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス!!」

怨嗟の如きBGMと血みどろの様な赤一色の視界。
身に染みる痛み。翼を斬り落とされた激痛。それらすら、快感へと変わる狂気の世界。

血だまりに飛沫が落ち、飛沫は数多の深紅の王冠を造る。
そして造られた鮮血で出来た王冠を、オズウェルは踏みしだく。
その血は目の前の剣士のモノであり、己のモノでもあった。

右手に己の翼を。左手に剣士の腕を。

オズウェルは二刀流の構えをとって、咆哮を上げる。

狙いは、自身に声をかけた女。この場にいる人間は例外なく殺す。
獣となったオズウェルに見境なんてものは無い。


















「オズ、く、ん。」

怨嗟の中で聞こえた、あの人の声を聴くまでは。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2014年01月30日 22:08