―――それは唐突だった。
「はっ?暗部組織の立ち上げ?」
「あぁ、そうだ。その組織のトップにお前を据えたい」
少なくとも俺にとっては晴天の霹靂とでもいうべき通告だった。
「おいおい。どういうつもりだオヤジ。何で俺が今更チームを組まなきゃいけないわけ?人手は十分間に合ってるけど」
「人手とは言っても全てお前の能力で操ってる連中だろう?」
「操ってる連中だって?そうだ。それで事足りるって言ってんの。こちとら今の一匹狼スタンスで何年も『闇』を渡り歩いてきてんだ。
それをわざわざ崩すような命令、はいそうですかと頷けるわきゃねえだろう?何?他の上層部のクソ野郎共が俺に首輪でも付けたがってんのかよ?」
なので、俺は全く遠慮せず画面越しの男に文句を垂れまくる。オヤジとは呼んでるが当然俺の父親ってわけじゃない。そこらの中年を見てオヤジと呼ぶ感覚そのまんまだ。
「そうかもな。お前の態度は普段から目上に対するそれとは思えない荒いものだ。何時お前が上層部の意に逆らうか気が気でない人間がいても不思議じゃない」
「はあ。神経質な人間もいるもんだな。俺が本当にその気ならこの学園都市に深く根を張る暗ぇ暗ぇ『闇』を単身で何年も渡ってこれてねぇっての」
「全くだ」
「・・・冗談はこれくらいにしといて本題といこうぜ。何でだ?」
とはいえ何時までも文句を垂れてばかりいても先に進まねぇ。こういう時は適当な所で切り上げてさっさと本題へ突っ込むに限る。
「・・・・・・その暗部組織が少々『特殊』でな。お前をトップに据えないと後々面倒な事が起きた場合迅速に処理を果たせないとこちらは踏んでいる」
「何それ?そんなに面倒なのかよ」
「そもそも暗部は弱肉強食の世界だ。トップが実力で舐められるようでは任務に支障を来たす。その点お前の実力は今までの実績が担保となっている」
「担保つっても俺の能力は人間専用だぞ?学園都市の『最新』の更新速度を考えりゃ、俺も何時かはお払い箱一直線だな」
「フッ。お前が本当に機械に寝首をかかれる程度の男ならこの学園都市に深く根を張る暗い暗い『闇』を単身で10年以上も渡ってこれないと思うが?」
「俺以外にも適任がいるんじゃねぇの?噂で聞くぜ?レベル5の誰かが暗部で活動してるって話をよ。そいつにトップを任せりゃいいんじゃねぇの」
「生憎私にはそれを確かめる手段がなくてな。もしあったとしても命令系統は異なっているから依頼する事もできんよ」
「はいそうですか」
面倒臭そうだ。実に面倒臭そうだ。正直スタコラサッサと逃げたい気分だ。チームのトップに据えるってのは言い換えりゃチームに縛られるって事だからな。
今までのように前線に立つ機会も減りそうだし、部下の言葉をほいほい聞いて耳目を狭める結果になりゃそれこそ首輪を付けたがる上層部のクソ野郎共の思う壷だ。
「詳細は追って伝えるが、お前が今度立ち上げる暗部組織のトップに立つ理由は実際にメンバーと立ち会えば否応無しに理解できる筈だ。
通常の暗部組織では中々お目に掛かれない組織構成だ。お前にとって良い経験になるだろう。たまには未成年らしく年相応に社会勉強もいいんじゃないか?」
「社会勉強?はぁ、トップなんて椅子に踏ん反り返って命令を出すよりも気ままな一匹狼の方が絶対気が楽そうなんだけどなぁ」
「なら、トップに着く前にもう一度一匹狼の気分を味わわせてやろうか」
「味わわせてやろうかだって?あぁ、味わいたいもんだ。どうせもう決定事項みてぇだし、最後に一服させてくれたって罰は当たらねぇよ」
まあ俺に拒否権は無ぇっつーか。それに少しばかりその『特殊』な暗部組織ってやつにも興味が出て来た。
画面越しの仏頂面が困惑の色を見せるのは結構珍しいし。たまには18歳らしく社会勉強に勤しむってのも悪くないかもしれねぇ。
18歳といえば普通の人間なら高校3年生で勉強漬けの年か。俺には無縁の話とばかり思ってたが、案外そうでもねぇらしい。
「お前にはその組織のメンバーとなる人物の確保に動いてもらいたい。実は、その人物は現在逃亡中でな。おおよその場所は掴んでいるが・・・」
「誰かに追われてんのか?普通に確保するだけならわざわざ俺が出向くまでもねぇ。どれくらいの規模だ?」
「『闇』に属する組織としては中の小といった所か。確保する人物が所属する組織とその組織は幾度も抗争を繰り返し、結果・・・」
「その『闇』の組織が勝利して、後始末としてその確保しなきゃなんねぇ人間を抹殺しようと動いてるってわけか。よくある話だな」
「よくある話だ。故に事態は緊急を要する。背後関係は気にするな。お前の思う通りにやればいい」
俺の思う通りか。一匹狼生活にオサラバする記念の仕事だ。なら・・・・・・
「俺の思う通りね。そんじゃ、確保するついでに追っ手を皆殺しにして、その中の小っていう『闇』の組織とやらも全滅させてくるわ」
「あぁ。頼む。・・・あぁそうだ。同時進行で他のメンバーの確保には別の者に動いて貰う事になっている」
「・・・確保確保って何か寄せ集めみたいに聞こえるな。大丈夫かよ」
「お前が何とかするんだ。トップリーダーの役目として」
「うげぇ」
前言撤回。やっぱり断ろうかな。胡散臭そうな詐欺に引っ掛けられてる気分が拭えねぇ。
「話を戻そう。お前とは別に確保へ動いて貰う人物だが、予め紹介しておこう。実は私の横にいるんだ」
「へぇ」
「そうだな。お前の相棒となる人間かもしれん。なにせ、『お前の能力の大半が効力を発揮しない』人間だからな」
「俺の能力の大半が効力を発揮しないって?・・・へぇ~。そりゃ俄然興味があるわ。それに俺の能力が効かないってんなら、逆に俺も重宝するわ。俺の能力自体メンバーの不信感を買うような類だしよ」
「だからこそ選んだという側面もある。では紹介しよう。来たまえ」
仏頂面の男が手招きに誘われるかのように、そいつは俺の前にある画面へ姿を現した。男にしちゃかなり背が小さく一見顕著そうに見える男。
中性的な童顔で表の人間からすれば初対面では何の変哲もない人間に見えるかもしれない。
だが長らく『闇』を渡り歩いてきた直感が訴える。普通の人間の皮を被った人形のようなイメージを初顔合わせで俺に抱かせる。こいつは・・・・・・普通じゃない。
「僕の名前は渡瀬瀬。君の話は聞いている。いや、話というなら『蜘蛛の女王』に並ぶ噂として既に僕の耳に届いていた。
学園都市の『闇』を単身で10年以上渡り歩いている凄腕一匹狼。『刺客人<イレイザー>』澤村慶。これからよろしく」
「・・・・・・あぁ。よろしくな渡瀬」
淡々とした喋り方、変わらぬ無表情、放たれる不変の雰囲気と先程オヤジが言った『お前の能力の大半が効力を発揮しない』から大体の予測は付いた。
面白ぇ。俄然面白くなってきた。俺とこいつを組ませて上層部が何をやらせたがってんのかじっくりと見極めてやろうじゃねぇか。
そのためにも、手っ取り早く仕事を終わらせねぇとな。サラバ俺の青春。いつかまた会おう一匹狼。俺は『起源』を胸に新たなステージへ旅立つぜ。
「さぁ仕事納めだ。オヤジ、とっとと位置情報をよこせ。もう『殺害対象』になってんだし・・・さっさと皆殺しにしてくるからよ?」
最終更新:2015年03月24日 02:21