学園都市第6学区、映倫中、放課後にて…
「おぉっつっかれ~!!稜!」
「おっと!」
 元気な声と共に稜の背中に抱きついたのは、幼馴染で同級生の火川 麻美(ほがわ まみ)だ。スタイル及び顔立ちも、写真に載っている並みのモデル以上で、クラスは関係なしに、友達が多いのが長所といえよう。
「いちいちくっつくな…」
「えぇ~!いいじゃない」
 麻美は稜の身体に腕を回してさらに強く背中に身体を押し付ける。
「まったく、学園の風紀を乱しかねないな」
 そんな二人のやり取りを一瞥して言ったのは、狐月だ。
「なによぉ…」
「…なんだお前か…」
「なんだとはなんだ」
「ん?もしかして狐月ってさぁ、女の子とこう言うことしたことないでしょ?!」
「な!?な、何をバカなことを…」
 狐月は麻美に突然自分の虚を突かれ、思わず目を逸らし気が動転したままぼそりと言葉を漏らした。
「ち、知識では…知っている…」
「え?…もしかして、狐月って…むっつり?」
「「「…」」」
 その場の空気がピキッ!と音を立てて凍りついた。そしてしばしの沈黙の後、稜がめんどくさそうな表情をして、狐月のフォローをするように話題を振った。
「…はぁ~…ところで俺に用があったんじゃねぇの?」
「そうだ、グラビトン事件について加賀美先輩が、4時から第一七七支部で風紀委員緊急会議を行うと先ほど電話で通知された。」
「はぁぁ、分かったよ…」
「グラビトン事件?」
「ん~…話していいよな?とりあえず身の回りで起きてることだし…」
「極秘ではない、構わないだろう」
「話してくれるの?」
「ああ」
 稜と狐月は麻美にグラビトン事件のことを、麻美が理解できる程度の長さで説明をした。
「ふ~ん、つまり人形にアルミを仕込んで爆弾にできる能力者ってことね?だったらその能力者を捕まえればいいじゃん!」
「はぁ~…やれるならとっくにやっとるわ…」
 稜はそこで一息ついてから、今まででわかってる範囲のことを簡潔に説明し、狐月が補足をする。
「能力名は量子変速(シンクロトロン)、しかもアルミを爆弾にできる程の能力者だとレベル4クラス」
「そこまで出てるなら犯人を絞れば…」
「その条件で該当したのは一人だけ、そしてその生徒はアリバイがあり、事件発生時は長期入院をしていて、一連の事件を起こすのは、ほぼ不可能、このエリートの私でさえもこの事件はお手上げ状態です。」
 そんななか、麻美の中で疑問が生じていた。
「でも、唯のいたずらなのに、なんで風紀委員がそこまで」
「もう犠牲者が出てしまっている」
「へ!?」
「それも全員が風紀委員、一般生徒を庇って負傷…。しかも威力はいたずらのときの威力とは比べ物になんねぇ程の威力だ…」
「すでに8人もの同僚が犠牲になっています。」
「!?そんな…そんなこと、なんで平気で出来るのよ…」
 麻美は眼を見開き、両手で口元を抑えながらそう言った。稜はその言葉に軽く答えてから、重い口調で言葉を繋いだ。
「さぁな…けど、早くしねぇと、下手したら学校を丸々ぶっ壊すほどのアルミ爆弾が出るかもしんねぇしな…」
「そんなことになるなら早く止めなきゃ!!」
「言われなくてもその気だっつの!」
「神谷君、そろそろ177支部に向かわないと、遅れてしまう。」
「んじゃ行くか」
 稜は鞄を肩に掛け、教室を出ようとした。
「ええ、それでは火川さんまた明日学校で会いましょう。」
「じゃあな、また明日」
「う、うん…あ、稜!」
「うん?」
「気をつけてね?明日も無事な顔を見せてよね?」
「はいはい!」
「稜…」
 見えなくなっていく稜の背中を見送りながら麻美は不安を抱いていた、もしかすると稜が無事に来ることができなくなるかもしれないと言う不安が、体中をよぎっていた。

 風紀委員に177支部にて…
「一週間前、初めての犠牲者が出たのを乾きに…連続グラビトン事件は、その威力、及び、範囲を拡大させています…場所も時間も関連性が認められず、遺留品をサイコメトリーで調べてみましたが、依然手掛かりは掴めていません…次の犠牲者を出さないためにも、アンチスキルと協力し、よりいっそうの警戒強化と事件解決に全力を…」
 その後、数分間の情報交換を終えた後、会議が終了した。
「ふぅ~つかれたぁ~!」
 緊張から解かれた麗は、「ん~!」と唸りながら背伸びをしている。 その横で、雅は難しい顔をして必死に何かを考えていた。
「う~ん…」
「どうしました?加賀美先輩?」
 ゆかりが訝しげな顔をして雅に聞くと、雅は何かが引っかかっている、微妙な表情で逆に稜たちに質問をぶつけてきた。
「時間も場所も関係ないっておかしくない?」
「と言いますと?」
「犯人はきっと誰かを狙ってると思うんだよね」
「その『誰か』が分かれば事件も解決!ですよね?」
  ゆかりが明るく言うと、狐月は鼻で笑い、ゆかりを指摘した。
「フッ…甘すぎる、葉原は…」
「なんでよ?葉原の意見は合ってるでしょ!?」
「鏡星(こいつ)の言うとおりだぜ?狐月」
 稜と麗も、狐月の言ったことに反論を漏らす。
「確かに、人を狙うなら時間も場所も関係ない。しかし、被害にあっている生徒も毎回毎回違っている。これはどう説明してもらえばいいのか。」
「なるほど、確かに話の筋は合ってるな…ってことは何が絡んでるんだ?」
「さあ?これはあくまで私の仮説に過ぎない。真実はいずれ分かるだろう。」
 狐月は少々遠い所を見るような目で夕日を見ようとしていた。
「いずれじゃ解らねぇな…葉原!」
「はい…あ!」
  稜は鞄をゆかりにポンと投げ渡すと、どこかへと走っていった。
「ちょっと!どこ行くのよ!稜!?」
「巡回っす、いってきまぁす!!」
 そう言うと、稜はペースを上げて走っていった。それを見た176支部のメンバーはと言うと。
「まったく…彼は本当に頭より体が先行しているみたいだな。」
「そうね」
 巡回へ出かけた稜を除いた176支部メンバーは、支部へと戻って行った。

 その頃、稜は176支部近隣の公園にいた。
「…やっぱいねぇか…ん?」
 稜はずっと地面ばっかりを見ている、見慣れた少女の姿を見かけた。
「探し物か?」
「へ?きゃあ!!って稜!?」
「…そんな驚くか?」
 稜が声をかけると、麻美は驚き、バネじかけのようにピョーンと飛ぶように立ち上がった。
「ご、ごめんついびっくりして」
「んで…探し物は?」
「小銭用の財布…中身は使い切ったから取られないとは思うんだけど…」
「どこで落としたんだよ?」
「多分ここら辺だと思うのよ…」
 稜は仕方なく、麻美の探し物を探す手伝いをすることにしたのだった。

 その頃176支部では…
「いつも以上に遅いわね…神谷のやつ」
「誰かに探し物でも頼まれたのでは?」
「ありえるわね…」
 全員が稜の帰りを待っていた。そして、雅が何かを言おうとしたとき、ゆかりの
「あ、そういえば…「大変です!!ここのすぐ近くの公園に重力視の爆発的加速を確認しました!!」
「なんだって!?」

 その頃公園では…
「ここにはねぇな…」
「あ!あった!!よかったぁ!」
「そうか…ん!?」
「え!?ちょ、何よこれ?!!」
 見つかった財布は何故か、突然急激な速さでしぼみ始めた。
「まさか!!?どけ!!」
「きゃ!!」
 稜は咄嗟に麻美を財布の側の反対方向に突き飛ばし、爆撃が直撃した。
「いたたたた…稜?大丈夫?稜…!?きゃあああ!!!」
 麻美の目に入ったのは、その場に倒れ、身体のあちこちから血を流している稜の姿だった。
 そこで麻美の意識も途切れた。
「なぁんだ、爆発したから犯人がいると思ったのに…しょうがないな…」

 とある病院にて…
「う…ん…こ…こは?…は!!」
 稜はベットからがばりと起き上がると、何が起きたのかわからないと言わんばかりの勢いで病室中を見渡した。
「あ、もう起きたんですか!意外とタフですね?神谷稜先輩」
「麻美は…」
「あなたの隣で倒れていた女性ならさっきこの病院から自分の寮部屋に帰ったみたいですよ?」
「(風紀委員の腕章…)そうか…ん?お前、どうして俺の名を?どこの支部所属だ?」
「ここ(176支部)ですけど?」
「そうか…って、お前いたか?」
「それは今に分かりますよ…あ、来たかな?」
「神谷先輩!!」
 扉の開いた音と共にゆかりが入ってきた。
「失礼するよ、神谷君」
「神谷!」
 続いて狐月と麗が病室に入ってきた。
「「「?」」」
 病室に入った三人の目に留まったのは稜の隣にいる、見知らぬ少女だった。
「ほーう…貴方はそう言うことのために巡回へ向かったと?」
「やっぱりあんたは残念イケメンね!!」
「神谷先輩…不潔です…」
「おい!待て!お前ら、勘違いにも程があるぞ!!こいつの右腕見てみろ!」
「腕章…」
「その子は明日からここ(176支部)の配属になる予定の新人の風紀委員よ!」
「「「「加賀美先輩?」」」」
「焔火さん、自己紹介を」
 緋花は雅の押しを受け、自己紹介を始めた。
「はい、初めまして!私は明日から正式にこの176支部に配属になった焔火 緋花(ほむらび ひばな)です!ちなみに能力はレベル2の電撃使い(エレクトロマスター)で、通ってる学校は、小川原高校付属中学で2年2組です!」
「エレクトロ…」
「マスターねぇ…」
『誰が喧嘩っ早いビリビリ女だぁ!!!』
「「はぁ~…」」
 このとき、稜と狐月は常盤台のレベル5の電気使いの顔を思い浮かべていた。
「ところで神谷先輩!」
「あ?」
 稜は緋花の言葉で現実に戻された。
「怪我が完治したら…私と体術で勝負しませんか?」
「確かこの支部で一番体術に優れているんですよね?」
「ええ、稜の接近戦には右に出るものはこの支部にはいないわよ?」
「それじゃあ…」
「あわてなくても、月一でアンチスキルの訓練施設を借りれるから、そのときにしなさい」
「了解!よろしくお願いしますね?先輩!」
「はぁ~…」
 こうして新たな風紀委員を含め、176支部はまた事件へと向かっていくのであった。
END

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最終更新:2012年12月22日 09:46