風紀委員第176支部。週末の今日は、山のような始末書等の整理をしていた。そんな中、麗は机に頬杖をつきため息を漏らしながら宙を見つめ、呟いた。 
「はぁぁ~青髪さまぁ~…」 
「なんだ?あいつ…さっきから…」 
「知らないな、ため息をつくほどの《イケメン》と会ったのだろう。」 
「残念イケメン共がぁぁ!!イケメンを語るなぁ!!」 
「うるさいわよ!麗!この山のほとんどはあなたが逃がした犯人の始末書じゃない!」 
「うっ…」 
 雅の一言に、飛びかけていた麗の意識が現実に帰ってきた。 
「まったく、神谷君は被害者への対応についての苦情は来るが、犯人を逃したことはない。」 
「だって折角のイケメンだよ!!もしも逃がしてあげたら…イケメンに囲まれたイケメンだらけの合コン!!!イケメンだらけの2次会!!!そして帰り道で!…はあぁぁ~!!想像しただけで!!はうっ!」 
 麗は思考を暴走させた結果、頭から煙をプシュー!という音を出すかの勢いで机の上に突っ伏した。 
「ダメだこりゃ…つーか合コンって、お前未成年だろ…」 
 稜は呆れながら麗に事実を伝えたが、彼女はニヤニヤとにやけながら妄想に浸っているため聞こえていない。そんな彼女を一瞥して、狐月は「はぁ~」とため息をつきながら言った。
「まったく風紀委員としては失格だな。腕は確かなのに。」 
「鏡星先輩、本当に好きなんですね?そういうの」 
「お前はお前で何この状況で冷静に納得してんだ?」 
「そういえば稜先輩と狐月先輩は『残念イケメン』って言われているんですか?」 
「わたしもそれが知りたいです!」 
「二人の性格じゃない?」 
 雅はノーパソコンから目を離さず、さらりと二人に身も蓋もない発言をすると、狐月が引きつった笑みを浮かべて感想を一言、次に稜が一言。 
「ず、ずいぶんずばっと言ってくれましたね…」 
「俺に言わせりゃあいつも残念美人だと思うが…」 
「風紀委員176支部一の色男、参上!」 
 元気な声と共に勢いよく扉が開き見慣れた顔の少年がやってきた。 
「お、お前!?」 
 彼の名は一色 丞介(いっしき じょうすけ)、最近では幽霊員となっていたのだったが… 
「加賀美先輩!」 
「な、何?」 
 突然の呼びかけに雅が少し驚いた瞬間、丞介は目線をキラン!と光らせ一言。
「今日も美しいですね」 
 ただ単に、丞介は雅を口説いたわけだが、された本人は意表をつかれたかのような表情でお礼を言う。
「あ、ありがとう…」 
「葉原ちゃん!」 
「は、はい!」 
「今日もかわいいね!」 
「そ、そんなこと…」 
「焔火ちゃん!」 
「ん?」 
「今日も眼福をありがとうございます!」 
「う、うん…」 
「つーか…いきなり来て何しに来た?口説きに来ただけか?」 
 稜は怪訝そうな表情で丞介に質問した。 
「いいえ」 
 そう言うと丞介はその場できれいな正座をし、頭を下げた。 
「わたくし、
一色丞介は、改心し、今日からは毎日欠かさずにここへ通います!なにとぞご苦労を、お掛けしますと思いますが、よろしくお願いたします!」 
「解ったから立ってほしい。」 
 丞介は狐月の要件に従い立ち上がった。 
「んじゃ最初の仕事、あそこで伸びてるバカの代わりそこの始末書を整理しろ」 
「了解!」 
 数分後… 
「はぁぁ…やっぱ葉原ちゃんはかわいかったなぁ~…ごぶっ!!」 
 ゆかりの作業している後ろ姿を見て鼻の下を伸ばしている丞介の頭に、稜は拳を叩き付けた。 
「真面目に取り組め…」 
「先輩は終わったんですか?」 
「ああ、今から巡回だ」 
「あ、じゃあ、あたしも終わったんで一緒にいいですか?」 
「加賀美先輩に聞いてくれ…」 
「先輩!」 
「いいわよ~外の空気でも吸っておいで~」 
「んじゃ行ってきまぁす」 
「行ってきます!」 
 こうして二人は巡回へと向かって行った。 
「ん?あれ?これって…」 
「どうしたの?丞介」 
「この人…」 
「この犯人がどうした。」 
「いや~…この前こいつを見かけましたけど…ここに書いてあるレベルと違うって言うか…データに差がありすぎるって言うか…なんか見かけたときのほうがレベルが高かったですよ?本当にレベル1だったんですか?」 
「え!?」 
 その頃二人は… 
「稜先輩!」 
「ん?」 
「あそこ、見てください」
「あ?…あれは…」 
 緋花に促され、稜は緋花の見ている方向を見ると、二人が目にしたのは裏路地に複数の男子が一人の少女を囲んでいる現場だった。 
「なんで!?約束が違うじゃないですか?!」 
「いや~さぁ…ちょっと値上がりしちゃったからさぁ…もう7万よこせ…」 
「そんな!?」 
「欲しいんだろ?能力(ちから)がよう…」 
「じゃあ返してください!!今までの代金を!」 
「は?何言ってんだ?」 
「金を追加でよこせって言ってんだよ!」 
「きゃ!」 
 男の一人は脅すような強い口調で声を荒げ、少女の顔の横の壁に蹴りを入れた。 
「無能はおとなしく俺らの言う事に従えば良いんだよ!」 
「自分の力で手に入れられてないのに?」 
「んだと?」 
「風紀委員だ…窃盗、及び暴行罪の容疑で…お前ら全員、務所に入ってもらうぞ」 
 二人は余裕ぶった笑みを浮かべ、大勢の男たちを前に堂々と立った。 
「務所だぁ?ぷっはははははは!!!笑わせんなよ!」 
 男たちは盛大に笑いながら、二人の方へと近寄った。 
「確かに前まではなぁ、お前らが怖くてビクついてたけどよ…今は違うんだよな…」 
「え!?なんで後ろに!?」 
 さっきまで目の前にいたはずの男の一人が、いつの間にか二人の背後に回っていた。 
「幻想御手を手に入れたら、もう怖くねぇんだよ!」 
「稜先輩…」 
「行くぞ」 
 稜は男に向かって蹴りを入れたが… 
「おせぇな…」 
「がっ!!」 
 稜は背後に回られ、背中から男の重い蹴りを一撃を食らい、前に倒れる。あまりの出来事に緋花は驚愕したが、すぐに思考を切り替え臨戦態勢に入る。 
「先輩!!」 
「弱っ!」 
「このぉ…せいっ!!」 
緋花は右足の筋肉に強い電気信号を送り、強烈な蹴りでもう一人の男の頭を壁にめり込ませるように回し蹴りをした。しかし… 
「そんな!?」 
 その右足は男の体をすり抜け、ビルの壁を凹ませただけだった。 
「こっちだ…よ!!」 
「へ?…うぅっ!!!!」 
 今度は緋花の蹴りをすり抜けた男の強烈な右ストレートが緋花の腹部の急所を確実に捕らえた。その一撃で緋花は地面に倒れ、苦しそうにうずくまった。 
「げほっ!げほっ!…ぐっ!!!」 
 緋花が苦しい表情で腹部を両手で抑えてせきこんでいると、緋花に致命傷を負わせた男が片足で緋花の頭を踏みつけて靴底で緋花の頭をぐりぐりと音を立てて地面に押し付け、勝ち誇った様に言った。 
「驚いただろ?俺の能力は偏光能力(トリックアート)なんだよ!」 
「焔火を…傷つけんな!!」 
「な!?ぐはぁ!!」 
 稜はゆっくりと起き上がり、右手に閃光真剣を出現させ刀身を鞭に変形させせて偏光能力の男をふっ飛ばし気絶させた。 
「おめぇの相手は…俺だろ!」 
 稜の背後から目の前に現れ、勝ち誇った表情をしている。 
「空間移動(テレポーター)か…」 
「当ったり!!でもそれで勝てたと思うなよ…おっと!」 
 稜は空間移動の男に剣を振ったが、いとも簡単によけられる。 しかし… 
「背後もぉ~ら…っぶ!!!?」 
 稜の蹴りが男の腹部にめり込ませ、壁に激突させ、気絶させた。 
「ったく…んで?まだかかってくるやつ…居る?」 
「「「…自主します!!!」」」 
 ほどなくして、アンチスキルが到着し今回の主犯者を連行した。 
「この被害者の少女もこちらで保護するじゃん!」 
「分かりました、よろしくお願いします」 
 稜は丁寧にお辞儀をしてから、緋花を肩に担いだ。 
「行くぞ焔火、病院に…」 
「よ、よろしくお願いします…」 
 稜は緋花の肩を担ぎ大通りへ出ると、カエル顔の医者がいる病院へとタクシーを拾って向かった。
 数日後、幻想御手事件は177支部の活躍で無事に事を終えることができた。
 176支部にて… 
「はぁ~、また177支部の手柄か…なぜあそこはあんなに好成績を…」 
「人数少ねぇのにな…」 
 全員は一斉に雅を見た。 
「な、何?」 
「「「「「「はぁ~…」」」」」」 
「ちょ、人の顔見るなりなにため息ついてんのよ!!」 
「リーダーの差ってやつですかね?」 
「言い違いにそうは言えないわよ?」 
「でもなぁ…」 
「そ、そんなことよりも未だ出回っている幻想御手回収をしなければ」 
「そうですね!」 
「妥当だな。」 
「手分けするか?」 
「そうしましょう!」 
「じゃあ、俺と焔火と葉原は右回りを基準に、狐月と鏡星と丞介は左回りを基準に巡回ってのはどうだ?」 
「神谷君にしてはいい判断だ。」 
「あれ?あたしは?」 
「加賀美先輩は留守番ですよ?」 
「分かったわよ!真面目に留守番してるわよ!」 
「では行ってきます!」 
 そう言って6人は巡回へと向かった。 
 その頃スキルアウト『
ブラックウィザード』では… 
「そろそろ…『あの』支部を潰しておくべきだな…」 
「そうですね…」 
 ストレンジの一角にある、廃ビルの中で笑い会う二人の姿あった。 それは、176支部最大の事件の始まりでもあった。 
END 
最終更新:2012年12月29日 23:47