ブラックウィザードの一件から1日目の月曜日。何故か明るい色合いの家具が引越屋のトラックから稜の部屋へと運び込まれて来たのだった。
「俺頼んでねぇけど?」
「いえ、確かのこの伝票には神谷稜様宛になっていますので間違いありません」
 稜はその伝票を見ると身に覚えはなく、しかも、家具の色合いも稜の趣味とはまったく逆の色使いをしていた。稜の趣味は紺色や黒に白のラインが入った物や白黒のツートン柄の家具が主で、それ以外の色の家具は存在していない。 しかしその家具は稜の部屋に設置されよいとしていた。
「はぁ~、俺今から学校だから任せて大丈夫な?鍵は寮監に渡しておけばいいから」
「分かりました」
 登校時間が迫っている稜は、学校に行けば何かが分かるかも知れないと思い、この場を運送業者に任せることにして学校へ向かった。
「おはよう神谷君。」
「おっす…」
「あ!おっはよう!!稜!」
「朝からテンションたけぇな…お前…」
「稜が低いんでしょぉ?」
 麻美はそう言うと、稜の右腕に素早く自分の左腕を絡め、体を密着させる。
「うっせ…つーか俺の腕に張り付くな…」
「え~?いいじゃない!あたしたちはそういう関係でしょぉ?」
「ただの幼馴染だろ」
 稜は自分に甘えている麻美に対し、見も蓋もない返答で言葉を返した。すると、麻美はオーバーな仕草で顔を両手で隠し、わざとらしく泣いてみせた。
「うわぁ~ん!稜のばかぁ…」
 そんな二人のやり取りを見て、狐月は半ば呆れてため息をついたとき、ふと何気なく視線を感じた方を向くと、一瞬にして血の気が引いた顔をし、短く悲鳴を上げる。
「はぁ~…まったく…。ん?…。ひっ!?」
「とうした?こげ…つ!?」
 狐月の悲鳴が気になり、稜もその方向を向くと、教室の入り口付近でどす黒いオーラーを放つ少女が目に留まり、ゾッと血の気が引いていた。 彼女の名前は水代 魅羽(みずしろ みはね)麻美の友人の一人だ。そして…
「麻美♪おはよう!」
「うん!おはよう!」
「さてと…神谷ァァァァァ!!!!貴様ァ!なァに麻美を泣かしてンですかァ?!!」
 魅羽は普段時は今時の女子高生として振舞うが、稜を前にすると口調が粗暴になり、容赦なく電撃を浴びせてくるのだ。その姿を見ると、彼女を知っている多くの者は口を揃えて「いつもの水代さんじゃない!」というほどの変わりっぷりだ。それは、稜が麻美に対してしてぶっきらぼうなことと、過去に尋問したことがあるためと思われるが、詳しくは本人しか分からないのである。
「泣いてねぇだろ!」
「そォですかァ!!じゃァ塵も残さず電気分解してやンよォ!!!!ぶっ!!」
 稜がすかさず反論すると、魅羽は右手に電気を帯させ、投げるフォームをとっていた。 そのとき稜たちの担任の綺羅川 雄介(きらかわ ゆうすけ)が、名簿の角を魅羽の頭にゴンッ!落とした。そして、痛みに頭を抑える魅羽に冷たい目線を向けて一言。
「チャイムは鳴ったぞ…」
「は、はいぃ!!!」
 魅羽は先生に怯え、そそくさと自分の教室へと戻っていった。ある意味雄輔は鬼教師なのかもしれない。
「よ!、朝のホームルームをはじめんぞぉ!!まずはサプライズなお知らせだ!」
「おぉ!!」
「まさか…」
 生徒たちの期待した反応とは別に、稜だけ微妙な反応をしていた。
「おぅ!入れ!」
 先生の合図と共に一人の少女が、教室に入ってきた。
「転校生!?」
「しかも女子!?」
「キターーー!!!」
 などと、男子が騒ぎ立ててる中、稜は嫌な予感を頭の中で巡らせていた。
「は、はじめまして!わたしは、風川 正美(かざかわ まさみ)です!よ、よろしくお願いします!」
「うおぉぉ!!!」
 男子たちがハイテンションになることは明らかだ。なぜなら、その少女は可愛いと言う言葉がぴったり当てはまる、文字通り可愛い容姿の少女だ。 そんな中、先ほどから机に突っ伏しになっている男子が一人だけいる。 それは稜だ。そして、稜はこれから自分に何が起こるのか想像がつき、ガックリとうなだれた。そんな稜を視界に入れつつ、敢えて気付かない振りをして、雄介は言葉を続けた。
「みんな仲良くしてやれよ!特に男子!!下心全開で見るなよ?!」
「ええ!?」
「ってお前ら…んじゃ風川は神谷の隣に座れ」
「!?」
 稜は思わずバッと顔を上げて雄介を見ると、満面の笑みで稜を見る担任の姿が目に入ったのだった。
「は、はい!」
「ずるいぞ!神谷!!」
「うっせ…(にゃろう…)」
「稜のバカ…」
 麻美は誰にも聞こえない音量でそうボソリと呟き、稜から顔を逸らしてムスっと膨れる。
 そして、正美はたくさんの男子から視線を送られながら、遠慮気味に稜の隣の席に座り、稜の方を向いて一言言う。 
「よろしく!え~っと…」
 稜の名前を知らなくて困っている正美に、稜は面倒くさそうに自己紹介をした。例え隣の席に可愛い子が座っても、稜は相変わらずなのだろう。
「神谷稜だ…好きなように呼べ…」
「じゃあ神谷さん、私のことは正美…「風川って呼ぶぞ?」
「う、うん…」
 正美の言いかけの言葉を遮って稜がそう言うと、正美は少し残念そうに返事をし、前を向いた。
「よし!ホームルームは以上だ!!後は特に報告もない。あと神谷!!」
「…」
 せめてもの反撃なのか、稜は雄介の呼びかけを聞かなかったことにして返事を返さなかった。しかし、雄介は苦笑しながら構わず言葉を続けた。
「返事くらいしろよ…まぁいいや、このあと俺と校長室に行くぞ!」
「はぁ~…了解…」
 こうして、ホームルームを終えると、稜は雄介と一緒に校長室へ向かった。

 その途中…
「で?なんで俺があいつの世話をするんですか?普通は同性を使うべきですが?」
「察しが早いな~…、まあその話は校長室で話す、今回は特例中の特例だからな!さあ着いたぞ…失礼します校長、神谷稜を連れてきました」
 笑顔で雄介校長室に入っていくのに続き、稜も「失礼します…」と言って、校長室に入室した。
「ふむ、よくきてくれたね神谷稜君、君を呼び出したのは他でもない、風川正美さんについてだ。気付いているとは思うが…彼女は君の部屋で一緒の暮すこととなる」
「なぜ男子の俺なんですか?部屋は余っているのでしょう?」
「彼女は…記憶喪失…いや、記憶破壊と言っていいだろう」
「つまりもう二度と記憶が戻らない。と言う事ですか?…。ではなぜ俺なんです?女ではありませんよ」
 あくまで気負い無く稜が反論すると、校長はニヤリと笑って言った。
「風紀委員だから、と言えば嘘になる。正確には彼女が、クラス写真の中から、君を選んだと言うわけだ。すまないが彼女の力になってくれ」
「はぁ~、分かりました…ただし俺は自分ができる範囲までで世話をします」
 稜は諦め、同時に覚悟を決めてそう返答した。
「すまないが、よろしく頼む」
「了解、失礼しました」
 稜は校長室を出て行った。そして、教室まで戻る足取りが異常なほど重かったのは、言うまでもない。

 そして放課後…
「さ、仕事に行きますかっ」
「まったく、労いの休みとかないのだろうか。」
「あると思うか?」
「…ないな」
「あの…」
 狐月と軽口の応酬をしていた時、稜は不意に声をかけられ、思わず身構えてしまう。しかし、稜に声をかけたのは正美だったため、警戒を解いた。
「!?…。て…なんだ風川か、どうした?」
「い、いえ一緒に帰れと先生に言われたから…」
「あんのやろう…しょうがねぇ…悪い狐月」
 稜は呆れてしまったが、仕方がないと思い狐月に言うと、狐月も理解し、その先の言葉を言った。
「『一身上の都合により休みます』と言っておけばいいのだろう?」
「ああ、悪いな…」
「構わないさ、これくらい。では行く前に一つだけ言っておく。間違えは起こさないように。」
「するかバカ」
 稜はすかさず反論すると、狐月は「では」と言い残して教室を出た。
「ごめん…」
「気にするな、俺の所属している風紀委員はみんないいやつばかりだから、事情さえ話せば分かってくれる思うし」
「そうなんだ」
「よし、んじゃ帰るか」
「うん!」
 こうして、二人は真っ直ぐ寮に向かった。その途中、稜は時々目に入ったものを指差し、正美に問題形式で出すと、不思議なことに物の名前などは分かるが、それがどのような物だったかは分からないというかなり不思議な感じの記憶破壊であった。例えば、りんごと言ったら木になる果実で赤い。と、知識では覚えているが、形や味など実際に見たり触ったりといった体験をしないとわからない部分はポッカリと抜け落ちている。つまりエピソード記憶だけが 失われているのであった。
 稜の自室にて…
「ここが今日からお前の部屋だ」
 稜に部屋は模様替えがされており、稜のスペースと正美のスペースに分けられていた。
「へぇ~、やるな、あの業者…」
「あの、わたしシャワー浴びてくるね?なんかいろいろ疲れちゃって…」
「お前の部屋でもあんだから自由に使えって」
「ありがとう」
「さっさと浴びて来い」
「そしたら飯作るから」
「うん!」
 そして正美がバスルームに入ってから数分後、来客を知らせるチャイムが部屋中に鳴り響いた。
「はぁい、今出ます」
 ドアを開けると、立っていたのは麻美だった。麻美はハイテンションに挨拶すると、何も言わずに稜の部屋に上がり込んだ。
「ヤッホー!!遊びに来たよ!稜!」
「なんだ…お前か…。て、勝手に入るなって何度言えば」
「いいじゃない!そ・れ・よ・り!なんであんたの部屋にルームグッツがもう一式あるの?」
 麻美は稜を問い詰めるように、稜に詰め寄り、稜の制服の襟を掴んでそう聞くと、稜はすかさず早口で返答した。
「同居人がいる…」
「ふぅ~ん…」
 性別こそ言わなかったが、ここで正美が出てこなければ同性と認識されると、稜はそう踏んだ。はずだったが…
「あ~さっぱりした~!神谷さん!上がったよ!」
「!?」
「へ?」
 その計画はパリーンッ!と音を立てて崩れた。 なぜなら、バスタオル一枚を身体に巻きつけだけの姿で、正美がバスルームからさっぱりとした清々しい顔をして出てきたからだ。 そして、状況が飲み込めてない正美は、可愛らしくきょとんとした顔で首を傾げ、稜に聞いた。
「あの~、神谷さん…どちらさま?」
「りょうく~ん?」
 稜はやたらと生々しい声のする方を冷や汗を流しながら全力で振り向くと、にこやかに、しかし下手をすればそこらへんのチンピラなら逃げ出すほどの殺気をあふれさせて稜を見ている麻美が居た。
「!?…やば…」
 麻美はポケットから幾つかパチンコ玉を取り出すと、笑顔のまま稜に標準を合わせる。そして。
「こんのヘンタイ!!!」
  麻美はそうさけぶように言うと、パチンコ玉を音速の速さで稜めがけて一斉に飛ばした。
「おいおい!嘘だろぉ?!」
 稜は咄嗟に閃光真剣を両手に持ち、音速の速さでビュンビュン飛んでくるパチンコ玉を次々と斬っていった。
「稜のバカ!!もう知らない!!!」
 麻美は物を飛ばすだけ飛ばし、涙目になりながらそう言い残すと、走って部屋から出て行った。
「あぶねぇ……一体なんなんだ…あいつ…」
「大丈夫? 」
「あ、ああ…大丈夫だ…それより…」
「それより?」
「いつまで格好でいるんだ?…俺は男だぞ?」
「へ?あ!…。ごめん!」
 正美は稜の一言で全身を見回すと、今さらのように顔を真っ赤にしてバスルームへ逃げて言った。
「はぁ~、麻実と言い風川といい、これから先どうなるんだ?」
 稜は一人、ぼそりと呟き、天を仰いだ。
END

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最終更新:2013年01月12日 23:15