稜と正美の部屋にて…
「二年前の俺は…」
稜は、二年前のことを、思い出すように語りだした。
二年前、11月1日、裏路地にて…
「くそっ…ついてねぇぜまったく!!」
稜は、裏路地に逃げ込んだ犯人を追い詰めるも、発火能力者が飛ばしてくる火の玉のせいで、捕まえられずにいた。
「おらぁどうしたぁ!!早く捕まえてみろよぉ!!」
「うっぜぇ…」
この頃の稜は、対遠距離系能力者対策がなく、常に遠距離系能力者とタックを組まなければほとんどの犯罪者を捕まえることができなかった。
「そら!かかって来いよ!!…うわ!?」
その時、犯人の真上から、無数の光の玉が落ちてきた。
「今だ!!稜!」
「せいっ!!」
稜は、火に玉が止むと、犯人に向かって閃光真剣の、刃先を突き立てた。
「風紀委員だ、おとなしく捕まれ」
「くそ…」
「サンキューな、天牙」
「相変わらずだな…稜」
この頃は天牙と、稜のタックが176支部の管轄内の犯罪者から恐れられていた。
176支部にて…
「ただいま戻りましたぁ!」
「右に同じく」
「おかえりぃ~」
「って、加賀美先輩!なんでポテチ食いながらオペレーションしてんすか!!」
「いいじゃなぁ~い」
「はぁ…早く新人のオペレーター来ねぇのか?」
「それは無理だろ、『葉原ゆかり』は、まだ小6、本格的に活動できんのは中1からだ、それに今は実習期間だからな…」
「鏡星が担当だっけか?あいつに任せて大丈夫か?」
「イケメン見かけて、管轄外まで尾行しそうってところだな…」
「まったく…よりにもよってレベル0をこの支部に配属させるなんて…エリートの私には理解できませんね。」
「そういう物言いはやめろよ!狐月」
「それよりも神谷君…」
「あ?」
「貴方はなぜ、風紀委員なんかになったんですか?」
「どう言う意味だ!!」
「そのまんまの意味です。単独では行動が不可能。そんな能力で何ができるんですか?」
「言わせておけば…別にタックでも機能してんだから問題ねぇだろ?何が気に食わないんだ?」
「まあいいでしょう。」
狐月は巡回へと出かけた。
「なんだ?あいつ…」
「でも実際、お前は能力の壁にぶつかってんのは間違いないんだろ?」
「…」
「…」
「実際焦ってるよ…ここに居るレベル4は、お前に、狐月に、加賀美先輩…」
稜は、少し落ち込みながら話を続けた。
「…嫌になるな…」
「弱気だな…お前は素質があるのに、諦めかけてるから越えられないんじゃないのか?」
天牙は、残念そうに言った。
そんな時、支部の電話が鳴った。
「はい、こちら176支部…了解…すぐに向かわせるわ!」
雅は、応援要請、を受けた。
「どうしたんすか?」
「…銀行強盗が入ったって、麗から…狐月じゃ難しいから…」
「雅先輩!俺たちが行きます!!」
「気をつけて!」
「はい!行ってきます!!」
天牙と稜は、応援要請が出ている銀行へ向かった。
「派手に動けば始末書書かされるな?この事件」
「…ああ、ただ俺は、正義を守りたいだけだ」
「…そうか…(わからない…正義ってなんだ?)」
そして、二人は、銀行に到着した。
「鏡星!」
「あ、神谷、麻鬼」
「ん?お前が担当している、実習生は?」
「ここです」
「…お前は寮に戻れ」
「嫌です、私だって…風紀委員です!」
「おい!」
すると一人の青年が、ポケットから、拳銃を取り出し、真上に向けて、発砲した。
「キャー!!」
「動くな!風紀委員がこん中にいるんだろ?!」
「…(あのバカ…)」
稜は心の中で頭を抱えた。
この状況で、天牙は、指の間に針がついた、黒い手袋を両手にはめていた。
そして…
「俺が風紀委員だ!!」
そういうや否や、天牙は閃光小針で光の弾を飛ばした
「なに?うわぁ!!」
「犯人確保!」
拳銃を持った少年は、あっさり捕まった。
「ったく、だらしねぇな…」
「?…うわ!!」
犯人を取り押さえていた天牙の背中に、もう一人の男が小さく丸めた紙を投げつけたかと思うと、いきなり爆発を起こした。
「紙片爆弾(ペーパーボム)…それが俺の能力だ…」
今の爆発で天牙は、ATMのところまで吹っ飛ばされ、気を失った。
「うそ…麻鬼先輩!!」
「ゆかり!!落ちついて!」
「そうか…お前らもか…」
その時、銀行員が防犯シャッターのボタンを押し、シャッターが下り、銀行内は、暗くなった。
「チッ!(客より金が優先てか…)」
「じゃあ死ね」
少年は、さっきよりも少し大きめの紙を丸めると二人に投げつけようとした。
「まて!!こいつらはただの知り合いだ!俺が風紀委員だ!!」
稜は、腕章を見せた。
「あっそ…」
男はその紙を、稜に投げつけた。
「この速さなら…」
稜は、その爆弾に向かって閃光真剣を振り下ろした。
その瞬間…
「ぐあぁぁ!!!」
爆撃を直で受けた稜は、天牙と同じように吹っ飛ばされ、床に強打し、倒れた。
「あっけないな…」
「…(俺が、こんなやつに敵うわけ…じゃあなんで風紀委員に?…レベルが早く上がるから?…違う!!…)」
稜は、朦朧とした意識の中、もう一人の自分と、いつの間にか、会話をしていた。
「はぁ~あ…このままじゃ金も持っていけそうにねぇし…ぶっ壊そうかなあ!」
男は大きめの紙を、くしゃくしゃと丸め始めた。
しかし…
「!?」
少年の目には、むくり、と立ち上がり、再び閃光真剣を構えている、稜の姿が映っていた。
「あれだけの攻撃を食らってもまた立ち上がるやつは初めてだぜ?」
「はぁ…はぁ…」
しかし、稜の身体には、かなりのダメージがあったため、こうして立っているのがやっとだった。
「…(なんで立ったんだ?…傷つくのは俺だけで充分だ!…それで傷つけば強くなれるから?…そうだ!…そんなことで限界が越えられるとでも思ってんのか?…!?)」
「なんだよ?早く掛かって来いよ?」
男は、挑発するように手招きをしたが、稜は動かなかった。
「…(自分を犠牲にするやつに力がいるか?…それは…なんで生きたいって思わないんだ?お前は逃げてるだけだろ?だから犠牲になれるなんて簡単に言えるんだろ?…!!)」
「おい!舐めてんじゃねぇぞ!!」
男は、イラついてるように、叫んだ。
「…(本当に強くなりたいなら、生きる意志を強く持てよ!!…!?…犠牲なるなんて言うのは簡単だ!でもそんなの強さじゃねぇ!!ただの逃避だ!!!神谷稜!!お前は何がしたいんだ!!!…!!そうか、俺、間違ってた、そうだよな、…簡単だっただろ?…そうだな…行けるか?…ああ、まだ行ける)」
「じゃあこっちから」
男は、稜に向かって、丸めた紙を投げつけた。
「はぁ!!」
「ッ!!嘘だろ!?」
稜の閃光真剣は、刃先が伸び、鞭のようになり、紙を遠くで切った。
「これが…レベル4の…閃光真剣…」
稜は、ついにレベル4に到達した。
「…結局そうだ…力のあるやつは…そういうことができる…」
「レベルなんて関係ねぇだろ…」
「うるせぇ!お前に何が解る!力があるから簡単にそう言うことが言えんだろ!!」
その言葉を聞いた瞬間、稜は、閃光真剣を消した。
「今の俺なら行ける…」
「なに?」
「閃光真剣がなければ…俺はレベル0と同じだ…」
「どう言うことだ!!」
「例えこの状態でも、俺はあんたに勝つことができる…そうしたらレベルなんて関係ねぇだろ?」
「こいつ…」
「なんならやってみるか?」
「うぜぇ…ならやってやる!!」
男は、丸腰の、稜に向かって、丸めておいた紙を投げようとした。
その瞬間…
「てい!!」
「ぐ!!!」
稜は、素早く、男の懐にもぐりこみ、わき腹に右フックを食らわせた。
すると、男は、痛さのあまり、膝を着いた。
その時、男の手から離れた紙は爆発もせず、床に落ちた。
「演算が一瞬乱れたな?」
「くそ…」
稜は、男に、手錠を掛けた。
「これで一件落着か…」
稜は、いきなり倒れた。
とある病院にて…
「やっと目覚めたか…」
「天牙…もう大丈夫なのか?」
「ああ、大体な…」
「そうか…」
「じゃあ、俺帰る」
「おう…」
これが、二人が交わした最後の会話だった。
その数日後、天牙の机の上には、風紀委員を辞める内容の手紙が置いてあった。
現在にて…
「…ふぅ~ん…稜にもそんなことがあったんだ…」
「まぁな…」
稜は、座ったまま背伸びをした。
「わたしも、自分と向き合えば、答えが見つかるのかな?」
「さぁ…でも、ヒントは見つかる、ただ…」
「ただ?」
「実力が強さじゃないって事だけは言える」
「!!…そうだね!やっぱり私の考えは間違ってたみたい!」
「答え、見つかったのか?」
「うん!」
正美は、何かが吹っ切れたかのように答えた。
「…ところでよ…鍋、大丈夫か?」
「え?あ!!」
正美は、焦って、キッチンに向かい、できた料理を皿に、盛り付けた。
「はい!出来上がり!」
「…たまには俺も作るかな…」
「前は、稜が作ってくれてたもんね?」
「ま、とにかく食おう、腹減ってんだ、俺」
「うん!じゃあ…いただきます!」
「いただきます」
こうして二人は、仲良く夕食を食べた。
END

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年01月19日 21:05