行間 一


 学園都市の小学校に進学した友人から、久々に連絡があった。
 どうやら友人は、つい最近まで『研究所』というところに入れられていたらしい。世界中に公にされているような『クリーンなイメージ』からでは予想も出来ない学園都市の暗さに、俺は思わず『面白い』と思ってしまった。
 友人は『研究』で実験動物のような扱いを受けていたせいか随分憔悴しているようで、連絡も愚痴を話すような懺悔するような全く要領を得ない内容だったが、それでも学園都市の裏側がどんな場所なのかは分かった。
 弱い人間がゴミのように扱われる場所。
 子供たちが当然のように使い捨てられる場所。
 大人たちだけが良い思いをする場所。
 強い人間が弱い人間を虐げるためだけの場所。
 友人から聞いた学園都市は『弱い側』から見たものだったが、それでも俺にとっては魅力的なものだった。なぜなら、俺はそのときから既に『強い側』の人間だったから。
 俺は、当然のように学園都市に入ることを決めた。
 既に周辺のガキを支配するには至っていた俺だが、それでも小学生程度に出来ることなど高が知れている。それこそまさに、文字通り『ガキのお遊び』でしかない。……だが、学園都市はその『ガキ』が世界の全てだ。『外』と違って子供が力を持つその世界の中では、誰であろうと容易に世界の頂点に立てるような『仕組み』が出来上がっている。
 何より俺は……、『学園都市』という『強者の世界』で、自分と言う存在がどれほど通用するか純粋に気になった。……というよりはむしろ、そんな、友人が苦しんできたという『強者の世界』を自分の手で屈服させたくて仕方がなくなった、と言うべきか。
 ――それがどれほど難しいことだとしても、絶対に。

 学園都市に入った俺は、まず俺に連絡してきた友人と合流した。
 再会した友人はある程度の悲劇を予想していた俺の予想をはるかに上回るレベルで痩せ細っていた。呆れ半分、感心半分で何故そんな状態なのか聞いてみると、戸籍を失ったからだと言う。嗚咽交じりに聞いた言葉から分析するに、友人が研究所に引き取られたとき、行政に細工が施されて友人は戸籍を失ったのだろう。学園都市では、戸籍によって奨学金配給などの認定がされる。それを失った友人は、食事することすら出来なかったのだと言う。
 結局、俺が学園都市にやって来てまず最初にしたことは餓死寸前の友人にたらふく飯を食わせることになった。
 まず戦力を得るべく、研究所とパイプを作るために友人の違法研究をネタに件の研究所の親元を強請(ゆす)ってみた。
 結果は惨敗だった。
 親元から『口封じ』と言わんばかりに攻撃された。友人が『研究』によって得た能力がなければ、あそこで俺は死んでいただろう。一応防護策はいくつか用意していたのだが、そこは俺が学園都市の『闇』を見誤っていたということなのだろう。
 結局俺は、自分の視界の右半分を永久に失ったが、代わりに学園都市の『闇』で生きていく以上絶対に見えなくてはならない『ライン』が見えるようになった。
 その後は意外と順風満帆だった。
 敵対するスキルアウトの親玉の弱みを探ることで傘下にするという方法で少しずつ部下を増やし、増えた部下を使って解体寸前の研究所を抑えてパイプを作り、それらの部下や研究所を使い潰してさらに大きな部下や研究所を得る……。
 その過程で、『親友』と呼べる存在も何人か出来た。尤も、『あいつ』と違って替えが効く存在ではあるが。
 そうして『この組織』が出来たのが、今年の夏ごろ。
 いつもの如く最初は『あいつ』と二人だけしかいなかったのだが、今回の場合は薬物関連の研究所と手を組み、その薬物を横流しすることで勢力を増やしていったから今までよりも早くチームが大きくなった。
 我ながら、ほんの三ヶ月程度で此処まで大きくなるとは思っていなかった。学園都市の『レベル』に対するコンプレックスは意外と根の深いものらしい。そもそもの目的が違う俺からしたら、どうでもいいことだが。
 『この組織』は俺の野望の完成形へ至る第一歩目だ。
 今回の作戦が成功すれば、俺は『この組織』の首領としてこの街の『闇』に……いや、さらに独立し、突出した『領域』に君臨できる。『あいつ』が検体となっていたあの実験も、全く無駄というわけではなかったというわけだ。皮肉にも、それを証明するのは実験とは全く無関係の俺だが。
 勿論、危険がないという訳ではない。
 この作戦は明らかに『境界』を割っている。学園都市の暗部がどこからか事態を嗅ぎつけて、俺の始末と作戦の妨害に出るというのは間違いない。そうなれば、『この組織』は未曾有の混乱に陥るだろう。かねてからなりを潜めていた『この組織』の反乱分子もまた、動き出すに違いない。
 だが、そのくらいは織り込み済みだ。
 『反乱分子』『暗部組織』、どちらの動きも粗方予想はついている。誘導する為の策も仕込んだ。
 『〇九三〇』、『学園都市とは違う異能』、『戦争の陰』…………。
 既に、駒は揃っている。
 ――『プロジェクト=ブラックウィザード』。
 今宵、俺はこの街の頂点に立つ。

第一章② テキスト×ブラックウィザード 第二章

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最終更新:2013年02月25日 17:04