とある病院にて…
稜は先ほどの戦いで、秦に敗れ、病院に搬送されている。
「う…ん…俺は…」
「お目覚めかい?」
「ん?」
稜が視線を向けた先には、カエル顔の医者が立っていた。
「気分はどうかね?」
「最悪…と言いたいとこですけど…肉体的には大丈夫です」
「そうかい、じゃあ、君に渡しておくものがあるね」
「渡したいもの?」
カエル顔の医者は、白衣のポケットから、メモ用紙を取り出し、稜に渡した。
「!?…これ、誰からもらったんですか?」
「黒いスーツ姿で頭に赤いバンダナをしているのが特徴の男性だったよ」
「あいつ…なんで俺に…」
そのメモ用紙には、律子の研究施設の住所と裏の研究内容が書いてあった。
「君の制服ならそこに掛けてあるよ」
稜の考えを察したのか、それだけ言うと、カエル顔の医者は、病室を後にした。
「今のうちに行けってことか?」
稜は、病院の寝巻きを脱ぎ、映倫の制服に着替え、病院を後にした。
電車に乗り、12学区へ向かった。
その電車の中で、稜はおもむろに、ポケットを探っていたら、ブレザーのポケットから、紙切れが、一枚入っていた。
その紙切れには『また怪我をしても、僕の病院まで来れば、完璧に治すよ』とだけ書いてあった。
「…(ありがとう、先生…)」
数分後、稜は第12学区で、電車を降り、律子の研究施設に向かった。
一方その頃律子の研究施設では…
「ん…あれ?わたし…「やっと起きたわね?」
正美は、実験台の上で目覚めた。
「!?え?あなたは…」
「気分はどう?」
「あれ?なんで?」
正美の手足は、ベルトで固定され、身動きが取れない状態である。
「逃げようとしても無駄よ?…
風川正美さん」
「うそ、なんでわたしの名前を?!」
「実験体(モルモット)の名前くらい覚えるのが普通でしょう?」
「モルモット?…」
律子は、ニヤリと不気味な笑みを浮かべていた。
その頃、稜は律子の研究施設に、到着した。
「ここか…正美、待ってろよ…」
再び裏の研究室にて…
「逃げようとしても無駄よ?」
「たいへんです!桐野博士!!」
秦が慌ただしく、研究室に入ってきた。
「何事?」
「それが…
神谷稜が、この研究施設の入り口の前に居ます」
「稜が?!(よかった!!無事だったんだ!!)」
「そう…なら始末しなさい」
「了解…」
そう言うと、秦は研究室を後にした。
「残念だったわね?せっかく救いの手が見えたと思ったのに…」
「稜は、二度も負けない!!」
「秦は優秀な剣術師よ?それは間近で見たあなたの方が、よく知ってるはずよね?」
「けど…稜は誰よりも強いから!!」
正美は、真剣な目つきで律子をにらんだ。
研究施設前にて…
「…」
「メモ…見たから来たんですよね?」
「ああ、でも何でそれを俺に教えた」
「僕に勝ったら教えましょう」
秦は、閃光真剣を構えた。
「そうするか…」
稜も、同じく閃光真剣を構えた。
しかし、いつもと違い、稜は、手首をほぐすかのように、ぐるぐると閃光真剣を持ったまま、回し始めた。
「なんの真似ですか?」
「行くぞ!!」
稜は、手首を回したまま、秦の懐に駆け込んだ。
「はぁっ!!」
「な!?」
稜は、懐に入った瞬間を回すのを止め、そのまま切りかかった。
しかし、秦は辛うじて、その攻撃を受け止めた。
「これなら読めねぇだろ…」
「なんですか…それは…」
「そうだな…トンボ戦法…とでも名付けておくか?」
この作戦を思いついたのは簡単なことだった。
秦が相手の太刀筋を読めるのは、相手の構えや動きから、動作を予測するためだと、稜は確信したからだ。
「いくらお前でも、刃の動きがずれれば、防ぎきれないよな?」
「…考えましたね?しかし…はぁ!!」
秦は渾身の一撃で、稜に斬りかかった。
しかし…
「な!?」
稜は秦の攻撃を、完璧に受け止めていた。
「なぜだ?!あなたはこの一撃をさっきは防げなかったはずだ!!」
「『さっきは』な?」
「うわぁ!!」
稜は、にやりと笑い、そのままカウンター攻撃をした。
秦は、その攻撃をモロに食らい、倒れた。
「こんな…こと…」
「…悪いな…もう二度と負けるわけにはいかねぇんだ」
「そうですか…」
「今度はお前が、プレッシャーに負けたんだろ」
「?」
「さっきはさ…俺が正美を守るために闘ってたわけだろ?それが今度は逆の立場になったから、プレッシャーになったんだろ?」
稜は、倒れている秦に手を差し伸べながら言った。
「すいません…そうです…僕は正美様の笑顔が一番好きでした…その笑顔を守る為だと…博士から言われたんです」
「ふ~ん…で?」
「そして僕は聞きました…本当にあの笑顔が見れるのかと…」
「…」
次の瞬間、秦は真剣な顔になった。
「そしたら博士はこう答えました…『顔だけの笑顔なら残せる』と…」
「!?…それって…」
「だから…止めてください!!博士の本当の実験は、とても危険な実験なんです!!」
「なんで…優秀な研究者がこんな実験を」
「分りません…でも…」
「本人に聞けば分るのか?」
「はい!博士の本当の研究室はこの施設の地下です!!」
「地下か…わかった…ありがとう…」
稜は、施設の中に入り、エレベーターで地下の研究室へと向かった。
その頃地下の研究室では…
「誰よりも強い?秦に負けたのに?プッあははは!!!」
「来るよ…稜はもう、この扉の前に居る…」
「現実は残酷な物よ?」
「悪いな…残酷じゃなくてよ…」
その言葉と共に研究室の扉が開き、稜が研究室に入ってきた。
「稜!」
「な!?なんで…秦は!!」
「一度負かした相手にやられるんだなんて…現実って残酷だよな?」
「…でも残念、これは予想の範囲内よ?」
「稜!後ろ!!
「は?…!?」
稜の後頭部に、突然硬いものが突き付けられていた。
「動くな、神谷稜…」
それは銃口だった。
そしてその声の主も、稜が知っている人物である。
「あんたはそっちの味方か…」
「驚きはしないようですね?神谷稜…」
その男は、拳銃の銃口を突き付けたままにやりと笑っている。
「その役、似合ってるぜ?希河先生…」
後編へ続く…