鎌は、拳銃を突き付けたままにやりと笑っている。
「まさか、貴様がここまでやるとは、予想外だった」
「一つだけ聞きたい…」
「なんだ」
「いつからあんたは、そっち側に居たんだ?」
その質問をきいた鎌は、拳銃を稜の高等部から離しながら、呆れたように笑った。
「フフッ、愚問だな?最初からに決まっている」
「?」
「私は元々、律子博士の研究助手をしていた、教員免許は律子博士の命令で取ったに過ぎない…」
「なんのために」
「この実験に使えるチャイルドエラーの生徒を見つけるためにだ、すべての学校に一人は居るだろう?」
「…なんで…だよ…」
「なぜ風川正美なんだと聞きたいんだろう?…答えは簡単だ、彼女のレベルが鍵だからだ…」
「レベルだと?…」
「ああ、それに目を付けていたんだが…まさかあそこの研究長が、スキルアウトと結託していたとは…予想外だった」
「
東雲真慈…のことか…」
「そろそろ始めるわよ、お喋りはそこまでにして」
律子はイライラしているように言うと、正美の頭に装置の一部を被せた。
「え?な、なに?!」
「大丈夫、ただビリッと来るだけよ?でも…そのあとあなたに意識はないけどね」
「!?おい!!どう言うことだよ?!!!…ぶっ!?」
稜は、鎌に頭を掴まれ床に伏せさせられた。
「稜!!」
「大人しくしていろと言ったはずだが?」
「クソッ…お前ら…」
稜は、今までに無いくらいの怒りに満ちた眼つきで、律子を睨んだ。
「あら、随分好い目で睨むのね?…いいわ、じゃあこの娘がどうなるか教えてあげる、そうね…簡単に言えば、感情や感覚がなくなって植物人間に近い状態になるのよ?」
「!?」
「ふざけんな!!…グッ!」
「動くな…」
鎌は、今にも立ち上がりそうな稜の頭を押さえつけ、拳銃の銃口を突き付けた。
「でも殺しはしないわよ?ただ脳が演算をする際、無意識に掛けているリミッターを外すだけ、でもそのためには、余計なものを脳から消去しなければならないの」
「なんのためにそこまでしなきゃならねぇんだよ!!」
「この実験がうまく行けば、好い資金集めになるの、つまり…これは仕事(ビジネス)よ?」
「お前が前に言ってたことは嘘なのかよ!!」
「いいえ?より良好な薬の開発には、資金が必要でしょ?だからこうするの」
「いや…いやだよ…もっと稜と一緒にいたいよ…みんなと楽しいことをしたいよ!!」
正美は、涙をボロボロ流している。
「でも残念ね?それは叶わないことだわ」
そう言うと、律子は、装置のレバーに手をかけた。
「!!やめろぉ!!!!!」
「さよなら…
風川正美さん」
律子はレバーを下ろし、意識を消去する電流を流した。
「いやーーーーー!!!!!!!」
「な!?」
まさに電流が流れたその瞬間、能力暴走が起こり、正美の脳波が装置から流された電流を逆流させ、装置を破壊した。
そして、正美は気絶した。
「機械の要領を越えた脳波だと?」
「余所見してて良いのか?」
「なに?…うわ!!」
稜は今の状況を理解してはいなかったものの、鎌の意識が自分からそれた一瞬を見逃さず、拳銃を持っているほうの手首を蹴り上げ拳銃を床に転がさせ、そのまま身体を蹴飛ばし、鎌を気絶させた。
「
希河鎌、お前を銃刀法違反で拘束する…これで終わったか…ん?正美?」
「動くな!!」
「!?」
しかし、今さっき稜が蹴飛ばした拳銃が律子の手に握られ、そしてその銃口は抱えられている正美の頭に、突き付けられていた。
「まだやるのかよ…」
「いいえ…もう、何もかも終わったわ、だから、もうこんないらない…レベル6の計画は無くなった…」
「なんでだ?なんでそこまでレベル6にこだわるんだ?」
「レベル6ほど良いものはない!!それが私の考えよ!!なにが悪いの?!!」
「なんだよ…結局お前だって、テレスティーナ・木原と変わらねぇ考えかたじゃねぇか…」
「私をあのバカな女と一緒にしないで!」
律子は正美に向けていた銃口を、稜に向けた。
「同じだろ!!どんな理由を並べても、レベル6を作ろうとした事に変わりはねぇだろうが!!!」
「黙りなさい!!」
律子は拳銃の引き金を引いた。
「ッ!!」
その弾丸は、稜の右肩に直撃した。
「ん…今の音は…!?稜!!」
「正美…よかった…」
正美が無事なことに、稜は安心している。
「よくないよ!!なんで稜が撃たれるの?!!」
「逃げろ!!…」
「フフッ、強がっちゃって、今のあなたは痛みで演算ができないはずよ?」
「それを知って…(クソ、体術なら、左腕だけで行けるのに…)」
律子は、痛みで動けないでいる稜の頭部に銃口を向けている。
「さあ、最後に彼女の前で安らかに眠らせてあげるわ?」
引き金を引こうとしたその時…
「許さない…」
「怨んでもいいわ…よ!?ううっ!!…頭が!!!!」
律子は突然の頭痛に拳銃を落とし、両手で頭を押さえた。
それは、正美のテレパシーが直接律子の脳波に干渉し、脳波が乱れたことによる頭痛だ。
「ナイス正美!!…そらっ!!」
「ぐぅっ!!」
稜は左肩で、律子にタックルをし、手錠を掛けた。
「
桐野律子…不正研究、及び無許可での人体実験容疑で…務所にぶち込む…」
「やったぁ!」
「なあ、正美…」
「ん?なに?」
「アンチスキル呼んでくれ…」
稜はそれだけ言うと、バタリと、音を立てて、その場に倒れた。
翌朝、とある病院にて…
「う~ん…あれ?」
稜は病室のベットで、目を覚ました。
「お帰り、と言った方がいいかな?」
「俺…銃で撃たれたような…」
「もう取ってあるよ?それにしても、君の生命力って意外とファンタジー?」
「いや治したの、先生でしょ」
「それより、君の身体の傷は塞がったから、早く寮に戻ると良いね、彼女が心配しているよ?」
「そうさせていただきます、お世話になりました」
「早く行きなよ?」
稜は、頭をぺこりと下げると、制服に着替え、正美が待つ、寮の自室へ向かった。
稜と正美の部屋にて…
「ただいま…」
「稜!」
「うわ!?」
玄関の扉を閉め、リビングに入ると同時に、正美は、稜に飛びついた。
「心配したんだからぁ!!」
「分ったから離れろ!!バランスが…」
「きゃ!!」
稜はバランスを崩して、正美を押し倒すような形でソファーに倒れこんだ。
「痛ってぇ…大丈夫か?正美」
「もぅ、こういうときは力がないんだから」
「悪かったな」
「…ねぇ」
「うん?」
「キス…まだ?」
「俺、いつお預けにしたっけ?」
「昨日からだよ?」
「しっかり憶えてんなぁ…ん…」
稜は、正美にキスをした。
「…ありがとう」
正美は、うれしそうに微笑んだ。
そんな時…
玄関の扉が勢いよく開き、麻美が入ってきた。
「稜!!あんたいつ帰ってきたの?!」
「「麻美!?」」
「…て…午前中から何やっとるんじゃあ!!!このヘンタイ!!!!!!」
麻美は頬を真っ赤にして、ポケットからパチンコ玉を取り出している。
「ちょ…ま…」
「このバカ!!!」
「や、やめろぉぉ!!!!」
問答無用と言わんばかりの速さで玉は、稜に向かって飛んできた。
数分後…
「はぁ…はぁ…もう、ヘンタイ幼馴染なんか知らない」
「おい!勝手なあだ名を付けるな!!これにはわけが…」
しかし麻美は、部屋を出て行って行った。
「…何がいけなかったんだ…」
「半分嫉妬だよ?あれは」
「嫉妬?」
「たぶん、よっぽど斑くんと進展がないんだよ…だから、わたしたちが積極的に行動してるんだと勘違いして…」
「そうか…大変だなぁ、草食系男子と肉食系女子のカップルは…」
「もうすぐバレンタインだもんね?」
「もうそんな時期か…」
こうして二人は、休日をゆっくり過ごした。
END