時刻は逢魔が時に差し掛かり始めた頃。
数奇な運命に導かれた男達は成瀬台のグラウンドに立っていた。
各々真剣な表情を顔に浮かべている。えも言われぬ緊迫した雰囲気が場を覆い尽くす。
それは女達も同じようで、苧環、月ノ宮、一厘、形製の4名も場の空気に呑まれている。
緊張感溢れる場の空気を切り裂くかのように、寒村の深い声が木霊する。
「貴殿等・・・覚悟はよろしいか?」
それは、これから戦場に赴こうとする男達に今一度熟慮する機会を与えるための一言か。
しかし、ここに集まった男達の心は既に決まっていた。その意思を代表するかのように荒我が宣言する。
「ここまで来てそれは無いぜ、寒村・・・先輩!!ここにいる時点で俺達の意思はもう動きようが無え程固まっちまってるぜ!!」
他の者達は言葉にこそ表さないものの、荒我の宣言を否定する気は微塵も無いようだ。
それらを見定めた寒村は少し苦笑いしながらも毅然とした声を張り上げる。
「そうか。それはすまなかった。では・・・押花!!号令を!!」
「りょ、了解っす!!」
寒村から指示を受けた押花は目を瞑る。これから自分が担う大役の重圧に押し潰されそうになる。
しかし、風紀委員の1人である以上、ここで醜態を晒すわけにはいかない。
「では・・・いきます!!」
深く呼吸する。気を落ち着かせる。精神を研ぎ澄ます。全ての感覚に意識を張り巡らせる。
そして・・・始まる。男達の意地と信念を懸けた闘いが。
「だ―」
「うおおおおおおおおおお!!!!」
ドカーン!!!
「・・・速見先輩!OUTっす!!」
「速見君!!大丈夫か!!?」
「あ~、酉無先生。速見のことは任せましたぜ。さっさと起こして追試させないと」
「・・・鬼ですね。餅川先生」
号令を発し始めたその瞬間に速見が“速見スパイラル”を発動、ものの見事に壁に衝突した。
同僚の
餅川晴栄の言葉を受け、気絶した速見を担ぎ、追試を行う教室に向かう
酉無沢雄。それを呆然と見送る女性陣。
片や男性陣はそんな速見に見向きもしない。酉無に声を掛けた餅川でさえ、顔と体は速見の方を向いてはいなかった。
「・・・それじゃあ、次いきます!!」
そう、これは男達の意地と信念を懸けた闘い。
男子校の性ゆえに、いつもは女性と接する機会が皆無に等しい彼等に訪れた絶好のアピールタイム。
その名も・・・
「だーるまさーんが・・・転んだ!!!」
『だるまさんが転んでも漢は踏み止まれゲーム』。女子に己が魅力を知らしめる壮絶なアピール合戦の幕開けである。
c,continue??
最終更新:2012年04月18日 20:52