「だーるまさーんが・・・転んだ!!!」
「(何でこんなことをしているんだろう・・・?)」

押花の号令を受けて止まった初瀬は心の中で吐露する。確か自分達には一刻も早く解決しなければならない事案がある筈だ。
なのに、今やっていることは『だるまさんが転んだ』ならぬ『だるまさんが転んでも漢は踏み止まれゲーム』。何故こうなった?
そんな初瀬の疑問なぞどこ吹く風の如く、周囲の男共は騒ぎ立てる。
例えば、荒我達はというと、

「ってか餅川先生!!何であんたがこのゲームに参戦してんですか!!?」
「うるせえ!お前ら不良3人組が危ねえヤマに首突っ込もうと話しているのを、盗み聞きしていたからな!!
教師として黙って見過ごすわけにはいかねえだろ!!(お前らにオンナなんて百年早えーんだよ!!)」
「(さっき感じた視線は餅川先生だったのかよ!こちとら情報を得るためにはこのゲーム、絶対に負けるわけにはいかねえってのに!!)」
「荒我君!こうなったら意地でも負けられないでやんすね!(あの茶髪の目がキラキラ光っている女の子・・・好みでやんす)」
「そうだね、梯君。荒我兄貴のためにも頑張ろう!(俺の『思考回廊』が効かないあの金髪の子・・・フッフッ、ナンパ師の血が騒ぐね)」

一方界刺達はというと、

「(クソッ、何でこんなゲームに駆り出される羽目になってんだ!?やっぱりバカ形製に関わると碌なことにならねえ。こうなったらテキトーに・・・)」
「界刺様ー!!このゲーム、頑張って光って下さいねぇー!!ハァハァ」
「ああ、もちろんだとも!!」
「不動さんも頑張って下さいねえ。じゃないと、苧環に何されても知らないですよー」
「ああ、わかってる!!(このゲームに勝利すれば服の件もチャラになる。それに・・・ともかく何としても勝たねば!!)」

他方初瀬以外の風紀委員はというと、

「次いきますよー!!(一厘にいいトコ見せるチャンスっす!)」
「偶には体を動かさねえと体も鈍っちまうし、丁度いい運動になりそうだ(あの苧環って女・・・相当プライドが高いと見た。モロタイプだ)」
「さて、審判の寒村の分まで頑張ろうかな(特定の1人に絞るなんて勿体無い。ここにいる女の子達全てに僕の素晴らしい筋肉美を見せ付けてあげよう!!)」
「(・・・本当に何でこんなことをしているんだろう?)」

皆のテンションの高さに付いて行けず、しかしながら今更やめるなどとは言えない初瀬は、再びの疑問を心の中で吐露するのであった。



「だるまさんが転んだ!!!」
「何でこんなことになったんだろう・・・?」
「さあ・・・私にも何が何だか。男性陣が勝手に盛り上がってたのはわかるんですが・・・。あ、また界刺様が光を!!ハァハァ」
「本当に大丈夫なんでしょうね、形製?あんなチャラついた男達に任せて」
「大丈夫、大丈夫。あー見えても不動さんやマヌケ界刺ってやる時はやる男だよ」

初瀬と同じように、今更ながら疑問を呟く一厘に恍惚顔を浮かべながら反応する月ノ宮。
それを他所に、苧環は形製に自分達の参戦を賭けた男達の実力に疑問符を投げ掛けていた。

「でもねえ。あいつ等、何だか知らないけど体が震えているわよ。まるで、『現在進行中で筋肉痛が体全体を襲っている』みたいに」
「ギクッ・・・。ど、どうせ男子校らしくバカなことでもやってたんじゃない?」
「ふ~ん。男子校はわからないことだらけね。そもそも男子校に足を踏み入れるのも今日が初めてだし。そのあたりはどうなの、一厘?」
「何で私に聞くの!?」
「あなた、風紀委員なんでしょ?ここの風紀委員とも顔見知りのようだし」
「そ、そりゃ風紀委員繋がりで少しは知っているけど」
「で?結局どうなのよ?男子校の生徒ってバカなことばかりしてたりするの?」
「・・・・・・・・・」
「一厘?」
「・・・確かに普段はバカなことばかりしてると思う」
「ふ~ん。形製の言う通りか。とてもじゃないけど、私達常盤台では考えられないわね。世界は広い」
「苧環様・・・さすがです!!」
「(フ~。何とか騙せた・・・)」



刻は少し遡る。
初瀬達3人が風紀委員支部へ戻った時は丁度椎倉が主導の作戦会議(一厘も同席)が開かれていた。
戻った初瀬が自分達に起きた出来事と情報を伝え、苧環が同行許可を求めたが椎倉達3年生組は難色を示した。曰く「成瀬台内の問題だ」と。
業を煮やした苧環が力尽くで許可をもぎ取ろうと電撃による脅しを仕掛けたが、電撃を浴びせた対象が勇路と寒村という肉体再生系統の能力者であったため、
効果が無いどころか、電撃を浴びせる度に何故か服が脱げて行くので、さすがの苧環も電撃による力尽くの交渉を中断せざるを得なくなった。

そんな最中に支部の外で大きな爆発音が聞こえてきたのである。
初瀬達が慌てて外に出ると、そこには吹っ飛ばされた荒我達不良3人組と、何故か3人組の下敷きになっている成瀬台高校の制服を着た男が、
その隣には不自然に体を震わせている界刺と不動が、そしてその中心に常盤台の制服を着た女の子―形製が初瀬達を待ち受けていた。

形製は自分達に起きた出来事及び『分身人形』で読み取った情報を告白、
その情報と初瀬達が手に入れた情報、椎倉達が収集した情報を繋ぎ合わせることで、事件の全貌が明確になった。
すぐにでも作戦会議を再開させたい初瀬達風紀委員組に、苧環が食い下がる。それを宥める一厘だったが苧環は譲らない。
そんな時に形製が苧環にある提案をした。
「この2人は『シンボル』っていう学園都市を守ろうとするグループに所属しているから、この2人に任せてみれば?」と。
当然初瀬達風紀委員は反対したが、形製は情報の対価として界刺と不動の参戦を要求した。
初瀬達が明確に断れなかった。何故なら今回の事件の黒幕やスキルアウトの居場所等の情報は、
形製が引き出したものだったからである。(模部駄からは時間制限もあってそこまで引き出せなかった)
もちろん、界刺と不動の意思は無視していたため2人からは反対されたが、服の件を盾に無理矢理同意を取り付けた。

そこに割って入ろうとする気が付いたばっかりの荒我組。彼らの要求は情報それ1点のみ。
実は、武佐の『思考回廊』による盗み視を敢行しようとした瞬間に不動によって吹っ飛ばされたため何の情報も掴めておらず、
加えてさっきまで気絶していたために形製の情報も聞き逃していた。

そこで形製はある提案をする。「だったら成瀬台の高校生同士で勝負して白黒はっきりつけよう」と。つまり、

  • 勝負形式は風紀委員組が決めたものを採用する。
  • 風紀委員組が勝利すれば、今回の事案に対しては風紀委員だけで対処する。
  • 荒我組が勝利すれば、風紀委員や形製から情報を聞き出せる。
  • 界刺・不動組が勝利すれば、界刺・不動・苧環・月ノ宮の同行を認める。

これらを情報の対価として提案・要求する形製。数分の沈黙後、椎倉は形製の提案を受け入れた。
そして、熟慮の末に考え出した勝負形式が『だるまさんが転んでも漢は踏み止まれゲーム』であった。
何故か初瀬以外の男は各々の理由でやる気に満ち溢れていたが。本来なら迷惑を被る側の風紀委員達も。



刻は今に戻る



「だるまーさんーが・・転ん~~だ!!あ!不動先輩OUTです!!」
「な、何故だ!!私はピタリと止まっていた筈・・・」
「俺の目はごまかせないっすよ!!俺が振り向いた瞬間、確かに膝が動いていましたよ!!」
「な・・・な・・・」
「伊達に“成瀬台の韋駄天”とは呼ばれていないっすよ!買出しのために駆け回る際に一番重要なのは脚力じゃ無くて動体視力っす!!
一瞬の判断で人込みを駆け分け続けた時間が俺の動体視力を極限まで鍛え上げたんっす!!」
「不覚・・・!!!」
「押花君・・・すごいな」

思わぬ押花の能力に驚く男達。勇路は思わず感嘆の言葉を漏らす。対照的に不動は苦渋に満ちた顔を露にした。
そんな光景を受け、女性陣もざわつき始める。

「ちょ、ちょっと、形製!あの眼鏡男、早々に脱落しちゃったわよ!!」
「え、ええ。(こんなことなら、あんなことさせなければよかったかな)」
「苧環様・・・どうなっちゃうんですか!?」
「こんなことなら、ルールを捻じ曲げても私自ら参戦するべきだったかしら?
残りがあの無駄にキラキラしたチャラ男だなんて。あいつもすぐに脱落しそうな気がするわ」

苧環の目に映る、しかめっ面をしている碧髪の男には頼りがいというものが全く存在しないように思えた。それは月ノ宮も一厘も同様に感じているようだ。
そんな彼女達に形製は真剣味を帯びた声で忠告する。

「・・・バカ界刺を余り軽く見ない方がいいよ」
「・・・ふ~ん。あなたがフォローに回るなんて意外ね、形製。え~と、何だっけ?『シンボル』っていうグループのリーダーだっけ?一厘?」
「ええ、私達風紀委員みたいに学園都市の治安を守ろうと活動している非公式グループのリーダーがあのチャラ男。
まさか、形製さんがそのグループの隠れメンバーだったなんて。驚きましたよ」
「あ!それだけど、他の人や風紀委員にはオフレコね、一厘。よろしく!」
「ウチで何の派閥にも属さず、作らずで珍しいと思っていたけど、既に所属済みだったわけね」
「まあ、そうなるかな」
「確かに属するグループの長をバカにされたら、誰だっていい気分にはならないわよね」
「そんなんじゃ無いよ。アホ界刺は途方も無いおバカさんだから、むしろバカにされて当然だよ」
「じゃあ、何故フォローを?」

苧環は不思議に思う。形製自身があれ程無下に取り扱う男を何故当の形製本人が庇うのか。
そんな苧環の疑問に呼応するかのように形製の声は低くなる。表情もどこか深刻そうな様相を浮かべる彼女は言葉を発する。

「フォローじゃ無いよ。ただの感想・・・。何せあたしが“恐怖”を抱いた人間は、後にも先にもあいつ・・・界刺得世ただ1人だけだから」
「“恐怖”?あなたが?」
「ええ。それともう1点。これは同じ学校に通う者としての忠告。もし、ボケナス界刺が『本気』で潰す気なら・・・苧環、君でも瞬殺されるかもね」
「え・・!!苧環様が!?」
「瞬殺!!?」
「!!へぇ~、界刺得世・・・ね。その言い方だと、あなたはあの男の『本気』を見たことがあるように聞こえるんだけど」
「いや、見たことは無いよ」
「?」
「(だからこそ・・・界刺を『本気』にさせないために、あたしは『シンボル』にいるんだから!!)」

形製の視線が界刺に注がれる。筋肉痛に悶え苦しむ彼の顔を見て、己の意思を改めて確認する。それは誓いにも似た決意の旗(シンボル)が如く。


OUT組:速見、不動
IN組:初瀬、椎倉、勇路、荒我、梯、武佐、界刺、餅川

continue!!

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最終更新:2012年04月18日 20:54