「やっぱりあなたもレベル4だったのね・・・いや、レベル4ばかりになるのか」
「うん、そうだけど何か?」
「・・・別に」
話しているのは界刺と一厘。2人は自分が食べるおかず等を選び、皿に取っている途中なのだ。
「確か君もレベル4だっけ?」
「そうよ。それが何か?」
「別に。ただ聞いてみただけ」
一厘はパスタを皿に、界刺は唐揚げを皿に載せていく。
「そういえば・・・あの苧環って奴もやっぱりレベル4なの?」
「苧環?ええ、そうよ」
「ふ~ん、そっかそっか」
「・・・何よ?」
「いや、別に」
一厘は新たにサラダを皿に載せ、界刺は焼きソバを皿に載せる。
「あなたの言う通り、何とかなったみたいね」
「そうみたいだね。・・・何か気になることでも?」
「別に」
2人同時に飲み物を選び終え、後はテーブルに戻るだけ。
「・・・あなたって本当に変わってるわ」
「そう?全然自覚無いけど。まあ、リンちゃん程地味では無いとは思ってるけど」
「リンちゃんって何!?もしかして私のこと!?」
「そうだよ。
一厘鈴音。[リン]って音が君の名前に2つ入っているからリンちゃん。それか、リンリンでもいいなあ」
「勝手に人の渾名を決めないでくれる!?」
「別にいいじゃん。結構イケてるよ。その渾名」
「いや、あなたが良くても私は・・・」
「んじゃ、君んトコのメンバーに聞いてみるか。俺が命名した渾名がイケてるかイケてないか、君の仲間に判断してもらおう」
「はっ?ちょっ、ちょっと待っ・・・待ちなさーい!!!」
必要量を皿に取り終えた2人は色んな意味で賑やかに喋りながらテーブルに戻っていく。
その後・・・戻ったテーブルで幾つもの笑い声が発生したのは言うまでも無い。
「まあ、ぶっちゃけ気を落とすなって、リンちゃん!・・・プッ!」
「そうだぞ、リンリン!いい渾名を付けてもらったじゃないか・・・くくっ!」
「鉄枷!!破輩先輩も!!笑うくらいなら最初から名前で呼んで下さいよ!!」
「気に入ってもらえたようだね、リンちゃん」
「どこが!?馬鹿にされてる風にしか見えないんだけど!?」
鉄枷と破輩の抑え切れない笑い声に反応し、界刺の言葉にまた反応する[リンちゃん][リンリン]こと一厘。
どうやら界刺が命名した渾名呼びは仲間に好評のようである。
「もう!!何で私がこんな目に遭わないといけないの?」
「えっ?イイ目に遭ってるじゃん」
「ど・こ・が!?あんたの目は節穴か!!このバカ界刺!!」
「・・・形製の口調が移ってるんだけど」
「はっ!す、すみません。か、界刺さん」
「ハハハ!いやー、まさか一厘の・・・じゃなかった。リンリンのここまでのうろたえ様を目にできるとはぶっちゃけ思わなかったぜ」
「一厘さんの・・・じゃない。リンちゃんさんの怒涛のツッコミ、私も初めて見ました。こんなリンちゃんさんの姿は新鮮ですね」
「リンリンって渾名、俺は好きですよ、一厘さん・・・あ、間違えた。リンリンさん!」
「浸透しちゃってる・・・もう嫌ぁ~」
支部員の反応にガクリとする一厘。この瞬間、今後支部内では[リンちゃん]or[リンリン]と呼ばれることが確定した。
「・・・あのぅ、ちょっといいですか?」
「む?何だ?」
そんな中、159支部のメンバーの1人である春咲が不動に質問を投げ掛ける。
「『
シンボル』の皆さんって全員レベル4・・・つまり高位能力者なんですよね?」
「ああ。今の所はな」
「あの・・・その・・・」
「む?どうした?」
「春咲先輩?」
言い淀む春咲に対して不審がる不動。鉄枷も不動と同様に春咲の態度を疑問に思ったようだ
「皆さんから見て・・・無能力者やレベルの低い能力者ってどう思われますか?例えば『シンボル』での活動の際とか・・・」
「どうと言われてもな。私個人的には何も思わない。もちろん卑下したりとか、そんな感情は一切抱かない」
「・・・私も不動先輩と同じです。レベルの上下で・・・人を判断したりしません」
「バクバクボリボリバリバリベリベリはむはむガツガツザツザツ(ボクも不動や水楯チャンと同じだよ~。レベルなんてどうでもいいなあ)」
不動、水楯、仮屋は自身の思考に合わせた回答をする。その回答に風紀委員達は納得しているようだ・・・春咲を除いて。
「か、界刺さんは・・・どう思われます?」
「うん?俺?」
「私も興味あるなぁ~。界刺さんがどう考えているのか・・・ね」
『シンボル』の中で唯一回答しなかった界刺に向けて、春咲はもう一度質問を投げ掛ける。一厘も界刺の回答に興味を抱いているようだ。
「う~ん・・・」
「界刺さん?」
「基本的には俺も真刺達と一緒だよ?俺にとっては無能力者だろうがレベルの低い能力者だろうが関係無いし。ってか、どうでもいいな」
「・・・そうですか」
「但し!」
「?」
「俺的には、そいつ等には身の程を弁えろとは言いたいね」
「!!」
「大体さ、誰にだって生まれつきの才能ってのはあるんだよな。努力で補うにも限界はある。
ある2人が同じ努力をしたとして、それでも差が出ちまうのはやっぱ才能だと思うよ」
「・・・・・・」
「おい、てめぇ・・・何が言いたいんだよ」
界刺の発言にイラつき始める鉄枷。その怒りは拳を握り締める程に。
彼は知っている。界刺が話している相手―いつの間にか顔が俯いている春咲―がレベル2、つまりレベルの低い能力者であることを。
「へっ?つまりさ、自分の才能を見極めて行動しろって言いたいの。『シンボル』で活動してる時にちょっと思ってることだけど、
ひっ捕らえたスキルアウトからよく耳にする言葉が『テメェ等能力者の偉そうな態度が~』っていう台詞なんだよ。君達だって聞いたことあるんじゃない?
そういう奴等に限って身の丈を超えるようなことばっかり望んだりするんだよね。現実を受け入れなきゃいけないと俺は思っ・・・」
「てめぇ!!!」
ボコッ!!
店内に響き渡る音。それは我慢ができなくなった鉄枷がテーブル越しに界刺の左頬を殴った音。
「鉄枷!?」
「て、鉄枷君!?」
殴るという行動に驚きの声を挙げる一厘と春咲。だが、2人の声は鉄枷には届いていないようで、
「っざけんな、オラァ!!!」
「鉄枷!!落ち着け!!」
更なる追撃を加えようとする鉄枷。それを止めようとする佐野。その瞬間、
ザクッ!!
それは、水。それは、コップに入っていた水。その水が鉄枷の左頬に一筋の傷を負わせたのだ。
「・・・下がれ・・・!!」
怒りに満ちた低い声を挙げた少女―水楯―が、その殺気を帯びた眼光を鉄枷に向ける。
「・・・この人に危害を加える者は・・・誰だろうと潰す!!」
水楯は自身の能力『粘水操作』で操作・圧縮したコップの水を一気に解放、まるでウォーターカッターの如き鋭さを帯びた水の噴射を行使したのだ。
水楯の眼光に怯みそうになる鉄枷。しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。自分の慕う先輩を傷付けた奴を決して許すわけにはいかない。
「やんのか、コラ」
「・・・お望みなら」
周囲を無視し、戦闘態勢に入りそうになる2人。これ以上は危険と判断した破輩や不動が止めに入ろうとしたその時、
ピカー!!
「「!?」」
閃光が煌いた。思わず目を瞑る鉄枷と水楯。他の者達も同様に。一瞬の煌きの後に、2人に声が掛かる。
「涙簾ちゃん・・・。やめるんだ。俺は大丈夫だよ。そっちの・・・鉄枷って言ったか、そっちも手を引っ込めろ」
「界刺さん!」
「てめぇ・・・」
声の主は界刺。鉄枷に殴られた左頬は腫れてはいるものの、何とか話すことはできるようだ。
「・・・大丈夫ですか?」
「かなり痛いけどね。力あるなあ・・・。さすがは風紀委員って所か」
「てめぇ」
「ったく、いきなりの力ずくか。嫌いじゃないけど、一応聞こうか?何で俺を殴ったんだ?」
「ああ?そんなこともわからねぇのか?てめぇがくだらねぇことをほざいたからに決まってんだろうが!!」
「くだらないこと・・・ね。それはさ、『誰にとって』のくだらないことなの?」
「・・・何?」
「俺はさ、人の話をよく聞かないって真刺とかからよく言われるんだよね。事実だけど。そのせいか、他人をよく怒らせちゃうんだよ。
だから、教えて欲しい。君は『誰にとって』のくだらないことを俺が言ったから怒ったんだろ?なら、それは『誰』なんだい?」
「そ、それは・・・」
界刺の質問に鉄枷は答えない。否、答えられない。何故なら、『誰』のために怒ったというのを明らかにするということは・・・
「もう、いいよ。鉄枷君。ありがと、私のために怒ってくれて」
「は、春咲先輩・・・」
そんな鉄枷に声を掛けたのは、『誰』こと春咲である。
「界刺さんも、本当にすみませんでした。私が変な質問をしちゃったせいで、鉄枷君に」
「いや、別にそちらさん・・・鉄枷には何も怒ってないから気にしないで」
「春咲先輩・・・俺・・・」
「鉄枷君も界刺さんにちゃんと謝って。じゃないと、私、鉄枷君を許さないから」
「あ、春咲先輩!」
界刺と鉄枷に声を掛けた後、座っているイスから立ち上がり帰り支度をする春咲。
「破輩先輩。申し訳ないんですが、これから用事が」
「ああ、そうだったわね。ワリカンのお代は学校で貰うから気にしないでいいわよ」
「ありがとうございます」
破輩に帰宅の旨を告げると、春咲はもう一度テーブルに向かって言葉を放つ。
「皆、そして『シンボル』の人達も。楽しいバイキングを潰してしまって本当に申し訳ありませんでした。
この埋め合わせは後で必ずしますから!申し訳ありませんが、今日は失礼します!」
お辞儀と共に謝罪し、足早に店を後にする春咲。それを見送った後、鉄枷はグッタリとイスのもたれ掛ける。
「ホントすまないね。まさか、ウチの支部員がこんなことをしてしまうなんて」
「いや、必要以上に気にしないでくれ。責任の一端はこちらにもある」
破輩と不動が言葉を交わす中、界刺は窓から店の外を窺っていた。その視線の先にあるのは・・・春咲。
「界刺さん・・・?」
「どうしたの・・・恐い目付きしちゃって。・・・やっぱ怒ってる?」
そこに、水楯と一厘が声を掛ける。
「・・・気に入らないね、あの子」
「春咲さん・・・ですか?」
「春咲先輩のこと?確かに先輩があなたに変な質問しちゃったからこうなったけど・・・」
「・・・違う。そうじゃない」
「「?」」
「さっきの俺の言葉を聞いていなかった?『鉄枷には何も怒ってない』って言っただろ?・・・別に俺はあの子を許したわけじゃない。・・・卑怯だね、あの子」
「ど、どういうことよ?」
「知りたきゃ、付いてくるといい。真刺、俺もちょっと席外すわ!ワリカンのお代は明日にでも払うから、今日の所はお願い!」
「えっ?おい、得世!どういう・・・」
「急用ができた!」
「急用って何だ?」
「涙簾ちゃんとリンリンとのWデート!」
「はっ!!?」
「・・・デート」
「んなことするかー!!」
不動や159支部のメンバーの疑問・不審の目を無視し、界刺は水楯と一厘を引き連れて店を後にする。春咲を追うために。
continue…?
最終更新:2012年04月21日 00:41