「(ねぇってば!一体どういうことか説明してよ!春咲先輩が卑怯ってどういうこと!?)」
「(・・・そんなこともわからなかったの?リンリンって、ひょっとして人を見る目が無かったりして)」
「(こ、この男に馬鹿にされるのがこんなに腹が立つなんて・・・鉄枷以上だわ)」
「(・・・わからなかった)」

深夜の道を駆け足で進む界刺、水楯、一厘の3人。目的は1つ。風紀委員159支部メンバーの1人、春咲桜を尾行するためである。

「(いいから、さっさと教えなさいよ!ボケナス界刺!)」
「(君・・・ホントに口が悪いね。そんなんじゃあ、男にモテないよ?)」
「(あ・ん・た・にだけは言われたくないわよ!)」
「(・・・何だか流麗が隣にいるみたい)」

彼等3人はヒソヒソ声で会話のやり取りをしている。春咲に気取られないようにするためである。

「(仕方無いなぁ。そんじゃあ観察眼がナマクラも同然なリンちゃんのために、わ・か・り・や・す・く・説明してあげる)」
「(くぅ~!!!クソ腹立つ!!!)」
「(と、その前に1つだけ質問があるんだけど)」
「(何よ!!)」
「(彼女・・・春咲って子のレベルは幾つ?)」
「(・・・レベル2よ)」
「(・・・そうか)」




「(喉渇いた・・・)」

春咲桜はある公園にいた。急いでいたために、喉が渇いてしまったのである。

「(まだ、集合時間までには時間があるし・・・自販機で飲み物を買おう)」

公園内のベンチに荷物を置き、近くにある自販機に足を運ぶ春咲。
自販機にお金を投入し、好物の『ブロッコリーコーラ』を選択する。自販機から取り出し、コーラの栓を開け、口を付ける。

「ゴクッ、ゴクッ、プハー。・・・おいしい」
「よ!イイ飲みっぷり!!惚れ惚れするねぇ!」
「!?」

その最中に、急に後ろから声を掛けられ驚く春咲。振り返ると、

「か、界刺さん!?」
「え~と、何々。『ブロッコリーコーラ』・・・何だかマズそうな音の響きなんだけど。何かこう、組み合わせちゃいけないような」
「こ、これはこれでおいしいんです!というか、何でこんな所にあなたがいるんですか!?」

『ブロッコリーコーラ』について言及する界刺に戸惑いながらも、冷静に質問をする春咲・・・

「いやね、君が店に忘れ物をしていたから届けに来たんだよ」
「忘れ物?」

であったが、

「この・・・ガスマスクさ!」
「!!!」

瞬間―春咲は心臓が止まるかと思った。瞬間的に自身の能力『劣化転送』を発動する。

「おっ!」
「(な、何で『アレ』が店に!!?わ、わた、私!!バッグの中に入ってるのを確認して店を出たのに!!!ど、どうして!!?)」

混乱の極みにある春咲。何故なら『アレ』は春咲が向かう場所で絶対に必要な物、春咲が持っていることを誰にも知られてはいけない物であるからだ。
そんな思考の迷宮に嵌りつつある春咲を界刺の一言が現実へ引き戻す。

「空間移動能力か・・・スゲーな」
「・・・・・・スゴイ?」

それは、春咲の能力『劣化転送』への賛辞の言葉。今まで春咲が・・・159支部のメンバー以外からは聞いたことの無い言葉。

「私の能力が・・・スゴイ?自分の手元にしか移動できない、移動できるのは手元にあるものだけ、重量も30kg以下っていう低レベルなのに・・・ですか?」
「ああ、スゲーよ。空間移動を行使できるって時点で俺はスゲーと思うよ」

『あなたの能力名が低レベルの分際で物体転移だったら同じ物体転移能力の人に失礼。だからあなたの能力名は今日から劣化転送よぉ?』

「レベルなんてどうでもよくね?能力ってのは使う奴次第だし。この能力を生かすも殺すも君次第だろ?君次第でこの能力は化けると思うぜ?」
「・・・随分とわかったような口を利くんですね」
「ん?」

いつの間にか俯いていた春咲から声が漏れる。それは怒りが篭った声。

「さっきもそう・・・『身の程を弁えろ』?『自分の才能を見極めて行動しろ』?あなたに・・・あなたみたいな高位能力者に私の何がわかるって言うんです!!」
「・・・」

『雑草がどれだけ頑張っても周りにとっては邪魔なだけ。分かるぅ桜?』

「あなたみたいな能力者がいるから!!無能力者やレベルの低い能力者が反発するんです!!『どうでもいい』?あなたは・・・傲慢です!!」
「おたくの支部にだってレベル4がいるけど?」
「破輩先輩達はあなたとは違います!!すごく優しくて・・・時には護ってくれて・・・」
「んで、憎らしいってか?」
「!?に、憎いだなんて・・・そんなことあるわけない!!」
「それじゃあ、何で鉄枷の野郎を俺に嗾けたんだ?」
「嗾ける・・・鉄枷君を・・・?何で私がそんなこと・・・」
「君・・・ここまできて白を切るつもりかい?卑怯だね、君は」
「卑怯!?な、何を言って・・・」

春咲の態度を見てある決断をする界刺。そして、口を開き始める。

「君は俺達に尋ねたよね?『高位能力者から見て無能力者やレベルの低い能力者はどう映る』と?」
「え、えぇ」
「それに対し真刺、涙簾ちゃん、仮屋様は『何も思わない』『レベルなんて関係ない』と答えた。そうだね?」
「その通りですよ!それがどうし・・・」
「でも、君は納得しなかった。違うかい?」
「!!」
「もし、真刺達の答えで納得しているなら俺には聞いてこないよね?」
「そ、それは界刺さん1人だけ聞かないってわけには」
「だとしても、俺の回答を受けての君の反応は真刺達の時とは違っていたよ?
真刺達の回答を聞いた159支部のメンバーが納得の表情を浮かべていた時、君1人だけ浮かない顔をしていた」
「!!」
「ところがだ。俺の時は君、確か俯いていたよね?俺はその態度を見て最初は『何かカンに触ったのかな』くらいにしか考えてなかったけど・・・
違うね?あれはわざとだろう?鉄枷を俺に嗾けるための演技だろう?」
「ち、違っ・・・」
「なら、何で鉄枷に謝らなかった?」
「えっ・・・?」
「君は俺にしか謝っていない。『自分が変なことを質問したせいで鉄枷が俺を殴った』ことについて、鉄枷が一番悪いと君は決め付けた。君のために怒ったあいつをね」
「そ、そんな・・・私だって変な質問をしたせいでってちゃんと・・・」
「それを鉄枷に向けて言ったの?言ってないでしょ?君は最初から鉄枷に謝る気が無かったんだよ。
君は鉄枷が自分のために怒ったのは認めても、自分が直接手を汚したことじゃないから、鉄枷に対して謝罪という選択肢が浮かばなかった。
何故なら、俺を殴ったのは鉄枷の自発的行為だと君が考えているから。いや、そう仕向けたから」
「!!」
「『私、鉄枷君を許さないから』?・・・笑わせんな。
俺が光学系能力者ってのは知ってんだろ?そんな俺の目に入る光をちょちょいと曲げればさ、
俯いている君の表情くらい見るのってわけないんだよね~。あの時の君さぁ・・・笑ってただろうが・・・!!」
「・・・!!」




静寂が訪れる。




「・・・・・・見られちゃってましたか」
「ああ、見えてた」
「やっぱり高位能力者ってスゴイですねぇ」
「まあ、それなりにはスゴイんじゃねぇ?」

世間話のような会話。しかし、剣呑とした空気は以前収まる気配を見せない。

「で、どうするんです?このことを破輩先輩達に言うんですか?」
「言うかどうかはまだ決めていないけど、もし言うんならこれだけじゃ無い」
「えっ?」
「君がこれから向かう先・・・『救済委員<ジャスティス>』との接触を図ることももちろん言うよ」
「なっ!?何で・・・はっ!光学系能力・・・まさか、さっきの忘れ物って!!」
「うん、ウソ。君がバッグをベンチに置いて自販機に行ってる時に、不可視状態でゴソゴソと。
まさか、『救済委員』という文字を拝むことになるとは思わなかったけど。・・・そんなに今の環境が嫌かい?」

全てバレている。そう判断した春咲は重い口を開く。

「ええ・・・嫌ですよ。嫌に決まってるじゃないですか!!私の周りはレベルの高い人ばかり!!私だけが、私のレベルだけが低い!!
何で私なの!?何で私だけなの!?家族の中で、何で私は除け者にされちゃうの!!?
風紀委員の皆は・・・優しい。でも、誰1人だって私の本当の気持ちに気が付かない!!気が付いてくれない!!
『大丈夫だよ』って。『レベルなんて関係無い』ってそればかり。大丈夫なわけ無いでしょ!!関係無いわけないでしょ!!!
そんな・・・こんな私に気を使ってくれる皆が・・・とてつもなく煩わしかった!!その気配りが・・・私だけが無力だと証明しているかのようで!!
私は・・・私は無力なんかじゃ無い!!弱くなんか無い!!だから証明する!!証明する場所がいる!!私1人だからこそ意味がある場所が・・・必要なの!!!」

それは、春咲桜という少女が心の奥底で眠らせていた嫉妬であり、羨望であり、憎悪であった。

「ふ~ん、そっか。多分だけど・・・死ぬよ、君?」
「死なんか恐れない!!今の・・・今までの私でいるくらいなら、死んだ方がマシよ!!」

界刺の忠告も今の春咲には届かない。そう判断した界刺は踵を返す。

「死んだ方がマシ・・・か。あ~、アホらし。ヤメだヤメ」
「えっ・・・」
「君が馬鹿やって馬鹿な目を見るって言うんだから、それでいいんじゃない?馬鹿は死ななきゃ治らないってのはこういうことを指すんだな」
「・・・・・・」
「だからさ、君の仲間へチクるのもやめとくよ。」
「えっ」
「君はさ、少し社会勉強をした方がいい。そして痛い目を見るといい。その代償が死であっても。今の君は・・・まるで蛙さ。井の中のね。人のことは言えないけど」

そうして界刺は去って行った。その背を見送る春咲はしばし呆然としていたが、ふと時計を確認し、慌ててバッグを持って集合場所へと向かって行った。




「・・・よく我慢したね、リンリン?」
「・・・あなたが『絶対に出てくるな』って言うからでしょ?でなきゃとっくに飛び出てるわよ」
「・・・危うく飛び出そうな所を私が抑えました」
「シー!!それは内緒にしておいてよ!」
「やっぱり・・・。ありがと、涙簾ちゃん」

ここは、公園内部。実は一厘や水楯は界刺の能力で不可視状態に身を置き、その上で界刺と春咲のやり取りを一部始終観察していたのである。

「春咲先輩・・・まさかあんな風に思っていただなんて」
「ありゃ、相当参ってるな。ストレス爆発寸前ってヤツ?あの手の女の子は何をするかわかったもんじゃないよ」
「春咲先輩に限ってそんな!」
「いや、あれはヤベーな。おそらく周囲にバレないためにも風紀委員と『救済委員』、二束の草鞋を履くつもりなんだろうが、
普通に考えたって体力的・精神的に休まる時が無いねぇ」
「・・・どうにかしてやめさせられないんですか?」
「・・・無理だろ。むしろ、無理矢理やめさせるなんて強硬手段を取ったら・・・それこそ取り返しのつかないことになりかねない」
「・・・どうしたらいいんだろう、私?春咲先輩・・・」

仲間の心情を慮れなかった自分の不甲斐無さから涙声になる一厘。このまま黙って見ているしかないのか?一厘の心が罪悪感に呑まれそうになる。

「・・・何とかなりませんか、界刺さん?」

そんな時、水楯が界刺に話し掛けた。

「涙簾ちゃん・・・」
「あの人・・・すごく苦しんでいます。かつての私のように、人を信じられなくなっています」
「水楯・・・さん?」

普段は寡黙な水楯が言葉を連ねる。

「でも・・・私は界刺さんと出会って救われました。変わることができました。その結果、今こうやって界刺さんの隣に立つことができています」
「・・・」
「だから・・・界刺さん。あの人を、春咲さんを救えないでしょうか?自分で自分を追い詰めている彼女を、私達の手で」
「・・・で、きるん、です、か?春咲先輩を助けることが・・・?あなたなら・・・!」

水楯の言葉を受けて一厘が顔を上げる。その視線の先にいる男―界刺―に向けて声を挙げる。

「・・・・・・はぁ、しょうがねぇなあ。ったく、筋肉痛になるわ、男にぶん殴られるわ、極め付きは女難かよ。あの子じゃ無ぇけど嫌になるぜ」
「それでこそ、界刺さんです」
「というか、これって鉄枷って野郎の仕事じゃないか?」
「仕方ありません。あの人ってすごく鈍臭そうですし」
「涙簾ちゃんってさ・・・もしかしてドS?」
「さぁ、どうでしょう?」

界刺がものすごく嫌そうな顔で水楯を見るが、水楯は素知らぬ顔のまま。そのやりとりを見て一厘は声を出す。

「界刺さん!」
「わかったわかった。あの子に関しては俺がどーにかする。最近溜まりに溜まってるストレスのウサ晴らし相手に丁度いいしな」
「ウ、ウサ晴らし?」
「だからリンちゃん。他の159支部メンバーにはこのことについて絶対に喋るな。普通にしてろ。いいな?」
「わ、わかりました!」
「涙簾ちゃん。今回のことは基本的に俺1人で対処する。でも、対処し切れなくなった時は力を借りるかもしれない。それでいい?」
「はい。私は何時でも界刺さんの力になります」
「リンリン。君の力も借りなきゃいけない時があるかもしれないけど、いいかい?」
「・・・もちろんです!春咲先輩を救えるなら何時だってこの力、あなたに貸しますよ!!」
「んじゃ、行きますかね。はぁ、明日のテストがヤベェかも」
「?何処に行くんですか、界刺さん?」

水楯と一厘と今後の動きを協議した後何処かに向かおうとする界刺に水楯が声を掛ける。

「そんなの決まってるじゃん。学園都市の人間を守りに行くんだよ」




春咲は第7学区に居た。何故いるのか?それは、この先に居る『彼等』に会うためである。

「お、遅くなってすみません」
「やっと来たわね。待ちくたびれた的な?」
「と言っても10分くらい遅れた程度だし、待ちくたびれたという程じゃ無いわ」
「待ち合わせ時間に遅れたことには変わりないでしょう?これでも暇じゃ無いのよ?」

春咲の目の前には4人の男女が居た。その内の2人―峠上下花多狩菊―が遅れて来た春咲に向けて言葉を発する。

「そもそも、あなたがこいつと最初にコンタクトを取った的な話を聞いてるけど、ちゃんと時間厳守的な話はしてるんでしょうね?」
「ええ、それはちゃんと」
「ほ、本当にすみません」

遅刻したことを謝る春咲だが、峠の機嫌は中々直らない。とそこに、

「もういいじゃないか、峠。こいつも謝っているんだし。ちゃんと反省してるってね」
「反省ねぇ・・・。そんなマスクを付けてちゃサッパリ的にわかんないけど。謝る時くらい外したら?」
「そ、それは・・・」
「別にいいじゃねぇか。マスクくらい付けたってよ。第一それを言ったら、こいつはどうなんだよ。なぁ、ゲコ太マスク!!」
「その通り!!人間なら誰しも仮面(ペルソナ)という名の鎧を身に纏っているものだ!!このゲコ太マスクも然り!!」
「あなたが言っても、余り説得力的なものを感じれないけど・・・いや逆的か?・・・頭がこんがらがってくるわ」

4人の内のもう2人―農条態造とゲコ太マスク―が割って入り、峠を落ち着かせる。
実は、春咲は変装してここにやって来たのである。黒のライダースにニット帽、そして顔にはガスマスクを付けており、
格好からは春咲を特定することは困難である。さすがに声で女であることはバレてしまうが。

「まぁ、いいわ。ウチにもこのゲコ太マスクのような奴もいるし、正体を隠したい的な事情ならそれでもいいわ。
今のあなたのように戦闘中にガスマスクを付けている『救済委員』もいるしね。あれは能力的に仕方無くだろうけど」
「よし。それじゃあ、ガスマスク有りでOKってね。あ、そういえば君の名前を聞いていなかった。何て名前なの?」
「あ、安田って言います。よろしくお願いします」
「安田ちゃん・・・ね。わかった。俺は農条態造ってね。よろしく」
「拙者はゲコ太マスクと申す者。おぬしとは気が合いそうだ。よろしく頼むぞ!!」
「最初会った時に名乗っているけど、改めて自己紹介するわ。花多狩菊よ。よろしく」
「・・・はいはい、わかったわよ。自己紹介的なヤツをすればいいんでしょ。峠上下。よく覚えておきなさい」
「は、はい!!」

お互いの自己紹介が終わり、安田もとい春咲はようやく緊張の糸を解していく。
これから目の前の人達や、今はこの場にいない人達と共に『救済委員』として活動することになる。
風紀委員の時は、周囲に頼れる仲間がいた。自分よりレベルも高い心強い能力者に囲まれていた。
ある意味護られていた・・・それが春咲には苦痛だった。己の無力さを浮き彫りにしているようにしか見えなかった
でも、ここ―『救済委員』―ではそうはいかない。0からのスタートだ。活動も人間関係も何もかも。
果たして自分に何ができるのか?レベル2程度の能力しか無い自分がどこまでやれるのか?
ひょっとしたら危険な目に遭うかもしれない。命の危険に関わる事態に遭遇するかもしれない。あの男が言ったように。
でも、やろうと春咲は決めた。もう、誰かに護られ続けるのは嫌だ。弱い自分が嫌だ。強くなりたい。例え自分がどうなろうとも。
そう自問自答していた春咲に、峠から声が掛けられる。

「安田っつったわね、あなた。さっきから何をボケーとしているか知らないけど、早くそっちの連れの紹介的なことをしてくれない?」
「峠がマスクについてイチャモン付けたからでしょ?・・・と言っても私も聞いていなかったけど・・・安田さんの他にもう1人加入したい人がいるなんて話は」
「えっ・・・?」

峠と花多狩の言葉に思わず疑問の声を出す春咲。そこに農条が付け加える。

「全く、峠がくだらないことを気にするから安田ちゃんも言い出し辛かったんだと思うってね。
そういうことだから、安田ちゃん。後ろにいる君と同じ“ガスマスク”を被っている奴の紹介よろしくってね!」
「えっ?後ろって・・・」

ここに来たのは自分1人だけ。そう思った春咲が後ろを振り返った先に居た人間とは・・・

「本っっ当っうにすみませんでした先輩方!!!自分なんかのためにわざわざ貴重なお時間を割いて頂いたこと、誠に感謝しております!!」

そこに居たのは、春咲と同じライダースにニット帽を被り、春咲のと一回り大きさの違うガスマスクを付けた男の姿であった。

「先程の農条先輩とゲコ太先輩の言葉、自分、感激しました!!
マスクの有無で当人の人格など左右されないとのお言葉、自分も全く以ってその通りだと考えます!!」
「そうか!!おぬしもそう思うか!!拙者、おぬしとも気が合いそうだ!!」
「俺は人格云々まで言った覚え無いけど・・・そう感じ取ってくれるなら、俺も何だか嬉しいってね」

思わぬ賞賛の言葉に気を良くするゲコ太マスクと農条。そんな光景を尻目に春咲は混乱していた。

「(な、何なのこの男?何時の間に私の後ろなんかに・・・というかこの声って)」

ガスマスク男が何時から自分の後ろに居たのか疑問に思う春咲であったが、次第にその疑問は“何時から居た”では無く“この声は何処かで”に変わっていく。

「さっきからうるさい!!・・・結局、あなたも『救済委員』になりたい的な話かしら?」
「よくぞ聞いて下さいました!!いかにも自分、尊敬する安田先輩の言葉を受け、恥ずかしながら『救済委員』の末端に加わりたいと思った次第で」
「えっ!?私、そんなこ・・・」
「偉大なる安田先輩曰く!!『無能力者やレベルの低い能力者の気持ちを知ろうとすらしない奴なんて生きる価値無し』と。
自分、その言葉にいたく衝撃を受けまして、こうやって参上した次第であります!!
あ、自己紹介が遅れました。自分、気高き安田先輩が下僕、刺界(しかい)と申す者であります!以後お見知りおきを!!」
「(この声・・・やっぱりさっきのバイキングにいた『シンボル』の・・・)」

刺界と名乗る男―光を操作して春咲と同じ格好に映るようにした界刺―が大声で捲くし立てる。その怒涛の勢いに呆気に取られる峠達。

「えっ、えっと、刺界さんね」
「その通りであります!!」
「じ、事情はよくわかったわ。何だかすごく安田さんを尊敬しているようね」
「は!!自分、誇り高き安田先輩を心の奥底から尊敬しております。この思い、もはや崇拝にすら達する程!!」
「・・・・・・フフッ」
「・・・・・・何だか知らないけど、また変的な奴が来たもんだわ」
「ま、いいじゃないってね。面白そうな奴だし」
「うむ!!農条の申す通り!!」

界刺の言葉に苦笑いする花多狩と呆れ切っている峠とは対照的に面白がる農条とゲコ太マスク。

「ありがとうございます!!自分、粉骨砕身の気概を持って活動に全力を尽くす所存であります!!
先輩方、これからご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い致します!!」
「(えっ、えっ、ど、どうなってるの!?一体全体、何でこんな流れになっちゃってるの!?わ、わけわかんないよ~!!!)」


春咲の混乱を完全に無視して進んだ春咲と界刺の『救済委員』加入話。ここから物語は再び加速する・・・かもしれない。

continue・・・?

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最終更新:2012年04月20日 23:19