今日は
成瀬台高校テスト最終日。そして、それを無事終えた成瀬台風紀委員達は、数日前に激突したスキルアウト達のアジトにいる。
そう、今はテストも終わって数時間しか経っていないのだ。何故ここに立っているのか?
それは、この地区を管轄に治める他支部の風紀委員―
花盛学園風紀委員支部―と合同で実況見分を行うためである。
「椎倉先輩・・・どうしたんですか?ボーっとして」
「そうっすよ、椎倉先輩!これから実況見分なんですから、気を引き締めないと」
「・・・あぁ、わかってる。わかってるんだが・・・」
初瀬と押花がどこかやる気の無い椎倉に対して言葉を投げ掛ける。椎倉は成瀬台を出発した当初からこんな調子であった。
「どうしたのだ、椎倉よ!そんな体たらくでは花盛の風紀委員達に示しが付かんぞ!!」
「そうだよ、椎倉。今回の件では彼女達に連絡を入れずにこっちが押し切った形になっているんだし。もっと堂々とするべきだ」
「・・・あぁ」
「(椎倉先輩・・・やっぱおかしいよな、押花?)」
「(みたいだね。そういえば花盛の生徒に余り良い印象が無いっぽかったなあ)」
見かねたのか、寒村と勇路が活を入れるが椎倉はやはり元気が無い。そんな光景を見て初瀬と押花はコソコソ話を展開する。
「(ってことは・・・やっぱりアレか?)」
「(アレっぽいよな)」
「「(“花盛の宙姫”)」」
“花盛の宙姫”。
“常盤台の超電磁砲”のように、その学園で最上位クラスに位置する能力者に対して時折付与される異名的な称号が他校までに轟く事例がある。
“花盛の宙姫”もその事例の1つである。彼女の場合は風紀委員ということもあってか、学園外にもその活躍ぶりが広く知れ渡っている。
もちろん、彼女が風紀委員や警備員以外の者が治安活動に勤めることを酷く嫌っていることも。
それを止めるためなら躊躇無く力づくでぶつかっていくことも。
「(確か、俺達みたいな活動をしていた・・・救済委員って言ったか・・・そいつ等を問答無用で病院送りにしたって噂を聞いたことがある)」
「(俺も噂でだけど、一般人が事件に頭を突っ込みそうになった時に、そいつを問答無用で吹っ飛ばしたって聞いたことが・・・)」
「(俺達・・・大丈夫か?)」
「(・・・やばいかも)」
“花盛の宙姫”の武勇伝に恐怖を抱き始める初瀬と押花。するとそこに・・・
「あー!あなた達がなるせ台の風紀委員ですかー!!」
どこか暗い茶髪ショートの少女が初瀬達に話し掛けてきたのである。
「何だ、この小学生」
「さぁ、迷子じゃないの?」
「わ、わたしは小学生なんかじゃないですー!!」
「はいはい、背伸びごっこはお終いだよ?お嬢ちゃん。
素直に自分が子供の中の子供、小学生であることを認めるんだ。その年からウソツキじゃあいけないよ?」
「そうそう、初瀬の言う通り。君みたいな小さい子は、もっと食べて大きくなるのが仕事だよ。さ、ここは危ないから向こうに行くんだ」
「おい、押花。ここの廃墟は少し入り組んでいるぜ?こんな小さい子1人じゃ迷わないか?」
「それもそうだな。よし、俺達風紀委員のお兄さん達が案内してあげよう。いいよな、初瀬?」
「ああ、いいぜ」
「だ、だ、だから、わたしは小学生じゃないってばー!!れっきとしたはなさかり学園こうとう部1年生のじゃっじめんとです!!」
「「はっ!?」」
小学生としか思えない少女―
抵部莢奈―は涙目になりながら、自分の素性を宣言する。ご丁寧に風紀委員の証である腕章も示す。
「おい、押花。俺は夢でも見ているのか?それともこれは幻覚なのか?すまんが目を覚ましたい。俺の頬を思いっきりつねってくれ」
「俺の頬も頼む、友よ。ああ、どうかこの惨状が一夜の悪夢であってくれ!!」
「ひ、ひどいー!!人をなんだと思っているんですかー!!」
ムギュッッ!!
「・・・夢じゃない?」
「・・・幻覚でもない?」
「当たり前ですー!!」
「何てこった・・・!!こんなチンチクリンが俺と同じ高1だと?信じられない・・・信じたくない・・・信じてたまるか!!」
「これは夢だ・・・これは幻覚だ・・・はっ、まさか洗脳系能力者が俺達を貶めようとしている・・・!?」
「う、う、うえーん!!この人達、わたしをいじめるー!!うえーん!!」
余りにも酷いリアクションを取る初瀬と押花の態度にとうとう泣き出してしまう抵部。すると、
ブーン
「うおっ」
「なっ」
突如初瀬と押花の体が空中に浮いたのだ。まるで、無重量の如く。そして・・・
ブオッ!!
「うわー!!」
「がああ!!」
哀れ、初瀬と押花はあらぬ方向に吹っ飛ばされた。無様に地面を転がる2人。
「あ!!そらひめ先輩!!月理ちゃんも!!」
「大丈夫か、抵部?何だかすごく言われ放題だったみたいだが」
「はい、ハンカチ。これで涙を拭いて。本当に立派なレディなら、こんなことで泣いてちゃダメよ、莢奈」
抵部の傍に来たのは灰色掛かったセミロングの少女―
閨秀美魁―と黄色掛かったロングヘアーの少女―
渚月理―の2人であった。
2人も抵部と同様に風紀委員の腕章を付けている。どうやら抵部の同僚らしい。
「そうだね!ありがと、月理ちゃん!」
「その意気よ、莢奈!」
「現金な奴だな・・・。さて、そこの逃げようとしてる2人。あたしの後輩に結構な応対をしてくれたみてぇだな」
「「ギクッ」」
閨秀の視線の先にはこの場からの脱出を図ろうとコソコソ動いていた初瀬と押花がいた。2人は恐る恐る首を振り返らせる。
「に、逃げようだなんて。俺達は花盛の風紀委員の方々が到着したと先輩達に伝えようと。なあ、押花?」
「そ、そうっすよ!決して逃げようなんてこれっぽっちも思っちゃいないっすよ!」
「・・・ふ~ん。お前等が成瀬台の風紀委員か。・・・まあ、いいや。抵部のガキっぽさは今に始まったことじゃねえし」
「そらひめ先輩!それってひどくないですかー!!」
「わかった、わかった。お前の愚痴は後で聞いてやるからよ。今は仕事だ仕事。あたし達が何のためにここにいるのかを思い出せ」
「はっ・・・はい!」
「冠先輩達ももうすぐ来る。あたし達先行組は成瀬台の奴等と接触を図り、後発組が来るまで合同見分の準備を進める。だよな、渚?」
「はい、その通りです」
「ってことだ。お前達は成瀬台の風紀委員なんだろ。さっさとお前等の先輩達の所まで案内してくれねえか?こっちも暇じゃねぇんだ」
「わ、わかりました」
「こ、こっちです。付いてきて下さい」
閨秀の乱暴な物言いに密かに気後れする初瀬と押花だが、言っていること自体は真っ当なのでさっさと案内に動く。
先輩に丸投げとも言い換えれるが。
continue…?
最終更新:2012年05月04日 14:00