「ふ~む」
「むー」
初瀬達の案内で椎倉達3年生がいる場所まで来た花盛の先行組。彼女達の役割は後発組が来るまでの下準備である。
その筈であったのだが、先程から抵部と寒村がお互い睨みあったまま動こうとしないのである。
「う~む」
「ふむー」
別に睨めっこをしているわけでは無いのだが、お互い視線を逸らさないよう真剣な顔付きをしている。そして・・・
ガシッ!!
「きゃあああ!!痛い、痛い!私のアタマはボールじゃないよぉ!」
「莢奈!」
「てめぇ!あたしの後輩に何しやがる!!」
寒村がその大きな手で抵部の頭を掴み、そのまま持ち上げたのである。当然痛がる抵部。その光景に敵意を露にする渚と閨秀。
「貴殿・・・本当に風紀委員なのか?」
「あ痛たたっ!そ、そうだよー!じゃっじめんとだよー!!」
「・・・フ、フフ、フハハハッッ!!」
「な、何がおかしいのよー!!あなたもバカにするの!!」
「誰が馬鹿になどするものか!!貴殿のようなか弱き女子(おなご)がその身を賭して学園都市の治安を守っているのだ!!
その意志を尊重こそすれ馬鹿になど絶対にするものか!!何と逞しき意志よ!そうであろう、勇路?」
「確かに。君のような人間がいる限り、学園都市の平和は保たれるだろうね」
「・・・でも、あそこの2人は私をバカにした・・・」
「・・・それは本当か?初瀬・・・押花よ・・・!?」
「初瀬君・・・!?押花君・・・!?」
「「イエ!!ソンナコトスルワケナイジャナイデスカ!!ハハハ!!!」」
「すっごいカタコトだよ!?っていうか、早くアタマをはなしてよ~」
いまだ寒村に頭を掴まれたままの抵部が抗議の声を挙げるが、そんな抗議を無視するかのように寒村と勇路は初瀬と押花に詰め寄っていく。
「何て言うか賑やかですねぇ。男子校の方々は」
「あたしから見れば、ただうるさいだけのような気もするけどな。そんなことより抵部はいいのか、渚?」
「私の言うことを聞かずに変な対抗心むき出しで、あの大きい人に突撃して行った莢奈の自業自得です。ほっときましょう」
「・・・ご愁傷様、抵部」
同僚2人にも見放された抵部。そんなことも知らずにぎゃーぎゃー喚いている抵部だったが、そこに後発組が到着した。
「椎倉先輩!
花盛学園の風紀委員の方々をお連れしましたよー!」
「・・・あぁ、ご苦労だったな、速見」
実は速見は椎倉達とは別行動を取っていた。それは、現場までの道案内という役割であった。
ある意味今回の騒動で最大の被害者となった速見を向かわせることで、花盛側の反論・異論を少しでも封じるためでもあったのだが。
そして、後発組の面々が姿を現す。すなわち、
―
篠崎香織―が「お待たせしました。今日はよろしくお願いします」
―六花牡丹―が「今日は合同見分の前に色々説明して頂きたいこともありますけどね」
―冠要―が「何か面倒そうだな。やっぱ居残って支部周りのゴミ拾いでもしとけばよかったかな」
―
幾凪梳―が「何暢気なことを言ってるんですか、先輩!今回のことは私達の存在価値を問われることなんですよ!」
これにて花盛学園の風紀委員が勢揃いしたのである。
「あー!やっときたー!おそいよ~」
「抵部さん?どうしたんですか?涙目になっちゃって」
「あの筋肉のバケモノにつぶされそうになってたんだよー!」
「それは災難でしたね」
「あれ?かおりん、なんだか冷たくない?」
「どうせ、自分より大きい人に対抗したくて無茶な行動をしたのでしょう?ね、渚さん?」
「うっ!!」
「さすが香織。その通りよ」
「月理ちゃんまで~!ひどいよぉぉ」
まるでどこかの漫才みたいなやり取りを繰り広げる3人。抵部、渚、篠崎の3人は同じ学年というのもあってか、非常に仲が良い。
「美魁・・・貴方達には現地に先行して下準備しておくように言ってなかったですか?」
「あぁ・・・悪ぃ、牡丹。あたしがちょっと抵部から目を離していた隙にあいつが成瀬台の連中とトラブっちまったんだ」
「はぁ・・・いつものことですね」
「ああ、いつものことだ」
六花と閨秀が事前の打ち合わせについて話し合っていた。この2人も同学年ということもあってか比較的仲が良い。
ちなみに、この2人が知り合ったのは風紀委員に入る前のこと。共通の友人を介して知り合ったのが切欠であったらしい。
「あ、こんなところに空き缶が。ったく、拾う身にもなれと・・・」
「冠先輩!今はそれどころじゃないでしょう!!さ、早くこっちへ」
どこからともなくゴミ袋を取り出し空き缶拾いをしようとする冠を幾凪が無理矢理引っ張って行く。
冠は花盛支部でも最年長で、リーダー的存在である。そんな冠に幾凪は昔助けられたことがある。
それ故に幾凪は冠を慕っており、そもそも風紀委員に入った理由も冠に憧れたのが理由である。
「さすがお嬢様学校なだけあって美人揃いだなあ・・・一部を除いて」
「そうだなあ・・・一部を除いて」
「なによー!!ちゃんと聞こえてるわよー!!その一部って私のこと!?」
どうやら初瀬と押花の話は抵部にも聞こえていたようだ。
「はいはい、抵部。しょうもない雑談はお終いです。今から大事な話がありますから静かにしていて下さいね」
「えっ、しょうもないことなの?」
六花の発言にツッコミを入れる抵部だったが、当然のことながら彼女のツッコミは誰からも無視される。
「さて・・・自己紹介が遅れました。私は花盛学園高等部2年生の六花牡丹と申します」
「・・・ご丁寧にどうも。俺は成瀬台3年の椎倉だ」
どうやら会話の主導権は六花と椎倉が握るようだ。
「まずは本日の実況見分ですが、そちらの速見さんにお聞きした所、テストが終わった直後らしいですね」
「ああ、そうだな」
「テスト終了後間もないのに実況見分にお付き合い頂いたこと、誠にありがとうございます」
「いや、こちらこそ。この事件はさっさと片付けたいって気持ちが強くてな。実況見分も早いに越したことはない」
「その事件ですが・・・異常なまでのスピード解決だったとか。事件の全貌が発覚したその夜に鎮圧してしまったと聞き及んでいます」
「(・・・早速切り込んできたか)」
六花の容赦ない切り込みに気を引き締める椎倉。
予想はしていたが、やはり自分達の管轄内で他支部の風紀委員が乗り込んで来たことについて説明しなければならないようだ。
「後で詳しく説明するが、何分今回の事件は一にも二にもスピードが求められていた。何せウチの速見がダシに使われたくらいでな。
敵さんも中々頭が回る奴だった。正直な話、このテスト期間が終わるまでに解決できなかったら、今こうやってのんびりしていられなかっただろう」
「実況見分がのんびりというのは語弊があるかと思いますが・・・確かに速見さんについては災難だったとしか言えませんね」
「そうだろ?ある意味今回は俺達風紀委員も被害者ってわけだ。わかってくれたようで何より。さあ、さっさと実況見分に移るとするか」
これで話が終わったとばかりに実況見分へ移ろうとする椎倉。しかし、そうは問屋が卸さない。
「しかしながら、それなら何故私達花盛支部に事前にご連絡を頂けなかったのでしょうか?」
「(うっ!!)」
「確かにスピードが求められていたというのは理解できました。
であれば、なおさら私達が貴方達成瀬台の方々と協力すれば迅速に解決できたのではないでしょうか?」
「いや・・・それはだな・・・」
「それは?」
「・・・正直な所、あんた等に連絡すれば、やれ説明だ、やれ会議だって流れになることは目に見えていた。
合同捜査ってのは、えてして時間的ロスが大きくなる。そして、俺達にはそんなロスを許容できる程余裕は無かった」
「・・・」
「そのロスが敵さんに準備の時間を与えてしまいかねない。だから、俺達だけで事を終わらそうと思ったんだ。・・・あんた等には悪いとは思ってるよ」
正直『でもある』部分を話す椎倉。これで納得までとは言わずとも理解まではいけるか。そこに、
「おいおい、そりゃあちょっとおかしくねぇか。テメェ等・・・1つ嘘を付いてねぇか?」
閨秀が割り込んで来た。その目は鋭く、態度はどこか挑発的だ。
「嘘?」
「ああ、嘘。確かテメェは今『俺達だけで事を終わらそう』と言ったよな?」
「・・・ああ」
「確かに今回の事件の調書にはテメェ等成瀬台の風紀委員の手によってスキルアウトの連中がしょっ引かれたって載ってたよ。
実はよ、風紀委員の権限使って昨日の内に今回捕まったスキルアウトに話を聞きに行ったんだ」
「え?そんなこと私は聞いていませんよ?」
「そりゃあ誰にも言ってないし。牡丹、あんたにもね」
「美魁・・・」
「そしたらよ、スキルアウトの連中はこう言ったんだ。『俺は風紀委員にボコられたんじゃない。別の奴にやられたんだ』ってな」
「・・・どういうこと?」
「他にも同じことを証言した奴等はいるぜ。具体的な名前もあたしは聞いてる。どうりでカタが速攻で付いたわけだ。
まあ、警備員の連中は外面もあってか成瀬台の風紀委員の手によって解決したってことにするつもりらしいが」
「・・・」
「テメェ等・・・何か隠してんな。何で外部の連中を事件に巻き込みやがった?」
「椎倉さん・・・どういうことか説明して下さいますか?」
閨秀と六花の殺気と疑念が篭った視線が椎倉に突き刺さる。
実の所、今回の事件に関する調書には『
シンボル』や荒我達が関与していた事実は記されていない。
「(おい、ヤバくなってねーか!?)」
「(でも、でも、“だるまさんが転んでも漢は踏み止まれゲーム”で引き分けたからなんて口が裂けても言えないっつーの!!)」
理由は初瀬と押花のコソコソ話にあるように、女にアピールするために催したゲームで引き分けたからなんて絶対に調書に書けるわけがないからである。
主に、男の意地で。追い詰められた椎倉。だがそこに。
「私達に接触しなかった理由?そんなものは決まってる。私と会いたくなかったから・・・だよな、撚鴃?」
「ぐっ・・・要」
「冠先輩!?」
花盛支部のリーダー的存在である冠が突如割り込んで来た。手には空き缶が詰まったゴミ袋を抱えている。
「冠先輩・・・椎倉さんをご存知なんですか?」
「何を言っている、六花。存じているも何も、撚鴃は私の元カレだ。話したこと無かったか?」
「「「「「「「「「「「ええええぇぇぇぇ!!??」」」」」」」」」」」
これには成瀬台・花盛双方の風紀委員達が驚愕の声を挙げる。
「ど、ど、どういうことですか!!椎倉先輩!!!」
「椎倉先輩が彼女持ちだった・・・?この世は終わりだー!!」
「え、え、僕はどうしたらいいの?こ、こんな時は・・・“速見スパイラル”!!」
ドカーン!!
「驚いたね。まさか椎倉が・・・」
「我輩、涙が止まらんぞ!!あの椎倉に春があったとは!!」
「かん先輩!!彼氏がいたんですかー!!」
「冠先輩!!私聞いていませんよ!!」
「・・・どう思う、香織」
「どう思うって・・・元なんですし、そこまで騒ぐことじゃないと思いますよ、渚さん」
「美魁!美魁ってば!!」
「くそ・・・くそ・・・何であたしには・・・ブツブツ」
驚愕の声と言うよりは妬みの声と言った方が正しいのかもしれない。
「お前等、少し落ち着け。要とはもう別れてるし、とりたてて騒ぐ程のモンじゃあ・・・」
「ケッ、彼女経験有りの人は余裕ですよねー」
「ケッ、ホントそうだよなあー。こちとらどうやって女性の気を引こうかいっつも悩んでいるのにねー」
椎倉の言葉にそっけない反応を示す初瀬と押花。それは致し方無いこと。
だって椎倉は裏切り者なのだから。彼女経験無し集団成瀬台風紀委員支部の。
「そっちにも面白い連中がいるようだな、撚鴃?・・・お前、何だか私と付き合っていた頃よりかっこよくなってないか?」
「・・・お前と付き合っていた頃の俺の顔に比べたらな」
「あの~、先輩達は何時から付き合っていたんですか?」
冠と椎倉の会話に渚が首を突っ込む。
「2年くらい前か。確かゲームセンターで出会ったのだ」
「あの時はお前がUFOキャッチャーに手こずっていて、無意識に能力でガラスを溶かそうとしていた所を俺が慌てて止めに入ったんだよ」
「そうそう。それが出会いで、その後もちょくちょく会って・・・何となく付き合いだしたのかな?」
「何となくって・・・。ちゃんと言ったじゃねぇか。『俺と付き合わない?』って」
「すっごいナンパ台詞ですね」
「そうだったか?まあ、そういうやり取りがあって私と撚鴃は付き合い始めた。半年程で別れたがな」
「ど、どうしてですか?」
渚が疑問の声を挙げる。いつの間にか周囲のメンバーも静かに話を聞いているようだった。
「それは私にもよくわからない。私は撚鴃を嫌ってはいなかったし・・・それは今でもな。そもそも別れ話を切り出したのは撚鴃だ」
「ど、どういうことっすか、椎倉先輩!!女性をふるって・・・」
「あー、うるさい押花。ちゃんと理由はあるんだよ。別れに至った理由がよ」
「・・・その理由とは?」
固唾を呑んで椎倉の言葉を待つメンバー。
「・・・コーヒー好き過ぎるんだよ」
「「「「「「「「「「「はっ?」」」」」」」」」」」
「こいつは引っ切り無しにコーヒーを飲んでやがる。自動販売機のコーヒーを1日で飲みきっちまう程のコーヒー中毒だ」
「コーヒー中毒とは酷い表現だな。愛好家と言ってくれよ」
「どっちでも一緒だ!要と付き合っている間、俺はずっとコーヒー地獄だった。三度の食事はいつもコーヒーを3缶飲まされた。
弁当を作って来たときもコーヒー付。しかもおかずに何故かコーヒー豆がびっしりと。そもそも俺は・・・コーヒーが苦手なんだよ!!!」
「「「「「「「「「「「あ~」」」」」」」」」」」
合点が入ったメンバー達。自分が嫌いなものを毎日多量に押し付けられるというのは、地獄意外の何物でもない。
半年もよく持ったという表現の方が正しいかもしれない。
「冠先輩・・・彼氏さんがコーヒーを苦手としていることは知ってたんですか?」
「知ってたよ。さすがにそれが別れる原因になっていたことは知らなかったけど。
でもなあ、やっぱり自分が好きな物を彼氏と一緒に楽しみたいと思うのは自然なことだろう?」
「(それって強制って言うんじゃないだろうか?)」
幾凪と冠のやり取りに心の中でツッコミを入れる初瀬。いくら付き合っているとはいえ、毎日嫌いな物を強制させられるのはたまったもんじゃない。
「まあ、なんだ。そういうわけだから撚鴃は最初から私達の力を借りたくなかったんじゃないか?」
「そういえば、花盛の生徒と接触するのを嫌がってたっすね、椎倉先輩」
「やはりな。全く人を何だと思っている。今でも私はお前のことを嫌ってなどいないのだぞ?」
「そりゃあ俺だってお前が心底嫌いになったわけじゃないし」
「そうか。それじゃあ・・・また付き合うか?」
「い、い、嫌だ!!俺をまたあの地獄に引き摺り落とすつもりか?」
「はい、復縁のコーヒー」
「人の話を聞けー!!」
「・・・どうします美魁?まだ探りを入れますか?」
「そういう空気じゃねぇだろ・・・。下手に深入りしたら他人の色恋沙汰をさらに穿り返す羽目になりそうだ。・・・あたしは聞きたくない(ボソッ)」
怪我の功名というか、椎倉の失恋話によってこれ以上の追求を免れることとなった成瀬台風紀委員達。
「それじゃあ、さっさと実況見分を終わらせちまおうぜ。こちとら暇じゃねぇんだし」
「それもそうね。手早く済ませてしまいましょう」
「お忙しいみたいですね。そちらでも厄介事が発生しているんですか?」
閨秀と六花の会話に初瀬が思わず問う。そんな彼に六花が事の外重苦しい言葉を発する。
「ええ。丁度ウチの管轄で非合法の薬物が横行しているの」
「薬物?」
「何でも『レベルが上がる』というのを売り文句に大量に捌いている組織だったグループがいるみたいなの。
その薬物には・・・快楽性や中毒性等危険性が大きいものも含まれています」
「!!そ、そんなヤバい代物が?」
「実を言うと、私達がここのスキルアウト達に気が付かなかったのも、そちらの方に調査の手が割かれていたからなの。
本当なら私達の方が貴方達に礼を言わなければならないでしょうに」
「おい、牡丹。それは・・・」
「わかっているわ、美魁。成瀬台の方々が私達に無断で処理したこと自体は頂けないわ。だから・・・これでおあいこ。それでいいですか?」
「は、はい!!」
何とか自分達の行動が許されたと判断する初瀬が、実況見分に入る前にもう1つだけ質問を投げ掛ける。
「そ、その薬物を扱っているグループって」
「・・・かなり大きいスキルアウト集団らしいけど詳細は掴めていません。もしかしたら私達だけじゃ手に負えないかも」
「それって・・・」
「他支部と協力して事に当たらないといけない可能性も否定できない。そんな現状だけど、唯一の手掛かりとしてグループの名前だけは突き止めています」
「その名は・・・」
初瀬の問いに六花は重く口を開く。
continue…?
最終更新:2012年05月04日 17:37