「あー、体のあちこちが痛ぇ・・・」
「大丈夫でやんすか、荒我君?」
「まあ、何とか歩けるくらいには回復したけどな」
「おまけに荒我兄貴だけ追試だったからね。精神的にもキツかったでしょ?」
「しゃーねーよ。気が付いたら病院のベットだったしな」

今日はテスト後の休日。街中を歩くのは顔中に絆創膏が張られた荒我を筆頭とした不良組である。
先日のスキルアウトとの対決の際、荒我は結構な傷を負い、2日間の入院を余儀なくされた。
そのため、昨日の土曜日に、2日分の追試を1日中受けていたのである。

「でも、スキルアウトとのステゴロの直後に追試までこなすなんて、さすがは荒我君の根性でやんす」
「ま、まーな。何にせよ、テストも終わったし、重徳もブタ箱行きになったし。ようやく一息つけそうだ」
「そういえば荒我兄貴。重徳って奴とタイマンした時の決め手は何だったんですか?やっぱお得意の右ストレートっすか?」
「いやいや、右アッパーでやんすよね?」
「・・・そこら辺の記憶は曖昧だな。俺もギリギリだったし。何か変な大声を耳にした気はするんだが」

まさか、決め手が“速見スパイラル”だとは夢にも思わない荒我達。とそこに、もう1人の同行者が口を挟む。

「どっちにしろお前はよくやったよ、拳。相手はレベル3の能力者だったんだろ?ホント大した根性だ」
「斬山さんに褒められるなんて初めてっすよ」

その同行者―斬山千寿―は荒我の兄貴的存在であり、同じ救済委員でもある。
形としては荒我が無理矢理斬山の舎弟に入ったのだが、斬山の方も荒我の真っ直ぐさには好感触を抱いている。

「斬山さんとこうやって街中を歩くなんて初めてでやんすね」
「俺もだよ、梯君。斬山兄貴、今日は最近注目している焼肉屋に連れて行ってくれるんですよね?」
「ああ、拳にも友人ができたって聞いたんでな。親睦を深める意味合いも兼ねたりしている。
もちろんテスト明けにパーっとしたいだろうとお前等が考えてそうだなと思ったんだが、どうだ?」
「さすが斬山さん!そこに入院明けも加えて下さいよ!」
「そうだな。それも込みで」

何故この4人が集まったのかと言うと、斬山が荒我達のために色々気を利かせたのである。
やはり舎弟は可愛いということか。実は当の斬山も楽しみにしているのだ。

「あれ?あの後姿は・・・。おーい!!」
「ん?何だ?」

突然背後から女性の大声が聞こえてきた。思わず振り向く荒我。

「あー!!やっぱり!この前のラーメン屋で会った・・・あらぎゃ君!!」
「ブッッ!!お、俺は荒我だ!!あらぎゃじゃねぇぇ!!」
「あ、ご免。噛んじゃった」
「大事なトコで噛むんじゃねぇぇ!!」
「あー、もううるさいな。ちゃんと謝ったでしょう?」
「あ、皆さん。ご無沙汰です」
「おい、このカワイ子ちゃん達はお前等の知り合いか、武佐?」
「以前とある屋台で一緒にラーメンを食った風紀委員の子達っす」
「・・・風紀委員?」
「お久しぶりでやんすね。確か・・・焔火緋花ちゃんと葉原ゆかりちゃんでやんすよね」
「はい、その通りです」
「よく覚えてるねー。そういえばそちらさんはどなた?」
「・・・俺は斬山ってんだ。こいつらの・・・友達かな?」

声を掛けてきたのは以前に会った風紀委員の焔火と葉原であった。話を聞く所によると今日は非番らしく、2人で遊んでいたそうだ。

「これから荒我君達はどこへ行こうとしていたの?」
「俺達?俺達は今から斬山さんのオススメの店でパーっと食べまくろうと思ってんだけど。丁度昼時だしな。腹も減ってきた」
「そういえば、もうそんな時間か。ああ、意識したら私のお腹も~」
「緋花ちゃんってホント大食いだよね。よく太らないな~っていつも思ってるなあ」
「へへ~ん。ゆかりっち・・・私はそんじょそこらの女と一緒にしないでよ。風紀委員の仕事で毎日動き回っているんだし、
普段運動をろくそっぽしない連中とはワケが違うんだよ」
「・・・ということは、私はそんじょそこらの女と緋花ちゃんは言いたいわけですか。そうですか。フフフ・・・」
「へ?あ、いや、ち、違うって。ゆかりっちがそうとは言ってないじゃん!」
「じゃあ、どういう女なんですか?フフフ・・・」
「え、え~とね・・・」
「(相変わらずゆかりちゃんは恐いでやんすね)」
「(そうだね。彼女は怒らせないようにしないと)」

焔火と葉原のやり取りに少々の恐怖を抱く梯と武佐。やはり女は恐い。そう再認識するのであった。




「あー!ここは今流行の焼肉屋『根焼(こんじょう)』じゃないですか!」
「そうだな。実は今日はちょっとした催し物をしていてな、もうすぐ始まるんだよ」
「斬山兄貴!その催し物って何なんすか?」

荒我達に焔火と葉原を加えた6人は目的地である焼肉屋『根焼』の前にいた。『根焼』は今流行の焼肉屋で、
品質の良い肉を割安の価格で提供すると評判である。もちろん味も保証されている。

「実はな、今日はここでステーキの早食い大会が開催されるんだ」
「早食い?」
「ああ、都合3キロ、高品質のステーキを10分以内に完食した奴には懸賞金が出る」
「ま、マジっすか!?」
「ああ、マジだ。もちろん完食できなければ自腹だが、それでも他店に比べれば割安だ。どうだ、拳。挑戦してみねぇか?」
「も、もしかして今周りに集まっているのは、その挑戦者達ですか?」

葉原の疑問は当たっている。そう、今『根焼』に集まっているのは、いずれも早食い大会の挑戦者達である。
男女問わず、いずれもが秘めたる意思を持って大会に参加しようとしている。

「何とか賞金を・・・。じゃないとカツアゲのお金がもう・・・」
「ね、ねぇ莢奈。本当に挑戦するの?余りにも無謀なんじゃあ・・・」
「止めないで、月理ちゃん!!あの男どもに目にものをみせつけてやるんだから!!」
「こういう人の多い所は慣れねぇが・・・合法的に金が手に入るんだ。悪くはねぇな。少なくとも雑魚に金をせびる連中よりはよっぽどマシだ」
「このお店・・・・・・気に入るかも。・・・・・・『根焼』か・・・覚えた」
「か弱い女の子を演じるのも限界。こうなったら方針変更よ。健康的な体に私は生まれ変わる。刈谷様・・・待っていて下さいね」
「吾味・・・今日はトップ通過を狙うぜ。陸上と同じだ!2位以下は敗者も同じ!!」
「萬代・・・お前なら可能だと思うぜ。だが、今回は俺も参戦している。そう簡単に1位が取れると思うなよ」
「何か飛び入りで参加しちゃったけど・・・。まあ、無理なら残せばいいんだし。別に金に困ってないし」
「あらあら、蜂峰さん。そんな覚悟ではこの勝負、負けてしまいますわよ?それに・・・お残しは許しませんから。ホホホ」
「ねぇ、今日はステーキ食べ放題なんだよね。ボク、もうお腹がペコリング」
「食べ放題というかステーキ3キロを10分以内で完食するんだ。ちなみに私は参加しないからな」
「さーて、今日は参加者全員を応援するわよー!!ちゃんと店側の許可は取ってるからねー!!皆~ファイトー!!」

各自色んな意思を秘めている模様だ。

「な、何か殺気立ってません?そんなに皆、懸賞金が欲しいんでしょうか?」
「勝負というのは奥深いでやんす。一度勝負になったら勝つか負けるか白黒ハッキリ付けたいでやんすよ」
「それ、わかる。こうなったら私も負けてらんないな」
「えっ?緋花ちゃんも参加するの?」

焔火の参加表明に驚く武佐。それは他の面々も同様に。

「こんな光景を見たら参加せずにはいわれないわ!私の底力を参加者全員に見せ付けてあげるわ」
「・・・俺も参加するぜ。斬山さん」
「拳・・・」
「こうなったら俺だって退けるかってんだ!俺の根性を思い知らせてやる。『根焼』って名前も気に入った!この店に俺の名前を刻み付けてやる!」
「へ~、あなたも参加するのね。いいわよ、こうなったら勝負しましょ」
「いいぜ。殴り合いとまではいかねぇが、こういう勝負も悪くねぇ」
「遠慮は一切しないわよ、荒我!!」
「望む所だ、緋花!!」
「・・・何だか勝手に熱くなっちゃってますねぇ」
「でやんすね」


葉原や梯達を余所に勝手にヒートアップしていく2人。さあ、この勝負の結末や如何に。

continue…?

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最終更新:2012年05月07日 19:38