「うおおおおおおおおお!!!」
「はあああああああああ!!!」
荒我と焔火が眼前のステーキに文字通り食って掛かる。
荒我はナイフやフォークを使わない。箸を使って1キロのステーキの端から丸齧りを敢行する。
一方焔火はというと、
「緋花ちゃん、こういうのはペース配分が大事だから気を付けて!」
「ありがと、ゆかりっち!」
「・・・中々に汚いでやんすね」
「梯君・・・そこはチームワークって言おうよ」
葉原が焔火のステーキを片っ端から切り分け、焔火がフォークを突き刺して食うというコンビネーションで挑んでいた。
「それにしてもこのステーキ美味しいー!!ここの常連になりそう」
「旨い、旨いぜ!!こんな旨い肉は滅多に食えねえし、今回は思う存分食らい尽くすぜ!!」
ペース配分を考えて食べる焔火と最初から飛ばす荒我。どんどん消えていくステーキ。そして、まずは荒我が食い尽くす。
「「おかわり!!」」
荒我が2キロ目のステーキを注文するために挙げた声に重なる声。
「ヘッ、テメェには負けねぇぜ」
「・・・上等だ。後で吠え面かくんじゃねぇぞ!!」
それは、荒我達の隣の席に座る菅内。彼も荒我と同じく最初から飛ばしているようだ。互いの視線が交錯するのも束の間、次のステーキが運ばれる。
「うおおおお!!!」
「がああああ!!!」
またもやペースを上げる荒我と菅内。この男達の胃袋は鉄でできているのか!?いや、そんなことはなく・・・
「ぐ、ぐっ・・・」
「むぐっ・・・」
突如ペースが落ちる2人。何を隠そう、今回のステーキは脂がたんまり乗った肉である。つまり、胃にクルのは至極当然のことなのである。
「荒我君!大丈夫でやんすか?」
「み、水を・・・」
「はい、荒我兄貴!」
何とか水で肉を胃袋へ送る荒我。それを尻目に・・・
「私もおかわり~!」
「緋花!?」
焔火が1枚目のステーキを食べ終えたのである。彼女の顔を見る限り、まだ余裕綽々といったところか。
「ふふ~ん。どうしたの荒我~?もしかしてもうヘバちゃった?」
「だ、誰がこんなことでヘバるかっての!!俺の根性をナメるんじゃねぇ!!」
焔火の挑発に対抗心が刺激されたのか、少しだけ調子を取り戻す荒我。無我身中でステーキに齧り付く。
すぐさま2枚目のステーキが到着した焔火もせっせと肉を口に入れていく。果たして誰が懸賞金を手に入れるのか?とその時!!
「ステーキ・・・・・・ご馳走様でした・・・。ゲプ~」
「ひ、1人目の完食者が早くも現れたあああ!!タ、タイムは・・・何と4分57秒!!信じられないタイムだああ!!!」
「「な、何ぃぃ!!!」」
何と5分も経たずにステーキ3キロを完食した猛者が現れたのである。しかも、見る限りどこにでもいそうな小さな女の子がである。
その小さな体の一体どこにあれ程の量が入るのか。筆者も疑問が尽きない。
「ば、馬鹿な!!あんな小さいガキんちょに俺が・・・」
「し、しっかりするでやんす、荒我君!!」
「わ、私より小さい・・・あんな子に私が負けた・・・?」
「緋花ちゃん!まだ勝負は終わってないよ!!」
呆然とする荒我と焔火を立ち直らせようと声を掛ける梯と葉原。すると・・・
「あ~、美味しかった。ご馳走様!!」
「・・・まさか、お前より早い奴がいたとはな。しかも、あんな小さい子が。世界は広いな、うん」
「ふ、2人目の完食者だあああ!!タイムは5分23秒!!これまた何という驚異的なタイム!!」
1人目から30秒も経たずに2人目の完食者が現れた。その男は先程荒我と菅内を仲裁した男であった。
「ハッ!!は、箸を止めてる場合じゃねぇ!!こ、こうなったら何が何でも10分以内で完食してやる!!」
「ヒョッ!!そ、そうだわ。貴重な時間をロスしちゃった!!落ち着け~。落ち着け、私!!」
不覚にも30秒程呆然としてしまった荒我と焔火は、遅れた分を取り戻すべくペースを上げる。
しかし、5分前後で完食者が2人(ちなみに賞金獲得後、既に店を後にしている)も現れたことは、他の参加者達にも様々な影響を与えていた。
「う・・・苦しい。吐き気が・・・。でも、でも・・・」
「あ、あんな小さな子が・・・私と同じくらいの子が1番?し、信じられない・・・。私なんて、まだ2キロも残っているのにー!!」
「だから言ったじゃない、莢奈!最初から無理があるって!!」
「け、健康的な女子になるのがこんなにも辛いことだったなんて・・・。これも、仮初の姿を演じてきたツケってことかしら。ゴホッ、ゴホッ」
「吾味・・・1位にはなれなかったが・・・完食だけは必ず成し遂げてみせる!!もちろん、お前より先にな!!・・・オプッ!」
「萬代・・・悪いがそうはいかない。俺が先にゴールさせてもらうぜ!!・・・ウエッ!」
「も、もう食えねぇ・・・。くそっ、こんなのに参加するんじゃ無かった。こうなったら適当に・・・」
「あらあら、蜂峰さんには『発狂開始』というエネルギーを活性化させる能力がおありでしょう?
ステーキ摂取によるエネルギーを消費するには持って来いじゃありませんか?」
「えっ?で、でも私の能力って脳に負担が・・・」
「あらあら、それは大変ですねぇ。でも、それが食事を残していい理由にはなりませんよねぇ。ホホホ・・・・・・やれ」
とまあこんな具合にである。一部で何やら恐ろしい発言が聞こえた気もしたが、気のせいであろう、うん。
「ゼェ、ゼェ。よ、よし。2枚目完食だぜ・・・。最後の肉を持って来いやあああ!!!」
「えっ?も、もう終わったの!?」
そうこうしている内に、荒我がその根性で2枚目のステーキを完食した。驚きの声を挙げる焔火に気を向ける余裕も無い荒我は荒い息を吐く。
「(く、苦しい。もう限界に近いな、こりゃ。だが、男が一度やると決めたことは何が何でも果たしてみせるぜ!!)」
そして、到着する3枚目のステーキ。最初に感じていたステーキの味は今となっては感じない。香りも旨さも何も。
ただ、眼前の肉の塊を己の胃袋に入れる。それだけが今の荒我の頭を占めているのだ。
「グッ!!お、俺もおかわりだ!!」
「わ、私も最後行きま~す!!」
少し遅れて菅内と焔火も2枚目を完食した。が、2人共にかなり苦しそうにしている。誰もが限界に近いのだ。
「(チッ!!もう追い付いて来やがったか!)」
「(あ、あんなリーゼント野郎に負けてたまるかってんだ!!)」
「(ヤバッ!マジで吐きそう・・・。でも、負けるのだけはゴメンよ!!)」
3者3様の思いを胸に、最後のステーキ1キロに挑む勇者達(※早食い大会です)。
もう見てくれなどに誰も気を使わない。無様でも何でもいい。誰よりも早く完食できるのなら。
その凄まじい食いっぷりは鬼気迫る程の迫力を伴っており、周囲の客(梯達)が思わず戦慄したとさえ言われている。
「ガハッ!!後、後少し・・・」
「オプッ!!もうちょっとなのに・・・」
「グフッ!!手が、手が動かねぇ・・・」
残り1分を切った頃、荒我、焔火、菅内の3人に残されたステーキは丁度2切れ程の大きさであった。
通常の状態ならば何の苦労もせずに平らげることができたであろうその肉が、最後の関門として彼等に立ちはだかった。
「(根性・・・!根性・・・!!根性!!!)」
「(私は絶対に負けない。誰にも!!自分にも!!だから、だから・・・!!)」
「(う、動けよ!動いてくれ!!俺の手!!こんなことで・・・こんなことで無様に垂れ下がってんじゃねぇよ!!)」
心の中で己の信念を再び問い直し、それを最後の力とし、振り絞る勇者達(※もう一度言いますが早食い大会です)。
箸を、フォークを、眼前に立ち塞がる壁の如く聳え立つ肉に突き刺し、己が口に運んで行く。
「(最後だ・・・!!)」
「(あ、後・・・!!)」
「(一口・・・!!)」
3人共、残るは1切れ分の肉のみ。もう胃袋は限界を超えている。何時リバースしてもおかしくはない。だが・・・それでも・・・!!
「「「ガブッ!!!」」」
「カンカンカン!!タイムアップで~す!!!」
勇者達は前人未到の難題に挑み切った(※くれぐれも確認しますが早食い大会です)。口の中に肉を入れたと同時にタイムアップの鐘が鳴る。
荒我、焔火、菅内の3人は見事10分以内でステーキ3キロを完食したのである。
「(や、やったぜ・・・!!)」
「(勝った・・・自分に勝った!!)」
「(何とか・・・なったか・・・)」
まだ肉が口の中に入っているために喋れない3人であったが、その心中では制限時間内に完食まで至ったことに安堵していた。
「あ、言い忘れ~てま・し・た!!!完食ってのは胃袋にステーキが全部入ったことで~す!!
つ・ま・り!!今現在口の中に肉が残ってる人は・・・OUTだずぅええぇぇぇ!!!!」
「「「オボロロロロロロ!!!!!」」」
安堵し切っていたがために、店長のド忘れ発言に対応できなかった。つまり・・・荒我、焔火、菅内は・・・失敗したのである。
「ウエッ。な、何とか・・・ウエッ。賞金・・・ウエッ。ゲットです・・・ウエエェェッ!!」
「か、刈谷様・・・。私は、卜部はやり抜きましたよ!!これで刈谷様もきっと私を・・・ゴホッ、ゴホッ・・・ウエエェェッ!!」
「ガハッ、ガハッ!!な、何とか食い切ったぜ」
「あらあら。さすがは私の目に狂いはなかったということかしら。ホホホ」
「お、鬼め・・・」
もちろん、見事完食まで至り懸賞金を獲得した者もいれば、
「オボロロロロ!!!」
「莢奈!!こんなところでリバースしないでよ!!」
「だ、だって・・・。あ、お金ない。月理ちゃん・・・」
「私は止めたんだから責任無いし。よって、お金は貸しませ~ん」
「そ、そんな~。じゃあ、どうすれば」
「お金が無いのなら、体で払うしかないんじゃない?」
「えっ?か、体!?わ、わたしはそんなに発育は・・・」
「あれ~。莢奈は立派なレディーなんでしょ?大丈夫だって!」
「そ、そんなせっしょうな・・・」
「お金が無いというのなら仕方ありません。その体~で稼いで頂っっきましょう」
「て、店長さん!?」
「つまりで~す!!私と怪しい親交を深めることでこの『根焼』に利益を齎すのでグヘッ!!」
「つまり、アルバイトとして雇いたいということよ」
「は、はあ・・・」
「私もこの店の臨時アルバイトなの。ここの店長は変人だけど、給料は結構いいから稼げるわよ?」
「へ、変人とは・・・さすがはウチのツッコミ団長で~す。先程の蹴りもナイスで~すね」
「ほ、ホントですか!!じゃあ・・・私頑張ります!!」
「莢奈!風紀委員の仕事はどうするの?」
「あ・・・」
「あれ?風紀委員だったの?でもご心配なく。暇な時に臨時で入るくらいでいいからさ。そこそこ人手はいるしね」
「そ、そうなの。じゃあ大丈夫かな」
「よ~し!頑張ってお金かせぐぞ!!!オボロロロ!!!」
「吾味・・・今回はゴールできなかったが・・・次は負けなぇぜ・・・ガクッ」
「萬代・・・それは俺の台詞だ・・・その時を楽しみにしているぜ・・・ガクッ」
残念ながら完食できずに自腹をはたいた者もいる。
そうして、“ステーキ3キロ10分以内に完食したらボーナスGET!!大会”は終わりを迎えたのであった。
「大丈夫か、拳?やっぱり無茶だったか?」
「い、いや、斬山さんのせいじゃないっすよ。俺の根性が足らなかっただけっす。とんだ醜態晒しちまったっすわ」
「大丈夫、緋花ちゃん?気分はどう?」
「・・・まだ微妙。ゴメン、ゆかりっち」
「何言っているのよ。友達でしょ?」
結果として完食できず、懸賞金も獲得できず、自腹をはたき、最後にはリバースしてしまった荒我と焔火は店の外で休憩していた。
「しかし、あの店長・・・ちゃんと最初からルールを全部説明しとけってんだ」
「斬山さんの言う通りでやんす。ド忘れなんてひどいでやんすよ」
「まあ、口の中に入れて完食ってのも微妙と言えば微妙ではあったけどね」
「もう終わったことを愚痴っていても仕方ないですよ。スパっと気分を切り替えましょう」
「それもそうか・・・。斬山さん、ゲーセンでいっちょ派手に勝負しましょうよ!」
「そうだな・・・。いいぜ、拳。俺も随分ゲーセンに行ってなかったからな。偶にはとことんやってみるか!」
「いいでやんすね!」
「緋花ちゃんとゆかりちゃんはどうする?一緒に来る?」
「ゴメン、武佐君。私はまだ気分が微妙だからパスするわ」
「・・・らしいので、私も今回は遠慮します。緋花ちゃんが心配ですし」
「わかったよ。余り無理しちゃあダメだよ」
残念ながら、ここで別れることになった荒我達と焔火達。短い時間であったが、以前より親交を深めることができた。それは互いに感じている。
「・・・おい、そこのリーゼント野郎」
「!お前・・・まだいたのか。何だ?やっぱステゴロで勝負したくなったのか?あん?」
とそこに、菅内が近付いてきた。どうやら荒我に話があるようである。
「さすがに今はそんな気分じゃねぇ。だが、テメェはムカつく」
「そりゃこっちの台詞だ」
「いつかテメェとは落とし前をつける。だから・・・テメェの名前を聞きたくてな」
「名前?ハン。人に名前を聞く時は自分から名乗るってのが筋なんじゃねぇか?」
「いいから答えろってんだ」
「ったく筋も通せねぇ野郎だな。いいぜ、答えてやるよ。俺は
荒我拳だ!よーく覚えときやがれ!!」
「荒我・・・?テメェ・・・まさか重徳の(ボソッ)」
「あぁ?」
「いや、何でもねぇよ。・・・俺は
菅内破堂だ。いずれケリはつける。その時を楽しみに待ってやがれ」
「ハッ!返り討ちにしてやるぜ!」
菅内は言うだけ言うと、足早に去って行った。怪訝に思う荒我達であったが、何時までもあんなムカつく奴のことを考えていても仕方無いと判断した。
喧嘩を売ってくるのなら買うまで。それが荒我のポリシーである。
そんなこんなで荒我達はゲーセンへ、焔火と葉原は近くの喫茶店へ向かうため別れる。
それは一時の出来事。それは偶然の出来事。偶々荒我達と焔火達が出会い、偶々菅内という男と出会った。ただそれだけのことである。
そんな出来事の一部始終を、離れた場所にいた亜麻色の髪をツインテールにした少女は偶々見逃さなかった。これもまた、それだけのことである。
continue…?
最終更新:2012年05月07日 00:18