ここは深夜の第6学区。アミューズメント施設が集中するこの学区に今、花多狩から連絡を受けた穏健派を中心とした救済委員が集合している。
目的は・・・先日警備員の横槍を受けて逃がしたスキルアウトがこの学区の一角に潜んでいることが判明したからである。
「そういえば、安田ちゃんの能力って、何て名前なの?」
「えっ?」
「空間移動ってのはわかってるんだけど、能力名ってのは名付けることもできるじゃない?
実を言うと、俺も『土砂煙幕<サンドトリック>』って名前は自分で付けたものってね」
「なんだ、農条。その変な能力名は自分で付けたのかよ。<サンドトリック>って安直過ぎねぇ?」
「そういうお前の『閃光身体<フラッシュボディ>』は何なんだよ。どこぞの変態よろしくの能力と能力名じゃないか。恥ずかしくないのってね」
「う、うるさい。好きでこの能力を使ってるんじゃねぇよ」
「・・・いいわよねぇ、能力者って。私なんか何の能力も無いし」
「・・・スマン」
「・・・ゴメン、姐さん」
花多狩から今回の襲撃作戦を聞いている最中にコソコソ話す他の救済委員達。
花多狩の話は的確なのだが、どうにも口調のせいか眠くなってしまうのだ。故に、こうやってコソコソ話をすることで眠気を覚まし、
そこに花多狩の説教を受けることで完全に覚醒するというのが、穏健派救済委員の日常の1つとなっている(花多狩は大いに不満)。
「え、え~と、私の能力は<インポート>って言います」
「<インポート>か・・・。当て嵌める字はどんなのを使っているの?」
「・・・・・・『劣化転送』・・・ですね」
「へぇ、『劣化転送』ね。・・・・・・『劣化転送』!?何でまたそんな自虐溢れる字を・・・」
「もしかして安田って・・・マゾ?」
「ち、違います!!私はマゾなんかじゃありません!!・・・ちょっとした理由があって」
「ふ~ん、理由ね・・・」
前回土まみれになったライダースの代わりに啄から押し付けられた界刺のスーツ(但し電飾は外している)を着ている春咲の発言に結構驚く農条と仲場。
彼等は自身の能力名は自分で名付けている。名付け方は千差万別だろうが、
それが直訳だろうが安直だろうが、その能力に見合った名前を付けるのが通常だ。
だが、春先は自身の能力によりにもよって『劣化転送』という自身の能力を卑下するかのような名前を付けているのだ。
「まあ、レベル2の能力ですし。できることも少ないですし。こういう名前の方がふさわしいかなって」
「ふさわしいって・・・」
「・・・そういうもんかなあ」
かくいう農条は春咲と同じレベル2、仲場に至ってはレベル1である。そんな彼等でも春咲のようなネーミングは絶対にしないであろう。
「(この娘・・・強気なのか弱気なのかよくわからないってね。もしかして、このアンバランスさに安田ちゃんの抱えているモノの片鱗があるのか?)」
農条は先日の界刺とのやり取りを思い出す。自分は彼女を見捨てないと決めた。
ならば、彼女が抱えるモノを見極める必要がある。でなければ、何時までも彼女の悩みの解決には達せられないからだ。
「鴉。いよいよ『閃天動地』の実戦投入か」
「ああ。安田嬢にこの『閃天動地』の素晴らしさを教授するためにも結果が必要だからな」
「そうでござるな。拙者も命の次に大事なこのマスクに電飾を付けてみたでござる。いかがでござろう、師匠?」
「ああ。よく似合っているぞ、ゲコ太!・・・実はな、この『閃天動地』の真価を発揮させるための“秘策”を刺界が思い付いたそうだ。
そこで今回のスキルアウト討伐ではその“秘策”を試したい。ゲコ太!志道!どうか協力してはくれないか?」
「拙者、師匠のためなら何でもする覚悟でござる!!」
「鴉にはいつも世話になっているからな。いいぜ、付き合うよ」
「(何をブツブツ言っているのかしら?あの変人集団は)」
啄達がコソコソしているのを怪訝に思う花多狩。今回の作戦については一通り説明し終えたが、如何せん不安材料は何個かある。
目の前にいる変人集団もその1つ。彼等はいざという時は頼りになるのだが、言い換えるとそれ以外では何をするか知れたもんじゃない奴等なのである。
「(安田さんを正しい方向へ導くのが私の役目。今回の作戦でもできる限り彼女をフォローしないと)」
他には、安田もとい春咲の現状も不安材料の1つであった。
不安定な春咲を支えると決意した花多狩は、必要以上に春咲の動向に気を払っていた。
先程の農条と仲場との会話で春咲の仕草や態度が固いことに気が付いていた花多狩は、色んな可能性を思い浮かべる。
「(反応が鈍い・・・体調が悪いのかしら?何だか雰囲気的にやつれているようにも見えるし。それか、さっき言っていたネーミングに何か関係が?)」
救済委員外でも慈善活動をしているためか人の機敏に聡い花多狩は、人の仕草や態度からその当人が抱く感情を見極める術に長けていた。
「(・・・ととっ。安田さんのことも気に掛かるけど、今は作戦に集中しないといけないわね。皆の命が掛かっているんだし)」
とりあえず思考を春咲からスキルアウト討伐作戦に切り替える花多狩。
戦場で必要以上に気が散るようでは自分を含めた仲間に危険が及ぶ可能性が高くなる。指揮官的役割を負う彼女だからこそ強く感じるそれは、
戦場においては重宝される性質である。故に、他の穏健派救済委員から花多狩が指示を出すことに異論を挟む者はいない。
「(強いて気に掛かると言うのならば・・・やはり“彼”か)」
花多狩の視線の先にいるのは春咲と同じガスマスクを被る男―界刺―であった。
以前のように他の救済委員の輪に加わらず、遠くから静観の構えを崩さないこの男こそ、花多狩が抱える最大の不安材料とも言えた。
「全員配置についた?」
「俺達
十二人委員会は全て所定の位置に辿り着いた」
「OKってね、姐さん。安田ちゃんも一緒にいるよ」
時刻はもうすぐ日付が変わる午前0時に指しかかろうとしていた。花多狩達救済委員の面々は標的のスキルアウト達が屯って居る空き地の周囲へ張り付いた。
「それじゃあ、時間合わせをするわよ。今は23時58分25秒。突入時刻は午前0時。いいわね?」
「「了解」」
作戦では、まず農条の『土砂煙幕』でスキルアウト達の行動を奪い、その隙に各人が突入し叩き潰すという至極単純な、それ故に有効な戦略であった。
59分を過ぎ、各人の緊張感が高まっていく。もうちょっとで午前0時になろうとしたその時、
「ションベン、ションベン~っと」
「!!」
スキルアウトの1人が小便をするために、空き地の外―正確には空き地を囲む木製の壁が風化により崩れている部分から出たその場所―に現れた。
そこは・・・農条と春咲が張っていた場所。
「(ヤベェ!!早く身を隠さな・・・)」
「(行きます!)」
「や、安田ちゃん!?」
咄嗟に身を隠そうと行動した農条には、飛び出した春咲を制止することはできなかった。
相対するスキルアウトと春咲。一応春咲も風紀委員になるために格闘術の基本は習っている。
下手に能力を使って攻撃するよりも、絞めるなりして気絶させた方が得策である(空間移動による急所以外への攻撃では敵が大声を挙げてしまうから)。
そう判断した春咲は瞬間的に相対した男との身長差を考慮、男の首を絞めるためにまずは手を捻り、次に足払いを掛けて地面にこかせようとする。
しかし・・・
ドガラララ!!!
「何だ、今の音は!?」
「(し、しまった!)」
そのスキルアウトの体重が予想以上に重かったからか、春咲が知らず知らずの内に焦っていたからか、はたまたその両方か。
春咲は相対した男を地面にこかせるのでは無く、風化により脆くなった木製の壁にぶつけてしまったのだ。
もちろん、そんなことをすれば大きな音がするのは当然のことで、
「あ、あの女は!!この前俺達を襲った・・・」
「チッ!!ここも嗅ぎ付けられたってのかよ!!」
「武器を出せ。あの女以外にもいる筈だ!!どこまで行っても追って来るんなら、ここで返り討ちにしてやれ!!」
「(マ、マズイ!!)」
スキルアウト達は騒然としながらも、すぐに武装を整えて迎撃態勢に入ろうとする。指揮官である花多狩は作戦の失敗・状況の悪化に唇を噛む。
瞬間的に思考がストップする。その隙をスキルアウトは逃さない。
ドドドドドドッッッ!!!
「!!」
スキルアウトの何人かが木製の壁に向かって銃弾を乱射する。何の能力も持たない花多狩はすぐさま壁から離れる。
その離れた一瞬の後、銃弾の嵐が花多狩の居た場所を貫通する。
「くっ!!み、皆は・・・」
すぐにでも携帯で仲間と連絡したい花多狩であったが、今の現状ではそんな暇も与えられない。
とりあえず今は、空き地から離れるしかない。歯噛みする花多狩が足を向けたその先に・・・見知った男が立っていた。
「死ねええぇぇ!!」
花多狩が居た場所に銃弾が撃ち込まれる前、スキルアウトに見付かった春咲にも銃口が向けられていた。
自分の失態に茫然自失状態であった春咲には、銃口が向けられたことに気が付ける余裕は無かった。
「させるかってね!!」
ボスッ!!!
「ぐあっ!!目が!!こりゃあ・・・あん時の土の塊か!!」
「安田ちゃん!!こっちだ!!」
「えっ、えっ」
土の煙幕で身動きが取れなくなったスキルアウト。その隙に春咲を強引に引っ張って空き地から離れて行く農条。
「作戦は失敗だ!!花多狩姐さんとも連絡が取れねぇし、今はこの場から離れるしかないってね!!」
「し・・失敗・・・。“また”?」
「!?や、安田ちゃん。今はこの場から離れることだけを考えるんだ。早く!!」
急に立ち止まってしまった春咲。農条はそんな彼女を力ずくで連れて行こうとする。だが、
「私は・・・逃げない」
「安田ちゃん!?何を言っているんだ!?」
春咲はこの場から離れないと農条に宣言する。
「ここで逃げたら・・・私が『ここ』にいる意味が無くなっちゃう!!私は無力じゃないって証明するために『ここ』にいるのに!!
“また”失敗して逃げるくらいなら・・・皆の足を引っ張るだけ引っ張って最後に逃げるくらいなら・・・死んだほうがマシ」
「安田ちゃん・・・」
ガスマスクに隠された春咲の顔に浮かんでいるそれは・・・悲愴。
「ごめんなさい、農条さん。こんな我儘な女に付き合ってくれて。でも、もういいの。農条さんだけでも逃げて」
「そ、そんなことできるわけないだろう!!仲間をほっぽいて俺だけ逃げられるわけないっての!!」
「これは私のミス。だから私が責任を取らないと。失敗ばかり・・・役立たず・・・こんな真似しかできない女でも・・・最期の落とし前はつけないと」
「安田ちゃん!!」
「ありがと。・・・そう皆に伝えて下さい。それじゃあ!!」
目に涙を浮かべながら、悲愴な表情を浮かべながら、それでも“笑って”感謝の言葉を農条に伝えた春咲は戦場へ戻って行く。
「安田ちゃん!!」
ドドドドッッ!!!
「ぐっ!くそっ!!」
春咲を追い掛けようとする農条だったが、それはスキルアウトの銃弾に阻まれる。農条は春咲の後姿を見送ることしかできなかった。
そんな彼の内ポケットから鳴り響く携帯電話。彼は苛立ちながらも周囲に気を払いながらその電話に出る。その電話主は・・・
春咲は走る。彼女が被っていたガスマスクは何時の間にか外されていた。目的地は・・・戦場。命のやり取りが行われているその場所に足を走らせる。
春咲は泣いていた。自分の失態に対して。自分の無力さに対して。他にも理由はあるだろうが、総じて・・・自分自身への怒りのために泣いていた。
自分が無力じゃ無いことを証明するために来た『ここ』で、自分自身の力不足を痛感させられた。
それは、自分だけでは無く仲間と呼んでくれた人達にも危害が及んでしまった。及んだ事実が生まれてしまった。
変えようのない事実。だからこそ、最期の落とし前は自分の手で。たとえ命を落とすことになったとしても。それで皆が救われる可能性が上がるのなら。
そして、春咲の目と鼻の先に空き地―戦場―が見えたその時に姿を現したのは、
「死にに行くのかい、お嬢さん」
「!!・・・界刺さん」
ガスマスクを被っていない―『光学装飾』を解除したのだろう―界刺が木製の壁にもたれていた。
近くでは何かの爆発物が爆発したのか、盛大な黒煙が吐き出され、同時に轟音が鳴り響いている。
「安心しなよ。ここら辺は俺の『光学装飾』で木製の壁がぶち壊れているように見せているから。つまり、奴等には“誰もいない状態”に見えているからさ」
「そこを・・・どいて下さい。私は・・・あそこに行かなきゃならないんです!!」
界刺の言葉をまるで無視するかのように言葉を放つ春咲。
「嫌」
「嫌って・・・!!何で、何であなたは私の前に立ち塞がるんです!?興味が無いのなら放っておいて下さい!!
私がムカつくのなら・・・無視していて下さい。あなたがムカつく女は今から戦場で命を落とすんですから!!」
血反吐を吐くかの如き声を挙げる春咲。その表情には悲愴に加えて憤怒の色が浮かんでいる。それは本当に追い詰められた者が浮かばせる“色”。
「何で君が命を落とすって決まってんの?」
「へっ?」
だからこそ、界刺の放った言葉をすぐには理解できなかった。
「だから、何で君が命を落とすって決まっているんだい?そんなことはやってみなくちゃわかんないだろう?まあ、その可能性は極めて高いだろうけど」
「だ・・・だ・・・だって!!貴方が言っていたじゃないですか!?私は死ぬって!!」
「あぁ、そんなことも言ったっけかな。でもさ、こうも言ってたよな?『多分だけど』ってね」
「!!で、でも!!」
「君はさ・・・そんなに死にたいのかい?だったら俺の予想は外れだな。ここまでの死にたがりだったなんて。こういう人を自殺志願者って言うのかな?」
「わ・・・私は責任を取らないといけないんです!!皆を危険な目に合わせたその責任を!!皆を救うために!!」
「救うために・・・ね。大層なお題目だけど・・・残念だったね。その必要はないよ」
「えっ?」
春咲が疑問の声を発した瞬間に、界刺が指を鳴らす。そして、変化する光景。春咲が目にしたのは・・・
「ハハハハハッッッ!!この俺が貴様等如きに遅れを取るわけがないだろうが!!あの娘との誓いがある限りな!!」
「さすがは師匠!!拙者ももっと精進せねば!!」
「刺界が唱える“秘策”を試すこともできたし、今回は上々かな?これは、結構使えそうだ」
「全く、そういうことは作戦前に言ってくれないかしら?そうしたら、もっとスムーズに事が運べたでしょうに」
「安田ちゃん・・・大丈夫か?くそっ、電話がイカレてやがる!さっき落としたせいか?」
空き地の中央に立つのは啄、ゲコ太、仲場、花多狩、農条という救済委員の面々である。
先程まで暴れていたスキルアウト達は皆、地面に臥せていた。
「な、何で・・・?どうやって・・・?」
「君が突入に失敗した後に、俺が啄達に提案した“秘策”を用いたの。啄の能力と併用したんだけど、効果テキメンだったな。
あの銃弾の嵐が振り撒かれていた時に“秘策”を導入し、敵さんを混乱させている間に
花多狩と農条に接触とか連絡を図った上で、連携して事に当たっていたわけ。
もちろん、ここに君が来た時点で君の目に入る情報を俺が操作していたからな。君にはわからなかったろうけど」
「・・・ヒッ!痛っ・・・」
全てが終わっていた。その事実を聞かされた春咲は思わず腰を抜かしてしまう。それは致し方の無いこと。先程まで命を失うつもりでいたのだから。
「俺が嫌って言ったのは君が介入することで、討伐に支障が出ることを避けたかったからだ。ようは時間稼ぎ。わかったかい、腰の抜けたお嬢さん?」
界刺の言葉はどこまでも厳しい。彼は自分が無力であることを認めろと言っているのだ。少なくとも春咲はそう受け取った。
「とまぁ、一件落着と言いたい所だけど・・・まだ終わっちゃあいないよ?」
「えっ?」
界刺の言葉に顔を上げる春咲。その目に入って来た映像は、
「!!」
まだ気絶していなかったスキルアウトであろう1人の男が、手に持った拳銃を農条に向けていた。
「俺は君に何かあっても何もするつもりは無い。これからも。でも、俺をムカつかせた責任は取ってもらう」
倒れているが故に、農条達は銃口が向けられていることに気が付いていない。
今まさに引き鉄が引かれようとしている。
「皆のために責任を取るってんなら・・・“死んで”じゃ無くて“生きて”果たせよ、大馬鹿野郎」
その瞬間に春咲の手の平に乗せられたのは―小石。
春咲に小石を与え、春咲の目に入る光を捻じ曲げて今の光景を見せているであろう男はもう一言だけ言葉を付け加える。
「力を証明したいのなら・・・名誉ある死を遂げた英雄としてじゃ無くて、無様に生き残った凡人として証明してみせろよ、
春咲桜・・・!!」
その言葉を受けて、春咲桜は『劣化転送』を発動する。己の仲間を護るために。
「ありがとう!本当にありがとう、安田ちゃん!!」
「い、いえ。私は農条さんに褒められるようなことは何一つ・・・」
ここは第7学区。救済委員の面々は自分達の溜まり場に戻って来たのである。あれだけ大騒ぎになれば、すぐにでも警備員が駆け付けるに違いない。
そう判断した彼等は、第6学区から早急に去ったのである。
「そんなこと無いってね!!まさか、まだ気絶していなかったスキルアウトがいただなんて。安田ちゃんの力が無かったら俺は今頃・・・」
「死んでいたかもな。ツイてるな、農条。しっかし・・・空間移動能力ってやっぱスゲーな」
「そうでござるな!!安田殿!拙者、深く感動しておるぞ!!」
「だ、だから私は・・・作戦をメチャクチャにする所だった・・・」
「確かに貴方のせいで危うく作戦が瓦解する所だったわ。それについてはきちっと反省してもらわないと」
「花多狩姐さん・・・」
「でもね。貴方のおかげで、私は仲間を失わずに済んだ。それは紛れも無い事実よ」
「花多狩さん・・・」
「だから、改めてお礼を言うわ。指揮官としてもね。本当にありがとう、安田さん」
「俺からももう一度礼を言うよ。本当にありがとうってね!!」
「・・・ど、どういたしまして///」
「おい、農条よ。その“~ってね”っていう口癖は何とかなんねぇのか?こういうシーンで出されると、感動が削がれるっていうかよ」
「う、うるさいな。仲場は一々細かいトコまで気にしすぎなんだってね」
「『閃天動地』の発展形・・・あの“秘策”をどう名付けたものか・・・ブツブツ」
「さっきから何をブツブツ言っているの?独り言なら余所でやって頂戴」
減らず口が絶えないが、それでも皆の顔はどこか緩んでいる。それは、討伐がなったからだけでは無いだろう。
「あ~、やっと帰って来た。もう、何処に行ってたのよ~花多狩姐さん」
「羽香奈・・・何故貴方がここに?」
そんな花多狩達を溜まり場で待っていたのは、銀色のカチューシャを付けた少女―
羽香奈琉魅―であった。
「どうしても何も、上下ちゃんから頼まれてさあ。でなきゃ、こんな時間までこんな所にいないっての」
「峠が・・・用件は」
「姐さんに用って言うよりは、第7学区で活動する穏健派の救済委員全員に対する用件かな?」
「それって・・・」
「うんにゃ。姐さんが考えてる通りだよ。『過激派の救済委員と会合を開きましょう』っていうお達し」
「やっぱり・・・」
「えっ?過激派って。それにあの女の子・・・私達を穏健派って」
「・・・安田ちゃんにはまだ教えていなかったけど、救済委員にも派閥みたいなのがあってね。
俺達みたいなスキルアウトや無能力者狩りだけをを狙う救済委員は一般的に穏健派とされているんだ。
一方過激派の連中は風紀委員や警備員にまで手を出しているんだ。イカレた奴も多いし、正直関わりあいたくないってね」
「そ、そうなんですか・・・」
知らなかった事実に驚きの声を挙げる春咲。組織というものは、やはりそういうものなのかと1人納得する。
「会合は3日後。午後10時から、この溜まり場で行うって言ってたわ。もちろん、全員出席でね。・・・おんや?新入りが入ったの?」
「ええ。最近ね。中々参加しない貴方は会うのが初めてだったわね」
「こりゃお手厳しい。あたしだって色々忙しいの。で、名前は?うん?2人共ガスマスク被ってさ。あの男運皆無な女みたい」
「コラッ!!羽香奈!!」
「はいはい。あたしが悪うござんした」
「わ、私は安田って言います。よろしくお願いします」
「自分は、誇り高き安田先輩が下僕!!刺界と申す者であります!!以後お見知りおきを!!!」
「・・・何ていうか、マスクを被ってる奴等って変人ばっかりなのかなあ」
「へ、変人って・・・」
「あ~、ごめんごめん。アンタは別よ。自己紹介が遅れたわね。あたしは羽香奈琉魅ってんだ!一応穏健派だから!よろしく!」
「よ、よろしくお願いします」
比較的テンションの高い羽香奈に戸惑う春咲であったが、何とか挨拶はできた。これから会う過激派の救済委員とはどういう人達なのか。
期待と不安に胸が膨らむ春咲であった。
「はぁ~、桜の奴、遅っせーな!どこほっつき歩いてるんだ?こりゃあ、躯園姉ちゃんに言い付けないと」
ここは、春咲桜が住む家。深夜2時になろうかというこの時間帯にも関わらず起きているのは金髪のツインテールの少女。
彼女の名は
春咲林檎。春咲桜の妹であり、春咲三姉妹の三女である。
「躯園姉ちゃんもこの所家に帰らないし、パパもママも仕事でお留守。1人留守番をしている林檎ちゃんの身にもなれっつーの」
春咲家は能力開発のエリート一家である。両親は著名な科学者で、長女と三女はレベル4という高位能力者である。
唯一次女―春咲桜―だけがレベル2という低能力ランクに留まっている。そのためか、春咲桜は長女と三女から家庭内暴力を受けているのだ。
「桜の奴が帰ってきたら、一発かましてやんねぇとな。低能力者の分際でこの林檎ちゃんに家事を押し付けやがって。
このツケ・・・そのカラダできっちり払ってもらわなきゃね。あー楽しみだなあ・・・苦痛に歪む桜の惨めな顔が。クスッ」
continue!!
最終更新:2012年05月09日 20:30