時刻は午後10時を回った。予定通り、穏健派及び過激派救済委員達による会合が開催される。

「それじゃあ、情報交換も兼ねた会合を始めるわ。異論は・・・無いわよね?」

会合を主導する穏健派の代表は花多狩が務める。
普通なら事前に決定していた会合の開催、それも過激派からの申し出故に異論等発生するわけが無い状況で、
あえて花多狩が確認したのは先程会合の必要性に疑問を呈した春咲躯園に対する牽制であった。

「勿論異論は無い。今回はこちらからの申し出だ。有意義な会合になることを望む」

花多狩の確認に答えたのは雅艶。会合を主導する過激派の代表は雅艶が務める。
元来単独行動の多かった救済委員―特に過激派―に対して、集団行動や情報交換の重要性を説いたのは雅艶であった。
彼曰く、「その方が効率よく狩れる」というのが理由だそうだ。

「では、本日の会合の主題である、最近の学園都市内で起きている事件や変わったことを報告する前に。実は私達穏健派に新しい仲間が加わ・・・」
「そんなことはどうでもよくないかしら、花多狩?」

花多狩が新入りメンバーである春咲と界刺を改めて紹介しようとした矢先に異論を挟んだのは躯園。

「雅艶に聞いたわよ。全くの期待外れだったって。もう1人も似たようなものじゃないの?紹介するだけ時間の無駄よ」
「で、でも!」
「春咲の言う通りだな。俺も今回の新入りに対しては結構失望している。1人は期待外れ、もう1人は芸術のげの字もわからない奴だったしな」
「・・・さもあなたの芸術に同意しているような言い方はやめてくれる、雅艶?」

雅艶が発した同意の言葉にものすごく嫌そうな顔をする躯園。
どうやら、穏健派のみならず過激派の面々も雅艶のいう所の芸術に対しては良い印象が無いようだ。

「そうそう、春咲姉ちゃんの言う通りだよ!雅艶兄ちゃんの芸術ってあたしにもさっぱり理解できないよ。ねっ、上下ちゃん?」
「どうして私に振る的な言葉を選ぶのかしら?私はどうでもいいわよ。興味無いし」
「そうか。ではお前のヌード絵は描いていいということだな。了解した」
「はぁっ!?何でそんな流れ的な風になるわけ?あなた、馬鹿じゃない?」
「心外だな。俺からすれば、ヌード絵の真髄を何一つ理解できないお前の方が馬鹿に見えるが?」
「・・・どうやら死にたいようね?何なら私の『暗室移動』で、そのお花畑の頭に鉛玉をぶち込んであげてもいいのよ?」
「・・・お前が俺を殺す?はっ、これは面白くも何ともない冗談だな。そっくりそのまま言葉を返すぞ・・・峠?」
「峠さん!雅艶君!2人共落ち着いて!!今日集まったのはいがみ合いをするためじゃないでしょう!?」
「・・・フン!」
「・・・チッ!」

剣呑な空気を醸し出す峠と雅艶を仲裁するために割り込む刈野。彼女の言葉で峠と雅艶は矛を収める。




「相変わらずウチら過激派って仲間意識薄いっすよねぇ。どこぞの風紀委員(バカ)の集まりを見習わせたいくらいっすよ」
「そうだな。まぁ、仕方無いんじゃねぇか。どいつもこいつも救済委員になった理由も戦う理由も違うわけだしな」

そんな様子を見て言葉を漏らす荒我に相槌を打つ斬山。

「あらぁ、あなた・・・私達の仲間だったの?初耳だわ?」

そこに割り込んで来たのは、またしても躯園。

「どういう意味だ?」
「だってぇ、あなたってレ・ベ・ル・0よねぇ?花多狩みたいに指揮官みたいなこともできない、私達過激派の中で1人だけ何の才能も無い落ちこぼれ。
そんな喧嘩するだけが能なワンちゃんが私達の仲間なの?私、今の今まで知らなかったわ。フフッ」
「てめぇ・・・喧嘩売ってんのか、あぁ!?」
「ほら、すぐに喧嘩、喧嘩ってバカの1つ覚えみたいに吠えてばっかり。斬山という飼い主がいなければ、今頃は何処かで野垂れ死んでいたのではないかしら?ハハッ!」
「てめぇ!!」

躯園の嘲笑と挑発に我慢できなくなった荒我は飛び掛かろうとする。
目の前の女が言い放った言葉を看過することは決してできない。己のプライドに懸けて。



「待て!!拳!!」
「・・・斬山さん。でもよ!!」
「ほら、やっぱりあなたって斬山のペットなのね。飼い主の言いつけはちゃんと守るのは高評価よ。あなたと同じ落ちこぼれの私の妹にも見習わせたいくらいだわ」
「・・・!!」
「春咲。お前の家の事情なんざ興味は無ぇが、俺の舎弟に随分ナメた口きくじゃねーか」
「斬山さん・・・」
「あら。私は事実を言ったまでよ。あなたの言いつけを守る可愛らしいペットってね」
「こいつが俺の言いつけを守る?だったら、こいつは俺の舎弟なんかにゃあなってねぇよ。俺は舎弟なんか持つつもりはなかったからな」
「・・・どういう意味かしら?」

襟から出たフードによって斬山の目は中々見え難い。だが、確かに斬山の目には躯園に対する怒りの色が宿っていた。

「こいつは無理矢理俺の舎弟を名乗って、無理矢理救済委員に入った。俺の許可も得ずにな。最初はどうしたもんかと考えた。
何せ、こいつが救済委員になった理由ってのは俺が救済委員だからってやつだ。つまり、俺が拳を救済委員に入らせちまったも同じってことだ。」
「・・・」
「だが、拳と一緒に暴れている内にこういうのも悪くないと思えるようになった。これが友達(ダチ)ってやつなのかと・・・その時思った」
「斬山さん!」
「まあ、いまだにこいつはウザい時が結構あるけどな」
「ガクッ!ひ、酷くないっすか?」
「本当のことだからしょうがねぇよ。・・・だからよ、俺の友達にイチャモン付けるってなら、俺は容赦しねぇぞ・・・春咲?」

斬山の怒りの声に一瞬怯む躯園だったが、すぐに立て直す。

「・・・フン。ペットがペットなら飼い主も飼い主といった所かしら?」
「何余裕かましてんのか知らねぇが、お前の『毒物管理』は俺の『軌道修正』と相性最悪なんじゃねぇのか?
どうあがいても、お前は俺に一生勝てねぇよ・・・なぁ、“凡人”?」
「・・・“凡人”?私が?・・・ハハハハハァァッッ!!!・・・・・・その体全てを毒まみれにしてやろうか・・・!!?」
「また、あのダサいガスマスクを付けんのかよ?前から言いたくて仕方無かったんだが・・・ださいにも程があんだろ、アレ」
「その減らず口を二度と叩けなくしてあげるわ!!クズが!!」

激しい応酬の後に互いに臨戦態勢に入ろうとする躯園と斬山。躯園はガスマスクを装着し、斬山は懐から拳銃を取り出す。
本当に殺し合いが始まってしまう。そう感じ取った他のメンバーが2人を止めに動こうとした瞬間、



「お二方共、そこまでです!!」



誰よりも早く、そして躊躇無く割って入って来たのは七刀。彼の手には正真正銘本物の刀が握られており、それを躯園と斬山の間に振り下ろす。

「本日は何のためにここに集ったのか!普段は行動を共にしない我等過激派と、この第7学区を主な活動範囲としている穏健派が何故集まったのか!
その意味をもう一度考えて下さい!!何なら私の『思想断裁』でお二方がいがみ合いになった原因を“断裁”してあげましょうか!?」

言葉は丁寧だが、伊達眼鏡の奥から覗かせる眼光には殺気が宿っていた。
もし七刀の説得に応じず躯園と斬山が殺し合いを始めれば、彼は躊躇無くその刀を向けるだろう。



「おーい。お前等、落ち着けって。勝手にテンション上げてんじゃねぇよ」

もはや殺気しか漂わない空間に、ある意味場違いな空気を割り込ませたのは金属操作

「ったくよ。今回の会合を荒らすのはてっきり鴉達変人集団かと思ってたら、何でお前等なんだよ。お前等、あの変人集団未満になりたいわけ?」
「む!?聞き捨てなら無いな、金属操作!!俺達がそんな真似をするわけないだろう!!」
「ふ・ざ・け・ろ、馬鹿鴉!!花多狩姐さんから聞いたぜ?お前等が姐さんのヌード絵を勝手に雅艶に制作依頼して、バレて姐さんの逆鱗に触れたことを」
「えっ!!そ、そうなの姐さん!?」
「花多狩・・・ご愁傷様」
「・・・雅艶。あなた・・・」
「うん?別に話してもいいじゃないか。仲間なのだし」
「仲間とかそんなの関係無い!!そもそも今回はその仲間に・・・。って何よ、あなた達!そ、そんな哀れみの目を私に向けないでよ!!」

金属操作の言葉に羽香奈と峠が反応し、花多狩がバラした雅艶を睨み付け、雅艶は素っ気無い返事に終始する。
そして、いつの間にか花多狩に哀れみの目線を向ける躯園、峠、羽香奈、刈野の女性陣。救済委員初の雅艶ヌード絵における犠牲者第1号の誕生である。
この事実は、さっきまで漂っていた殺気を吹き飛ばすには十分な衝撃であった。

「何とか収まったようだな。全く時間の無駄でしか無い。お遊戯会をしたのなら、余所でしろ」
「・・・相変わらずのキツい一言どうも」

今まで黙っていた(というよりは馬鹿らしくて関わらなかった)麻鬼の一言に少し青ざめる金属操作。
麻鬼が放つ言動はいつも厳しいので、過激派の面々でも浮いている存在であった。

「ま、まぁ雅艶のヌード絵の件で丸く収まったんだし、良しとしてもいいんじゃね?」
「な、何が丸く収まったって言うの!!?」
「うるさいぞ、花多狩。そもそもの話、たかだか裸絵の1枚2枚で騒ぎ過ぎだ。雅艶にとっては芸術の1つなのだろう。少しは好きにさせてやればどうだ、花多狩?」
「ほう、さすがは麻鬼だ。話がわかるじゃないか」

金属操作・麻鬼・花多狩の会話に雅艶が応える。その表情は柔らかい。微笑を浮かべているとも言っていいだろう。

「別に。俺にとってお前の芸術云々には興味が無いだけだ。ただ、この場に集まったその意味を考えるとだな・・・」
「よーし!!それじゃあ、今度は麻鬼のヌード絵を描いてお前にプレゼントしよう!!」
「そうだな、俺のヌード絵を・・・・・・はぁっ!!?」

突如飛び出した雅艶の爆弾発言に、普段の毅然とした態度が吹っ飛ぶ麻鬼。どうやらさすがの麻鬼でも狼狽は隠せないようだ。

「何が『はぁっ!!?』だ。ちゃんと聞こえなかったか?ではもう一度言うぞ。今度はお前のヌード絵を描いて・・・」
「な、何故俺のヌード絵なのだ!!?お、お前が描いているのは女性のヌード絵ではなかったのか!?」
「それは、ただの偏りだ。俺は男だから、男とは体の構造が違う女の裸身の方が描きがいもあるというだけだ。何も男のヌード絵を描かないってわけじゃ無い」
「その理屈はおかしくないか!?」
「何を根拠にそんなことを言う?やはりお前も俺の芸術は理解できないか。ちなみにここにいる男・女全ての裸身は既に俺の頭の中にインプットされている」
「「「「「「「「「「「「「「「「「!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」
「こうなれば、お前達には一度俺の芸術の何たるかを知らしめる必要があるな。
よし、決めた。今度お前達全員のヌード絵を描いて来てやろう!!そうすれば、いくらお前達でも少しは芸術の奥深さというものを理解でき・・・」




ガシッ!!!




「む!?何だ、お前達。そんな恐い形相をして。というか、何故俺は取り押さえられているのだ?」

爆弾発言を続けている雅艶の背中と両脇から取り押さえるのは麻鬼・斬山・荒我の3人。

「私の保持している毒素の中に記憶を吹っ飛ばすものは・・・」
「春咲姉さん!ここはあたしの『絶対挑発』で・・・」
「いえ、お二方共。今回は全て私にお任せを。見事“断裁”してみせますよ・・・必ず」

何やら物騒な話をしているのは躯園、羽香奈、七刀の3人。

「何でもいいからさっさとやれ!但し、俺達に危害を及ぼすなよ」
「拳!!しっかり抑えてろよ!!」
「わかってますよ!!斬山さんこそ先にリタイアしないで下さいよ!!」
「へっ、言うようになったじゃねーか!!」

麻鬼の必死な声と、斬山・荒我の掛け合いが重なる。

「大丈夫ですよ、麻鬼さん。今決まりました。私の『思想断裁』で雅艶さんの記憶の中にある私達の裸身を“断裁”します」

その言葉に応えたのは七刀。彼の手には先程見せた刀が握られていた。近くにある電灯の光で妖しく光る七刀の刀身。

「な・・・!!お、お前等!!」
「じっとしていて下さいよ、雅艶さん。そのお体にできるだけ傷は負わせたくありませんので。では・・・行きます!!」

笑顔を振り撒きながら抜刀の構えに入る七刀。その間合いから何とか逃れようとする雅艶だったが、麻鬼・斬山・荒我によってそれは阻まれる。そして・・・

「(私達にとって)忌まわしき記憶を・・・この一刀で全て無に帰す。断!!裁!!」
「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


七刀の一刀によって、雅艶の記憶から救済委員達の裸身は“断裁”された。

continue!!

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最終更新:2013年05月31日 23:26