「(お兄さんって、レベル幾つ?)」
「(うん?俺?レベル4の光学系だよ。君は?)」
「(あたしもレベル4だよ。念話系の。お揃いだね!)」
「(そうだね)」
ここは、コンテナターミナルの出入り口を出た辺りの車道。ここを歩くのは、界刺と林檎の2人。2人は戦場であるターミナルから退避するべく、この道を歩いていた。
「(光の操作かぁ。色んなことできるんだろなぁ)」
「(まぁ、色々できるね。そういう林檎ちゃんの『音響砲弾』も使い勝手いいよね。回線を繋げれば、念話と攻撃の2つを何時でも切り替えられるんだから)」
「(フフッ。そうでしょ、そうでしょ!!お兄さんって話がわかるねぇ。さすがは、あたしと同じレベル4だ)」
今の2人は念話にて会話を行っている。その方が楽だからというのが林檎の言である。
「(そんなお兄さんが、どうして桜なんかと一緒にいるのかさっぱりわかんないよ。あたしと一緒に居た方が何万倍も楽しいと思うけどなぁ)」
「(・・・色々ワケ有りでね)」
「(ふ~ん)」
界刺と話す林檎は生き生きとしていた。先程までの疲労困憊ぶりが嘘のようにはしゃいでいる。少なくとも、界刺にはそう見えた。
「(でもさ、そのワケも今夜で終わりなんでしょ?)」
「(の予定だね)」
「(だったらさ、これからあたしと一緒に遊ばない?何なら躯園姉ちゃんも一緒にさ!絶対に楽しいって!桜なんかと一緒に居るよりかは!!・・・どうかな?)」
「(そうだねぇ・・・。・・・・・・!!)」
林檎の提案にしばし思案に耽っていた界刺が気付く。それは、上空から聞こえた音。なにかが破裂したような音。それは・・・合図。
「・・・・・・」
見れば、林檎の方もさっきまでの楽しげな表情が一変して、真剣な顔付きになっている。念話で界刺と話す余裕も無いようだ。だから、界刺は言葉を発する。
「・・・来たのかい?」
「えっ・・・?」
林檎の反応から、雅艶達『も』認識したのだと確信する界刺は言葉を続ける。
「雅艶から連絡が来て、他の過激派に伝達したんだろう?空を統べる“お姫様”が現れたってな?」
「!!ど、どうしてそれを・・・」
雅艶からの情報を見事に言い当てられ驚愕する林檎の質問に取り合わず、界刺は上空を見上げる。
「頼んだぜ・・・真刺、仮屋様」
己が仲間に向けた信頼の言葉を夜風に乗せながら。
「な、何ですかー!?あのガスマスクをかぶった人達はー!?」
「さぁな。大方この辺を警戒している奴等ってとこだろう。空を飛んでいるってことは、念動力系能力者か?へっ、面白えぇぇ!!!」
上空に浮かぶ不自然な光源を不可解に思った閨秀と抵部は、ここコンテナターミナルへ直行した。
すると、自分達が居る上空にガスマスクを被った2人組が待機しているのを発見したのである。
「こうやってあたし達を待ち構えてた所を見ると・・・ドンピシャかもな、抵部!」
「じゃすてぃすですねー!!すると・・・はるさき桜って人もいるんですかねー!?」
「さぁな!そりゃあ、これから調べりゃいいだけの話だ。抵部!これから急降下するぞ!しっかり捕まっとけ!それと、『物体補強』の準備もな!!」
「りょーかいです!!」
閨秀は後背に引っ付いている抵部に指示を出した後、地面に向けて急直下する。
「さぁて!!まずは、小手調べだ!!」
己が能力『皆無重量』による無重量球を両手に発生させる。狙いは・・・コンテナ。
「そぉれ!!!」
無重量球が飛ぶ。そして・・・。“花盛の宙姫”による戦場の席巻が遂に始まる。
「仮屋!!“宙姫”を見失うな!!追え!!それと、奴の無重量空間に囚われるなよ!!」
「そ、そんなこと言ったって~。あの娘相手にそれは無茶なんじゃあ・・・」
「回転寿司食べ放題に加えてハンバーガー食べ放題!!」
「うんっ!!ボク、頑張る!!」
身元がバレないようにガスマスクを被り“宙姫”を待ち構えていた不動と仮屋は、“宙姫”が戦場であるコンテナターミナル中心部への突入前に急降下したのに意表を突かれた。
すぐに、不動の指示により仮屋が向かう。仮屋の能力『念動飛翔』は、人1人を乗せて飛ぶことができる。よって、今回のように空中戦における共闘も可能なのだ。
「“宙姫”め。一体何を・・・ぬっ!!?」
「うわっ!!?」
不動達が“宙姫”を追って急行した地点から突如上空―正確には不動と仮屋―へ向けて放たれたのは・・・コンテナ。
「っっっ!!!」
「くっ・・・!!」
スピード全開で突っ込んでいた仮屋が辛うじて向かってくるコンテナを避ける。
「油断してんじゃ無ぇぞ!!!」
「「!!!」」
それは、仮屋が避けたコンテナの後方にくっ付いていた閨秀の声。彼女の眼前には、木材や鉄パイプが浮かんでいた。
そして、それ等が一挙に高速で放たれる。上且つ後方を取られた仮屋達に向かってくる不意打ちの軍勢。だが・・・
「はっ!!!」
「!?」
仮屋は腕周りの空気圧を翼状に変形―曰く“双翼モード”―させ、そこから羽根型の空気圧弾を放出し、向かってきた木材や鉄パイプを破壊する。
「やるねぇ!!!だったら、これはどう!!?」
閨秀は攻撃の手を緩めない。自分が制御できるギリギリまで飛ばした先程のコンテナを反転させ、仮屋達にぶつけるべく高速で向かわせる。
「はあああぁぁぁっっ!!!」
それ等向かってくるコンテナ群を、今度は不動が自身の能力『拳闘空力』で発生させた拳による衝撃でもって、飛来してくるコンテナを次々に破壊する。
鋼鉄さえ砕くと言われるその威力に目を丸くする閨秀。だが、その余裕の笑みは崩れない。
「ぶっ壊したくらいで、安心すんなよ、コラアアァァッッ!!!」
「何!?」
驚愕する光景―破壊した幾つものコンテナの残骸が未だに高速で自分達に向かってくる―を目にした不動。閨秀が仕掛ける範囲攻撃に対し、不動は仮屋に指示を出す。
「仮屋!!『アレ』を!!」
「わかった!!」
不動の指示を受け、仮屋は『念動飛翔』で搭乗者、つまり不動を包んでいた空気圧に自身が纏う空気圧を集中させる。具体的には、不動の右拳に。
不動の『拳闘空力』は己の肉体でしか発動できないため、武器等に能力を付与するのは不可能である。
しかも、衝撃の大きさは飛ばす身体の部分の表面積分に限られるという制約がある。威力はずば抜けているが、全体的に範囲が狭い。それが、『拳闘空力』の弱点である。
それを、仮屋の『念動飛翔』がフォローする。搭乗者―不動―を含めた空気圧が仮屋の『念動飛翔』である。つまり、支配下で発生した“衝撃”すらも仮屋は制御可能である。
制御とはすなわち・・・衝撃を拡散させることも、威力の指向性を高めることも可能なのだ。
逆に、『拳闘空力』で発生させる衝撃の威力は身体能力等により増減する。
今、不動の右拳は仮屋の『念動飛翔』で集められた空気圧で非常に『重い』。この状態で拳を振り抜くのは、並大抵では無い。
だが、不動にとってはその『重さ』は苦にならない。日々己の肉体を鍛えるための鍛錬を欠かさない男にとって、それは鍛錬の一環でしかないのだ。
つまり・・・
「うおおおおぉぉぉっっ!!!!」
「な、何!!?」
ドオオオオオンンン!!!!
不動が放ち、仮屋が拡散させた大衝撃は、閨秀の範囲攻撃―幾つものコンテナの残骸による―を丸ごと吹っ飛ばした。
その威力の大きさに一瞬反応が遅れた閨秀は、不動が放った大衝撃に巻き込まれた。
「ハァ、ハァ・・・。やったか?」
「・・・ううん!!まだだよ、不動!!」
大技を放ち少々息切れを起こす不動に、仮屋が警戒の声を放つ。仮屋の視線の先には・・・
「ふぅ。ちょっくら、やばかったかなぁ。サンキュ、抵部」
「へへ~ん♪そらひめ先輩はわたしが付いてないとだめなんですから」
「ったく。調子に乗ってんじゃねぇっつーの」
「・・・無傷だと!?馬鹿な・・・!!」
不動は自分の目に映る光景―無傷の閨秀達が緩やかに下降している―が信じられなかった。確かに先程の一撃は閨秀を捉えていた。なのに・・・。
「だってぇ。わたしの『物体補強』のおかげでケガしなくてすんだんですからぁ」
「あたしの『皆無重量』の役割も大きかったけどな」
つまりである。不動の一撃を喰らった閨秀だったが、後背の抵部の能力『物体補強』にて、
自分達の周囲にある空気を分子レベルで固定していたことによる強度up↑によって極短時間だけ耐えることができたのである。
その間に、閨秀の『皆無重量』にて即座に荒れ狂う衝撃の波から離脱したのである。
抵部の『物体補強』には、人間に掛けると全く動けなくなるという致命的な弱点があるのだが、
無重量空間を形成し、その中で自由自在に飛行する閨秀の『皆無重量』とは相性抜群で、結果としてお互いの利点を生かせる組み合わせとなっているのだ。
「でも、服がよごれちゃいましたねー!!」
「そうだな・・・。んじゃ、弁償してもらうとするか・・・」
閨秀の目が鋭くなる。それは、彼女が本気になった証。下降が止まる。そして・・・
「あいつ等の体でなあああぁぁぁっっ!!!」
自分を中心とした巨大な無重量空間を発生させる。下方にある数多のコンテナや木材等、空間内にある物体の全てが浮遊する。
閨秀は腕を顔の前で交差させる。それに伴い、浮遊したコンテナ等が―閨秀の念動力で―空間内を高速で回転する。
瞬間、閨秀は空間ごと一気に上昇する。不動達が居る高さを一気に追い抜く。
「あ、あいつ。まさか・・・!!」
「不動・・・。ヤバイよ、あれ」
不動と仮屋は、閨秀が仕掛けてくるであろう攻撃に、デジャブを感じる。それは、先程見たばかりの光景。
水楯の『粘水操作』と一厘の『物質操作』によって実現可能にした、弾丸の如きコンテナ『群』の放出。しかも、小型では無く大型のコンテナを用いて。
先程以上の光景を、“花盛の宙姫”は独力で実現させようとしていた。そして・・・時は満ちる。
「そりゃさあああああああ!!!!」
交差させていた腕を解き、閨秀はコンテナ『群』をまるで流星群のように射出する。
無重量空間中の物体は空気抵抗を受けないために、空気抵抗による速度の減衰が無いまま射出される。
つまり、通常空間より速度も威力も増した広範囲攻撃が不動達に降り掛かったのだ。
「避けろ、仮屋!!」
「う、うん!!」
不動達が先程放った大衝撃は放った後の隙が大きく、今のような場面では使えない。
仮屋は旋回性能に長ける“双翼モード”になり、高速且つ多量に飛来して来るコンテナを避け続ける。だが・・・
ガシッ!!
「「!?」」
「つ~かま~えた!!」
飛来して来るあるコンテナの頂上に引っ付いていた閨秀が、不動達を巻き込んで無重量空間を発生させる。
「くっ・・・!!」
「バ、バランスが・・・」
感覚が狂う。平衡感覚すらも。それも当然。誰しも無重量を経験するのが初めてなら、地球という重力下で通常暮らしている時とは感覚も何もかも違うのは当たり前である。
(ちなみに、後背の抵部は風紀委員活動で閨秀と共に外回りすることが多いので慣れている)
「さ~て、あたし達の汚れた服の弁償をしてもらおうか?」
「(ぐっ・・・!!これは・・・念動力か?)」
「(な・・・何とかここから・・・)」
無重量空間内に限り、閨秀はレベル3程度の念動力を行使することができる。元々『皆無重量』自体が念動力系の派生能力であった。
不動と仮屋は閨秀の念動力によって体を締め付けられる。その圧力に苦しむ2人だったが・・・
「へぇ・・・あたしの念動力を振り切って動けるたぁ、大したもんじゃねぇの。そっちのデブはレベル4クラスの使い手か?さっきの衝撃を放った奴もおんなじくらいかねぇ?」
仮屋は『念動飛翔』のフル出力で、閨秀の念動力を振り切ろうとしている。閨秀の念動力はレベル換算でレベル3程度。
レベル4の念動力系能力者ならば、閨秀の念動力を振り切ることも不可能では無い。
「よしっ!それじゃあその必死の努力に免じて・・・・・・超高速でコンテナに突っ込めよ、クソ野郎共!!!」
「「!?」」
不動や仮屋を縛っていた念動力が突如解除された。『無重量空間内で』。それが意味するものは・・・。
「グアアッ!!」
「ガアアッ!!」
超高速の突進。仮屋は閨秀の念動力を振り切るために『念動飛翔』の全開を出していた。そんな折に、突如解除された自分達を縛っていた拘束力。
拘束とは、動きを制限する“枷”である。その“枷”が一瞬で消滅したのである。車のブレーキを掛けたままアクセルを踏み続けることを想像すればわかりやすいか。
“枷”=ブレーキである。ブレーキを失ったその車はどうなるか。答えは急発進及び超加速。この状態が、今の仮屋の状態なのだ。
しかも、仮屋達が捕えられていたのは『無重量空間内』。空気抵抗が存在しないこの空間内では、少しの力で大きな加速を得られてしまう。
そんな空間内で、急発進・超加速してしまった仮屋達は・・・凄まじい勢いで突っ込んで行く。先は地面にあるコンテナ。
これは、予め閨秀が念動力を調整して仮屋達の進む先を下方に調整していた、つまり誘導されたものであった。
「そしてええぇぇっ!!!ペッシャンコになりやがれえええぇぇっ!!!!」
閨秀は念動力を解除したと同時に、無重量空間内にあったコンテナに向かって突進からの蹴りを喰らわした。
抵部の『物体補強』で自分達の耐久力が上がっていることを計算に入れての一撃である。
念動力も加えたそのコンテナは無重量の恩恵を受けながら、超高速で不動達の後を追う。
「仮屋!!!」
「うん!!!」
地面にあるコンテナに衝突するまで数秒しか無い。不動と仮屋は瞬間的に大技の使用を決断する。
衝突予定先の近くに複数の人間がいるのが目に入ったが、そちらに気を回す余裕は一切無かった。
「「ハアアアァァァッッ!!!!」」
ドゴオオオオンンン!!!!
大衝撃が放たれる。今度は拡散の度合いを狭める代わりに威力を向上させて。
衝突予定先のコンテナのすぐ傍で放ったそれは、クッション代わりにもなった・・・というよりクッションにした。
何故なら・・・
ドガガアアアァァッッ!!!!
一瞬遅れて、不動達が破壊したコンテナに、別のコンテナが超高速で激突したからである。
その様を、『念動飛翔』のコントロールを取り戻した仮屋と搭乗者の不動が少しばかり見やっていた・・・その時、
「まだ、終わってなんかいねぇぞ!!!!」
「!!!」
閨秀が地上スレスレの低空高速飛行で迫って来た。近くのコンテナを『皆無重量』で浮遊させ、念動力で制御しながら。
「く、くそっ!!噂には聞いてはいたが・・・化物か、あいつは!?そもそも、風紀委員があんな殺人紛いのことを平然と行っていいのか!?」
「そ、それは・・・。一般人から見たら、ボク達も似たようなモンじゃないかなぁ?」
「仮屋!!お前、どっちの肩を持つつもりだ!?そんなことなら、回転寿司食べ放題もハンバーガー食べ放題も全部取り止めるぞ!!」
「ええぇぇっ!?そ、そんなあぁぁっ!!!」
互いに冷や汗をかきながら言葉を交わす不動と仮屋。だが、彼等だからこそこうやって“宙姫”に『対抗』できているのである。
今この戦場に居る人間の中で、“花盛の宙姫”と真正面からぶつかって確実に勝てるのは『本気』の
界刺得世しか居ない。
「そらひめ先輩、えきさいてぃんぐー!!」
「まだまだぁ!!こんなモンじゃねぇぞ!!あいつ等はあたしの意地に賭けて必ず仕留めてみせる!!!」
“花盛の宙姫”の席巻は―まだ始まったばかりである。
continue!!
最終更新:2013年04月05日 00:04