「ふぅ。うまかった。さすがは菜水オススメのランチだ。さ~て、昼寝でもしようかな?」
「ねぇ。さっき言ってた電撃の回避の件だけど、よく考えたら周囲一帯に電撃を放てばあなたに避ける術は無いんじゃないの?」
「・・・・・・」
「やっぱり・・・!!」
「ま、まぁいいじゃん。もう終わったことだし」
「よくないわよ!!」

ここは、先程まで戦闘を繰り広げていた庭の一角。気持ちいい風も吹き、木陰揺らめくその下で、界刺は横になっていた。今から昼寝タイムへ突入する腹積もりなのだ。

「あのさぁ、苧環。俺は今から昼寝タイムなの。いい加減ゆったりとした気持ちで過ごしたいの。君もそう思うだろ、嬌看?」
「ビクッ!そ、そうですね・・・」

現在界刺の隣に居るのは、界刺の嘘に騙された苧環と界刺の傍に居たいがために付いて来た鬼ヶ原の2人。他の女性陣は、界刺が無理矢理追っ払った。

「折角バカ形製達を追っ払ったんだからさ、もう少し静かにしてくんない?そうだ、君も昼寝するといい。きっと、気持ちいいぜ?」

という具合に会話した結果、鬼ヶ原、界刺、苧環という“川”の形で寝転がることになった。

「ふぅ。風が気持ちいい・・・。成瀬台に通ってる時は、屋上とかでよく昼寝してんな~。ここは、そこに負けず劣らずって感じかな」
「確かに・・・気持ちいいですね」
「・・・そうね」

日差しは尚も周囲に強く照り付けるが、昼食中に寮の職員が水でも撒いたのか比較的涼やかに過ごせるようになっていた。

「・・・ねぇ」
「ん?」
「・・・あなたには、一厘に“あの”能力が備わっていることがわかっていたのよね?」
「・・・あくまで予想でしか無かったけどね。制限とかがある場合は、逆にそれを逆手に取れる可能性があるから。そこら辺を考えていたら、ぱっと思い付いたな。
まぁ、あれほど精密に識別できるとは思わなかったけど。さすがは、リンリンってトコかな?」
「・・・あなたらしい」

苧環は、言葉以上に感嘆していた。一厘が見出した、『物質操作』の制限を利用した物体感知術。
この男は、それをいとも簡単に思い付いた。だからこそ、その可能性を一厘に気付かせ掴み取らせるために、自分に対して電磁波による物体感知を禁止させたのだ。

「もしかして・・・一厘の目の前で私の物体感知方法を禁止することを話したのも、一厘にそちらの方へ意識を振り向かせるため?」
「まぁ、その前から散々不可視状態でリンリンと珊瑚ちゃんを苦しめていたんだけどね。そうすれば、俺の居場所を知る方法がないかって嫌でも考えるだろうし。
それでも中々“あの”可能性に気付かないから、君の参戦を機に言葉に出しただけ。
もっとも、君に電磁波による物体感知をしてもらっちゃあ困るから、結局は言っていただろうけど」
「・・・界刺様って、すごいんですね。色んなことを考えて、それを実行しちゃうんですから」
「それは違うよ、嬌看?これは、すごいことじゃない。当たり前のことなんだ。自分の能力を把握した上で、自分が伸ばしたい方向へ向けて訓練する。
授業とかでも習うでしょ?それができないってのは、そいつが根本的にバカなだけ。もちろん、君の『発情促進』だって例外じゃ無い」
「えっ!?」

界刺の言葉に、鬼ヶ原は思わず振り向くが碧髪の男は目を瞑ったままだ。

「君の『発情促進』だって、本当はもっと有効的な活用方法があるかもしれない。
君のことは珊瑚ちゃんに聞いたけど、その様子だと『発情促進』は滅多に使わないんじゃ無い?」
「・・・はい。『発情促進』は異性・同姓問わず発情してしまうので。殆ど使ったことは無いです」

『発情促進』を行使すれば、異性・同姓問わず自分に発情してしまう。
それ故に、鬼ヶ原は能力行使を控えるようになり、ほぼ制御できる今でも滅多なことでは使うことは無い。

「そんなんだと、何時まで経っても弱点は克服できないぜ?それとも、君は『発情促進』の弱点を克服したくないの?」
「し、したいです!!で、でも・・・」
「・・・だったらさ、頑張んなきゃ。自分の能力に自信を持つためにも。自分自身に自信を持つためにも。
君含めて、俺が最近会った女連中はどいつもこいつも『私には自信が無い』とか『私はいらない人間だ』とか『私は○○失格だ』とかばっか叫んでる。
俺からしたら、どいつもこいつもぶん殴ってやろうかと思うくらいムカつく連中ばかりだ」
「「!!」」

心当たりがある鬼ヶ原と苧環は、ピクっと反応する。

「何でそんなに自信が持てないかね?ホント“自分”が可哀想だぜ?『まだ力はあるぜ』とか『もっと頑張れるぞ』とか“自分自身”が言ってるかもしれないのに。
自分のバカっぷりのせいで、碌に“自分自身”を見ようとしない、聴こうとしない、そもそも気付きもしない・・・アホか?
そんなに自分のマヌケっぷりを披露したけりゃ余所でやれ。1人でやれ。そいつ等は他人に頼る前に、まず“自分自身”に頼れよって話だ」

界刺の厳しい言葉が、涼やかな空気を冷たいものに変貌させる。

「本当にやること全部やって、それでも八方塞がりならその時は他人を頼ればいい。
まぁ、現実ではそれを貫き通すことは無理かもしれないし、俺だって気軽に人を頼ることは幾らでもあるけど、
それでもここ一番って時に信じようとするのは“自分自身”だ。自分を、“自分自身”を信じてくれる他人だ。
それを有耶無耶にするってんなら・・・そいつは救いようが無ぇ大馬鹿野郎だ。
今回のリンリンと珊瑚ちゃんの場合は、彼女達自身が何とか踏み止まったから、俺も手助けしたけどね。だから、嬌看。君は、ここが踏ん張り所なんだよ?」
「ここが・・・!!」
「そう」

鬼ヶ原は、界刺の言葉をゆっくりと咀嚼する。その意味を、1つたりとも零さないために。ここが、自分の分水嶺が故に。






「例えばさ、君の友達とかに頼んで『発情促進』の相手役になってもらうってのはどう?」
「えぇ!?そ、それは・・・」
「今の俺は、君の『発情促進』が効かないから意味ないし」
「でも・・・」
「うん?もしかして・・・友達とか居ないの?」
「・・・はい。金束先輩や、真珠院さんとは少しくらいはお話するんですが、友達とまでは・・・。
一応私も派閥には入っているんですけど、能力のせいか余り親しくは・・・。私もこんな性格なので・・・。
慕っている先輩も居るには居るんですけど、あの方を実験台にするわけにはいきませんし・・・」
「・・・苧環。派閥の長である君に聞きたいんだけど、派閥間の対立とかってあんの?」
「・・・対立とまでは行かないけど、閉鎖的な傾向はあるわね。それぞれ興味を持った分野が切欠で派閥を形成することもあるし、友達感覚な派閥もある。
千差万別という言葉通りね。だから・・・確かにあなたの言う対立も有り得るかもしれない。下級生を自分の派閥に入れるために、あの手この手を使ったりとか」
「派閥に所属する人数や能力者のレベルを自慢したりして、それに他の派閥が反発するとか?」
「それも有り得る」

派閥の長たる者として、苧環は自身の経験を元に言葉を発する。界刺も、自身の考えを述べる。
派閥に関して少しだけ議論した後に、誰もが静かになる。場に沈黙が訪れる。

「・・・・・・」
「・・・何を考えているの?」
「・・・大したことじゃ無いよ」
「・・・嘘、ね」

未だ目を瞑ったままの界刺に、苧環が体を、顔を寄せて行く。

「形製も言っていたけど、あなたは本当に嘘を付くのがうまいわね。自分の本心を悟らせない。『光学装飾』で、自分を偽るように」

『光学装飾』。この能力は、界刺得世という男にふさわしい能力だと苧環は思う。
光で装飾し、言葉で惑わし、ありとあらゆるものを騙す彼を象徴しているかのような能力。

「さっき言ってた私達女性への文句や愚痴も、本心であって本心では無い。だって、あれだけが本心なら、あなたはとっくに私達を見限っている筈。違う?」
「・・・さぁね」
「・・・きっとだけど、あなたが女性不信になってでも見限らなかったから救われた女性は沢山居る筈よ?
少なくとも、私はそう。私は、あなたに救われた。私は・・・あなたに感謝している」

苧環は、自身の本音を語る。この男が自分を含めた女性に苦しめられた事実に心を痛めながら。

「だから・・・ごめんなさい。あなたが苦しんでいることに、これっぽっちも気付けなかった。私は・・・あなたの言う通り大馬鹿野郎よ」
「・・・いいよ。もう終わったことだし」
「・・・それも、嘘。あなたってつくづく厄介ね。本当に大事なことは、絶対に誰にも明かさないんだもの。
形製が『分身人形』を仕掛けようと躍起になるのがわかる気がするわ」
「だったら、俺と関わらなければいい。そうすれば、君等が不快になること・・・ムグッ!?」
「・・・あなたの言葉なんて信じない。だって、どれが本当でどれが嘘なのかわかんないんだもの」

界刺の口を塞いだのは、苧環の人差し指。何時の間にか彼女は身を起こし、界刺の頭の横に正座していた。






「ハッ!!」
「!?」






掛け声と共に、苧環が界刺の頭を掴んで自分の膝の上に置く。

「お、おい!?」
「あなたは、ここに昼寝をしに来たんでしょ?でも、この芝生・・・何だか寝心地が悪いわ。私の感想だけど」
「まさか・・・!!」
「あなたが私達のせいで女性不信になっているというのなら、それを治すのも私達がやらないと。
私も、あなたのそんな状態なんて望んでいないわ。この私が女として扱われない?・・・屈辱だわ」

苧環の目が妖しく光る。つまり、苧環は界刺を膝枕すると言うのだ。そして、自分の膝の上で昼寝をしろと言っているのだ。

「い、いや、何かこっから更に酷い展開になりそうだから遠慮しとく!!経験上!!」
「駄目よ。それに・・・そんな経験なんてこの苧環華憐が塗り替えてあげる」
「(な、何か恐ろしい意味にしか解釈できないんだけど!!)」

界刺は何とかして苧環の膝枕から脱しようとするが、苧環が無理矢理抑え付ける。

「それに、こういうのは私から始めたんじゃ無いから。全ては、鬼ヶ原の“間接キス”から始まったんだから」
「!!」
「か、“間接キス”!!?ハッ!!ま、まさかあのミネラルウオーターは・・・!!?」

界刺は冷や汗ダラダラ状態で、鬼ヶ原へ視線を向ける。頼むから否定してくれ!!そんな男の願い虚しく・・・

「・・・私の初めてですからね、界刺様?」
「Noォォォォォォッッッ!!!!!」
「さぁて。それじゃあ、私も遠慮無く行かせてもらおうかしら」
「あ、あの!!わ、私も・・・」
「へっ!?」
「へぇ・・・。クスッ。いいわよ、あなたも来なさい。早くこの男の女性不信を治療してあげないと」
「ど、どういう意味・・・!!?」

視線を横に向けると、そこには鬼ヶ原が正座している姿があった。その膝の先が、苧環の膝と膝の間に入って行く。これは・・・

「よかったわね、界刺?常盤台が誇る美少女2人による“W膝枕”だなんて、普通の男子高校生には体験できない代物よ?」
「か、界刺様・・・。ど、どうぞ・・・!」
「(『どうぞ』っつったって!!俺は今女性不信状態なんだっつーの!!女性的なことを意識しちまうと・・・Noォォォォォッッッ!!!)」

美少女2人の膝の感触が、界刺の触覚を襲う。それに次いで、少女達から香る匂いが界刺の鼻腔をくすぐる。これは、ヤバイ。“女”をどうしても意識してしまう。
界刺の頬が僅かに朱に染まり始めたのを目に映した苧環と鬼ヶ原は、瞬間的に自分達の大胆な行動を改めて捉え直す。
その途端に2人共に羞恥心が頭をもたげたのだが、界刺の女性不信症を治す絶好の機会を逃すわけにはいかない等々、様々な理屈を付けて自分自身を無理矢理納得させる。

「こ、ここ、こういうのは、あ、ああ、案外ショック療法がい、いい、一番こ、ここ、効果的だったりす、すす、するのよね!!
つ、つつ、つまり、か、かか、界刺をお、おお、おおお・・・・・・・・・“女”へ発情させればいいのよ!!!ハァ・・・ハァ・・・!!
け、けけ、結構は、はは、恥ずかしいけど、か、かか、界刺のた、たた、ためなら・・・!!
あ、ああ、あの“行為”をし、しし、しようとしたら、で、でで、電撃でこ、ここ、行動不能にす、すす、すればいいんだし!!」
「そ、そそ、そうですね!わ、わわ、私もか、かか、界刺様と出会ったショックで、す、すす、少しは男性不信がか、かか、解消され始めているみたいですし!!
か、かか、界刺様のためなら・・・わ、わわ、私もしゅ、しゅしゅ、羞恥なんかき、きき、気にしてい、いい、いられません!!」
「(し、知るかー!!それはそれ。これはこれだっつーの!!お、お前等に俺が発情してどうすんだー!?
こいつ等、後先全然考えて無ぇ!!くっ、何とかここから・・・ムグッ!?)」
「ほ、ほほ、本当にお、おお、往生際がわ、わわ、悪いわね?か、かか、観念なさい?
そ、そそ、そうね・・・。こ、ここ、これだけじゃ、い、いい、今のか、かか、界刺にはふ、ふふ、不十分かも・・・。
こ、ここ、こうなったらお、おお、思い切って・・・(ゴソゴソ)・・・え、ええ、えええぇぇいっ!!!」
「(なっ!?)」

界刺の顔面左から押し付けられたのは・・・苧環の慎ましい胸。
(ブラウスのボタンを外して、多少はだけた状態にしている)。

「スゥ~。ハァ~。スゥ~。ハァ~。・・・私もやってみようかな。・・・(ゴソゴソ…ブチッ!ブチッ!)・・・あっ!・・・し、仕方無いか・・・。んしょっ!!」
「(な、何ぃー!?)」

界刺の顔面右から押し付けられたのは・・・鬼ヶ原の爆発しそうな胸。
(ブラウスのボタンを外して多少はだけた状態にする筈が、途中でボタンが吹っ飛んだため普通にはだけている)

「・・・何だか嫉妬しちゃうわね、その胸」
「・・・でも、重いですよ?肩がこっちゃいますし・・・」
「・・・勝者の余裕を感じるわね」
「そ、そんなつもりは・・・」
「(というか、お前等どけ!!息がしにくい!!ってか、こいつ等の汗が俺に落ちて来る!!そもそも、クソ暑ぃー!!こんなんで、昼寝ができるかよ!!!)」

周囲を覆う暑さと男性へ己が胸や膝を押し付けている羞恥心からか、苧環と鬼ヶ原の顔は真紅に染まっていた。とはいえ、先程よりかは冷静である。
一度行動さえしてしまえばというヤツなのか。やはり、女は度胸なのか。

「ハァ・・・ハァ・・・。ンハアァッ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
「ハァ・・・ハァ・・・。ングッ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
「(ちょ、ちょっと待て!!お、俺を発情させるんじゃなかったのかよ!?お前等が発情してどうすんだ!!?言ってることとやってることが全然違ぇー!!!)」

2人の顔から界刺へ向かって、幾粒もの汗が零れ落ちる。興奮しているためか荒くなっている吐息が、界刺の瞼や耳に何度も掛かる。
また、2人揃って前屈みになっているせいか、界刺の視線上には2人の胸の谷間がくっきりと見えてしまっている。その頂点にある“モノ”も、僅かながら瞳に映る。
加えて、そこから漂ってくる甘い“女”の香りが否応無しに鼻腔を刺激する。口だけで息をしようにも、苧環が左手で塞いでいるためそれも叶わない。
更に、苧環の右手が界刺の左耳や碧髪を妖しく愛撫し、鬼ヶ原の右手が界刺の首や胸板を、左手が界刺の右耳やうなじを優しく愛撫している。
正に、(界刺にとっての)地獄である。

「ハァ・・・ハァ・・・。ングッ・・・これで、界刺の女嫌いが少しはマシになるといいんだけど・・・。今度は・・・耳朶でも口に含んでみようかしら?はむっ!」
「ハァ・・・ハァ・・・。ゴクッ・・・きっと、いけますよ。こんな私でさえ、界刺様のおかげで少しずつ良くなっているみたいですから。
何事も訓練あるのみ・・・です!それじゃあ私も・・・。はむっ!」
「(Noォォォォォッッッ!!Noォォォォォッッッ!!!)」


少女達は知らない。例えそれが迷惑では無く純粋な善意からの行動であったとしても、本人の了解が無ければ何の意味も無いこともあるのだ。
それから1時間もの間、界刺はこの“女”地獄を味わい続けた。もちろん、昼寝はできなかった。『ウソツキには罰が当たる』とは、まさしく至言である。

continue!!

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最終更新:2012年06月15日 21:03