Date:2006/06/16(Fri) Author:SS1-348

※2巻本編の別視点の捏造です。また、多分に妄想が含まれているので苦手な方はスルーしてください。










 ——わらっていた。
 溢れる感情とともに涙を流す聖女(ヒロイン)を、私はただ見ていることだけしかできなかった。


 三年間。私は地下に潜り知識を蓄えた。
 あの子を救う術を探し、あの子を救うことだけを目標とし、あの子のことだけを想い続けた。
 その結果として、世界最大宗教であるローマ正教を敵に回したが、それさえもあの子を救うという目的のためなら些細な事であった。
 探求すること。
 私は、錬金術師としてのその使命を全うし、ひとつの解を手に入れた。
 魔術師としての到達点のひとつである『大いなる秘法(アルス=マグナ)』さえも踏み台にして、その解に導くための手順を整えた。
 全ては順調で、万事問題なく事を進めていた。
 吸血殺しを手に入れ、王者の術(アルス=マグナ)を完成させ、あとは人外のモノを捕らえるのみという段階になり、それは起こった。
 それは、この三年間に経験したことの中では取るに足らないような瑣末な出来事であったはずだった。
 あの子が自ら私のもとに出向き、結果として僥倖と呼ぶべき事態のはずだった。

 ——そして、あのこはわらっている。

 私は、その笑顔をしっている。
 あれは過去、私に向けられていたもの。
 そう、しっている。かつてのあの子はいつもその笑顔を浮かべていた。清純にして純粋な、子供のような笑顔。
 それは、”ただひとり”の主人公(パートナー)に向けられるもの。


 ——わらっている。
 今代の主人公(パートナー)にわらいかける聖女(ヒロイン)を、私はただ見ていることだけしかできない。

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最終更新:2010年01月20日 19:17