Date:2010/01/29(Fri) Author:
事情聴取から解放され、病院での怪我の手当てを受けて、黒子が寮に帰宅出来たのは時計の針が午後九時を回ってからだった。鬼人の言葉が似合う寮監には連絡されており、暖かく迎えてくれた。
(寮監の笑顔はどこか恐ろしいですわ……)
自分の部屋である二○八号室の前まで来ると、落ち着いていた疲れが込み上げてくるのがわかった。
「ただいまですの」
「おかえりー。大丈夫だった? 怪我したっていうから心配したのよ?」
「あぁん、お姉様が心配してくださるなんて黒子、嬉しいですわ!」
ベッドの上の同居人、御坂美琴が黒子の無事を確認して安堵の表情を浮かべて出迎えてくれた。感激した黒子は疲労で演算を使用せず、飛び付こうとして足で蹴り落とされる。
「お、お姉様の足の裏ハァハァ」
「ちょ、バカなこと言わない!」
「正直になれないお姉様……あぁ! ツンデレールガンの異名は伊達じゃないということですわね!!」
夜も遅い為か、美琴はヒューマン・スタンガンを使用し、一撃の名の下に黒子を気絶させた。……失神中なのだが黒子の表情は悦んでいるのに気付いて美琴が震え上がるのは三秒……おっと肩を抱いて震え出した。
「それにしても、『仮面ライダー』……ねぇ」
向かいのベッドに黒子を寝かせ、自分の枕の下に忍び込ませた携帯電話を取り出して美琴は小さく呟いた。
異形から黒子を助けたのは『仮面ライダー』という存在だと知ったのは一時間程前のこと。美琴が寮に戻った際に寮監から、黒子が負傷したと聞いて飛び出そうとしたが止められた。ならば、とインターネットで何か手がかりを探すべく、数々の掲示板やニュースサイトを調べ上げ、ひとつの巨大匿名掲示板で、事件の目撃者が『仮面ライダー』と書き込んでいたのを見つけた。
(……これと何か関係性があるのかしら?)
黒子が目覚めぬよう静かにベッドの下からあるものを取り出す。
それはベルトのようなもので、今は石化していて灰色をしている。以前から、怪人の存在は都市伝説として囁かれているのは美琴も薄々知っていたが、今日のように顕著なのは初めてだ。
(…というかこれ、危ないものなんかじゃないわよね?)
灰色のベルトを上下左右から見回して、美琴が思った。
これを拾ったのは数日前のことーーー。
「待てごらぁああぁぁ!」
「勘弁してくれよー! ああ! 不幸だーっ!!」
いつものごとく、美琴は高校生の上条当麻と一方的な鬼ごっこを繰り広げていた。
「はあ…はあ……。逃げられたか…」
とある公園まで来て、上条に撒かれた美琴は、二つある内、片方の手近なベンチに腰を掛けて休憩する。スカートの中に履いた短パンから綺麗に畳まれたハンカチを取り出し、額の汗を拭く。
「ん?」
ふと、隣のもう片方のベンチを見ると何やら怪しげなベルトに似た物体がちょこん、と置かれているのに気付いた。
「何かしら、これ」
忘れ物かなぁ、でもこんなベルトしてる人なんているのかしら、と美琴はベルトに近寄って眺め見る。
暫く考えた後、何故か見放すことも出来ずにお持ち帰り、してきたのだった。
「という夢だったのさ」
なーんてこと無いのよね、これが。美琴は少しだけ溜め息をはく。Google先生にもウィキペドにも記載されていない。よくよく見ると古代文字みたいなのがあるのだが、いくら常盤台でもこんな文字列見たこと無い。
「これを付けたら私も『仮面ライダー』とやらに慣れたりしたりして」
遊び半分で腰に付けたのがいけなかった。
「えっ……嘘…」
瞬間、ベルトの石化は解けたものの、美琴の体内に吸収されてしまった。
「……こういう時はアイツの言葉よね」
不幸だー、と乾いた嘆きが部屋に微かに零れた。
最終更新:2010年01月29日 21:54